第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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126.
___現代・クレスタ
デートの翌日。
相変わらずの寝坊助が叩き起され、全員が外に出て空を見上げる。
するとそこには、“神のたまご”が現れていた。
「……遂に、ここまで来たか…。」
修羅の一言がスノウの耳に届き、スノウが修羅の言葉に静かに頷く。
スノウが横にいた修羅を見ると、険しい顔をさせて空に現れた神のたまごを睨んでいた。
その修羅もまた、〈星詠み人〉であり、未来を知っている人間だからこそ神のたまごが最後の戦いで、そして最後のダンジョンだということを知っている。
その顔の原因はきっとそれなのだろう、とスノウが考察する。
「…何だか、カイル達に出会ったのが随分と前の事のようだね。」
「あんたと会ったのも、な? ……昨日は、あいつと何かしたのか?」
「あいつ?」
「ジューダスの奴だよ。二人で何処か行ってただろ?」
「あぁ。彼とはデートしてたよ?ノイシュタットの桜を見に行ったり…海洋都市アマルフィの夜景を見たり…。」
「俺を差し置いてか?」
「あぁ……そういえば、何時だったか三人で行きたがってたよね?」
「……それ、だいぶ前に言ってたな…あんたが。」
ホープタウンよりも前に、ジューダスと修羅が呆れていた話だ。
修羅がスノウとホープタウンでデートするか、という話をした際にスノウが物申した問題の一言…。
────〝「あぁ、なるほどそういう事か。ジューダスも一緒に来たいのか?」〟
それを聞いた二人が同じく呆れていたのが遠い日のことだ。
「ごめんごめん。今度、またデートに行こうか?」
「……今度、ね…? ………あのさ。これが終わったら…あんたは何処に行くんだ?」
「…決して、終わりじゃないよ。私には私の使命があるからね。それが終わるまでは……何度でも生き返って、何度でも戦うためにここに来るよ。きっとね?」
「……何か、俺にとっては嬉しいような…嬉しくないような返答だな。神が関わってる事だとしても…何だかなぁ…?」
泣き笑いの顔をさせた修羅を見たスノウがクスリと笑う。
そして修羅の頬をそっと手で包んで優しい顔を向けた。
「悲しまないで? 必ずまた会える日が来る。だから、その時を楽しみに待ってて欲しいな?」
「……分かった。あんたがそう言うなら、いつまでも待つさ。例え、記憶が失われようとも…絶対に待ってるからな。」
「うん。“さよなら”は言わないよ? この戦いの最後に言うなら“またね”で在りたいからね。」
「あぁ、俺も……“またな”って言うつもりだ。」
お互いに拳同士を合わせれば、向こうで話し合っていたカイル達の決意表明も終わったようだ。
全員がこっちを見ていて、二人を待ってくれている。
そんな皆を見たスノウと修羅は皆の所へと走った。
来たる未来へと思いを馳せながら。
「……よし!皆、行こう!!」
「「「おー!!!」」」
「ちょっと待って?」
「「「???」」」
「一つ気になることがあってね?」
「何だよ、スノウ。カイルが折角言い出したのに、出鼻を挫くなよな~?」
「ふふ、それは申し訳ない。でもロニ?君は高い所大丈夫なのかい?」
「「「「あ……。」」」」
全員がスノウの言葉で思い出す。
この年長者はオバケと高い所が大の苦手だった、という事に。
それを聞いたハロルドが目を丸くさせて年長者を見遣る。
「なに?あんた、高い所が苦手なわけ?ダイクロフトだって高かったわけでしょ?何が怖いのよ?」
「うっせぇ!!苦手なもんは苦手なんだよ!」
「よくそれで、今まで旅なんて出来たわねー。」
「し、仕方ねぇだろ!? それに!以前はいつの間にか目的地に着いてたんだよ!」
「まぁ、君は気絶してたからね。…という訳で、今の内に作戦会議でもしておこうと思ってね? ……そうだなぁ?ナナリーが左側、私が右側で君を支える。もし落ちたとしても私が魔法で何とか出来るし、これが安牌なんじゃないかな?」
「却下だ。」
「同じく。」
