第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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それからと云うもの、一緒に任務を行うと云う事は無いが、リオンも私も国を越えての任務がある時はお互いを認識し合う様になった。
私が手を振れば、眉間に皺を寄せるもののそのままじっと見つめてくるので拒否がない分少しは進展したと思っている。
そんな折だった。
「共同任務、ですか?」
「そうらしいですよ。向こうではリオン・マグナスが、こちらはモネ様を起用されるようでして。」
何でもどこかのお偉いさんの娘かなんかの護衛らしく、その娘はまだ年端もいかぬ年齢らしい。
その娘の護衛を国々から掻き集めている様でこの話が上がった、と。
リオンと任務に就くのは…、正直複雑な気持ちだ。
嬉しくないわけじゃ無いが、どうしても気が進まない。
単独任務なら得意だが人と一緒というのは気が張るものだしお互いを尊重し、補わねばならない。
一人での任務に慣れている自分に果たして彼の援護が出来るかどうか…。
「大丈夫ですよ、モネ様なら!いつも我々の援護をしてくださってるでは無いですか!」
「!!…それもそうか。」
確かに兵士の援護は今まで数え切れないほどやってきた。それを思えば大丈夫か。
「ただ、どちらかが女装をしなければならないらしいのですが…」
「そこは向こうの麗しい彼に任せようじゃないか。彼ならきっと麗しい姫君に大変身する筈だよ?」
「ははっ!それもそうですね!国王様にそう伝えておきます!」
「あぁ、頼んだよ」
伝達担当の兵士がすぐさま城へと戻っていくのを見て思いっきり伸びをする。
さぁ、任務へ出向くとするか。
しかし、私を待っていたのは意外にも麗しい姫君で…、その目には大粒の涙を溜め、こちらを睨み付けるような彼に私は目を奪われた。
「こ、れは……綺麗だな…」
「何が綺麗なものか!!ちゃんと見て言え!!」
「坊ちゃん!確かに似合ってますよ!どこをどう見ても女の子ぎゃああああああ!!」
恐らくシャルティエのコアクリスタルに爪を立てたであろう彼に苦笑を滲ませた。
「モネもそう思いますよね!!?」
彼はまだ私が聞こえていると信じている様で度々こうして話しかけてくるのだが、それを無視して別の話に切り替える。
「シャル、こいつにお前の声は聞こえない。諦めたらどうだ?」
「いえ!!聞こえてる筈なんです!!だから僕は諦めません!」
「…そういえばリオンは依頼主にあったのか?」
「…お前が遅いから先に会っている。会ってないなら先に会ってこい」
「そうするかな?」
その部屋を出ようとしたが、麗しい姫君……あぁ、失礼。
リオンに腕を掴まれ、後退りをする羽目に。
「どうしたんだい?レディ?」
「貴様っ…!!」
「モネ!今の坊ちゃんを刺激しないであげて…!」
「で、どうしたんだい?リオン」
「…こいつを連れて行け、うるさくて敵わん」
「え、でもこれはソーディアンマスターである君が持っていないとダメじゃないか。僕は聞こえないし、扱う事が出来ないから。」
「モネ!連れてって下さい!!お役に立ちますよ!?」
「…役に立つ、とシャルが言っている。とにかくお前の事ばかり話して煩くて敵わないんだ。聞こえないなら問題ないだろう?連れていけ」
「…リオン、武器は?」
「僕が双剣遣いだと言うことを忘れたか?」
「愚問だったね。では、丁重に扱いますよ。」
慎重に受け取るといやに手に馴染む。
何故だろう?
「この感覚…、やはりモネはソーディアンマスターで間違いない様です。僕を持っても何の違和感もないです、坊ちゃん。」
「…お前、嘘を吐いていたな?」
怒りを露わにする彼に態とに首を傾げる。
「何のことかな?私は嘘など吐かないよ。」
「お前、本当はシャルの言葉が聞こえているだろう?!」
「本当に聞こえないんだ。それってソーディアンマスターじゃないと聞こえないんだろう?私にはその資格はないみたいだ。」
「そんなはず…!?」
「シャル諦めろ、こいつはそう言う奴だ。」
だが彼は頑なにシャルティエを受け取ろうとはしない。
それに余計に首を傾げると、首を横に振られた。
「本当に煩いから持っていろ。」
「…分かったよ。君の大事な相棒は預かっておく。また返しにくるよ。」
「あぁ」
「坊ちゃん、行ってきます!」
「そのまま帰ってくるな」
「酷い!!」
思わず苦笑いを零してしまうが、そのまま部屋を出て依頼主へと向かう。
「モネ、場所分かるんですか?」
シャルティエにそう言われてしまい、思わず止まろうとする足を叱咤し歩き続ける。
確か…、奥の方にある部屋だと聞いていた様な…?
