第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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目を開けるとベッドの上で、その事にやはり溜息を吐く。
予想していた事だけあってあまり驚きはない。
気絶する前、セルシウスが彼らが近くまで来ていると言った瞬間、もしかしたらそれはジューダス達の事じゃないか、と予想を立てていたが向こうから聞こえる元気な声でそれが正解だと気付いた。
念の為声喪失の魔法弾を自身に撃っておき、準備万端にしておくとその音に反応したのか足音が聞こえ、扉を荒々しく開け放つジューダスの姿。
そして仮面の奥に悲しげな瞳が揺れ、私を視認すると思わずと言った具合に抱き締めてくれた。
「っ! 良かった…!」
「……《ご心配お掛けしました。》」
「馬鹿っ…!何故一人で飛び出した…?!しかも、あんな危険な洞窟に!!」
「《君はあの氷洞の事を知っていたんだね。》」
ファンダリア出身ではない彼があの氷洞を知っているのは意外と思い、思わず口調をモネにしてしまったが、私のそのフリップを見て彼は抱き締める力を強めた。
「以前、お前が言っていたのを覚えていたんだ、馬鹿」
「《ふふっ、そうだったか…。私が君に教えていたか。》」
それは完全に忘れていたよ。
そういえば、ファンダリアの任務の時に彼に教えたのかもしれない。あまり記憶にはないがね。
そっと背中に手を回し、彼の背中を叩いてやると叩く左手に違和感があって思わず手を止めてしまう。
左手の薬指…、そうか契約の指輪か。
セルシウスとの契約の指輪があるからいつもと違う感じがしたのかと一人納得していると、彼は体を離して私の左手を取った。
そして揺らいだ瞳でこちらを覗き見ては、私の左手の指輪に視線を向けた。
あぁ、君も気になるのかい?
「《ふふっ、これが気になるかい?》」
「お前、こんなモノ、今まで着けてなかったじゃないか。急にどうしたんだ?…あの氷洞で何かあったのか?」
「《声の持ち主に貰った、かな?》」
しかしそれを聞いてはたと動きを止めるジューダス。
何か思案している様子の彼だったが、次の瞬間賑やかな声が聞こえ思考が中断されたようだ。
「スノウ!大丈夫?!2日も目を覚まさなかったんだよ?!」
「おいカイル…、病人の前ではあれだけ気を使えと……」
「スノウ、大丈夫?どこか痛くない?痛かったら私が治すからね?」
「《ありがとうございます、リアラ、皆……。こんなに心配してもらえて私は果報者です。》」
「ジジくさい言い方するなよな?そんな言葉、若いやつが使う言葉じゃねえって。」
「《ふふっ、それもそうですね。》」
一気に賑やかになり、ジューダスも一歩後ろに下がっていたがやはりこの指輪のことが気になって仕方がないらしく、彼の視線は最早その指輪にだけ注がれていた。
「あれ?スノウって結婚してたの?」
「ぬぅわぁにぃー?!!スノウ、お前いつ結婚してたんだ?!ってホントだ!!結婚指輪がある!!?」
「!!」
結婚指輪という言葉に反応した彼が、徐々に眉間の皺を深くしていく。
他の仲間も珍しそうにその指輪を見ては触ってを繰り返していたのでクスリと笑ってしまう。
「《これはとある人に着けられたんですよ。》」
「着けられたぁー?そりゃなんて不届き者だ!!勝手に着けるなんて、男の風上にも置けねぇ!!」
ジューダスが僅かにコクコクと頷くのが見えたのでそれが面白くて苦笑する。
しかし、語弊がある言い方をしてしまった。
着けられた、というよりは着けてもらったと言った方が良かったか。
するとその思考に反応するかの様に指輪からクスクスと笑い声が聞こえ、彼等の動きが止まる。
「な、なぁ……さっき女の声がしなかったか…?」
「した!!絶対したよ!!」
「ぎゃあああ!!!?ここでも声が聞こえるって、もう誰か取り憑かれてるんだ!!!」
そういえば、この年長は原作でもお化けを怖がっていたな…。
