第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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玄との勝負がつき、カイル達がスノウを褒めそやしている時、急にスノウの身体が傾いていき、抱き着いていたリアラが慌ててそれを支えた。
「スノウ!?」
「お、おい、どうしたんだよ?!」
「……大丈夫、……私を召喚したあげく、新しい武器に力を使ったのだから当然……」
「……はぁ、驚かせるな。」
「そう言いつつ、ジューダスちゃんは一番にスノウを心配していたく・せ・に♪」
ロニが冗談でそう言えば、剣を抜いたジューダスに追いかけられる羽目になる。
それを呆れた目で見遣るカイルとリアラ。
「はあ、ロニってば……」
「スノウ、すっごく頑張ってたよね…。緊張の糸も切れたんじゃないかしら?」
「そうだね、リアラ。ホント、凄かったよ!杖の先から光が溢れてさ!!すっごくキレイだった!!」
「……あれはスノウにしか扱えない代物。……世界で他に見ない、唯一の武器……」
「そうよね、見たことないもの。私、杖だとばかり思ってたからビックリしちゃった。」
「オレもオレも!でも、なんでかな?オレ、あれを見てスノウならやれるって思ったんだ。」
「そうね。私もよ。……私達が人質にならなかったら…、こんなにスノウに苦戦を強いることも無かったかもしれないのが…申し訳ないけど……」
「リアラ……」
悲しそうな顔でスノウの髪を触るリアラにカイルも少し落ち込んだ顔をした。
しかしそれを見てセルシウスは顔を横に振る。
「……逆にあなた達が人質になってなかったら、スノウはここまで成長しなかった……。それに……きっと苦しんだままだった……。だから、それはそれで良かったと思っている……。あなた達には申し訳ないけど。」
「成長、か…。オレもスノウを見習って成長するぞ!!」
「ふふ、カイルったら……」
未だ追いかけっこをしている二人を見ながら、カイル達がこれからの事を話し始めようとすると、セルシウスが急に警戒を強めた。
「待って……、誰かくる……」
「え?」
すると玄の周りを複数の黒づくめ達が囲い、何かを唱えていくと凍っていた玄の氷を溶かしていく。
それに流石にジューダス達も足を止め警戒を強めた。
「おいおい、あいつら何もんだよ……?!以前スノウが話してた奴らだろ?!気配も全くねぇぜ?!」
「奴らの気配をスノウは辿れるみたいだがな…。僕達は全く気配を感じられないのが…悔しいな。」
「もしかして、またスノウを殺そうと…?」
「そんなことさせない!!今度こそ、オレ達がスノウを助けるんだ!!」
カイルが剣を手に取り、臨戦態勢をとったその時玄が目を覚ます。
「……ん?あ?我は…」
「行きますよ。充分な収穫はありましたし、もうこれ以上結界も続きません。フッフッ……。しかし、スノウ・ナイトメアですか……。」
男のその言葉にカイル達がいち早く反応し、スノウの前に立つ。
「お前達はなんなんだ!!オレ達に何か用でもあるのか!?」
「勿論、あなた達にも用はありますが…、一番はそのスノウ・ナイトメアに用があるのですがね?どうやら力を使い切ったようですから、また今度お邪魔しますよ。」
玄に何やら回復をかけている様子の黒づくめの仲間たちに、カイル達は余計に警戒を強めていく。
「待て!お前達は何故僕たちを狙う?!スノウとはどういう関係だ!?」
「スノウ・ナイトメアは我々の仲間ですよ。フッフッフッ…!!」
「嘘だ!!ならなんでスノウを殺そうとするんだ!?」
「冗談にしちゃ、タチが悪いぜ?もしスノウがあんたらの仲間だとして、その仲間を殺そうとするなんて最低なヤツらだな……!!」
「こいつはお前達の仲間などではない!!勝手な事を…!」
