第二章・第1幕【裏切り者編】
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006.[幕間]悲しき運命。リオンSide
____〈無景の砂漠〉内の拠点〈サファイアヴィラ〉
僕たちは港町チェリクに辿り着いたあと、奴らの拠点であるレスターシティへ向かっていたはずだった。
しかし道中、僕たちを待ち構えていたのはオアシスの近くに建てられた街だった。
青い建物が視界を覆い尽くす中、街の噴水の水で涼を取るカイル達の姿を見た僕は思わずため息をついていた。
そしてそんな僕を見た修羅もまた、目を閉じてスノウの探知を行っているようだった。
「……。」
「…どうなんだ?ここにスノウが居そうか?」
『ここに居てくれたら探す手間が省けるんですけどね~。…でも、複雑です。ここって恐らく〈赤眼の蜘蛛〉の拠点ですよね?周りの人たち、全員が赤目をしています。』
「そうだな。拠点の中にスノウがいること事態、あまり良い想像ができないからな。」
今まで黙っていた修羅が、何かを見つけたように目を見開く。
そしてリオンを見て、険しい顔をさせた。
「…………違う奴なら居るようだぜ?」
『「え?/は?」』
「〈赤眼の蜘蛛〉創設者、アーサーがこの街にいる。…その横にいるやつは、変な反応をまとった奴だけどな…。」
『変な反応?』
「敵か?」
「分からないな。こんな反応見たことも聞いたこともない。まるで"バグ"ってるような反応だな。存在自体おかしなやつなんだろうさ。」
「ともかく、アーサーの奴に聞けるなら話は早い。態々奴らの本拠地に行かずとも聞けるならそうするに越したことはないんじゃないのか?」
「まぁ、そうだな。聞いてみるか…。あまり会いたくないやつだけどな。」
修羅がカイル達へ声を掛けて集合を促す。
水を浴びていたカイル、リアラ、ロニ、海琉の四人は修羅の元へと集まっていき、状況を聞いた。
その瞬間、皆の瞳にはスノウ捜索の文字だけが映し出されていた。
ここまで来てなんの収穫もないまま帰れないと思っていただけに、今回の修羅の提案は誰もが賛成だった。
……この後に起こる悲劇があるとも知らずに。
「お、居たぞ。あの黒づくめだな。………相変わらず、あの恰好なんだな。」
「おーーい。アーサーーー!!!」
カイルが果敢に挑んでいくのを仲間たちが呆れながら見ている。
幾らなんでも敵に緊張感がなさすぎる、と誰もが大きなため息をついた。
アーサーの方もカイルに気が付き、立ち止まる。
その後ろではもうひとりの黒づくめがアーサーの背中にぶつかっていた。
「…何用です?こちらは急いでいるので、手短にお願いしますよ。ボクを呼び止めたからにはそれ相応の質問があるのでしょうねぇ?」
「うん!そうだよ!あのさ、スノウ見かけなかった?」
「スノウ・エルピスですか?存じ上げませんねぇ?」
全身を黒いローブで隠しているアーサーは何の迷いもなくそう答えた。
それを逆に怪しむリオンと修羅。
他の人達はスノウの手がかりがなくて残念そうにしていた。
「…本当に知らないんだな?」
「えぇ。知りませんねぇ。」
「お前ら〈赤眼の蜘蛛〉の仲間に入ったわけでもない、と?」
「何ですか、その情報は。何処でそんなデタラメな話を?」
「…いや、違うならいいが。」
「これで終わりですか?ボクたちは先を急いでいるのでこれにて失礼しますよ。………行きますよ。もう話は終わりました。」
アーサーが後ろにいる人物に話しかける。
するとアーサーの後ろについて歩くその人物は、リオンよりも少し背が低く、丁度スノウの高さくらいの身長であった。
それを見ながら通り過ぎようとした二人を睨んでいたリオン。
その鼻に、とある香りが鼻をくすぐる。
咄嗟にその香りを嗅いだリオンは後ろの人物の腕を掴み、止めていた。
「………お前、スノウじゃないのか?」
「「「え?!」」」
『ま、まさか…!?』
その瞬間、アーサーが後ろにいた黒づくめを抱きしめて、リオンに向けて攻撃を繰り出す。
しかしただの牽制の攻撃だったので、威力はないものの攻撃外に避けたリオンは思わず大きく後退していた。
