第二章・第1幕【裏切り者編】
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007.侵入者
(*スノウside)
リオン達との交戦があった翌日のこと。
普段通りに過ごそうとした私の耳に館内放送が聞こえてくる。
それに耳を傾ければ、どうやら花恋がやらかしたようだ。
『緊急放送…緊急放送……。現在、調教師の育てた魔物が館内を徘徊中…。見つけた人は魔物を捕獲した後に部屋番号SMー6730まで連れてきて下さい。繰り返します。緊急放送…緊急放送……。現在、調教師の────』
「(これは大変そうだなぁ…?私はマナが使えないから捕獲には向いてないし…。)」
『現在徘徊中の魔物は……オタオタ、ピヨピヨです。見つけた方は部屋番号SMー6730まで連れてきて下さい。』
魔物の名前を聞いた瞬間、スノウは思った。
────〝これなら手伝えるかもしれない〟と。
オタオタは所謂水色のオタマジャクシのような可愛らしい魔物だし、ピヨピヨは読んで字のごとくヒヨコである。
どちらにせよ、そんなに苦労しないだろうと踏んでいたスノウだが……後にこの時の判断を後悔することとなる。
それは何故なら……どちらもすばしっこい魔物だったからだ。
元気がよく、飛び跳ねて移動をするオタオタ。
ピヨピヨと鳴きながら、あの短い足を使って高速で動くピヨピヨ……。
いずれも捕獲するなら何か策を考えなければ苦労必須の相手であったからだ。
「(あれ…?ちょっと待って…?これ、すごいものに手を出してしまったんじゃないかな?私……。)」
痛感する相手であると分かったのは意外にも早い段階だった。
目の前から現れたオタオタの集団を見逃さずに腕を伸ばしてみるも、それを掻い潜るようにしてすり抜けていくオタオタ。
私はそれを何度か体験したあと、後悔の溜め息を吐いていた。
「(まさか…こんなに大変な作業だと、誰が思うだろうか…?可愛い見た目のくせしてすばしっこいのが難点だね。……でも、捕まえた時のあのモチモチ感…堪らないんだよなぁ…?)」
オタオタは見た目がオタマジャクシなだけあって、水の近くに棲息する魔物だ。
体表は当たり前のように湿気ているものの、持ち上げて抱きしめてみれば、すぐにモチモチ感を体感出来ることだろう。
それが、今の私には堪らないアイテムだった。
昨日の一件があった分、癒しがここで摂取できて満足だ。
午前中から昼を過ぎてもやっている私に声を掛けたのは、偶然にもアーサーだった。
「休息も大事ですよ。スノウ・エルピス。」
「《うん、ありがとう。でもあと少しで終わりらしいから、それが終わってから休憩にするよ。》」
「分かりました。くれぐれも怪我のないよう、お願いしますね。……その頭のやつがまだ取れてないので怪我をしていると毎度勘違いしますがねぇ?」
「《そうなんだよ…。まだ取れないのかい?これ。》」
「まだまだデータ採取中だそうです。ですから外すのは勘弁してくれ、と医療班から通知がありました。」
「《……脳波を調べるついでに私の事も観察してるのか…。》」
「ある意味、監視ではありますがねぇ。貴女が外に出ないように監視の意味も込めています。」
「《出れる訳ないよ。ここの監視、意外にも強固なんだから。》」
いつだったか、外に出ようとして研究員の人に酷く止められたことがある。
その他にも研究員だけでなく、〈星詠み人〉らしき一般人までも私を呼び止める始末。
その時から外に出るのは諦めた事があった。
それを素直に伝えれば、アーサーは少し顔を険しくさせて私を見下ろしていた。
まだそんなに顔を崩すほどの事はしてないつもりだけど?
「……ともかく、休憩を挟みつつお願いしますね。」
「《はいはい。分かったよ。》」
そう言って満足した顔になったアーサーは、自らの仕事場である執務室に向かっていったのを私は見送る。
そしてまた私はオタオタとピヨピヨの捜索と捕獲の仕事へと戻るのだった。
「(お、丁度いい所にオタオタだ…!)」
次の獲物を見つけた私は急いでオタオタを追いかける。
何度も何度もオタオタにすり抜けられ、気が付けば大分研究所の端まで来ていた。
それに気付きながらも私は目の前のオタオタをどうしても逃がしたくなくて、一生懸命手を伸ばす。
ようやくオタオタを掴んでそのモチモチ感を堪能しようとした、その刹那────
ブー!ブー!
