第二章・第1幕【裏切り者編】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
016.ソーディアン・ベルセリオス
(*スノウ視点)
目を覚ました私は、〈レスターシティ〉の研究所の一角である病室のベッドで寝かせられていた。
……そういえば、海に潜ってからメンテナンスの話をジョシュアやフランチェスカとして……そこからの記憶が無い。
私が首を傾げさせていれば、扉が開け放たれてゾロゾロと中へと入ってくる集団に、顔を引き攣らせた。
何故……。何故彼らがこの研究所内に堂々と入ってこられているんだ…?
「お目覚めですね、スノウ・エルピス。」
「《ちょっと待って……。何故彼らが君と一緒に入ってきてるのかな?説明してくれない?》」
「そうですね……話せば長くなりますが…。」
「《簡潔にお願い。》」
「手短に言うのではあれば、彼らは〈赤眼の蜘蛛〉の仲間に入り、“遊撃隊”としてここにいる……と言った感じですかね?」
“遊撃隊”なんて…、アーサーから見れば捨て駒に近い。
それに彼は〈星詠み人〉ではない、この世界の人間を嫌っている。
仲間だと口では言っているが、実際の所は全然違う腹の内だろうに……。
「《……どうせ、彼らを捨て駒にする気だろう?》」
「クックック…!貴女にはそう見えるのですねぇ?いやぁ実に面白い…。……ですが、彼らが望んだ事です。〈赤眼の蜘蛛〉の仲間になりたいと言ってきたのは、彼らの方なんですから。」
「《否定はしないんだね?なら、今すぐ取り消して。彼らをここから追い出してくれ。》」
「いえ、彼らとはもう契約済みですのでねぇ?そうはいきません。きちんと書類にもサインしてもらいましたし、働きによってはちゃんとした支給も考えていますのでご安心を。」
「……。」
これ以上、私が言ったところで何も改善などしないだろう。
私は大きく溜息をつき、頭を抱えた。
あぁ、何故こうなるんだ…。
彼らを巻き込まないためにやっているというのに、何故こうも上手くいかないんだ。
「スノウ。」
「……?」
修羅が皆を代表して話しかけて来る。
それに視線を向ければ、全員の顔が心配そうな顔色をしていたことに気付く。
どうやら私が寝る前かその後に、何かが起きたらしい。
「身体…大丈夫なのか?皆が心配してるぜ?」
「まだ貴女の状況の事を、皆さんには話していません。それこそ貴女の身体のことも…。まずはご本人の許可を得てからと思いまして。」
「教えてくれ、スノウ。一体…あんたの身に何が起きてるんだ?俺たち、手伝える事は手伝いたいんだ。これでも同じ仲間だからな。」
「……。」
やはり、説得してくるか。
……だが、あそこまでして私を治そうとする気概は買っても良いんじゃないか?
リオンだって、カイル達だって……皆、私を心配している。
それこそ、前世でシアンディームも言ってたじゃないか。
────〝仲間を頼ることを覚えなさい〟って。
それって、今の事じゃないのか?
皆と居れば何でも出来そう、って言ったのは、どこの誰だった?
考え直せ、私……。今は、仲間割れしてる場合じゃないんだ。
皆の厚意を、素直に受け取らなくちゃ────
「《…………………………話すよ。》」
この文字を書くまでに時間が掛かってしまった。
その書いた文字を面白そうに受け取ったアーサーは、いつもの笑顔を更に深くして私を見つめる。
彼らの方を見て、故意に躊躇った様子を見せて通訳してくれた。
……これでもう、彼らを忌避するのは止め、だ。
「では、お話するということで…。全てをお話しましょうか。残酷で、醜い……とある〈星詠み人〉の物語を。」
アーサーは全て話してくれた。
私がとある男を救い、そして手のひら返しされて声もマナも奪われてしまったこと。
そして近くにあった村で石を投げられ、怪我をしたこと。
アーサーとそこで出会い、〈赤眼の蜘蛛〉を頼る事になったことを、全て語ってくれた。
声が出ない事に加えて、皆の言語を理解出来ない状況なのだ、という事も……マナが知覚出来ず、魔法も何もかも出来ないということも、定期的に回復器の中に入らないと生きていけない体になってしまった事も、包み隠さず全てアーサーは彼らに伝えていた。
私は、思わずそれを聞いて俯いていた。
こう聞くと、中々な人生を歩んでいるなと思い始めてきた。
……それに、皆の反応が怖かったのもあるんだ。
この世界の住人である彼らにとっても辛い話だろうし、嫌な心地にさせられただろう。
でもアーサーの言ったそれが、今の私の全てなんだ。
「───。」
「────、───?」
何かを質問している彼らの声を聴きながら、私は彼らが見れないでいた。
知らず知らず、布団を掴む指に力を入れたくらいだ。
……悔しいし、何も改善出来ていないのが怖いんだ。
もうこうなってから優に4ヶ月は経っただろう。
なのに、やっと〈アタラクシア〉の話が分かった程なのだ。
私が魔法さえ使えていれば、なにか出来たかもしれないのに…。
私がマナを感知出来ていたら、回復器に頼る事のない生活が送れたかもしれないのに。
……こんな事になってなければ、レディが危険な目に遭うこともないのに…。
それが本当に悔しい気持ちでいっぱいだった。
『──。』
「──。」
二人の声が近くから聞こえてきて、顔を上げれば、彼は今にも泣きそうな顔をさせていた。
