第二章・第1幕【裏切り者編】
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002.〈赤眼の蜘蛛〉の仲間へ。
(*スノウ視点)
ふと、目を覚ます。
ゆっくりと開けられた目は何処か朧気で、そして何が起こったのか分からない、という顔をしていた。
何故こんな所で寝ているのか、と疑問を持ったスノウに先程までの記憶が戻ってくる。
男性を魔物から助け、回復技を使った途端態度を豹変させた男性の事。
そして、何やら自分の体に何かをされて吹き飛ばされた所までの記憶を思い出した。
「っ、」
息を呑んで自分の体を調べてみれば……大変な事が分かった。
今の自分の髪色が、“真っ黒”だということに。
「────。」
そしてもうひとつ。
自分の声が出ないことが分かったのだ。
喉を押さえ、息を呑む事しか出来ないスノウは、愕然とした。
一体、あの男に何をされたのか。
そんな疑問が尽きないスノウだったが、一度大きく深呼吸をして状況を整理しようとする。
しかしそれすら出来ないほど、頭の中は激しい動揺に襲われていた。
「(どうする…。こんな状態じゃあ…。いや…筆談があるか…。)」
ともかく、ここから去ろう。
でなければ、またさっきの男に何かされても敵わない。
スノウはその場から逃げる様にして森の中を歩き出した。
勿論、周りを警戒をしながらだが…、何故か探知の魔法が使えなかった。
「(探知が使えないね…?何でだろう…、さっきまで普通に使えたのに。……ん?この近くに村がある…?)」
こんな森の中に集落か村があるらしく、人の声が近い。
何か情報を得たいスノウは、その村へと寄ることにした。
あの男の情報が何か聞けると良い、と願って…。
「(筆談と言ったってなぁ…?紙やペンを今回持ってないし…。何故か魔法は使えないし…。)」
何度か以前使った筆談用の魔法を使おうとしたが、全く使えないのだ。
困った顔をしながら村の近くに来れば、人の良さそうなおじいさんがスノウに気付いて声を掛けてくれる。
しかし、その言葉はスノウの想定していた言語では無かった。
「△■? 〒%⚪︎☆♪^×。」
「っ!?」
声は出ないが、息を呑んだ事が分かったのか、目の前の老人が心配そうな表情を浮かべてスノウを見る。
それだけは分かった。
しかし、老人の言葉が分からない事に愕然としていたスノウは、すぐに思考で頭を埋めてしまう。
「(…どういう事?何故、言葉が分からなくなったんだ…?いつもなら神の力で言葉を変換してくれているのに…?さっきの男の言葉は分かった、のに…?)」
「€#+*○¥→?」
「(駄目だ…。全然分からない…!)」
冷や汗を流しながら、老人の言葉を聞いていたスノウは近くにあった木の棒を手に取ると地面に文字を書き始める。
しかし、老人はその文字を見て首を傾げさせていた。
それを見たスノウもまた、絶望した気持ちでその表情を読み取ったのだった。
「(そんな…。文字まで分からないのか…?これじゃあ、人と話す事も出来ないじゃないか…。一体全体、あの男…私に何をしたんだろう?)」
その瞬間、額に鋭い何かが当たる。
痛みに顔を歪めて、慌てて額に手を当てれば、そこから血が流れているのが分かった。
同時に老人が向こうに向かって怒鳴っているのが声の調子で分かる。
その老人の向こう側には、子供達が数人、こちらを向いてはその手に石を握っていた。
カンカンに怒っている老人に、果敢にも挑んでいる子供達。
しかしその言語はやはり、スノウには到底理解出来ないものであった。
その子供の内の一人がスノウにまた石を投げてきた。
咄嗟に避けたスノウだが、ここにこれ以上居ても意味は無いと判断し、すぐに村を離れる事にした。
走って逃げるスノウを、老人が必死に呼び止めているとも知らずに。
…
……………
………………………………
「(いやぁ…どうしようかなぁ…?)」
スノウは、絶望した気持ちで森の中をさまよい続ける。
もしかしたらこのまま餓死とか有り得る。
