第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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129.
デリスエンブレムの欠片が最後の3つも集まり、床にある窪みへとそれぞれ三人が欠片をはめ込めば、仲間たちは光に包まれる。
そして目を開けた先には、全く違う光景が見えていた。
「…どうやら、ワープしたようだな。」
『やっとデリスエンブレムの仕掛けを突破出来ましたね…。ここまで長かったです…。』
「ここから先は、余計に敵が強くなっていくから、皆注意してね?」
「「「はーい。」」」
スノウの言葉に全員が顔を引き締める。
そしてこの道の注意事項をスノウが伝え、決して禍々しい色をした球体には触れないことを言ったその瞬間、ダブルカイル達が「え?」という顔をしてスノウを見た。
その手には禍々しい色をした球体が握られていた。
刹那、スノウの顔が引き攣る。
「あ……あは、は…。」
「それに触れるとどうなるんだ?スノウ。」
「……別の場所で、モンスターが解き放たれるんだ。しかも…それが結構強くて…。」
バサバサという羽の音が聞こえたり、ガシャガシャという乾いた鎧の音が聞こえたかと思えば、ジューダス達の前に現れたのは大量の魔物だった。
全員が息を呑んで慌てて武器を手にする。
そうして、悲しきかな。戦闘が始まってしまったのだった。
「おい、スノウ!こいつらの弱点は!?」
「主に闇属性と光属性だ!!ジューダスは飛んでいる天使の魔物に闇属性を放って!私は地面の方の鎧魔人に光属性を当てるから!」
『「了解!!」』
「おいおいおい…!どーしてこうなっちまうかなぁ!?」
「ごめんって!ロニ!!」
「相変わらず、こんな時でもしまらねぇなぁ!カイル!」
「おい、海琉!お前は地面にいる有象無象を倒せ!俺が上の奴を落とす!」
「分かった…!!」
「沢山いるわねー。鬱陶しいったらありゃしない。」
「仕方ないよ!やって来ちまったもんは倒すしかないよ!ハロルド!」
「分かってるけど、もう少しどーにかなんない?晶術が当たんないんだけど。」
「私とナナリーで敵をまとめるから、ハロルドが敵を一網打尽にして!!」
「りょーかい。やってやりますかー。」
各々戦闘に夢中になり、ひたすら現れる敵を倒して行く。
エルレインに行く前に、かなりの体力消費となってしまったが、それでも皆文句も言わずに戦闘をこなしていく。
ようやくケリがついた頃には、地面に座り込んでしまう者も何人かいたのだった。
「はぁ、はぁ…」
「さ、すがに……きちー…!」
「分かってるとは思うが…!誰も、あれに触れるな、よ…!!」
息を切らしながらお互いにちゃんと注意をし合う。
“絶対に、あの禍々しい球体に触れない”と。
「フリじゃないからな!?特にカイル!」
「わ、分かったってロニ…。」
「不慮の事故で当たってしまう分には仕方がないけど、好奇心は神をも殺すよ?気を付けて、カイル。」
「うん!もう大丈夫!あれに触れなければいいんでしょ!」
「「「「(本当に大丈夫かなぁ…?)」」」」
一抹の不安が全員の頭を掠めていく。
しかしここで立ち往生する訳にもいかない。
お互いに声を掛け合いながら進んでいくと、遂に最後の場所へとたどり着く。
流石に全員が奥にある妙な空気を読んだのか、立ち止まり各々を見つめる。
そしてカイルが円陣を組み出して、リアラもそれに乗る。
ロニやナナリー、海琉までもが円陣に入っていけば、後はクールな面子だけが取り残される。
ナナリーはハロルドを無理やり入れさせ、海琉が修羅を、そしてジューダスはスノウが手を引っ張って円陣の中へと連れ込んだ。
全員で円の中央に手を乗せ合い、そして沈黙する。
最後の最後はやはり、彼に決めても貰わなければと、このメンバーのボス的位置に立つカイルへと自然な流れで視線が向かう。
そして、カイルが決意を込めた瞳を全員に向けた。
「皆、これで最後だ。絶対に勝つぞ!」
「お前ら、準備だけは怠るなよ。これで本当の最後かもしれないからな。」
「おいおい…。こんな時に縁起の悪いこと言ってんじゃねぇよ!相変わらずお前は、最後までクールっつーか、冷めてるって言うか…。」
「いいんじゃない?変に緊張するより、よっぽどマシよ。」
「あははっ!違いないね!」
「ふふっ!そうだね?これが私たちの良い所かもしれないね?」
「フッ…。あぁ、そうだな。だがまぁ…そうだな…。これが最後で、そしてこの旅が終わろうとも、僕はお前らにはまた会えると思っている。」
「「「「!!」」」」
「ヘッ…!たまには良いこと言うじゃねぇか。ジューダス。」
「たまには余計だ。僕はいつもいつもお前らにアドバイスをしてやってるだろうが。だから“たまには”という言葉を“いつも”に変えておけ。」
「けっ!言っとけ!」
途端に笑いが起きて、全員の顔が笑顔になっていく。
そして全員が決意をする。
この戦い、負ける訳にはいかないから!
「皆、行くぞ!!」
「「「「『「「おー!!!!」」』」」」」
手をグッと下にやり、一気に上へと持ち上げれば皆、体は自然と奥へと向かっていた。
後はエルレインを倒すだけだ。
。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。
巨大なレンズの間、と言えば正しいかもしれないその場所に辿り着いたスノウたち。
待ち受けていたエルレインを見据え、各々が武器を手にする。
「……何故、来た。ここに来る事の意味を知らないお前たちではないだろうに…。」
「見くびるんじゃないよ!もちろん、戦う為にここまで来たんだ!アタシたち自身の意志で!」
「それが、どのような結果をもたらすのか分かっているというのに?」
「覚悟は……出来てるっ!!」
「エルレイン。私たちは人々の救済という同じ使命を持った存在……。けれど、彼らと過ごした日々の中で私は知ったの。人は救いなど必要としないということを。はるか先にある幸せを信じて、苦しみや悲しみを乗り越えてゆける強さを持っているということを。」
「……お前は、何も分かっていない。人はもろく、儚い存在。自らの手で苦しみを生み出しながらそれを消すことが出来ない。だからこそ、人は神によって守られ、神によって生かされ、そして……神によって救われるべきなのだ。」
「ヘッ!冗談じゃねえ!俺たちが欲しいのは、まやかしの幸せじゃない!たとえ小さくとも、本物が欲しいんだ!」
「何が幸せで、何が不幸せか。それを決めんのは私たちでしょ!神様なんかお呼びじゃないっての!」
「確かに生きることは苦しいさ!でも…だからこそ、その中に幸せを見つけることが出来るんだ!」
「幸せとは誰かに与えられるものでは無い。自らの手で掴んでこそ価値があるんだ!」
「神の救いこそが真の救い……。それが分からぬとは…愚かな…!」
エルレインの瞳が揺らぎ、スノウを捉える。
しかしスノウもまた、首を横に振って真剣な眼差しをエルレインに向けた。
「神を全否定することは…私はしない。でも、人の幸せを願うというのなら、あなたは見守らなくてはいけないんだ。私たち〈御使い〉が、人間をどうこうしようなど無理に決まっている。人間というのは弱い生き物だけど、それを乗り越えられる強さもあるのだから。」
