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第二章・第1幕【裏切り者編】

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「私の今世での名前です。」
「男装をしていた、前世での私の名前だ。」
「地球時代の時の名前だよ?……もう、捨てた名前ではあるけれども、ね…?」*未変換時は綴(つづり)です

003.〈赤眼の蜘蛛〉の拠点









スノウの筆談は「《○○○》」で、心の中で思った言葉に対しては「(○○○)」で表記しています。










途中でノートやペンを購入してもらったスノウは、道中でアーサーと筆談しながら〈赤眼の蜘蛛〉の拠点へと向かう。
そこは勿論、前の拠点と同じ場所のため、カルバレイス地方にある事になる。
そしてそこはスノウにとっては因縁の場所であった。


「────。」


船から降りた瞬間、ヘナヘナと座り込んだスノウを驚いた顔をして見遣るアーサー。
すぐに駆け寄って、黒いローブの中にある顔色を窺えば、スノウは筆談を試みた。


「《暑い……。》」
「もしかして、暑いのは苦手ですか?」
「《うん。実はそうなんだよ…。暑いのは昔から大の苦手で……。》」


ノートを見て、フッと笑ったアーサーは指をパチリと鳴らす。
するとそこは既に〈赤眼の蜘蛛〉の拠点の内部だった。


「(…瞬間移動か…!)」
「これなら暑さも無くなったでしょう?」


すぐに立ち上がったアーサーは、何処かを見据える。
そんなアーサーに倣ってスノウもその方向を見つめると花恋が近寄ってくるところだった。
反射的にフードを深く被ったスノウに、アーサーが少し笑えば花恋へと話し掛ける。


「おっかえりー♪アーサー!」
「えぇ、ただいまです。花恋。」
「?? 誰、この人。」
「見れば分かります。あなたにとっては、嬉しい報告かもしれませんねぇ?」
「?????」


花恋が疑問を持ちながら頭をこてんと傾ける。
そして花恋は遠慮なく座り込んでいるスノウの頭のフードを取ってしまった。


「えっ!?ウソっ!?スノウじゃなーい!!」
「今日から彼女は〈赤眼の蜘蛛〉の仲間です。仲良くしてあげてくださいね、花恋。」
「あったり前よ~~!!!よろしくっ、スノウ!!」


歓喜のあまり、抱き着いてきた花恋に目を丸くさせたスノウだったが、すぐにその抱擁を受け入れた。
優しく抱き締め返すスノウに花恋も嬉しそうに余計に力を強める。
しかし、忘れてはならない。
彼女は“拳闘士”であり、腕力はそこらへんの男よりも強いことを…。


「~~~~っ!!!?」


慌ててバシバシと体を叩くスノウに、アーサーが「あぁ…。」と零し、スノウを助けるために花恋へと声をかける。
それは今のスノウには救いの言葉だった。


「花恋。その辺にしておきなさい。彼女が死んでしまいますよ?」
「えぇ~?何で~?」


体を離した花恋は不思議そうな顔をスノウへ向けるが、既にそこには抜け殻状態で気絶しているスノウがいた。
それに驚いた花恋はスノウの体を何度も何度も揺する。
それを見てアーサーがヤレヤレと頭を振り、そしてスノウを助け出してあげた。


「花恋。彼女は怪我をしているんです。強引な事はしないように。」
「え?!怪我してるの?!」
「えぇ。どうやら石を投げられたようで、頭を怪我しています。今から治療班に見せますので…」
「……ねぇ。それ誰がやったの?私のスノウに……誰が傷をつけたの?」


凄みのある声でアーサーを睨む花恋。
しかしいつもの事なので、怯むことなくアーサーもそれに受け答えをする。


「とある森の中にある集落の子供ですよ。ですが花恋。そっちへ行くよりもスノウ・エルピスの事をお願いします。彼女を外部の人間と接触させないように……。今の彼女は我々の言葉以外、意味を理解出来ませんから。」
「どういうこと?あの博士、そんな変な薬でも作ったの?」
「いえ。まぁ…色々あったみたいです。彼女にも。」


