第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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リアラを連れて帰った私達はカイル達に酷く心配された。
矢継ぎ早に質問され、リアラの事は誘拐されていたと正直に伝えた。
黒づくめの男が連れ去っていたという事も包み隠さず話したが、彼らの正体までは言わなかった。
彼らに不要な不安を押し付けたくはなかったから。
それに奴らの殺気に彼らは気付けはしないのだから、いつでも気を張っているのは私だけでいい。
ジューダスとカイルがリアラを寝かせようとリリスの家に戻る中、私はロ二の腕を掴んで引き止めていた。
「ん?スノウ、どうしたんだ?」
「《ロニにお願いがあります。》」
「お願い?スノウが、俺に……?」
「《はい。ここでは話せないので少し場所を移動しませんか?》」
「あ、あぁ……分かった。」
お礼を伝え、村の外れまで来た私達。
恐る恐る聞く彼に薄ら笑ってしまったのは仕方ないと思う。
自分でもロニにお願いごとをするなんて思わなかったから。
「……で、俺にお願いしたいことって?」
「《明日から私の稽古に付き合っては頂けませんか?》」
「稽古?なんの?」
「《剣の稽古です。》」
フリップを見てハッと息を呑んだロニはすぐに私の顔色を窺った。
真剣な眼差しでロニをひたすら見ていると困った顔をしながら頭を搔き始めた。
「……あー、ひとつ聞いてもいいか?」
「《はい、どうぞ。》」
「なんで俺なんだ?別にカイルやジューダスでもいいだろ?なのに、なんでわざわざ俺を名指ししたんだ?」
「《今回現れた敵は私を殺すことを目的としていました。応戦しましたが私では歯が立たなくて……。それが丁度大斧だったのです。だから斧を振り回す敵に慣れておきたいのです。ハルバートが斧とは少し違うのは分かっています。でも、少しでも慣れておきたいのです。》」
「……怖くねぇのか?」
ロニの問いの真意に気付けず、首を傾げる。
何に対しての怖さだろうか?
「だってよ……、それってまた戦うかもしれないことを想定してものを言ってるだろ?怖くねぇのかよ。その……言い方は悪ぃけどよ、殺されかけたんだろ?」
彼は察知能力が高い。
あの言葉たちだけで私が殺されかけたことを察知したのだから。
歯が立たなかったと言った時点でまぁ分かりそうなものだが、彼が察知能力が高いのは原作でもその片鱗を見せていたからだ。
空気を読む才能、だけど口下手だから喧嘩になってしまう。
原作ではジューダスやナナリーと特にそう言った関係が描かれていた。
「《彼は私だけを狙っていたので、どちらにせよ私はこれからも狙われる運命だと思います。皆さんと別れが来てしまった時に対応出来るようになりたいのです。》」
「別れ……」
いつまでも皆が一緒という訳にはいかない。
それにこの旅にも必ず終焉が訪れる。
言い訳にしかならないが、そうでも言わないときっと彼はこの話を無かったことにするだろう。
「で、スノウの気持ちを聞いてないんだけどよ?」
「《私の気持ち?》」
「怖くないかって聞いただろ?それの答えを今聞きたい。」
「《その答え次第では請け負って下さらない、と?》」
「まあ、そうだな…。それの返答次第って奴だな。」
私がどう言おうと彼は断るつもりだろうか?