『そうだそうだ!!この腐れ外道!!早く国に帰れ!!』
「なら、スノウ・ナイトメアに聞いて見ればいいでしょう?フッフッフッ…!まぁ、その娘は我々のことを仲間だとは思っていないようですが。」
「スノウが違うって言うなら、オレはスノウを信じる!!」
「……その真っ直ぐな目は父親譲りという訳ですか……」
「え?」
「っ!?」
黒づくめの奴らは玄に肩を貸すと次々と音もなく消えていく。
その中、先程まで話していた黒づくめの男は可笑しそうに笑うと指を鳴らした。
するとガラスが割れた音がし、周りの景色にヒビが入っていく。それを不気味に思いながらカイル達が辺りを見渡す。
「な、なんだ?!街の景色にヒビが入っていくぜ?!どうなってんだよ!?」
「オレ達、どうなるの?!」
「フッフッフッ!では……御機嫌よう。」
「っ!!待て!!?」
最後に消えていった黒づくめに手を伸ばしたジューダスだったが、掴もうとした瞬間消えてしまったのだ。
音ともに崩落していく景色は次第に落ち着いていき、目の前に驚愕な景色を映し出した。
そう、元のハイデルベルグ……その姿へと変えたのだ。
人が沢山いて、活気づいている街。
先程のことは初めから無かったかのように落ち着いている街並み。
それにカイル達が動揺するのは当然だった。
先程まで人一人いない街で黒づくめのヤツらと戦っていたのに、それが無かったことになっているのだから。
「……俺達、夢でも見てたのか…?」
「あれは夢なんかじゃないよ!!だって、スノウも倒れてるしジューダスも首に怪我してる!!」
「でも、さっきまでいなかった人達が急に出てきて、不思議な感じ……。まるで私達だけ不思議な世界にいたような感じね……」
「……それが真理かもしれないな…」
「どういうことだよ?ジューダス」
「そのままの意味だ。僕達はこことは別の世界に居た。そしてこの世界に戻ってきたんだ。……奴らはそれが出来るくらいの技術を持っているということだ…」
「チッ、マジかよ…!ただでさえ気配がなくて薄気味悪ぃのに、そんな奴らを相手にしないといけねぇのかよ!」
拳をもう片方の掌で打ち付けたロニは、悔しそうに顔を歪ませた。
ジューダスも心做しか眉間に皺が寄っている。
皆が沈黙する中、その沈黙を壊したのは街の人だった。
「ちょ、ちょっと!この子倒れてるじゃないか?!早く中に入れてあげな!!こっちだよ!!」
人良さげなおばさんがスノウを見て絶句し口元を押えそう言うと家へ案内してくれる。
それを見てカイル達は静かに頷き、スノウを連れて家の中へと入らせてもらった。
暖かい家の中にそれぞれがホッとする中、スノウを抱えていたセルシウスがジューダスへとスノウを渡す。
「私はそろそろ消える……」
「ねぇ、待ってセルシウス。その…」
「……私は答えられない。……スノウじゃないと分からないことがあるから……」
「そうよね、ごめんなさい。」
そう言うとセルシウスは瞬時に姿を消した。
「その子をここに寝かせてあげな。暖かくしといたからさ。」
「ありがとう!おばさん!」
「良いってことよ!それよりあんた達も寒い中佇んでいたんだからなんか暖かいものでも食べていきなよ。ほらあそこに座って座って!」
お節介焼きのおばさんに救われ、皆が食事を食べたが、あまり喉を通らない。気になることが多すぎて食べる所では無かったからだ。
ただ一人を除いて……。
「おばさん!これ美味しいよ!なんて料理なの?!」
「はっはっは!元気がいいねぇ!これはボルシチだよ」
「へぇ!これがボルシチかぁ!スノウが言ってた通り美味しいや!」
カイルがバクバクと口の中にスープをかきこんでいく姿に全員が呆れた顔をする。
まぁ、それがカイルの良さではあるが。
「お前なぁ……こんな時によく食えるな……」
「なんだよ、皆。全然食べてないじゃん!オレが全部貰っちゃうよ?」
「私、食欲なくて……」
「……」
