第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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走り続けるととある洞窟へと辿り着いた。
そこはファンダリア地方でも危険だと言われる有数の氷の洞窟だった。
【ネーヴェ氷洞】と呼ばれるそこは壁が氷で出来ており、少しでも触れれば氷が崩れ、崩落するとまで言われる場所。
だから一般人は以ての外なのだが、訓練された兵士達でさえもここへの立ち入りを禁止されている。
その中から声が聞こえてくる。
柔らかな女性の声__
『よく来た…、さぁ、中へ。』
「……」
私も前世ではファンダリア地方にほぼ一生居たと言っても過言ではない。
だからこそ、ここの危険度はよく聞いていたし、危険だと認識していた。
その危険な場所に私は今、足を踏み入れようとしている。
『力が欲しい…、貴女のその願いを叶える。だから…さぁ、中へ。』
その言葉に私は一度心の中で反復する。
“力が欲しい”
もしかして、私はこれから危険なものに触れようとしているのでは?
有り余る力は身を滅ぼすと日本ではよく漫画にされているし、私にその資格が果たしてあるだろうか。
『〈星詠み人〉よ……、さぁ、中へ。』
「!!!」
やはりこの一件は〈赤眼の蜘蛛〉が絡んでいる。
だって、その言葉は〈赤眼の蜘蛛〉しか知らない筈だ。
一度大きく深呼吸をし、洞窟内を見遣る。
中は薄暗くなっているが、明かりがないと見えないと言うわけでも無さそうだ。
それにこんな所で戦闘すれば崩落からの死が待ち望んでいる。
流石の〈赤眼の蜘蛛〉もこんな所で戦闘したがらないだろう。
私はその声に従い、洞窟内へと踏み入る。
床一面氷で出来ており滑りやすくもなっているし、壁も脆いのでなるべく壁に当たらないように慎重に歩いていく。
『もっと……もっと奥へ……』
その声が徐々に大きくなってくる頃、壁の氷も分厚くなって、氷の柱なども見え始める。
それらはとても綺麗で思わず触れたくなる程美しかった。ここに立ち入らなければ絶対に見れない景色。
それだけならここに来た甲斐があるのだが、声はもっと奥へと言ってくる。
慎重さを欠かないように、一歩一歩踏みしめながら奥へと踏み入れる。
すると漸く開けた場所へ辿り着いた。
そこには視覚的に誰も居ないのに、気配だけは感じていた。
その場所の中央…、人ではない……もっと神秘的な存在がいる気がして数歩前へ出る。
「……」
「声を聴かせて……〈星詠み人〉よ。」
声だけ聞こえるがその声色は柔和だ。
私は指をパチンと鳴らし、声を出せるようにする。
「あなたが私を呼んだのですか?」
「そう……、貴女に力を与える為に。」
「何故……私に力を貸してくれるのですか?」
「その前に……。その言葉使いは違う。貴女は、もっと違う言葉を使う……」
「!!」
そこまでお見通しとは恐れ入る。
少しだけ笑い、言葉遣いを元に戻す。
「ふふっ、それも見抜かれているとは…お見逸れしましたよ。」
「そう……その言葉遣い。それを待っていた……。そして、貴女を待っていた。ずっと、ずっと前から………。貴女がこの世界に来てから…ずっと待っていた。」
「私が別世界の人間だって事を、君は何故知っているのかな?」
「星が教えてくれた……。そして、貴女をこの地……ファンダリアに喚んだのは……私。」
「……そろそろ姿を見せてくれないか?焦らされるのは苦手なんだ。」
その言葉に洞窟内の温度が一気に下がる。
中央に冷気が集まると、そこに人が突然現れた。
いや、あの姿……見覚えがある…。だけどこの世界では見れなかった存在…。
「……セルシウス?」
「貴方なら直ぐに分かると思っていた……。そう、私は……氷の精霊、セルシウス。」
驚いた。
だって、この世界では精霊という概念はない。
いやあるにはあるが……セルシウス自体はこの世界ではいなかった筈だ。
他のシリーズでは出ていたセルシウス。
好戦的なイメージがあったが、この世界では大人しめのようだ。
しかし見た目は想像していた通り、拳闘士のような格好ではあるし、その拳も強そうだ。
「貴女と契約をするためにここに喚び寄せた……。」
「…待ってくれないか?精霊との契約は召喚士じゃないと駄目なはず。それに契約の道具を私は持っていない。」
「契約の道具なら持ってる……。そして、貴女は召喚士としての資格がある……、それは貴女の中に流れるマナで分かった……。だから私は貴女と契約をする…。」
私の中に流れるマナ…?
