第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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128.
モネが先手を打って、相棒を手に攻撃を仕掛けてくる。
しかしモネの攻撃をこれでもか、と見てきたジューダスにとって、その攻撃は想定内の出来事だった。
すぐにシャルティエで相殺させた後、ジューダスは間髪入れずにモネへと攻撃を仕掛ける。
それはモネを空中へと逃がさない為である。
空中へ飛ばれるとモネ相棒の銃でこちらに攻撃されてしまう。
その前に倒そうという寸法なのだ。
「散れっ!魔人滅殺闇!!」
「くっ…!」
押されているモネの顔が徐々に曇っていく。
その顔からも分かる様に、思った通りの攻撃が出来ず四苦八苦しているのも窺えるだろう。
その時、モネが一際大きくジューダスの攻撃を跳ね除ける。
しかし今のジューダスにとって、そんなモネの攻撃は微々たるものだった。
すぐに体勢を立て直したジューダスは再度モネへと攻撃を仕掛け続け、モネの体力の消耗を図れば、さすがに彼女の顔から焦りが見え始める。
好機を見い出せず、糸口も見つからないからだ。
そこへジューダスが一際強く攻撃を仕掛ける。
「斬り刻む…遅いっ!魔人千裂衝!!」
「うわぁあああ!!」
「ふん…。二度と会うこともないだろう。」
ジューダスの秘奥義が炸裂し、モネを倒す。
そのまま倒れたモネだが、それでもまだ起き上がる意識や体力はあるようで、相棒を手にして地面に突き刺し、それを軸に立ち上がろうとする姿も見せた。
震える体を叱咤しながら立ち上がろうとするモネの前にジューダスが立ちはだかる。
それを睨み付けたモネは、なけなしの力を振り絞り相棒を振り回すも、すぐに体をよろけさせて地面に倒れてしまう。
それを見たジューダスがモネの近くに片膝を着くと、優しく頭を撫でた。
「……もういい。お前は十分に頑張った。あの時、一人で僕達に挑んだ事だって、全て……僕の為なんだってことも分かっている。だから……もう休め。お前はひとりじゃない。」
「ちが、う…。わた、しは……」
「もうお前は悪夢なんか見ない。だから眠れ。……安らかに…な。」
笑ってそう言ったジューダスを見て、モネが諦めた様に眠りにつく。
しかしその顔が穏やかだったことは、この場にいたジューダスとシャルティエしか知らない。…勿論、その戦闘を祈るようにしてみていたスノウでさえも。
ゆっくりと光の粒子となって消えていったモネを見て、ジューダスの愛剣からすすり泣くような声が聞こえる。
それを聞いていたジューダスも天を仰いでは先程の戦闘の余韻に浸った。
そんな彼へとスノウが近付いて、そっと肩に手を乗せる。
ジューダスがスノウを見下ろせば、その瞳は…その表情は何処か「ありがとう」とお礼を言っているようで、ジューダスが吐息を漏らしながら笑いかける。
そしてさっきのモネにやったのと同じ様にして優しく頭を撫でたのだった。
「……少しだけ、昔の自分に妬いちゃったな。」
「何故だ。」
「"もうお前は悪夢なんか見ない"…。君が言ったその言葉が……嬉しくて。でもそれが自分じゃなくて昔の自分だったことが何だか妬ける。」
「ふん。お前には僕がずっと付いてるだろう?何を今更昔の自分に嫉妬する必要がある。」
「ははっ!確かにそうなんだけど。口下手な君の口からあんな言葉を聞くなんてレアなチャンス、二度と無いかもしれないじゃないか。」
「言ってろ。」
少し不貞腐れたような顔をしたジューダスの顔に笑いかけたスノウは、小さな声で…それこそ、誰にも聞こえないような声量で呟き、囁いた。
「…………ありがとう。」
そう言って逃げるようにして仲間の元へ向かったスノウの後姿を見て、ジューダスが口元に弧を描く。
それは無論、先程の彼女の言葉が聞こえていたからに過ぎない。
しかしそれを聞こえたとは言いにくくて…。
ジューダスは静かに歩き出す。
その足取りは少しだけ軽やかに、そして自分を待つ仲間達の元へと向かっていた。
◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*
「あら?これじゃあ、欠片の数が足りないわね。それも三つも。」
辺りを見渡し、告げたハロルドの言葉に絶句したのは当然〈星詠み人〉であるスノウと修羅である。
通常ここではカイル達の分だけデリスエンブレムの欠片があれば事足りる計算となっていたはずなのだ。
それが欠片を置こうとした直前になって思わぬ事態が発覚してしまったものだ。
「じゃあ後の三人って…。」
「おいおい…まじかよ…?」
カイル達の視線は自然と修羅や海琉、スノウへと注がれる。
修羅が困った顔で頭を掻く中、スノウも苦笑いを隠しきれず零しており、海琉に至っては首を傾げて事の重大さに気付いてすらいない。
そんな中、ふとスノウが思い出した様に手を叩いた。
「……そう言えば、見たことの無い横穴を見つけたんだった。もしかして私達が挑むべき場所はそこから入った場所じゃないかな?」
「あぁ、そこがあるな。寧ろ、僕にはそこ以外思い付かないがな。」
『スノウの相手って誰でしょう? 因縁のある魔物とか居ますか?』
「……そこは魔物なんだ?」
「何にせよ、挑むしかあるまい。このままでは先に進めないぞ。」
「スノウ、その場所ってどこら辺?」
「確か……。」
記憶を遡り、横穴の道を思い出してみる。
ハロルドが戦った後にその横穴に気付いていたので、恐らくちょっと前まで戻らなければならない。
その事を伝えると仲間達は先程までの道のりへと足を向ける。
そして歩き出した仲間達を見て、スノウ達も後を追って行った。
『スノウは敵の予想とかついてますか?』
「18年前のレディとかどうかな? もし、あの時の君なら勝てる自信あるね。あのヒョロヒョロな攻撃を躱すのも、攻撃を当てるのも簡単そうだし。」
「……複雑な気分にさせられるな。」
「君が昔の私と戦ってる時の、私の気持ちが分かったかい?」
「そうは言うが……お前、僕があげたそのネックレスを強く握って、何も言わずとも心配そうにしてたじゃないか。」
「……見てたのか。」
「見えた、に過ぎないが?」
絶対に嘘だ、と顔に出したスノウを見てジューダスがほくそ笑む。