正直気持ちなんて後でついてくるものだと思っているし、今答えなくともいいのでは、とも思う。
だが、彼の真剣な顔を見て私も気持ちを整理する。
「《本当は怖いです。確かに殺されかけたことも含めて。でも、一番は悔しいのです。何も出来なかった自分が不甲斐なくて、胸が苦しいんです。》」
正直な気持ちだ。
だからこそこうして斧の特徴を持つ武器を軽々と扱う彼に稽古を頼んでいるのだから。
私の目を見てロニが苦笑を滲ませ、視線を逸らした。
「本当は……どんなことを言われようと断ろうかと思ってたんだ。男尊女卑する訳じゃねぇけどよ。やっぱり女に武器を振り回すっていうのがどうも俺の中でしっくり来なくてな……。だけど、その気持ちが嘘じゃないって、お前の目を見て本気だって分かった。だから、やってやるよ。その稽古ってやつを。」
「!!!」
良かった。
これで少しは彼に対抗出来るだろう。
「《ありがとうございます。ロニ》」
「良いってことよ!仲間なんだからお互い様だろ?」
仲間……。
そう言われて嬉しいと思う自分と嘲笑する自分がいる。
このパーティに私は不要の産物。
君たちさえ守れればそれでいい。だから私を仲間なんて呼ばなくていい。
「《ありがとう》」
「どういたしましてだ。さーて!俺達も戻ろうぜ?カイルが心配してるかもしれないからよ!」
大きく頷き彼についていく。
在り来りなお礼を言って、心に蓋をする。前世からの私の常套手段。
彼らを守る手段は選ばない。
玄に打ち勝ち、修羅にも勝つ。
それが私のこの世界での存在意義だから。
またしても自嘲が口からこぼれた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
戻ってきた私たちをカイルとジューダスが駆け寄って心配してくれる。
ロニは先程の事を誤魔化してくれて、正直助かった。
まぁ、その誤魔化し方は彼らしいが…。
「いやぁ!ちょっとスノウと村の中をデートしてたんだよ!」
「もうロニったら、スノウにも手を出しちゃって…。ジューダスからもなんか言ってやってよ!!」
「……」
呆れている様子の彼に、ロニと一緒に苦笑する。
ありがとう。
そう口を動かすと、向こうもどういたしましてと口を動かした。
それにお互い笑ってしまう。
「なんか、ロニとスノウ仲良くなってない?」
「こまけぇこと気にすんなよ!!それよりリアラの具合はどうなんだ?」
「あぁ!大丈夫だって!怪我もしてないし、まだ目が覚めてないだけだってさ!」
「そうか。まぁリアラの目が覚めても船が直ってなきゃ意味がねぇんだが……ノイシュタットでどうなってる事やら……」
手を挙げ大袈裟な表現をするロニはカイルとリリスの家へ戻っていってしまった。
それを追いかけようとしてジューダスに止められる。
『ちょちょ、ちょっと、スノウ?!なんであんなやつなんかとデートなんてしたんですか?!!』
先にシャルティエが悲痛な叫びを吐露する。
それにジューダスが眉間に皺を寄せたが、彼も同じことを思っているようで言葉にはしなかった。
しかしシャルティエの言葉に反応しては行けないのでジューダスを見てわざとに首を傾げた。
すると彼は徐ろに溜息を吐いて、苦々しげに声に出した。
「本当にデートしてたのか?」
「《デートというより、買い物に付き合って頂いただけでして。》」
『それって、見る人によったらデートじゃん!!?なんで坊ちゃんとデートしてくれないんでぎゃあああああ!!!』
制裁場面に出くわすとどうしても笑いそうになっていけない。
背中の方に手を回し爪を立てているだろう彼に、もう一度首を傾げておいた。
「あいつの事が好きなのか?」
随分と直球な質問だ。
まるで彼との関係を疑われているようだ。
「《お兄さんみたいという意味合いでは好きです。》」
『なんだ……兄的ポジションですか……。坊ちゃんの宿敵かと思いましたよ…』
なんだ、宿敵とは。
まさか、ジューダスも兄的ポジを狙って…?!
いや、お父さんポジか…?!
どちらにせよ、貴方は私の一番の推しだから大丈夫です!!
変わらないオタク愛を心の中で炸裂させていると訝しげな表情へと変わった彼に疑問が浮かぶ。
何故そんな顔をしているのやら、私には検討がつかない。
「《どうかしましたか?》」
「……いや、何でもない。すまない、変なことを聞いて。」
「《いえ、大丈夫ですよ。さて、皆さんの所へ戻りましょう》」
ジューダスの返事を聞かず、すぐに移動を開始する。
先程の脳内オタク発言でニヤけそうになったので避難しなければ。
……少しだけ足取りが軽くなっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日。
カイルは相変わらず起きないし、リアラは未だ目覚めない。
私とロニは二人こっそりと村の外れに行き、お互い武器を持ち対峙していた。
「よし、言ったからにはちゃんとやらねぇとな!怪我したら遠慮なく言えよ!?さぁ、来い!」
「!!」
まだ何か言ってくるかと思っていたが、すんなり受け入れてくれたことを感謝する。
先にこちらが得物を振り回せば、彼がハルバートでそれを受け止める。
初めてお互いの戦い方を見るのだから、始めは様子見がいいだろう。
何度か軽い打ち合いをした後、どちらともなく距離を置く。
「へぇ、学者にしては戦い慣れてるんだな!」
「《遺跡に行く時は魔物が出ますから、護身術みたいなものです!》」
「護身術にしてはキレがいいし、ホント学者とは思えねぇぜ!」
するとロニの方から仕掛けてきたのでそれを受け流してみる。
玄のようなあそこまでの大斧ではないが、ハルバートもかなりの大きさがある。
それを軽々と振り回せることを考えればかなり彼は膂力があると見える。
それに間合いも絶妙だ。
ちゃんと攻撃出来る範囲内に常に身を置いているし、受け流すための距離の稼ぎ方も上手い。
やはり物語が進むにつれて彼もかなり強くなってきていたし、伸び代は沢山ある。
「どうした!?防戦一方か?!」
「!!」
一度大きく後退したがすぐに距離を縮められてしまう。
彼特有の技かと思っていたが、思えば玄と戦った時も不思議な間合いの取り方をされていた。
斧を使う人特有の何かがあるのだろう。
やはり彼との稽古は間違っていなかった!