「……お前も、そう思うのか?」
「少なくとも、今はそう思うんだ。私も一応人間だからね。そしてあなたも……一介の人間に過ぎない。私はあなたこそ、幸せを望んでいいと思っているんだけどな?」
「……愚かな。愚かな愚かなっ!!」
「エルレイン。もうこれで終わりだよ。全てが終わったらあなたもどうか、幸せな人生を歩めるように。心の底から祈ってる。」
「お前はまだ、〈御使い〉としての覚醒も自覚していない…。知覚出来ていない…!」
「…?」
スノウの顔が少し歪む。
一体、なんの事だと言わんばかりに。
「憐れな同業者に、私は救いの道を照らす…!もう神は降臨する!そう、完全な形で!!完全な救いを人々にもたらすのだ!!」
エルレインが遂に武器を持ち、スノウへと瞬間移動する。
武器を振り回すエルレインを避けながら、無詠唱魔法を唱えようとすると横から助太刀がやって来る。
「こいつは渡さん!!」
『聖女は引っ込んでろー!』
「愚かな!!お前もなぜ分からぬ!?神の〈御使い〉ともあろう存在なのに、何故……何故分からぬ!!」
「僕が奴の〈御使い〉となったのは、こいつを救うために他ならん!!それ以外で〈御使い〉の力など不必要だと言っているんだ!!」
「〈御使い〉の言葉とは思えない…!お前も他の人間と同じく、神の元へと還してやろうっ!!」
「はっ!出来るものならやってみろ!!!」
光の槍とシャルティエが拮抗する。
その間に完成された魔法を解き放ったスノウは、瞬時に違う魔法の詠唱へと入った。
「___ネガティブゲイト!!」
「くっ…!?」
スノウの魔法が直撃し、顔を歪めたエルレイン。
カイル達もスノウに続き、エルレインへと攻撃をしようとしたその時、エルレインがスノウに向けて何かを投げる。
それはいつだったか、スノウがやられた〈薄紫色のマナ〉の込められた煙玉だった。
「っ、」
「スノウっ!離れろ!!!」
『うわわわ…!!辺りが全部煙に変わっていきますよ?!!スノウ、無事ですか!!!?』
咄嗟の判断で瞬間移動をしたスノウは、ホッと胸を撫で下ろす。
あのまま瞬間移動していなかったら、また寝ていたかもしれない。
そう思うと、少しだけ寒気がした。
「お前は逃げられやしない。この物体で、お前が弱体化することは把握済みなのだから!!」
「げ…。あれ苦手なんだよねぇ…?他のマナだって分かってるから余計に…。」
「スノウ!お前は遠距離を保ちつつ魔法で援護しろ!!」
「りょーかい!!」
ジューダスのアドバイス通り、スノウが離れた場所から強烈な魔法を放つ。
流石に火力があるスノウを放っておけないエルレインは、すぐさま標的を彼女一択に絞る。
その手には、例の煙玉を持って。
「っ、逃げろっ!スノウ!!」
「悪いけど、それを放たれると私が困るんでね…!____アイヴィーラッシュ!!!」
茨がエルレインを捉え、その身をギリギリと締め上げる。
その隙に、ジューダスが煙玉を奪い取り、自身のポケットへと入れる。
……一応、〈御使い〉の仕事をこなしておかなければ、後で奴が煩いと、そう思って。
「エルレインっ!これで…終わりだっ!!!!」
カイルが動けないエルレインへと攻撃を仕掛ける。
それは完膚なきまでに勝利を掴む、そんな攻撃でもあった。
茨からも解き放たれたエルレインは、地面に倒れていく。
そしてその体を光の粒子へと変えながら、エルレインは悲しそうな、泣きそうな顔でカイルを見る。
「わ…たしは……人々を……救う…………ため……。神の……ちから……だけが……それを、可能に……するのに……。」
「……安心して眠っていい。エルレイン。次会えたら、幾らでも愚痴くらい聞くからさ?」
視線がスノウへと向かう。
ゆっくりとしたその動作を見届けながら、スノウが最後に笑えば、エルレインはとうとう光となって消えていった。
こうして、残るは……神のみだ。
「────。」
そっと握られた手を驚いた顔で見つめるスノウ。
そしてその手の主を見遣れば、そこには強い光を灯した瞳があった。
それを見た瞬間、スノウもクスリと笑って前を向く。
倒れたエルレインのためにも、神という奴にはご退場願わないといけなくなったから。
「────リアラ。我が聖女よ。」
巨大なレンズの前に光とともに現れたのは、“神”────フォルトゥナだった。
リアラを見て慈愛の微笑みを浮かべる“神”は、両手を広げながらリアラを見つめていた。
……その“神”は他など見えていないかのように、リアラしか見えていなかった。
「あなたの答え、ここで聞きましょう。エルレインと違う道を歩んだあなた。そしてエルレインがここで果てたということは、人にとって彼女のやり方が間違っていたという証。────さぁ、あなたの答えは?私は何をすれば良いのですか?リアラ。」
「……フォルトゥナ。あなたは何もしなくていいわ。私と一緒に、ここで果てるの。」
「??何を言っているのです?リアラ。人を救うために神の力が必要なのでしょう?遠慮せずに何でも言ってください。あなたの答え通り、私が人間を幸せへと導いてみせましょう。」
「いいえ!フォルトゥナ!!私たちは要らないのよ!!“神”も聖女も…、彼らには何にも要らないの。なぜなら、本当の幸福はここにあるから。」
「……。」
「人は皆、幸せを持っています。それは苦しみの中にも幸せをみつけようとする心。それは幸せな未来を信じ続ける心。それは自らの手で幸せを掴みたいと願う心。……神の力をもってしても、与えることは出来ないもの……!」
「リアラ。今の言葉が何を意味するのか、分かっているのですか?あなたは、あなた自身の存在を否定しているのですよ?」
フォルトゥナの表情が固まる。
リアラしか向けないその瞳は、僅かに恐怖を表出させていた。
「いいえ、それは違うわ。私が生まれた意味はあった。それは……カイルに出会えたこと。」
カイルもリアラを見て、揺るがない瞳を向ける。
そんな2人を仲間たちも静かに、けれども、優しく見守る。
「カイルと共に悩み、苦しみ……そして、幸せを手に出来た。そう、私は……カイルに出会うために生まれてきたのだから!」
「……リアラ。」
「だからこそ、確信を持って言える。フォルトゥナ。私もあなたも、消えるべきなのです。人の手によって。」
「────なんと愚かな!!」
瞬間、辺りに光が点滅する。
目がやられそうなチカチカとする光、まるでそれはフォルトゥナの怒りを表しているようだった。
「あなたは人々に、この世界を委ねると言うのですか!?自ら幸せになる力など有りはしない!こんなにも小さく儚い、人という存在に…!!」
「確かにオレたちは、お前から見ればちっぽけな存在かもしれない。けれど、オレたちは歩んでいける!誰の手も借りずに自分たちの歴史を刻むことが出来る!だから────もう“神”は要らないんだッ!!」
カイルは武器を手にしてフォルトゥナへと突っ込んでいく。
それに合わせて、支援技をリアラとスノウが仲間たちへと掛けていく。
「カイル、頑張って!!」
「___アグリゲットシャープ!!」
味方全体へ攻撃力上昇の支援技を放ったスノウ。