僅かに優位に立ったジューダスの自慢げな顔を見てスノウが拳を優しく体に当てればすぐに鼻で笑われた。
そんな事をしていれば、どうやらデリスエンブレムの欠片の場所まで着いたようだ。
周りの映し出された景色を見て名乗りを上げたのは、海琉だった。
見覚えのある光景らしく、そのまま欠片を手に持てば海琉よりも大きな魔物が彼へと爪を閃かせる。
すぐに横に避けた海琉はその魔物を見て一瞬だけ顔を歪めたが、なんとか食いついて攻撃をしていく。
このメンバーの中でも一番の若手なだけあって、拙いながらも頑張って攻撃していく姿に保護者の修羅も自然と拳に力が入る。
「……これで、終わりっ!!!」
一際大きい攻撃を海琉が魔物の心臓部へと仕掛ける。
貫いた剣を引き抜きながら海琉が仲間達の元へと帰れば、カイルやリアラ、他の仲間たちも海琉へと駆け寄って誉めそやしていた。
スノウもまた海琉を褒めれば、無表情ながらも嬉しそうな顔をさせて喜んでいるようだった。
海琉の欠片も無事に終わって次の番はどちらか、という話になればお互いにどっちでもいいと言わんばかりに興味が無さそうだ。
周りの者だけがそれを気にしているようでとにかく会話が弾んでいる。
当の本人達は全く意に介さないのに。
「君は敵の予想がついてるのかい?」
「つくわけないだろ? 海琉のやつはどうも、何かあの魔物に対してあったようだが……、俺は今の所ないな。逆にあんたは?」
「無い──と、言いたかったけど…恐らくだけど18年前のレディかな、とは思ってる。」
「あー…。そうだな…、そうだよな…。」
割と嫌そうな顔をさせた修羅を見上げながらスノウが横でクスリと笑う。
しかしそんなお話も目の前の光景を見て途切れてしまう。
「……どうやら、俺の方が早そうだな?」
「おめでとう。じゃ、行ってらっしゃい。」
「おいおい、何か言葉の一つや二つくらいくれたっていいんじゃないか?」
「なら、言葉にさせてもらおうかな? ……君は誰が相手だろうが絶対に負けない。だから私からの応援も要らないだろう。」
「そんなのやってみなくちゃ分からない。だが……そうだな。クスクス……、負けるつもりは無い。でもそれとは別にお姫様からの言葉くらい欲しいだろ?」
「全く…冗談言ってないで早く行ってきな?海琉も心配してるよ?」
「……。」
先程終えた少年は、心配そうに修羅を見上げている。
頭を掻いた修羅は「分かったよ」と一言言うと中へと入り、欠片をなんの迷いもなく取り上げる。
すると目の前に現れたのは意外な人物だった。
「……ふん。」
『ま、ですよねー…?』
スノウの隣にいた二人が現れた人物を見て納得した顔を見せる。
反対にスノウは疑問を口に出していた。
「レディじゃないか。……何で?」
「あいつにとって、因縁の相手というのはいつ何時でも僕なんだろうな。」
『ま、ライバルですからね!』
「?????」
いつの間にライバルとなったんだろう、とスノウが疑問を浮かべている間にも互角の戦いを繰り広げる二人。
果たして決着がつくかどうかは分からないが、当分終わらないと当人達も分かっているようである。
「スノウ!暫くここは掛かるから、あんたはあんたの場所へ行ってきてくれ!」
「分かったー!そうするよー!」
大きな声で返事したスノウは、迷いなく次の場所へと向かっていく。
仲間たちは半分半分に別れて二人の戦いを見守る事にしたのだった。
修羅の戦いを見るのはロニとナナリーと海琉、そしてスノウの戦いを見守るのはカイルとリアラ、ハロルドとジューダスである。
スノウの方へ向かった組もまた、先程の修羅の戦闘について会話が弾んでいく。
だがしかし、結局勝つのは修羅だろう、と仲間たちが言ったのをジューダスが顔を顰めさせて聞いていた。
「じゃあ行ってくるね。」
問題の場所に辿り着いたスノウは、後ろから来る声援を耳にしながら欠片のある場所まで歩く。
そして欠片に手を伸ばして、その手を止めた。
視線を欠片の前へと移し、そこに置かれていた一枚の紙をスノウが手に取って内容を確認した。
そこにはこう書かれていた。
《───濁流現る30分後までに、この戦いに終止符を打て。相手は18年前の彼ら。もしも終止符を打てないようであれば、その身に再び悪夢が訪れるだろう。》
「………………まじ?」
小声で呟いた声は誰にも聞かれなかった。
今の今までの戦いは、必ず一対一の戦いだったにも関わらず、今回は特別仕様だとでも言うのか。
「(…これって、絶対スタン達だよなぁ…?となると、マリーやルーティ、ウッドロウやらコングマンとか…………リオンとかいるんだろうし…。それを30分でこなせって?…無理が無いかな…?)」
考え込むスノウに仲間たちが不思議そうな声を出す。
中に入れない仲間たちはもどかしい気持ちでスノウへと声を掛ける。
「スノウー?大丈夫ー?」
「何かあったー?」
「……私の所は謎解きみたいだ!ちょっと集中したいから皆は修羅の所へ応援に行っててくれ!」
そう言って優しい嘘をついて仲間たちを外に出そうとした。
しかし出て行ったのはカイルとリアラだけで、ハロルドとジューダスは外に出ようとしなかった。
それに困った顔を見せて、スノウは二人へと再び声を掛ける。
「二人も早く向こうの応援に行ってくれた方が、私は気が楽なんだけどなー!」
『ここにいる全員で謎解きした方が早くないですか?』
「私が君達に問題を教えたら欠片が砕けてしまうらしいから!」
『あ、そうなんですね…。どうします?坊ちゃん。』
「僕はここにいる。」
「あたしもいるわよーん。」
「(…駄目か。濁流に二人を巻き込みたくないんだけど…。)」
もし30分でケリがつかなくとも、この欠片を濁流と共に流せば向こうには届くだろう。
無論、負けるつもりはないが、なんと言っても今回ばかりは制限時間があるせいで自信を喪失してしまっているスノウ。
頭を掻いてジューダス達を見遣ったスノウだが、その顔を見たジューダスがそれとなく勘付く。
先程の言葉は何かしらの嘘が含まれているのではないか、と。
「……お前、何を隠している?」
『え?どういう事ですか?坊ちゃん。』
「まぁ見てろ…。 スノウ!僕達に構わず早くその謎解きとやらをやったらどうだ?」
「……。」
「なるほどねん?あたしたちがここに居たらまずいから遠ざけようって訳ねー。」
「……正解だよ。これなら初めから“仲間を遠ざけろと紙に書いてあった”と言ったほうが良かったか。」