先に逃げたいからお化けが出たらすぐ言うように、って言われたっけな。
そっと指輪に触れるともう一度可笑しそうにクスクスと笑う“彼女”。
それに敏感に反応するロニ。
徐々に煩くなったのかジューダスの眉間が偉い事になっている。
「何処にいる?この声の持ち主は。」
「そ、そうだよなあ?!ジューダスも気になるよな?!!」
「ロニ、うるさいよ…」
カイルとリアラが冷たい視線でロニを射抜く。
それに何も言えないのか、うぐっ、と呻いたあと静かになった。
『クスクス…、賑やかな仲間達……。』
「《これはこれで楽しいですよ?》」
「え、スノウ、誰と会話してるの?」
ロニがそれを聞いて気絶したのを確認すると、私と“彼女”は笑ってしまった。
だって、まさかそんなに怖がるとは思っていなかったから。
「《さあ?誰でしょう?》」
「私にだけこっそり教えて?スノウ」
「あ、ズルいや!リアラ!オレも知りたい!!」
「……」
彼も知りたいのかジッとこちらに視線を向ける。
指輪に再び触れると“彼女”が動き出すのが感覚で分かった。
急に部屋の温度が下がり、風が吹いたかと思えばセルシウスが部屋の中に姿を現し、それに息を呑む彼等。
「だ、誰?」
「部屋の中なのにすっげえ寒くなったんだけど!?」
「……こいつは、」
『坊ちゃん!もしかしたら、精霊の類いではないですか?!人の前には姿を現さないと言われていたのに…こんな所で見られるなんて…!!』
「クスクス。……見てて飽きない人達…。」
「ねえ、あなたは誰?」
リアラが恐る恐る聞くと、セルシウスがムッとする。
…珍しい。彼女がそんな顔するとは思わなかった。
僅かに目を見張った私に気付き、セルシウスがこちらを見た。
姿を現してはくれたが、きっとあまり話したくないのかも。
「《彼女はセルシウスという氷の精霊で、私の彼女です。》」
「クスクス……そういうこと…。スノウは誰にも渡さない……」
「え、えっと……、スノウって女の子だよね?い、いや、そういうの偏見ないけどさ!驚くっていうか…」
「私も驚いたわ!氷の精霊に会えるなんて!!凄いわ、スノウ!契約したのね?」
「《早く言うとそういうことです。》」
その言葉にジューダスが誰とも知れずホッとする。
唯一相棒だけがそれを知っていたが他の者は誰も気付いていなかった。
「スノウって、凄いよね!!学者っていうのももちろん凄いけど、こうやって前人未到……っていうの?そういうことを平気でやってのけるんだからさ!!」
「《ふふっ、ありがとうございます。これも全て皆さんとセルシウスのおかげです。何一つ私の力では無いのが心苦しいですが…。》」
「そんな事ないわ!精霊との契約は物凄い過酷な条件があるって聞いた事がある。だからそれを乗り越えられるスノウは只者じゃないってことよ!自信持って、スノウ。あなたは凄いわ!」
リアラの言葉に救われた気持ちになる。
こんな私でもそう言って貰えるなんて、嬉しい事だ。
自嘲しそうになって慌てて止める。今、その顔を見せるのはおかしいから。
代わりにリアラに向けてとびきりの笑顔を見せた。
それにハッと息を呑み、嬉しそうに抱きついて来てくれるリアラを抱き締め返した。
ありがとう、こんな私を素敵な言葉たちで包み込んでくれて。
何一つお礼は出来ないけれど、せめて貴女達の旅の行末が幸せであるように、遠くから祈っています。
私は途中でこのパーティを抜けるだろうから。
ポタ……
「!!」
「??……スノウ、なんで泣いてるの?」
恐る恐る聞くリアラにハッとして目を擦る。
しかし次から次へ涙が溢れ止まらない。
それにカイルがアワアワとし、リアラが困った顔でこちらを見遣るもまた抱き締めてくれ、ジューダスも苦しそうな顔へと変わっていく。
いつもならこんな事で泣きはしないのに、今日はどうしたことだろう。何でこんなに涙腺が緩いのだろう。
私はリアラを抱き締め返す事で気持ちを落ち着けようとしたが、どうにも上手くいかないようだ。
笑いながら泣く私は可笑しなものだろうね。
「______」
