第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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待ちに待った船の修理も漸く終わり、ノイシュタットを立った私達はファンダリア大陸の玄関口であるスノーフリアを目指していた。
船内は基本自由行動で、一人海に向き合い黄昏ていた私はこの後の事に思い馳せていた。
これからジューダスはロニ達とまた喧嘩するだろう。そして、それを追いかけてきたカイルが旅を続けようとジューダスを説得に来るのだ。
そして彼らはまた絆を結んでいく。
そこに私は居ない。
「____」
声喪失の魔法弾を撃っている為、声が出ないのだがこれがまた楽だ。
必要以上に声を出してバレる心配がないからだ。
毎朝、声喪失の魔法弾を自身に向けて撃ち込んでいるのだが、それを見ているジューダスはいつも嫌な顔をしてそれを見ている。
嫌なら見なければいい物を、そういう訳にはいかないらしい。
彼の気持ちは難しいよ。いや、人の気持ちというのは何処も一緒か。
「(さて、玄と修羅の対策でも考えておきますかね…)」
彼らは神出鬼没だ。
それに彼等の殺気はジューダス達には全く通用しないから、困ったものだ。
せめて殺気さえ分かってくれたらこんなに心配しなくてもいいのだが…。
「(暗殺、という意味では理にかなってはいるけどね。)」
暗殺ならばもう少しスパッとやりそうなものだが、彼等はそうしない。
それは〈赤眼の蜘蛛〉という組織の信念やら思想に関係しているのか定かではないが、とにかく連中は戦闘狂というのが分かっている。
そして彼等は私と同じ転生者で〈星詠み人〉。
何かこうして聞いていると〈星詠み人〉は全員が戦闘狂という事になってしまうが、そんな事はないと思いたい。
日本人全員がそんな…ねぇ?
後は玄や修羅への対策か。
玄は大斧、修羅は剣だった。
「(そういえばこの間カイルを襲っていたあの子は、双剣だった…)」
私と同じ位の背丈のあの子。無口なのか、それとも私みたいに声バレしたくないタイプの人間か。
布から見える瞳は赤かったが…、もしや、〈星詠み人〉というのは皆赤なのか?
それとも〈赤眼の蜘蛛〉という組織員は、全員強制赤目なのか?
何か気になってくる。
「(修羅も、玄も赤目だった。今度、修羅に会った時にでも聞いてみるか…?)」
修羅に会うこと前提で話しているが、何だか近々会う様な気がするのだ。
後はどう玄を倒すか、だが…。
「(やはり刺し違えてでもないと…勝てないか…。)」
あれからロニと特訓やら稽古やらやってはいるが、玄を倒す感覚が掴めていない。いや、玄を倒すイメージが湧かないと言えるか。
どうしても彼の大斧で斬られるという映像しか思い浮かばないのだ。
だから刺し違えるという選択肢が嫌でも浮かんでくる。
でもそうなると困るのは後どれ位の〈赤眼の蜘蛛〉の組織員がいるかになる。
全員がカイル達を狙っていたら洒落にならないが、そうなると〈赤眼の蜘蛛〉自体を壊滅させる他ない。
でないと、彼等に平穏はないし殺気を感じられない彼等の事だ。もしかしたら…もしかする事もあるかもしれない。それは絶対に阻止しなければならない事だった。
やはり、ロニが言ってた『決め手に欠ける』というのが重要かもしれない。
だがそんな事を言われてもどうしたらいいか…。
「……スノウ」
おっと、彼がやってきた。
という事は喧嘩してきて、ここに辿り着いたのだろう。
私は一度苦笑してから彼を見る。
その顔は苦しそうな、悲しそうな、辛そうな顔だった。
何も言わずにジューダスを抱き締め、安心させるように背中を叩いてやる。
良く頑張ったね、疑われて辛かったね…。
そんな気持ちを込めて背中を叩けば、少しだけ彼の顔が俯いた。
泣き虫な彼の事だ、きっと泣くのを我慢しているのかもしれない。
指をパチンと鳴らし、声が出る様にする。
「…よく頑張ったね。」
「……」
「疑われるのは誰しも気持ちの良い物じゃない…。ましてやそれが複数人からだったら余計に辛いんだよね。でも、君はよく頑張った。偉いよ。」
「……やっぱり、知ってるんだな。さっき僕の身に何が起こったか…。」
「……。そうだね…。君達からしてみれば、気味が悪いかもしれないね。」
「違う…、そういう事が言いたい訳じゃ…」
「分かってるさ。」
君がそんな事を露とも思ってないこと位、分かるさ。
優しく背中を叩いているとこちらに近付いてくる一つの気配を感じる。
カイルがこちらに向かってきているのだろうその出来事に、私は彼を離すと途端に悲しい顔になる彼。
大丈夫だ、と笑顔を見せ頷き、カイルが来る方向を顎で示す。
ジューダスが訝しげに後ろを振り返り、その人物を見てバツが悪そうな顔になった。
「カイル……」
「えっと、ジューダス!ちょっと話したい事が……」
「僕は話す事など無い。」
「待って!!ロニ達から聞いたんだ!!」
カイルがジューダスの腕を掴み、必死に伝えようとする場面。
『まだ一緒に旅をしよう』その言葉を伝える為に彼は来たのだから。
私は一度クスリと笑いその場から離れる。
ジューダスがそれを見て私を止めようとしたので、自身の喉を指さす。
口だけを動かし、魔法弾撃ってくると伝え船内に入りながらヒラヒラと手を振っておいた。
後は彼等の物語だ。邪魔者は退散しようではないか。