『……緊急放送です。侵入者あり…侵入者あり…。スノウ・エルピスは直ちに避難を開始してください。繰り返します。侵入者あり、スノウ・エルピスは直ちに避難を開始してください。』
「(指名あり、という事は…!)」
「¥○#!!」
赤い警告色の光が辺りを包み、緊急放送もあった後、私が息を呑んで避難を開始しようとしたその時……彼らが目の前に現れた。
オタオタを思わず抱きしめる力を強めれば、オタオタも危機を感知したのかブルッと身震いをした。
「スノウ!!」
修羅の言葉だけが、今の私には救いの声だった。
しかし、緊急放送があった今、私がオタオタを持って逃げようとすれば、それを防ぐかのように後ろにリオンが……そして前には彼らが私を囲うようにして移動をしてしまい、私は逃げ場を失くした。
周りを見渡しても隙のない陣形に見える。
……あぁ、失敗したな…?ここまで研究所の端に来れば、侵入者が来た時にすぐ鉢合わせる事など予想ついただろうに。
私は周りの人達を睨むようにしてオタオタを抱きしめる。
しかしそんな私に物怖じせずに声を掛けてきたのは修羅だけだった。
まるで私が修羅の言葉しか理解しないと、彼ら自身が分かっているかのように。
「スノウ。あんた、俺の言葉は分かるよな?」
「……。」
「色々言いたい事はあるけど…。まずはこれだけ言わせてくれ。俺達はあんたと敵対するつもりは無い。だから…こんな所から抜け出して俺達と行こうぜ?〈赤眼の蜘蛛〉なんかに依存する必要なんてないんだ。ここは…地獄だ。」
以前、修羅は〈赤眼の蜘蛛〉にいた。
そこから私を助ける為に〈赤眼の蜘蛛〉を裏切り、遂には〈赤眼の蜘蛛〉を追われる立場になってしまっている。
それを分かっている。…けれども、今の私に必要なのは……〈赤眼の蜘蛛〉の情報網だけだ。
早くこの状況を打破したい。
それに……一度彼らを裏切った私を、私自身が許せていない。
だから、もう彼らの仲間になることを諦めたんだ。
感動の再会も、仲間になってまた旅する事を夢見ることも…もうしない。
「……。」
目を閉じてゆっくりと首を横に振った私を、泣きそうな顔で見つめるカイル達。
修羅とリオンだけが諦めきれない顔で私を見ていた。
彼の腰にあるシャルティエでさえ、何かを伝えようと声とコアクリスタルを光らせているけれども、今の私には何を話されているのか理解出来なかった。
ジリッとにじり寄る修羅とリオンを見た瞬間、オタオタが私を守るように飛び出していく。
それを慌てて私が掴めば、流石に修羅もリオンも武器に手をかけたが、武器を構える事まではしなかった。
帰る姿勢を見せない彼ら…。
さぁ、どうする……と私が頭を回転させていれば、今の私にとって救いの人物が目の前に現れる。
「────遅くなりました。助けに来ましたよ、スノウ・エルピス。」
「!!」
ハッとして顔を上げれば、不敵な笑みを浮かべて武器を構えるアーサーがいた。
流石にアーサーを見た瞬間、カイル達が武器を手に取って警戒をし始める。
周りを見て「ふむ。」と零したアーサーの近くに寄れば、アーサーは何を思ったのか私の頭を撫でてきた。
「なるほど、囲われていましたか。これは逃げられないはずですねぇ?」
「《能天気に分析しないで貰えないかな?困ってるんだ。》」
「えぇ、分かっていますよ。貴女が避難場所に向かわないのを不思議に思っていましたが、急いで来てみて正解でしたねぇ?危うく、貴女を誘拐されそうになりましたよ。」
「〒^*×→%!!」
「スノウ!そいつを信用するな!こっちに来るんだ!!」
「……喧しいですねぇ。修羅、あなたの言葉が一番厄介だと何回言えば分かりますか。」
「今のスノウには〈星詠み人〉の言葉しか聞こえない…。あんたがヒントを残したんだぜ?」
「!!」
私が思わず修羅を見た瞬間、確信を得た顔をさせたリオンと修羅。
それをアーサーは面白くなさそうに見下ろしていた。
「……この状況といい、何処から情報が漏れているのか…。全く……何処にもいない彼女を探し回っていれば良かったものを…。……良いでしょう。そこまで言うのではあれば、ボクが直々にここで倒して差し上げましょう。彼女は渡しませんよ!」
「ほざけ!!倒されるのはあんただ!アーサー!!」
武器を構えて一触即発な空気。
しかし、それを壊したのは意外なメンバーだった。
「────!」
「アーサーよ!緊急事態だ!」
「……なんですか。こんな時に緊急事態とは…。」
「例の男が発見された!!場所はハイデルベルグだ!!」
「「!!!」」
双子に玄、花恋という幹部クラス全員がやってきてその報告をする。
私とアーサーがその報告で息を呑んだのは同時だった。
そして私たちは示し合わせた訳でもないのに、お互いを見て大きく頷いた。
こんな事をしている場合では無い。
早く男の手がかりを探りに行かなくてはいけなくなった…!