そして私をそっと抱きしめてくれて、その後、徐々に力を強めていた。
さながらそれは、“気付かなくてごめん”とでも言っているように、後悔の気持ちが表れるかのように私を抱きしめてくれていた。
……本当、君は怒っていいと思うよ。私がこんなにも拒絶したってのに……それでもまだ私の傍から離れないんだから。あの……馬鹿で愚かな約束を守るために。
「───!!」
「……。」
……でも、ようやくレディと向き合えた気がする。
そう思えるんだ。
私は、彼の背中に手を回し、そっと抱き締めた。
そして優しく背中を叩いた。
今までの贖罪がこれで流れる訳じゃないけど……それでも、今の君の涙を受け止める覚悟はようやく出来たから。
すると彼は体を震わせて、静かに泣き始めた。
向こうではまだ説明の途中だと言うのに、彼はただ静かに、私を抱きしめて辛そうに泣いていた。
私はひたすら彼の涙を泣き止ます為の行動を取った。
君のせいじゃないよ、と言葉で伝える事が出来たらどんなにいいか……。
「(……今世もまた、君にお世話になる事になりそうだね。前世での言葉を今……大いに噛み締めているよ。馬鹿な私でごめん。そしてその愚かな私を待っていてくれてありがとう…レディ。)」
説明が終わる頃になって、ようやく彼は涙が止まったらしい。
最後に少しだけ腕に力を入れて、抱きしめる力を強めた君はそっと私から離れた。
スッキリした顔がやけに印象に残る顔をさせて、君は心配させまいと私に笑いかけてくれた。
だから、私も君を笑顔で迎えることにしたんだ。
当然、今までの事があったから苦笑いだったけれども。それでも君はそんな私を許してくれるような顔をして、私を見つめてくれた。
……本当に、ありがとう。リオン。
「────ともかくだ。スノウの声とマナを取り戻すには、例の男を押さえないといけないのか。」
「まぁ、早く言えばそうですねぇ。〈アタラクシア〉の教祖であるあの男……。一筋縄じゃいかなさそうです。現に今、続々と信者を集めているようですから。」
「変な謳い文句なのにな?……何が〝“神”に認められし者に祝福と幸福を〟だよ?それに、あの白い同じ服も気持ち悪いしな?」
「〝白の世界にこそ、真実と平和がある。そこに救いがある〟とも言っていましたねぇ?その〝白の世界〟とやらが一体何を暗示しているのかは定かではありませんが……良からぬ事であることは間違いないかと。」
「厄介だな…?偵察に何度も行ったが……入らせても貰えねぇ…。これからどうするかだな…?」
どうやら作戦会議に変わっているようで、深刻そうな顔で悩みに煩う修羅たちがいた。
カイルやロニも頭を悩ませ、リアラも不安そうな顔を見せていた。
「────?」
「《……カイルは何だって?》」
泣き止み、落ち着いた様子のリオンと共に話に参加すれば、修羅とアーサーがカイルの言葉を翻訳してくれる。
ところが、それは私の顔を青くさせるには充分過ぎる言葉だった。
「〝こういう時、ハロルドが居てくれたら何か分かっただろうにさ?〟だってよ?」
「!!!!」
顔を青くさせた私を、全員が怪訝な顔で……って、そんなこと言ってる場合じゃないって…!!
やべっ…、完全にハロルドの存在忘れてたわ…。
何かあったらハロルドを起こせ、って言われてるのに…!
私は急いでアーサーの肩を掴んで必死に目線で訴えかける。
すぐに外出したい。例外は無いとは聞いているが、これは由々しき事態なんだ、という言葉が伝われとでも言うくらい強い眼力で彼を見つめた。
するとアーサーは笑いを堪えた顔をさせて、顔を背けた。
次いでプルプルと体を震わせて、顔に手を当てていた。
「クックック…!そんなに必死そうな貴女を見るとは……フッ、クックッ…。」
「《笑い事じゃないんだって…!!こっちは命かかってるからさ…!?頼むから一緒についてきてくれないか…!?》」
「フッ……クックック…。どちらへ…?」
「《ファンダリア地方!それも南東の方角に位置する場所なら何処でもいいから!》」
未だに笑う彼を見て、肩を揺すり始めた私は必死に彼に懇願する。
外出の許可と、なるべく瞬間移動での移動を…。
ハロルドのことだから時間とか数えてそう……、って言うか、ソーディアン・ベルセリオスってまだソーディアン研究所にあるのか…?
一応、過去に戻ってる訳だしさ…?
「えぇ、行きましょうか。そんなに焦っている貴女を見るのも、今日の醍醐味の様ですからねぇ?」
「────。」
「俺たちもついて行くぜ?スノウの事なら、尚更放っておけないしな。」
「───!」
「────?」
所々分からない言葉だけど、修羅や他の皆の顔を見たらついてきたい、とでも言っているんだろう。
個人的にはついてきて欲しくないが、今は何より早く行きたい。
そして早くハロルドに謝って、許しを乞わなければならないのだから。
「移動しますよ、スノウ・エルピス。」
「!!」
誰もがアーサーの近くに寄り、私を待っているのが見えた。
私はすぐに彼の近くに寄って、時を待った。
そして見慣れた雪国の風景が見えた瞬間、私は走り出した。
後ろからは恐らく静止の声だろう言葉が聞こえてきた気がしたけど……今はそれどころじゃない。
皆には悪いけど、早く行かないと本当にハロルドに何されるか分からないんだって!