「!!」
声が出ないのに口を動かすスノウを見て、ジューダスは無意識に拳を握った。
読唇術でも使えれば、彼女の言葉が分かっただろうに、何もしてやれない自分に腹が立っていたのだ。
それを心配そうに見遣る相棒は、何も喋ることはしなかった。
「借りる……」
突然セルシウスがリアラを剥がし、スノウを抱えると外へと出ていった。
それを黙って見送る仲間達だったが、カイルが漸く声を発した。
「……追いかけよう。だって、スノウ、辛そうだった!オレ達にも何か出来るはずだよ!」
「そうね!それがいいわ!……スノウ、一人で抱え込んじゃう癖があるのかも。」
「そうだな、あいつは…そういう奴だ。」
仲間達が顔を見合わせ外へ出た。
一人置き去りにされたことに誰も気付かぬまま。
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「私の主、スノウ…。貴女の願いは何……?」
「_____」
「ちゃんと聴かせて…?貴女の願い……」
「願ってはいけないと分かっていても…、皆と旅がしてみたくなったんだ……」
「何故願ってはいけないの…?」
「私は…皆と違う世界の人間だから……、あの運命に私は居ない……。居てはいけない。」
「うーん……難しく考えすぎ……?スノウが居たいなら居ればいい……。ただそれだけ……」
「結局は……皆と対立してしまう…。私は裏切り者のモネなのだから。」
「うーん……。難しい……。」
むぅと考える様子のセルシウスだが、スノウの涙が止まったのを見てそっと地面へと下ろす。
そして少しだけ流れていた涙を拭うとそれを舐めた。
「しょっぱい……」
「ははっ、そりゃそうだね。涙はしょっぱいものさ。」
「……スノウ、いつもの調子に戻ってきた……。でも悩みは解決出来ない……」
「こればっかりは自分で何とかするしか無い。でも、ありがとう、セルシウス。お陰で少し気が楽になったよ。」
「スノウがいいなら……いい…」
「本当、ありがとう。」
あぁ、馬鹿だな自分は。
今更旅が一緒にしたいなんて、そんな事赦されるはずもないのにそう思ってしまうなんて。
旅は道連れとはよく言うけれど、私と彼らにはそれは通用しないのだから贅沢は言ってられない。
私が思わず自嘲していたのを、セルシウスが黙って見ていた。
「スノウ!!」
駆け寄ってきてくれる影が三つ見え、目を瞬かせる。
あ、声を出さないようにしないとね?
「スノウ!あのさ!オレらに悩みとか、そういうのさ、遠慮なく言ってよ!!辛い時は辛いって言っていいんだよ!」
「!!!」
誰かさんと同じ事を言っていたので、その誰かさんの方へと向くとそっぽを向かれてしまった。
でもその顔は少し不貞腐れている。
「スノウの悩みってなに?オレ達で解決出来ることなら何だってやるよ!ね、皆!!」
「ええ!私、スノウにはさっきみたいに笑っていて欲しい。だから悩みがあったら少しでも助けになりたいの。」
「…言っただろう?辛い時は辛いと言え、と。それに僕だってお前には沢山助けられている。少しくらい…頼れ馬鹿。」
「《皆さん……、ありがとうございます。》」
今はそれだけ聞けたら嬉しいんだ。
とても愛おしい気持ちになるから。
「《感動したんです、リアラの言葉にもカイル、貴方の言葉にも。勿論以前言ってくれたジューダスの言葉にも。……皆の言葉に救われた気持ちになるのです。あぁ、とても幸せだ、と思えるんです。》」
「……!」
「《だから涙が出たんです。幸せすぎて、怖いくらいです。》」
「そんな…、オレたちの方こそありがとうだよ!!いっっっつもスノウの技とかさ!優しく見守ってくれてるようなそんな顔とかさ!オレたちだって一杯幸せもらってるんだ!」
「さっき、私の言葉に笑顔になってくれたわよね?私も、スノウのその笑顔を見て救われたの。こんな私でも誰かを笑顔に出来るんだって。」
「お前は一人じゃない。こうしてお前を慕う奴らがいる。それを忘れるな。」
「っ、」
なんなんだ。今日は皆、私を泣かせる日か何かなのか…?