ここで男の話をすれば、きっと飛び出していくことなど目に見えている。
アーサーは最初から分かっていたからこそ先程言葉を濁し、そう伝えた。
すると花恋にしては珍しいことに、心配そうな顔を見せていた。
好奇心旺盛とはいえ、他者に興味のない花恋がアーサー以外で心配という感情を見せる唯一の存在。
アーサーがそう理解すれば、自然と口元は優しく笑みを零し、そのままスノウを抱き上げながら医療班の元へと連れていくのだった。










*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・








スノウが目を覚ませば、何処かに横たわらせられていた。
その上、頭には圧迫されているような違和感もあり、思わず頭を触ればそこには包帯が巻かれていた。
「なぜ包帯が?」という疑問が浮かぶと同時に、その疑問は近くにいた人物によって解決することとなる。


「お医者さんの話では、念の為だって~。」
「??」


声のした方へと顔を向ければ、そこにいたのは心配そうな顔をさせた花恋だった。
アーサーはこの場に居なかったが、話せる人物が近くに居たことに安堵したスノウは彼女へ話しかけようとして失敗する。
すっかり、声が出せないことを忘れていたのだ。
咄嗟に喉を押えたスノウを見逃さなかった花恋が、余計に心配そうな顔をさせてはスノウへと何処が痛いかなど問い詰めてくる。
挙句の果てには心配が度を越してしまい、医者を呼びに行ってしまう始末。
止めようとしたスノウだが、手を伸ばした先にはもう花恋の姿は無くなっていた。


「……。」


敵ながらも心配されたことに思わずフッと笑いを零してしまう。
だってあんなにも必死そうに心配されれば思わず笑ってしまうものだ。
自分はこんなにも元気なのに。

慌てて医者と共に駆けつけた花恋を見て、再び笑ったスノウに医者も花恋もポカンと口を開ける。
しかし無論、笑っていると言っても声は出ていないし空気だけが聞こえてくるだけ。
それでもその表情からも分かるように、スノウは笑っていたのだ。
それを見て慌てて駆けつけた医療班もひとつ笑いをこぼして帰っていく。
何人か居残って診察をすれば、やはり目立つのは声が出ないことである。
検査をしないか、と勧める医療班に少し考えたスノウだが、ここは何かが分かる事を期待してお願いすることにした。
無論、アーサーの許可がないと出来ないとは思うが。


「…あぁ、大丈夫です。アーサー様より、丁寧に診るよう言付かってますので。……あ、私の言葉、分かりますか?」
「《はい。分かります。お心遣い感謝します。》」
「いえいえ。では検査室の方へどうぞ。」


ベッドから立ち上がったスノウは、医療班の後についていく。
その後を花恋もついて行き、結果、一日の大半を検査に費やしたのだが……分かった事は何一つ無かった。
健康な体、異常のない検査データ。
医療班の人達がそれを見て頭を悩ますのを、申し訳なさそうにスノウが見遣る。
そこへアーサーがやってきた。


「結果はどうですか?」
「あぁ、アーサー様。えっと…結果なんですが……何処にも欠陥はありませんし、異常もありません。何故声が出ないのかは我々では…。」
「ふむ。想定内ですね。やはり貴女のマナが関係しているようです。……以前はマナを使って翻訳を?」
「《転生した時から出来ていたものだったから、気にした事が無かったんだ。だけど、こうなるともうそれしか考えられないよねぇ…?》」
「なるほど。分かりました。……花恋。少し彼女を借りますよ。」
「はーい。」


検査が終わったばかりのスノウを連れて、アーサーが何処かへと向かう。
道すがら周りの景色を見ていたスノウだが、立ち止まったアーサーに倣い、同時に立ち止まる。


「ここから先は普段は入らないよう、お願いします。」
「《分かった。だけど、ここは?》」
「私の執務室です。大事な資料が置いてあったりしますので、入られると少々困りますね。」
「《了解。〈赤眼の蜘蛛〉に入っている内は入らないようにするよ。》」
「フッフッフッ…。まるで将来〈赤眼の蜘蛛〉から抜けるような言い草ですねぇ?」
「《だから、君達の仲間になるのは“一時的”だと言っただろう?》」
「いえ、逃がしませんよ?ボクが貴女を逃がすとでも?」
「《……これは終わらない話になりそうだから、次の話に行こうか。》」
「フッ…。そうですね。では中へどうぞ?」


