第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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結局、ネーヴェ氷洞で倒れた私をスノーフリアへ運んでくれたらしく旅は振り出しに戻っていた。
それに申し訳ないと謝罪すると皆が一様に首を横に振ってくれる。それにまたお礼を伝えておいた。
「さぁ!行くぞ!ハイデ…なんちゃらへ!!」
「カイル…、お前街の名前くらい覚えておけよ…。ハイデルベルグだ、ハイデルベルグ!」
「そこにウッドロウさんがいるのよね。会ってくれるかしら?」
「さぁな。ただ、一国の王が僕たちの様な、ぽっと出の一般人と会ってくれるかは分からないがな。」
「まぁまぁ、俺が何とかしてやるから取り敢えずハイデルベルグへ向かおうぜ。」
「……」
そうだ、ハイデルベルグではジューダスがカイルを叱咤する場面があった。
その後カイルはリアラとデート、か。
私もジューダスとハイデルベルグに着いたらデートするって話をしているし、彼が覚えているか否かは定かではないが強制的に連れていこうではないか、と高を括ると彼が身震いしているのが横目で見え、それを笑うとこちらを睨みつけてきたので視線を流しておいた。
「ねぇねぇ!ハイデルベルグってどんな所?!」
「雪国に見合った生活をしている、割とここらでは豊かな方で、食糧難もなく、王であるウッドロウが統治する治安の良い街だ。」
「《寒さに負けない暖かい料理が美味しい街でもあります。是非皆さんには暖かい料理を召し上がって頂きたいですね。》」
「へぇ!二人とも詳しいんだね!スノウはやっぱり学者さんだから訪れた事があるの?」
「《はい、何度もお世話になっています。ここら辺は雪が深いので歴史的な物が埋まっているかもしれませんし、興味深くて何度も来ているんです。》」
「……ふん。」
「二人から見て何か名物とかないの?」
「……観光に来てる訳じゃないだろう?」
「いいじゃん!折角ならさ、皆でどっか出掛けようよ!あ、勿論リアラの用事が終わってからだけど!」
「ふふっ、カイル。その暖かい料理ってのが食べたいだけなんじゃないの?」
「あ、バレた?」
頭を搔くカイルにリアラが口元を押さえ笑うと、他のメンバーもそれを見て和むかのように笑顔を浮かべる。
「《特にボルシチは絶品でしたよ?》」
「ぼるしち?聞いたことないや。」
「俺は聞いたことあるぞ?確か……野菜が沢山入ってるスープみたいなものだよな?」
「《そうですね。その中にウインナーみたいな肉も入っているので育ち盛りの男の子にはうってつけかと。》」
「へぇ!楽しみだなぁ!ハイデンシュタイン!」
「ハイデルベルグだっつってんだろ!!?バカ!」
言葉の応酬から雪合戦へと入る彼等にクスクス笑っていると妙な気配を感じた。
もう少ししたらハイデルベルグだが、そのハイデルベルグの様子がおかしい。
原作には無かったはずのイベント……、まさか……〈赤眼の蜘蛛〉か?
指を頭につけ魔法を使う。
「(サーチ)」
するとどうだろう。
あんなに前世で過ごしてきた街が、人っ子一人いない街へと変わっている。
それに息を呑んだ。まさか、そんな……あの街に人が居ないなど今まで見たことがないのに。
「スノウ?どうした?」
「ん?ホントだ…。スノウ顔色悪いけど…」
「……」
「どーしたんだよ!俺様に話してみなって!」
ロニが私の肩に手を回したことで我に返る。
すると心配そうに見つめる皆の姿が見え、どうしようかと悩む。
ここで彼らと〈赤眼の蜘蛛〉を合わせる訳には行かない。
「《皆さん、本当に申し訳ないのですが……一度スノーフリアへ戻りませんか?》」
「え?なんか忘れ物したの?」
「そりゃ大変じゃねぇか!俺はリアラが良いなら良いと思うぜ?」
「私も大丈夫よ。戻りましょう?」
「(あいつの顔色が悪くなるほど困る紛失物…?ちゃんと武器は持っているように見えるし、指輪もある…。なら、それは一体なんだ?)」
踵を返す皆を見て、一度ハイデルベルグの方へ視線を向けた。
何にしても決行は夜しかない……。
「きゃあああ?!!」
「?!」
リアラの悲鳴が上がり我に返ると、巨大な魔物がカイル達を襲っていた。
こんな巨大な魔物、この世界に存在していないはずなのに…?!