泣きそうになりながら、それでも今の精一杯の笑顔を彼らに向けた。
「《ありがとう。本当にありがとう。例え、離れる事になっても貴方達のことは忘れません。》」
「え?!スノウ、どっかに行っちゃうの?!」
「《ふふっ、私こう見えて考古学者ですよ?何時までも皆さんの旅に同行している訳にはいきませんよ。》」
「ええ?!!!嫌だよ!!スノウも一緒じゃなきゃ旅なんて出来ないよ!!」
「私もスノウがいなくなるのは嫌よ? “このメンバーの中に”私1人女の子を置いていくの…?」
上目遣いで潤ませた瞳を覗かせてこちらを見るリアラに呻き声を上げそうになりグッと堪える。
可愛すぎるその仕種に心の中ではめっちゃ叫んでるけどそれも堪える…のだが、今リアラの言葉の中で棘のある言葉がなかったか?
いや、気の所為ならいいが…。
「お前が何処かに行くなら僕も着いていくぞ。最初からそう言っていただろう。」
「《ふふっ、ジューダスも皆も本当に、お礼を何度言っても足りないくらいです。》」
「……スノウ、そろそろ私……」
「《えぇ、分かりました。セルシウスもありがとう。お陰で助かりました。》」
「ううん、私は何もしてないから……」
「《そんな事はありません。さっきから沢山の“素敵”を貰いました。》」
「……ふふっ、ならいい…」
瞬く間に消え、名残で氷の結晶が僅かに残りキラキラと輝いた。
すると何処からか足音がして、皆が警戒を強める。
「おーーい!皆ー!!どこだーー?!」
「「「あ、」」」
「《ふふっ、ロニの事忘れてましたね?皆》」
「ちょ、スノウだって忘れてたじゃん!?」
「《私は覚えていましたよ?一人足りないなぁ、と。》」
「ズルいや!スノウ!」
ロニが姿を表して皆の警戒も緩む。
そして皆の顔には笑顔が浮かぶのだった。
「ん?なんで皆そんなに笑ってるんだ?何かいい事でもあったのか?」
「ロニ、遅いよー!もう全部終わったよ!」
「はっ?!何があったんだ?!」
カイルに怒られるロニは倒れる直前の記憶が無いのか、オドオドしている様子はなかった。
二人がそうやって会話を繰り広げている間、リアラとジューダスがこちらに駆け寄ってきてくれる。
「…私は、スノウが離れるなんて考えられない。私を救うという意味でも、私はスノウに一緒にいて欲しい。」
「それにお前、その“喉”と“髪”を治さないといけないだろうしな?僕達との旅で治すって話だっただろう?」
ニヤリと笑う彼に困った様に笑ったが、リアラも私を見て笑っており、ジューダスも私を優しい笑顔で見ていた。
そして向こうではこれ見よがしに雪合戦が始まっているのを見て思わず声に出して笑いかけた。
だって、あの手の動き!人の動きじゃないんだもの!
「っ」
口元を押さえ笑いを堪えている私にリアラが抱きつき、それを反射的に抱き締め返した。
ジューダスもそれを見て嬉しそうに笑ったのだった。