「俺もお前のその能天気さを見習いたいよ……」
「なんだよー!!食べないと元気になれないよ!?」
「その通りだよ、あんた達。何があったか知らないけど少しでも腹に入れば元気もつくってもんさ!ほらほら、食べていきな!あの子の面倒は見といてあげるから、少しでも食べて用事を済ませてしまいな!」
「……すまない、あいつを頼む。」
「はいよ。頼まれたよ。さあ、湿っぽいは話しは終わり!それを食べてしまいな!」
快活な笑顔で手を叩くとおばさんが料理のおかわりを持ってくる。
それに少し元気を貰えた一同は少しずつ食べ始めるのだった。
○ ☆゜+.*.+゜☆゜+.*.+゜☆゜+.*.+゜☆ ○゜+.*.+
スノウが気絶してから5日が経った時だった。
ウッドロウへの謁見を終え、ジューダスに叱咤され色々あったがカイルも納得し、スノウの目覚めを待つ仲間の元にとある話が舞い込んでくる。
「行方不明だぁ?」
ロニが不審そうな顔で目の前の男を見遣る。
その男は無精髭を生やし、草臥れた服を着こなし、いかにも胡散臭そうな見た目をしている為、ロニのその表情も納得のいくものだった。
ジューダスやリアラも胡乱気な表情を浮かべ男を見ていたのだが、それを跳ね除けるほどに元気な姿を見せるカイル。
「で、誰が行方不明になったの?」
「……おい、カイル。まさかこいつの依頼を受けるつもりじゃないだろうな?」
「え?受けるよ?」
「お前なぁ……、こんないかにも怪しいですって感じのやつの言うことなんか聞くこたァねぇって。」
「私もロニとジューダスの意見に賛成だわ。なんだか怪しい気がして……。それにスノウを一人にしておけないわ。あの黒い人達がいつスノウを狙いに来るか分からないもの。」
チラとスノウがいる家を見たリアラが心の底から心配そうに話す。それにジューダスも賛同した。
「そうだ。だからカイル、この話は無かったことにしろ。」
「うーん、じゃあ二手に別れようよ!オレはこの人の依頼を受けてくるよ!ロニはどうする?」
「あー?カイルが行くなら俺も行ってやるよ…。」
「因みに私の娘が行方不明なんだ。とっても美人だからすぐにわかると思うんだが……」
「行こうぜ、カイル!早くその娘さんを助けに行こうぜ!!」
「「「……」」」
カイル達の胡乱気な視線を物ともせず、ガッツポーズを決めるロニはカイルの肩に手を置いた。
ジューダスとリアラはそれを見なかった事にして踵を返すが、男がそれを止めた。
「強い魔物がいるところなんです…!どうか、どうか娘を皆さんの力で…!」
「えぇ?!強い魔物?!」
「おい、お前らも手伝え!この人の娘さんの危機なんだぞ!!」
「お前らだけで行ってこい。僕はスノウの近くにいる。」
「どんな魔物なの?」
「とにかく巨大で…、攻撃をものともしないような恐ろしい魔物なんです…!」
「……巨大な魔物?」
訝しげな声音のジューダスにリアラが何かに気づいたように声を上げた。
「ねぇ、もしかしてそれって……ハイデルベルグを襲おうとした魔物かしら?あの時居なくなったけど、もしかしてそこに移動でもしたのかしら?」
「あいつがまだいるんなら、確かに放っておけはしないけどよ…。スノウが欠員の状態で俺達で倒せるか…?」
確かにあの時スノウが強力な晶術を放っていたのもあり、この人数では物足りなさを感じる気がした。
しかし暫く口元に手を当て考え込んでいたジューダスが徐ろに口を開く。
「……勝機はある。だが誰かが囮にならないと駄目だろうな。」
その瞬間、全員の視線がロニへと向けられる。
「それって誰がするんだよ?……って、おーい?皆、なんで俺を見るんだ?」
「いや、背が高いし適任だなって思ってさ。」
「私も同じこと思ったわ。」
「右に同じくだ。」
「お前ら…!!」
「では…!皆さんで行ってくださるんですね!?」
「おい。まだ受けるとは……」