スノウの提案に、ジューダスと修羅が異論を唱える。
その顔にはありありと女二人でこいつが支えられるはずが無い、と言った顔だった。
「僕とこいつで脇を固める。お前らは僕達の後ろをついてこい。」
「俺もそれが良いと思うぜ? 女二人で身長の高い男を支えるのは無理があるだろ…。」
「君たちがそれで良いなら、私も異論はないよ。……まぁ、一つだけ言っておくと…」
スノウはロニの近くに寄って、少ししゃがむように手招きをする。
それを見たロニが腰を落としてスノウの言葉に耳を傾ける。
すると見る見るうちにロニの顔が青くなっていくではないか。
「……君が気絶でもしたら、今なら天才科学者のお注射が唸ると思うよ?」
「……。」
そう、そんな話をしていたのだ。
だからロニが顔を青ざめさせたのだ。
「よーし!俺は今日から生まれ変わるぜ!ぜってぇ、気絶しねぇ…!!!」
「クスッ…。その意気だよ?ロニ。」
「え、スノウ。何言ったの?」
「ちょっとスパイシーなアドバイスをね?」
「「「????」」」
意気込むロニと可笑しそうに笑うスノウ。
何を話したか、と仲間たちが笑って群がる中、ハロルドと海琉が皆を呼びに来ていた。
「イクシフォスラーの改造も終わったわよー?動力も起動させたんだから、早く乗りなさいよ。行くんでしょ?あそこに。」
ハロルドが指さした場所は、勿論、神のたまごである。
全員が大きく頷き、一人一人が覚悟を決めてイクシフォスラーへと乗り込む。
その顔は昔のものとは違う。
旅をして、そして大事なものを救うために覚悟を決めた顔つきであった。
「ハロルド!お願い!!」
「あいよ☆ この天才科学者さまに任せなさ~~い?」
カイルの言葉で操縦ボタンを操作したハロルドは、見事に急発進を決めてロニを震え上がらせた。
しかし気絶した暁には、天才科学者の実験台にさせられること間違いなし。
故に、ロニとしては今気絶する訳にはいかない。……何としても。
「ちなみにー!あの球体…っていうか、神のたまごに突っ込むつもりだから!あんた達、衝撃に気を付けてなさいよー?」
「「「「え?」」」」
「ははっ。そうだよね。やっぱりそうなるよね?」
「あんまりストーリーを覚えてなかったことを、ここまで激しく後悔することになるとはな…?」
修羅が遠い目をし始めると、隣の海琉が首を傾げさせて修羅を見る。
しかし修羅はその視線に気づいておらず、ずっと遠くを見つめるばかり。
それを見ていたジューダスが鼻で笑い、スノウも可笑しそうに笑っていると、遂にその時が訪れる。
ハロルドは何の報告も無しに神のたまごへと突っ込んで行ったのだ。
その衝撃たるや、勿論誰が受けても凄まじいものであって、ロニに至っては口から泡を吹く勢いである。
イクシフォスラーからアンカーが射出され、神のたまごの上層部へと向かう道が出来たのだが…。
「ちょっとー?あんた達、軟弱すぎない?地面とこんにちはしてないで行くわよ!」
「……僕はあいつの背中に忍び寄って、一発殴ってやりたい…!」
「派手だったねぇ……。」
ハロルド以外の全員が地面に倒れている中、仲良く床に並んで倒れていたスノウとジューダスがそう零す。
やはり心配していたロニは案の定気絶しているし、他の面々も痛みを訴えながら涙目となって起き上がっていた。
いち早く神のたまごに乗り込んだハロルドを見て、慌てて面倒見の良い修羅が声を掛けながらそれを追いかける。
そして置いていかれた海琉もまた、修羅の後を追いかけ少しづつ仲間たちがイクシフォスラーを離れていく。
ナナリーがロニを起こす中、カイルとリアラは覚悟を決めた顔をさせイクシフォスラーを離れた。
それを見つつ、ロニをどう起こすか考えていたスノウは肩に誰かが触れたことで我に返る。
そして手の主を見遣れば、険しい顔をさせたジューダスだった。
「お前はまた…。心ここに在らず、だったぞ。」
『二人とも、大丈夫でしたか?ハロルドの運転って時に荒いんですよね~…?』
二人の言葉に笑いながら頷いたスノウは、ジューダスの手を取り、そしてその手の甲へと口付けた。
真っ赤になったジューダスはすぐにその手を引き抜いたが、スノウはジューダスの耳元に口を近づけた。