そんな物騒なことを思い出す最中、スノウは大事な彼を思い出していた。
しかし、そんな彼とも話が出来ないとなると…
「(…………あぁ、虚しいな…?)」
折角この世界で会ったとしても、この調子の自分を見られたくない。
何とかして、彼に会う前にこの状態を打破しなければならない。そう強く思った。
しかし、他に良い案が浮かぶ訳でも現状が良くなることも無かった。
精神的にも疲労していたスノウは、近くにあった木に寄りかかりながらズルズルと座り込む。
その顔には絶望の他に、少しの諦めも見え隠れしていた。
「(精霊の声も聞こえない……。あぁ、本当に一人になったんだ…。)」
少しでも休みたくて、地面を呆然と見つめていれば、そこに誰かの靴が視界に入った。
同時にそれは懐かしい声でもあり、今会いたくない人でもあった。
「気になる反応があるから来てみれば…。こんな場所で何をしているのですか?スノウ・エルピス?」
「っ!?」
彼は、〈赤眼の蜘蛛〉所属のアーサーだった。
しかしそんな事はどうでもいい。
アーサーの放った言葉がスノウには大事だった。
だって、彼はちゃんと“日本語”を話していたのだから。
「────!」
「?」
何か様子がおかしいと思ったのか、必死に声を出そうとするスノウを怪訝な顔で見るアーサー。
そして額の傷と、喉を押え、必死そうに何かを話そうとするスノウに僅かに驚いていた。
スノウがそのまま地面に何かを書き始める。
それは完全なる“日本語”で、アーサーは珍しそうにその文字を見つめていた。
“この文字が分かるかどうか教えて欲しい。”
それにアーサーは首を傾げつつ、スノウを見つめて軽く頷いて見せた。
「えぇ…。分かりますよ? “日本語”と言うやつですよねぇ? バイリンガルなのでそれくらいは分かりますが…。」
「(うわぁ…奇跡だ…!この世界にこの言語が分かる人がいるなんて…!………まぁ、〈星詠み人〉だから当然なの、か…?)」
スノウはアーサーに事の次第を全て話すことにした。
文字を書き、消してはまた書いての繰り返し。
そうして筆談を試みたスノウは縋る気持ちでアーサーに伝えた。
何か良い案が出ないか、と思って。
……こちらの敵ではあるが、藁にもすがる思いだった。
「……事情は分かりました。大変でしたねぇ?それに……確かに貴女からは、いつものマナを一切感じない。その男に何かされたと思って良いでしょう。」
「(え、マナを感じない…?なら、何故私は生きていられるんだろう…?)」
「その男の捜索…が目的なんですね?なら、スノウ・エルピス……。〈赤眼の蜘蛛〉に入りなさい。貴女をボク達は歓迎致しますよ?」
「っ、」
「貴女にとって悪い話では無いはずです。こうして、貴女と話が出来るのは我々〈星詠み人〉だけ…。そして、我々ならば、貴女のその目的の為に助力もしてあげられますし、協力も一切惜しみません。どうです?悪い話ではないでしょう? この世界の人間を信用してはなりません。……その額の傷のようになりたくなければ、ねぇ?」
「……。」
以前、ジューダスが言っていた。
自分が黒髪の時、〈赤眼の蜘蛛〉の仲間入りを果たすだろう、と。
もしかして彼は、この未来を予知していたのかもしれない。
〈赤眼の蜘蛛〉の仲間に入りたくない。
けれども、今の自分には強力な味方が必要だ。
必然的に今の自分には、彼らしか頼ることが出来ないのだ。
スノウは少し考えた後、決意を秘めた瞳をアーサーへ向ける。
その瞬間、アーサーの口元が酷く愉快そうに歪んでいったのが分かった。
それに気付きながらもスノウは、伸ばされていたその禁断の手をしっかりと握った。
強い意志をその手に宿して。
“一時的に、だけどね。君達を利用させてもらうよ。”
「クックック…!! えぇ、それでもよろしいですよ?〈赤眼の蜘蛛〉に入られたからには後悔はさせません。えぇ…絶対に。貴女を骨抜きにしてみせましょう。蜘蛛の糸に絡められて逃げられない蝶のように貴女を逃げられなくして…ねぇ?クックック…!アッハッハッハッハッ!!!!」