「玄!花恋!それから麗花と飛龍!ここは任せました!!……スノウ・エルピス、準備は良いですね?」
「《勿論だ。早く行こう!》」
「スノウ!その子、預かるわ!」
手を伸ばしてきた花恋にオタオタを預けた私はすぐに黒いローブに身を包み、アーサーの近くへと寄った。
アーサーは私の肩に手を置き、すぐに瞬間移動を開始した。
こうして私は彼らから上手く逃げ切ることが出来たのだった。
……勿論、罪悪感もある。
でも…これは私が選んだ道であり、夢見ることを諦めた私の末路だから。
だから────頼むから、もう来ないでくれ。
…
…………
…………………………
___ハイデルベルグ・城下町
ハイデルベルグの城下町へと辿り着いた私たちはすぐに例の男の捜索を開始した。
今回ばかりは彼らがレスターシティにいると分かっているから、大胆な行動が出来るのが救いだ。
私は周りを念入りに見渡しながら、例の白い男を探した。
しかし、その服装をしている人達も、その白い男も……全くと言っていいほど見つからなかった。
それを残念そうに俯いた私を励ますように、アーサーが私の頭を撫でてくる。
……いや、こればかりは諦められないんだ。
まだこれで目撃情報はたったの3回なのだから、これくらいで顔を俯かせてどうする。
これからまだまだ猶予はあるさ。
「《……居ないね。》」
「目撃情報はありますが……肝心の相手の逃げ足が早い…。それとも、何かあって街を去るのが早いのかもしれませんねぇ?」
「《何かって?》」
「例えば…ここはただの通過点だった…とかですかねぇ?こんな大きな街ですので、誰もがここを目的として滞在する、と普通なら考えるはずです。……しかし、そうではなくただの通過点であるとするならば…。」
「《目撃情報があってもすぐ逃げられる…。そういう事かい?》」
「えぇ。それが妥当な考えかと思います。なのでこの周辺を探れば何かしら出てくるかも知れませんねぇ?」
「《なら、周りを探ろう。……待っているだけじゃ、何も始まらない。》」
私が外に向かって歩き出せば、アーサーもそれに続いてついてくる。
ここら辺は何度も前前世で来た事のある場所だ。
何か違いがあればすぐに分かるはず…。
「《足跡がある…。》」
「お、これは当たりかもしれません。新しい足跡ですね。」
ハイデルベルグの街の外、外壁付近を回っていた私たちは真新しい足跡を見つける。
それはハイデルベルグから遠ざかるようにして、足跡が残っていた。
その跡を追ってみるが、大分奥深くまで続いていることが分かり、アーサーを振り返れば彼もまた何か考え事をしているようだった。
出来る限り足跡を辿ると、その足跡は途中で消えてしまっていた。
「(あぁ…。無くなったか…。)」
「ここまで、ですか…。」
アーサーが注意深く周りを見渡してから足跡が無くなった先をジッと見つめる。
しかし、何も分からなかったのか彼は首を横に振り、私を見下ろした。
「……今日はハイデルベルグで泊まりましょう。レスターシティに戻ると厄介な人たちがいるかもしれませんからねぇ。」
「《ありがとう。気を利かせてくれて。》」
「いえいえ。それくらいは当然ですよ。フッフッフッ……貴女とまさか、他の街で寝泊まりするとは思ってもみませんでしたが、これも何かの機会ですからね。ここは素直に街へ戻るとしましょうか。」
そうして足跡を辿り、また後戻りする私たちはハイデルベルグに到着して宿へと向かう。
しかし、その宿は私の知らない店だった。
「(こんな所にこんな宿……あったっけ?)」
「ここは、〈赤眼の蜘蛛〉の組織員が運営している宿です。一応各地の街にも〈赤眼の蜘蛛〉の組織員を張り巡らせているんですよ。」
「《なるほど。どうりで見た事も聞いた事もない店の名前だったはずだ。これでも一応、前前世で過ごしていた街だったからね?》」
「そうでしたか。なるほど、それならその言い分も分かりますね。」
話しながら中に入れば、アーサーは受け付けで何やらトランプのカードらしきものを差し出す。
その瞬間、私達を怪訝な顔で見ていた店員の態度が180度変わった。
「これはこれは…!アーサー様!こちらには何用で…?」
「仕事です。泊まる場所が無いのでここに来たまでですが……何かありましたか?そんなに慌てた様子を見せて。」
「いえいえっ!滅相もありません!〈赤眼の蜘蛛〉の創設者様がまさか…こんな辺鄙な地へ視察に来られるとは思わず…。」
「クックックッ…。まぁ、そうですね。中々ここへは視察に来られませんでしたから。……あぁ、部屋ですが…一人部屋を2つお願いします。」
「は、はいっ!ただいま手配させて頂きます!!」
