第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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現在、ノイシュタットで船の修理待ちである。
あれからオベロン社の廃坑を出た私達はノイシュタットへ戻り、商人へと鉱石を渡した。
それはそれはもう笑顔で。
あの鉱石は兵器ベルクラントを動かす為の石だ。
それは現代においてその石を使える者など居ないので、ただの石ころと大差ない。
それを知っているからこそあの胡散臭い商人へと渡したのだ。
もう二度とあんな過ちを犯す者はいないだろうと思っているから。
そして、私はジューダスと一緒に街中デート中という訳だ。
「ジューダス、こっちこっち!」
「はぁ、お前は元気だな。」
「何故そんなに暗い顔をしているんだい、レディ?もしかして私とのデートはお気に召さなかったかな?」
「……レディじゃない……」
口を尖らせて呟く彼の手を取り、歩き出す。
ノイシュタットと言えばアイスキャンディが有名になっており、それは前世からあったものだ。
彼と二人で食べた事はなかったし、何より今期間限定でプリン味なるものが発売されているという噂を聞きやって来たかったのだ。
二人分のアイスを買い、一つは彼に渡すと目を瞬かせ口に入れる。
そしたらどうも美味しかったようで黙って食べ続けていた。それに私も口の中に入れ頬張る。
うん、プリン味……中々に美味い。
「やっぱり甘い物に甘い物を掛け合わせても美味しいね?」
「ふん、そうだな。」
「素直じゃないんだから。」
「…言ってろ」
今はまだ桜の季節じゃない。
だからノイシュタットには今桜は咲いていなかった。見上げた空には葉桜があって、青々と生い茂っている。
それに手を伸ばして掴もうとしたが、身長の高さ的に無理そうだ。
「葉を取ってどうする?取るなら花にしろ。」
「ふふっ、それもそうだね。」
それでも止めない私を見兼ねて彼は一つだけ葉を掴むとそれを取ってくれる。
そのまま私の手に収めるとアイスを再び食べ始めた。
くすくすと笑ってそれを口に寄せる。
あぁ、青々とした樹々の匂いだ。
そんな私を不思議そうに見ながら隣で静かにアイスを食べるジューダスは、何処か嬉しそうではある。
「早く食べないと溶けるぞ。」
「それはいけないね?勿体ないが、食べてしまうとしよう。」
片手に桜の葉を持ちながらもう片方でアイスを頬張る。
うん、美味しい。
「あーあ、期間限定なんて勿体ない。レギュラーにしてしまえばいいのに。」
「コストがかかるんじゃないのか?」
「君は夢がないね?」
「……悪かったな。」
そんな会話も私達には笑い話だ。
言葉とは裏腹に私達は口に出して笑っていた。
あぁ、こんな平和が続けば……。
口には出せないその言葉。
彼も分かっているのか口に出そうとはしなかった。
アイスを食べ終えた後に、棒の先を見てみるが何も書いていない。どうやらハズレの様だ。
ジューダスの方はどうだろうと覗き見てみるが彼も今日はツイていないのか、何も書かれてはいなかった。
「お互い外れたね?」
「ふん、当たらないようにしてあるんだろう?」
「もしかして、当たったことないのかい?」
「……一回だけなら」
「そりゃまた意外だ。」
意外と当たりの数は渋いのかもしれない。
原作通りなら当たる確率はかなり高かったイメージだが、どうやら現実はそうはいかないみたいだ。
アイス屋の前のゴミ袋に二人分のゴミを入れてまた彼の手を取り歩き出す。
「今日はいつもみたいに悲観しないんだな?」
「いつもいつも悲観している訳じゃない。自分に嗤っているだけさ。」
「似た様なものじゃないか。」
「もう、君の前ではやらないよ。」
「どうだか?」
そんな会話をしつつ次に着いた場所は雑貨屋だった。
ロニのアドバイスではアクセサリーがいいと言ってはいたが…、果たして彼はどういうものを好むだろう。
ふと、彼が前世付けていた金色のピアスを思い出し彼の左耳を見てみるが、そこにピアスはなかった。代わりに空いた穴が寂しそうだが、そこには何もされていない。
近くのピアスを見てみるとそれに近しい物はなく、取り敢えず本人に聞いて見る事にした。
「ひとつ聞いても?」
「なんだ?」
「前世では君はピアスをしていたけれど、そのピアスはどこにいったんだい?」
「あぁ、それならここにある。」
ポケットから出された金色のピアスは変わらずに輝いていて大切に磨かれているのだと分かる。
だとしたら何故着けていないのだろう?