酷く愉快そうに笑うアーサーの声を聞きながら、スノウは心の中で彼に謝った。
────ごめんね、レディ。少しだけ…少しだけ彼らの仲間になるよ。……本当にごめん。
きっと、大事な彼の言葉も何一つ分からないのだろう。
彼はここの世界の住人なのだから。
その事にスノウは少し悲しくなった。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+
*以下、スノウの筆談は「《○○○○○》」で表記します。
スキット①
【嬉しそうなアーサー】
「クックック…。」
「《随分と嬉しそうだね?》」
「それもそうでしょう。ようやく、貴女を〈赤眼の蜘蛛〉へ入れることが出来たのですから。こんなに幸先の良いことはありません。……クックック。思わず笑いも出るというものです。」
「《そんなに?》」
「はい。以前から言っているでしょう? 貴女を手に入れるのはボクだと…。」
「《まぁ、確かに現実となってしまったからね。でも今の私はマナも無いんだろう?魅力なんてひとつも無いと思うけど?》」
「何を言っているんですか。それさえ治せばまた貴女は元通りになるでしょう?その頃に逃げられないようにすれば万事解決です。」
「《……それ、本人の前で言っちゃう?》」
「クックック!いえいえそれだけではありませんよ?貴女が〈星詠み人〉だからという理由もある事を忘れないで頂きたい。」
「《まぁ、そうだけど…。なんだかなぁ…?複雑な気分。》」
「クックック!!」
スキット②
【筆談について】
「しかし…地面に文字を書いてもらうのでは効率が悪いですね。それに貴女も大変でしょう。」
「《仕方ないよ。ノートもペンも今は持ってないんだ。以前は使ってたんだけどね。》」
「ふむ…。近くの街で購入しましょう。それで暫くは生活出来るはずです。」
「《そうして貰えると有難いね。私にはこの世界の文字も言葉も分からないから。》」
「なら、〈星詠み人〉でも日本語を話せる相手にしか伝わらないですね。帰ったらすぐに配慮致しましょう。」
「《……流石、組織をまとめるトップって感じだね。悔しいけど…頼りになる。》」
「クックック…!!そうですか。貴女にそう言われると感慨深いものがありますねぇ?クックック…。」
スキット③
【“彼ら”】
「《しかし…今の状態で皆に会いたくないなぁ…?》」
「あぁ。彼らのことですか?カイル・デュナミスやジューダスといった彼らの事ですが。」
「《うん。私の言葉も向こうの言葉も伝わらないんじゃ、意味が無いだろうし。》」
「それなら姿を隠して歩けば良いのでは?今のボクのように。」
「《そうしようかな。黒いローブなら以前から持ってたやつがある…はず。》」
ガサガサ…
バサッ
「良いですね。それなら誰も外から見て貴女だと分からないでしょう。」
「《うん。今後から外に出る時はこうするよ。》」
「それが名案かもしれませんねぇ。」
スキット④
【記憶持ち】
「《というより、素朴な疑問ひとついい?》」
「えぇ。どうぞ?」
「《君って、記憶を保持している状態なんだ?フォルトゥナを倒した後は誰も彼も記憶が無くなるはずなのに。》」
「あぁ、その事ですか。実は面白い研究データがあるんですよ。貴女がたが“神”を倒した後、確かに過去へと戻りました。歴史を修正するように…。しかし貴女と関わった〈星詠み人〉は記憶を保持している状態だというのが分かったんです。」
「《へ?私?》」
「えぇ。貴女に関わった人物…それは一概に〈星詠み人〉だけではないかもしれませんが…。それでもボクは元々あの神の〈御使い〉ですから記憶は保持しています。しかし花恋や博士といった、貴女に関わった人達だけ、前の記憶があるというのですよ。面白いでしょう?」
「《うーん…。良いような悪いような…?》」
「原住民たちのデータまではやっていないので不確かですが、恐らく神の〈御使い〉に関わった人物たちだけは記憶を持っているのかもしれませんし、それもまだ完全に公表出来るものではありませんが、恐らくは。」