そう言うと店員は、いの一番に駆けていき、奥から酷い物音を立てながら他の従業員に言い回っているのが、ここからでも丸聞こえだった。
それを呆れた顔をして見遣った私だったが、隣の人はどうやら違うらしい。
こういった事は慣れているのか、その様子を可笑しそうに見ている。
そして私を見下ろすと、準備の間を待つつもりなのか私の手を取り、暖炉の近くへと寄せられた。
近くの椅子に座るように促された私はそのまま何も言わずに暖炉の近くの椅子に座り、隣の椅子に彼も座って一息ついていたのを見ていた。
「《こういった事は慣れてるんだ?》」
「えぇ。良くあることですよ。たまに視察を兼ねて泊まりに来ると、ああやって大騒ぎされるものです。有名人は辛いですねぇ?」
「《創始者だから仕方ないんじゃないかな?私だって、もし宿屋経営していて国王様が泊まりに来たら、驚いて失神する自信がある。》」
「クックックッ。そこまでですか?貴女なら何の迷いもなく、堂々としていそうですけどねぇ。」
「《流石に一国の国王様が泊まりに来たら驚くよ…。彼らもそんな感じなんじゃない?》」
「たまに来れば従業員の良い緊張感となり、また気を引き締められるでしょう?」
「《たまに来るから余計にね。》」
そんな雑談をしていれば、店員さんが呼びに来てすぐに案内してくれる。
綺麗に片付かれた部屋に案内された私は、鍵のひとつを受け取り、彼と別れて部屋の中へと入ろうとすれば、向こうで彼と店員が何か話しているのが見える。
ブルブルと店員が震えている様子からして、何か脅しか、説教か何かをしているんだろう事が窺えた。
そのまま私は見て見ぬふりをして、部屋の中に入ってすぐにベッドで休むことにした。
……今は、何も考えたくない。
…
…………
…………………………
___翌日
宿屋の朝食を頂いた私は、そのまま優雅に紅茶を頂いていた。
流石ハイデルベルグとあって、懐かしい紅茶の銘柄ばかり揃えられていたので、それらを総なめするかのように飲み続ける私の前へアーサーが現れた。
いつもの黒いローブは外さずに、しかし見える口元はいつもの様にニコニコと何を考えているか分からない笑顔を宿していた。
こちらを見下ろしている彼を見上げれば、彼は「失礼しますね」とだけ言って私の前の席へと座り注文をとっていた。
「《おはよう、アーサー。》」
「おはようございます。今日も朝から早いですねぇ?」
「《大体は早いからね。》」
「最近は眠気もないのですね?」
「《むしろ、あの時だけだったよ。……まぁ、マナを回復して貰ったから、と言えばそれまでなんだけど。》」
「やはり、関係しているようですね。……それから、ひとつお聞きしたいのですが宜しいですか?」
「《どうぞ?》」
何を聞かれるのか、と身構えていれば意外な質問であった。
今後、戦闘になった際にどうするかという事だ。
確かに決めておいて損は無い。
私だってマナがない今の状態でどれほど出来るのか未知数ではある為、知りたいとも思っていた。
そう私が伝えれば、今日はレスターシティに戻らずに外で戦闘を試してみないかとのお誘い。
勿論、私が断るはずもなく、それを素直に受け入れればひとつだけ気になった。
……もしかして、まだ彼らがレスターシティに居座っているのだろうか、と。
「────あぁ、いえ。まだ連絡を取っていません。念の為、と言っておきましょうか。……彼らの執着は凄まじいですからねぇ?前の世界で痛感していますので、それを危惧して…というのもあります。」
「《やっぱりそうだよね。》」
レディが……リオンが、早々に諦めるとも思えない。
だって彼は…私と、とある約束をしてしまっているから…。
私は申し訳なさを感じて、ノートで謝罪すればクスリとひとつ笑われてしまった。
その後は、彼が朝食を食べ終わるのを待って、ハイデルベルグの外へと出る。
そして私の戦闘を見てもらい、今後のことについて話をつけた。
1.戦闘は極力アーサーに任せること。
マナが使えない分、一般人と変わらない能力まで落ちていることや、戦闘体系の幅が少ないことから無闇に戦闘に参加しないほうが良いとお互いに判断したのもあったからだ。
2.私の懐にある〈碧のマナ〉が装填された小銃は緊急時に使うことにする。
時間を掛けて〈碧のマナ〉が装填されるこの小銃をいつものように自分自身に使ってみたところ、いつもの"澄み渡る空のような蒼い髪"と"海色の瞳"に戻ることは出来た。
…しかし、それは一時的にだ。
その上、あの小銃は一度使えば暫くは使用出来ないことから緊急時での使用扱いとなってしまった。
勿論、元の姿に戻れば魔法だって使うことが出来る。
でも…マナの使用量によってすぐにまた黒髪黒目に戻ってしまったのだ。