合わせてジューダスはシャルティエを手にし、闇属性の晶術をフォルトゥナへとかました。
『「___デモンズランス!!」』
ほかの仲間たちも突っ込んでいく中、フォルトゥナが悲痛な叫びをカイルたちに浴びせる。
それは神の悲痛の叫びでもあった。
「何故です?!人の望みによって生まれた私を……何故人が否定するのですっ!?」
詠唱無しの容赦ない氷属性の晶術が全員に降り注ぐ。
それを防いでくれたのは、スノウの絶対障壁だった。
「お得意の術を防がせてもらうよ…!___フォースフィールド!!」
「くっ…!!?」
驚きの顔をさせたフォルトゥナがスノウを見遣る。
しかしカイルの攻撃の強烈さで、フォルトゥナはすぐに視線をカイルへと戻した。
「私は人々を幸せへと導くための存在…!なのに何故…私を否定するのですか…!?他ならぬ人であるあなた達が…!!ならば、エルレインが言っていたように────」
その瞬間、地面が大きく揺れ始める。
それが止むことは無い。
何故なら、この神のたまご自体が地表へ向かって落ちているからだ。
「な、なんだ…?!」
「まさか、神のたまごが地表に向かって落ちているのか…!?」
『えぇっ!!!?それってヤバいやつじゃないですか!!!?』
「簡単な話さ!フォルトゥナを倒したら終わる!」
「皆、神のたまごが地表に落ちる前に頼むっ!!オレに力を貸してくれ!!」
「「「「了解っ!!!」」」」
仲間たちの技の応酬が激化する。
フォルトゥナも自身の得意な晶術で仲間たちを牽制するが、カイルの猛攻は止まらない。
修羅や海琉もまた、続けて技を放ち続けていた。
「___閃いたっ!束の間の休息だよ、皆!ナイチンゲール!!!」
体力の消耗の激しい前衛組に、優しい天使が暖かな光の恵みを空から与えてくれる。
一瞬にして疲れが吹き飛ぶような光を纏い、前衛がホッと息つく間もなく己の心を奮起する。
そして再び晶術を放とうとするフォルトゥナへと攻撃を重ねていった。
「次の歴史を刻むために、ここで神の元へと還りなさい!古き歴史の人よ!!」
「ふざけるなっ!!!次の歴史なんて必要ないっ!オレたちの歴史はまだ終わっちゃいない!!」
「すぐに分かります!あなたたち人間の過ちが何だったのかを!」
「フォルトゥナ!止めて!」
「リアラ。もう後には退けません!これで次の歴史を始めれば全てが変わる!人は、私という神によって幸せとなるのです!!」
「ははっ!相変わらずの横暴さだなぁ?でも、残念だけどこの歴史を終わらせて貰う訳にはいかないんでね!」
「神の〈御使い〉ともあろう人が、何故私に歯向かうのです?!」
「私はあなたの〈御使い〉じゃあない。私が仕えるのはただ一人、〈世界の神〉その人だ!!!」
「マナをもたらす厄介な存在。今ここで、安らかなる眠りへと誘いましょう!!」
「それは遠慮したいかなぁ?」
「スノウ!真面目にやれ!!」
「……怒られてしまったね。なら、本気を出すとしますか!」
スノウが、胸元から出した小銃を頭へとセットする。
そして容赦なく頭を撃ち抜くと、スノウの体に光が帯びる。
次に映したその瞳には、いつもの表情が表れていた。
「___新技次々行くよ?テンペスト!!」
暴風がフォルトゥナを包み込み、その身にダメージを蓄積させていく。
果敢に挑むカイルもその嵐の中を突っ走ってはフォルトゥナへと攻撃をしていた。
「力を貸して、セルシウス!!」
「……分かった…!」
相棒ではなく、銃杖を構えたスノウはセルシウスと共に銃杖を持ち、2人で大きく頷く。
そして敵に向けて、絶対零度の氷の礫を解き放った。
「絶対零度の氷で眠れ!セルシウス・ディマイズ!!」
徐々に凍っていくフォルトゥナへと、最後の攻撃をしたのはカイルだった。
「今を生きる人を消させはしないっ!!!消え去るのはお前だっ!フォルトゥナ!!!!」
「あぁぁああああああああ!!!!!!」
断末魔の悲鳴が辺りに響く。
そして、フォルトゥナが悲鳴をあげながらその身を光にさせ、消滅してしまった。
武器を下ろした仲間たちはじっとカイルを見守る。
そのカイルの視線は既に、巨大なレンズへと向けられていた。
「あれが…」
「そう。神であるフォルトゥナの核となるレンズ。そして……あなたが、砕かなくてはならないもの。」
「……。」
遂に、この時が来たかとスノウが2人を見つめる。
しかしその瞳に恐れは無かった。
ただある未来を見据えて……、そしてあの二人の幸せと再会を信じて、その光景を見つめる。
「(来世こそ、幸せになってくれ。二人とも。私も頑張るから。)」
『スノウ。』
「??」
カイルとリアラが話している間、シャルティエが話しかけてきて、それを黙って見つめればジューダスもシャルティエが見えやすいように体の向きを変えてくれた。
『僕、こんなにも幸せだったこと、今までに無かったんです。』
「(まぁ……あの天地戦争時代はかなりの苦労人だったからね、君は……。)」
『坊ちゃんというマスターに逢えて……そしてスノウにも逢えた。これが幸せでなくてなんだと言う感じですが……。それでも、次の幸せのことを考えてしまうんです。』
「……次の幸せって?」
小声で返事をすれば、シャルティエのコアクリスタルが明るく返事をするかのように輝く。
それは明るい未来への“希望”の様だった。
『来世でも坊ちゃんとスノウが一緒にいますように。一緒に居られますように。って、そう思ったんです。だから改めて今、二人に伝えたくて!』
「……ふふっ。そんなお願い、ズルいなぁ?私の方がお願いしたいくらいなのに。」
『なら、叶えてくれますよね!?スノウ!』
「勿論。レディが良いと言ったなら、ね?」
『ほら、坊ちゃんも言ってください!スノウと一緒に居たいって!』
「僕が今改めて言わなくとも、いつも言っているだろう?僕は、お前との約束を反故にするつもりは毛頭ない。お前との約束を守る。お前のためにも、僕のためにも。」
「ふふっ。言われたからには、ちゃんと私も守らないとね?」
「当たり前だ。」
3人が視線を戻すと、カイルが武器を持ち、勇敢にレンズへと振りかざす姿だった。
大きな音を立て、縦に割れたレンズが辺りに散らばっていく。
その膨大な力がレンズから溢れ出して、カイルだけじゃない、スノウたちもその力に呑み込まれた。
そうしてカイルが涙をこらえて、武器を手放した。
その後は言うまでもない。
フォルトゥナの声の誘惑に負けなかったカイル。
そして奇跡を信じると言って消えてしまったリアラ。
スノウは、そんな二人を見てそれでも優しい笑顔を絶やさなかった。
彼らは必ず再会する。
そう信じて、強く願っていたからだ。
「って、あれ?ここは何処だ?」
ロニが不思議そうな声を出し、周りを見渡す。
だが、それを分かっていたかのようにハロルドが普通の声音で話していく。
「そりゃあ、神様を倒したんだから終わりが近いってことでしょ?」
「カイル。よく頑張ったね。」
その隣ではナナリーがカイルの頭を撫でている。
泣きそうな顔で、辛そうな顔で耐えるカイルに仲間たちが沈黙する。
そして、仲間たちは大きく頷いた。
「カイル。リアラの言った言葉、信じてやれ。また会える、その奇跡をな!」
「大丈夫だろ。あんた達なら。」