その場所へ向かおうとするとシャルティエが話しかけて来る。
「あ、モネ。そっちじゃないですよ。ここを左です!!」
「…」
しかし聞こえてないフリをしているのであくまでも探しているフリをする。
「モネ…、そっちじゃないですって。…本当に聞こえていないんですか…?」
「…」
泣きそうな声に変わっていくシャルティエにグッと堪え、どうしたものかと思っていると彼が急に声を張り上げる。
「モネ!廊下の向こうから怪しい人物がこっち向かって来ています!!隠れましょう?!」
怪しい人物とはどんな奴だ…。
それにここは依頼主の家だが…、まさか…不審者情報が既に入っていたのか?
シャルティエの言葉に咄嗟に自分の得物を構える。
「この先50m先、左から来ます!!急いで隠れて下さい!!!お願いです!モネ!!」
「…っ!」
シャルティエの言う通りこちらを伺う不審な人物を視認した。
すぐさま武器を取り距離を詰めると、その人物の首に剣を押し当てる。
「どこの所属だ、言え」
「…チッ。もうこんなの雇っているのか!!」
逃げようとする男の首に当てている剣で薄ら傷が付く位に力を込める。
途端に悲鳴をあげ両手を上げる男を睨みつけ脅しにかかる。
「言え。言わなければこのまま斬り捨てる」
「ひっ…!分かった!言うから!!!」
「さ、流石です…!モネ!!」
複数犯という事、また他の仲間の情報を掴み、一度リオンのいる部屋に戻る。
彼への説明はシャルティエがしてくれるだろう。
扉を開けるとそこは誰も居ない。
あれ、おかしいな。ここにリオンがいた筈なのだが…?
「あれ?!坊ちゃん?!坊ちゃーーん!!」
「いない、か…」
「ど、どこに行ったんでしょう?あんな格好の坊ちゃんがうろつき回るとは思えないんですが…!」
シャルティエの言う事も一理ある。
人一番プライドの高い彼のことだから、女装した姿でそこら辺を歩き回る筈はない。
と、言うことは拐われたか、自ら付いて行ったかだ。
すぐに依頼主の話を聞きに行こうとするが先程場所が分からず迷っていたくらいだ。
しかし今非常事態なのは明らかだし、悠長な事はしていられないだろう。
仕方がない、ここは…。
「シャルティエ様、今までの御無礼をお赦しください。依頼主への道案内を頼めますか?」
「!!!モネ!!やっぱり聞こえていたんだね!?」
「はい。申し訳ありません。諸事情がありまして聞こえないフリをしていました。これについては他言無用でお願いします。」
「わ、分かった!!依頼主への案内だよね?でも坊ちゃんが…」
「ここまで緊急事態が起きていて依頼主からの依頼内容を聞かずに動く方が危険です。まずは聞いてから行動します。」
「そっか!分かりました!僕が案内しますのでその指示に従って下さい!」
「承知しました。シャルティエ様」
「モネ、僕にそんなにかしこまらないで下さい!いつも通りでいいですよ!」
「では、そうさせてもらおうかな?」
崩した言葉に直し、シャルティエの指示通り依頼人の所へ向かうと青い顔で立ち尽くしていた。
…遅かったか。
「も、もしかして、護衛任務の兵士かい?!」
「はい、そうです。所属はありませんがファンダリア王国代表で来ています。」
「娘を!!娘を取り返してくれ!!」
「やはり娘さんはもう拐われたのですね?」
一足遅かったようだ。
と言うことはリオンは既に動き出している可能性が一番高いだろう。
奴等の居場所は先程の不審人物から聞いており、把握済みだ。
後は娘さんの容姿さえわかれば助け出す事が出来るだろう。
大体の容姿を頭にインプットするとすぐに建物を飛び出した。
「さて、シャルティエ。麗しい姫君を助け出しに行こうか?」
「モネってそう言う性格なんですね?意外です」
「ははっ、博愛主義者と言ってくれ。さて、彼はどっち側にいるかで緊急度が変わってくるが、急ぐに越した事はなさそうだ。」