「…!!」
先程のお礼とばかりに素早い剣戟をお見舞する。
それに僅かに驚いた顔をされたが、笑いながらそれを受け止めている。
私の苦手な敵武器はきっと斧なのだろうな。
一撃必殺と言ってもいい彼の武器。
それに対して私のものは一撃必殺より明らかに複数ヒットを狙ったような武器だ。
一撃一撃が弱い分、彼の膂力にはかなり弱々しく感じるのだろう。
それでは悔しいので思わず銃口を向け魔法弾を発射した。
「(あ……)」
「ぐぇ、な、なんだ……これは…からだが……しびれる……」
思わず撃ってしまった魔法弾は麻痺弾だった。
そりゃあ、体が痺れるだろう。
思わずやってしまったことに苦笑してしまい、魔法を使う。
「(ディスペル)」
広範囲状態異常回復技、ディスペル。
それを放つと驚いたような顔をされた。
「スノウって、状態異常回復持ってんのか!すげぇな!」
「《いえ、こちらこそすみません。まるで子供相手にされているような余裕感があったので悔しくてやってしまいました。》」
「ははっ!なんだそりゃ!!スノウってその言葉遣いの割に子供っぽいんだな!!」
ロニのそれに苦笑いしてしまう。
そりゃあ、私だって悔しくなる時もある。
私の攻撃をあんなに笑いながら受け止められたら子供のそれのように思えて、無性に悔しくなったのだから。
「うーん、悪くはねぇんだけどよ…?なんつーか、決め手に欠けるってやつじゃねぇか?」
「(決め手に欠ける……)」
魔法は……確かに玄には効かなかった。
そしてその膂力の差からか、かなり力の差があったような気がする。
ロニのアドバイスに確かに、と納得出来る部分もありしばらく考え込んでしまう。
「そいつの技を見た訳じゃねぇけどよ?もしかしたら純粋な力で負けてるんじゃねえか?スノウは女の子だろ?そりゃあ力なんて男と比べりゃ歴然の差だろうし、そこがポイントなんじゃねえかって思うんだ。」
すごい。
私の剣戟を見ただけでそこまでアドバイスをくれるとは思っていなかった。
ただ、それをどうするかだが…。
「(うーん……)」
「良い線は言ってると思うぜ?ただ……やっぱり決め手がなぁ……」
決め手……決め手……?
以前やっていた他のゲームを思い出してみるが、有効打が出そうにない。
なんだ?
私にとっての決め手……。
「一旦休憩にするか!ずっとあれこれ悩んでても良い案は思いつかないぜ?」
「《そうします。》」
一度頭を切り替えよう。
そうでもしないと思いつかなさそうだ。
肩を竦め、村へと戻る彼についていく。
そろそろ昼時になったが、カイル達は起きているだろうか?