そして攻撃してきた張本人を睨みつける。
「何をする?!」
「これはボクの大事な人なので、触らないで頂けますか?」
そう言ってアーサーは、隠していた頭部分だけを取ってリオンを睨みつけた。
他の仲間たちもアーサーが武器を手に取ったことによって、急いで武器を持つ。
リオンはアーサーに抱きしめられている人物に話しかけた。
しかし全くと言っていいほど反応はなかった。
むしろ、顔を両手で覆い隠すような仕草をしている人物だったため、その後に続く言葉を少しだけ言い淀ませた。
泣いているのか、それとも恥ずがしがっているのか。
いずれにせよ、スノウと同じ"香り"を持つ人物を逃そうというリオンではなかった。
『スノウ!!スノウなら返事をしてください!!』
「………。」
その人物は、何故か顔を覆い隠し、顔を見せようとはしない。
その上、こちらの声にも全く反応がなかった。
アーサーがカイルやリオンに対して魔法を使うと、戦闘が始まってしまう。
リオンはすぐに標的をアーサーではなく、後ろの人物にしたが、それもアーサーによって止められてしまう。
何度かの攻防戦があった後、アーサーが一際大きく後退して黒づくめの人物の横へと身を落とす。
しかしアーサーはその人物を見た瞬間、驚いた顔を見せたのだ。
誰もがそのアーサーの表情を見て固まる。
そして謎の人物の謎の行動に誰もが目を丸くさせたのだった。
「「「「………。」」」」
謎の人物はこちらに背を向けて、悶えるようにして地面を叩いていた。
しばらくその光景を見つめた後、アーサーが大きなため息と共に呆れた表情をさせた。
「……何をしているんですか、貴女は…。」
それでもその呆れ顔には少しの笑いも含まれていた。
しかしそんな緩んだ状態のアーサーを見て、好機だと捉えたリオンが次々と攻撃を繰り出していく。
勿論、それを難なく返すアーサーだったが、リオンに対して静かに睨み、口元に弧を描く。
「……少し嫉妬してしまいますねぇ?」
「何を言っている?!」
「いえ、こちらの話です。お構いなく。さて…そろそろ行きますよ?────スノウ・エルピス。」
「「「「『「!!!?」』」」」」
アーサーがその名前を呼んだ瞬間、その場の空気が凍った。
何故なら、その場にいた人物でスノウという人物は…その謎の人物でしか無かったのだから。
地面を叩いていた人物はようやく立ち上がると、ノートに何かを書き始め、それをアーサーに見せる。
それを見たアーサーはフッと笑って、武器を構えた。
「変なことを言ってないで、ボクの近くへ。」
『待って!?スノウ!!!』
シャルティエの声で我に返ったリオンがそうはさせるか、とアーサーへの攻撃を激化させる。
カイルたちもスノウを説得しようと言葉を連ねるも、その言葉は今のスノウに通用しない。
そんなこと微塵も知らない仲間たちは必死にスノウへと声を掛け続けていた。
「スノウ!?何でそいつの側にいるの?!」
「スノウ、戻ってきて!」
「おいおい…何だって〈赤眼の蜘蛛〉なんかに入ってんだよ…!」
「────無駄です。貴方がたの言葉は彼女に効きませんよ。」
狂気の笑みをこぼし、仲間たちを嗤うアーサー。
それを見てリオンは唇を噛み、アーサーを睨みつけた。
やはり、スノウは〈赤眼の蜘蛛〉の仲間になっていたのか、と怒りと悔しさと憂いという感情がリオンの心を占めた。
「……そうですねぇ?"貴女がとても憎い"そうですよ?」
何かをノートへと書き連ねるスノウと呼ばれた黒い人物。
その黒い人物の書いた物を見てすぐに答えるアーサーに、仲間たちが食らいつく。
「オレたち、そんな事言ってないよ!!?スノウ!!」
「────」
「ええ。彼らはそう言っていますよ?ほら、怒鳴り声が聞こえるでしょう?全て、貴女に対しての怒号ですよ?」
「(…?なんだ、この違和感は。何故、あいつは態々紙に文字を書く?それに…まるでこっちの言葉が聞こえていないかのようだ…。アーサーの奴の説明が、異常に気になるな…?)」
『もしかして…声が聞こえていないんでしょうか…?』
