第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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リアラがようやく目を覚ました。
彼女が気絶してから1週間が経った時だった。
目を覚ましてからというもの、カイルは泣きそうになるし、医者騒ぎになるしでてんやわんやだったのを私は笑いながら見ていた。
全く……微笑ましいものだ。
あれからジューダスは私を近くで見張るようになったし、ロニとの稽古は毎日欠かさなかった。
一つだけ変わったのは、その稽古にカイルやジューダスも加わったことくらいだ。
カイルはジューダスに扱かれ、私はロニと変わらずやるのだがジューダスからの指摘が後を絶たない。
やはり眼鏡を外せない私にジューダスが何度注意してきたことか。
「スノウもごめんね。起きるのが遅くなって……」
「《大丈夫ですよ。それ程までに疲れていたんですから、もっとご自身の体を大事になさってくださいね。》」
「スノウ……。うん、ありがとう!」
ふわりと笑う彼女に嬉しくなると同時に、やはり心の中では「リアラ可愛い!!!」とオタク的発言。
これはいつまで経っても治りそうにない。
暫くはリアラの体を徐々に慣らす為に村に滞在することになった私達。
リアラが申し訳ない、と立ち上がろうとするのをカイルが必死になって止めていた。
1週間寝ていた人間が急に体を動かすのはダメと医者から言われた言葉を信じているらしいカイルが、とにかくリアラの看病を一身に引き受けていた。
柔らかい粥から始まり食事も食べれるようになるまで朝から晩まで甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
それにロニが嬉しそうに見ていたのを私は忘れないだろう。
原作ではこういったリアルな事柄まで描かれていなかったので、不思議な気持ちと同時にこうしてキャラを見られるのはなんと幸せだろうと顔を綻ばせたものだ。
しかし、そんな中でも奴ら〈赤眼の蜘蛛〉に気を配らないといけないのが何とも言えない。
時折〈サーチ〉を使い、辺りの気配を探ってはいるが向こうから仕掛けてくることはなかった。
「……」
頭に手を置いた私を不思議そうに見遣るジューダスにも最早見慣れた。
そして、その甲斐甲斐しくカイルがリアラの世話を焼いている最中、私はリリスさんの家の鏡の前で自分と戦っていた。
ノイシュタットは別に構いやしない。
だが、その後に行くのはファンダリアなのだ。ジューダスといい、この髪色でバレたことを考えるとやはり髪色を変えていた方が良い気がしていたのだ。
鏡の中の自分を見る。
澄み渡る空のような蒼色の髪色、まるで海色のようなターコイズブルーの瞳。
瞳の色は誤魔化せても髪色ばかりはどうしようもない。
「……」
それを扉近くで訝しげに見遣るジューダス。
鏡に夢中のスノウにはその事に気付きやしない。
髪を触ったり、眼鏡を押し上げたりと忙しない彼女を見て何をしているんだとでも言いたげな顔だ。
『坊ちゃん、もしかしてスノウは修羅とかいう黒づくめの奴とのデートであんなに悩んでいるのかもしれませんよ?』
「は?」
『いやだって、女の子があんなに鏡の前で髪を気にしたり容姿を気にするって言ったらデートしかないじゃないですか。』
「……アイツとはあれ以降会っていないのにデートなど……」
『だからですよ!きっと僕たちには分からない二人だけの合図があるとか?!』
「……」
鏡の前の彼女を見遣る。
確かにいやに髪を気にしている様子ではあるが……まさか……。
そう思っていると彼女は徐ろに目を閉じた。
何を考えているのだろう、と見ていると急に彼女の髪色が蒼色から白へと変わった。
「!?」
すると彼女の体が急に傾き、倒れたでは無いか。
それに慌てて駆け寄り抱き起こし声を掛けた。
「お、おい?!大丈夫か?!」
『ちょ、白なんて縁起が悪い!!?病気ですか?!!』
「____」
僅かに目を開いた彼女が顔色悪く何かを話そうとしているが口が動くだけで後は空気音のみだ。
だから声を喪うと大変なんだ!!