ロニや修羅の言葉で、カイルの顔が僅かに希望を持つ。
「アタシも信じてるよ。リアラの言葉も、あんたの信じる強さもね!」
「なんだかんだすぐ会えたりしてねー?」
ナナリーとハロルドの言葉に頷くカイル。
そしてそのカイルの近くに海琉がやってきて、そっと肩に手を置く。
「……信じ続ければ、必ず叶う……。皆が、そう教えてくれた……。だから、おれも信じる…。」
続けてジューダスがカイルに向けて言葉を放つ。
それは、優しい言葉たちだった。
「前を見ろ、カイル。お前はこの旅でたくさんの事を学んできただろう?」
「ジューダス…。」
「お前の信じる気持ちは人一倍強い。ここにいる誰よりもだ。それを今こそ発揮しなくてどうする?」
「うん…。」
「燻っていても何も始まらない。なら前を向け、カイル。前を向いて、そしてお前の信じる道を歩むんだ。お前の足で一歩ずつ、着実に。」
「…うん!」
「なら、私からの言葉もいらないね?カイル。ちゃんと君の愛する人を最後の最後まで信じてあげるんだ。私からはそれだけだよ。」
「うん!皆、ありがとう!」
カイルの表情がだいぶマシになってきている。
そんな時、修羅と海琉の姿が朧気になってきていた。
「おっと…。先にハロルドかと思ってたが…まさか俺らか。」
「…消えちゃうの?おれたち…。」
「いや?また歴史が修正されて、今までの旅がなかったものになるんだ。…だが、俺やスノウの参入でどれほどそれも狂ってくるか…。」
「意外と全員旅のことを覚えていたりしてね?」
「クスクス…。それなら俺は好都合だけどな?あんたも消えるわけじゃないんだろ?」
「一応ね?」
「ならあんたの来世とやらを待つさ。いつまでもな。」
「へえ?待っててくれるんだ?」
「そりゃそうだ。俺のお姫様だからな?」
「もう。また言ってるよ…。あんまり言うと普通の女の子なら怒るところだからね?」
「クスクス…! その言い方だとあんたは違うんだろ?俺のお姫さ────」
「さっさと逝け。このたらしめ。」
「チッ…!あんたとは来世でちゃんとケリを付けないとな?ちゃんと出てこいよ、このむっつりが。」
「何だと?」
「やるってか?上等だ、かかってこいよ…!!」
しかし時間が来たのか、二人が睨み合っている間に修羅と海琉の体が消えていった。
どうやら、元の時間軸へと戻っていったようだ。
エルレインやバルバトスによって改変される前の時代まで…。
「あら、じゃあ次は私ってわけね。」
ハロルドの体が徐々に薄くなっていく。
それにカイルも再び悲しそうな顔をする。
しかしそんなカイルの鼻頭を、これでもかとグッと人差し指で押し込んだハロルドは、いつものようにニヤリと笑った。
「ちょっとちょっとー?湿っぽいのは嫌いなんだけどー?」
「ハロルド…。」
「何よ?」
「……ううん、何でもない!でも、これだけは言わせて!オレたちの旅についてきてくれてありがとう!おかげで何度も助けられたから────」
「だーかーらー!湿っぽいのは嫌いだって言ってんの!!最後の挨拶みたいで嫌なんだけど?」
「はぁ?だってお前さんの時代は1000年前の天地戦争時代だろ?」
「ぐふふ…!まぁ、楽しみにしてなさいって!ねー?スノウ?」
「ははっ…!ま、そうだね?ハロルド。」
「「『「???」』」」
スノウとハロルドは約束をしている。
この旅が終わっても、彼女たちはまた再会する────その約束を。
その約束を果たすためにちゃんとハロルドは、ソーディアン・ベルセリオスに自身の人格を投射し直している。
そしてソーディアン研究所に封印したのだ。
その封印の鍵を持つのは、スノウの血液ということなのだが……果たして、記憶が戻っているだろうか。
「だからサヨナラは言わないわよ?アンタ達にはまた会えるんだから。」
「おいおい勘弁してくれ…。またデータ採取とか言われて身体をいじられた日にゃ…。」
「そんなにして欲しいならやってあげるわよ?あと残り数秒でも、あんたの体の中をいじる事だって出来るけど?」
「どーぞ!!お帰りください!!ハロルド様ーー!!!!」
土下座をしたロニの前でふんぞり返っていたハロルドは、スノウへと視線を向けて笑顔になる。
そして「じゃ、またねー?」と言って静かに消えていったのだった。
ロニが汗を拭いながら立ち上がれば、次に体に異変が起こったのはナナリーだった。
「…!ナナリー…。」
「なんだい。そんな顔しちゃってさ?ハロルドの言葉はよく分かんなかったけどさ。アタシたちは違う。あんた達の時代からそんなに離れてもないしね?」
「そうか…!お前、10年後にいたんだもんな!」
「そういうこと!だから私も別れの挨拶を言うつもりはないよ!」
「よーやく、お前さんの関節技から離れられると思うと清々するぜ。」
「なら、最後にやっておくかい…!?」
ボキボキと鳴ってはならない音がロニの体から聞こえてくる。
久しぶりの関節技ということと、最後の関節技だけあってロニの顔もいつもとは違い、少しだけ寂しそうであった。
それでも2人は仲良さそうにしているのを見て、ジューダスも呆れてそれを見遣る。
スノウもカイルも、嬉しそうに見てはいたが……どうやら時間のようである。
挨拶をする暇もなく消えていったナナリー。
関節技を決められていたロニはその瞬間、地面に落ちて転んでしまっていた。
そんなロニが痛みを訴える中、続いて体が薄くなってきたのは……スノウとジューダスだった。
「二人とも…!」
「ははっ。さっきから誰も言ってるよね?悲しまないで、って。そんな悲しい顔、君たちには似合わないよ?」
「ねぇ…。2人はどこに行くの…?」
「本当だったら死んだ身である僕達だ。時空の彼方にでも飛ばされる…と言いたいところだが。こいつの“神”や僕の“神”がそれを許してくれなくてな。恐らく、またこの世界に戻ってくることになるさ。」
「ふふっ、ごめんね?レディ?」
「ふん。謝るな、阿呆。」
「じゃ、じゃあ…また2人には会えるんだね!」
「うん、そのつもりだよ。まだまだこの世界でやることが沢山あるからね。それを成し遂げないと落ち着いた生活もままならなくってさ?」
「こいつの“神”が面倒な“神”だからな。致し方ない。」
徐々に薄くなっていく体。
最後にスノウとジューダスは手を繋いだ。
次の時も必ず、この手を握れると信じて。
「んじゃ、またね?二人とも。あんまり落ち込まないように。」
「また会ったら今度こそ勉強を教えてやる。どこぞの守銭奴の奴との約束だからな?」
「うわ……忘れてたよ、それ…。」
「ハッ!お前が変な事ぬかすからだろうが。自業自得だ、阿呆。」
「ふふっ!しまらない最後だったね?」
「別れの言葉は性にあわん。それだけだ。」
そう言って二人の体は消えてしまった。
残された二人も少しの間話をして、そして別れの言葉は言わずに消える。
────また、仲間たちに会える日を楽しみにしながら。
Never ending nightmare.
第一章 完結
……え?
カイルとリアラは会えたか、だって?
これを見ている君なら分かるんじゃないかな?
あの二人がそうそうやすやすと離れられるような人達じゃないってこと。
そして、運命の物語も知ってる君なら……もう分かるよね?
