第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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実は白雲の尾根にある小屋で、私はそれはもう良く寝てしまい、あの喧嘩騒動を見逃してしまっていた。
あのカイルの寝言のやつ、見たかったなぁ。と思いつつジューダスからその事を聞いた後に頭に手をやって今、後悔しているところだ。
まぁでも、起きた時には皆変わりなさそうなので原作通りだったのだろう。
「あ、あれって!?」
カイルが指さした方角に街が見え、皆一様に笑顔が浮かぶ。
船の修理はまだ終わっていないだろうが、それでも街が見えたのは皆の気持ちに希望を抱かせた。
走り出す彼等を見届け、白雲の尾根を見ていると後ろから声を掛けられる。
「どうした、行くぞ。」
「……」
もう白雲の尾根に来ることも無い。
安全のためにとジューダスと手を繋いでいたのが、今は霧も無いため必要なくなり、手を離していたので少し名残惜しい気がした。
一度目を伏せ、こちらを訝しげに見遣るジューダスの方へと駆け寄る。
もうカイル達はだいぶ向こうまで走っているのが見えた。
「何か忘れ物か?」
「《折角ジューダスと手を握れたのに、もう終わりかと思って名残惜しくてね?》」
「なっ!?」
途端に顔を赤くしてジリジリと後退した彼は、顔を見られない為か、走り出して行ってしまった。
それにくすくすと笑い、見届ける。
「(本当に、名残惜しくて仕方が無いんだ。君が私の最推しだからというのもあるんだろうけど、あの温もりが……何より忘れられない……。)」
今は涼しくなってしまった手。
坑道の近くということも相まって、さらに冷たくなっていく。
……海底洞窟での濁流に呑まれた時、自分の体が徐々に冷たくなっていくのを感じていた。
あれと同じ感覚……。
あぁ、手を繋がなければ良かったと思うほどに、私の手は恋しくて仕方が無いようだ。
それに自嘲してしまう。
力なく見ていた私の手に誰かの手が重なる。
それに驚いて手の持ち主を見遣れば、訝しげな顔で手を握るジューダスの姿。
君は先程、走って行かなかったか?
その疑問を口にする前に彼が私の手を引き、走り出す。
「そんな顔をするくらいなら幾らでも手を繋いでやる。だからそんな顔をするな。」
どんな顔、という言葉は空気音だけで終わってしまった。
声に出せないのがもどかしいと思う反面、良かったと思う時もある。
今は、どっちなんだろうね…?
少しだけ俯いて、無言だけど口を動かし、お礼を言った。
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:゚・:,。*:..。o○☆゚
「えー?!まだ終わらないのー?!」
元気なカイルの声に辺りに居た人達が一斉に何事かと彼を見る。
しかしそれに気付かないのが彼のいい所で、船長に詰寄る彼はかなりの勇者だ。
やはり船の修理は終わってない為足止めを食らう私達一行に、忍び寄る影。
怪しげな商人が案の定カイルに話を持ちかけていた。
それに突っかかるジューダスに、英雄と言われ鼻を高くするカイル。
原作通りのそれに安堵してしまう。
「ねぇねぇ。スノウって学者さんでしょ?何か情報がないの?その、オベリオン何とかってところ。」
「カイル……、名前くらい覚えとけよ…。」
「確か、オベロン社の廃坑って言ってたわよね?」
「《ふふっ、考古学者の私を頼るとは、流石ですね。勿論存じております。案内しますよ?》」
「さっすが、学者さん!!頼もしいや!!」
「……」
先導立って歩き出すとジューダスが悲しそうな表情になったのが分かる。
オベロン社と言えば彼の父親のヒューゴが管理していた会社だ。
それもかなりの大企業だったし、その息子である彼に本当は継がせる予定でもあった、という話は私しか知らないはずだ。
何故なら彼の災難を全て私が担っていたからだ。
そういう情報はかなり機密扱いされていたし、なんなら彼の耳に入らないようかなり気を揉んだ。
だからこそ、結局彼へ継ぐ話は無かったことになったのだが。