それにこの道はハイデルベルグへ行く唯一の公道なのに、こんな場所に巨大な魔物が出るなんて怪しすぎる。
カイル、ロニ、ジューダスの三人はその魔物に立ち向かっていたが、その巨大さからか決定打は無さそうに見えた。
段々と押されていく三人は悔しげな顔をしていた。
「くそっ!こいつ、硬ぇ!!」
「どんな魔物にも必ず弱点がある筈だ!そこを突くぞ!!」
「って言ってもよ?!それはどこなんだよ?!!」
「死ぬ気で探せ!!」
「うへぇ!」
「!!」
マズイ!押されてる方向はハイデルベルグへの方向だ!
ここで彼らがハイデルベルグに辿り着けば何か不具合が起こるかもしれない…!
それだけは阻止しなければ…!
雪の中を軽々と走り、魔物の後ろへ回ると魔法を使う。
「(レイ!)」
光の光線が空から降り注ぎ魔物を攻撃していく。
苦しげに咆哮を上げる魔物は標的をこちらに変え追いかけて来る。
よし、成功した!!
「!? スノウ!何をしている?!」
「1人で危ないよ?!」
『坊ちゃん…、一つ気になることが…』
「それは今じゃないとダメなやつか?!」
『はい。…スノウは、もしかしたら坊ちゃん達をハイデルベルグに着かせたくないのかもしれません。』
「?! どういう事だ?何故そんなことをする必要が…」
『それは分かりませんが……もしかしたら未来を知っている彼女からしたら、今のハイデルベルグは危険だと感じたのではないでしょうか?それともなにかの調整の為か…。』
「……なるほど、それなら納得がいく。ここまで来て態々スノーフリアへ戻ると言った彼女の言動がな…!」
『どうしますか? スノウの作戦に乗りますか?』
「……あいつがもし僕たちの敵だとしても…僕達を危険な事に巻き込むとは思えない…。だから僕は、スノウを信じる。」
『分かりました!ならもう1つお伝えしたいことが…。ハイデルベルグですが……探知上、何故か街に人の反応が一つもありません。』
「!? もしかしたらスノウはそれを知ってて…」
『可能性は非常に高いかと…。それにあそこで育った彼女が、あの街に一人もいないと分かった時に顔色を悪くするのもごく自然な気がします。それで全てが繋がるかと…』
「くそ、あいつはまた一人で抱え込んで…!」
『また説教ですね!!坊ちゃん!!』
「当たり前だ!」
魔物を惹き付けている彼女の横に立ち、剣を振るうと驚いているスノウ。
しかし笑みを零し、大きく頷くと晶術の構えをとった。
「お前はまた一人で抱え込んで……、後で説教だからな。」
「!!」
僕の言葉に目を見張った彼女だったがすぐに苦笑を零し、遠慮ない晶術を放つ。
スノウがやっているように、この魔物に有効なのは恐らく晶術の方だ。ならば…。
「お前ら!こいつには晶術を使え!その方が何倍も効く!」
「「分かった!!」」
「スノウとリアラはそのまま術を行使しててくれ!」
「「《了解!》」」
ジューダスの作戦通り、全員晶術で片付けに行く作戦に出たが魔物は何を思ったのか踵を返しハイデルベルグの方へと向かっていくでは無いか。
それにすぐさまスノウが一番反応を示し、高威力の晶術をぶつけていたが怯みもせず、魔物は何かに魅入られるかの様にハイデルベルグへと進行して行った。
焦りを滲ませた彼女は自身の得物を掴んでいた。恐らく無意識に、だ。
「馬鹿!それは使えないだろう?!」
「っ、」
やはり彼女はハイデルベルグへと向かう物に対して敏感に反応している傾向にある。
自身の得物が壊れそうなのを忘れるくらいに彼女の中でそれはかなりの重要事項なのだろう。
すぐさま晶術に切り替えた彼女だが魔物の進行を抑えることが出来ず、拳を握り悔しそうに目を閉じて唇を噛み締めていた。
このままではハイデルベルグはこの魔物に侵攻され、見るも無惨な姿に成り果てる。
そうなれば、ここの出身である彼女には耐えられないだろう。
だが、どうすればいい…?