「ねぇ、ジューダス。早い所片付けて帰ってこようよ!オレ達だけじゃ不安だしさ、ジューダスがいれば百人力だよ!」
「……」
『坊ちゃん、なんなら僕がスノウの見張りをしておきましょうか?僕は動けないので本当に見張りだけだと思いますが…何かがあった時に様子だけは知らせられますし…、誰もいないよりは…』
「……分かった、そうしよう。カイル、少しだけ待ってろ。少し用事をしてくる。」
「うん!!待ってるよ!」
ジューダスはすぐにスノウの元へと戻り、シャルティエを近くに置いた。
「大丈夫だとは思うが……頼んだぞ。」
『はい!……うぅ、こういう時動けたらなって思いますよ。』
「無いものを強請っても仕方あるまい。ともかく、早めにカタをつけてくる。それまでは頼むぞ、シャル。」
『はい!お気をつけて!坊ちゃん!』
ジューダスが身を翻し外へと出掛ける姿をじっと相棒は見ていた。
そして視線をスノウへと向け、コアクリスタルをぼんやりと光らせたのだった。
__数刻後。
突然扉が開く音がして、シャルティエがそこを注視する。
そしてそれが気配の無い物だと気付き、声を上げた。
『っ、スノウ!!早く起きて!!スノウ!!』
「クスクス。ここに居たのか、スノウ。」
『!!スノウが修羅と呼んでいた人!!どうしてここに?!』
修羅にシャルティエの言葉は聞こえない。
しかし、机に置かれた剣を見て僅かに顔を歪ませた。
「シャルティエか…。ジューダスがここに置いていったのか…。厄介極まりないな、クスクス…。」
『何しに来たんですか!!早く帰ってください!!スノウに触れたら容赦しませんよ!?』
「コアクリスタルが激しく点滅してる所を見ると、警戒されているんだろうな、俺は。クスクス、動かぬ剣は何も出来ないだろうに。」
『っ!』
その言葉に激昂するシャルティエだが、確かにその通りだった。
動かぬ剣だからスノウを守ることは出来ない。
だからこそ悔しいのだ。
「さて、お姫様は俺と一緒に行こうか。」
『やめて!!スノウをどこに連れていく気ですか!!?』
そっと彼女を横抱きにする修羅はスノウの顔を見てニヤリと笑った。
「クスクス。髪を白くしたってあんたはあんたなのにな。すぐにバレる。これならな。」
『お願いっ、スノウ、起きて!!』
「あぁ、そうだ、シャルティエ。俺にあんたの声は聞こえない。だから一方的に言わせてもらおう。スノウとあいつらを離したのは故意だ。俺が仕組んだ依頼をまんまと乗ってくれてありがとう。と伝えといてくれ。クスクス…!」
『っやっぱり、そういう事だったんですか…!!』
「巨体な魔物?……クスクス、そんなもの端から存在しない。あいつらは居ない魔物を探しに行ったんだ。」
『そんな、坊ちゃん…!!』
愉しそうに嘲笑う修羅にシャルティエの怒りも収まらない。
「全ては俺とスノウの為に、全て仕組まれていたってことだ。……まぁ、【アーサー】の奴が玄を使って仕組んだあの事は、俺は一切知らなかったけどな。無事で良かったよ、スノウ。」
『どういうこと…?奴らは同じ仲間じゃない…?』
「それじゃあな、シャルティエ。精々頑張ってくれ。」
『っ!!待って!!連れていかないでください!!スノウ!!起きて!!起きてよ!!!』
クスクスと笑い、気絶しているスノウと一緒に消えた修羅に絶望の光をコアクリスタルに映し出すシャルティエ。
すぐに探知するも、どちらも気配を感じられないので全く意味をなさず、悔しさだけを滲ませた。
。+゚+。・゚・。+*+。・★・。+*+。・☆・。+*+。・★・。+*+
「さて、と…。」
修羅は街中のベンチにスノウを寝かせ回復技をかける。
するとピクリと指が動き、スノウの目が薄ら開いた。
「ぅ…」
「クスクス、起きたかい?お姫様?」
「……う、……何だ……君か……」
「開口一番がそれって酷くないか?俺が折角回復させてやったのにさ?クスクス」