装填されたマナの量だけしか使うことが出来なかったのが…本当に惜しい。
その2つを守ることを彼から強制され、私は大人しく頷いておいた。
だが、これをやったおかげで収穫もあった。
小銃を使えば、また元の姿に戻ることは出来る。
…何故か声は一度も出せなかったが、それでも魔法が全く使えないよりはマシだと思う。
その日は結局、戦闘の話だけで終わってしまい、宿に戻って各自休むことにしたのだった。
(*スノウside)
リオン達との交戦があった翌日のこと。
普段通りに過ごそうとした私の耳に館内放送が聞こえてくる。
それに耳を傾ければ、どうやら花恋がやらかしたようだ。
『緊急放送…緊急放送……。現在、調教師の育てた魔物が館内を徘徊中…。見つけた人は魔物を捕獲した後に部屋番号SMー6730まで連れてきて下さい。繰り返します。緊急放送…緊急放送……。現在、調教師の────』
「(これは大変そうだなぁ…?私はマナが使えないから捕獲には向いてないし…。)」
『現在徘徊中の魔物は……オタオタ、ピヨピヨです。見つけた方は部屋番号SMー6730まで連れてきて下さい。』
魔物の名前を聞いた瞬間、スノウは思った。
────〝これなら手伝えるかもしれない〟と。
オタオタは所謂水色のオタマジャクシのような可愛らしい魔物だし、ピヨピヨは読んで字のごとくヒヨコである。
どちらにせよ、そんなに苦労しないだろうと踏んでいたスノウだが……後にこの時の判断を後悔することとなる。
それは何故なら……どちらもすばしっこい魔物だったからだ。
元気がよく、飛び跳ねて移動をするオタオタ。
ピヨピヨと鳴きながら、あの短い足を使って高速で動くピヨピヨ……。
いずれも捕獲するなら何か策を考えなければ苦労必須の相手であったからだ。
「(あれ…?ちょっと待って…?これ、すごいものに手を出してしまったんじゃないかな?私……。)」
痛感する相手であると分かったのは意外にも早い段階だった。
目の前から現れたオタオタの集団を見逃さずに腕を伸ばしてみるも、それを掻い潜るようにしてすり抜けていくオタオタ。
私はそれを何度か体験したあと、後悔の溜め息を吐いていた。
「(まさか…こんなに大変な作業だと、誰が思うだろうか…?可愛い見た目のくせしてすばしっこいのが難点だね。……でも、捕まえた時のあのモチモチ感…堪らないんだよなぁ…?)」
オタオタは見た目がオタマジャクシなだけあって、水の近くに棲息する魔物だ。
体表は当たり前のように湿気ているものの、持ち上げて抱きしめてみれば、すぐにモチモチ感を体感出来ることだろう。
それが、今の私には堪らないアイテムだった。
昨日の一件があった分、癒しがここで摂取できて満足だ。
午前中から昼を過ぎてもやっている私に声を掛けたのは、偶然にもアーサーだった。
「休息も大事ですよ。スノウ・エルピス。」
「《うん、ありがとう。でもあと少しで終わりらしいから、それが終わってから休憩にするよ。》」
「分かりました。くれぐれも怪我のないよう、お願いしますね。……その頭のやつがまだ取れてないので怪我をしていると毎度勘違いしますがねぇ?」
「《そうなんだよ…。まだ取れないのかい?これ。》」
「まだまだデータ採取中だそうです。ですから外すのは勘弁してくれ、と医療班から通知がありました。」
「《……脳波を調べるついでに私の事も観察してるのか…。》」
「ある意味、監視ではありますがねぇ。貴女が外に出ないように監視の意味も込めています。」
「《出れる訳ないよ。ここの監視、意外にも強固なんだから。》」
いつだったか、外に出ようとして研究員の人に酷く止められたことがある。
その他にも研究員だけでなく、〈星詠み人〉らしき一般人までも私を呼び止める始末。
その時から外に出るのは諦めた事があった。
それを素直に伝えれば、アーサーは少し顔を険しくさせて私を見下ろしていた。
まだそんなに顔を崩すほどの事はしてないつもりだけど?
「……ともかく、休憩を挟みつつお願いしますね。」
「《はいはい。分かったよ。》」
そう言って満足した顔になったアーサーは、自らの仕事場である執務室に向かっていったのを私は見送る。
そしてまた私はオタオタとピヨピヨの捜索と捕獲の仕事へと戻るのだった。
「(お、丁度いい所にオタオタだ…!)」
次の獲物を見つけた私は急いでオタオタを追いかける。
何度も何度もオタオタにすり抜けられ、気が付けば大分研究所の端まで来ていた。
それに気付きながらも私は目の前のオタオタをどうしても逃がしたくなくて、一生懸命手を伸ばす。
ようやくオタオタを掴んでそのモチモチ感を堪能しようとした、その刹那────
ブー!ブー!