しかし彼女はそのまま気絶したかのように目を閉じた。
呼び掛けにも応答なく、医者の世話になる事に。
「うーん、疲労ですかね?」
「疲労って……。こんな髪が白くなんて、なんかの病気じゃないのかよ?!」
「元々白いのでは?」
「いや!絶対青かった!!だよな?!ジューダス!」
「あぁ、彼女の髪色は蒼色だった。」
「うーん、それはよく分かりませんが、ただの疲労なので少し休ませたら大丈夫ですよ。」
「って、おい!待てよ!?」
医者がサッサと出て言ってしまい、ロニが舌打ちと共に拳を壁にぶつけた。
急に変わった髪色、それに疲労の診断。
何が何やら、とジューダスも腕を組み彼女の目覚めを待つしか無かった。
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リアラと入れ違いに気を失った彼女を心配そうに見遣る仲間たち。
しかし彼女が目覚めたのは案外早く、翌日だった。
「!!…おい!大丈夫か?」
「うっ、……!」
声が出る事に驚いている彼女は慌てて腰にあったはずの武器を取ろうとしていたが、生憎横になっていた為武器は外してある。
眉間に皺を寄せたが、一応彼女に武器を渡すとすぐさま自分のこめかみに遠慮なく放つ彼女に余計に眉間の皺が深くなる。
「__」
声が出ないことを確認した彼女は安堵の溜息を吐いていた。
「スノウ」
「!!」
ようやくこちらを見る彼女の髪を触ると、それを見て目を見張るスノウ。
そして、自分でも触って色を確かめると嬉しそうに笑った。
「《ふふっ、どうですか?この髪色。成功してて安心しました。》」
「……何が成功なものか。心配したんだぞ……?」
「??」
分かっていない彼女を睨む。
こっちがどれほど心配したか知りもせず、成功したなどと…。
「《ジューダス?》」
こちらの様子に流石に不穏を感じたか、訝しげに見るスノウから視線を外す。
すると後ろの相棒が口を出し始める。
『急に髪色が白に変わったかと思ったら君が急に倒れたんだ。髪色が白に変わる病気なんじゃないかって皆心配してたんだよ?』
「《あー、なるほど。そうでしたか。申し訳ありません。》」
「……もう過ぎたことだ。もういい。……だが、やる前に僕に一言声を掛けてからやってくれ。これじゃ、命が幾つあっても足りない……」
彼女は他を頼ることをしない。
それがどれだけ僕の心を揺さぶるか。
友達と言ってくれたのは嘘なのか?それとも僕が頼りないのか?
いつもその疑問が尽きない。
その様子に頬をかいた彼女は再びフリップで謝罪した。
でも、一言声をかけるという僕の願いについては言及が無かったのに僕は溜息を吐いた。
「で、何でまた髪色を変えようとしたんだ?」
「《今度いく所はファンダリアなので、危惧したのです。髪色でバレるのではと。ジューダスも髪色で分かったみたいでしたし、ここは変えておかないとと思いまして。しかし、髪色を変えるのに思わず力を使いすぎてしまいまして……。倒れたのはそのせいかと。》」
『でも、白なんて縁起が悪いよ?!』
「《え、そうなの?》」
思わずモネの口調になっているフリップを見て笑ってしまう。
「《ファンダリアの雪を思い出していたら、この色になっていたんですが……変でしょうか?》」
『うーん、雪色って事なら……綺麗だけどさー……』
「……元には戻せないのか?」
「《え?戻した方が良いですか?》」
「少なくとも僕は前の髪色が好きだった。」
それを聞いてシュンとして髪に触れる彼女。
雪色も神秘的で綺麗だと思う。だけど、やはり澄み渡る空のような蒼色が僕は好きだ。
「《やるならもう一度倒れるけど、看病してくれるのかい?》」
「……」
『結構力使うんですね……』
もうモネとしての口調になっているのは最早どうでもいい。
しかしまた倒れられるのは困る。
いつ死ぬとも分からない彼女がまた倒れて今度は息をしてなかったなんてシャレにならない。
だから僕は首を横に振った。
それに彼女が笑い、もう一度髪に触れていた。
彼女にとっては、その髪色は余程気に入ったらしい。