身体を起こすスノウは辺りを見渡し溜息を吐いた。その吐息が白くなるほどハイデルベルグの気温は低く、寒い。
「……色々聞きたいことはあるけど…、まずは一つ。彼らは?」
「あいつらは居ない。このハイデルベルグにはな。」
「……そうか。」
街並みの賑やかさを見て僅かに目を細めたスノウは、笑いながら白い息を吐き出す。
きっと彼らは10年後の世界へ旅立ったのだろう、とスノウは考えていた。
それを見通すかのようにクスクスと笑った修羅はスノウの手を取る。
「随分と寝坊助な姫だな?クスクス」
「……どれほど?」
「ざっと五日ぐらいだな?」
「はぁ、そりゃ置いていかれるさ。」
「クスクス…!さ、スノウ。そうと分かったら俺とデートしよう。約束しただろ?」
「……気分は乗らないけど、そうするとしますか。今は何も考えたくない。……それから。私は姫ではないよ、修羅。」
「俺から見たらお姫様さ。特別な、ね。」
「おぉ、怖い怖い。殺し屋の目だ。」
「クスクス…!」
修羅が手を引きスノウを立ち上がらせる。
久しぶりに身体を動かしたスノウはその場で伸びをした。
はぁ、と白い息が長く伸びていく。
スノウを見て笑顔で修羅が歩き出したので、手を繋いでいるスノウは必然と歩き出さなければならなかった。
どこへ連れていかれるのやら…。
「クスクス、エスコートは任せてくれ。これでも女性の扱いは得意なんだ。」
「それは意外だったよ。君がそんなにプレイボーイとはね。」
「クスクス!本当にあんたは面白い。なぁ、本当に〈赤眼の蜘蛛〉に入らないのか?あんたと一緒なら毎日がさぞ愉しいだろうに。」
「お断りさせてもらうよ。〈赤眼の蜘蛛〉はここぞとばかりに戦闘狂ばかりだ。そんな中に居たら私が狂ってしまうよ。」
玄と言い、修羅と言い……本当に〈赤眼の蜘蛛〉は戦闘狂揃いで狂っている。
それを聞き、クスクスと笑い続ける修羅を恨めしげに睨んでおいた。
「残念だ。」
街中を歩く修羅の速度は本当に私に合わせてくれている。病み上がりの私を気遣うような速度なのでそれに甘えていると街の隅の食事処に入っていく修羅。
それにハテナを浮かべ着いていくと、ササッと奥の方に入っていってしまった。
少しだけ顔を出し、こちらに手招きする彼に倣いそこへ入ると修羅と同じこれまた見事な銀髪の男の子がちょこんと座っていた。
その隣に修羅が座り、反対側に私が座るとその男の子はソワソワしだしたではないか。
人見知りなのだろうか、と暫く見ていたがいつまでも見ているのは可哀想だし失礼だ。
視線を外し、修羅の方を見ると、隣の男の子を指さし紹介してくれた。
「こいつは【海琉】。以後お見知り置きを?」
「……。」
急な紹介に目を瞬かせていたが、男の子がモジモジとしだしたので僅かに笑顔を向けた。
「スノウ・ナイトメアだ。よろしく、かは分からないけど、よろしく、海琉?」
「……!」
赤目に銀髪……もしかして彼の弟か?
そういう視線を向けていたからか、一瞬目を瞬かせこちらを見た修羅。
「あぁ、こいつは実の弟じゃないが弟分のようなものだ。そして、こいつは俺達のような〈星詠み人〉ではない。この世界の人間で俺が拾って来たが、歴とした〈赤眼の蜘蛛〉の一員だ。」
「〈赤眼の蜘蛛〉は〈星詠み人〉ではないとなれないものかと思っていたのだが?」
「まぁ、こいつが特例なだけだ。親に捨てられ、孤児だったこいつを〈赤眼の蜘蛛〉にしただけだな。」
「……そうか。すまない、深く立ち入ってしまった。」
「……(フルフル)」
首を小刻みに横に振る海琉に笑顔でお礼を伝えておいた。
そういえば、この背丈といい……無口な事と言い……。
「……もしかして、君は白雲の尾根でカイルと戦っていた子かな?」
「……!(こくり)」
縦に頷く海琉にそうか、と零す。
それにしてもカイルに海琉とは紛らわしい。
「因みにこの子の名前は君がつけたのかい?」