『……緊急放送です。侵入者あり…侵入者あり…。スノウ・エルピスは直ちに避難を開始してください。繰り返します。侵入者あり、スノウ・エルピスは直ちに避難を開始してください。』
「(指名あり、という事は…!)」
「¥○#!!」
赤い警告色の光が辺りを包み、緊急放送もあった後、私が息を呑んで避難を開始しようとしたその時……彼らが目の前に現れた。
オタオタを思わず抱きしめる力を強めれば、オタオタも危機を感知したのかブルッと身震いをした。
「スノウ!!」
修羅の言葉だけが、今の私には救いの声だった。
しかし、緊急放送があった今、私がオタオタを持って逃げようとすれば、それを防ぐかのように後ろにリオンが……そして前には彼らが私を囲うようにして移動をしてしまい、私は逃げ場を失くした。
周りを見渡しても隙のない陣形に見える。
……あぁ、失敗したな…?ここまで研究所の端に来れば、侵入者が来た時にすぐ鉢合わせる事など予想ついただろうに。
私は周りの人達を睨むようにしてオタオタを抱きしめる。
しかしそんな私に物怖じせずに声を掛けてきたのは修羅だけだった。
まるで私が修羅の言葉しか理解しないと、彼ら自身が分かっているかのように。
「スノウ。あんた、俺の言葉は分かるよな?」
「……。」
「色々言いたい事はあるけど…。まずはこれだけ言わせてくれ。俺達はあんたと敵対するつもりは無い。だから…こんな所から抜け出して俺達と行こうぜ?〈赤眼の蜘蛛〉なんかに依存する必要なんてないんだ。ここは…地獄だ。」
以前、修羅は〈赤眼の蜘蛛〉にいた。
そこから私を助ける為に〈赤眼の蜘蛛〉を裏切り、遂には〈赤眼の蜘蛛〉を追われる立場になってしまっている。
それを分かっている。…けれども、今の私に必要なのは……〈赤眼の蜘蛛〉の情報網だけだ。
早くこの状況を打破したい。
それに……一度彼らを裏切った私を、私自身が許せていない。
だから、もう彼らの仲間になることを諦めたんだ。
感動の再会も、仲間になってまた旅する事を夢見ることも…もうしない。
「……。」
目を閉じてゆっくりと首を横に振った私を、泣きそうな顔で見つめるカイル達。
修羅とリオンだけが諦めきれない顔で私を見ていた。
彼の腰にあるシャルティエでさえ、何かを伝えようと声とコアクリスタルを光らせているけれども、今の私には何を話されているのか理解出来なかった。
ジリッとにじり寄る修羅とリオンを見た瞬間、オタオタが私を守るように飛び出していく。
それを慌てて私が掴めば、流石に修羅もリオンも武器に手をかけたが、武器を構える事まではしなかった。
帰る姿勢を見せない彼ら…。
さぁ、どうする……と私が頭を回転させていれば、今の私にとって救いの人物が目の前に現れる。
「────遅くなりました。助けに来ましたよ、スノウ・エルピス。」
「!!」
ハッとして顔を上げれば、不敵な笑みを浮かべて武器を構えるアーサーがいた。
流石にアーサーを見た瞬間、カイル達が武器を手に取って警戒をし始める。
周りを見て「ふむ。」と零したアーサーの近くに寄れば、アーサーは何を思ったのか私の頭を撫でてきた。
「なるほど、囲われていましたか。これは逃げられないはずですねぇ?」
「《能天気に分析しないで貰えないかな?困ってるんだ。》」
「えぇ、分かっていますよ。貴女が避難場所に向かわないのを不思議に思っていましたが、急いで来てみて正解でしたねぇ?危うく、貴女を誘拐されそうになりましたよ。」
「〒^*×→%!!」
「スノウ!そいつを信用するな!こっちに来るんだ!!」
「……喧しいですねぇ。修羅、あなたの言葉が一番厄介だと何回言えば分かりますか。」
「今のスノウには〈星詠み人〉の言葉しか聞こえない…。あんたがヒントを残したんだぜ?」
「!!」
私が思わず修羅を見た瞬間、確信を得た顔をさせたリオンと修羅。
それをアーサーは面白くなさそうに見下ろしていた。
「……この状況といい、何処から情報が漏れているのか…。全く……何処にもいない彼女を探し回っていれば良かったものを…。……良いでしょう。そこまで言うのではあれば、ボクが直々にここで倒して差し上げましょう。彼女は渡しませんよ!」
「ほざけ!!倒されるのはあんただ!アーサー!!」
武器を構えて一触即発な空気。
しかし、それを壊したのは意外なメンバーだった。
「────!」
「アーサーよ!緊急事態だ!」
「……なんですか。こんな時に緊急事態とは…。」
「例の男が発見された!!場所はハイデルベルグだ!!」
「「!!!」」
双子に玄、花恋という幹部クラス全員がやってきてその報告をする。
私とアーサーがその報告で息を呑んだのは同時だった。
そして私たちは示し合わせた訳でもないのに、お互いを見て大きく頷いた。
こんな事をしている場合では無い。
早く男の手がかりを探りに行かなくてはいけなくなった…!