魔力はあると思っていたが、それがマナだったのか。
それに私が召喚士としての資格があるとは…。
「……」
「自信がない…?」
「そうだね。セルシウスと契約するのは…正直嬉しいんだ。確かに願ってもない話だ。…だけど、私にはその資格が果たしてあるのかと言われたら、疑問でしかない。」
「ならば、貴女のその力……私に示して……」
セルシウスが拳を握り、こちらに構える姿を見て咄嗟に自身の得物を持ったが、ハッとする。
これは壊れかけの得物なのだ。
それを使えば途端に壊れる事は、火を見るより明らかだ。
「なら、これを使えばいい……」
投げ渡されたのは氷の剣だった。
その上、私の得物と瓜二つに造られているそれに、セルシウスを見る。
すると拳を構えた状態でこちらに大きく頷いた。
「……ありがとう、セルシウス。では、遠慮なく行かせてもらうよ!」
氷の剣を構え、セルシウスを見る。
すると一瞬にして私の目の前に来たセルシウスに目を見張り、咄嗟に得物を前に構えた。
拳が得物を捉え、そこにかなりの力で拳を殴りつけてくる。それに手が痺れながら耐えると、今度は足を使いこちらに攻撃してこようとするため咄嗟にしゃがみこみ回避した。
得物を銃へと変形させすぐに銃口をセルシウスへと向け、麻痺の魔法弾を撃ち出す。
しかし彼女はその俊敏さを生かし、すぐに回避した。
「くっ…」
両手を前に出す仕草をするセルシウスに大きく後退すると、回避した場所へと獅子戦吼を放たれ一瞬冷や汗が出る。
あんなの受けてたら一溜りもない。
そして、彼女が手を上に挙げたのを見てまたしても冷や汗が出る。
あれは確か他シリーズで使われていた【凍刃十連撃】と呼ばれる技だ。
セルシウスの固有技で、手を上へと挙げる仕草が攻撃開始の合図だった。
その内容は拳闘士独特の連撃を数多くお見舞した後、獅子戦吼へと繋げる技だ。
あれも食らえば一溜りもない!
こちらに迫るセルシウスを横に移動することで回避し、中距離からの銃撃戦に持ち込む。
あんなの近くにいたら確実に死ぬ!
それだけは避けたい!
何発も撃ってはいるが、当たっても効果がないように迫り来る攻撃に何度も回避に専念した。
狙いは悪くない。だが、中に込める弾が集中力を削がれ効果が薄くなってしまっている。
だから効果がないように見えるのだ。
「っグラビデ!」
重力攻撃で攻撃速度を純粋に落としにかかる作戦に出る。
それが功を奏したように、見るからに迫り来る彼女の速度が落ちた。
それを好機と捉えた私はすぐに魔法弾を装填し効果を込める。
効果は麻痺……、狙いは頭!!