「このままじゃ、街の方に行っちゃうわ!?」
「くそっ、どうしたら……」
「そうだ!英雄の1人、ウッドロウさんならこんな魔物やっつけられないかな?!」
「っ!」
「でもよ、一国の王が危険を冒すなんて真似しないと思うけどよ…?」
「この魔物より先にハイデルベルグへ行こう!この状況をウッドロウさんに伝えるんだ!!」
「___」
先に走っていってしまったカイル達を見て慌て出す彼女。手を伸ばし掴もうとしたが、虚しくも空を切ったその手は見るからに震えていた。
走っていくカイル達へ呆然と手を伸ばしていたが、立ち止まった彼女は顔に手を当て、顔色悪く俯いている。
僕はそれを見て意を決して彼女の手を取り、走り出した。
「愚痴なら後でなんでも聞く!!今はカイル達を追うぞ!」
「___」
「お前が僕達を危険な事に巻き込むとは到底思えないと僕は勝手に思っている!だから、ハイデルベルグに僕達を寄せ付けたくないのもそういう理由なのだろう?!」
「!!」
「だが、今はこの魔物をハイデルベルグから遠ざけることが先決だ…!ともかくカイル達を追う!いいな?!」
大きく頷いた彼女はその後先ほどよりも足取り良く走り出す。
繋いだ手は離さないまま、ハイデルベルグへ向かう彼らの後を追った。
ハイデルベルグへと入った彼らは突然足を止めてしまい、追随していたスノウ達も否応無く足を止める。
辺りを見渡す彼等の意図が分かったからだ。
「…ねぇ、ハイデルベルグってこんなに人が居ないの?」
「人がいないならそれはそれでラッキーだけどよ……。ちょっとおかしいぜ?首都とも言われるハイデルベルグがこんな人一人居ないなんてよ?」
「ええ…なんか不気味だわ……」
「……」
懐かしいはずの景色も人がいなければ途端に物悲しくなる。
スノウはその光景を見て一瞬寂しげな表情を浮かべたが、直ぐに魔物の様子を確認する辺りまだ心に少し余裕があるのだろう。
しかしスノウが振り返った時にはあの巨大な魔物は見当たらなかった。あんなに図体が大きく目立つのに、だ。
スノウがどういうことだ、と思うと同時に複数の殺気を感じハッとして彼らの安全を確認したが時すでに遅しだった。
黒づくめの奴らが、仲間たちの首にナイフを押し当てていたからだ。それは彼…ジューダスも例外では無かった。
「(っ皆?!)」
奴らの殺気に気付きにくい彼らだからこそ、全く気配を感じとれなかったのだろう。その証拠に皆の顔は焦りと驚きが滲み出ていた。
「動くな。動いたら殺す。」
黒づくめの1人が仲間たちにそう冷たく言い放っている。
息を殺し、どうする、と言った顔の仲間たちを見てスノウは無意識に拳を握る。
やはり罠だったのか…。
先程の魔物も、私たちをハイデルベルグへ招き入れるための罠だとしたら辻褄が合う。
「ようやく会えたな!少女……いや、スノウよ!」
「!!」
この声、そしてその喋り方…【玄】か?