雪国出身の私からすれば、雪道など最早通常の道に近いものがあるため、誰よりも早く例のソーディアン研究所へと辿り着く。
扉を勢いよく開けて、中へ入った私は、ソーディアン・ベルセリオスが格納されている場所へと急ぐ。
そして相棒で自身の指を少し切って、機械へとそれを流し込んだ。
……ここまでは前世で聞いたハロルドの説明通り。
後は、ソーディアン・ベルセリオスが目覚めてくれるのを待つしか……。
『────おっそーーーーーいっっ!!!!!』
「(大変すみませんでしたっ!!!)」
案の定この流れになるのか。
私は慌ててソーディアン・ベルセリオスの前に膝まづいて、日本独自の文化である土下座をした。
あぁ、怒ってる…。実験台にされそうな勢いで怒ってるよ…。グッバイ、私の人生────
「(って、あれ?ハロルドの言葉が……ちゃんと“日本語”…?どういう事だ…?)」
『ちょっと!!何でこんなに遅いのよ!!いつまで待たせるつもりよ!!』
「(それについては、本当…すみません!!!)」
再び土下座を決めた私は、カバンの中に入れていたノートを取り出して文字を書く。
一応、この世界の言語で簡単な単語ではあるが謝っておけば、ベルセリオス…じゃなくて、ハロルドが疑問を持ったようだった。
『あんた、イメチェンしたの?それに、その言葉なに?あんたらしくない言葉のチョイスね?』
「《それについては、話が長くなると言いますか……。》」
再び書いた文字を見てもらえば、ハロルドはコアクリスタルをピカピカ光らせて暫く思案しているようだった。
しかし、流石は天才科学者さま。
すぐに解答に辿り着いたようで、納得したような声を出していた。
『なるほどねー?あんた、この世界の言語喋れないんでしょ?その上、声も出せなくなってる。』
「《おぉ…流石ハロルド…。》」
『私を誰だと思ってんのよ。あんたが声を出せなくなった理由のパターンは数百種類にも上るけど……一番の理由としては、マナが扱えないんじゃない?あんたからマナの要素が1ミリたりとも感じられないもの!』
「(こっわ…。何でそこまで辿り着けるんだろ…この人……。)」
若干……でもないが、私が引いていると知ったハロルドが怒った様子を見せたので、普通にノートで謝罪をしておいた。
するとノートを見るのが煩わしくなったのか、ハロルドは大胆な行動に出る。
『一々紙に書いてくれなくていいわよ。あんたの言葉は、口の動きだけで伝わるから。』
「(え、嘘?)」
『嘘だと思うなら試してみる?勿論、成功させてみせるわよ?ソーディアンの機能、あんたが知らないはずないでしょ?』
「(でも、シャルティエには伝わらなかったし、シャルティエの言葉もハロルドと違って全然私には通じなかったよ?)」
『バカね?私を誰だと思ってんのよ。天才科学者であるハロルドさまよ?』
「(ははっ…。それもそうか。じゃあ…何を言おうかな?)」
口の動きだけで〝ありがとう〟と伝えてみた。
すると、ハロルドは得意げに笑って、簡単に答えを言ってしまった。
『ふふん♪簡単ね!答えは、〝ありがとう〟でしょ?それじゃあ簡単すぎるわよ~。』
「(……やっぱ、この間のシャルティエの感覚と似てるかも。言語が通じないのに、晶術を使えたあの感覚……。これがソーディアンの持つ性能なのか……。やっぱ、ハロルドはすごいや。)」
改めて感動した私は、ゆっくりと立ち上がり、ソーディアン・ベルセリオスを手に取った。
そして〝よろしく〟と口を開けば、彼女からもよろしくと言われた。
……うん、早くにハロルドを探しに来れば良かった。
そう思うほどには、彼女に感謝しているよ。
タイミング的にはバッチリかもだけどね?
「────!!」
『──!?』
『ちょっとシャルティエ? “げっ!?”って何よ!』
『────!!』
リオンとシャルティエがこのソーディアン研究所に慌てて入ってきて、私の持っているソーディアンを見て絶句させていた。
その上、シャルティエが余計な事を言ったようで、ハロルドがカンカンに怒っていた。
そのハロルドに、シャルティエが弁明しているよう声音がした気がした。
「〝なんて言ってたんだい?〟」
『ん?シャルティエのこと? シャルティエならこのソーディアン・ベルセリオスを見た瞬間、“げっ!?”って言ったのよ!?』
「〝それは仕方ないんじゃない?彼らはハロルドがソーディアンとして人格を持ったことを知らないんだから。もしかしたらミクトランだと思ってるかもしれない。〟」
『そんな声音じゃなかったわよ。明らかに私だと知っての、“げっ”だったわよ!昔からあれは変わらないわね!』
私達のやり取りを聞いてか、リオンが慌てた様子でハロルドに話し掛ける。
それを私が首を傾げれば、ハロルドはリオンの言葉に何か返答をしていた。
『当たり前じゃない。私を誰だと思ってるわけ~?……っていうか、何度この台詞を言わせる気よ!』
「〝彼は何だって?〟」
『ん?あんたと話が出来るのか、って驚いてたのよ。出来るに決まってるでしょ!私を何だと思ってるのよ?』
「〝ソーディアン・ベルセリオスだね。〟」
『ふふん。そうよね~?』
リオンの後ろから修羅やアーサー、カイル達も現れ、ソーディアン・ベルセリオスに誰もが驚いていた。
その上険しい顔をさせて武器を手に取る様子を見せたことから、私はハロルドと顔を見合せて笑った。
前世で彼らには言ってなかったからなぁ。
それは驚くし、敵として見られてもおかしくはない訳だ。
『やっほ~~あんた達。元気そうじゃない。』
「「「───!!?」」」
『えぇ、そうよ?この天才科学者さまがここにいること、光栄に思いなさいよ~?』
「────?」
『この子の未来で、不穏な事が起こるっていうから、あんた達との旅の途中でこのベルセリオスを拾って改造したってわけ。分かった?』
『────!!』
『何よ、不満だっての?あんたを別の何かに改造してあげてもいいのよ?』
『────!!!!!!』
最後の言葉だけ分かる。
絶対あれは、〝すみませんでしたっっ!!!!!〟だと思う。
私ならそう言うし、シャルティエもそう言うだろうと思ったからだ。
私の予想は当たっていたのか、ハロルドが満足気に笑っていた。
私もまた、そんな彼女を見て苦笑いをする。
私達は、突然現れたハロルドを歓迎しながら話に花を咲かせたのだった。
あの頃の不穏な空気は今は無い。
それもこれも、破天荒な性格でもあるハロルドのおかげなのかもしれない。
私はハロルドのお陰で、こうして彼らと話が出来る様になったのだから。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○。・.:
*ハロルド翻訳は「〝〇〇〇〟」
筆談は「《〇〇〇》」
心中は「(〇〇〇)」
で統一します。
多くてすみません……。
スキット①
【新たな仲間、ハロルド・ベルセリオス?】