「《そっか…。うん、分かった。ありがとう。》」
(*スノウ視点)
ふと、目を覚ます。
ゆっくりと開けられた目は何処か朧気で、そして何が起こったのか分からない、という顔をしていた。
何故こんな所で寝ているのか、と疑問を持ったスノウに先程までの記憶が戻ってくる。
男性を魔物から助け、回復技を使った途端態度を豹変させた男性の事。
そして、何やら自分の体に何かをされて吹き飛ばされた所までの記憶を思い出した。
「っ、」
息を呑んで自分の体を調べてみれば……大変な事が分かった。
今の自分の髪色が、“真っ黒”だということに。
「────。」
そしてもうひとつ。
自分の声が出ないことが分かったのだ。
喉を押さえ、息を呑む事しか出来ないスノウは、愕然とした。
一体、あの男に何をされたのか。
そんな疑問が尽きないスノウだったが、一度大きく深呼吸をして状況を整理しようとする。
しかしそれすら出来ないほど、頭の中は激しい動揺に襲われていた。
「(どうする…。こんな状態じゃあ…。いや…筆談があるか…。)」
ともかく、ここから去ろう。
でなければ、またさっきの男に何かされても敵わない。
スノウはその場から逃げる様にして森の中を歩き出した。
勿論、周りを警戒をしながらだが…、何故か探知の魔法が使えなかった。
「(探知が使えないね…?何でだろう…、さっきまで普通に使えたのに。……ん?この近くに村がある…?)」
こんな森の中に集落か村があるらしく、人の声が近い。
何か情報を得たいスノウは、その村へと寄ることにした。
あの男の情報が何か聞けると良い、と願って…。
「(筆談と言ったってなぁ…?紙やペンを今回持ってないし…。何故か魔法は使えないし…。)」
何度か以前使った筆談用の魔法を使おうとしたが、全く使えないのだ。
困った顔をしながら村の近くに来れば、人の良さそうなおじいさんがスノウに気付いて声を掛けてくれる。
しかし、その言葉はスノウの想定していた言語では無かった。
「△■? 〒%⚪︎☆♪^×。」
「っ!?」
声は出ないが、息を呑んだ事が分かったのか、目の前の老人が心配そうな表情を浮かべてスノウを見る。
それだけは分かった。
しかし、老人の言葉が分からない事に愕然としていたスノウは、すぐに思考で頭を埋めてしまう。
「(…どういう事?何故、言葉が分からなくなったんだ…?いつもなら神の力で言葉を変換してくれているのに…?さっきの男の言葉は分かった、のに…?)」
「€#+*○¥→?」
「(駄目だ…。全然分からない…!)」
冷や汗を流しながら、老人の言葉を聞いていたスノウは近くにあった木の棒を手に取ると地面に文字を書き始める。
しかし、老人はその文字を見て首を傾げさせていた。
それを見たスノウもまた、絶望した気持ちでその表情を読み取ったのだった。
「(そんな…。文字まで分からないのか…?これじゃあ、人と話す事も出来ないじゃないか…。一体全体、あの男…私に何をしたんだろう?)」
その瞬間、額に鋭い何かが当たる。
痛みに顔を歪めて、慌てて額に手を当てれば、そこから血が流れているのが分かった。
同時に老人が向こうに向かって怒鳴っているのが声の調子で分かる。
その老人の向こう側には、子供達が数人、こちらを向いてはその手に石を握っていた。
カンカンに怒っている老人に、果敢にも挑んでいる子供達。
しかしその言語はやはり、スノウには到底理解出来ないものであった。
その子供の内の一人がスノウにまた石を投げてきた。
咄嗟に避けたスノウだが、ここにこれ以上居ても意味は無いと判断し、すぐに村を離れる事にした。
走って逃げるスノウを、老人が必死に呼び止めているとも知らずに。
…
……………
………………………………
「(いやぁ…どうしようかなぁ…?)」
スノウは、絶望した気持ちで森の中をさまよい続ける。
もしかしたらこのまま餓死とか有り得る。
そんな物騒なことを思い出す最中、スノウは大事な彼を思い出していた。