後で思い付いた時には既に遅かったのだ。
スノウの言葉を聞いた二人は得意げに笑ってみせ、シャルティエに至っては怒ってスノウへと説教をかましている。
スノウが紙を持ってジューダス達に近付き、その紙を諦めたように見せた。
それを見たジューダスが驚いた顔を見せたあと、ハロルドは首を傾げ、訳が分からないと両手を上げた。
「……これは…」
『酷いですよ!!何でこんな試練をスノウにだけ与えるんですか!!!』
「ねぇ、そんなに難しいことなの?これって。」
「正直、30分っていうのはキツいものがあるんだよねぇ?一時間ならいけたかもしれないけど。」
紙を下げてもう一度紙の内容を見たスノウは顔を険しくさせる。
「正直に言えば、君達を濁流に巻き込みたくない。だから修羅の所へ行っててくれ。欠片は濁流に流してそこら辺にでも転がしておくからさ?」
「弱気になるな。ここでお前が弱気になれば、見える勝利も遠のく。」
『スノウ!僕を使ってくれてもいいんですよ?!応援から攻撃までこなしますよー?良い話だと思いません?』
「うーん…。どうかな…?それで勝率が果たして上がるかな?」
「じゃあ何が問題だってのよ?」
「これ、複数の人間を相手にするから圧倒的に時間が足りないんだ。一人あたり約5分以内だよ?」
『そう聞くと、結構ヤバいですねぇ……。』
沈黙が起こるかと思いきや、ハロルドがなんてこと無い様に頭の後ろで手を組んだ。
そして、ハロルドはスノウを見てムスッとした顔を見せて話し掛けた。
「結局、こんな所で立ち止まっても何の進展もないでしょーが。なら、早く行ってしまいなさいよ。そしてサッサと終わらせてくることね。あんたの憂いもそれで晴れるでしょ?」
「そうは簡単に言ってくれるけど…。」
「スノウ。」
「ん?」
「僕は…お前を信じている。そしてお前が負けるはずがないとも思っている。だから自分を信じろ。だがもし…自分が信じられないと言うなら僕を信じろ。必ず、お前が勝つと願っている僕を思い出せ。」
「……ジューダス。」
「僕の声援では事足りないか?」
「ううん!そんな事無いよ!!君の声援は私にとって、何よりの活力なんだから!」
すると、ジューダスの言葉で元気が出たというのか、スノウが小走りで欠片の元まで走りだす。
そしてなんの迷いもなくそれを持ち上げれば、スノウの背後からは彼らが登場する。
それと同時にどこからか、濁流の音が小さく聞こえた気がした。
「「……。」」
すぐさま相棒を手にしたスノウは、手始めにルーティへと突っ込んでいく。
そして回復要員からあっという間に倒せば、ハロルドが声援を送る。
「今丁度5分経ったわよー!」
「……やはり、流石にキツいな…?」
昔と今。
18年前と現在。
違うのは、何も経験を積んだ事だけじゃない。
スノウにはその旅で手にした、大事な人達もいる。
「セルシウス!頼んだっ!!」
「……任せて…!」
「シアンディームも!」
「えぇ、待ってたわ!」
セルシウスとシアンディームという、精霊の中でも戦闘狂である彼女らを召喚したスノウは、精霊たちが攻撃して行くのを見届けたあと、近くに居たチェルシーへと相棒を振りかざす。
しかしそれを守るようにしてウッドロウが間に入ってきて、スノウの攻撃を阻止してくる。
「スノウ!先にスタンを倒せ!!」
『ディムロス大佐が余計な助言してるんですっ!!先にスタンを倒さないと大変なんです!!!』
「余計な入れ知恵をしてくれるね…!!ディムロス大佐は…!」
目標をスタンへと変えたスノウは、スタンの攻撃をわざとに相棒で受け流す。
そして隙が出来た瞬間、相棒を銃へと変え魔法弾を彼の身体に撃ち込んだ。
倒れゆく体を見たあと、背後から気配を感じていた攻撃を振り返りざまに弾き飛ばせば、その攻撃をした人物にスノウは目を丸くさせた。
「…!!(まさか、リオンが動けるとは…!)」
『「!!」』
そう、18年前のリオン=マグナスだった。
悲しそうな顔をしながらも、スノウを見据えて武器を手にしていた。
……そのか弱い手を震わせながら。
「……まさか、君がそこまで動けるとはね…?」
「……。」
沈黙なまま、晶術の構えをしたリオンを見てすかさずスノウが銃で魔法弾を放つ。
しかしそれを間一髪で避けたリオンは、晶術をやめ、スノウへと攻撃を仕掛けてきた。
「(攻撃はしてくる…。でも、攻撃は以前のようにブレブレだ。なら……勝機はある!)」
精霊たちがウッドロウや他の人達を倒している間にスノウがリオンの相手をする。
震えたブレブレの攻撃を何度も何度も弾き飛ばし、隙を探してはいるが…
「(うーん…。こんなにも以前と同じような剣先のブレがあるのに……隙が無い…。どうしたものか…。)」
何度も何度も、その後も攻撃を弾くスノウを見て、シャルティエが焦燥を滲ませる。
ジューダスもまた、そんな二人の戦いを見て、腕を組んで険しい顔をさせていた。
「……これはマズイな。時間がない…。」
『どうしてスノウは攻撃を弾くだけなんでしょうか…?何かの作戦…?』
「いや…あの剣の太刀筋は見るからに重心や腕の力の入り方が弱い。しかし……それが狙いなのかもしれないな。」
『……まさか!?』
「あぁ。狙いは……“隙を作らないこと”だろうな。力や重心、剣の型を重きにおけば、当然、何処かで油断が生じる。しかしあの太刀筋は何処に当たろうと構わないといったなまくらな太刀筋だ。それが逆にスノウからすれば、“隙が無い”と思わせる所以なんだろう。……18年前の僕だからこそ、あいつに隙を作れば負けると分かっているからな。」
『そんな…!このままじゃあ、スノウは時間切れになって濁流に…!!』
「……どうする。スノウ…。」
苦々しい顔をしたジューダスが、未だに攻撃を弾くだけのスノウを見つめる。
シャルティエもまた、コアクリスタルへ光を明滅させながら二人の戦いを見守る。
周りの精霊も健闘してはいるが、問題はスノウとリオンの闘いだった。
「……。(こうなったら……無詠唱で魔法をけしかけてみるか…?下手に刺激させて、どう向こうが動くかみたいからね…!!)」
スノウは一際大きく攻撃を弾くと同時に、敵へ無詠唱魔法を放つ。
風属性のそれは、嵐を生み、18年前のリオンを巻き込んでいく。
咄嗟に防御をしたリオンを見て、勝機を見出したスノウが相棒を銃に変えて彼へ向ける。