「……だとしてもおかしい…。何故、アーサーの奴の声は聞こえている?」
『ですよね…?何で、こっちの声に反応がないんだろう、スノウ…。』
しばらく二人でのやり取りがあったらしく、アーサーの奴が大きく頷くのが見える。
リオンは逃がすか、とシャルティエを構えた。
「そうですね。これで決心がつきましたね?では戻りましょうか。"我々の帰る場所"へ。」
「────」
そんな時、今まで黙っていた修羅が声を荒げてスノウへと話しかける。
そしてそれは、今のリオンやシャルティエにとって驚きの反応を見せたのだ。
「スノウ!!なんで、なんであんたが〈赤眼の蜘蛛〉なんかに入ってるんだよ!!?」
「!!」
唯一、修羅の言葉だけには反応を示したのだ。
僅かに顔を上げてこっちを見たスノウ。
それにリオンだけではない、他の仲間たちまでもがハッと息を呑んで、修羅を見つめる。
早く、スノウを説得して。と言わんばかりに。
「……なるほど。あなたも〈星詠み人〉でしたねぇ?修羅。」
「何を言っている!?テメェが初めに〈赤眼の蜘蛛〉に俺をスカウトしたんだろうがよ!」
「少々あなたが厄介ですね…。スノウ・エルピス。早いところ帰りますよ。修羅の言葉に耳を傾けないように。」
「何だと…?!」
『もしかして、〈星詠み人〉の声だけは聞こえているんでしょうか?スノウ。』
「だとしたら、何もかもに説明がつく…。僕の声も、あいつら等の声も聞こえなかった理由が…!」
『〈赤眼の蜘蛛〉の実験台にされて…聞こえなくなってしまったとか…?!』
リオンとシャルティエがそんな話をしていれば、向こうも何かを話している。
咄嗟に走り出したリオンだったが、アーサーが空間移動の魔法を使おうとしているところだった。
しかし、どうしても逃したくないリオンが咄嗟にスノウの肩を掴み、揺すった…その瞬間────フードが取れてようやくその姿が露わになる。
そのスノウの姿は、"黒目に黒髪"であり、あの予知夢のときと同じ格好だったのだ。
その上、自分があげたアクセサリーも全て身につけていないと分かってしまい、リオンはその場で激しく動揺してしまった。
リオンのその一瞬の隙をつかれてしまい、結果、スノウとアーサーを取り逃がしてしまう事態となってしまう。
リオンが呆然と立ち尽くすその場には、絶望の空気しか漂っていなかった。
「………。」
『どうして…。どうして、こうなるのっ…?!』
顔を俯かせたリオンに、初めて声を掛けたのはカイルだった。
「ジューダス。」
未だにその名前で呼んでいるらしいカイルが、心配そうな顔でリオンを見つめる。
リアラもその横で胸の前に手を当てて、リオンの答えを待っているようだった。
「……一度、宿屋に行くぞ。今一度…物事の整理が必要だ…。」
「うん、分かった。ジューダスの言う通りにしよう、皆。」
「「あぁ。/ええ。」」
そうしてリオン達は、〈サファイアヴィラ〉の街の宿屋へと向かうことにした。
…全ては、状況を整理するために。
そして、心を落ち着かせるためにも、今の彼らには休息が必要だった。
各々少し休憩を挟み、夕食時に集まることにした仲間たちは宿屋を出ていく者もいれば、宿屋のベッドで少し休憩する者もいた。
そんな中、リオンは宿屋の休憩スペースでシャルティエと共に先程の話を続けていた。
…何か、打開策を見つかればいい。
そんな気持ちで二人は話し合った。
「………やはり、あいつは向こう側についていたか…。」
『坊ちゃん…。』
「あいつが何をされたのか、まるで見当が付かん…。…だが、先程の一件で分かったこともある。」
『…僕たちの声は聞こえず、〈星詠み人〉の声にだけは反応出来た…ってことですよね?』
「あぁ、そうだ。…正直、あいつらの科学力を以てすればなんて事ないんだろうが…。」
『声の識別をする毒物、ですか…?そんなもの、本当にあるんでしょうか?』
そんな毒物があるなら、発明したやつは相当な執念を持って開発したに決まっている。
後は奴が言っていた言葉が気になる。
〝────無駄です。貴方がたの言葉は彼女に効きませんよ。〟
……その言葉が。
何故僕らの声は届かないのだろう?