ガチャリと開けられた扉を潜り、中へと入れば整理整頓されている内装が窺えた。
アーサーが執務室の机の前に立ってスノウを振り返る。
その瞬間、スノウの体に異変が起きた。


「(な、何だ…?くる、しいっ…!!)」


体の中に何か異物が入ってくるような違和感。
何かを探るように身体の中へ入り込んできて、スノウは酷い苦痛に苛まれていた。
声なき悲鳴を上げながら苦しそうに自身の体を抱き締め、何かから逃れるように藻掻くスノウをアーサーは黙って見つめる。
アーサーの目には、今まさに〈狂気の神〉がスノウの体の中に入り込もうとする光景が映っていたからだ。


「(マナはまだ我々の研究不足の分野…。彼女の声が出ない理由にしろ、何にしろ、神に頼るのが早いのですよ。暫くはその苦痛の表情を見せてください、スノウ・エルピス。)」
「────っ、────!!!」


声が出ないのと言うに、まるで悲鳴が聞こえてくるかのようだ。
アーサーはそのスノウの苦痛の様子を見て、恍惚の表情を浮かべていた。
まるでそれは愛おしい者を見るような、狂おしい目つきであった。

そうして徐々にだが、スノウの体に入り込んでいく〈狂気の神〉。
時間をかけてスノウの体の中に入り込めば、先程まであれほど狂うように藻掻いていたスノウの身体がピタリと動かなくなる。
そしてその口元に、狂気の笑みを浮かべてゆっくりと顔を上げた。
そこには黒い瞳のままのスノウがいた。


「────。」
「……やはり、あなたでも声は出せませんか。」


何事もなく話し掛けるアーサーに、スノウは……否、スノウの体を乗っ取った〈狂気の神〉はまた声を出そうと口を開く。
しかし口から出たのは空気だけだった。


『…ふん。声が出せないのであれば別の方法で声を出してやろう。』
「あぁ、ようやく聞こえましたね。……あなたの声で、ですけどね。」
『仕方ないだろう?〈碧のマナ〉を持つ者の声が出ないようになっているんだからな。』
「で?どうだったのですか?彼女の体は。」
『確かに〈碧のマナ〉を感じないな。ただし…それはあくまでも表面だけの話だな。』
「……?」
『何処かに〈碧のマナ〉を内包している。だが…その場所の特定までは出来ん。この体の主が死なないのはマナが何処ぞに内包されているからだろうな。それすら無くなればいよいよ死んでしまうだろうな。』
「ふむ…、なるほど。」
『それから…嫌な奴の痕跡もあった。』
「ほう?あなたが嫌がる人がいるんですか?」
『人じゃない。“神”だ。』
「……他の神にお手つきされている、と言うのですか?」
『あぁ、この気持ち悪い痕跡はそうだろうな。あくまでも予想だがな。』


それでも〈狂気の神〉はスノウの体が心地よいのか、体の外へと出ようとしない。
それにアーサーがため息を吐けば、そのため息の理由が分かった〈狂気の神〉はスノウの顔でほくそ笑む。


『まぁ、待て。久しぶりの感触で酷く心地よい。暫くはこのままにさせろ。』
「……まぁ、壊れない程度にお願いしますよ?」
『お前に言われずとも分かっている。』


そうして暫くスノウの体を堪能するように目を閉じた〈狂気の神〉を見て、アーサーがため息をついてから仕事に戻る。
執務室の椅子に座ってそのまま何事もなく事務作業に入るのだった。





___数時間後


数時間に渡り、スノウの体を堪能した〈狂気の神〉が体の外に出ていき、気絶しているスノウを執務室のソファへと横たわらせたアーサー。
そのままアーサーが着ていた黒いローブをスノウにかけてやるという優しさを見せ、また仕事に戻ろうとする彼に神が話し掛ける。