そして最後のトリガーを引けば、その弾は彼へと貫通して、ゆっくりと体を地へと伏せさせる。
今度は抱きしめなかったスノウは、ゆっくりと18年前の彼へと近付き、その場にしゃがみこむ。
そして彼の頭をそっと撫でた。
「……ねぇ、君はさ…。本当は攻撃したくなかったんだよね?」
それは、ジューダスやシャルティエ、ハロルドに聞こえないほどの小さな声だった。
地面に仰向けで倒れていたリオンが、ゆっくりとスノウへと視線を固定させて、感情のない瞳でスノウを見上げる。
それをクスリとスノウがひとつ笑ってみせた。
「……でも、隙を作りたくなかった。……だって、隙を作れば君が負けると分かっているから。そしてこの戦いが終わってしまうから。……そうなんじゃない?」
なんとなく感じていた、剣先から伝わる感情。
それはこの戦いが終わって欲しくないという、彼の気持ちだった。
戦いが終わってしまえば、彼は消えてしまうから。
それか……スノウが消えてしまうとでも思ったのか。
だから彼は隙を作らなかった。
18年前と同じ、ブレブレの切っ先をスノウに向けながら。弾かれると分かっていても、力を加減したのだ。
「……ありがとう。」
スノウから出たのはお礼の言葉だった。
「君は……いつだって、私を想ってくれる。それが……私には嬉しくて……そして、君を大切にしたいという気持ちが余計に膨らむんだ。」
「……。」
「例え、君が18年前の君だとしても……それでも、お礼を言わせて?ありがとう…。それから……あの時言えなかった言葉……今言うよ。────“これからも、どうか…私を宜しくね。リオン”…。」
彼の耳元で囁くだけのその言葉。
その瞬間、濁流の音が聞こえてきた。
「前世という、最高の人生をくれて……ありがとう…。人生の彩りをくれて……本当に…ありがとう……過去のレディ────」
「────スノウっ!!!!」
濁流が目の前に来る。
しかし、それはスノウに到達せずに霧散していった。
同時に、床に伏していたリオンも消えていたのだ。
結果、討伐に成功したスノウは、そのままゆっくりと立ち上がって、振り返りざまにジューダス達へと笑顔を向けた。
「これで私も成功だよね?」
いつの間にか消えていたセルシウス達を確認しながら、スノウが歩き出せば、ジューダスが突然走り出してスノウを抱き締める。
そして強く、強く力を込めた。
「……何を話してたんだ?」
絞り出すような震える声で、そう言葉を発したジューダスを抱きしめ返しながらスノウが目を閉じて微笑みを浮かべる。
安心させるような背中を叩くリズムも一緒に。
「…今を生きる君には秘密…かな?」
「それはズルいぞ。僕の言葉はお前に聞こえていたじゃないか。それなのに言わないつもりか?」
「だって、今の君には必要ない言葉たちだったんだから。仕方ないよ。」
「教えろ。」
「だーめ。」
「このままお前の骨を折ってもいいんだぞ?」
体に回されている腕にグッと力を入れられて、一瞬呼吸が詰まる。
それでも、潰そうという魂胆じゃないことなんてその力加減で分かる。
「そんな事言って、君はやらないくせに。」
「ほう?そんな口を聞くんだな。」
グググと強くなった腕は、明らかに殺意が篭っていたので、スノウが慌ててジューダスの肩を叩く。
しかしジューダスが余計に力を入れれば骨が少し音を立てた気がした。
「ごめん!!ごめんって!!!?」
「言うなら緩めてやる。」
「言いますっ!!言いますから!!!?」
すると一気に力を緩めたジューダスの肩を押しやって離れて警戒すれば、シャルティエとハロルドの口からは呆れたため息が。ジューダスからは鼻で笑われてしまった。
『で?何の話だったんですか?』
「ありがとう、ってお礼を言ってたんだよ。」
「それだけであんなに長く会話出来るものか。他にもあるだろう?」
「……中々しぶとい…。」
「何か言ったか?」
「いえっ!!何でもありません!!!」
尻に敷かれた気分だ、とスノウが恨めしげにジューダスを見たが、彼からも睨みを貰い、慌てて視線を逸らせた。
「面と向かって言うとなると、気恥ずかしいなぁ…?」
「偽物の僕には言えたのにか?」
「分かったって…。そんなにボキボキ手を鳴らさないでよ、レディ。」
準備運動のように指をボキボキ鳴らす彼を見て、複雑な顔をさせたスノウは、少し間を空けたあと呟くようにして声を出す。
「……例え、君が18年前の君だとしても……それでも、お礼を言わせて?ありがとう…。それから……あの時言えなかった言葉……今言うよ。────“これからも、どうか…私を宜しくね。リオン”…。」
「…!!」
『スノウ…!!』
一人は感動した声を出し、もう一人は驚いた顔を見せてはその言葉を言った張本人を見つめる。
あとの一人は、やれやれと肩をすくめて惚気は勘弁と言わんばかり。
それでもハロルドの口元には笑顔が浮かんでいた。
「……前世という、最高の人生をくれて……ありがとう…。人生の彩りをくれて……本当に…ありがとう……過去のレディ────そう、言ってたんだよ?」
『うぅっ…!』
すすり泣く声がしたかと思えば、それはシャルティエだった。
シャルティエからすれば、スノウのその言葉は感涙するだけの価値のある言葉だったからだ。
以前、ファンダリア地方にいた時の彼女とはまた違う。
今はもう未来に“希望”を持って、前を向いてくれているのだから。
あんなにも自己犠牲のひどかったあの頃に比べたら、目覚ましい成長であった。
『スノウの口から、そんな言葉が、聞けるだなんてっ…!!生きてて…良かった…!!』
「…まぁ、お前のオリジナルはとっくの前に死んでるがな。」
『ちょっと坊ちゃん?!さっきまでの僕の感動を返してくださいよ!!?』
茶化すジューダスを怒るシャルティエだったり、それを逆にハロルドが茶化したりする。
しかし、そんな中でもジューダスの表情に皆が注目する事となる。
その目下の人は、スノウから背を向けて俯いていた。
そしてシャルティエにだけは見えていたが、薄ら瞳に涙を溜めていたのだ。
それもすぐに無くなってしまいそうなほどの量ではあるが、暫く続いたその瞳の潤みに、シャルティエが優しく光を灯した。
自分のマスター達の成長に、嬉しさと感動を表した様な光だった。
「これで揃ったようね~♪」
ハロルドの視線の先をスノウとシャルティエが見つめる。
そこには修羅や海琉、そして他の仲間たちが手を振りながらここへとやってくる姿だった。