『しっかし、変わんないわねぇ~~?あんた達。相変わらず神にケンカ売ってんの?』
カイル「え?そんなことしてないよ!」
リアラ「今は、スノウを助ける為に集まってるのよ。声と魔法が使えないみたいなの。」
ロニ「まぁ、でも~? あのハロルドさんが来たからにゃあ、大丈夫だよなぁ?」
『なんか鼻につく言い方だけど、ま、いいわ。 えぇそうよ?私が来たからには全て解決よ!私の頭脳が神をも超えた事は証明されたようだし、あとはパパッと解決するだけね。』
「〝そういえば、ソーディアンになってからは後のこと知らないんだよね?〟」
『そんなの、あんた達の顔見りゃ想像つくわよ。それに、ここに皆が無事にいるってのが答えなんじゃないの?』
「〝それもそうだね。愚問だったようだ。〟」
『ふふん♪ まぁ、私が来たからには任せなさい。見事にこの頭脳を持ってして解決してあげるわよ!』
「〝そりゃあ頼もしいことで。〟」
スキット②
【会話】
「……本当に口の動きだけで会話してるんだな。お前ら。」
『この子の血液の中にある遺伝子を弄ったのよ。だから私がこの子の口の動きだけで言葉を予測して言語を理解してるってわけ。』
『うわ……。被検体になってるじゃないですか…。スノウ…。』
「〝今回はなんとも言えないね。実際に、役に立ってるからね。〟」
『何で僕にはその機能が備わってないんですか?』
『あんたには数多ある彗星のエネルギーが存分に含まれているから、それが邪魔してるのよ。マナを理解したいなら他の方法を考えるしかないわ。』
『どっちにしろ、改造は必須ってことですよねぇ…?』
「まぁ、これで会話も難なく出来るようになっただけ前進だな…。……だが、何故ソーディアンであるお前の声が他にも届く?ソーディアンは素質が無いと声が聞こえないはずだが?」
『あぁ、それは簡単な話よ。この子が発する言葉……いわゆる口から出る空気の振動を私のソーディアンが音に変換してるってわけ。よってあれは私が自ら喋ってるというよりは振動を通じて、音を広げてるって感じかしらん?』
『「??」』
『だから今私が発してるのは、素質のある人達にしか届いてない声。そしてこの子が話した時にだけ周りに聞こえる様に空気を拡張させてる声って訳。』
「〝まぁ…一つ分かるのが……ハロルドは凄い科学者だって事だね?〟」
『ふふん♪もっと褒め称えてくれていいのよ?』
「ふん…。調子の良い奴だな。」
スキット③
【予知夢の事実】
「……夢の中の僕が言っていた事はこう言う事だったんだな。ソーディアン・ベルセリオスにハロルドが既に人格を上書きしていて…そしてスノウの言語を理解出来る唯一の相手…。」
『これで会話も出来るようになりました。後はスノウを説得するだけです!』
「あぁ…。それと……教会に行かせないようにしないとな…。」
『あ…。』
「ここまで、夢の内容に忠実になってる……。そして、ソーディアン・ベルセリオスも、男の居場所の把握も……全てのピースが揃ってしまった…。」
『確か……教会で、スノウは……』
「……あぁ、死ぬ運命だったな。……そんなこと、させて堪るか…!!」
『アーサーがわざとに教会のことを言わなかったのは、もしかして、スノウが飛び出す事を事前に危惧していたから…?』
「それしか考えられないな。……奴が懸念するほど、スノウはあの男を血眼になって探している。だからこそ…知られる訳にはいかない…!夢の中と同じ道を辿ってたまるものか!!」
スキット④
【予知夢の事実 その2】
『前に坊ちゃんが言ってましたよね?“スノウが黒髪に変えたその時は〈赤眼の蜘蛛〉の仲間入りを果たす時だ”って。』
「あぁ、そうだな。」
『やっぱり……坊ちゃんの見た夢の内容を辿ってるんですよね…?』
「そうだな。スノウの頭の包帯をはじめ見た時は驚いたが……言われてみれば、予知夢でその状況を見ていたんだ。この世界の人間の子供に石を投げられ…額を怪我するスノウが…な……。」
『えぇっ!?それ、本当なんですか?! どこの子供ですか!! 僕が成敗してやりますよ!!!?』
「どこかの森の中だ。……だが、どこの森かは不明瞭だがな。」
『だから包帯なんてしてたんですね…。でも、それって最近の話なんですか?いつだったからずっと付けてる気がしますけど…?』
「あぁ、そうだったな…。……後で聞いてみるか。」
『えぇ!そうしましょう!』
スキット⑤
【頭の包帯とコアクリスタル】
『ていうか、気になる事ひとつ聞いてもいいかしらん?』
「〝答えられる範囲ならどうぞ?〟」
『あんた、その頭どうしたのよ?包帯なんか巻いちゃって。さながら重症人じゃない。』
「……僕も知りたい。何故まだ包帯なんかをつけているんだ?」
「〝これにはマナを感知するマイクロチップ……って言って分からないよね…?小さな機械が取り付けられてるんだ。直接頭に触れるところへ機械を取り付けて、その上から包帯で押さえて…私のマナを常に測定してるんだよ。〟」
『ほーーーぅ…?』
『何の為にそんな事してるのよ?あんたの中にはマナが無いのに?』
「〝完全に無い訳じゃないらしいんだ。私の体の中の何処かに隠されているらしい。だから私が生きる事が出来てるんだ。〟」
『物騒な話ですね…!?』
『なるほどねー?これは益々その成果とやらが気になるわねー!』
『うわ、来た…。ハロルドの好奇心旺盛な性格が……。』
『スノウ。シャルティエを手に取って頂戴。今からコアクリスタルの中でもシャルティエの弱点を教えるわ。』
『ちょ!?冗談!冗談じゃないですかぁ~~!そんなムキにならな────』
「どこら辺だ?ハロルド。」
『ちょっと!?坊ちゃんまで!!?』
『あー、もう少し右よ……そうそう、そこよ!そこ!』
『(あ…終わった……。僕の人生……。)』
「……。」←クスッ…
スキット⑥
【晶術】
「〝ハロルドって、今はソーディアンだから晶術も使えるってことなんだよね?〟」
『えぇ、勿論よ。ソーディアン・ベルセリオスの性能についてはあんたも知っての通りよ。主に闇属性が得意とされているんだけど、今回、私の人格を入れた事によって光属性も使える様になったってわけ。』
「〝お、それは朗報だね。光属性には耐性があるんだ。逆に闇属性はあまり使わないかもね?〟」
『それならそれで良いわよ。でもたまには闇属性も使いなさいよ?耐久性のチェックをしたいから。』
「〝うん、分かったよ。今度試してみようか?〟」
『えぇ!楽しみにしてるわ!』
(*スノウ視点)
目を覚ました私は、〈レスターシティ〉の研究所の一角である病室のベッドで寝かせられていた。
……そういえば、海に潜ってからメンテナンスの話をジョシュアやフランチェスカとして……そこからの記憶が無い。
私が首を傾げさせていれば、扉が開け放たれてゾロゾロと中へと入ってくる集団に、顔を引き攣らせた。
何故……。何故彼らがこの研究所内に堂々と入ってこられているんだ…?