「……なんとなく察するが…、これが無いといけない訳じゃない。だから着けてないんだ。」
「ほぅ?それは君にとってとても大切な物だと思っていたが?」
「まあ、そうだな。母親の形見だ。」
やはりそうか。
原作では描かれていなかったが、小説とかを拝見させて貰うと母親の形見と書かれていることが圧倒的に多かった。
だからそれは大切なものなんじゃないかと思っていたがどうやら当たりのようだ。
「…何故着けないんだい?そんな大切なものを。」
「今はこんなナリをしているからな。着ける機会が無かっただけだ。」
仮面のことを言っているのだとしてもピアス位付けれよう。
そんなに仮面が耳を邪魔しているとは思えない。
他になにか理由があるとするならば、それは私が聞かない方がいい事なのだろう。
彼が言うまで我慢するさ。
「そうか。分かったよ。そうだ、ジューダス。申し訳ないんだけど、宿屋に忘れ物をしてね。取ってきて欲しいんだ。黒のリボンなんだけど……」
船の修理が終わらず、昨日泊まっていたこともあってそう伝える。勿論嘘だけど、君に贈り物をしたいから。
「??黒いリボンなんてお前して無かっただろう?」
「いつも持ち歩いていたんだけど今ないことに気付いてね。君に取ってきて欲しいんだ。」
「自分で取りに行けば__」
「じゃあ、頼んだよ!」
強引に外へ出し、宿屋に向かうのを窓から確認してから会計をする。
紫紺の宝石持つピアス。
別に垂れ下がっている物でもなければ宝石自体が重いものでもない。宝石のみのピアスなら着けてても気にはならないだろう。
私が後どれくらい生きれるか分からない。だから君に恩返ししたいんだ。
だから少しでも君に贈り物をしたいと願うのは、私のエゴかな?
包んで貰わずそのままで外へ出て宿屋へ直行する。
訝しげな顔のジューダスが見えた所で、その手を掴み部屋へと連れ込む。
「お、おい…?!」
驚いている様子の彼の仮面を取り、君の頬へと触れる。
徐々に赤くなっていく頬に指を滑らせクスリと笑う。
左耳は先約がいるから、君の右耳へ先程のピアスを着けると、キラリとそれが輝いて主張しているように見えた。
「おい……一体……」
「ありがとう。」
その感謝の言葉も後何回言えるだろう。
「今日はありがとう。私の我儘に付き合って貰って。君の時間、ちゃんと貰ったよ?」
「……」
息を呑む彼の手を取り、その甲へとそっと口付ける。
この口付けも後何回出来るだろう。
後何回……君の時間を貰えるだろう。
「悪かったね…。レディ。今日は本当に付き合わせてしまった。右耳のそれはそのお礼だよ。じゃあね。」
右耳を慌てて触る彼は、ピアスに触れ驚いた様に目を見張る。
しかし最後の、私からの別れの挨拶に逃すまいと手を掴んだかと思われたが擦り抜けてしまいハッと息を呑んだ。
そのまま部屋から出ていく私を追い掛ける事はせず、伸ばした手を恐る恐る下ろしたジューダスがチラリと見えた。
私は宿屋を出て真っ先に桜の木の下へと向かった。
葉桜を見上げながら先程ジューダスに取ってもらった葉桜を再び口に寄せる。
僅かに桜の香りがするこの葉桜もとても好きだ。
勿論、花の時の桜も好きだよ?
でも今日彼に取ってもらった葉桜はとても貴重でとても大事なものになった。
再び葉桜に手を伸ばし掴もうとするがあえなく失敗する。
彼の身長では取れたのに私の身長では取れないのが少し悔しかった。
君の前ではもう悲観しないと誓ったから、今あそこにいたら約束を破ってしまう。
またしても私は悲観してしまっているから。
何でだろうね。
死が近すぎて、怖くなっているのかもしれない。
それは前世も同じだった。なのに、何が違う?
「違う……死が怖いんじゃない。私自身が、成し遂げなければならない事を成し遂げられないのが怖いのさ。」
太陽に翳した葉桜は透き通って綺麗な緑をしていた。
その向こうに見える葉桜も太陽に照らされ透き通っていて綺麗だ。
まるで、その透き通る姿は今の自分の危うさを表現しているかの__
「っ!!!」
突然目を何かで覆われた。
そのまま後ろに引っ張られ転倒しそうになると誰かに支えられ、背後から抱き締められた感覚だ。
何だこの状況は。
「……どうしたんだい、レディ?」
確信持って言った言葉に身体を震わせ、余計に抱き締める力を強めるのは恐らく彼で間違いないだろう。
「馬鹿…、そんな顔をするな、と何度言えば分かる…?!お前、自分で鏡を見た方がいいぞ…?!」
「……そんなに酷い顔をしていたとは思いたくないんだがね?」
全く……、そんなに変な顔なら放っておけば良かろうに。
漸く手が離され彼が見えるようになると、瞳を揺らしこちらへ懇願しているような顔付きをしていた。
まただ。
またこの顔をしている。
君は一体私に何を求めているんだ?