それを見たスノウがひとつ笑って、ジューダス達へと振り返った。
「さぁ、行こう?次のステージへとね!」
モネが先手を打って、相棒を手に攻撃を仕掛けてくる。
しかしモネの攻撃をこれでもか、と見てきたジューダスにとって、その攻撃は想定内の出来事だった。
すぐにシャルティエで相殺させた後、ジューダスは間髪入れずにモネへと攻撃を仕掛ける。
それはモネを空中へと逃がさない為である。
空中へ飛ばれるとモネ相棒の銃でこちらに攻撃されてしまう。
その前に倒そうという寸法なのだ。
「散れっ!魔人滅殺闇!!」
「くっ…!」
押されているモネの顔が徐々に曇っていく。
その顔からも分かる様に、思った通りの攻撃が出来ず四苦八苦しているのも窺えるだろう。
その時、モネが一際大きくジューダスの攻撃を跳ね除ける。
しかし今のジューダスにとって、そんなモネの攻撃は微々たるものだった。
すぐに体勢を立て直したジューダスは再度モネへと攻撃を仕掛け続け、モネの体力の消耗を図れば、さすがに彼女の顔から焦りが見え始める。
好機を見い出せず、糸口も見つからないからだ。
そこへジューダスが一際強く攻撃を仕掛ける。
「斬り刻む…遅いっ!魔人千裂衝!!」
「うわぁあああ!!」
「ふん…。二度と会うこともないだろう。」
ジューダスの秘奥義が炸裂し、モネを倒す。
そのまま倒れたモネだが、それでもまだ起き上がる意識や体力はあるようで、相棒を手にして地面に突き刺し、それを軸に立ち上がろうとする姿も見せた。
震える体を叱咤しながら立ち上がろうとするモネの前にジューダスが立ちはだかる。
それを睨み付けたモネは、なけなしの力を振り絞り相棒を振り回すも、すぐに体をよろけさせて地面に倒れてしまう。
それを見たジューダスがモネの近くに片膝を着くと、優しく頭を撫でた。
「……もういい。お前は十分に頑張った。あの時、一人で僕達に挑んだ事だって、全て……僕の為なんだってことも分かっている。だから……もう休め。お前はひとりじゃない。」
「ちが、う…。わた、しは……」
「もうお前は悪夢なんか見ない。だから眠れ。……安らかに…な。」
笑ってそう言ったジューダスを見て、モネが諦めた様に眠りにつく。
しかしその顔が穏やかだったことは、この場にいたジューダスとシャルティエしか知らない。…勿論、その戦闘を祈るようにしてみていたスノウでさえも。
ゆっくりと光の粒子となって消えていったモネを見て、ジューダスの愛剣からすすり泣くような声が聞こえる。
それを聞いていたジューダスも天を仰いでは先程の戦闘の余韻に浸った。
そんな彼へとスノウが近付いて、そっと肩に手を乗せる。
ジューダスがスノウを見下ろせば、その瞳は…その表情は何処か「ありがとう」とお礼を言っているようで、ジューダスが吐息を漏らしながら笑いかける。
そしてさっきのモネにやったのと同じ様にして優しく頭を撫でたのだった。
「……少しだけ、昔の自分に妬いちゃったな。」
「何故だ。」
「"もうお前は悪夢なんか見ない"…。君が言ったその言葉が……嬉しくて。でもそれが自分じゃなくて昔の自分だったことが何だか妬ける。」
「ふん。お前には僕がずっと付いてるだろう?何を今更昔の自分に嫉妬する必要がある。」
「ははっ!確かにそうなんだけど。口下手な君の口からあんな言葉を聞くなんてレアなチャンス、二度と無いかもしれないじゃないか。」
「言ってろ。」
少し不貞腐れたような顔をしたジューダスの顔に笑いかけたスノウは、小さな声で…それこそ、誰にも聞こえないような声量で呟き、囁いた。
「…………ありがとう。」
そう言って逃げるようにして仲間の元へ向かったスノウの後姿を見て、ジューダスが口元に弧を描く。
それは無論、先程の彼女の言葉が聞こえていたからに過ぎない。
しかしそれを聞こえたとは言いにくくて…。
ジューダスは静かに歩き出す。
その足取りは少しだけ軽やかに、そして自分を待つ仲間達の元へと向かっていた。
◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*
「あら?これじゃあ、欠片の数が足りないわね。それも三つも。」
辺りを見渡し、告げたハロルドの言葉に絶句したのは当然〈星詠み人〉であるスノウと修羅である。
通常ここではカイル達の分だけデリスエンブレムの欠片があれば事足りる計算となっていたはずなのだ。
それが欠片を置こうとした直前になって思わぬ事態が発覚してしまったものだ。
「じゃあ後の三人って…。」
「おいおい…まじかよ…?」
カイル達の視線は自然と修羅や海琉、スノウへと注がれる。
修羅が困った顔で頭を掻く中、スノウも苦笑いを隠しきれず零しており、海琉に至っては首を傾げて事の重大さに気付いてすらいない。
そんな中、ふとスノウが思い出した様に手を叩いた。
「……そう言えば、見たことの無い横穴を見つけたんだった。もしかして私達が挑むべき場所はそこから入った場所じゃないかな?」
「あぁ、そこがあるな。寧ろ、僕にはそこ以外思い付かないがな。」
『スノウの相手って誰でしょう? 因縁のある魔物とか居ますか?』
「……そこは魔物なんだ?」
「何にせよ、挑むしかあるまい。このままでは先に進めないぞ。」
「スノウ、その場所ってどこら辺?」
「確か……。」
記憶を遡り、横穴の道を思い出してみる。
ハロルドが戦った後にその横穴に気付いていたので、恐らくちょっと前まで戻らなければならない。
その事を伝えると仲間達は先程までの道のりへと足を向ける。
そして歩き出した仲間達を見て、スノウ達も後を追って行った。
『スノウは敵の予想とかついてますか?』
「18年前のレディとかどうかな? もし、あの時の君なら勝てる自信あるね。あのヒョロヒョロな攻撃を躱すのも、攻撃を当てるのも簡単そうだし。」
「……複雑な気分にさせられるな。」
「君が昔の私と戦ってる時の、私の気持ちが分かったかい?」
「そうは言うが……お前、僕があげたそのネックレスを強く握って、何も言わずとも心配そうにしてたじゃないか。」
「……見てたのか。」
「見えた、に過ぎないが?」
絶対に嘘だ、と顔に出したスノウを見てジューダスがほくそ笑む。
僅かに優位に立ったジューダスの自慢げな顔を見てスノウが拳を優しく体に当てればすぐに鼻で笑われた。
そんな事をしていれば、どうやらデリスエンブレムの欠片の場所まで着いたようだ。