『どうするつもりだ?』
「彼女が言っていた男を捜索するつもりです。何の力が働いているのか、興味もありますから。」
『声と潜在的なマナを隠す奇妙な術、か。』
「えぇ。それに彼女をそのままにしておいては謀反されかねません。それだけは避けたいので。」
『ふん。随分と回りくどく根回しするものだな?アーサーよ。』
「……これくらいしなければ、ボクの目的は果たせないということですよ。」


険しい顔をさせて仕事をするアーサーを、ニヤニヤと〈狂気の神〉が見つめる。
愉しそうに笑いながら仕事をするアーサーを暫く神は見届けていたのだった。






。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+






___2日後


〈狂気の神〉に身体を弄ばれ、スノウが次に目覚めたのは2日後だった。
ハッと目覚めたスノウは、体を起こし周りを慌てて見渡す。
そこは病院の様に真っ白で清潔感のある部屋であった。
そこのベッドで寝かせられていたスノウは、今までの記憶を手繰るようにして頭をフル回転させる。


「(えっと…私は何でこんな所に居たんだっけ…?確か…検査して……それからアーサーに呼ばれて……そしたら身体が…)」


そうだ。身体が急に苦しくなって気絶したんだ。
何をされたのか、と険しい顔しながら体の隅々まで見てみるが、今の所何もされていない。
早くも“信頼してはいけなかったか”と後悔さえある。
頭を悩ませ唸る、そんなスノウの元へアーサーが扉を開けて入ってくる。
その顔はすました顔をしていて、スノウは余計に侮蔑の眼差しを彼へと送ったのだった。
反対に、アーサーの方はそんなスノウを見て、“心外だ”とばかりに肩を竦ませている。
そして、アーサーはスノウのベッド横まで来ると、手に持っていた紙を手渡した。


「??」
「報告書です。貴女の身体に関する、全ての検査結果と仮定の診断書です。」


恐る恐る手に取ったスノウは、アーサーへの嫌疑を向けつつもその紙へと目を向けた。
そこには先日やった検査の結果と、アーサーの執務室で行われた例の件の報告書が書かれていた。

〈狂気の神〉によって体の中を調べたが、スノウの中にあるはずの〈碧のマナ〉の所在が全く分からなかったこと。
そしてマナはちゃんと内包されているものの、所在が分からず、恐らく魔法などのマナを使うものに関して使えないのではないか、といった推測も立てられていた。

意外にもちゃんとした報告書だったことと、執務室での出来事の理由を知ったスノウは、アーサーを見上げる。
そこには感想を待つかのようにノートとペンを持って待ち構えているアーサーがいた。
それを受け取ったスノウは、紙の上をペンで走らせる。


「《執務室の事は分かったよ。でも、事前に言ってくれればこんなにも君を疑わずに済んだのに。》」
「我が神からの注文でしたから。貴女へ事前に報告すれば、体の中へ入りにくくなるから言うな、という事でしてね。それで言わなかったんですよ。」


近くの椅子に座り、姿勢を正したアーサーはフッと笑いながらスノウを見る。
そのスノウの顔は、何処か複雑そうな顔をしていた。
まるで“言ってくれた方が気持ちの持ちようが違う”とでも言いたげに、だ。
だからアーサーは目を閉じて口元の微笑みを深くした。


「ですから言っているでしょう?貴女に伝えて心構えなんてされたら、ボクの神が貴女の身体の中へと入りくくなる、と。」
「《でも他にもやりようはあったと思うよ?何でも力に訴えかけるのは感心しないな?》」
「クックックッ…!まぁまぁ、その報告書に書かれたデータが分かっただけ良しとして下さい。……では、ここからは本題としましょう。」
「《……例の男の事だよね?》」
「はい。その男の件で貴女にお尋ねします。容姿や年齢、身長体重などの細かなデータを頂きたい。そうすれば、各地に散らばっている〈赤眼の蜘蛛〉の組織員に捜索願も出せますから。効率は格段に上がりますし、時間の短縮にもなります。」
「《勿論。寧ろ、こっちからお願いしたいくらいだよ。それについてはお礼を言いたい。本当にありがとう。》」
「いえいえ。それくらい、〈赤眼の蜘蛛〉の創設者兼、管理者として出来て当然です。」