後ろからカイルの熱い強い思いが言葉になって出ていくのを、声が聞こえなくなるまで笑顔で聞いていた。
カイル、ジューダスを頼んだよ。
そんな思いを馳せながら、私は別の場所でまた海を見て黄昏れるのだった。
その後私は、スノーフリアに到着するまで仲間達に会うことは無かった。
。+゚+。・゚・。+*+。・★・。+*+。・☆・。+*+。・★・。+*+。
船を下りると、仲間達が既に仲良くやっていてどうやら仲直りしたようだ。
私を探していたようで、私を見た瞬間皆が駆け寄ってきてくれる。
「おい、どこにいたんだよ!探したぞ?」
「皆降りたのに、スノウだけまだ降りてないって話をしながらここで待ってたの。」
「お前、本当にどこに居たんだ?見つけられなかったぞ」
「ねぇねぇ!!雪って食べれるのかな?!」
「バッカ!カイル、止めとけ!!美味しくないぞ?!!」
カイルが雪を食べようとしてるのをロニが慌てて止める。
それにリアラが笑って、ジューダスも呆れていたがその顔は笑っていた。
そう、原作上、本当は……私はここに居ない。
彼等には彼等の物語があって、私には私の物語がある。
でも、それでも、態々私を待ってくれていた皆が愛おしくて仕方が無い。
だから、その笑い声がとても心地好い。そして彼等がとても眩しい。
目を細め、その光景を見ていると彼等がこちらを見て不思議そうな顔をする。
「どうしたの?スノウ」
「あ、もしかしてスノウも雪が食べたいとか?」
「バッカ!!やめとけ!!二人とも!!お腹壊すぞ?!!」
「……」
ジューダスだけは何か物言いたげではあるが、他の皆はロニの発言に可笑しそうに笑っていた。
その笑い声を目を閉じ全身で浴びる様に…、聞き逃さないように一身に受ける。
私はここにいる。
ちゃんと、ここに存在しているんだ。
「スノウ?大丈夫?様子がおかしいわよ?」
「眠るなら宿屋にしとけよ?!こんな所で寝たら死んじまうぜ…、つーかよぉ…、上に着るもん買わねぇか…?寒いんだが……」
「ロニったら今更過ぎない?俺なんて鼻水止まんないよ?」
「それを風邪って言うんだ馬鹿!!ほら、行くぞ!!スノウもちゃんと付いてこいよ?!!」
カイルとロニ、そしてリアラが防寒具を買いに走っていくのが聞こえる。
同時にサクサクと新雪を踏むような音がとても懐かしさを孕んで耳へと届く。
あぁ、ここに帰ってきたんだ。
雪の世界……ファンダリアへ。
「……大丈夫か。」
その心配そうな声に目を開け、声の主を覗きやる。
瞳を揺らし、本当に心配そうにしてくれている彼に笑顔を向けた。
「《懐かしいんだ。ここに帰ってきたのか、と思ったら感慨深くて、ね……》」
「……」
『というか、坊ちゃんもスノウも寒くないんですか?防寒具買いに行かないとそれこそ風邪引きますよ?』
「《私はこの寒さに慣れている。だから早く買いに行くといい、ジューダス》」
「お前も行くぞ、馬鹿」
「《その“馬鹿”の為に皆が防寒具を買ってきてくれたようだよ?》」
何やらはしゃぎながらこちらに走ってくる3人組を見つけ、眉間に皺を寄せたジューダスに笑ってしまう。
「2人とも!!寒くないの?!これ買ってきたから早く着て着て!!」
「スノウには特別にこんな物も買ってきたぞ!」
そう言われロニが頭の上に何かを付けてくれると同時にジューダスがそれを見て可笑しそうに大笑いする。
「あっははっ、お前っ、自分の姿を鏡で見てみろ……くくっ…」
「ジューダス笑い過ぎよ!可愛いじゃない!」
「いやぁ、こう言っちゃ何だけどよ?その白い髪にその白い肌、スノーフリアの雪の白さ……そしてこの白い防寒具…、雪うさぎみてぇだなって思っちまってよ。」
「ロニがどーしても買いたいって言うから買ったんだ!でも、すっごく似合ってるよ!スノウ!」
皆の話に頭に付けられたものに触れてみると、それは上に長く伸びており、ロニが言った通り兎の耳に近い様な何かだった。
カチューシャで留められているそれに笑いをひとつ零しお礼を言う。
「《ふふっ、似合ってますか?》」
「「「すっごい似合ってる!!」」」
「くっくっく…!」
未だに笑いが止まらないジューダスに苦笑いをしてもう一度それに触れる。
似合ってると言われるなら暫く付けておこうか。折角彼等が私の為に、と買ってきてくれたものだから。
「《ありがとうございます。暫く付けさせてもらいますね。》」
「ずっと付けててよ!すっごい似合うもん!」
「いやぁ、まさかここまで似合うとはなぁ…。俺の見立てに狂いは無かったようだ。」
「あら?私は最初からスノウに似合うと思ってたわよ?」
そんな3人組の会話を聞きながら辺りに鏡はないか、と見渡してみるがそれらしきものは無さそうだ。
残念と思いつつ、私の手を取る二つの手を見遣るとカイルとリアラが私の手を取っていた。
「「行こう、スノウ」」
二人の声が合わさり私の手を引いていく。
あぁ、なんて暖かいんだろう。
君達のその手も、その心も…全てが暖かく、私の何もかもを包み込まれるような感覚。
とても素敵なそれに再び私は目を細めたのだった。
。+゚+。・゚・。+*+。・★・。+*+。・☆・。+*+。・★・。+*+。
「うぉーー!すっげぇー!!?一面真っ白だー!」
「…はしゃぐんじゃない。滑って頭を打ったらただでさえ悪い頭が輪をかけて悪くなるぞ。」
はた、と足を止めその台詞を脳内で反芻する。
これは、まさかあの面白いスキットの一つではないか?