周りの映し出された景色を見て名乗りを上げたのは、海琉だった。
見覚えのある光景らしく、そのまま欠片を手に持てば海琉よりも大きな魔物が彼へと爪を閃かせる。
すぐに横に避けた海琉はその魔物を見て一瞬だけ顔を歪めたが、なんとか食いついて攻撃をしていく。
このメンバーの中でも一番の若手なだけあって、拙いながらも頑張って攻撃していく姿に保護者の修羅も自然と拳に力が入る。
「……これで、終わりっ!!!」
一際大きい攻撃を海琉が魔物の心臓部へと仕掛ける。
貫いた剣を引き抜きながら海琉が仲間達の元へと帰れば、カイルやリアラ、他の仲間たちも海琉へと駆け寄って誉めそやしていた。
スノウもまた海琉を褒めれば、無表情ながらも嬉しそうな顔をさせて喜んでいるようだった。
海琉の欠片も無事に終わって次の番はどちらか、という話になればお互いにどっちでもいいと言わんばかりに興味が無さそうだ。
周りの者だけがそれを気にしているようでとにかく会話が弾んでいる。
当の本人達は全く意に介さないのに。
「君は敵の予想がついてるのかい?」
「つくわけないだろ? 海琉のやつはどうも、何かあの魔物に対してあったようだが……、俺は今の所ないな。逆にあんたは?」
「無い──と、言いたかったけど…恐らくだけど18年前のレディかな、とは思ってる。」
「あー…。そうだな…、そうだよな…。」
割と嫌そうな顔をさせた修羅を見上げながらスノウが横でクスリと笑う。
しかしそんなお話も目の前の光景を見て途切れてしまう。
「……どうやら、俺の方が早そうだな?」
「おめでとう。じゃ、行ってらっしゃい。」
「おいおい、何か言葉の一つや二つくらいくれたっていいんじゃないか?」
「なら、言葉にさせてもらおうかな? ……君は誰が相手だろうが絶対に負けない。だから私からの応援も要らないだろう。」
「そんなのやってみなくちゃ分からない。だが……そうだな。クスクス……、負けるつもりは無い。でもそれとは別にお姫様からの言葉くらい欲しいだろ?」
「全く…冗談言ってないで早く行ってきな?海琉も心配してるよ?」
「……。」
先程終えた少年は、心配そうに修羅を見上げている。
頭を掻いた修羅は「分かったよ」と一言言うと中へと入り、欠片をなんの迷いもなく取り上げる。
すると目の前に現れたのは意外な人物だった。
「……ふん。」
『ま、ですよねー…?』
スノウの隣にいた二人が現れた人物を見て納得した顔を見せる。
反対にスノウは疑問を口に出していた。
「レディじゃないか。……何で?」
「あいつにとって、因縁の相手というのはいつ何時でも僕なんだろうな。」
『ま、ライバルですからね!』
「?????」
いつの間にライバルとなったんだろう、とスノウが疑問を浮かべている間にも互角の戦いを繰り広げる二人。
果たして決着がつくかどうかは分からないが、当分終わらないと当人達も分かっているようである。
「スノウ!暫くここは掛かるから、あんたはあんたの場所へ行ってきてくれ!」
「分かったー!そうするよー!」
大きな声で返事したスノウは、迷いなく次の場所へと向かっていく。
仲間たちは半分半分に別れて二人の戦いを見守る事にしたのだった。
修羅の戦いを見るのはロニとナナリーと海琉、そしてスノウの戦いを見守るのはカイルとリアラ、ハロルドとジューダスである。
スノウの方へ向かった組もまた、先程の修羅の戦闘について会話が弾んでいく。
だがしかし、結局勝つのは修羅だろう、と仲間たちが言ったのをジューダスが顔を顰めさせて聞いていた。
「じゃあ行ってくるね。」
問題の場所に辿り着いたスノウは、後ろから来る声援を耳にしながら欠片のある場所まで歩く。
そして欠片に手を伸ばして、その手を止めた。
視線を欠片の前へと移し、そこに置かれていた一枚の紙をスノウが手に取って内容を確認した。
そこにはこう書かれていた。
《───濁流現る30分後までに、この戦いに終止符を打て。相手は18年前の彼ら。もしも終止符を打てないようであれば、その身に再び悪夢が訪れるだろう。》
「………………まじ?」
小声で呟いた声は誰にも聞かれなかった。
今の今までの戦いは、必ず一対一の戦いだったにも関わらず、今回は特別仕様だとでも言うのか。
「(…これって、絶対スタン達だよなぁ…?となると、マリーやルーティ、ウッドロウやらコングマンとか…………リオンとかいるんだろうし…。それを30分でこなせって?…無理が無いかな…?)」
考え込むスノウに仲間たちが不思議そうな声を出す。
中に入れない仲間たちはもどかしい気持ちでスノウへと声を掛ける。
「スノウー?大丈夫ー?」
「何かあったー?」
「……私の所は謎解きみたいだ!ちょっと集中したいから皆は修羅の所へ応援に行っててくれ!」
そう言って優しい嘘をついて仲間たちを外に出そうとした。
しかし出て行ったのはカイルとリアラだけで、ハロルドとジューダスは外に出ようとしなかった。
それに困った顔を見せて、スノウは二人へと再び声を掛ける。
「二人も早く向こうの応援に行ってくれた方が、私は気が楽なんだけどなー!」
『ここにいる全員で謎解きした方が早くないですか?』
「私が君達に問題を教えたら欠片が砕けてしまうらしいから!」
『あ、そうなんですね…。どうします?坊ちゃん。』
「僕はここにいる。」
「あたしもいるわよーん。」
「(…駄目か。濁流に二人を巻き込みたくないんだけど…。)」
もし30分でケリがつかなくとも、この欠片を濁流と共に流せば向こうには届くだろう。
無論、負けるつもりはないが、なんと言っても今回ばかりは制限時間があるせいで自信を喪失してしまっているスノウ。
頭を掻いてジューダス達を見遣ったスノウだが、その顔を見たジューダスがそれとなく勘付く。
先程の言葉は何かしらの嘘が含まれているのではないか、と。
「……お前、何を隠している?」
『え?どういう事ですか?坊ちゃん。』
「まぁ見てろ…。 スノウ!僕達に構わず早くその謎解きとやらをやったらどうだ?」
「……。」
「なるほどねん?あたしたちがここに居たらまずいから遠ざけようって訳ねー。」
「……正解だよ。これなら初めから“仲間を遠ざけろと紙に書いてあった”と言ったほうが良かったか。」
後で思い付いた時には既に遅かったのだ。
スノウの言葉を聞いた二人は得意げに笑ってみせ、シャルティエに至っては怒ってスノウへと説教をかましている。