当然、二人は再会した。
あの遺跡で、あの日の全てを思い出して。
そして二人で仲良く、待っていたロニと再会してあの旅のことを話す。
それは、未来へ繋がるピース。
カイル、リアラ、ロニの三人が他の仲間たちと会えるまで、きっとこの会話は終わらない。
だって、大切な仲間たちの話なのだから────
デリスエンブレムの欠片が最後の3つも集まり、床にある窪みへとそれぞれ三人が欠片をはめ込めば、仲間たちは光に包まれる。
そして目を開けた先には、全く違う光景が見えていた。
「…どうやら、ワープしたようだな。」
『やっとデリスエンブレムの仕掛けを突破出来ましたね…。ここまで長かったです…。』
「ここから先は、余計に敵が強くなっていくから、皆注意してね?」
「「「はーい。」」」
スノウの言葉に全員が顔を引き締める。
そしてこの道の注意事項をスノウが伝え、決して禍々しい色をした球体には触れないことを言ったその瞬間、ダブルカイル達が「え?」という顔をしてスノウを見た。
その手には禍々しい色をした球体が握られていた。
刹那、スノウの顔が引き攣る。
「あ……あは、は…。」
「それに触れるとどうなるんだ?スノウ。」
「……別の場所で、モンスターが解き放たれるんだ。しかも…それが結構強くて…。」
バサバサという羽の音が聞こえたり、ガシャガシャという乾いた鎧の音が聞こえたかと思えば、ジューダス達の前に現れたのは大量の魔物だった。
全員が息を呑んで慌てて武器を手にする。
そうして、悲しきかな。戦闘が始まってしまったのだった。
「おい、スノウ!こいつらの弱点は!?」
「主に闇属性と光属性だ!!ジューダスは飛んでいる天使の魔物に闇属性を放って!私は地面の方の鎧魔人に光属性を当てるから!」
『「了解!!」』
「おいおいおい…!どーしてこうなっちまうかなぁ!?」
「ごめんって!ロニ!!」
「相変わらず、こんな時でもしまらねぇなぁ!カイル!」
「おい、海琉!お前は地面にいる有象無象を倒せ!俺が上の奴を落とす!」
「分かった…!!」
「沢山いるわねー。鬱陶しいったらありゃしない。」
「仕方ないよ!やって来ちまったもんは倒すしかないよ!ハロルド!」
「分かってるけど、もう少しどーにかなんない?晶術が当たんないんだけど。」
「私とナナリーで敵をまとめるから、ハロルドが敵を一網打尽にして!!」
「りょーかい。やってやりますかー。」
各々戦闘に夢中になり、ひたすら現れる敵を倒して行く。
エルレインに行く前に、かなりの体力消費となってしまったが、それでも皆文句も言わずに戦闘をこなしていく。
ようやくケリがついた頃には、地面に座り込んでしまう者も何人かいたのだった。
「はぁ、はぁ…」
「さ、すがに……きちー…!」
「分かってるとは思うが…!誰も、あれに触れるな、よ…!!」
息を切らしながらお互いにちゃんと注意をし合う。
“絶対に、あの禍々しい球体に触れない”と。
「フリじゃないからな!?特にカイル!」
「わ、分かったってロニ…。」
「不慮の事故で当たってしまう分には仕方がないけど、好奇心は神をも殺すよ?気を付けて、カイル。」
「うん!もう大丈夫!あれに触れなければいいんでしょ!」
「「「「(本当に大丈夫かなぁ…?)」」」」
一抹の不安が全員の頭を掠めていく。
しかしここで立ち往生する訳にもいかない。
お互いに声を掛け合いながら進んでいくと、遂に最後の場所へとたどり着く。
流石に全員が奥にある妙な空気を読んだのか、立ち止まり各々を見つめる。
そしてカイルが円陣を組み出して、リアラもそれに乗る。
ロニやナナリー、海琉までもが円陣に入っていけば、後はクールな面子だけが取り残される。
ナナリーはハロルドを無理やり入れさせ、海琉が修羅を、そしてジューダスはスノウが手を引っ張って円陣の中へと連れ込んだ。
全員で円の中央に手を乗せ合い、そして沈黙する。
最後の最後はやはり、彼に決めても貰わなければと、このメンバーのボス的位置に立つカイルへと自然な流れで視線が向かう。
そして、カイルが決意を込めた瞳を全員に向けた。
「皆、これで最後だ。絶対に勝つぞ!」
「お前ら、準備だけは怠るなよ。これで本当の最後かもしれないからな。」
「おいおい…。こんな時に縁起の悪いこと言ってんじゃねぇよ!相変わらずお前は、最後までクールっつーか、冷めてるって言うか…。」
「いいんじゃない?変に緊張するより、よっぽどマシよ。」
「あははっ!違いないね!」
「ふふっ!そうだね?これが私たちの良い所かもしれないね?」
「フッ…。あぁ、そうだな。だがまぁ…そうだな…。これが最後で、そしてこの旅が終わろうとも、僕はお前らにはまた会えると思っている。」
「「「「!!」」」」
「ヘッ…!たまには良いこと言うじゃねぇか。ジューダス。」
「たまには余計だ。僕はいつもいつもお前らにアドバイスをしてやってるだろうが。だから“たまには”という言葉を“いつも”に変えておけ。」
「けっ!言っとけ!」
途端に笑いが起きて、全員の顔が笑顔になっていく。
そして全員が決意をする。
この戦い、負ける訳にはいかないから!
「皆、行くぞ!!」
「「「「『「「おー!!!!」」』」」」」
手をグッと下にやり、一気に上へと持ち上げれば皆、体は自然と奥へと向かっていた。
後はエルレインを倒すだけだ。
。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。
巨大なレンズの間、と言えば正しいかもしれないその場所に辿り着いたスノウたち。
待ち受けていたエルレインを見据え、各々が武器を手にする。
「……何故、来た。ここに来る事の意味を知らないお前たちではないだろうに…。」
「見くびるんじゃないよ!もちろん、戦う為にここまで来たんだ!アタシたち自身の意志で!」
「それが、どのような結果をもたらすのか分かっているというのに?」
「覚悟は……出来てるっ!!」
「エルレイン。私たちは人々の救済という同じ使命を持った存在……。けれど、彼らと過ごした日々の中で私は知ったの。人は救いなど必要としないということを。はるか先にある幸せを信じて、苦しみや悲しみを乗り越えてゆける強さを持っているということを。」
「……お前は、何も分かっていない。人はもろく、儚い存在。自らの手で苦しみを生み出しながらそれを消すことが出来ない。だからこそ、人は神によって守られ、神によって生かされ、そして……神によって救われるべきなのだ。」
「ヘッ!冗談じゃねえ!俺たちが欲しいのは、まやかしの幸せじゃない!たとえ小さくとも、本物が欲しいんだ!」
「何が幸せで、何が不幸せか。それを決めんのは私たちでしょ!神様なんかお呼びじゃないっての!」
「確かに生きることは苦しいさ!でも…だからこそ、その中に幸せを見つけることが出来るんだ!」
「幸せとは誰かに与えられるものでは無い。自らの手で掴んでこそ価値があるんだ!」
「神の救いこそが真の救い……。それが分からぬとは…愚かな…!」
エルレインの瞳が揺らぎ、スノウを捉える。
しかしスノウもまた、首を横に振って真剣な眼差しをエルレインに向けた。
「神を全否定することは…私はしない。でも、人の幸せを願うというのなら、あなたは見守らなくてはいけないんだ。私たち〈御使い〉が、人間をどうこうしようなど無理に決まっている。人間というのは弱い生き物だけど、それを乗り越えられる強さもあるのだから。」