「玄!花恋!それから麗花と飛龍!ここは任せました!!……スノウ・エルピス、準備は良いですね?」
「《勿論だ。早く行こう!》」
「スノウ!その子、預かるわ!」
手を伸ばしてきた花恋にオタオタを預けた私はすぐに黒いローブに身を包み、アーサーの近くへと寄った。
アーサーは私の肩に手を置き、すぐに瞬間移動を開始した。
こうして私は彼らから上手く逃げ切ることが出来たのだった。
……勿論、罪悪感もある。
でも…これは私が選んだ道であり、夢見ることを諦めた私の末路だから。
だから────頼むから、もう来ないでくれ。
…
…………
…………………………
___ハイデルベルグ・城下町
ハイデルベルグの城下町へと辿り着いた私たちはすぐに例の男の捜索を開始した。
今回ばかりは彼らがレスターシティにいると分かっているから、大胆な行動が出来るのが救いだ。
私は周りを念入りに見渡しながら、例の白い男を探した。
しかし、その服装をしている人達も、その白い男も……全くと言っていいほど見つからなかった。
それを残念そうに俯いた私を励ますように、アーサーが私の頭を撫でてくる。
……いや、こればかりは諦められないんだ。
まだこれで目撃情報はたったの3回なのだから、これくらいで顔を俯かせてどうする。
これからまだまだ猶予はあるさ。
「《……居ないね。》」
「目撃情報はありますが……肝心の相手の逃げ足が早い…。それとも、何かあって街を去るのが早いのかもしれませんねぇ?」
「《何かって?》」
「例えば…ここはただの通過点だった…とかですかねぇ?こんな大きな街ですので、誰もがここを目的として滞在する、と普通なら考えるはずです。……しかし、そうではなくただの通過点であるとするならば…。」
「《目撃情報があってもすぐ逃げられる…。そういう事かい?》」
「えぇ。それが妥当な考えかと思います。なのでこの周辺を探れば何かしら出てくるかも知れませんねぇ?」
「《なら、周りを探ろう。……待っているだけじゃ、何も始まらない。》」
私が外に向かって歩き出せば、アーサーもそれに続いてついてくる。
ここら辺は何度も前前世で来た事のある場所だ。
何か違いがあればすぐに分かるはず…。
「《足跡がある…。》」
「お、これは当たりかもしれません。新しい足跡ですね。」
ハイデルベルグの街の外、外壁付近を回っていた私たちは真新しい足跡を見つける。
それはハイデルベルグから遠ざかるようにして、足跡が残っていた。
その跡を追ってみるが、大分奥深くまで続いていることが分かり、アーサーを振り返れば彼もまた何か考え事をしているようだった。
出来る限り足跡を辿ると、その足跡は途中で消えてしまっていた。
「(あぁ…。無くなったか…。)」
「ここまで、ですか…。」
アーサーが注意深く周りを見渡してから足跡が無くなった先をジッと見つめる。
しかし、何も分からなかったのか彼は首を横に振り、私を見下ろした。
「……今日はハイデルベルグで泊まりましょう。レスターシティに戻ると厄介な人たちがいるかもしれませんからねぇ。」
「《ありがとう。気を利かせてくれて。》」
「いえいえ。それくらいは当然ですよ。フッフッフッ……貴女とまさか、他の街で寝泊まりするとは思ってもみませんでしたが、これも何かの機会ですからね。ここは素直に街へ戻るとしましょうか。」
そうして足跡を辿り、また後戻りする私たちはハイデルベルグに到着して宿へと向かう。
しかし、その宿は私の知らない店だった。
「(こんな所にこんな宿……あったっけ?)」
「ここは、〈赤眼の蜘蛛〉の組織員が運営している宿です。一応各地の街にも〈赤眼の蜘蛛〉の組織員を張り巡らせているんですよ。」
「《なるほど。どうりで見た事も聞いた事もない店の名前だったはずだ。これでも一応、前前世で過ごしていた街だったからね?》」
「そうでしたか。なるほど、それならその言い分も分かりますね。」
話しながら中に入れば、アーサーは受け付けで何やらトランプのカードらしきものを差し出す。
その瞬間、私達を怪訝な顔で見ていた店員の態度が180度変わった。
「これはこれは…!アーサー様!こちらには何用で…?」
「仕事です。泊まる場所が無いのでここに来たまでですが……何かありましたか?そんなに慌てた様子を見せて。」
「いえいえっ!滅相もありません!〈赤眼の蜘蛛〉の創設者様がまさか…こんな辺鄙な地へ視察に来られるとは思わず…。」
「クックックッ…。まぁ、そうですね。中々ここへは視察に来られませんでしたから。……あぁ、部屋ですが…一人部屋を2つお願いします。」
「は、はいっ!ただいま手配させて頂きます!!」
そう言うと店員は、いの一番に駆けていき、奥から酷い物音を立てながら他の従業員に言い回っているのが、ここからでも丸聞こえだった。
それを呆れた顔をして見遣った私だったが、隣の人はどうやら違うらしい。