「スノウ!!大丈夫?!」
「お、おい!カイル?!病人なんだからもう少し大人しく……って、スノウ!目が覚めてたのか!!」
「《ご迷惑お掛けしています。》」
「お前さんも災難だよなぁ?声は出なくなるし、髪が白に変わるし……。1回大きな病院で診てもらった方がいいんじゃねぇのか?」
「《ふふっ、そうしてみます。》」
「でもさ!その髪色、フワフワしててとっても綺麗だよ!うん、そうだよ!」
その言葉に目を瞬かせたスノウは、可笑しそうに笑ってお礼を言っていた。
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元気になった女子二人を連れ、リーネ村を後にした私達は白雲の尾根に足を踏み入れていた。
「真っ白で何も見えないわ……」
「皆!ちゃんと声を掛け合って進もう!!」
「スノウ!ちゃんと誰かの近くにいろよ?!声が出ねぇんだからよ!」
「《はい。》」
「……僕が近くにいよう。」
そう言ってジューダスは私の手を取るとギュッと握ってきた。
それに笑い、お礼を伝える。
一応〈サーチ〉があるので皆の場所は丸分かりなのだが、これ以上心配掛けてもいけないので頷いておいた。
白雲の尾根は霧が深く、下手をすれば切り立った崖に立っていることもあるらしいので気を付けなければならない場所。
それぞれ声を出して居場所確認する中、カイルの声だけが消えそれにロニがすぐに察知した。
「おーい?!カイルー!」
「どこに行ったのかしら?まさか、崖から落ちたとか…?」
「お、おい……リアラさん……?そんな怖いこと……」
「有り得なくはないな。」
「!!おい、ジューダスまで!!」
すぐに〈サーチ〉を発動するとかなり向こうの方まで走っている様子が分かる。
だが何かおかしい。
「(もう1人居る……?)」
一人の時に狙われると言えば、〈赤眼の蜘蛛〉の仕業なのだが…もしかして…?
二つの気配を探知して首を傾げたが、〈赤眼の蜘蛛〉の仕業なら洒落にならない。
もしカイルが一人で対応していたら、殺気が読めず、且つこの霧の中で全く分からないだろう。
そうなれば生存確率はグッと減ってしまう。
指を鳴らし、ジューダスの耳元に口を持っていく。
「ジューダス、すまない。少し行ってくるよ。」
「!!……どこに行くつもりだ…?!」
小声で返してくれる彼は私の手を更に強く握り、離さないようにしている。
それに苦笑いしたが再び彼の耳元に口を寄せる。
「もしかしたら奴らの仕業かもしれない。少し様子を見てくるよ。」
「なら僕も…!」
「リアラ達を頼んだよ?」
得物を構え始めた私を見て心配そうに見ていたが、渋々と頷いてくれたので握られた手の甲へと口付けを落とす。
するとバッと手が離れていき、顔を赤くする彼に笑う。
「後は頼んだよ。」
すぐに魔法でカイルの反応があった近くへ飛ぶ。
するとやはりそこには黒づくめの男がカイルに攻撃している様子が見受けられる。
しかし、攻撃の感じが今まで出会った奴らではない。
【玄】でも【修羅】でもない。
ならば新たな刺客か……?
銃口を向け、気絶の魔法弾を撃つがそれに反応し宙を軽々と翻した。
「……」
「スノウ?!どうしてここに?!…じゃなくて!危ないよ!!こいつ急に攻撃してくるんだ!!」
「《分かっています!それよりお怪我は…?》」
「大丈夫!!なんか、どっかから声がしたから夢中で走ってきたらこの黒いのが攻撃してきたんだ!!」
やはり一人を狙ってきたか。
背丈は私くらいの双剣遣いだ。身軽さといい、かなり厄介な部類であるとみた。
私が得物を構えたのを見て、カイルも武器を構えた。
「……」
何も話さない〈赤眼の蜘蛛〉の組織員。
しかし明らかに殺気はカイルの方へと向けられているのがひしひしと伝わってくる。
「《カイル、あの人を気絶させてでもしないと通して貰えなさそうです》」
「分かった。ちょっと可哀想だけどやろう!スノウ!」
カイルが攻撃しに行くのを見て魔法を構える。
ロニと特訓してきたんだ。その成果をここで発揮しなければいつ出すんだ!