しかし、そんな彼とも話が出来ないとなると…
「(…………あぁ、虚しいな…?)」
折角この世界で会ったとしても、この調子の自分を見られたくない。
何とかして、彼に会う前にこの状態を打破しなければならない。そう強く思った。
しかし、他に良い案が浮かぶ訳でも現状が良くなることも無かった。
精神的にも疲労していたスノウは、近くにあった木に寄りかかりながらズルズルと座り込む。
その顔には絶望の他に、少しの諦めも見え隠れしていた。
「(精霊の声も聞こえない……。あぁ、本当に一人になったんだ…。)」
少しでも休みたくて、地面を呆然と見つめていれば、そこに誰かの靴が視界に入った。
同時にそれは懐かしい声でもあり、今会いたくない人でもあった。
「気になる反応があるから来てみれば…。こんな場所で何をしているのですか?スノウ・エルピス?」
「っ!?」
彼は、〈赤眼の蜘蛛〉所属のアーサーだった。
しかしそんな事はどうでもいい。
アーサーの放った言葉がスノウには大事だった。
だって、彼はちゃんと“日本語”を話していたのだから。
「────!」
「?」
何か様子がおかしいと思ったのか、必死に声を出そうとするスノウを怪訝な顔で見るアーサー。
そして額の傷と、喉を押え、必死そうに何かを話そうとするスノウに僅かに驚いていた。
スノウがそのまま地面に何かを書き始める。
それは完全なる“日本語”で、アーサーは珍しそうにその文字を見つめていた。
“この文字が分かるかどうか教えて欲しい。”
それにアーサーは首を傾げつつ、スノウを見つめて軽く頷いて見せた。
「えぇ…。分かりますよ? “日本語”と言うやつですよねぇ? バイリンガルなのでそれくらいは分かりますが…。」
「(うわぁ…奇跡だ…!この世界にこの言語が分かる人がいるなんて…!………まぁ、〈星詠み人〉だから当然なの、か…?)」
スノウはアーサーに事の次第を全て話すことにした。
文字を書き、消してはまた書いての繰り返し。
そうして筆談を試みたスノウは縋る気持ちでアーサーに伝えた。
何か良い案が出ないか、と思って。
……こちらの敵ではあるが、藁にもすがる思いだった。
「……事情は分かりました。大変でしたねぇ?それに……確かに貴女からは、いつものマナを一切感じない。その男に何かされたと思って良いでしょう。」
「(え、マナを感じない…?なら、何故私は生きていられるんだろう…?)」
「その男の捜索…が目的なんですね?なら、スノウ・エルピス……。〈赤眼の蜘蛛〉に入りなさい。貴女をボク達は歓迎致しますよ?」
「っ、」
「貴女にとって悪い話では無いはずです。こうして、貴女と話が出来るのは我々〈星詠み人〉だけ…。そして、我々ならば、貴女のその目的の為に助力もしてあげられますし、協力も一切惜しみません。どうです?悪い話ではないでしょう? この世界の人間を信用してはなりません。……その額の傷のようになりたくなければ、ねぇ?」
「……。」
以前、ジューダスが言っていた。
自分が黒髪の時、〈赤眼の蜘蛛〉の仲間入りを果たすだろう、と。
もしかして彼は、この未来を予知していたのかもしれない。
〈赤眼の蜘蛛〉の仲間に入りたくない。
けれども、今の自分には強力な味方が必要だ。
必然的に今の自分には、彼らしか頼ることが出来ないのだ。
スノウは少し考えた後、決意を秘めた瞳をアーサーへ向ける。
その瞬間、アーサーの口元が酷く愉快そうに歪んでいったのが分かった。
それに気付きながらもスノウは、伸ばされていたその禁断の手をしっかりと握った。
強い意志をその手に宿して。
“一時的に、だけどね。君達を利用させてもらうよ。”
「クックック…!! えぇ、それでもよろしいですよ?〈赤眼の蜘蛛〉に入られたからには後悔はさせません。えぇ…絶対に。貴女を骨抜きにしてみせましょう。蜘蛛の糸に絡められて逃げられない蝶のように貴女を逃げられなくして…ねぇ?クックック…!アッハッハッハッハッ!!!!」
酷く愉快そうに笑うアーサーの声を聞きながら、スノウは心の中で彼に謝った。