こういった事は慣れているのか、その様子を可笑しそうに見ている。
そして私を見下ろすと、準備の間を待つつもりなのか私の手を取り、暖炉の近くへと寄せられた。
近くの椅子に座るように促された私はそのまま何も言わずに暖炉の近くの椅子に座り、隣の椅子に彼も座って一息ついていたのを見ていた。
「《こういった事は慣れてるんだ?》」
「えぇ。良くあることですよ。たまに視察を兼ねて泊まりに来ると、ああやって大騒ぎされるものです。有名人は辛いですねぇ?」
「《創始者だから仕方ないんじゃないかな?私だって、もし宿屋経営していて国王様が泊まりに来たら、驚いて失神する自信がある。》」
「クックックッ。そこまでですか?貴女なら何の迷いもなく、堂々としていそうですけどねぇ。」
「《流石に一国の国王様が泊まりに来たら驚くよ…。彼らもそんな感じなんじゃない?》」
「たまに来れば従業員の良い緊張感となり、また気を引き締められるでしょう?」
「《たまに来るから余計にね。》」
そんな雑談をしていれば、店員さんが呼びに来てすぐに案内してくれる。
綺麗に片付かれた部屋に案内された私は、鍵のひとつを受け取り、彼と別れて部屋の中へと入ろうとすれば、向こうで彼と店員が何か話しているのが見える。
ブルブルと店員が震えている様子からして、何か脅しか、説教か何かをしているんだろう事が窺えた。
そのまま私は見て見ぬふりをして、部屋の中に入ってすぐにベッドで休むことにした。
……今は、何も考えたくない。
…
…………
…………………………
___翌日
宿屋の朝食を頂いた私は、そのまま優雅に紅茶を頂いていた。
流石ハイデルベルグとあって、懐かしい紅茶の銘柄ばかり揃えられていたので、それらを総なめするかのように飲み続ける私の前へアーサーが現れた。
いつもの黒いローブは外さずに、しかし見える口元はいつもの様にニコニコと何を考えているか分からない笑顔を宿していた。
こちらを見下ろしている彼を見上げれば、彼は「失礼しますね」とだけ言って私の前の席へと座り注文をとっていた。
「《おはよう、アーサー。》」
「おはようございます。今日も朝から早いですねぇ?」
「《大体は早いからね。》」
「最近は眠気もないのですね?」
「《むしろ、あの時だけだったよ。……まぁ、マナを回復して貰ったから、と言えばそれまでなんだけど。》」
「やはり、関係しているようですね。……それから、ひとつお聞きしたいのですが宜しいですか?」
「《どうぞ?》」
何を聞かれるのか、と身構えていれば意外な質問であった。
今後、戦闘になった際にどうするかという事だ。
確かに決めておいて損は無い。
私だってマナがない今の状態でどれほど出来るのか未知数ではある為、知りたいとも思っていた。
そう私が伝えれば、今日はレスターシティに戻らずに外で戦闘を試してみないかとのお誘い。
勿論、私が断るはずもなく、それを素直に受け入れればひとつだけ気になった。
……もしかして、まだ彼らがレスターシティに居座っているのだろうか、と。
「────あぁ、いえ。まだ連絡を取っていません。念の為、と言っておきましょうか。……彼らの執着は凄まじいですからねぇ?前の世界で痛感していますので、それを危惧して…というのもあります。」
「《やっぱりそうだよね。》」
レディが……リオンが、早々に諦めるとも思えない。
だって彼は…私と、とある約束をしてしまっているから…。
私は申し訳なさを感じて、ノートで謝罪すればクスリとひとつ笑われてしまった。
その後は、彼が朝食を食べ終わるのを待って、ハイデルベルグの外へと出る。
そして私の戦闘を見てもらい、今後のことについて話をつけた。
1.戦闘は極力アーサーに任せること。
マナが使えない分、一般人と変わらない能力まで落ちていることや、戦闘体系の幅が少ないことから無闇に戦闘に参加しないほうが良いとお互いに判断したのもあったからだ。
2.私の懐にある〈碧のマナ〉が装填された小銃は緊急時に使うことにする。
時間を掛けて〈碧のマナ〉が装填されるこの小銃をいつものように自分自身に使ってみたところ、いつもの"澄み渡る空のような蒼い髪"と"海色の瞳"に戻ることは出来た。
…しかし、それは一時的にだ。
その上、あの小銃は一度使えば暫くは使用出来ないことから緊急時での使用扱いとなってしまった。
勿論、元の姿に戻れば魔法だって使うことが出来る。
でも…マナの使用量によってすぐにまた黒髪黒目に戻ってしまったのだ。
装填されたマナの量だけしか使うことが出来なかったのが…本当に惜しい。
その2つを守ることを彼から強制され、私は大人しく頷いておいた。
だが、これをやったおかげで収穫もあった。
小銃を使えば、また元の姿に戻ることは出来る。
…何故か声は一度も出せなかったが、それでも魔法が全く使えないよりはマシだと思う。
その日は結局、戦闘の話だけで終わってしまい、宿に戻って各自休むことにしたのだった。