黒づくめで分からないが他の奴らよりガタイがいい所を見るとそうなのだろう。
「我はスノウ、お主との一騎打ちを所望する!!…正直こんな事をしようとは思わなかったが、悪く思うな。奴が勝手にやったことだ。」
「(奴? 誰のことだ?)」
「っ逃げろ、スノウ!」
「っ?!」
「今のお前では奴に勝てない!それはお前が1番分かっているだろう?!」
「黙っていろ。」
ジューダスの喉に当てられたナイフが喉に食込み血を流すのを見てハッと息を飲んで首を横に振った。
もう何も話さなくていい、だから大人しくしていてくれ、と心の中で懇願した。
そしてキッと玄を見てフリップを出す。
「《分かった。勝負を受ける。》」
「スノウ!!!」
首を横に振り、拒絶の反応を示す。
そして壊れる寸前の自身の得物を手に持ち、構える。
『待ってください!!!スノウ、僕を使ってください!!その武器は壊れかけている!そんなの使えば君の勝機は薄くなるだけだ!!!』
シャルティエの言葉に僅かに瞳が揺れ動く。
駄目だ、ここでシャルティエを出して皆に見せる訳にはいかない。
ジューダスの今までの苦労がそれこそ無駄になってしまう。
一瞬彼の方を見たが、私はそのまま得物を持って玄へと走り出した。
『スノウ!!?やめてください!!死ぬ気ですか?!!』
「っ」
ロニとの稽古も変わらずだったし、決め手とも呼ばれるものも何も考えてない。
もうこの日が来てしまった事に絶望しながら自分の関心の無さに自嘲した。
もう少し真剣に考えていれば何か思いついただろうに、それをしてこなかった私が悪い。
得物を一生懸命振り、玄へ攻撃を叩き込んでいく。
それを愉しそうに受けている玄に舌打ちしたくなる。なんて余裕そうな顔だ。
得物を瞬時に銃へ変形させ、魔法弾を放つが大きな大斧で弾かれてしまう。
「どうした?!お主の実力はそんなものではなかろう?!!」
「っ」
誰も彼も、私の事を買い被りすぎだ。
私は平凡でしかない。ただそれを、努力で補ってきただけだ。
皆のような天才肌でもない。
すると攻撃に転じてきた玄が見え、大きく跳躍し寸前で攻撃を躱す。
しかし大斧独特の間合いの取り方で瞬時に距離を縮められ、咄嗟に得物で攻撃を受け止めた。
その後、何度も何度も攻撃を得物で受け流していく。
「どうしたどうした?!もっと来い!!もっとだ!!」
本当に〈赤眼の蜘蛛〉の集団は戦闘狂だ…!
まるでバルバトスのようではないか。
玄へ向けて魔法を瞬時に発動させるが大した効果は認められない。
それどころか玄の攻撃の手が早くなってきており、徐々に追い詰められるのが自分で分かる。
受け流すのに必死で魔法も魔法弾を打ち込む暇も与えられない。
しかしどれほどその攻撃を受け流していただろう。
遂に相棒との別れが来てしまったようだった。
___ピシッ
その嫌な音に目を見張ると、相棒が大きな音を立て壊れていくのが見えた。
その瞬間がとても遅く感じた。
壊れていく相棒、部品ひとつひとつが分解し地面へと落ちる様。
その全てがスローモーションだった。
「「「「『!!!!』」」」」
そして私の首に当てられた大斧。
相棒の地面に落ちていく金属音がいやに脳内に響く。
そして、終わったのだという空虚感。
「勝負あったな。」
『やめて!!!?モネっ!モネ!!!嫌だよ!!!どうして僕を使ってくれなかったの?!!僕の事嫌いなんですか?!!どうして?!!!』
シャルティエの泣き叫ぶ声。
あぁ、前世も死ぬ前はこうして君の泣き叫ぶ声を聞いていたね。
その瞬間、得物を構えていた為に僅かに上がっていた手をだらりと下ろした。
『嫌だ!!諦めないでよ、スノウ!!?もっと生にしがみついてよ!!?坊ちゃんを……また一人にするんですか?!!!』
「……」
ごめん、ごめんよ、シャルティエ。
君の願いは難しそうだ。そしてごめん、皆……。
君達を守れない私をどうか許さないで。
大斧が私の首を狙い、横に一閃されたのを見て生を諦めた私は目を閉じた。
「ごめん」
「やめろぉぉぉぉ!!!!」
ジューダスの悲痛な叫びが耳に届く。
あぁ、本当にごめんなさい。
「「「「『?!!!』」」」」
しかし、何故かまだ首の方に痛みが来なくて、薄ら目を開ける。
……本当に信じられない事だが、左手の中指と薬指で奴の大斧を挟んでおり、その動きを止めていたのだ。もう駄目だと思っていた私が、だ。
「?! どこにそんな力が…?!」
「っ」
すると大斧を引き警戒するように大きく後退した玄。
それを見ながら、未だに何が起きているのか分からない私は茫然としていた。
そんな、ムキムキマッチョマンみたいな強靭な筋肉もしていないし、合気道などの護身術を学んだ訳でもない。
しかし次の瞬間、私は手を前に出し格闘術のような構えをしていたのだ。
勝手に身体が動く……何が起こっている?