「……お前も、そう思うのか?」
「少なくとも、今はそう思うんだ。私も一応人間だからね。そしてあなたも……一介の人間に過ぎない。私はあなたこそ、幸せを望んでいいと思っているんだけどな?」
「……愚かな。愚かな愚かなっ!!」
「エルレイン。もうこれで終わりだよ。全てが終わったらあなたもどうか、幸せな人生を歩めるように。心の底から祈ってる。」
「お前はまだ、〈御使い〉としての覚醒も自覚していない…。知覚出来ていない…!」
「…?」
スノウの顔が少し歪む。
一体、なんの事だと言わんばかりに。
「憐れな同業者に、私は救いの道を照らす…!もう神は降臨する!そう、完全な形で!!完全な救いを人々にもたらすのだ!!」
エルレインが遂に武器を持ち、スノウへと瞬間移動する。
武器を振り回すエルレインを避けながら、無詠唱魔法を唱えようとすると横から助太刀がやって来る。
「こいつは渡さん!!」
『聖女は引っ込んでろー!』
「愚かな!!お前もなぜ分からぬ!?神の〈御使い〉ともあろう存在なのに、何故……何故分からぬ!!」
「僕が奴の〈御使い〉となったのは、こいつを救うために他ならん!!それ以外で〈御使い〉の力など不必要だと言っているんだ!!」
「〈御使い〉の言葉とは思えない…!お前も他の人間と同じく、神の元へと還してやろうっ!!」
「はっ!出来るものならやってみろ!!!」
光の槍とシャルティエが拮抗する。
その間に完成された魔法を解き放ったスノウは、瞬時に違う魔法の詠唱へと入った。
「___ネガティブゲイト!!」
「くっ…!?」
スノウの魔法が直撃し、顔を歪めたエルレイン。
カイル達もスノウに続き、エルレインへと攻撃をしようとしたその時、エルレインがスノウに向けて何かを投げる。
それはいつだったか、スノウがやられた〈薄紫色のマナ〉の込められた煙玉だった。
「っ、」
「スノウっ!離れろ!!!」
『うわわわ…!!辺りが全部煙に変わっていきますよ?!!スノウ、無事ですか!!!?』
咄嗟の判断で瞬間移動をしたスノウは、ホッと胸を撫で下ろす。
あのまま瞬間移動していなかったら、また寝ていたかもしれない。
そう思うと、少しだけ寒気がした。
「お前は逃げられやしない。この物体で、お前が弱体化することは把握済みなのだから!!」
「げ…。あれ苦手なんだよねぇ…?他のマナだって分かってるから余計に…。」
「スノウ!お前は遠距離を保ちつつ魔法で援護しろ!!」
「りょーかい!!」
ジューダスのアドバイス通り、スノウが離れた場所から強烈な魔法を放つ。
流石に火力があるスノウを放っておけないエルレインは、すぐさま標的を彼女一択に絞る。
その手には、例の煙玉を持って。
「っ、逃げろっ!スノウ!!」
「悪いけど、それを放たれると私が困るんでね…!____アイヴィーラッシュ!!!」
茨がエルレインを捉え、その身をギリギリと締め上げる。
その隙に、ジューダスが煙玉を奪い取り、自身のポケットへと入れる。
……一応、〈御使い〉の仕事をこなしておかなければ、後で奴が煩いと、そう思って。
「エルレインっ!これで…終わりだっ!!!!」
カイルが動けないエルレインへと攻撃を仕掛ける。
それは完膚なきまでに勝利を掴む、そんな攻撃でもあった。
茨からも解き放たれたエルレインは、地面に倒れていく。
そしてその体を光の粒子へと変えながら、エルレインは悲しそうな、泣きそうな顔でカイルを見る。
「わ…たしは……人々を……救う…………ため……。神の……ちから……だけが……それを、可能に……するのに……。」
「……安心して眠っていい。エルレイン。次会えたら、幾らでも愚痴くらい聞くからさ?」
視線がスノウへと向かう。
ゆっくりとしたその動作を見届けながら、スノウが最後に笑えば、エルレインはとうとう光となって消えていった。
こうして、残るは……神のみだ。
「────。」
そっと握られた手を驚いた顔で見つめるスノウ。
そしてその手の主を見遣れば、そこには強い光を灯した瞳があった。
それを見た瞬間、スノウもクスリと笑って前を向く。
倒れたエルレインのためにも、神という奴にはご退場願わないといけなくなったから。
「────リアラ。我が聖女よ。」
巨大なレンズの前に光とともに現れたのは、“神”────フォルトゥナだった。
リアラを見て慈愛の微笑みを浮かべる“神”は、両手を広げながらリアラを見つめていた。
……その“神”は他など見えていないかのように、リアラしか見えていなかった。
「あなたの答え、ここで聞きましょう。エルレインと違う道を歩んだあなた。そしてエルレインがここで果てたということは、人にとって彼女のやり方が間違っていたという証。────さぁ、あなたの答えは?私は何をすれば良いのですか?リアラ。」
「……フォルトゥナ。あなたは何もしなくていいわ。私と一緒に、ここで果てるの。」
「??何を言っているのです?リアラ。人を救うために神の力が必要なのでしょう?遠慮せずに何でも言ってください。あなたの答え通り、私が人間を幸せへと導いてみせましょう。」
「いいえ!フォルトゥナ!!私たちは要らないのよ!!“神”も聖女も…、彼らには何にも要らないの。なぜなら、本当の幸福はここにあるから。」
「……。」
「人は皆、幸せを持っています。それは苦しみの中にも幸せをみつけようとする心。それは幸せな未来を信じ続ける心。それは自らの手で幸せを掴みたいと願う心。……神の力をもってしても、与えることは出来ないもの……!」
「リアラ。今の言葉が何を意味するのか、分かっているのですか?あなたは、あなた自身の存在を否定しているのですよ?」
フォルトゥナの表情が固まる。
リアラしか向けないその瞳は、僅かに恐怖を表出させていた。
「いいえ、それは違うわ。私が生まれた意味はあった。それは……カイルに出会えたこと。」
カイルもリアラを見て、揺るがない瞳を向ける。
そんな2人を仲間たちも静かに、けれども、優しく見守る。
「カイルと共に悩み、苦しみ……そして、幸せを手に出来た。そう、私は……カイルに出会うために生まれてきたのだから!」
「……リアラ。」
「だからこそ、確信を持って言える。フォルトゥナ。私もあなたも、消えるべきなのです。人の手によって。」
「────なんと愚かな!!」
瞬間、辺りに光が点滅する。
目がやられそうなチカチカとする光、まるでそれはフォルトゥナの怒りを表しているようだった。
「あなたは人々に、この世界を委ねると言うのですか!?自ら幸せになる力など有りはしない!こんなにも小さく儚い、人という存在に…!!」
「確かにオレたちは、お前から見ればちっぽけな存在かもしれない。けれど、オレたちは歩んでいける!誰の手も借りずに自分たちの歴史を刻むことが出来る!だから────もう“神”は要らないんだッ!!」
カイルは武器を手にしてフォルトゥナへと突っ込んでいく。
それに合わせて、支援技をリアラとスノウが仲間たちへと掛けていく。
「カイル、頑張って!!」
「___アグリゲットシャープ!!」
味方全体へ攻撃力上昇の支援技を放ったスノウ。
合わせてジューダスはシャルティエを手にし、闇属性の晶術をフォルトゥナへとかました。
『「___デモンズランス!!」』