「お目覚めですね、スノウ・エルピス。」
「《ちょっと待って……。何故彼らが君と一緒に入ってきてるのかな?説明してくれない?》」
「そうですね……話せば長くなりますが…。」
「《簡潔にお願い。》」
「手短に言うのではあれば、彼らは〈赤眼の蜘蛛〉の仲間に入り、“遊撃隊”としてここにいる……と言った感じですかね?」
“遊撃隊”なんて…、アーサーから見れば捨て駒に近い。
それに彼は〈星詠み人〉ではない、この世界の人間を嫌っている。
仲間だと口では言っているが、実際の所は全然違う腹の内だろうに……。
「《……どうせ、彼らを捨て駒にする気だろう?》」
「クックック…!貴女にはそう見えるのですねぇ?いやぁ実に面白い…。……ですが、彼らが望んだ事です。〈赤眼の蜘蛛〉の仲間になりたいと言ってきたのは、彼らの方なんですから。」
「《否定はしないんだね?なら、今すぐ取り消して。彼らをここから追い出してくれ。》」
「いえ、彼らとはもう契約済みですのでねぇ?そうはいきません。きちんと書類にもサインしてもらいましたし、働きによってはちゃんとした支給も考えていますのでご安心を。」
「……。」
これ以上、私が言ったところで何も改善などしないだろう。
私は大きく溜息をつき、頭を抱えた。
あぁ、何故こうなるんだ…。
彼らを巻き込まないためにやっているというのに、何故こうも上手くいかないんだ。
「スノウ。」
「……?」
修羅が皆を代表して話しかけて来る。
それに視線を向ければ、全員の顔が心配そうな顔色をしていたことに気付く。
どうやら私が寝る前かその後に、何かが起きたらしい。
「身体…大丈夫なのか?皆が心配してるぜ?」
「まだ貴女の状況の事を、皆さんには話していません。それこそ貴女の身体のことも…。まずはご本人の許可を得てからと思いまして。」
「教えてくれ、スノウ。一体…あんたの身に何が起きてるんだ?俺たち、手伝える事は手伝いたいんだ。これでも同じ仲間だからな。」
「……。」
やはり、説得してくるか。
……だが、あそこまでして私を治そうとする気概は買っても良いんじゃないか?
リオンだって、カイル達だって……皆、私を心配している。
それこそ、前世でシアンディームも言ってたじゃないか。
────〝仲間を頼ることを覚えなさい〟って。
それって、今の事じゃないのか?
皆と居れば何でも出来そう、って言ったのは、どこの誰だった?
考え直せ、私……。今は、仲間割れしてる場合じゃないんだ。
皆の厚意を、素直に受け取らなくちゃ────
「《…………………………話すよ。》」
この文字を書くまでに時間が掛かってしまった。
その書いた文字を面白そうに受け取ったアーサーは、いつもの笑顔を更に深くして私を見つめる。
彼らの方を見て、故意に躊躇った様子を見せて通訳してくれた。
……これでもう、彼らを忌避するのは止め、だ。
「では、お話するということで…。全てをお話しましょうか。残酷で、醜い……とある〈星詠み人〉の物語を。」
アーサーは全て話してくれた。
私がとある男を救い、そして手のひら返しされて声もマナも奪われてしまったこと。
そして近くにあった村で石を投げられ、怪我をしたこと。
アーサーとそこで出会い、〈赤眼の蜘蛛〉を頼る事になったことを、全て語ってくれた。
声が出ない事に加えて、皆の言語を理解出来ない状況なのだ、という事も……マナが知覚出来ず、魔法も何もかも出来ないということも、定期的に回復器の中に入らないと生きていけない体になってしまった事も、包み隠さず全てアーサーは彼らに伝えていた。
私は、思わずそれを聞いて俯いていた。
こう聞くと、中々な人生を歩んでいるなと思い始めてきた。
……それに、皆の反応が怖かったのもあるんだ。
この世界の住人である彼らにとっても辛い話だろうし、嫌な心地にさせられただろう。
でもアーサーの言ったそれが、今の私の全てなんだ。
「───。」
「────、───?」
何かを質問している彼らの声を聴きながら、私は彼らが見れないでいた。
知らず知らず、布団を掴む指に力を入れたくらいだ。
……悔しいし、何も改善出来ていないのが怖いんだ。
もうこうなってから優に4ヶ月は経っただろう。
なのに、やっと〈アタラクシア〉の話が分かった程なのだ。
私が魔法さえ使えていれば、なにか出来たかもしれないのに…。
私がマナを感知出来ていたら、回復器に頼る事のない生活が送れたかもしれないのに。
……こんな事になってなければ、レディが危険な目に遭うこともないのに…。
それが本当に悔しい気持ちでいっぱいだった。
『──。』
「──。」
二人の声が近くから聞こえてきて、顔を上げれば、彼は今にも泣きそうな顔をさせていた。
そして私をそっと抱きしめてくれて、その後、徐々に力を強めていた。
さながらそれは、“気付かなくてごめん”とでも言っているように、後悔の気持ちが表れるかのように私を抱きしめてくれていた。