「クスクス、あぁ、そうだな。こいつに戦い方を教えている時、自分の敵をちゃんと覚えるようにと同じ名前を名付けたんだ。だが、こいつの名前はちゃんと漢字を使っている。あんたの所のカイルとは違うだろ?」
「呼ぶ時に紛らわしいよ…。」
「クスクス。良いじゃないか。海琉、いい名前だと思うがな?」
それにしても酷い。
折角ならもっと可愛らしい名前をつけてあげれば良かったものを。
自分の敵と同じ名前とは……、彼もやるせないだろう。
「海琉は、夢とかないのかい?」
「……」
「こいつは感情に疎くてな。あまり期待通りの答えは出ないと思っていい。」
「全く君は……親としての責任を果たさないつもりかい?」
「クスクス、耳が痛いな。」
憐憫の目で海琉を見たが、彼は私が視線を向けると顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。
やはり人見知りがあって視線を直接見れないのだろう。
「おやおや、海琉はあんたの事を気に入ったみたいだな。」
「??そんな事が分かるのかい?」
「あぁ、長年こいつと共にいた訳じゃないからな。」
「少しでも君が親らしいことを言ってて、それに驚いているよ。」
「クスクス。そうか。」
「……パパ、……ママ」
「……?寂しいのかな?」
「クスクス!!」
それを聞いた修羅が一際大きく笑いだした。
なんだというのだ、と訝しげな顔を向けていると修羅が本当に可笑しいとばかりに笑い、腹を抱えだした。
海琉の方を見ると修羅の方をジッと見ているし、一体なんなんだ。
「あー……可笑しい…。笑わせてもらった。」
「説明してくれないか?何がなんやら……」
「クスクス、こいつは俺とあんたを見て、自分の父親と母親に姿を重ねたんだ。つまり、俺とあんたは夫婦ってことだな。クスクス!!」
「……嘘だろう?」
「本当のことだ。試しに聞いてみるといい。」
「期待通りの言葉は帰ってこないんじゃなかったのかい?」
「あんたの期待通りの答えってなんだ?」
「……相変わらず意地が悪い。」
一度海琉を見遣れば、首を傾げる姿をしていて咳払いをしてから聞いてみることにした。
「ごほん、……さっきのパパとママって言うのは私たちの事かな?」
「……(こくり)」
「……。」
「クスクス!!あー、もう可笑しいっ!」
顔を縦に振った海琉を見て絶句した私に修羅がまた笑い出す。
そんなに笑わないで頂きたいものだ。
そんな気持ちを込めて睨むと余計に笑われてしまったので、視線を逸らしておいた。
「お待ちどうさまです。」
何も頼んでないのに食事が運ばれてきた。
あぁ、海琉が頼んだものかと彼の方へと持っていくと首を横に振られる。
すると三人分の食事が運ばれてきたので驚いた。
いつの間に頼んでいたんだ?
「スノウ。久しぶりの食事だから胃に優しいものを頼んでおいた。金なら気にせず、遠慮なく食べてくれ。」
「悪いよ。」
「ここは男の俺に奢らせてくれ」
「…そう言われたら従うしかないか…。ご馳走様です。」
「クスクス、どうぞ?」
机に頬杖をついてこちらを笑顔で見る修羅に苦笑いを零しておいた。
確かにお粥やら、消化の良いものばかり。
日本人ならではの気遣いというか、目の前の料理のメニューにも目を見張る。
とても懐かしい……。
「ここの料理人は〈赤眼の蜘蛛〉のメンバーなんだ。料理が上手くてな。日本料理から他の国の料理まで修得している。懐かしいだろ?」
「あぁ…、とても懐かしいよ。」
「泣いてもいいぞ?俺が拭ってやる。」
「ふふっ、遠慮しておくよ。でも、ありがとう修羅。」
「クスクス。……どういたしまして?」
ひと口ひと口噛み締めるように食べる。
あぁ、本当に懐かしい。故郷の味だ。
出汁の文化が根強い日本料理。この世界では難しいかと思っていたのだがこんなに再現出来るなんて感激だ。
「……クスクス……」