スノーフリアを出た私達はすぐにカイルの言葉で立ち止まり、今に至るのだが、そう、その言葉に聞き覚えがあって止まったのだ。
「むっ、そんな訳ないだろ!」
「まぁ、打ち所によっては良くなる事もあるかもな。」
「くそぉ…言わせておけば…!」
「ジューダス。良く知りもしない癖に、カイルをバカにするな!」
「お!そうだロニ!言ってやれ!!」
「こいつのバカは筋金入りだ!1、2度頭を打ったくらいで良くなる訳がねぇんだよ!!!」
「ロニ………」
悲しそうな声でカイルがロニを見る。そしてそれをすまなさそうに目を閉じ謝るロニ。
「すまん、カイル…。フォローの言葉が思い付かねぇ……」
私は皆と反対の方を向き、笑いを堪えていた。
まさか、生で聴けるなんて…!
涙が出そうになりながら笑いを堪えている私を見て、カイルが余計にムッとしていく。
「なんだよ!スノウまでそんなに笑っちゃってさ!!」
「良かったじゃないか。スノウ公認だぞ?」
「くっそぉ…言わせておけば……それっ!!!」
「!!」
いきなり背中に冷たい物が飛んでくる。
いきなりだったので避けきれず、それを見遣る。
雪玉をぶつけられたのだ。
そっちがその気なら……!
「(えい!)」
「うっわ、冷たっ!!やったなー!!それっ!!」
「!」
二度目は流石に避けるとロニに当たったようで、非難の声を浴びる羽目に。
「うおっ?!!おい、スノウ!なんで避けんだ!!」
「《避けないと冷たいんですもの。》」
「くっそ…カイルめ……そりゃ!!」
雪合戦が始まろうとしているということは…あのスキットも?
案の定次はリアラに当たり、非難の声が上がっていく。
「キャッ!ひっどーい、カイル!」
「いや、待って!さっきのはロニが…ってうわ!!」
「へっへーん♪お返しですよーだ!」
「くっそー!負けてたまるか!」
「僕はやらないぞ。そういうガキくさい遊びはとっくの昔に卒業し__」
私とロニが同時にジューダスへと雪玉を投げ、それが見事に彼の体に当てる。
一度目を閉じ、ふっと笑った彼にもう既に笑いを堪えている私。
「………フッ、聞こえてなかったようだな……僕は__」
今度は4人で雪玉をジューダスに向け投げる。
……因みに私は固い氷入りの雪玉を投げた。
明らかに二つ分おかしな音がした瞬間、ジューダスがシャキンと音を立て剣を手に取った。
「誰だ!!今、石と氷を入れてたやつは!!」
完全にバレている…!
絶対石はロニだと思っている。だって、酷く愉快そうな顔をしているから、あれは確信犯だろう。
「わー!ジューダスが剣を抜いた!!逃げろー!!」
「貴様ら、そこになおれ!!特にスノウ!!お前、固い氷を入れただろう!?」
何で私だと思った?!
驚きながらも、笑い、走って逃げる。
皆が可笑しそうに笑う姿を見て、剣を抜いた彼でさえ笑っている。
ああ、楽しい…!
まさか彼らとこんな事が出来るなんて、私は幸せ者だ!
追いつかれているロニはジューダスの餌食になり、必死に抵抗している姿を見てカイルとリアラと一緒にほくそ笑む。
「ふふっ、実は私が石を入れたの♪」
「「《え?!》」」
意外な人が石を入れていた……。
カイルと顔を合わせ驚きの表情でリアラを見ると、悪ーい顔をしたリアラがクスクスと笑っていた。
なんという堕天使……。
ははっ、とから笑いするカイルを哀れみの目で見てしまった。
そして、ロニに向ける視線もまた…哀れみだった。
さらば…ロニ……。
手を合わせ合掌しておく。
ロニとジューダスの戦闘は暫く続くのであった。