アーサーがいつもよりも優しそうな表情を浮かべて笑うものだから、スノウが目を丸くさせる。
しかし、その表情を見て少しだけ……スノウの中ではまた彼への信頼を寄せる事が出来ていたのだった。
そこからは詳細に男の特徴を彼へ伝える。
髪色は白、服装も白。丸いメガネをかけていて、見た感じでは気の弱そうな男である。
しかしスノウにあそこまでやったのだから、見た目だけじゃ侮れない。
全ての思い出す限りの特徴を伝え切ったスノウは、ひとまずはホッと胸を撫で下ろす。


「《じゃあ、お願いします。》」
「えぇ。お任せ下さい。」


すぐに立ち上がり、扉の外へと向かおうとしたアーサーだったが、出る間際になって「あぁ…。」と思い出した様な声を出す。
そしてニコリと笑顔を見せて、スノウへ残酷な言葉を言い放つ。


「医療班の方々より、伝言です。2週間、そこで絶対安静だそうです。」
「《……え?》」
「“神”によって体を乗っ取られたんですから、多少体の不備があってもおかしくはないでしょう?仕方ないことですねぇ?」
「《ちょ、ちょっと待ってくれ!それって…2週間は例の男の捜索も出来ないって事じゃないか!》」
「えぇ、そうですよ?端からそう言っていますが…何か?」
「《何か?…じゃないって!私は早くあの男を見つけないといけないんだ!こんな所で立ち止まっていられないよ!》」
「ですが、医者がそう言っているのです。すぐに動ける体ではありませんよ。今の貴女の体は…ねぇ?」


愉しそうに笑いながら扉の向こうへ去っていったアーサーを「裏切り者ー!!」と書いた紙を持って反抗するスノウ
その紙を見なければ伝わないと言うのに、だ。
声無き声を聞き届けたアーサーは、執務室に戻りながら愉快そうに、可笑しそうに笑っていたのだった。


そこから2週間、スノウは本当に軟禁状態に遭い、検査という検査も重ねた。
所謂、人間ドックのようなものを何度か受けて、またあの病室に戻される。
そんな日々を送りながら、毎日様子を見に来るアーサーにジトリとした視線を向ける毎日なのだった。