何故、〈星詠み人〉の声は届くのだろう?
「奴が言っていた、修羅の存在が厄介だと…。つまり今のスノウには修羅の声しか届かない。」
『なら、修羅に頑張ってもらうしかないって事ですよね?……なんか、奴に任せるのは納得がいきませんが…これもスノウの為です。我慢しますよ…。』
「そうだな…。今夜、あいつらと夕食になった時に話すとするか。」
『はい!今は少しでも休みましょう!スノウの事も一旦考えるのをやめておきましょう…。悲しくなってきます……。』
コアクリスタルが悲しそうな色を灯し、朧気に光を点滅させる。
それだけで、シャルティエが悲しんでいると分かったリオンは目を閉じてはやって来る悲しく、虚しい心を押し殺した。
。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。♪。
___その日の夕食時
リオンはシャルティエと話して浮かび上がった仮定の話を夕食時に話した。
初めは誰もが不安な顔を浮かべていたが、リオンの諦めない心は誰も彼もの心を奮い立たせた。
そうしてスノウ奪還作戦の会議が始まる。
「ジューダスの話だと、今回の要って修羅の言葉って事だよね?」
「それについてなんだが…。俺はその話も重要だと思ってるが……スノウの目の色が黒だった事も気にかかる。あれはマナの汚染じゃないのか?」
修羅がリオンに向けてそう伝えると、少しのあいだ逡巡したリオンだったがすぐに首を横に振った。
「……あいつがマナ感知器でもあるピアスを外していたから何とも言えん。だが…そうか。その可能性もあるのか…。」
『それだったらこの浄化の鈴で鈴鳴を成功させればいいだけの話ですが……それだけの話でしょうか?それならスノウは、最初から坊ちゃんを頼っていたはずです。』
シャルティエの言葉を修羅に伝えると、修羅もまた考える仕草をして黙ってしまう。
全員が「確かに…」と言葉を失う中、〈星詠み人〉である修羅の言葉を伝えればスノウに届くはず、という話が再度浮上する。
結局、散々話し合った結果、その話が一番の決め手じゃないかという話に落ち着いてしまう。
現段階で効果のあるものを選ばないとスノウはきっと、戻ってきてはくれないだろう。
だからこそ、皆の期待は修羅の言葉になってしまっていた。
「じゃあ、明日はレスターシティだね!」
「各自、準備は怠るなよ?もしかしたらスノウとやりあう可能性だって無くはないんだからな。」
「「「おー!」」」
「探知も修羅にお任せって事よね?」
「…そういえばそうだな。あの反応がスノウだって事が俄に信じ難いが……やるしかねぇな。」
「……セルリアンの可能性もある…」
海琉の言葉に何人かが反応を示すが、それについては修羅が否定した。
「セルリアンの反応なら俺が間違えるはずがない。だから……あれは本当にスノウの反応なんだろうな。」
「じゃあ、明日はレスターシティで決定だな。」
「奴らのアジトに潜入となるから、ちゃんと睡眠を取ってヘマをしないようにしろ。」
「「「はーい。」」」
各自夕食を食べ終えて、夜を迎える。
明日の説得に向けて、とある人は眠れない夜を、とある人は気にせずにぐっすりと眠れた夜を過ごしたのだった。
____〈無景の砂漠〉内の拠点〈サファイアヴィラ〉
僕たちは港町チェリクに辿り着いたあと、奴らの拠点であるレスターシティへ向かっていたはずだった。
しかし道中、僕たちを待ち構えていたのはオアシスの近くに建てられた街だった。
青い建物が視界を覆い尽くす中、街の噴水の水で涼を取るカイル達の姿を見た僕は思わずため息をついていた。
そしてそんな僕を見た修羅もまた、目を閉じてスノウの探知を行っているようだった。
「……。」
「…どうなんだ?ここにスノウが居そうか?」