「痺れなよ!!」
「!!!」
流石のセルシウスも重力には敵わないようでその弾丸を頭に受け、膝を地面に着いた。
脳に近ければ近いほど、効果は表れやすい。
近くに寄った私を見て、セルシウスは諦めたようにその場に座った。
しかしその顔はとても嬉しそうで、私もそれを見て笑った。
「これで貴女も納得したはず……、貴女には私を従えさせる力があるということ……。」
「あまり納得はしていないけども…、セルシウスがそこまで言ってくれるなら……セルシウスの力を借りたい。私は……彼らに負ける訳にはいかないから…」
「分かってる……奴らは強い……。だからこそ、貴女に私の力を使って欲しい……。そしてこの世界の運命を守って欲しい……」
「……約束するよ。君と契約してこの世界の命運を……運命を守るって。」
それを聞いて大きく頷いたセルシウスは立ち上がり、私の手を取った。
「私の契約はこの【パライバトルマリン】を使う……。そして、その宝石は指輪として形作られる。……私、貴女のここがいい……」
そうして指された場所は左手の薬指だった。
まるでプロポーズされているみたいで苦笑した。
「他の誰にも渡さない……、貴女は私の誇りだから……。」
「買いかぶりすぎだよ。私はそんなに偉い人間じゃない。」
「そんなことない……、貴女はいつも自信が無さそうにするけど、貴女の中のマナは無尽蔵にある……。それがどれほど凄いことか……。私達精霊からしたら喉から手が出るほど欲しい召喚士……。だから他の精霊達に貴女を盗られたくないから、ここがいい……。」
「ふふっ、分かったよ。……セルシウス、君と契約をする。」
「___我、セルシウスはスノウ・ナイトメアと契約する。その証をここに刻む……」
セルシウスが私の薬指に触れるとそこに指輪が現れ、水色の宝石がお目見えする。
これが【パライバトルマリン】。
凄く綺麗で、中のインクルージョンがまるで雪の結晶のようで見惚れてしまう。
光り輝く宝石が一通り輝き、光が収束すると身体が急に倦怠感を感じその場に倒れる。
「うぅ……、セルシウス……」
「〈星詠み人〉はその体内に沢山のマナを宿している……。そして、そのマナは無限大の力を持っている。忘れないで……、貴女には私がいるということ……。」
「待ってくれないか……、身体が……怠い…」
「大丈夫……彼らが近くまで来てるから……」
「彼ら……?」
そこで私の意識は途切れた。
その時、スノウの左手の薬指の宝石が一際輝いた。
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「スノウー!!」
「何処にいるの?!返事をして、スノウ!!」
「くそっ……完全に手詰まりじゃねえか!」
「……」
『坊ちゃん……』
皆で協力して探してはいるがあれから何の進展もなく、ただ時間だけが過ぎていった。
時間が経つにつれ、訪れる身を焦がすほどの焦燥感。
そのどうしようもない感情を持て余しているとカイルが声を上げる。
「ね、ねぇ!!皆!!」
「どうしたカイル?!見つけたか?!」
「!!本当か?!」
「いや、スノウの姿は見てないけど……コレ見てよ!!この足跡……きっとスノウのじゃない?!」
確かに男性にしては小さく、子供にしては少し大きい足跡だ。
それが向こうまで続いているのを見て、皆が希望を顔に表す。
「でかしたぞー!!カイル!!」
「へへっ!オレだってやれば出来るんだからな!」
「ありがとう、カイル……。これであいつの手掛かりが掴めた……」
「え?あ、うん……。ねぇ、ジューダスってさ、本当にスノウが大事なんだね。」
「??」
「だってさ、いつもスノウと一緒に居るじゃん!船の時だってそうだし、今だってこんなに心配してるんだもん。大事じゃないはずがないよ!うん、絶対そう!」
「カイルがまともな事を言ってやがる……。明日は雪か……?」
「ちょっとロニ!!それってどういうこと?!」
「駄目よロニ。ここ、雪国だから明日も明後日も雪よ?」
「そうだった……。じゃあ天変地異の前触れか……?!」
「ふん……槍が降らないといいがな。」
「ちょ、ちょっと!皆してひどくない?!」