「奴等の言っていた情報ですと、しばらく歩くことになりそうですね。」
「まぁ、仕方ないよ。さぁ、さっさと言ってお姫様を助け出そう。」
「坊ちゃんに怒られますよ?」
「怒っているカナリアも可愛いさ。」
そう言うと流石に笑い出す彼に少し安堵する。
あんなに無視していたにも関わらず、それでも話し掛けて来てくれる彼の精神は凄いと思う。
傷付けたことに変わりはないがせめて、君の主人を助け出す事でチャラにしてもらうとしよう。
「モネのその戦闘体系は誰に習ったんですか?」
「…これは独学だよ。」
「へー!?そうなんですか?!それは凄いです!確かに見た事がない型ですし、何よりその武器も見た事がありません!」
「まぁ、これについてもあまり触れないでやってくれ。答えられないんだ。」
「そうですか…。すみません。カッコよくてついつい聞きたくなってしまって。」
「その気持ちは分かるけどね。まぁシャルティエなら私の戦闘を見てくれているから、なんとなく分かるんじゃないか?」
「一度しか見た事がないので分かりませんよ!!あれは不思議な機構でした!」
「ははっ、ありがとう。シャルティエ」
シャルティエと話しているとすぐに時間が経ってしまう。
目的地の裏出入り口から入り込み、シャルティエの案内の元、連れ拐われた2人の部屋へとその身を滑り込ませる。
「坊ちゃん!!!」
「!!シャルか?!」
「しっ、静かにお願いします。」
2人を拘束している縄を切り、彼にシャルティエを託す。
扉前で外の様子を伺っているとシャルティエが感動の再会とばかりに号泣を始める。
「うわあああああん!!!坊ちゃーーん!!!」
「煩い!!黙れっ!!」
爪を立てられ悲鳴をあげるシャルティエを心の中で拝み、扉外への注意を怠らない。
「お前、どうしてここが分かった?」
「不審人物からの情報と…そこの彼のお陰だよ。」
シャルティエを指差すとやはりと言うべきか、怒りを露わにする彼に苦笑する。
「やはり、お前嘘を吐いていたんだな…!!」
「それについては謝る。すまない、こちらにも諸事情というものがあるんだ。」
「何が諸事情だ。ソーディアンマスターが世界にとってどんなに有益か…!!」
「だからだよ。他言無用で頼むね?」
「断る。保護対象をみすみす逃せるか!」
今の保護対象は貴方の隣のお嬢さんですよー!
と言いたくなるほど捕らえられていた女の子は大人しかった。
怖がっているようで、その小さな体は多少なりとも震えていた。
その手をそっと握り、温める。
「レディ、怪我は?」
「だ、大丈夫です!」
「そうか、それなら良かった。レディ、ここから脱出しますが、私からくれぐれも離れない様にお願いします。」
「わ、分かりました!」
ギュッと抱きついてくる女の子の背中を優しく撫で、扉外へと神経を尖らせる。
「坊ちゃん、モネ。廊下に人の気配はない様です。」
「「了解」」
女の子を連れ、急いで外へ向かう。
途中息が上がる女の子を元気づけ、外へ出ようとするとシャルティエが人を探知したので扉前で立ち止まる。
「私が囮になろう。リオンとシャルティエは女の子を連れて先に依頼主の元へ。」
「いや、僕がやる。お前はそいつを連れて先に行け。」
「…その格好で動けるのかい?」
「チッ…」
「無理は宜しくないな?レディ?」
「何ならここで斬り捨ててやろうか?」
「ははっ、それは勘弁だね。でも、私が行こう。そのドレスを巻き込む等の不慮の事故に遭うより余程いい。」
リオンの手の甲へとキスを落とす。
すると赤面して動揺する彼の背中を押す。
「援護しよう。だから先にお嬢さんを連れて逃げてくれ。…私の実力は、君が一番知ってるだろう?」
「モネ、本当に一人で大丈夫ですか?」
「シャルティエまで心配してくれるのは有り難いけど…、そこら辺の敵に負ける気はしないんでね?」