『ここに居てくれたら探す手間が省けるんですけどね~。…でも、複雑です。ここって恐らく〈赤眼の蜘蛛〉の拠点ですよね?周りの人たち、全員が赤目をしています。』
「そうだな。拠点の中にスノウがいること事態、あまり良い想像ができないからな。」
今まで黙っていた修羅が、何かを見つけたように目を見開く。
そしてリオンを見て、険しい顔をさせた。
「…………違う奴なら居るようだぜ?」
『「え?/は?」』
「〈赤眼の蜘蛛〉創設者、アーサーがこの街にいる。…その横にいるやつは、変な反応をまとった奴だけどな…。」
『変な反応?』
「敵か?」
「分からないな。こんな反応見たことも聞いたこともない。まるで"バグ"ってるような反応だな。存在自体おかしなやつなんだろうさ。」
「ともかく、アーサーの奴に聞けるなら話は早い。態々奴らの本拠地に行かずとも聞けるならそうするに越したことはないんじゃないのか?」
「まぁ、そうだな。聞いてみるか…。あまり会いたくないやつだけどな。」
修羅がカイル達へ声を掛けて集合を促す。
水を浴びていたカイル、リアラ、ロニ、海琉の四人は修羅の元へと集まっていき、状況を聞いた。
その瞬間、皆の瞳にはスノウ捜索の文字だけが映し出されていた。
ここまで来てなんの収穫もないまま帰れないと思っていただけに、今回の修羅の提案は誰もが賛成だった。
……この後に起こる悲劇があるとも知らずに。
「お、居たぞ。あの黒づくめだな。………相変わらず、あの恰好なんだな。」
「おーーい。アーサーーー!!!」
カイルが果敢に挑んでいくのを仲間たちが呆れながら見ている。
幾らなんでも敵に緊張感がなさすぎる、と誰もが大きなため息をついた。
アーサーの方もカイルに気が付き、立ち止まる。
その後ろではもうひとりの黒づくめがアーサーの背中にぶつかっていた。
「…何用です?こちらは急いでいるので、手短にお願いしますよ。ボクを呼び止めたからにはそれ相応の質問があるのでしょうねぇ?」
「うん!そうだよ!あのさ、スノウ見かけなかった?」
「スノウ・エルピスですか?存じ上げませんねぇ?」
全身を黒いローブで隠しているアーサーは何の迷いもなくそう答えた。
それを逆に怪しむリオンと修羅。
他の人達はスノウの手がかりがなくて残念そうにしていた。
「…本当に知らないんだな?」
「えぇ。知りませんねぇ。」
「お前ら〈赤眼の蜘蛛〉の仲間に入ったわけでもない、と?」
「何ですか、その情報は。何処でそんなデタラメな話を?」
「…いや、違うならいいが。」
「これで終わりですか?ボクたちは先を急いでいるのでこれにて失礼しますよ。………行きますよ。もう話は終わりました。」
アーサーが後ろにいる人物に話しかける。
するとアーサーの後ろについて歩くその人物は、リオンよりも少し背が低く、丁度スノウの高さくらいの身長であった。
それを見ながら通り過ぎようとした二人を睨んでいたリオン。
その鼻に、とある香りが鼻をくすぐる。
咄嗟にその香りを嗅いだリオンは後ろの人物の腕を掴み、止めていた。
「………お前、スノウじゃないのか?」
「「「え?!」」」
『ま、まさか…!?』
その瞬間、アーサーが後ろにいた黒づくめを抱きしめて、リオンに向けて攻撃を繰り出す。
しかしただの牽制の攻撃だったので、威力はないものの攻撃外に避けたリオンは思わず大きく後退していた。
そして攻撃してきた張本人を睨みつける。
「何をする?!」
「これはボクの大事な人なので、触らないで頂けますか?」
そう言ってアーサーは、隠していた頭部分だけを取ってリオンを睨みつけた。
他の仲間たちもアーサーが武器を手に取ったことによって、急いで武器を持つ。
リオンはアーサーに抱きしめられている人物に話しかけた。
しかし全くと言っていいほど反応はなかった。
むしろ、顔を両手で覆い隠すような仕草をしている人物だったため、その後に続く言葉を少しだけ言い淀ませた。