漸く掴んだ手掛かりに皆が喜び笑い合う。
そして、その足跡を辿っていったが……。
「そんな……。」
「足跡が消えてるわ……」
「……くそっ、振り出しに戻ったってことかよ!」
「そう都合よく行かないか……」
落胆の色と、疲労の色が滲み出るカイル達。
足跡は途中から消えてしまっていて、近くに足跡の続きも無さそうだ。
完全に手詰まりになり、皆が俯いていると何処からか声がした。
『__ら___さい_』
「「「「?!!」」」」
「だだだだだ誰だ?!!もしかしてお、お……」
「お化けかな?!」
「カイル!!お前、もう少し空気読めよ!!?」
「でも、確かに声が聞こえたわ!もしかしてスノウが言ってた声って……!」
「この声だろうな。」
ロニが騒がしいので一度気絶させ、皆で耳をすませる。
聞き漏らさないように……、何処から聞こえてるのか確認する為に。
『__こちらへ』
「!!あっちだ!!」
「私達も呼ばれてるわ……、罠じゃないといいけど……」
「こうなったら罠だろうが何だろうが行ってやる。あいつを見つけないといけないからな。」
「よし、行こう!皆!!ロニ、行くよ!!」
「……はっ!俺は何で気絶してたんだ……?」
「馬鹿は放っておいて行くぞ!」
「ちょ、お前ら待てよ!?どこに行くんだ!?」
ロニが慌てて皆の後を追いかける。
他の皆は声のした方へと急いで行くと、洞窟のような所へ着いた。
息が上がる中洞窟の前で佇んでいると、中から声が聞こえてくる。
『_____する。__を___』
「この声!!」
「ぎゃあああ!!!お化けだー!!!」
「ちょ、ロニうるさい!!」
「……」
ジューダスは真っ直ぐに洞窟内を見ると何時でも剣を抜ける様に手を添え、中へと入っていった。
それにカイル、リアラ、ロニの順番で続いていく。
「ここって、全部氷なのかな……?」
「キレイね……」
「お前ら、壁に触れるなよ。ここはネーヴェ氷洞と呼ばれる場所で、壁の氷は酷く脆い……。触れば崩落するから気を付けるんだな。」
「え、そうなの?!そんな危険な所にスノウいるって大丈夫なのかな?!」
「……声の主もまだ敵か味方かわからん内は警戒をしておけ。もしかしたらスノウはそいつに……」
嫌な想像をして顔を歪ませるジューダス。カイルとロニも渋い顔になっていくのに対してリアラだけは違った。
「奥から何か音がするわ……」
リアラの発言に皆が静かになり、耳を澄ませる。
しかし音は鳴り止んでしまったようで何も音はしない。
「忘れないで……、貴女には私がいるということ……。」
「!! そっちか!!?」
ジューダスが先頭立って走り出しその後を仲間達が追いかけていく。
何かまた声が聞こえてきたが、必死に走っているからか聞き取りづらく即時走ることに専念した。
「っ!? スノウ!!」
開けた場所に一人倒れている友の姿。
慌てて抱き起こし呼吸を確認するが、正常に呼吸しておりそれに酷く安堵する。
追いついてきた仲間達が辺りを警戒していたが、スノウ以外は誰も居ないと分かると警戒を解いた。
ジューダスも辺りを警戒したが、本当に何の気配も感じない。なら、こいつは誰にやられた……?
『?? 全く何の気配もしませんね。』
「スノウ、大丈夫?」
「!! あぁ、大丈夫そうだ。気絶しているようだがな…。」
ふとジューダスがスノウを見てみると手に何か輝く物が見え、それを注視すると左手の薬指に水色の宝石があしらわれた指輪がされており、それに何故か酷く困惑した。
待て、こいつ……こんなモノしていたか?それにこの場所は…婚約指輪か、結婚指輪をする場所のはずだ…。こいつがこんなモノをしていた記憶など無いはずだが…?
「ともかく早いとこ出ようぜ…。何が出るか分かりゃしねぇ……」
「そうね…。気絶しているスノウが冷えてしまってはいけないし、早い所出ましょ?」
「分かった、皆早く出よう。……ジューダス?大丈夫?顔色悪いよ?あれならオレがスノウを持とうか?」
「……いや、大丈夫だ…」
『?? 坊ちゃん?』
顔色悪くスノウを抱え歩き出すジューダスに仲間達が首を傾げ追いかける。
それを見てクスクスと笑う人物が一人。そして、指輪がキラリと光り輝いたのだった。