第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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村に戻った私達は、村人たちが慌てた様子でいる事に気付いた。
何事かと顔を見合せた私達を視認した彼らは直ぐにこちらに向かってくる。
子供達なら戻ってきているはずだが……?
「あんた達!!大変だぞ!!?」
「ど、どうしたんだよ……、そんな慌てて……」
ロニが不安そうな声を出す。
カイルも不穏な気配を察知したのか、顔が強ばっている。
「あんた達と一緒にいた女の子が居なくなっちまったんだ!!」
「え?!リアラが?!」
「?!(そんな馬鹿な……。こんなの原作には…)」
「どういう事か説明してもらおうか?」
「あ、あぁ…。リリスがその女の子の様子を見に行ったらもう居なくなっちまってて……村人総出で捜したんだが何処にも見当たらねぇんだ!」
「どこいったんだろ…リアラ…」
「早いとこ見つけねぇと、大変な事になりそうだぞ?!カイル!!」
「うん!!皆探そう!!」
その言葉に散開した皆を見送り、一人考え事に耽る。
確かリアラが目覚めたのは数日の間でだったはずだ。先程目覚めたにしても、1人目覚めたリアラがカイル達を置いて村の外に出るとは思えないし、それならば見掛けたリリスがリアラを止めているはず。
私が村の外に出て魔物と遭遇してしまったからか…?
この世界がそれくらいで変わる運命だとは思えない。
かなりゲームの強制力は高いと見ている私だから、そう思うのだろうが…。
原作にないイベント……、そして行方不明……。
「…!」
一つ、思い当たる事がある。
もしかすると、〈赤眼の蜘蛛〉の仕業なのでは…?
リアラを誘拐する目的は分からないが…。
そうだとしたらマズイ。
彼らはキャラクターの抹殺が目的なのだから、リアラが無事の確率はかなり低い。
こうしてはいられない、私も動かねば。
私は村の外へと目を向けた。何人かが村の外で彼女の名前を大きな声で呼んではいるが、恐らく無意味だろう。
彼らは気絶している彼女をきっと攫っている。
指を頭につけ、魔法を使う。
「(サーチ)」
目的の物を探す魔法を取得しておいて良かったと頭の片隅で思う。
脳内に村の地図が映し出される。
村の中には……居ない。
そして、村の外で妙な道を辿っている4名……。
「(これだ!!)」
家の影に隠れ、得物を構えた私は緊急事態なので魔法を使いひとっ飛びする。
すると案の定全身を黒い布で覆っている集団がリアラを脇に抱えているのが視認できる。
「《彼女を返してもらおうか。》」
「なんだこいつ、喋れないのか?」
「待て。こやつ……何者だ……?何故我々の足取りが掴めた…?」
黒づくめの三人のうち一人がそう言うとハッとしたようにこちらを見て警戒し始めた。
修羅から私の話を聞いていないのか?
得物を構えた私を見て三人は腰を低くし、戦闘態勢に入った。
しかしその内の一人は肝が据わっている様でこちらに話し掛ける。
「待て、少女よ。何故そこまでして我らの邪魔をする?」
「《何故だろうね?己の胸に聞いてみるんだね!!》」
フリップを投げ捨て得物を先頭に立っていた男へと振り下ろす。
しかし相手も馬鹿じゃない。
すぐさま自身の武器を取ると応戦するかのように前に構え私の攻撃を受け流そうとする。
「行け!こやつの相手は我がする!!」
「「はっ!!!」」
残りの2人がリアラを抱え直しトンズラをしようとしているのを、魔法で止める。
「(グラビデ!!)」
重力を加え男達の動きを止めた後、目の前の男を攻撃する。
素早い剣戟が受け流されていく。
この男……言うだけあって中々やり手だと言うのが立ち居振る舞いで分かる。
やはり〈赤眼の蜘蛛〉は粒揃いの奴らばかりか…!!