リリスの家に戻るとカイルは起きていたが、ジューダスはどこかへ出掛けているようで、どこにもいなかった。
「スノウちゃん、ちょっとジューダス君呼んできてもらえる?そろそろご飯にしたいんだけど。」
「《分かりました。》」
外に出て彼を探すが、村の中に居そうにない。
どこに行ってるのやら、と頭に指をやり魔法を使う。
「(サーチ)」
村の中は……やはり居ない。
村の外……それも結構外に出ているな、と溜息を吐き魔法ですぐに飛んでいく。
目を開けた先に飛び込んだ視界は意外なもので、魔物相手に戦っている彼の姿。
彼も特訓まがいのことをしているのか、と感心してその行く先を見守る。
手を出しては意味が無いだろうし、じっとそれを見つめる。
最後の敵を倒した彼は荒い息を吐き出し、呼吸を整えようとしている。
勝利のお祝いに拍手で迎えると驚いたような顔をしてこちらを見るジューダス。
「……はぁ、何の用だ」
「《そろそろご飯だそうで、呼びに来たんです。リリスさんに言われまして。》」
「……分かった。後で行く。」
シャルティエを背中に戻し、息を整える彼は汗を拭うとレンズと化した魔物を見遣る。
大量のレンズが落ちている。
それ程彼は魔物相手にここで鍛錬していたのだろう。
「……何か掴んだのか?」
「??」
何の話だと目を瞬かせていると溜息を吐かれる。
自身の剣を見せ付けるようにフラフラとさせる彼を見て、ようやく分かった。
彼はあの稽古を見ていたのだ。
それに苦笑いをこぼし、首を横に振った。
まだ全く感覚は掴めない。それどころか迷走中だ。
それにフゥと息を吐いた彼は剣を収めるとこちらへ歩み寄ってくる。
しかし、瞬時に先程仕舞ったはずの剣を抜き私の左首へとそれを突きつけたのを見て、目を見開き驚きを顕にした。
「……お前、左の視力が弱いんじゃないか?それか、その眼鏡が邪魔しているのか…。左に対しての認識が薄く、反応が鈍い。」
「(まさか、あれを見てそこまで…?)」
ロニのアドバイスも的確だが、ジューダスのアドバイスも的確だ。
やはりすごいな、彼らは。
剣を再び仕舞いながらアドバイスをする彼を苦笑いをしながら見る。
「恐らくその眼鏡が邪魔をしている。でなければお前があれくらいで遅れを取るなんて有り得ないからな。」
彼はどこまで見ていたのだろう?
急に恐ろしくなるな。彼の知らないことは無いかのようだ。
「モネ・エルピス……。スノウ、お前はやはりモネで間違いない。あいつとの勝負を見ていたが、その挙動に戦い方……おかしな点は何個か挙げられるがどれもほぼモネの戦い方で間違いはなかった。一番確信を持ったのは晶術だ。」
『モネ。君は状態異常回復技を沢山持っていたね。以前、坊ちゃんと共同任務だったあのカルバレイスでの討伐任務の時、何度も使っていたから分かったよ。君の晶術の痕跡はモネで間違いない。』
これは……まさかそんな事が分かるなんて。
確実な証拠を掴まれてしまったか、と思う反面、いやまだだ、と思う自分もいる。
「《晶術ですか?何かおかしかったでしょうか?》」
『モネ…。僕の声、本当は聞こえているんですよね?君は嘘が得意だ。だからこそ……今度こそ…間違える訳には行かない…!』
「教えてくれ、モネ。お前は何故そうまでして正体を隠すんだ…?それに何故未来を知っていた?」
「《仮に、私がモネさんだとして、モネさんは男だったはずです。私は女で性別が違うのはどう説明するのですか?》」
その疑問に以前は噤んでいたのに、今回はすぐに問いが帰ってくる。
「誰もモネが男なんて言っていない。男だと思い込んでいるだけだ。初めから女だったとしたら全てに納得が行く。その細身の剣を使っていたことも、男の割に体重が軽すぎる事も全て、な。」
そんな馬鹿な。
そんな事だけでモネ・エルピスを女性に仕立て上げるなんて。
しかし彼の瞳は諦めていなかった。
さらに追撃をかけるかのような彼の表情に後退りしそうになり、足をその場に縫い止める。
逃げたらダメだ、私がモネ・エルピスだと証明しているようなものではないか。
「では、お前がスノウだとして聞きたい。お前はモネ・エルピスの事をどう思っている?」
「《どう、と言われましても。彼は極悪非道で英雄の敵として現れた___》」
「それだ。」
目を細めこちらを見る彼は確信したように声を出す。
どういう事だ、史実がまさか捻じ曲がっているのか?
「スノウ。お前、どこからその情報を得た?」
「《それは本からですが……》」
「嘘だな。この世界の本でそんな情報は何処にも載っていない。」
「!?」
彼が嘘をついていると言えないのが苦しいところ。確かにモネ・エルピスについての本は1冊しか見つからなかった。
だが、私は彼らを裏切ったという事実がある。
なのに、何故違うと言いきれる?