.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚






スキット①
【人間ドックと検査】



アーサー「どうですか?検査の方は。」

「《毎日毎日有難いことに、受けさせてもらってるよ。毎日ね!!》」

アーサー「フッフッフッ…!まぁまぁ…、人間ドックだと思って受けて下さい。16という若さで受けるものではありませんがねぇ?」

「《だろう? それに、毎日毎日ここに戻される。検査してくれて有難いけど、飽きたよ。》」

アーサー「あぁ、すみません。配慮が足りず。折角なら何か仕事を多少頼んでも?」

「《何をすればいい?》」

アーサー「簡単な資料整理をお願いしたく…。そちらは人手が足りませんので、やって下さるというのであれば持ってきます。」

「《折角だからやるよ。何かしてないと気が狂いそうだ。》」

アーサー「フッ。分かりました。では今日の午後から持ってきますのでよろしくお願いします。」

「《了解。》」









スキット②
【面会者とバイリンガル】



「《そういえばさ?》」

アーサー「はい。」

「《ここに面会に来るのって医者か、君かしか来ないけど…。》」

アーサー「花恋に来させたら煩いですが宜しいのですか?」

「《あ、うん…。想像出来たよ…。今は遠慮しておこうかな…?》」

アーサー「あと、飛龍フェイロン麗花リーファは中国語しか話せませんので、貴女の相手は務まりません。」

「《あぁ…。確か、香港出身だってね?》」

アーサー「おや。知っていたのですか?」

「《いつだったか、ここで捕まった時にね。そんな話をしたよ。》」

アーサー「そうでしたか。なら話は早いですね。」

「《君が命を救ってくれて、その上、名前まで付けてくれたから今がある、と言っていたよ? とても感謝しているようだった。》」

アーサー「フッ。そうですね。彼らを拾ったのは紛れもない事実。そして中国語もその時教えたものです。」

「《君って本当にバイリンガルなんだね?》」

アーサー「えぇ。他にはフランス語やイタリア語、ロシア語等多言語に精通しています。こういう時の為にあって得しましたでしょう?」

「《……悔しいけど、そうなんだよね。君が英語か日本語で話したから結果こうなった訳だけど…。あの時フランス語とかイタリア語で話されても絶望してただろうね。》」

アーサー「あぁ、そこは大丈夫かと。ボクは基本的に相手に合わせて言語を変えますので。」

「《え?そうなのかい?それはまた何で?》」

アーサー「勿論、勉強の為…もありますが。やはり忘れると厄介なので普段から使うようにしてるんです。どうせマナの力によって翻訳されるとしても、それでもちゃんとしておきたいので。」

「《……何か、君の評価を変える必要がある気がしてきた。あとは、感謝も。》」

アーサー「フッフッフッ。もう貴女から感謝は何度も頂きました。ですから結構ですよ。」

「《うん。それでももう一回言わせてくれ。本当にありがとう。》」

アーサー「どういたしまして。」











スキット③
【例の森にいた理由】



「《そういえばさ、私を拾った時に君がいたあの森…。何の用事があってあそこにいたんだい?》」

アーサー「あぁ…。あそこには生態系の調査で来ていたんです。あと探知系の機械の試運転も兼ねて。そしたら妙な反応が出たのでそこへ行けば……貴女がいました。まるで運命的な出会いでしたよ?」

「《ある意味運命的ではあったね。こうして…〈赤眼の蜘蛛〉に入ることになったんだから。》」

アーサー「フッフッフッ……。そうですねぇ?しかし…今の貴女はマナがないからか、変な反応しか出ません。無論、ボク自身の魔法で探知してもです。以前を知っている人からすれば、この反応がまさか貴女だとは思いもしなかったでしょう。今なら探知しておかしな事になっていても、貴女だとボクは分かりますが。」

「《……そっか。》」

アーサー「えぇ。ですがそれで充分では?」

「《どういう事かな?》」

アーサー「今の貴女を知っているのはボクだけで充分だと言っているんですよ。だって、そうでしょう?今の貴女には“日本語”しか伝わらないのですから。」

「《……。》」

アーサー「今の所は、貴女を外部の目に晒すつもりはありません。医者が絶対安静の指示を解除したその時も暫くはこの建物内にいてください。貴女は、例の男が見つかったという報告があった時にだけ、ボクについてくれば良いのです。勿論、あの黒いローブを着けてもらいます。これは絶対です。」

「《何故そこまでしないといけないのか、聞いても?》」

アーサー「貴女が一番よく分かっているのでは? “彼ら”に会いたくないでしょう?」

「(……リオン達の事か…。確かに……今はこの状態で会いたくない。会ってしまったら気まずくて仕方ないし……レディに申し訳ないからね…。)」

アーサー「フッフッフッ…。沈黙、ということは肯定と言うことですよ?スノウ・エルピス?」

「《取り敢えず、ドクターストップが終わった時にもう一度話をさせてくれ。今はそれで良い。》」

アーサー「えぇ。そういたしましょうか。」










スキット④
【資料整理】


ガサガサ…トントン

アーサー「……ふむ。(ちゃんと内容ごとに纏められている。それに付箋やファイリングなど…想定以上の仕事をこなしてくれますねぇ…?本当、良い人材を見つけた気分です。)」

「《あれ?何か間違ってるかな?そんなに見つめられるって事は。》」

アーサー「いえいえ。貴女の仕事ぶりに感心しておりました。実に素晴らしいことです。ここまでして下さるとは。」

「《え?これくらい簡単だし、やっておいたほうが後が楽なんじゃない?》」

アーサー「えぇ。日本人ならではの几帳面さがこの纏められた資料たちからも分かりますねぇ…?流石です。」

「《まさか、君からそこまで褒められるとはね? でも、褒められて悪い気はしないよ。ありがとう。》」

アーサー「こちらこそお礼を言わせてください。ありがとうございます。まだまだありますのでお願いしますね。」

「《あぁ。それについては任せてくれ。こういうのは得意なんだ。》」

アーサー「分かりました。次回は沢山持ってきます。」


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