一度わざと身を引くとそれを好機と捉えたか、すぐさま攻撃へ転じる男にほくそ笑む。
それを避けた後、大きく跳躍し銃口を男へ向ける。
「っ!?」
「(気絶しなよ!!)」
気絶の魔法弾を撃つが、それを避けられる。
反射神経の高いやつめ……。
地へ降り立ち銃から得物に変えた自身の武器を構えると、男は声に出して大声で笑った。
「くっ、ハッハッハ!!!見事だ!実に見事!!!我の反応が遅ければ殺されていただろうな!!少女よ、よく聴け!!我の名前は【玄】!少女よ、お主の名前は?!」
「《スノウ・ナイトメア》」
「スノウ!!くっくっく、ハッハッハ!!実に愉快だ!!こんなに愉しませてくれる少女と出逢えるとはな!!」
グラビデの重力によって倒れている二人はどうも気絶しているようで魔法を消す。
それよりも【玄】と名乗ったこの男の方が狂気で畏ろしい。
恐らく、【修羅】に続く戦闘狂だ。
自身を覆う黒い布を取ることはしないものの、そこから見える瞳は赤く、ぎらついている。
舌打ちしそうになる口を閉ざし引き締める。
「スノウよ、もっと我を愉しませろ!!」
なまくらな剣を捨てた玄は次の瞬間、何も無い所から大きな斧を出し振りかざした。
自身の肩に斧の柄の方で軽く叩くとニヤリと笑った。
「こちらも本気を出させてもらうぞ!!スノウよ!!!」
「っ!?」
先程までとは明らかに違う動きだ。
その巨大な斧をいとも簡単に動かし、そして敏捷性も高い。
なによりあの巨大な斧をこの細身のガンブレードで受け止めればすぐに壊されることは目に見えている。
玄の攻撃を大きく跳躍し躱すと、魔法弾ではなく魔法を放つ。
「(リリジャス!!)」
鋭い雷が玄の頭上よりすぐに落ちその身に一身に受けた。
地に降り立った私はすぐに得物を構えたがそれが正解だったようで、先程の魔法を効かないとばかりに攻撃してくる玄に溜息が出そうになる。
初級魔法が駄目なら上級で…!!
「(ディバインセイバー!!!)」
神聖なる裁きの雷を撃ち放つ上級魔法。
先程のリリジャスとは比べ物にならない程の威力と範囲だが……果たして…?
どういう鍛え方をしているのか、両手を広げ雷を一身に受ける玄に息を呑む。
嘘だろう……?
どんな身体をしているんだ……?!
倒れる事のないその身体に恐怖を感じる。
まさか、こんな奴がこの世界に居るとは思っていないだけにこれは想定外だ。
リアラを助けるどころか、自分すら殺されてもおかしくはない。
しかしそれではリアラは助からないし、カイル達にも危険が及ぶ。
ここで私が死に物狂いで玄を倒さなければ、カイル達に未来はない!
「(くっ…!どうすればいい…?!どうすれば…!)」
「余所見をしている場合か!?」
大きな一閃を大きく後退することで避ける。
ここは魔法でなんとか怯ませるしかあるまい!