「(プリズムフラッシャー!!)」
綺麗な光の線が上空から堕ちてくるようにして敵を攻撃していく広範囲で、高威力の光属性魔法。
それを避けるも、広範囲の術にその場で耐える事を選んだ敵は双剣を前に構えたまま動きを止めた。
そこへカイルの技が炸裂する。
「蒼破刃!!蒼破追蓮!」
「……!!」
静かなる驚きをした組織員。
前で構えている双剣を盾に使うもののカイルの攻撃は止まらない。その上、上空からも術を使用され万事休すかと思われたが、その組織員は急に腰を低くすると私の方へと向かって飛び出した。
黒い布から見える瞳はやはり赤く、目を見開いてこちらを狙っていた。
得物を構え攻撃を薙いでいると双剣ならではの早い攻撃に切り替わり、慌てて防御壁を展開する。
「(フォースフィールド!!)」
「……!」
僅かに驚いたのか動きが鈍くなり、次第にその動きが止まると大きく後退した。
二人相手は分が悪いと思ったのか組織員はすぐにその姿を消した。
「はぁ、なんだったんだろ。あの人…。ってそうだ!スノウ大丈夫?!怪我してない?!」
「《ふふっ、大丈夫ですよ?》」
「良かったー!!怪我してても俺じゃ治せないから、怪我してなくてよかったよー!!」
優しい事だ。
彼の優しさに思わず笑顔になると、カイルもとびっきりの笑顔を見せてくれた。
「おーい!カイルー!!スノウー!!大丈夫かーー!?」
「あ、ロニの声だ!!おーい!こっちこっち!!」
カイルが霧の中を声を頼りに走っていく。
抱き締めあっているのか、カイルの声が急にくぐもったような声になりリアラの声も聞こえ始める。
皆無事だったようで一安心していると、急に手を握られ驚いた。
その手の持ち主を見ると訝しげな表情のジューダスだった。
「大丈夫だったのか?」
「すぐに退散してくれたから大丈夫だったよ。でも、今までに見た事のない奴だった。」
「そうか…。とにかくお前が無事ならいい。全く……一声掛けろとは言ったが、ああいう声の掛け方だとは思わなかったぞ?」
「ははっ、ごめんよ?でもカイルを一人にしたらどうなるか分からなかったから急いでいたんだ。」
『もうっ!スノウったら全部一人でやっちゃうんだもん!!坊ちゃんにも活躍させて下さいよ!!?』
「頭に入れておくよ。シャルティエ。」
まぁ、その活躍は来ないと思うけど。
ともかく今は仲間たちの近くで声喪失の魔法弾を使う訳にも行かず、どう乗り切るかが問題なのだが。
「ジューダス……頼みたい事があるんだ。」
「お前が、僕にか?天変地異でも起きるんじゃないか?」
「揶揄わないでくれ。結構真剣なんだ。今日一日、声を出さずにどう乗り切るか、と思ってね。」
「こうなったらもういいんじゃないか?声が出たって言えばそれで済む話だろう?」
「頼むよ。せめてファンダリアで事が終わるまでは声を出す訳にはいかないんだ。」
「はぁ……。フォローしてやるからさっさとしてこい。」
「流石。持つべきものは友だね。」
「ふん…」
鼻を鳴らした彼の横顔は嬉しそうで、それに私も笑った。
一瞬で皆から遠くの方へ飛んだ私は銃口を自分のこめかみに遠慮なく放ち、声喪失の魔法弾を撃ち込む。
その後、すぐに元に戻った私はジューダスの手を握った。
その手を反射的なのか握り返してくれるジューダスに笑顔になると向こうも笑い返してくれた。
「さて、行こう!皆!」
「お前が迷子になってたんだろーが!!」
「これで迷子にならないわよね?」
リアラが可愛らしいことにロニとカイルの手を握って歩き出したから皆仲良く歩き出す。
カイルもロニも嬉しそうに握り返し、三人が歩いていく姿を私はぼんやりと見ていた。
ここでこんなに仲良くなっているなんて、原作ではこの先の小屋で一悶着あるから驚いてしまうでは無いか。
「??スノウ?」
『どうしたんですか?ボーッとして。』
「……いや、すまない。何でもないんだ。ただ、仲が良いなと思っただけさ。」
そう言って私は彼の手を引いて先を促す。
君が本当は優しいってことはよく知ってる。
だから君は君の思うままに動いてくれ。たとえ、ロニと喧嘩しても君達はいずれ仲間だと信頼出来るようになるから。
この先の起こるだろう喧嘩に、少しばかり落ちてしまった気持ちを無理矢理前を向かせて歩き出す。
さぁ、行こう。
もう少ししたら白雲の尾根ともお別れだ。