「《いえ、何かで見たんです。それにそうじゃないと私が虐められていた理由がない。》」
「なら教えてやろう。この世界でのモネ・エルピスは罪人として存在していない。」
「っ!!?」
は?
何故……?
私は彼らを裏切ったのに、何故そうなっている。
「信じられないなら自分の目で確かめるがいい。ファンダリアにある歴史博物館に載っているお前は罪人ではなく、英雄として描かれている。」
なん、だと……?
何故罪人じゃない…?私は彼らの前に現れて彼らを裏切って、彼らを気絶させて……リフトのレバーを操作して……。
まさか…!?
「僕達ソーディアンチームを助けた英雄として、な。」
目眩がした。
ふらりとなるのを堪えるが、人間というのは信じられない事実を突きつけられると酷い目眩がするものだな、と今初めて知った。
呆然と膝を着き両手を地に着いた私を見て、悲しそうな顔を浮かべるジューダス。
「勉強不足だったな。モネ」
『これで論破しましたよ!!坊ちゃん!!』
「…………」
信じられない。
モネ・エルピスがまさか英雄として崇められているなんて…!
なら、彼が……、リオンが原作において罪人だった理由はなんだ…?
それこそおかしいじゃないか…!!
「スノウ。いや、モネ。本当の事を教えてくれないか?何故お前はあそこまでしなければならなかった?それに未来を知っていたのは何故だ?」
どうする…?
まだ他に論点がないか?
まだ私がスノウとしていられる何か…。
いや、もうない……。
私の手札でそれ以外の切り札などない。もう疾うに切り札など無かったのだ。
この髪色を変えなかったのも、瞳の色を変えなかったのも、全てまずかったのだ。
指を鳴らし魔法を解いた。私の声の魔法を。
「はは……。君達は本当にすごいね。流石だよ。」
『「っ!!?」』
声が出たことに驚いているのか、それとも勘が当たったとかそういう類いなのかは分からない。
元の声を出して、から笑いをする私をジューダスが悲痛な目で見てきた。
「何故声が出るのに声を失った真似を……!」
「君がいたからさ。リオン。君がまさか死んでこの世界に来ているなんて思ってもみなかった。それは私の役目だと思っていたからね……」
「……っどういう事だ。」
「そのままの意味さ。……君にバレることを危惧したんだよ。私がモネ・エルピスだという事実をね。」
『モネ…!僕はモネを恨んでいますよ…!!あの時、君が一緒にリフトに乗っていたらこんなことには…!』
「ふふっ、シャルティエ。あの時言っただろう?“では、誰がレバーを下ろす役目をすると?”とね?」
『それは…。でも他にも方法があったはずです!!君は最初からその選択しかないかのように選んでいた。取捨選択を諦めていたんだ!!』
責められる謂れは無いはずなのだが…、何故か私は今シャルティエに詰られているではないか。
それに嘲笑を零すと、ジューダスが悲しそうな顔になる。
「それも言ったはずだよ、シャルティエ?私は自分の信じる道を突き進んだ。そして、それは私の昔からの悲願を成就させた。だから捨て駒だろうとなんだろうと、何も文句は無いのさ。」
『モネ…!!』
泣きそうな声で呼ぶ彼に大きな息を吐く。
あぁ、どうしてくれようか。
計画がバレてしまうではないか。
眼鏡を押し上げ、彼を見遣る。
あ、本当だ。左の視力調整が上手くいっていないみたいだ。
それに苦笑してし、眼鏡を外すとハッとする彼。
「全く……。失敗したね。髪色や瞳の色を変えなかったことも。声を変えなかったことも。……まぁいい。今回の事でそれは特に問題じゃない。君たちにバレてしまったし……後は好きなようにさせてもらうさ。」
「待て、何処に行く気だ!?」
カチャリ。
腕を掴まれたので仮面の奥の彼の額に銃口を当てると、瞬時に彼の瞳が恐怖の瞳へと変わる。
無表情でそれを見遣る私をシャルティエが咎めた。
『モネ!!!駄目だよ?!!なんで君はいつもそうやって他人を避けるの?!!!』
「私は私の悲願を成就させる。それは誰であろうと邪魔は許さない…!」
『お願いだよモネ!!その悲願って一体何?!!モネを突き動かしているものって、成し遂げたい事ってなんなの?!!教えてよ、モネ!!!!』
「君達が知る必要は無いのさ。だから、おやすみ?ジューダス……」
無情にトリガーを引こうとした瞬間、彼の瞳が強い決意となって表出する。
咄嗟に下に避けた彼は気絶の魔法弾を避け、私を押し倒した。
銃口を突きつけようとしたが彼が先に私から武器を取り上げそれを投げ捨てた。
「くっ!?」