「(ブレイズスウォーム!!)」
熱き熱風を巻き起こす火属性魔法。
離れた場所からでもその熱さは肌に痛い程感じる熱風を相手がまたしてもその身に受ける。
火傷していないのか、それとも別の魔法が掛けられているのか…全く意に介さない敵に流石にジリジリと後退する。
“リアラを連れて逃げた方がいい”
そう頭が警鐘を鳴らしている。
玄は不死身かと思う程の強さだ。こうして相対した私だから分かる。
今まで戦ったどの敵よりも遥かに強い。
ちらりとリアラの位置把握をする為に視線を彷徨わせる。
するとその隙を狙っていたのか目の前にはもう玄が自身の武器、大斧を持ってこちらに振りかざしていた。
「油断大敵!」
「っ!!!」
死を覚悟した。
油断した訳ではなかった。だが間が悪かった。
瞬時に身を固くし目を閉じた。
しかし衝撃や痛みは幾ら経っても来やしない。
それに恐る恐る顔を上げると見慣れた仮面を被った男……ジューダスが、私と玄の間に入り込み敵の攻撃をシャルティエで受け止めていた。
ギリギリと鳴る剣と斧の鍔迫り合い。
どちらも一歩も譲らない勝負だった。
正直細身の彼が受け止められるとは思っていなかったし、まず彼がここに来るとも思っていなかった。
だから酷く驚いた。
「くっ……、馬鹿力め…!」
「貴様…、ジューダスと呼ばれる者か…!!」
「!!僕の名前を…?!」
『スノウ!!大丈夫ですか?!助けに来ましたよ!!?』
鍔迫り合いは結局ジューダスが勝ちのようで、玄を押し戻していた。
敵が態勢を直す中、すぐにこちらの様子をちらと窺うジューダスに勝機を見出す。
「__!!」
「無事か?!スノウ!!」
大きく頷き、得物を再び強く握りしめる。
彼が一緒なら倒せるかもしれない。
そう勝機を見出したのだ。
「スノウよ、我はお主との一騎討ちを所望する。ジューダスとやら、退け。」
「断る。彼女達は返してもらうぞ。」
「まぁよい。お主の抹殺も我らの仕事よ。スノウ、こやつを倒してから勝負するとしよう!!」
勢いをつけジューダスへと斧を振り回す玄は早く彼を始末したいのか、先程とは打って変わった表情でジューダスを攻撃していく。
しかし歴戦の戦いを潜り抜けただけあって彼も負けてはいない。
それに敏捷性なら彼の方が上手だ。
私よりも素早い剣戟に玄が防戦一方になって行くのを確認し、私は玄へ銃口を向けた。
気絶の魔法弾……!!
パァン!!!
乾いた発砲音が響き、玄の身体へと魔法弾を撃ち込んだ。
その瞬間気絶はしなかったが膝を着き、苦しそうな表情を浮かべた玄。
これでもその程度か……!?
思わず顔が歪むのが分かる。
本当に不死身なのでは、と思わせるほど頑丈な体だ。
膝を着いた玄の首にシャルティエを押し当てるジューダス。
「ふん。大人しくしていろ。」
「くっ…、身体が…痺れる……!!」
いや、気絶の魔法弾だから痺れるはずはないのだが…。
もう攻撃の意思はないのか、大斧を下ろし溜息を吐いた玄。
『どうしますか?このまま放っておいたら危ない気がしますが…』
「取り敢えず気絶でもさせておくか。」
しかしその瞬間体術でジューダスを押し負けさせる玄は大きく後退した。
まずい…!そっちはリアラが…?!
すぐに銃口を向け再び気絶の魔法弾を撃ち込むが躱されてしまう。
『坊ちゃん!!』
「ふん、後悔するんだな!!」
『「__グランドダッシャー!!」』
詠唱後、地面から岩石が激しく突出し玄を襲う。
それに逃げる軌道を変更しリアラの方とは反対へと避けた。
瞬間、私は魔法を使いリアラの近くへ飛ぶと彼女を抱え、玄から距離を稼ぐ為に後退した。
『流石です!!スノウ!!』
「スノウ!もう少し離れていろ!!」
シャルティエで追撃するジューダスは早い剣戟をお見舞していく。
それを大斧で防ぐ玄は、一度大斧を振り回しジューダスを強制的に離れさせる。
「くっ、分が悪いか…。まぁよい。まだまだこれからだからな。…さらばだ!スノウよ!」
「っ、待て!!」
しかし魔法でも使ったのか瞬時に姿を消す玄に、ジューダスが立ち止まり舌打ちをした。
それに緊張の糸がようやく切れ、リアラを抱えたままその場に座り込んだ。
「………」
私では全然歯が立たなかった。