スノウが紙を持ってジューダス達に近付き、その紙を諦めたように見せた。
それを見たジューダスが驚いた顔を見せたあと、ハロルドは首を傾げ、訳が分からないと両手を上げた。
「……これは…」
『酷いですよ!!何でこんな試練をスノウにだけ与えるんですか!!!』
「ねぇ、そんなに難しいことなの?これって。」
「正直、30分っていうのはキツいものがあるんだよねぇ?一時間ならいけたかもしれないけど。」
紙を下げてもう一度紙の内容を見たスノウは顔を険しくさせる。
「正直に言えば、君達を濁流に巻き込みたくない。だから修羅の所へ行っててくれ。欠片は濁流に流してそこら辺にでも転がしておくからさ?」
「弱気になるな。ここでお前が弱気になれば、見える勝利も遠のく。」
『スノウ!僕を使ってくれてもいいんですよ?!応援から攻撃までこなしますよー?良い話だと思いません?』
「うーん…。どうかな…?それで勝率が果たして上がるかな?」
「じゃあ何が問題だってのよ?」
「これ、複数の人間を相手にするから圧倒的に時間が足りないんだ。一人あたり約5分以内だよ?」
『そう聞くと、結構ヤバいですねぇ……。』
沈黙が起こるかと思いきや、ハロルドがなんてこと無い様に頭の後ろで手を組んだ。
そして、ハロルドはスノウを見てムスッとした顔を見せて話し掛けた。
「結局、こんな所で立ち止まっても何の進展もないでしょーが。なら、早く行ってしまいなさいよ。そしてサッサと終わらせてくることね。あんたの憂いもそれで晴れるでしょ?」
「そうは簡単に言ってくれるけど…。」
「スノウ。」
「ん?」
「僕は…お前を信じている。そしてお前が負けるはずがないとも思っている。だから自分を信じろ。だがもし…自分が信じられないと言うなら僕を信じろ。必ず、お前が勝つと願っている僕を思い出せ。」
「……ジューダス。」
「僕の声援では事足りないか?」
「ううん!そんな事無いよ!!君の声援は私にとって、何よりの活力なんだから!」
すると、ジューダスの言葉で元気が出たというのか、スノウが小走りで欠片の元まで走りだす。
そしてなんの迷いもなくそれを持ち上げれば、スノウの背後からは彼らが登場する。
それと同時にどこからか、濁流の音が小さく聞こえた気がした。
「「……。」」
すぐさま相棒を手にしたスノウは、手始めにルーティへと突っ込んでいく。
そして回復要員からあっという間に倒せば、ハロルドが声援を送る。
「今丁度5分経ったわよー!」
「……やはり、流石にキツいな…?」
昔と今。
18年前と現在。
違うのは、何も経験を積んだ事だけじゃない。
スノウにはその旅で手にした、大事な人達もいる。
「セルシウス!頼んだっ!!」
「……任せて…!」
「シアンディームも!」
「えぇ、待ってたわ!」
セルシウスとシアンディームという、精霊の中でも戦闘狂である彼女らを召喚したスノウは、精霊たちが攻撃して行くのを見届けたあと、近くに居たチェルシーへと相棒を振りかざす。
しかしそれを守るようにしてウッドロウが間に入ってきて、スノウの攻撃を阻止してくる。
「スノウ!先にスタンを倒せ!!」
『ディムロス大佐が余計な助言してるんですっ!!先にスタンを倒さないと大変なんです!!!』
「余計な入れ知恵をしてくれるね…!!ディムロス大佐は…!」
目標をスタンへと変えたスノウは、スタンの攻撃をわざとに相棒で受け流す。
そして隙が出来た瞬間、相棒を銃へと変え魔法弾を彼の身体に撃ち込んだ。
倒れゆく体を見たあと、背後から気配を感じていた攻撃を振り返りざまに弾き飛ばせば、その攻撃をした人物にスノウは目を丸くさせた。
「…!!(まさか、リオンが動けるとは…!)」
『「!!」』
そう、18年前のリオン=マグナスだった。
悲しそうな顔をしながらも、スノウを見据えて武器を手にしていた。
……そのか弱い手を震わせながら。
「……まさか、君がそこまで動けるとはね…?」
「……。」
沈黙なまま、晶術の構えをしたリオンを見てすかさずスノウが銃で魔法弾を放つ。
しかしそれを間一髪で避けたリオンは、晶術をやめ、スノウへと攻撃を仕掛けてきた。
「(攻撃はしてくる…。でも、攻撃は以前のようにブレブレだ。なら……勝機はある!)」
精霊たちがウッドロウや他の人達を倒している間にスノウがリオンの相手をする。
震えたブレブレの攻撃を何度も何度も弾き飛ばし、隙を探してはいるが…
「(うーん…。こんなにも以前と同じような剣先のブレがあるのに……隙が無い…。どうしたものか…。)」
何度も何度も、その後も攻撃を弾くスノウを見て、シャルティエが焦燥を滲ませる。
ジューダスもまた、そんな二人の戦いを見て、腕を組んで険しい顔をさせていた。
「……これはマズイな。時間がない…。」
『どうしてスノウは攻撃を弾くだけなんでしょうか…?何かの作戦…?』
「いや…あの剣の太刀筋は見るからに重心や腕の力の入り方が弱い。しかし……それが狙いなのかもしれないな。」
『……まさか!?』
「あぁ。狙いは……“隙を作らないこと”だろうな。力や重心、剣の型を重きにおけば、当然、何処かで油断が生じる。しかしあの太刀筋は何処に当たろうと構わないといったなまくらな太刀筋だ。それが逆にスノウからすれば、“隙が無い”と思わせる所以なんだろう。……18年前の僕だからこそ、あいつに隙を作れば負けると分かっているからな。」
『そんな…!このままじゃあ、スノウは時間切れになって濁流に…!!』
「……どうする。スノウ…。」
苦々しい顔をしたジューダスが、未だに攻撃を弾くだけのスノウを見つめる。
シャルティエもまた、コアクリスタルへ光を明滅させながら二人の戦いを見守る。
周りの精霊も健闘してはいるが、問題はスノウとリオンの闘いだった。
「……。(こうなったら……無詠唱で魔法をけしかけてみるか…?下手に刺激させて、どう向こうが動くかみたいからね…!!)」
スノウは一際大きく攻撃を弾くと同時に、敵へ無詠唱魔法を放つ。
風属性のそれは、嵐を生み、18年前のリオンを巻き込んでいく。
咄嗟に防御をしたリオンを見て、勝機を見出したスノウが相棒を銃に変えて彼へ向ける。
そして最後のトリガーを引けば、その弾は彼へと貫通して、ゆっくりと体を地へと伏せさせる。
今度は抱きしめなかったスノウは、ゆっくりと18年前の彼へと近付き、その場にしゃがみこむ。