「スノウって学者だとは思ってたが、考古学者だったんだな?何に興味を持ったんだ?」
「《そうですね。まずはモネ・エルピスの遺品を見つけた所から始まります。この武器、実は彼の遺品なんですよ。》」
「そうなんだ!?かなり変わった武器だなって思ってたけど、そういうことかぁ!!」
「《それから私の……前の髪色がモネさんに似ているということもあって気になって調べ始めたんです。そしたら考古学者としての道に進んでいたんです。》」
「なるほどなぁ。俺は歴史をあまり知らないし、調べようとも思わないからスノウを見るとすげえなって思うぜ。」
「……」
何か言いたげな顔のジューダスを見て見ぬふりをし、話の続きをする。
オベロン社とは何なのか、どういう組織だったのか。事細かに説明すると皆から関心の言葉が来る。
しかし、もうたどり着いてしまったようだ。
「なんか砂とか石とか沢山あるんだけど?」
「《廃坑になっていますので、久しく使われておらず土砂が流入してしまったようですね。確かここは爆弾の使用もされていたはずなので、ここを調べれば爆弾の一つや二つ見つかると思います。》」
「うへぇ…。スノウって結構過激な事を言うんだな……」
「嫌なら待ってろ」
「誰も行かねぇとは言ってねぇだろ?!」
先に進んでいくジューダスを追いかける形でロニが走っていく。
リアラを気遣いながら歩いていく二人。
改めて廃坑内を見てみるとかなり年季が経っており、土砂が流入してからだいぶ経っているようだ。
18年でここまで朽ちるとは、時というのは怖いものだ。
試しに壁をコツコツと叩いてみると、すぐに崩れてしまう辺り本当に脆くなっているのだろう。
もう18年の月日が経てば跡形もないのかもしれないな。
「(イレーヌ……)」
イレーヌ・レンブラント。
彼女はこのノイシュタットの復興を夢見ていた女の子。
ただ、それだけなのにヒューゴ……いや、ミクトランに利用されてしまった。
特に仲の良かったスタンとも決裂し、戦う羽目になってしまった彼女の最期。
私はその最期を見る前に死んでしまっている。
いや、見たくはないが前世で一応お世話になっていたし……そう思うと見届けたかったかもしれないな。
「(イレーヌ。君の遺書……読ませてもらうよ。)」
もう居ない彼女に思いを馳せる。
すると奥からカイルの私を呼ぶ声がするため、足を動かした。
どうやら爆弾は見つかったようだが、肝心のレンズの機械については触れられていないようだ。
「《この機械にレンズを入れないとダメみたいですね…》」
「どれくらい居るんだ?」
「およそ、200でしょうか?」
「「に、200?!!!」」
その数の多さに目をかっ開き、驚きを露わにするカイルとロニ。
目眩でもしたのか途端に腰を抜かす二人に苦笑を零す。
「奥の方に大量のレンズがあるはずだ。行くぞ」
「なーんでお前がそんなこと知ってんだよ。」
「いいから行くぞ。」
さっさと行ってしまうジューダスにカイルとリアラが追いかけていく。
納得がいかないようなロニは一度ジューダスの方を訝しげな顔で見遣り、頭を搔くとようやく歩き出した。
「ったく、なんであいつはあんなに突っかかってくんのかね?」
「《彼も不器用な所がありますから。》」
「不器用すぎなんだよなー?もうちょっと周りを頼ればいいのによー?」
ロニが言ったその言葉でかつて、彼に同じ事を言われたことを思い出した。
あの時の涙を思い出すとやるせない気持ちになる。
私は彼を怒らせたり、泣かせたり…本当碌なことをしてあげられない。
友として何か出来ればいいのだが…。
「《一つ、聞きたいのですが…》」
「ん?なんだ、どうした?」
「《男の人が喜ぶプレゼントって何がありますか?》」
「お?なんだ?彼氏か何かに渡すやつか?」
「《いえ、彼氏ではなく仲の良い男友達なのですが。》」
「そういうやつか。なら、単純にアクセサリーがオススメだぜ?」
「《アクセサリー…?》」
「指輪とかは邪魔になるけどよ、ネックレスみたいな隠せるもんってのは案外嬉しいもんだぜ?さり気ないピアスとかも人気だな。」
「《なるほど、ありがとうございます。勉強になります。》」