今までこんな事はなかったし、先程の戦闘で疲労がピークに達している事もあってか余計に呆然としてしまう。
それはシャルティエを仕舞い、こちらに駆け寄ってきたジューダスを見れないほどだった。
「大丈夫か?」
「……」
『よく頑張りましたね!!お手柄ですよ!!スノウ!!』
「……」
ジューダスがしゃがみこみ、スノウの顔色を伺った。
顔色は悪く、落ち込んでいるような表情をしており、無理もないかと目を伏せる。
先程殺されかけていたのだから、精神的にきていてもおかしくは無い。
ジューダスはスノウからリアラを奪い抱えるとようやく我に返ったのか、僅かに反応するスノウに気付いた。
「スノウ、行くぞ。またあいつが戻ってこないとも限らん。」
『そうですよ!!ここは危険です!一緒に帰りましょう!!』
「____」
口を動かし何かを発しようとしていたようだが、その口から声が出ることは無い。
吐息だけしか出ない音に、スノウは緩慢に自身の喉に手を当てていた。
カイル達の話では前は声が出ていたというし、なぜ声が出なくなったかは分からないが不便そうだ。
最近はそれにも慣れてすぐにフリップでこちらに言葉を伝えていたと言うのに、今だけはそれを忘れているような、そんな感じがした。
続けて出そうとする言の葉は全て空気音だけで、何かが出る事はなかった。
「《先に行ってて下さい》」
俯き、フリップをゆっくりと出した彼女の言葉。
それに眉間に皺を寄せる。
危ないと言っているのに、まだここに何かあるのだろうか。
「《すみません、一人にさせてください》」
『スノウ……』
「……。」
ジューダスはそれを見て黙ってその場に座った。
リアラを地面に横たわらせ、静かに目を閉じる。
「??」
「考え事なら幾らでもしろ。ただ、一人になろうとするな。今一人になるのは危険だ。あいつがいつ襲ってくるかも分からない…」
『坊ちゃん…!』
「……」
ジューダスがそう言うと彼女は唇を噛み締め、心臓辺りを掻き毟った。
それはとても悔しそうな、やるせなさのようなそんな気持ちの代弁。
「(ジューダスにまで迷惑をかけて……、玄には歯が立たず……、私はこれから彼らのそばに居て良いのか…?)」
その様子をちらりと見ていたジューダスは再び目を閉じ見なかったフリをした。
スノウとしてもだが、モネとしてもその行動は見たことがなかったような気がする。
いつも仲間には優しい笑顔を向け、仲間が見ていない時には時折自嘲している“スノウ”。
いつも余裕そうな顔で話し掛けてきて、女性に優しく部下からは厚い信頼を得て、最終的には博愛主義者を名乗っていた“モネ”。
「(……どちらが本物のお前なんだろうな。)」
逆に言うとモネだった時は何もかもが“完璧すぎた”のだ。
何もかもを隠し通していたから、モネの様子に気付けなかった。
だから引き起こされたあの事件。
「(お前が……僕を友達と呼んでくれた時…どうしようもない嬉しさがこみ上がってきた。それなのに僕は、その友を見殺しにしてしまった。……どうして、話してくれなかったんだ…モネ……)」
早く知りたい事実なのに、未だにモネを見つけられていない。
確信はなくとも今目の前にいるスノウが、モネだというのはジューダスの中では揺るぎない事実であった。
それは友達だったからと言うのもあるのだろうが、月日が…彼らを絆へと結びつけていたから。
なんて、クサイ台詞を考えて自嘲した。
もうひとつの気持ちに気付かぬフリをして。
「……。」
気持ちの整理がついたのか、立ち上がるスノウの気配を感じ取って目を開けるジューダス。
やはりそこには立ち上がっている彼女がいて、笑顔でこちらに手を差し出していた。
「《ありがとうございます。助けて下さって。》」
フリップ付きで手を差し伸べる彼女に笑いながらその手を取り立ち上がる。
あぁ、先程までの苦しそうな顔は何処へやら。笑顔でいる彼女にホッとした。
「もういいのか?」
「《はい。もう大丈夫です。》」
「なら行こう。カイル達が待っているだろうからな。」
リアラを抱えリーネ村へと向かった僕達はその後何も話さなかったが、居心地悪いということは全くと言っていいほどなかった。
それは、お互いの気持ちに整理がついたからかもしれない。