そして彼の頭をそっと撫でた。
「……ねぇ、君はさ…。本当は攻撃したくなかったんだよね?」
それは、ジューダスやシャルティエ、ハロルドに聞こえないほどの小さな声だった。
地面に仰向けで倒れていたリオンが、ゆっくりとスノウへと視線を固定させて、感情のない瞳でスノウを見上げる。
それをクスリとスノウがひとつ笑ってみせた。
「……でも、隙を作りたくなかった。……だって、隙を作れば君が負けると分かっているから。そしてこの戦いが終わってしまうから。……そうなんじゃない?」
なんとなく感じていた、剣先から伝わる感情。
それはこの戦いが終わって欲しくないという、彼の気持ちだった。
戦いが終わってしまえば、彼は消えてしまうから。
それか……スノウが消えてしまうとでも思ったのか。
だから彼は隙を作らなかった。
18年前と同じ、ブレブレの切っ先をスノウに向けながら。弾かれると分かっていても、力を加減したのだ。
「……ありがとう。」
スノウから出たのはお礼の言葉だった。
「君は……いつだって、私を想ってくれる。それが……私には嬉しくて……そして、君を大切にしたいという気持ちが余計に膨らむんだ。」
「……。」
「例え、君が18年前の君だとしても……それでも、お礼を言わせて?ありがとう…。それから……あの時言えなかった言葉……今言うよ。────“これからも、どうか…私を宜しくね。リオン”…。」
彼の耳元で囁くだけのその言葉。
その瞬間、濁流の音が聞こえてきた。
「前世という、最高の人生をくれて……ありがとう…。人生の彩りをくれて……本当に…ありがとう……過去のレディ────」
「────スノウっ!!!!」
濁流が目の前に来る。
しかし、それはスノウに到達せずに霧散していった。
同時に、床に伏していたリオンも消えていたのだ。
結果、討伐に成功したスノウは、そのままゆっくりと立ち上がって、振り返りざまにジューダス達へと笑顔を向けた。
「これで私も成功だよね?」
いつの間にか消えていたセルシウス達を確認しながら、スノウが歩き出せば、ジューダスが突然走り出してスノウを抱き締める。
そして強く、強く力を込めた。
「……何を話してたんだ?」
絞り出すような震える声で、そう言葉を発したジューダスを抱きしめ返しながらスノウが目を閉じて微笑みを浮かべる。
安心させるような背中を叩くリズムも一緒に。
「…今を生きる君には秘密…かな?」
「それはズルいぞ。僕の言葉はお前に聞こえていたじゃないか。それなのに言わないつもりか?」
「だって、今の君には必要ない言葉たちだったんだから。仕方ないよ。」
「教えろ。」
「だーめ。」
「このままお前の骨を折ってもいいんだぞ?」
体に回されている腕にグッと力を入れられて、一瞬呼吸が詰まる。
それでも、潰そうという魂胆じゃないことなんてその力加減で分かる。
「そんな事言って、君はやらないくせに。」
「ほう?そんな口を聞くんだな。」
グググと強くなった腕は、明らかに殺意が篭っていたので、スノウが慌ててジューダスの肩を叩く。
しかしジューダスが余計に力を入れれば骨が少し音を立てた気がした。
「ごめん!!ごめんって!!!?」
「言うなら緩めてやる。」
「言いますっ!!言いますから!!!?」
すると一気に力を緩めたジューダスの肩を押しやって離れて警戒すれば、シャルティエとハロルドの口からは呆れたため息が。ジューダスからは鼻で笑われてしまった。
『で?何の話だったんですか?』
「ありがとう、ってお礼を言ってたんだよ。」
「それだけであんなに長く会話出来るものか。他にもあるだろう?」
「……中々しぶとい…。」
「何か言ったか?」
「いえっ!!何でもありません!!!」
尻に敷かれた気分だ、とスノウが恨めしげにジューダスを見たが、彼からも睨みを貰い、慌てて視線を逸らせた。
「面と向かって言うとなると、気恥ずかしいなぁ…?」
「偽物の僕には言えたのにか?」
「分かったって…。そんなにボキボキ手を鳴らさないでよ、レディ。」
準備運動のように指をボキボキ鳴らす彼を見て、複雑な顔をさせたスノウは、少し間を空けたあと呟くようにして声を出す。
「……例え、君が18年前の君だとしても……それでも、お礼を言わせて?ありがとう…。それから……あの時言えなかった言葉……今言うよ。────“これからも、どうか…私を宜しくね。リオン”…。」
「…!!」
『スノウ…!!』
一人は感動した声を出し、もう一人は驚いた顔を見せてはその言葉を言った張本人を見つめる。
あとの一人は、やれやれと肩をすくめて惚気は勘弁と言わんばかり。
それでもハロルドの口元には笑顔が浮かんでいた。
「……前世という、最高の人生をくれて……ありがとう…。人生の彩りをくれて……本当に…ありがとう……過去のレディ────そう、言ってたんだよ?」
『うぅっ…!』
すすり泣く声がしたかと思えば、それはシャルティエだった。
シャルティエからすれば、スノウのその言葉は感涙するだけの価値のある言葉だったからだ。
以前、ファンダリア地方にいた時の彼女とはまた違う。
今はもう未来に“希望”を持って、前を向いてくれているのだから。
あんなにも自己犠牲のひどかったあの頃に比べたら、目覚ましい成長であった。
『スノウの口から、そんな言葉が、聞けるだなんてっ…!!生きてて…良かった…!!』
「…まぁ、お前のオリジナルはとっくの前に死んでるがな。」
『ちょっと坊ちゃん?!さっきまでの僕の感動を返してくださいよ!!?』
茶化すジューダスを怒るシャルティエだったり、それを逆にハロルドが茶化したりする。
しかし、そんな中でもジューダスの表情に皆が注目する事となる。
その目下の人は、スノウから背を向けて俯いていた。
そしてシャルティエにだけは見えていたが、薄ら瞳に涙を溜めていたのだ。
それもすぐに無くなってしまいそうなほどの量ではあるが、暫く続いたその瞳の潤みに、シャルティエが優しく光を灯した。
自分のマスター達の成長に、嬉しさと感動を表した様な光だった。
「これで揃ったようね~♪」
ハロルドの視線の先をスノウとシャルティエが見つめる。
そこには修羅や海琉、そして他の仲間たちが手を振りながらここへとやってくる姿だった。
それを見たスノウがひとつ笑って、ジューダス達へと振り返った。
「さぁ、行こう?次のステージへとね!」