────ごめんね、レディ。少しだけ…少しだけ彼らの仲間になるよ。……本当にごめん。
きっと、大事な彼の言葉も何一つ分からないのだろう。
彼はここの世界の住人なのだから。
その事にスノウは少し悲しくなった。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+
*以下、スノウの筆談は「《○○○○○》」で表記します。
スキット①
【嬉しそうなアーサー】
「クックック…。」
「《随分と嬉しそうだね?》」
「それもそうでしょう。ようやく、貴女を〈赤眼の蜘蛛〉へ入れることが出来たのですから。こんなに幸先の良いことはありません。……クックック。思わず笑いも出るというものです。」
「《そんなに?》」
「はい。以前から言っているでしょう? 貴女を手に入れるのはボクだと…。」
「《まぁ、確かに現実となってしまったからね。でも今の私はマナも無いんだろう?魅力なんてひとつも無いと思うけど?》」
「何を言っているんですか。それさえ治せばまた貴女は元通りになるでしょう?その頃に逃げられないようにすれば万事解決です。」
「《……それ、本人の前で言っちゃう?》」
「クックック!いえいえそれだけではありませんよ?貴女が〈星詠み人〉だからという理由もある事を忘れないで頂きたい。」
「《まぁ、そうだけど…。なんだかなぁ…?複雑な気分。》」
「クックック!!」
スキット②
【筆談について】
「しかし…地面に文字を書いてもらうのでは効率が悪いですね。それに貴女も大変でしょう。」
「《仕方ないよ。ノートもペンも今は持ってないんだ。以前は使ってたんだけどね。》」
「ふむ…。近くの街で購入しましょう。それで暫くは生活出来るはずです。」
「《そうして貰えると有難いね。私にはこの世界の文字も言葉も分からないから。》」
「なら、〈星詠み人〉でも日本語を話せる相手にしか伝わらないですね。帰ったらすぐに配慮致しましょう。」
「《……流石、組織をまとめるトップって感じだね。悔しいけど…頼りになる。》」
「クックック…!!そうですか。貴女にそう言われると感慨深いものがありますねぇ?クックック…。」
スキット③
【“彼ら”】
「《しかし…今の状態で皆に会いたくないなぁ…?》」
「あぁ。彼らのことですか?カイル・デュナミスやジューダスといった彼らの事ですが。」
「《うん。私の言葉も向こうの言葉も伝わらないんじゃ、意味が無いだろうし。》」
「それなら姿を隠して歩けば良いのでは?今のボクのように。」
「《そうしようかな。黒いローブなら以前から持ってたやつがある…はず。》」
ガサガサ…
バサッ
「良いですね。それなら誰も外から見て貴女だと分からないでしょう。」
「《うん。今後から外に出る時はこうするよ。》」
「それが名案かもしれませんねぇ。」
スキット④
【記憶持ち】
「《というより、素朴な疑問ひとついい?》」
「えぇ。どうぞ?」
「《君って、記憶を保持している状態なんだ?フォルトゥナを倒した後は誰も彼も記憶が無くなるはずなのに。》」
「あぁ、その事ですか。実は面白い研究データがあるんですよ。貴女がたが“神”を倒した後、確かに過去へと戻りました。歴史を修正するように…。しかし貴女と関わった〈星詠み人〉は記憶を保持している状態だというのが分かったんです。」
「《へ?私?》」
「えぇ。貴女に関わった人物…それは一概に〈星詠み人〉だけではないかもしれませんが…。それでもボクは元々あの神の〈御使い〉ですから記憶は保持しています。しかし花恋や博士といった、貴女に関わった人達だけ、前の記憶があるというのですよ。面白いでしょう?」
「《うーん…。良いような悪いような…?》」
「原住民たちのデータまではやっていないので不確かですが、恐らく神の〈御使い〉に関わった人物たちだけは記憶を持っているのかもしれませんし、それもまだ完全に公表出来るものではありませんが、恐らくは。」
「《そっか…。うん、分かった。ありがとう。》」