そして私は体が勝手に動く中、玄へと攻撃していた。
まるで拳闘士のような、格闘家のような……。
ハッとして左手の指輪を見ると光り輝いているのが見えた。
「忘れないでって言った……。私がいる、だから……諦めないで……。」
「っ、」
「私を喚んで……。その声で……。貴女なら出来る……そのマナは無限大の力を秘めているのだから……」
「__凍てつく吐息で敵を去なせ……、セルシウス!」
玄を押し遣りそう唱えれば、左手の指輪が光り、目の前にセルシウスが現れる。
その瞬間敵に向かって行くセルシウスを見て、自身の得物であった相棒を見遣る。
バラバラになってはいるがまだ少しでも使える物があるはずだ。
思うや否やすぐに相棒の元へと駆け寄り、それを手に取る。
剥き出しの剣状態の相棒がそこにはあり、そのまま敵へと近付き背後から剣戟をお見舞いする。
「!!? くっ!!」
流石の玄も二人相手は厳しいらしく珍しくその顔には焦燥感が表れていた。
しかし玄も負けられないとばかりに私に大斧で攻撃を仕掛けてくる。
「ハッハッハ!!やはり我の目に狂いはなかった!!お主は強い!!愉快っ!実に愉快!!!まさかあんな物を出してくるとは思わなかったぞ!!」
玄に押されている私だったが、指輪からセルシウスの意思が伝わってくる。
もう少しで晶術が完成する、大きく後退して、という意思が。
私は得物で一際大きく大斧を弾き、玄の大斧と距離を開ける。セルシウスの言う通り大きく後退すると、そこに大きな氷の柱が落ちてくる。
大斧で受け止める玄だったが、その強大な力に完全に押し負け氷の柱の下敷きとなった。
「ぐはっっ!!?」
「スノウ…!これを……!!」
セルシウスが私に投げ渡したのは、私の身長よりも長い杖だった。
だがこの杖、先端部……というより下端部になるが、他の杖と異なっている。
見た目は普通だが何故だか違和感を覚えるのだ。
「それの使い方は1番貴女が知っている…!貴女の知識がそれを強くする……!」
「これは、もしかして……」
この武器もこの世界には存在し得なかった武器…、銃杖だった。
このシリーズの他の作品で出てきた『天才だが天然で破天荒』なキャラが使っていた武器だ。
かなりトリッキーな上、身体を十二分に動かす武器でもあり操作性が難しい。天才だからこそ扱えた代物。
私に、これが扱えると…?