「……もう、嫌なんだ……。僕の知らない所でお前が死んでいる事も……、お前が苦しんでいることも…全て。」
「……」
暴れようとしたが彼の悲痛な声に動きを止める。
すると彼の瞳からポツリポツリと雫が落ちてきて私の頬を濡らした。
「!!」
泣いているのだ。
苦しそうに泣いていて、私を悲痛な目で見てくる。
今なら分かるよ、君と友達になったのは失敗だったってことがね。
こんな友達でごめんよ。
友を泣かせるなんて、本当に私は不孝者だな。
それに自嘲してしまう。
「やり直せるなら、君と会える前がいい。そしたら君と友達にはならなかっただろう。友を泣かせるなんて、私には耐えられないからね。」
「そんな事言わないでくれ…!僕はお前と会えて良かったと思っている!」
「ひとつ聞かせて欲しい。君が死んだ原因は私なのかい?」
「……」
沈黙が何よりの肯定だ。
そうか、私は彼を苦しめていたのか。
「私は駄目だな……。大事な友を苦しめているとは、ね…。……はぁ。」
力を抜き、天を仰ぐ。
彼の直接的な死因ではないにしろ、間接的に関係しているとは思ってもみなかったな。
ポロポロ落ちる涙をそっと拭う。
君は私のことをそこまで大切に思ってくれていたんだね。
それにも気付かなかったよ。
君を救うことで頭がいっぱいだった。
だから許してくれ、なんて烏滸がましいだろうか?
「煮るなり焼くなり好きにしたらいいさ。私はどちらにせよ死ぬのだからね。」
『「!!?」』
ハッとした顔になる彼の頬を撫でる。
まだ死ぬつもりは無いが、薄々分かっている事があるんだ。
私では【玄】に勝てない。恐らく死ぬだろう。
だが君達を守って死ねるなら本望だ。
だからせめて相討ちで道ずれにしたい。
彼を野放しにすると君達が危ないから。
「……それは、決まっている未来なのか…?」
「少なくとも現状では変わらない未来だ。……ふふ、案外近い未来かもしれないね?」
私も本当、意地悪なことだ。
そんな事言ってもしょうがないのに。
「……いつだ?」
「うん?」
「それはいつの未来のことを言っている?」
「さあ?いつだろうね?」
「真面目に答えろっ!!」
「本当に分からないのさ。でも、そうだね…、次に黒づくめの奴らが現れた時。その時が私の死期だ。」
『奴らは一体何者なんですか?気配が全くない上に全身見えなくしていて不気味なんですけど…?!』
「申し訳ないけど、言えない。忠告だ。これ以上は踏み込んでは行けないよ?」
「何故だ!!何故一人で全てを背負う?!!何故……お前が死ななければならない?!!」
「運命だからさ。」
「何を馬鹿なことを…!っ!?」
海底洞窟で君と会った時、同じ会話をしたね?
懐かしいよ。
最近色々なことがありすぎて、遠い昔の事のようだ。
同じ事を思ったのか口を噤んだ彼に笑うと、青筋を立てられた。
怒られても何も言えないよ。
「僕は運命なんて信じない…!!だから誰がなんと言おうとお前を救う!!」
「いや、駄目だ。君は私にかまけている場合ではない。君には君のやるべき事がある。」
「それはお前を見殺しにすることか?!!近くにいながら指を銜えて死ぬのをただ見ているだけか?!!」
「そうじゃない。そうじゃないんだ。君にはもっと大事な事がある。今は分からなくとも自ずと分かってくるはずだよ。」
「またお前は未来を知ってて何も言わない…!!!どうしてそんなに死にたがる?!!」
「…………死にたい訳じゃないさ……」
その言葉にハッとして口を噤んだ彼を見てからすぐに視線を巡らせる。
彼を押し退けながら彼の腰にある剣を引き抜き、振り翳し、その“殺気の元”へ振り下ろす。
しかし、簡単に私の剣筋は受け止められた。
「クスクス、助けに来たよ?スノウ」
「随分な挨拶じゃないか、【修羅】。まさか君が来るなんてね?」
『っ!?黒づくめの男?!!というより、なんでモネは彼の名前を?!』
「今はそんなことを言ってる場合か!!あいつが殺されるかもしれないんだぞ?!」
シャルティエを持ち、晶術の構えをするジューダスを見て修羅がニヤリとする。
それに反応したスノウが声を上げる。
「晶術を使うな!ジューダス!!」
『「!!?」』
「あーあ、言ったらつまらないだろ?スノウ」
「私が彼に忠告するだけでそんなに喚かないで頂きたいね?」
彼がニヤリと笑った理由が何となく分かる。
恐らく術反射の類いだろうから。
彼の剣で悪いがそれを使い、次々と修羅へ剣戟を打ち込んでいく。
それを受け止めたり、受け流したりしていく修羅。
その時、ジューダスが声を張り上げた。
「眼鏡を外せ!スノウ!!」
「!!」
今?!確かに外した方が良いけどさ!!