私を見て嬉しそうにする修羅にもう一度お礼を伝えておいた。
隣の海琉は、ハフハフと熱そうに口を動かしながら食べていたのを見て微笑ましく思った。
「君は食べないのかい?」
「クスクス、もう少しあんたを見てから食べるよ。こう見えて猫舌なんでな。」
「可愛らしい事だ。」
「男に可愛いは禁句だ。」
敵なのにこんなにまったりしてしまっていいのだろうか、と思えるくらいに今の空間は心地良かった。
日本料理もだし、小さな子の食べる姿に微笑ましく思えてしまう。
……危うく自分の使命も忘れてしまいそうになる。
「君達も彼らを追い掛けることなんかせずに他の生き方を探したらどうだい?」
「それは出来ない相談だな。俺らはもう〈赤眼の蜘蛛〉という組織が出来上がってしまっている。もう他の生き方なんて模索出来ないところまで来てしまったんだからな。」
「そうか。私が譲れないものがあるのと同じで、君達にも譲れないものがあるのだね。」
「そういうことだな。残念なことにな。」
重い沈黙が下りてしまったので、ふと疑問を口にする。
「君達が決まって瞳の色が赤いのは理由があるのかい?それに〈赤眼の蜘蛛〉っていうくらいだから、なにか細工をしているのかな?」
「いや、こいつは〈星詠み人〉の特徴だ。」
「?? それはおかしい。私は赤目ではない。それに海琉も〈星詠み人〉ではないのに赤目だ。」
「そうだな……、まずはあんたの瞳についてだが…こればかりは俺らも分かっていないんだ。なんであんただけ瞳の色が違うのか。」
「……」
ここに来た時のことを思い出してみる。
確か日本で不慮の事故で死んでから“神”を名乗る奴に飛ばされてここにきた。
その時には既にこの瞳だったが…。
「そして、こいつについてだが…こいつは元からこの色だ。だから親に捨てられたんだろうな。気持ち悪いとか言われてな。」
「修羅。」
「本当の事だ。今更こいつに気遣っても無意味だ。過去は過去、未来は未来だ。」
「へぇ、君がそんな風に気遣えるタイプだったとはね?」
「クスクス、惚れたか?」
「ふふっ、もう一つだね。」
「クスクス。振り向かせてみせるさ。その内な。」
ニヤリと笑う彼は相変わらず頬杖をついたまま食べようとしない。
そんなに猫舌が酷いのだろうか?
そんなことを思っていたが、その顔に似合わず急に深刻そうな顔になった修羅にこちらも箸を置き、姿勢を正す。
「これは……〈赤眼の蜘蛛〉でも一部しか知らない情報だが……。」
「……そんな機密情報を私なんかに話しても大丈夫なのかい?君の立場というものもあるだろう?」
「クスクス、心配してくれるのか?」
「ふふっ、またここに連れてきてもらいたいからね。」
「クスクス、そりゃ光栄だ。」
笑いあった私達だったが途端に静かになる。
唯一、海琉が未だに真剣にご飯を食べている音がその場に響いているだけだった。
向こうの喧騒も気にならないくらい真剣そうな話だったからだ。
「あんたはこの世界をどう思う?」
「…随分と大雑把な、そして曖昧で抽象的な話だね?」
「クスクス、自分でもそう思う。だが、真剣に聞いている。」
「…ゲームの世界だが、私たちにとってはここは現実だ。死んで……ここに来ているのだからね。」
「そうだな。じゃあここがゲームの世界だと言い切ったらどうだ?」
「…何が言いたい?」
「〈赤眼の蜘蛛〉はとある奴らによって壊滅状態に追い込まれている、と言っても過言ではない。そして〈赤眼の蜘蛛〉は〈星詠み人〉の集まりだ。……ここまで言えば何となく分かるだろ?」
「なるほど、私にも関係する話、ということか。〈星詠み人〉である私にも。」
「そうだ。」
真剣な顔でこちらを見て頷いた修羅。
〈星詠み人〉である私たちにとって最大の敵……、一体誰だ?
まさかカイル達が私たちを殺そうとは思っていないだろうし…。
それにゲームの世界と何の関係性がある?