「…そろそろ教えてくれないかい?どんな顔をしているのか。それ次第では検討しようじゃないか。」
「……海底洞窟で、お前と対峙した時……今のような狂気の笑みを浮かべて、同時にそれは死を求めるかのような……儚いっ……」
泣きそうで、それでいて崩れ落ちそうになりそうな彼を見て、一度目を瞬かせた。
そんな複雑な顔をしていたのか。
それにあんな狂気に近い顔をしていたつもりは毛頭ないのだが……?
「嘲笑の笑みをするお前はっ、何処か危うさを持ってて……それでいて今すぐ消え入りそうなんだ…!!だからそんな顔を、するな…、馬鹿っ…!!」
「……それはすまなかった。気が付かなかったよ。」
自嘲した姿を見られるとそういう感想を持たれるのか。気を付けなければね?
いつの間にか掴まれていた腕が余計に力が強くなる。
解けそうにないそれに、反対の手で彼に先程贈ったピアスに触れる。
太陽に輝いて余計に色を深めるそれはさながら君の瞳のようだ。
「表情というのは難しいね。どんな顔をすれば君が安心するのか分からないよ。」
「嘲笑でも、寂しげな笑みでもない……、嬉しそうな顔で笑ってくれ…。」
「ふふっ、それが難しいんだって。」
「とにかく、嘲笑うな…。恐くなる…」
「分かったよ。だから早く泣き止んでくれないか?レディ?」
「……そろそろ怒るぞ……」
「ふふっ、もう怒ってるじゃないか。」
思わず笑ってしまうと、ジューダスが眉間のシワを緩め笑う。
「やれば出来るじゃないか。」
「無意識だよ」
「無意識でも出来るならそうしてくれ。友の為と思うなら。」
「!!…はは、頑張らせていただきますよ。リオン?」
「そうしてくれ。」
どちらともなく笑う。
なんだ、こんな事でいいのか。君は単純だね。
私は目を細め再び彼に着けたピアスに触れると、その手を優しく取られる。
「……そんなにこれが気に入ったのか?」
「あぁ、この色はまるで君の瞳のようで好きなんだ。」
「っ、また、そんな歯の浮くような台詞を…!!」
「本当の事さ。」
一度目を伏せ、ジューダスを見る。
無意識に真剣な表情をしていたのか、瞬時に彼が真剣な顔になるのでクスリと笑い、指を滑らせ頬を撫でた。
「ねぇ、リオン。次、ファンダリアに着いて首都ハイデルベルグへ着いたらまたデートをしよう。色んなものを食べたり、見たり、他愛のない話をしよう?」
「あぁ、分かった。そんな事なら幾らでも付き合う。」
「ありがとう」
「礼は無しだ。お前が言うと縁起が悪い。」
「ははっ、それもそうだね。」
頬に滑らせた手を今度は彼の目下へと滑らせた。
紫紺の綺麗な瞳だ。
あぁ、こんな間近でこの瞳を見られるとは、なんて贅沢なんだろう。
世の女性に恨まれそうだ。
「全く、今度は目か?」
「いいじゃないか。君の瞳、好きなんだ。抉り出すような事はしないから安心してくれ。」
「それを聞いて余計に心配になったのは気の所為か?」
「気の所為だ。」
わざとに少し力を入れると慌てて手を掴まれ離される。
それに凄く笑ってしまうとわざとだと分かったのか、彼がむくれてしまった。
しかし帰ろうとはしない所を見ると、もう少し一緒に居てくれるらしい。
「ねぇ、ジューダス。まだ付き合ってくれるというのなら、これから食事に行かないかい?先程君に心配させてしまったお詫びだ。」
「あぁ。」
短く返事をした彼は私の手を取り歩き出した。
それに嬉しく思い、隣に並んで歩く。
そして、お互いの顔を見て、また笑いあった。
__さぁ、デートの続きと行こうじゃないか。
彼に取って貰った葉桜の事は、既に私の頭の中から消えていた。
それもこれも君が新たな記憶へ塗り替えてくれるからなのだろうが、それもまた悪くないと思える辺り、相当君に心酔しているのだろうと思った。