泣いているのか、それとも恥ずがしがっているのか。
いずれにせよ、スノウと同じ"香り"を持つ人物を逃そうというリオンではなかった。
『スノウ!!スノウなら返事をしてください!!』
「………。」
その人物は、何故か顔を覆い隠し、顔を見せようとはしない。
その上、こちらの声にも全く反応がなかった。
アーサーがカイルやリオンに対して魔法を使うと、戦闘が始まってしまう。
リオンはすぐに標的をアーサーではなく、後ろの人物にしたが、それもアーサーによって止められてしまう。
何度かの攻防戦があった後、アーサーが一際大きく後退して黒づくめの人物の横へと身を落とす。
しかしアーサーはその人物を見た瞬間、驚いた顔を見せたのだ。
誰もがそのアーサーの表情を見て固まる。
そして謎の人物の謎の行動に誰もが目を丸くさせたのだった。
「「「「………。」」」」
謎の人物はこちらに背を向けて、悶えるようにして地面を叩いていた。
しばらくその光景を見つめた後、アーサーが大きなため息と共に呆れた表情をさせた。
「……何をしているんですか、貴女は…。」
それでもその呆れ顔には少しの笑いも含まれていた。
しかしそんな緩んだ状態のアーサーを見て、好機だと捉えたリオンが次々と攻撃を繰り出していく。
勿論、それを難なく返すアーサーだったが、リオンに対して静かに睨み、口元に弧を描く。
「……少し嫉妬してしまいますねぇ?」
「何を言っている?!」
「いえ、こちらの話です。お構いなく。さて…そろそろ行きますよ?────スノウ・エルピス。」
「「「「『「!!!?」』」」」」
アーサーがその名前を呼んだ瞬間、その場の空気が凍った。
何故なら、その場にいた人物でスノウという人物は…その謎の人物でしか無かったのだから。
地面を叩いていた人物はようやく立ち上がると、ノートに何かを書き始め、それをアーサーに見せる。
それを見たアーサーはフッと笑って、武器を構えた。
「変なことを言ってないで、ボクの近くへ。」
『待って!?スノウ!!!』
シャルティエの声で我に返ったリオンがそうはさせるか、とアーサーへの攻撃を激化させる。
カイルたちもスノウを説得しようと言葉を連ねるも、その言葉は今のスノウに通用しない。
そんなこと微塵も知らない仲間たちは必死にスノウへと声を掛け続けていた。
「スノウ!?何でそいつの側にいるの?!」
「スノウ、戻ってきて!」
「おいおい…何だって〈赤眼の蜘蛛〉なんかに入ってんだよ…!」
「────無駄です。貴方がたの言葉は彼女に効きませんよ。」
狂気の笑みをこぼし、仲間たちを嗤うアーサー。
それを見てリオンは唇を噛み、アーサーを睨みつけた。
やはり、スノウは〈赤眼の蜘蛛〉の仲間になっていたのか、と怒りと悔しさと憂いという感情がリオンの心を占めた。
「……そうですねぇ?"貴女がとても憎い"そうですよ?」
何かをノートへと書き連ねるスノウと呼ばれた黒い人物。
その黒い人物の書いた物を見てすぐに答えるアーサーに、仲間たちが食らいつく。
「オレたち、そんな事言ってないよ!!?スノウ!!」
「────」
「ええ。彼らはそう言っていますよ?ほら、怒鳴り声が聞こえるでしょう?全て、貴女に対しての怒号ですよ?」
「(…?なんだ、この違和感は。何故、あいつは態々紙に文字を書く?それに…まるでこっちの言葉が聞こえていないかのようだ…。アーサーの奴の説明が、異常に気になるな…?)」
『もしかして…声が聞こえていないんでしょうか…?』
「……だとしてもおかしい…。何故、アーサーの奴の声は聞こえている?」
『ですよね…?何で、こっちの声に反応がないんだろう、スノウ…。』
しばらく二人でのやり取りがあったらしく、アーサーの奴が大きく頷くのが見える。
リオンは逃がすか、とシャルティエを構えた。