「大丈夫…自分を信じて……!私を信じて……!」
「っ、君にそこまで言われてやらない訳にはいかないね…!」
「そう…!貴女の調子を取り戻して…!!」
杖の下端部を敵に向け槍を持つ様に構えた私に、仲間たちが息を呑み黒づくめの奴らが笑う。
通常、杖というのはそういう構えをしないからだ。
「ふっ、玄様の勝ちだな。」
「あぁ、驚かせやがって……」
「いや、スノウならやれるよ!!オレ、信じてるから!!」
「!!」
「私も信じてる!!貴女の強さは私達が1番知ってる!!考古学者としての知識だって、沢山知ってるもの!!その杖だって絶対使いこなせるわ!!」
「こーなったら、派手にやっちまえ!!スノウ!!こいつらをボッコボコにしてやろーぜ!!?」
「スノウ…。」
「……ジューダス?」
「僕もお前を信じている。だから、お前がこいつらに負けるはずがないとも思っている。そうだろう?スノウ」
「ははっ、言ってくれるね…皆……!」
「「「行っけぇ!スノウ!!」」」
「くっ、こいつら急に元気になりやがって…!」
「おい、黙らせろ!」
仲間たちを押え付ける黒づくめに向けてセルシウスが走り出したのを見て、私は玄を真っ直ぐ見た。
彼女に希望を託して。
「ぐ、…そんな……ひょろっちぃ武器で我を倒すと言うのか…?」
「倒す。この武器は何も杖の役割をするだけじゃない。それこそ、無限大の力を宿した武器なのだからね。」
「くっくっ、ハッハッハ!!!本当にお主との勝負は飽きさせぬ!!良かろう……、ならば来い!!その無限大の力というものを、我に見せてみろぉぉぉ!!!」
額に青筋を立て、力の限りで氷の柱を押し退けると狂気の笑顔を浮かべこちらに向かって走り出す玄。
…普通、そのクラスの重さだと人間が動かせるはずがないのだが、やはり君は化け物だな…!
それに私は苦笑いをして玄を見据えた。
この銃杖は、近距離〜遠距離を想定されて造られているもの…!
近くでも十分に対応出来る!
「死ねぇぇぇぇえ!!!」
「全弾発射…!!」
大斧を振りかぶった玄へ向けて、銃杖の先に虹色の円陣を展開させ、そこから無数の光のレーザーを打ち出す術技〈百華〉。
そう、杖の下端部が銃の代わりをする……それがこの武器最大の特徴!
そして通常の杖としての役割も果たす!
「イグニートプリズン!!」
自身の周りに陣術を展開させ、その陣から地獄の業火を表出させ敵を灼き尽くす術技。
〈百華〉で玄の勢いを削ぎ、〈イグニートプリズン〉で攻撃をする作戦は思いの外功を奏す。
今まで使っていた魔法弾の威力より格段に上がっているそれに玄が完全に勢いを消し、防御に徹したのだ。
それを見て更に追撃をかける。
「仇なす者に戒めを!シャインフィールド!」
術者を中心に光の陣を描き、範囲内の味方は回復、敵にはダメージを与える術。
銃杖を地面へと突くとその周辺の地面から光り輝き、玄の身体を光が貫いていくと同時に暖かな光が私を包み込む。
「ぐぁあああ!!」
「これで終わらせる!…セルシウス!」
「うん…!」
カイル達をを助け、こちらを見守ってくれていたセルシウスが瞬時にこちらに来て銃杖に手を添え、お互いに顔を見合わせ頷く。
「終焉への囁き…冷たき吐息で氷結せよ!!セルシウス・ディマイズ!!」
銃杖の下端部より大量の氷の粒子が射出され玄を包み込み、一瞬でその巨体を凍らせた。
それはあっという間の出来事だった。
全く動きのない玄を見てようやく終わったんだと全身の力が抜けてしまい、杖を支えにペタリとその場に座り込むと、途端に賑やかな声が聞こえてきて、それは私に抱き着いてきたり周辺で褒めてくれたり……。
……本当に君たちはお人好しだね。私が君たちを危険に晒したというのに。
それでも頬へと伝う涙は暖かくて、とても嬉しかったのは言うまでもない。
だって、絶体絶命の時から生を諦めていた私が今、勝利を掴んでいるなんて誰が予想出来ただろう。
しかし急な眠気に襲われて、私はその場で意識を飛ばしたのだった。