「あんたはこのゲームをどこまで熟知している?」
「ある程度は。」
「では、システムについて…、又はバグについては?」
「…攻略サイトに載っているような事柄くらいしか知らないな。」
「そうだろうな。システムエンジニアじゃないんだからな。」
「……まさかとは思うが、私たちの敵はシステムとか言わないだろうね?」
「クスクス、半分正解、半分不正解かな。」
「……そんな馬鹿な…。私たちはここで生きていて、彼らもここで生きている。そこにシステムの概念など……」
しかし首を横に振った修羅は沈痛な顔になった。
手を組み口元の近くへ持って行っている為、口元の表情は伺い知れないが、重く苦しい空気だと言うのは分かった。
「奴らは俺達、〈星詠み人〉を見ると決まってこう言うんだ。《不具合》、《消去》とな。」
「っ!?」
「分かったか。俺達〈星詠み人〉はこの世界じゃ《不具合》扱いなんだ。……好きでここにいる訳じゃないのにな。」
「……なるほど。君達が神を恨むのは…」
「まぁ、そういった奴らも居るってことだ。それに言っただろ?この話は〈赤眼の蜘蛛〉でも一部しか知らないってな。そういった奴らはこの話を知らない。余計に反感を買うからな…。」
「君達も大変だな。」
「おいおい、他人事か?あんただって俺達と同じ〈星詠み人〉だ。可能性が無いわけじゃない。」
「そいつらの見た目は?」
「そいつを見たものは生きてはいない。」
「??矛盾していないか?先程の話が広まっているのに見たものは居ないなんて…」
「流石にそこに気付くか…。……そうだ。直接的に見たものはいない。だが間接的になら見ている。」
「防犯カメラの類いか?」
「あぁ。…クスクス。あんた探偵か?」
「それはすぐに分かるだろう?」
しかし困ったことになった。
まさか玄以外に付け狙われることになろうとは。
溜息を吐くとちょうど食べ終わった海琉が見え、少しだけ口元に弧を描く。
あぁ、食べ終わったのか。そんなに長い間話していたつもりは無いが、彼が食べ終えたのを見る限りそうなのだろう。
「……美味しかった」
「クスクス、また食べにくるか?」
「……(こくり)」
「君が死ねば、この子は一人になる。」
「クスクス、分かってるさ。まさかあんたから心配されるとはな。こちらが心配していたのに。」
「少なくとも、実感が湧かないと言った方が早いかな。未だにそいつらと出会ったことはないし、生きているだけで《不具合》と呼ばれるようになるとはね。」
「……気をつけるんだな。これは注意じゃない、警告だ。俺もあんたを失いたくはない。」
「ふふっ、それは殺し相手がいなくなるからかい?」
「クスクス、さぁ?どうだろうな。俺のお姫様?」
「ふふっ、やめてくれ。私はそういうのは苦手なんだ。姫扱いされることに嫌悪はないけど、姫扱いする事の方が多いからね。」
「ならいいじゃないか。俺があんたを姫扱いするさ。」
「ふふっ、困った王子様だ。」
「クスクス」
海琉が私たちの会話に首を傾げるのを見ながら、私たちは残りのご飯を食べていく。
すると修羅から驚愕の言葉が聞こえてきた。
「そういえばさっきあんたを攫う時にシャルティエに会ったよ。」
「……は?」
「クスクス…!コアクリスタルを激しく点滅させてすごい警戒されたな。ジューダス達も今頃本当に魔物と戦っているかもしれないな?」
「え?だってここにはいないって……。……!そういうことか!」
「クスクス。俺はちゃんと言ったぞ? “ハイデルベルグには居ない”とな?」
「……私の顔を見て遊んだね?」
「クスクス!!つい、面白くてな。」
「……全く、君という人は……」
「クスクス。今度またデートしような?」
「ふふっ、今日みたいにエスコートしてくれるならね?」
「クスクス、そういうの得意って言っただろ?」
立ち上がり去ろうとした私に修羅がもう一度声を掛ける。
「……気を付けろ。連中の方が何十倍もバグらしい見た目をしている。それに触れるな。言葉を交わすな。相手にするな。」
「お気遣い痛み入るよ。……忠告感謝する」
「クスクス、じゃあな?スノウ」
今度こそ店を出て、魔法を使う。
〈サーチ〉を使い、シャルティエの場所の特定を急ぐと、何やら家の中にあるではないか。
……誰の家だ?
私は疑問を持ちながらもシャルティエの元に歩き出した。
自身の中に葛藤を抱えながら。