「そうですね。これで決心がつきましたね?では戻りましょうか。"我々の帰る場所"へ。」
「────」
そんな時、今まで黙っていた修羅が声を荒げてスノウへと話しかける。
そしてそれは、今のリオンやシャルティエにとって驚きの反応を見せたのだ。
「スノウ!!なんで、なんであんたが〈赤眼の蜘蛛〉なんかに入ってるんだよ!!?」
「!!」
唯一、修羅の言葉だけには反応を示したのだ。
僅かに顔を上げてこっちを見たスノウ。
それにリオンだけではない、他の仲間たちまでもがハッと息を呑んで、修羅を見つめる。
早く、スノウを説得して。と言わんばかりに。
「……なるほど。あなたも〈星詠み人〉でしたねぇ?修羅。」
「何を言っている!?テメェが初めに〈赤眼の蜘蛛〉に俺をスカウトしたんだろうがよ!」
「少々あなたが厄介ですね…。スノウ・エルピス。早いところ帰りますよ。修羅の言葉に耳を傾けないように。」
「何だと…?!」
『もしかして、〈星詠み人〉の声だけは聞こえているんでしょうか?スノウ。』
「だとしたら、何もかもに説明がつく…。僕の声も、あいつら等の声も聞こえなかった理由が…!」
『〈赤眼の蜘蛛〉の実験台にされて…聞こえなくなってしまったとか…?!』
リオンとシャルティエがそんな話をしていれば、向こうも何かを話している。
咄嗟に走り出したリオンだったが、アーサーが空間移動の魔法を使おうとしているところだった。
しかし、どうしても逃したくないリオンが咄嗟にスノウの肩を掴み、揺すった…その瞬間────フードが取れてようやくその姿が露わになる。
そのスノウの姿は、"黒目に黒髪"であり、あの予知夢のときと同じ格好だったのだ。
その上、自分があげたアクセサリーも全て身につけていないと分かってしまい、リオンはその場で激しく動揺してしまった。
リオンのその一瞬の隙をつかれてしまい、結果、スノウとアーサーを取り逃がしてしまう事態となってしまう。
リオンが呆然と立ち尽くすその場には、絶望の空気しか漂っていなかった。
「………。」
『どうして…。どうして、こうなるのっ…?!』
顔を俯かせたリオンに、初めて声を掛けたのはカイルだった。
「ジューダス。」
未だにその名前で呼んでいるらしいカイルが、心配そうな顔でリオンを見つめる。
リアラもその横で胸の前に手を当てて、リオンの答えを待っているようだった。
「……一度、宿屋に行くぞ。今一度…物事の整理が必要だ…。」
「うん、分かった。ジューダスの言う通りにしよう、皆。」
「「あぁ。/ええ。」」
そうしてリオン達は、〈サファイアヴィラ〉の街の宿屋へと向かうことにした。
…全ては、状況を整理するために。
そして、心を落ち着かせるためにも、今の彼らには休息が必要だった。
各々少し休憩を挟み、夕食時に集まることにした仲間たちは宿屋を出ていく者もいれば、宿屋のベッドで少し休憩する者もいた。
そんな中、リオンは宿屋の休憩スペースでシャルティエと共に先程の話を続けていた。
…何か、打開策を見つかればいい。
そんな気持ちで二人は話し合った。
「………やはり、あいつは向こう側についていたか…。」
『坊ちゃん…。』
「あいつが何をされたのか、まるで見当が付かん…。…だが、先程の一件で分かったこともある。」
『…僕たちの声は聞こえず、〈星詠み人〉の声にだけは反応出来た…ってことですよね?』
「あぁ、そうだ。…正直、あいつらの科学力を以てすればなんて事ないんだろうが…。」
『声の識別をする毒物、ですか…?そんなもの、本当にあるんでしょうか?』
そんな毒物があるなら、発明したやつは相当な執念を持って開発したに決まっている。
後は奴が言っていた言葉が気になる。
〝────無駄です。貴方がたの言葉は彼女に効きませんよ。〟
……その言葉が。
何故僕らの声は届かないのだろう?