思わずツッコミそうになって心に留めた私を褒めて欲しい。
「クスクス、だってさ?似合わないんじゃないか?」
お互い距離を離すと修羅の口からそんな言葉が飛び出る。
それに肩を竦め、眼鏡を取る。
折角また付けていたのに再び外す羽目になるとは。
「あー、海色の瞳が綺麗だな、相変わらず。」
「褒めたって何も出ないよ?」
「本当の事だ。」
ジューダスが私の前に立ち、修羅を睨みつける。
それを面白そうに見遣る修羅。
黒い布から見える赤い瞳が嬉しそうに細められているのが分かる。
「あんたがジューダスか。さて、死の宣告と行こうか。あんたは今日ここで死ぬ。俺の手によってな!」
「僕は殺られない。こいつも殺らせはしない!!」
その死の宣告に反抗するかのようにシャルティエを修羅に一閃させた。
すぐに避ける修羅に追撃をかけ、ジューダスが勝っているように見えるが修羅の笑いは止まらない。
「クスクス。もっと来な…!!」
「チッ」
明らかに舌打ちをするジューダスは一度体制を立て直すように後退し、修羅との距離を置く。
『モネ!彼の弱点はないんですか?!』
「すまない、彼と戦うのは今日が初めてなんだ。」
「ふん、すぐに弱点を見つけてやる。」
「クスクス、あんたはやはりそういう性格なんだな。」
「!?」
ハッとスノウの方へ向いたジューダス。
それにスノウが大きく頷いた。
「彼は私と同じ、未来を知っている一人だ。」
「クスクス、そういう事だ。それから言っておこうか?あんたの手の内は知っている。術も技も全て。」
『そ、そんな…?!』
「残念なことと言えばシャルティエの声が俺には聞こえないことくらいか?スノウ、あんたは聞こえているんだろう?」
「あぁ、そうだね。とても綺麗な声だよ。」
「知ってる。」
褒められて嬉しいはずなのに素直に喜べない現状にシャルティエは複雑な気持ちだった。
ジューダスも修羅の言葉を聞いて、どう攻撃しようか迷っているように見えた。
「…ジューダス、ここは私に任せてくれるかい?」
「断る。お前……死ぬ気だろう?」
「スノウ、死ぬつもりがあったのか?」
「まぁ、色々あってね。君の所の奴のせいだけど?」
「あぁ、玄か。あいつはかなり強い部類だからな。昔からいる一人だが、未来は知らない奴だな。それに俺より戦闘狂だ。」
「君も人の事を言う前に自分を省みた方がいい。君も余程だ。」
「クスクス、それもそうか。」
得物を取りに行き、徐ろにそれを取る。
ジューダスの剣を元に戻し、お礼を言う。
「君の剣を勝手に使った。許してくれ」
「許すも何も、お前は僕を助けようとしてくれた。それだけで十分だ。」
「ふふっ、ありがとう。友よ。」
その言葉に目を見張り、少しだけ嬉しそうに目を細めた彼に笑いかける。
同時に剣を構えた私達に修羅が心の底から嬉しそうな顔になった。
やはり戦闘狂は手が付けられないな。
「行くぞ…!モネ!!」
「久々に援護させてもらいますよ?リオン?」
『僕もお手伝いしますよ!!僕のこと忘れないでくださいよ?!』
それに笑いながら顔を見合せ、大きく頷いた。
二人いれば大丈夫な気がするのは、何でだろうね?
とても不思議な気分だ。
シャルティエの合図で私達は同時に地を蹴った。