ほかの仲間たちも突っ込んでいく中、フォルトゥナが悲痛な叫びをカイルたちに浴びせる。
それは神の悲痛の叫びでもあった。
「何故です?!人の望みによって生まれた私を……何故人が否定するのですっ!?」
詠唱無しの容赦ない氷属性の晶術が全員に降り注ぐ。
それを防いでくれたのは、スノウの絶対障壁だった。
「お得意の術を防がせてもらうよ…!___フォースフィールド!!」
「くっ…!!?」
驚きの顔をさせたフォルトゥナがスノウを見遣る。
しかしカイルの攻撃の強烈さで、フォルトゥナはすぐに視線をカイルへと戻した。
「私は人々を幸せへと導くための存在…!なのに何故…私を否定するのですか…!?他ならぬ人であるあなた達が…!!ならば、エルレインが言っていたように────」
その瞬間、地面が大きく揺れ始める。
それが止むことは無い。
何故なら、この神のたまご自体が地表へ向かって落ちているからだ。
「な、なんだ…?!」
「まさか、神のたまごが地表に向かって落ちているのか…!?」
『えぇっ!!!?それってヤバいやつじゃないですか!!!?』
「簡単な話さ!フォルトゥナを倒したら終わる!」
「皆、神のたまごが地表に落ちる前に頼むっ!!オレに力を貸してくれ!!」
「「「「了解っ!!!」」」」
仲間たちの技の応酬が激化する。
フォルトゥナも自身の得意な晶術で仲間たちを牽制するが、カイルの猛攻は止まらない。
修羅や海琉もまた、続けて技を放ち続けていた。
「___閃いたっ!束の間の休息だよ、皆!ナイチンゲール!!!」
体力の消耗の激しい前衛組に、優しい天使が暖かな光の恵みを空から与えてくれる。
一瞬にして疲れが吹き飛ぶような光を纏い、前衛がホッと息つく間もなく己の心を奮起する。
そして再び晶術を放とうとするフォルトゥナへと攻撃を重ねていった。
「次の歴史を刻むために、ここで神の元へと還りなさい!古き歴史の人よ!!」
「ふざけるなっ!!!次の歴史なんて必要ないっ!オレたちの歴史はまだ終わっちゃいない!!」
「すぐに分かります!あなたたち人間の過ちが何だったのかを!」
「フォルトゥナ!止めて!」
「リアラ。もう後には退けません!これで次の歴史を始めれば全てが変わる!人は、私という神によって幸せとなるのです!!」
「ははっ!相変わらずの横暴さだなぁ?でも、残念だけどこの歴史を終わらせて貰う訳にはいかないんでね!」
「神の〈御使い〉ともあろう人が、何故私に歯向かうのです?!」
「私はあなたの〈御使い〉じゃあない。私が仕えるのはただ一人、〈世界の神〉その人だ!!!」
「マナをもたらす厄介な存在。今ここで、安らかなる眠りへと誘いましょう!!」
「それは遠慮したいかなぁ?」
「スノウ!真面目にやれ!!」
「……怒られてしまったね。なら、本気を出すとしますか!」
スノウが、胸元から出した小銃を頭へとセットする。
そして容赦なく頭を撃ち抜くと、スノウの体に光が帯びる。
次に映したその瞳には、いつもの表情が表れていた。
「___新技次々行くよ?テンペスト!!」
暴風がフォルトゥナを包み込み、その身にダメージを蓄積させていく。
果敢に挑むカイルもその嵐の中を突っ走ってはフォルトゥナへと攻撃をしていた。
「力を貸して、セルシウス!!」
「……分かった…!」
相棒ではなく、銃杖を構えたスノウはセルシウスと共に銃杖を持ち、2人で大きく頷く。
そして敵に向けて、絶対零度の氷の礫を解き放った。
「絶対零度の氷で眠れ!セルシウス・ディマイズ!!」
徐々に凍っていくフォルトゥナへと、最後の攻撃をしたのはカイルだった。
「今を生きる人を消させはしないっ!!!消え去るのはお前だっ!フォルトゥナ!!!!」
「あぁぁああああああああ!!!!!!」
断末魔の悲鳴が辺りに響く。
そして、フォルトゥナが悲鳴をあげながらその身を光にさせ、消滅してしまった。
武器を下ろした仲間たちはじっとカイルを見守る。
そのカイルの視線は既に、巨大なレンズへと向けられていた。
「あれが…」
「そう。神であるフォルトゥナの核となるレンズ。そして……あなたが、砕かなくてはならないもの。」
「……。」
遂に、この時が来たかとスノウが2人を見つめる。
しかしその瞳に恐れは無かった。
ただある未来を見据えて……、そしてあの二人の幸せと再会を信じて、その光景を見つめる。
「(来世こそ、幸せになってくれ。二人とも。私も頑張るから。)」
『スノウ。』
「??」
カイルとリアラが話している間、シャルティエが話しかけてきて、それを黙って見つめればジューダスもシャルティエが見えやすいように体の向きを変えてくれた。
『僕、こんなにも幸せだったこと、今までに無かったんです。』
「(まぁ……あの天地戦争時代はかなりの苦労人だったからね、君は……。)」
『坊ちゃんというマスターに逢えて……そしてスノウにも逢えた。これが幸せでなくてなんだと言う感じですが……。それでも、次の幸せのことを考えてしまうんです。』
「……次の幸せって?」
小声で返事をすれば、シャルティエのコアクリスタルが明るく返事をするかのように輝く。
それは明るい未来への“希望”の様だった。
『来世でも坊ちゃんとスノウが一緒にいますように。一緒に居られますように。って、そう思ったんです。だから改めて今、二人に伝えたくて!』
「……ふふっ。そんなお願い、ズルいなぁ?私の方がお願いしたいくらいなのに。」
『なら、叶えてくれますよね!?スノウ!』
「勿論。レディが良いと言ったなら、ね?」
『ほら、坊ちゃんも言ってください!スノウと一緒に居たいって!』
「僕が今改めて言わなくとも、いつも言っているだろう?僕は、お前との約束を反故にするつもりは毛頭ない。お前との約束を守る。お前のためにも、僕のためにも。」
「ふふっ。言われたからには、ちゃんと私も守らないとね?」
「当たり前だ。」
3人が視線を戻すと、カイルが武器を持ち、勇敢にレンズへと振りかざす姿だった。
大きな音を立て、縦に割れたレンズが辺りに散らばっていく。
その膨大な力がレンズから溢れ出して、カイルだけじゃない、スノウたちもその力に呑み込まれた。
そうしてカイルが涙をこらえて、武器を手放した。
その後は言うまでもない。
フォルトゥナの声の誘惑に負けなかったカイル。
そして奇跡を信じると言って消えてしまったリアラ。
スノウは、そんな二人を見てそれでも優しい笑顔を絶やさなかった。
彼らは必ず再会する。
そう信じて、強く願っていたからだ。
「って、あれ?ここは何処だ?」
ロニが不思議そうな声を出し、周りを見渡す。
だが、それを分かっていたかのようにハロルドが普通の声音で話していく。
「そりゃあ、神様を倒したんだから終わりが近いってことでしょ?」
「カイル。よく頑張ったね。」
その隣ではナナリーがカイルの頭を撫でている。
泣きそうな顔で、辛そうな顔で耐えるカイルに仲間たちが沈黙する。
そして、仲間たちは大きく頷いた。
「カイル。リアラの言った言葉、信じてやれ。また会える、その奇跡をな!」
「大丈夫だろ。あんた達なら。」
ロニや修羅の言葉で、カイルの顔が僅かに希望を持つ。
「アタシも信じてるよ。リアラの言葉も、あんたの信じる強さもね!」
「なんだかんだすぐ会えたりしてねー?」
ナナリーとハロルドの言葉に頷くカイル。