何故、〈星詠み人〉の声は届くのだろう?
「奴が言っていた、修羅の存在が厄介だと…。つまり今のスノウには修羅の声しか届かない。」
『なら、修羅に頑張ってもらうしかないって事ですよね?……なんか、奴に任せるのは納得がいきませんが…これもスノウの為です。我慢しますよ…。』
「そうだな…。今夜、あいつらと夕食になった時に話すとするか。」
『はい!今は少しでも休みましょう!スノウの事も一旦考えるのをやめておきましょう…。悲しくなってきます……。』
コアクリスタルが悲しそうな色を灯し、朧気に光を点滅させる。
それだけで、シャルティエが悲しんでいると分かったリオンは目を閉じてはやって来る悲しく、虚しい心を押し殺した。
。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。♪。
___その日の夕食時
リオンはシャルティエと話して浮かび上がった仮定の話を夕食時に話した。
初めは誰もが不安な顔を浮かべていたが、リオンの諦めない心は誰も彼もの心を奮い立たせた。
そうしてスノウ奪還作戦の会議が始まる。
「ジューダスの話だと、今回の要って修羅の言葉って事だよね?」
「それについてなんだが…。俺はその話も重要だと思ってるが……スノウの目の色が黒だった事も気にかかる。あれはマナの汚染じゃないのか?」
修羅がリオンに向けてそう伝えると、少しのあいだ逡巡したリオンだったがすぐに首を横に振った。
「……あいつがマナ感知器でもあるピアスを外していたから何とも言えん。だが…そうか。その可能性もあるのか…。」
『それだったらこの浄化の鈴で鈴鳴を成功させればいいだけの話ですが……それだけの話でしょうか?それならスノウは、最初から坊ちゃんを頼っていたはずです。』
シャルティエの言葉を修羅に伝えると、修羅もまた考える仕草をして黙ってしまう。
全員が「確かに…」と言葉を失う中、〈星詠み人〉である修羅の言葉を伝えればスノウに届くはず、という話が再度浮上する。
結局、散々話し合った結果、その話が一番の決め手じゃないかという話に落ち着いてしまう。
現段階で効果のあるものを選ばないとスノウはきっと、戻ってきてはくれないだろう。
だからこそ、皆の期待は修羅の言葉になってしまっていた。
「じゃあ、明日はレスターシティだね!」
「各自、準備は怠るなよ?もしかしたらスノウとやりあう可能性だって無くはないんだからな。」
「「「おー!」」」
「探知も修羅にお任せって事よね?」
「…そういえばそうだな。あの反応がスノウだって事が俄に信じ難いが……やるしかねぇな。」
「……セルリアンの可能性もある…」
海琉の言葉に何人かが反応を示すが、それについては修羅が否定した。
「セルリアンの反応なら俺が間違えるはずがない。だから……あれは本当にスノウの反応なんだろうな。」
「じゃあ、明日はレスターシティで決定だな。」
「奴らのアジトに潜入となるから、ちゃんと睡眠を取ってヘマをしないようにしろ。」
「「「はーい。」」」
各自夕食を食べ終えて、夜を迎える。
明日の説得に向けて、とある人は眠れない夜を、とある人は気にせずにぐっすりと眠れた夜を過ごしたのだった。