……本当、君は怒っていいと思うよ。私がこんなにも拒絶したってのに……それでもまだ私の傍から離れないんだから。あの……馬鹿で愚かな約束を守るために。
「───!!」
「……。」
……でも、ようやくレディと向き合えた気がする。
そう思えるんだ。
私は、彼の背中に手を回し、そっと抱き締めた。
そして優しく背中を叩いた。
今までの贖罪がこれで流れる訳じゃないけど……それでも、今の君の涙を受け止める覚悟はようやく出来たから。
すると彼は体を震わせて、静かに泣き始めた。
向こうではまだ説明の途中だと言うのに、彼はただ静かに、私を抱きしめて辛そうに泣いていた。
私はひたすら彼の涙を泣き止ます為の行動を取った。
君のせいじゃないよ、と言葉で伝える事が出来たらどんなにいいか……。
「(……今世もまた、君にお世話になる事になりそうだね。前世での言葉を今……大いに噛み締めているよ。馬鹿な私でごめん。そしてその愚かな私を待っていてくれてありがとう…レディ。)」
説明が終わる頃になって、ようやく彼は涙が止まったらしい。
最後に少しだけ腕に力を入れて、抱きしめる力を強めた君はそっと私から離れた。
スッキリした顔がやけに印象に残る顔をさせて、君は心配させまいと私に笑いかけてくれた。
だから、私も君を笑顔で迎えることにしたんだ。
当然、今までの事があったから苦笑いだったけれども。それでも君はそんな私を許してくれるような顔をして、私を見つめてくれた。
……本当に、ありがとう。リオン。
「────ともかくだ。スノウの声とマナを取り戻すには、例の男を押さえないといけないのか。」
「まぁ、早く言えばそうですねぇ。〈アタラクシア〉の教祖であるあの男……。一筋縄じゃいかなさそうです。現に今、続々と信者を集めているようですから。」
「変な謳い文句なのにな?……何が〝“神”に認められし者に祝福と幸福を〟だよ?それに、あの白い同じ服も気持ち悪いしな?」
「〝白の世界にこそ、真実と平和がある。そこに救いがある〟とも言っていましたねぇ?その〝白の世界〟とやらが一体何を暗示しているのかは定かではありませんが……良からぬ事であることは間違いないかと。」
「厄介だな…?偵察に何度も行ったが……入らせても貰えねぇ…。これからどうするかだな…?」
どうやら作戦会議に変わっているようで、深刻そうな顔で悩みに煩う修羅たちがいた。
カイルやロニも頭を悩ませ、リアラも不安そうな顔を見せていた。
「────?」
「《……カイルは何だって?》」
泣き止み、落ち着いた様子のリオンと共に話に参加すれば、修羅とアーサーがカイルの言葉を翻訳してくれる。
ところが、それは私の顔を青くさせるには充分過ぎる言葉だった。
「〝こういう時、ハロルドが居てくれたら何か分かっただろうにさ?〟だってよ?」
「!!!!」
顔を青くさせた私を、全員が怪訝な顔で……って、そんなこと言ってる場合じゃないって…!!
やべっ…、完全にハロルドの存在忘れてたわ…。
何かあったらハロルドを起こせ、って言われてるのに…!
私は急いでアーサーの肩を掴んで必死に目線で訴えかける。
すぐに外出したい。例外は無いとは聞いているが、これは由々しき事態なんだ、という言葉が伝われとでも言うくらい強い眼力で彼を見つめた。
するとアーサーは笑いを堪えた顔をさせて、顔を背けた。
次いでプルプルと体を震わせて、顔に手を当てていた。
「クックック…!そんなに必死そうな貴女を見るとは……フッ、クックッ…。」
「《笑い事じゃないんだって…!!こっちは命かかってるからさ…!?頼むから一緒についてきてくれないか…!?》」
「フッ……クックック…。どちらへ…?」
「《ファンダリア地方!それも南東の方角に位置する場所なら何処でもいいから!》」
未だに笑う彼を見て、肩を揺すり始めた私は必死に彼に懇願する。
外出の許可と、なるべく瞬間移動での移動を…。
ハロルドのことだから時間とか数えてそう……、って言うか、ソーディアン・ベルセリオスってまだソーディアン研究所にあるのか…?
一応、過去に戻ってる訳だしさ…?
「えぇ、行きましょうか。そんなに焦っている貴女を見るのも、今日の醍醐味の様ですからねぇ?」
「────。」
「俺たちもついて行くぜ?スノウの事なら、尚更放っておけないしな。」
「───!」
「────?」
所々分からない言葉だけど、修羅や他の皆の顔を見たらついてきたい、とでも言っているんだろう。
個人的にはついてきて欲しくないが、今は何より早く行きたい。
そして早くハロルドに謝って、許しを乞わなければならないのだから。
「移動しますよ、スノウ・エルピス。」
「!!」
誰もがアーサーの近くに寄り、私を待っているのが見えた。
私はすぐに彼の近くに寄って、時を待った。
そして見慣れた雪国の風景が見えた瞬間、私は走り出した。
後ろからは恐らく静止の声だろう言葉が聞こえてきた気がしたけど……今はそれどころじゃない。
皆には悪いけど、早く行かないと本当にハロルドに何されるか分からないんだって!