「どういたしまして。さ、俺達も行こうぜ。」
ロニの後を追いかけていくとカイル達がレンズを見てはしゃいでいる所だった。
それに早速ロニが便乗しカイルとはしゃぎ出す。
しかしそれは機械に入れる代物なので、残念なお知らせと共にフリップで伝えると「えぇー!?」というやはり残念そうな声が聞こえる。
レンズを箱に詰めて持ち運ぶ男性陣に対して、女性陣は声援を送る。
「ファイト!」
「《頑張ってください!》」
「流石にレンズ200枚って重くない?!」
「カイル…、口じゃなく……手を動かせ…!!」
「ふっ…」
軽々と運ぶジューダスに対し、カイル達は悪戦苦闘している。
ジューダスは颯爽と先に運んでいったのでそちらを追いかけ、カイル達はリアラに任せた。
「《お疲れ様です。ジューダス。》」
「やはり、お前はここのこと詳しいんだな…」
「《何度か来たことがありますから。》」
「……そうか。」
機械にレンズを入れながらジューダスと話す。
彼も何度か任務絡みで来てはいるだろうが、どれ程ここのことを知っているのやら。
顔を覗き込むようにして見れば訝しげな顔で返され、なんでもないとばかりに首を横に振っておいた。
「《ノイシュタットに帰ったら、少しだけでいい。君の時間を私にくれないか?》」
「??……どうしたんだ、急に。」
『モネって相変わらずお洒落な言い方しますよね…。』
「《ふふっ、少し君との時間が欲しいだけさ。》」
「……理由を教えてくれ。何だか不吉に感じる。」
「《大した理由はない。ただ、私が君と居たいんだ。それじゃ駄目かな?》」
素直にそう言えばようやく頷いてくれる。
なんだかんだ彼も疑り深いな?
だがそれもそうか、友に裏切られたら嫌でも疑ってしまう、か……。
「《じゃあそういう事だから。ちゃんと空けておいてくれ。》」
『デートですか?!』
「《ふふっ、私はそれでも構わないよ?》」
「っ!!」
顔を赤くし、これでもかと言うくらい赤くなる頬に私は思いっきり笑った。
勿論声は出ないけど直ぐに私の様子を見て分かったようで暫くジューダスは怒って口を聞いてくれなかった。
最終的に辿り着いたイレーヌの思いの綴られた石碑。
兵器ベルクラントが分からない彼らでも彼女の言葉には心打たれたようだ。
そしてその場所も素敵になっていて、密やかに咲いている花はまるでイレーヌそのもののようだ。
儚く、だけどそこに主張する花。
イレーヌ。何故君はこの道を選んでしまったのだろうね。リオンを救う為とは言え、他の人達を見殺しにしてきたそれもきっと、私の罪なのだろう。
帰ろうとするカイル達を見て動き出せない私は、何を引き摺っているのだろう?
何を後ろ髪引かれているのだろう?
ここにはもう何も無いのに。
「スノウ。」
ほら、彼が声を掛けてくれる。あれほど口を聞いてくれなかったのに。
「《すまない、先に行ってて貰えないだろうか。もう少し、ここに居たい。》」
「……」
しかしジューダスは動かない。
それどころか近くに来て、隣に来て一緒にいてくれる。
それにどれだけ心救われるだろう。
私は指をパチンと鳴らした。
「……すまないね。どうしても気持ちの整理をここでつけたかったんだ。私も存外我儘だね?」
「そんな事はない。……イレーヌのことか?」
「そうだね。……私は彼女を救うことも出来たはずだ。しかし私はそれをしなかった…。どんな言い訳も通用しないさ。」
「イレーヌは自らこの道を選んだんだ。お前の所為じゃない。何でもかんでも自分のせいにするな、馬鹿者。」
「……君はいつも私の欲しい言葉をくれる。それにいつも、助けられているよ。」
「なら覚えておけ。僕はお前を見捨てたりしない。だから辛い時は辛いと、素直にそう言え。馬鹿。」
「はは……、手厳しいな。……っ、ごめん。少し辛かった……」
「……そうか。」
泣きそうな私を見て何も言わず胸を貸してくれる彼に思わず抱き着いた。
「今だけ……今だけごめん。」
「辛い時は言えと言っているだろう。……我慢なんかするな。今だけと言わずいつでも来い」
「っ」
馬鹿だな。君は本当に優しすぎる。
「ごめん……、ごめんよ……。」
「……」
__涙が一雫ほど地面へ落ちた。