自身の得物の調子を確認する。
刃物部分も銃部分も、問題はなさそうだ。
それを見ていたリオンが漸く赤面した顔を元に戻し、女の子を見遣る。
大きく頷いた女の子に溜め息を吐くと、こちらを見て大きく頷き先頭を切って走っていった。
女の子もそれに合わせて駆けて行くのを見て、敵の追随を赦すまいとこちらも攻撃をし彼らの援助をする。
「レディ達には指一本触れさせないよ?」
「やっちまえ!お前ら!」
この組織のトップのような人物が辺りの雑魚に指示を出しているのを見て笑顔でそれを出迎える。
こんな奴ら、魔法一つで消し去ってくれよう。
「…(ブラックホール!)」
無詠唱且つ無言でブラックホールを出現させ、容赦なく敵を吸い込んでいく。
それを見た組織の頭らしき人物が恐れ慄き、尻餅をつきながらも逃げようと算段しているのを横目で視認した。
そいつに近付き剣を向けるとガタガタと震え始めるので、魔法弾を撃ち気絶させる。
後は兵士たちがやってくれるだろう。
しかし、何とも物足りない任務だったがまあ仕方ない。
「よし、帰りますか。」
目指すは麗しの姫君達の元へ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ、おかえり!モネ!」
「おお!!よくぞ戻られた!!」
「ただいま帰りました」
帰りを待ち構えていたのは、依頼主とその娘、そして元の姿に戻っているリオンだった。
…折角可愛く、素敵な格好だったのに。
「敵の親玉は気絶させました。ですのでもう大丈夫かと。」
「あぁ!ありがたい!!早速褒美を送っておこう!君、確かファンダリア兵士だったね?」
「…いえ、私は何処にも所属していませんので。褒賞はファンダリア国王へとお渡しください。」
すると全員が酷く驚いた顔をしてこちらを見た。
まぁ、そうなるよね。
リオンも私がファンダリア兵だと思っていただろうし、依頼主もそれに関しては驚きだろう。
「分かった、ファンダリア国王へと褒美を送っておく。」
「ありがとうございます」
「モネ!どう言う事なんですか?!何処にも所属してないって!?確か君は合同演習の時にファンダリア兵の代表として選ばれていた筈だよ?!」
「あぁ、そこら辺は複雑なんだ。だが、何処にも所属していないというのは本当だよ?」
頭を混乱させるシャルティエに苦情を溢す。
リオンもリオンで何かを考えている様だし、さっさと逃げるに越した事はないだろう。
「では、私はこれで。またいつかお会いしましょう?レディ?」
「う、うん!ありがとう!お兄さん!」
その場を去ろうとする私にリオンが声で引き留めていたが、そのままスルーしファンダリア行きの船に乗船する。
ソーディアンマスターで、国の保護対象。
…そんなの、彼を救えるものも救えなくなる。
だからお断りだ。
船の欄干に手を置いていると、港の方から見慣れた制服を着た人物が慌ててやってきている。
しかし船はもう動き出しており、それを見て私はリオンへと手を振る。
「また会おう、レディ!」
「レディじゃないと何度言えば分かる!!馬鹿者!!というより戻ってこい!!」
「残念だがそちらに行きはしないよ!私には私のやる事がある!だからそちらには行かない!」
「お前が何と言おうと、次会えば捕まえるから覚悟しておけ!!」
「おー、怖い怖い…」
肩を竦めると、今まで見た事がない様な笑顔で彼が見送ってくれるのが見え、思わず目を見張る。
まさか、彼にあんな笑顔で送られるとは…。
「元気でな!リオン!」
「あぁ!」
何故だがこういうのも少し悪くないと思ってしまった。
もう見えない彼を未だ同じ場所で視線をやっている私は恋する乙女か!
首を振り考えを消し去って、船内へと入って行く。
明日にはファンダリアに着くだろう。
それまでは暫し休憩だ。