雪国出身の私からすれば、雪道など最早通常の道に近いものがあるため、誰よりも早く例のソーディアン研究所へと辿り着く。
扉を勢いよく開けて、中へ入った私は、ソーディアン・ベルセリオスが格納されている場所へと急ぐ。
そして相棒で自身の指を少し切って、機械へとそれを流し込んだ。
……ここまでは前世で聞いたハロルドの説明通り。
後は、ソーディアン・ベルセリオスが目覚めてくれるのを待つしか……。
『────おっそーーーーーいっっ!!!!!』
「(大変すみませんでしたっ!!!)」
案の定この流れになるのか。
私は慌ててソーディアン・ベルセリオスの前に膝まづいて、日本独自の文化である土下座をした。
あぁ、怒ってる…。実験台にされそうな勢いで怒ってるよ…。グッバイ、私の人生────
「(って、あれ?ハロルドの言葉が……ちゃんと“日本語”…?どういう事だ…?)」
『ちょっと!!何でこんなに遅いのよ!!いつまで待たせるつもりよ!!』
「(それについては、本当…すみません!!!)」
再び土下座を決めた私は、カバンの中に入れていたノートを取り出して文字を書く。
一応、この世界の言語で簡単な単語ではあるが謝っておけば、ベルセリオス…じゃなくて、ハロルドが疑問を持ったようだった。
『あんた、イメチェンしたの?それに、その言葉なに?あんたらしくない言葉のチョイスね?』
「《それについては、話が長くなると言いますか……。》」
再び書いた文字を見てもらえば、ハロルドはコアクリスタルをピカピカ光らせて暫く思案しているようだった。
しかし、流石は天才科学者さま。
すぐに解答に辿り着いたようで、納得したような声を出していた。
『なるほどねー?あんた、この世界の言語喋れないんでしょ?その上、声も出せなくなってる。』
「《おぉ…流石ハロルド…。》」
『私を誰だと思ってんのよ。あんたが声を出せなくなった理由のパターンは数百種類にも上るけど……一番の理由としては、マナが扱えないんじゃない?あんたからマナの要素が1ミリたりとも感じられないもの!』
「(こっわ…。何でそこまで辿り着けるんだろ…この人……。)」
若干……でもないが、私が引いていると知ったハロルドが怒った様子を見せたので、普通にノートで謝罪をしておいた。
するとノートを見るのが煩わしくなったのか、ハロルドは大胆な行動に出る。
『一々紙に書いてくれなくていいわよ。あんたの言葉は、口の動きだけで伝わるから。』
「(え、嘘?)」
『嘘だと思うなら試してみる?勿論、成功させてみせるわよ?ソーディアンの機能、あんたが知らないはずないでしょ?』
「(でも、シャルティエには伝わらなかったし、シャルティエの言葉もハロルドと違って全然私には通じなかったよ?)」
『バカね?私を誰だと思ってんのよ。天才科学者であるハロルドさまよ?』
「(ははっ…。それもそうか。じゃあ…何を言おうかな?)」
口の動きだけで〝ありがとう〟と伝えてみた。
すると、ハロルドは得意げに笑って、簡単に答えを言ってしまった。
『ふふん♪簡単ね!答えは、〝ありがとう〟でしょ?それじゃあ簡単すぎるわよ~。』
「(……やっぱ、この間のシャルティエの感覚と似てるかも。言語が通じないのに、晶術を使えたあの感覚……。これがソーディアンの持つ性能なのか……。やっぱ、ハロルドはすごいや。)」
改めて感動した私は、ゆっくりと立ち上がり、ソーディアン・ベルセリオスを手に取った。
そして〝よろしく〟と口を開けば、彼女からもよろしくと言われた。
……うん、早くにハロルドを探しに来れば良かった。
そう思うほどには、彼女に感謝しているよ。
タイミング的にはバッチリかもだけどね?
「────!!」
『──!?』
『ちょっとシャルティエ? “げっ!?”って何よ!』
『────!!』
リオンとシャルティエがこのソーディアン研究所に慌てて入ってきて、私の持っているソーディアンを見て絶句させていた。
その上、シャルティエが余計な事を言ったようで、ハロルドがカンカンに怒っていた。
そのハロルドに、シャルティエが弁明しているよう声音がした気がした。
「〝なんて言ってたんだい?〟」
『ん?シャルティエのこと? シャルティエならこのソーディアン・ベルセリオスを見た瞬間、“げっ!?”って言ったのよ!?』
「〝それは仕方ないんじゃない?彼らはハロルドがソーディアンとして人格を持ったことを知らないんだから。もしかしたらミクトランだと思ってるかもしれない。〟」
『そんな声音じゃなかったわよ。明らかに私だと知っての、“げっ”だったわよ!昔からあれは変わらないわね!』
私達のやり取りを聞いてか、リオンが慌てた様子でハロルドに話し掛ける。
それを私が首を傾げれば、ハロルドはリオンの言葉に何か返答をしていた。
『当たり前じゃない。私を誰だと思ってるわけ~?……っていうか、何度この台詞を言わせる気よ!』
「〝彼は何だって?〟」
『ん?あんたと話が出来るのか、って驚いてたのよ。出来るに決まってるでしょ!私を何だと思ってるのよ?』
「〝ソーディアン・ベルセリオスだね。〟」
『ふふん。そうよね~?』
リオンの後ろから修羅やアーサー、カイル達も現れ、ソーディアン・ベルセリオスに誰もが驚いていた。
その上険しい顔をさせて武器を手に取る様子を見せたことから、私はハロルドと顔を見合せて笑った。
前世で彼らには言ってなかったからなぁ。
それは驚くし、敵として見られてもおかしくはない訳だ。
『やっほ~~あんた達。元気そうじゃない。』
「「「───!!?」」」
『えぇ、そうよ?この天才科学者さまがここにいること、光栄に思いなさいよ~?』
「────?」
『この子の未来で、不穏な事が起こるっていうから、あんた達との旅の途中でこのベルセリオスを拾って改造したってわけ。分かった?』
『────!!』
『何よ、不満だっての?あんたを別の何かに改造してあげてもいいのよ?』
『────!!!!!!』
最後の言葉だけ分かる。
絶対あれは、〝すみませんでしたっっ!!!!!〟だと思う。
私ならそう言うし、シャルティエもそう言うだろうと思ったからだ。
私の予想は当たっていたのか、ハロルドが満足気に笑っていた。
私もまた、そんな彼女を見て苦笑いをする。
私達は、突然現れたハロルドを歓迎しながら話に花を咲かせたのだった。
あの頃の不穏な空気は今は無い。
それもこれも、破天荒な性格でもあるハロルドのおかげなのかもしれない。
私はハロルドのお陰で、こうして彼らと話が出来る様になったのだから。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○。・.:
*ハロルド翻訳は「〝〇〇〇〟」
筆談は「《〇〇〇》」
心中は「(〇〇〇)」
で統一します。
多くてすみません……。
スキット①
【新たな仲間、ハロルド・ベルセリオス?】
『しっかし、変わんないわねぇ~~?あんた達。相変わらず神にケンカ売ってんの?』
カイル「え?そんなことしてないよ!」
リアラ「今は、スノウを助ける為に集まってるのよ。声と魔法が使えないみたいなの。」
ロニ「まぁ、でも~? あのハロルドさんが来たからにゃあ、大丈夫だよなぁ?」
『なんか鼻につく言い方だけど、ま、いいわ。 えぇそうよ?私が来たからには全て解決よ!私の頭脳が神をも超えた事は証明されたようだし、あとはパパッと解決するだけね。』
「〝そういえば、ソーディアンになってからは後のこと知らないんだよね?〟」
『そんなの、あんた達の顔見りゃ想像つくわよ。それに、ここに皆が無事にいるってのが答えなんじゃないの?』
「〝それもそうだね。愚問だったようだ。〟」
『ふふん♪ まぁ、私が来たからには任せなさい。見事にこの頭脳を持ってして解決してあげるわよ!』
「〝そりゃあ頼もしいことで。〟」
スキット②
【会話】
「……本当に口の動きだけで会話してるんだな。お前ら。」
『この子の血液の中にある遺伝子を弄ったのよ。だから私がこの子の口の動きだけで言葉を予測して言語を理解してるってわけ。』
『うわ……。被検体になってるじゃないですか…。スノウ…。』
「〝今回はなんとも言えないね。実際に、役に立ってるからね。〟」
『何で僕にはその機能が備わってないんですか?』
『あんたには数多ある彗星のエネルギーが存分に含まれているから、それが邪魔してるのよ。マナを理解したいなら他の方法を考えるしかないわ。』
『どっちにしろ、改造は必須ってことですよねぇ…?』
「まぁ、これで会話も難なく出来るようになっただけ前進だな…。……だが、何故ソーディアンであるお前の声が他にも届く?ソーディアンは素質が無いと声が聞こえないはずだが?」
『あぁ、それは簡単な話よ。この子が発する言葉……いわゆる口から出る空気の振動を私のソーディアンが音に変換してるってわけ。よってあれは私が自ら喋ってるというよりは振動を通じて、音を広げてるって感じかしらん?』
『「??」』
『だから今私が発してるのは、素質のある人達にしか届いてない声。そしてこの子が話した時にだけ周りに聞こえる様に空気を拡張させてる声って訳。』
「〝まぁ…一つ分かるのが……ハロルドは凄い科学者だって事だね?〟」
『ふふん♪もっと褒め称えてくれていいのよ?』
「ふん…。調子の良い奴だな。」
スキット③
【予知夢の事実】
「……夢の中の僕が言っていた事はこう言う事だったんだな。ソーディアン・ベルセリオスにハロルドが既に人格を上書きしていて…そしてスノウの言語を理解出来る唯一の相手…。」
『これで会話も出来るようになりました。後はスノウを説得するだけです!』
「あぁ…。それと……教会に行かせないようにしないとな…。」
『あ…。』
「ここまで、夢の内容に忠実になってる……。そして、ソーディアン・ベルセリオスも、男の居場所の把握も……全てのピースが揃ってしまった…。」
『確か……教会で、スノウは……』
「……あぁ、死ぬ運命だったな。……そんなこと、させて堪るか…!!」
『アーサーがわざとに教会のことを言わなかったのは、もしかして、スノウが飛び出す事を事前に危惧していたから…?』
「それしか考えられないな。……奴が懸念するほど、スノウはあの男を血眼になって探している。だからこそ…知られる訳にはいかない…!夢の中と同じ道を辿ってたまるものか!!」
スキット④
【予知夢の事実 その2】
『前に坊ちゃんが言ってましたよね?“スノウが黒髪に変えたその時は〈赤眼の蜘蛛〉の仲間入りを果たす時だ”って。』
「あぁ、そうだな。」
『やっぱり……坊ちゃんの見た夢の内容を辿ってるんですよね…?』
「そうだな。スノウの頭の包帯をはじめ見た時は驚いたが……言われてみれば、予知夢でその状況を見ていたんだ。この世界の人間の子供に石を投げられ…額を怪我するスノウが…な……。」
『えぇっ!?それ、本当なんですか?! どこの子供ですか!! 僕が成敗してやりますよ!!!?』
「どこかの森の中だ。……だが、どこの森かは不明瞭だがな。」
『だから包帯なんてしてたんですね…。でも、それって最近の話なんですか?いつだったからずっと付けてる気がしますけど…?』
「あぁ、そうだったな…。……後で聞いてみるか。」
『えぇ!そうしましょう!』
スキット⑤
【頭の包帯とコアクリスタル】
『ていうか、気になる事ひとつ聞いてもいいかしらん?』
「〝答えられる範囲ならどうぞ?〟」
『あんた、その頭どうしたのよ?包帯なんか巻いちゃって。さながら重症人じゃない。』
「……僕も知りたい。何故まだ包帯なんかをつけているんだ?」
「〝これにはマナを感知するマイクロチップ……って言って分からないよね…?小さな機械が取り付けられてるんだ。直接頭に触れるところへ機械を取り付けて、その上から包帯で押さえて…私のマナを常に測定してるんだよ。〟」
『ほーーーぅ…?』
『何の為にそんな事してるのよ?あんたの中にはマナが無いのに?』
「〝完全に無い訳じゃないらしいんだ。私の体の中の何処かに隠されているらしい。だから私が生きる事が出来てるんだ。〟」
『物騒な話ですね…!?』
『なるほどねー?これは益々その成果とやらが気になるわねー!』
『うわ、来た…。ハロルドの好奇心旺盛な性格が……。』
『スノウ。シャルティエを手に取って頂戴。今からコアクリスタルの中でもシャルティエの弱点を教えるわ。』
『ちょ!?冗談!冗談じゃないですかぁ~~!そんなムキにならな────』
「どこら辺だ?ハロルド。」
『ちょっと!?坊ちゃんまで!!?』
『あー、もう少し右よ……そうそう、そこよ!そこ!』
『(あ…終わった……。僕の人生……。)』
「……。」←クスッ…
スキット⑥
【晶術】
「〝ハロルドって、今はソーディアンだから晶術も使えるってことなんだよね?〟」
『えぇ、勿論よ。ソーディアン・ベルセリオスの性能についてはあんたも知っての通りよ。主に闇属性が得意とされているんだけど、今回、私の人格を入れた事によって光属性も使える様になったってわけ。』
「〝お、それは朗報だね。光属性には耐性があるんだ。逆に闇属性はあまり使わないかもね?〟」
『それならそれで良いわよ。でもたまには闇属性も使いなさいよ?耐久性のチェックをしたいから。』
「〝うん、分かったよ。今度試してみようか?〟」
『えぇ!楽しみにしてるわ!』
19/19ページ