そしてそのカイルの近くに海琉がやってきて、そっと肩に手を置く。
「……信じ続ければ、必ず叶う……。皆が、そう教えてくれた……。だから、おれも信じる…。」
続けてジューダスがカイルに向けて言葉を放つ。
それは、優しい言葉たちだった。
「前を見ろ、カイル。お前はこの旅でたくさんの事を学んできただろう?」
「ジューダス…。」
「お前の信じる気持ちは人一倍強い。ここにいる誰よりもだ。それを今こそ発揮しなくてどうする?」
「うん…。」
「燻っていても何も始まらない。なら前を向け、カイル。前を向いて、そしてお前の信じる道を歩むんだ。お前の足で一歩ずつ、着実に。」
「…うん!」
「なら、私からの言葉もいらないね?カイル。ちゃんと君の愛する人を最後の最後まで信じてあげるんだ。私からはそれだけだよ。」
「うん!皆、ありがとう!」
カイルの表情がだいぶマシになってきている。
そんな時、修羅と海琉の姿が朧気になってきていた。
「おっと…。先にハロルドかと思ってたが…まさか俺らか。」
「…消えちゃうの?おれたち…。」
「いや?また歴史が修正されて、今までの旅がなかったものになるんだ。…だが、俺やスノウの参入でどれほどそれも狂ってくるか…。」
「意外と全員旅のことを覚えていたりしてね?」
「クスクス…。それなら俺は好都合だけどな?あんたも消えるわけじゃないんだろ?」
「一応ね?」
「ならあんたの来世とやらを待つさ。いつまでもな。」
「へえ?待っててくれるんだ?」
「そりゃそうだ。俺のお姫様だからな?」
「もう。また言ってるよ…。あんまり言うと普通の女の子なら怒るところだからね?」
「クスクス…! その言い方だとあんたは違うんだろ?俺のお姫さ────」
「さっさと逝け。このたらしめ。」
「チッ…!あんたとは来世でちゃんとケリを付けないとな?ちゃんと出てこいよ、このむっつりが。」
「何だと?」
「やるってか?上等だ、かかってこいよ…!!」
しかし時間が来たのか、二人が睨み合っている間に修羅と海琉の体が消えていった。
どうやら、元の時間軸へと戻っていったようだ。
エルレインやバルバトスによって改変される前の時代まで…。
「あら、じゃあ次は私ってわけね。」
ハロルドの体が徐々に薄くなっていく。
それにカイルも再び悲しそうな顔をする。
しかしそんなカイルの鼻頭を、これでもかとグッと人差し指で押し込んだハロルドは、いつものようにニヤリと笑った。
「ちょっとちょっとー?湿っぽいのは嫌いなんだけどー?」
「ハロルド…。」
「何よ?」
「……ううん、何でもない!でも、これだけは言わせて!オレたちの旅についてきてくれてありがとう!おかげで何度も助けられたから────」
「だーかーらー!湿っぽいのは嫌いだって言ってんの!!最後の挨拶みたいで嫌なんだけど?」
「はぁ?だってお前さんの時代は1000年前の天地戦争時代だろ?」
「ぐふふ…!まぁ、楽しみにしてなさいって!ねー?スノウ?」
「ははっ…!ま、そうだね?ハロルド。」
「「『「???」』」」
スノウとハロルドは約束をしている。
この旅が終わっても、彼女たちはまた再会する────その約束を。
その約束を果たすためにちゃんとハロルドは、ソーディアン・ベルセリオスに自身の人格を投射し直している。
そしてソーディアン研究所に封印したのだ。
その封印の鍵を持つのは、スノウの血液ということなのだが……果たして、記憶が戻っているだろうか。
「だからサヨナラは言わないわよ?アンタ達にはまた会えるんだから。」
「おいおい勘弁してくれ…。またデータ採取とか言われて身体をいじられた日にゃ…。」
「そんなにして欲しいならやってあげるわよ?あと残り数秒でも、あんたの体の中をいじる事だって出来るけど?」
「どーぞ!!お帰りください!!ハロルド様ーー!!!!」
土下座をしたロニの前でふんぞり返っていたハロルドは、スノウへと視線を向けて笑顔になる。
そして「じゃ、またねー?」と言って静かに消えていったのだった。
ロニが汗を拭いながら立ち上がれば、次に体に異変が起こったのはナナリーだった。
「…!ナナリー…。」
「なんだい。そんな顔しちゃってさ?ハロルドの言葉はよく分かんなかったけどさ。アタシたちは違う。あんた達の時代からそんなに離れてもないしね?」
「そうか…!お前、10年後にいたんだもんな!」
「そういうこと!だから私も別れの挨拶を言うつもりはないよ!」
「よーやく、お前さんの関節技から離れられると思うと清々するぜ。」
「なら、最後にやっておくかい…!?」
ボキボキと鳴ってはならない音がロニの体から聞こえてくる。
久しぶりの関節技ということと、最後の関節技だけあってロニの顔もいつもとは違い、少しだけ寂しそうであった。
それでも2人は仲良さそうにしているのを見て、ジューダスも呆れてそれを見遣る。
スノウもカイルも、嬉しそうに見てはいたが……どうやら時間のようである。
挨拶をする暇もなく消えていったナナリー。
関節技を決められていたロニはその瞬間、地面に落ちて転んでしまっていた。
そんなロニが痛みを訴える中、続いて体が薄くなってきたのは……スノウとジューダスだった。
「二人とも…!」
「ははっ。さっきから誰も言ってるよね?悲しまないで、って。そんな悲しい顔、君たちには似合わないよ?」
「ねぇ…。2人はどこに行くの…?」
「本当だったら死んだ身である僕達だ。時空の彼方にでも飛ばされる…と言いたいところだが。こいつの“神”や僕の“神”がそれを許してくれなくてな。恐らく、またこの世界に戻ってくることになるさ。」
「ふふっ、ごめんね?レディ?」
「ふん。謝るな、阿呆。」
「じゃ、じゃあ…また2人には会えるんだね!」
「うん、そのつもりだよ。まだまだこの世界でやることが沢山あるからね。それを成し遂げないと落ち着いた生活もままならなくってさ?」
「こいつの“神”が面倒な“神”だからな。致し方ない。」
徐々に薄くなっていく体。
最後にスノウとジューダスは手を繋いだ。
次の時も必ず、この手を握れると信じて。
「んじゃ、またね?二人とも。あんまり落ち込まないように。」
「また会ったら今度こそ勉強を教えてやる。どこぞの守銭奴の奴との約束だからな?」
「うわ……忘れてたよ、それ…。」
「ハッ!お前が変な事ぬかすからだろうが。自業自得だ、阿呆。」
「ふふっ!しまらない最後だったね?」
「別れの言葉は性にあわん。それだけだ。」
そう言って二人の体は消えてしまった。
残された二人も少しの間話をして、そして別れの言葉は言わずに消える。
────また、仲間たちに会える日を楽しみにしながら。
Never ending nightmare.
第一章 完結
……え?
カイルとリアラは会えたか、だって?
これを見ている君なら分かるんじゃないかな?
あの二人がそうそうやすやすと離れられるような人達じゃないってこと。
そして、運命の物語も知ってる君なら……もう分かるよね?
当然、二人は再会した。
あの遺跡で、あの日の全てを思い出して。
そして二人で仲良く、待っていたロニと再会してあの旅のことを話す。
それは、未来へ繋がるピース。
カイル、リアラ、ロニの三人が他の仲間たちと会えるまで、きっとこの会話は終わらない。
だって、大切な仲間たちの話なのだから────