「…どうか、無事に頑張って欲しい……。」
「どういう意味だ。」
「ここの中央部は一人一人戦闘を行わないといけない仕掛けがある。だからここで君を激励してるのさ。」
「ふん。要らぬ心配をどうも、だな。それに以前にも言っただろう。僕は誰にも負けないし、やられるつもりも毛頭無い…と。」
そしてスノウのネックレスに口付けを落としたジューダスは、不敵な笑みを見せた。
「お前こそ、ヘマするなよ?」
「私は無いと思うけどね? でも…そうだね。肝に銘じておくよ。ありがと、ジューダス。」
「ふん。」
そうしてスノウとジューダスもイクシフォスラーを離れていった。
残ったのは2人だけだが……。
「…いつまで寝てんだい。狸寝入りなんて趣味が悪いよ。」
「いやぁ…。遂にあいつの告白の場を設けてやらなかったことを思い出しちまってな…。」
ロニが頭を掻きながらそう漏らす。
そして視線はイクシフォスラーの出口へと向けられた。
ナナリーもまた、その視線を追いかけるようにして出口の方を見る。
そこは先程ジューダスとスノウが出ていった場所である。
不安そうな視線を向けるナナリーに対して、「よっこらせ」と年寄りめいた言葉で立ち上がったロニは少しだけ笑っていた。
その顔には「心配ない」と書かれているような自信が垣間見えていた。
「ま、なんとかなるだろ。あの二人なら。」
「そうさねぇ…?なんとかなるといいけど…。なんてったってあの子、ちょっと鈍いところがあるからさ?」
「あ?そうなのか?」
「…そういえばあんたも鈍かったわ。相談したアタシがバカでしたよーだ!」
「はぁ?なんだよそりゃ!?」
二人は喧嘩しながら外へ出る。
そこには待ちくたびれた顔をしたハロルドと疲れ切った修羅、そしてクスリと笑っているスノウや鼻では笑っていても、口元は弧を描いていたジューダス…仲間たちのそれぞれの顔があった。
ロニとナナリーは自然と手をつなぎ、アンカーを渡り切る。
そして仲間たちの待つ場所へと向かっていった。
「…皆、これが泣いても笑っても最後の戦いになると思う。」
カイルが神妙な顔つきで皆を見てそう告げる。
しかし仲間達には不安はなかった。
後はカイルの覚悟を信じるだけなのだから。
「オレ達で…未来への運命を切り開こう!!」
「「「「おぉーー!!」」」」
「君は言わなくてもいいのかい?」
「ふん…。そういうのはあいつらだけで十分だ。」
天へと手を高くあげて誓い合う姿を見てスノウとジューダスがそう話す。
そして二人も笑顔をこぼした。
────さあ、最後の戦いへ挑もう。
★。o○o。。o○o。★★。o○o。。o○o。★★。o○o。。o○o。★
「スノウ…、皆…。オレ…もう駄目かも…。」
「諦めるなカイル…!最初の威勢は何処に行っちまったんだ…!!………俺も勘弁願いたいけどな…。」
カイルとロニが目の前の道を見てぐったりとした顔を向ける。
そこへスノウは苦笑いをしながら前へと躍り出た。
何故ならば、カイルやロニの苦手とする仕掛けがたくさんあったからだ。
勿論、スノウは前前世でやっているのもあって仕掛けの詳細は把握済み。
だから前へと出たのだ。…それに危険だということも分かっていた。
「皆は休んでていいよ?ここの仕掛けは私がやっておくから。」
全ての仕掛けを解いて、最奥にあるボタンを押さなければ中央部に辿り着くための橋がかからない仕掛けなのだ。
大掛かりな仕掛けということと、体を小さくして細い道を通った先で飛び降りたり、移動する床に乗ってソーサラーリングで操作しなければならなかったり…。
とにかく面倒な仕掛けが続く。
時には頭を使って進まないといけないので、カイルとロニが音を上げたのだ。
「ここってどういう仕掛けなんだ?」
「ここは小さくなったり大きくなったりして最奥のボタンを押す仕掛けだね。ほら、あそこが目的地だよ。」
「うわ…まじか…。」
「男は…無理そうだよな…? 恐らく体重で道が壊れる。」
「複数で行ってもダメそうだな。」
ロニや修羅、カイルまでもその道のりを見て険しい顔をさせる。
しかし臆することなくスノウが先へと進もうとするのをカイルが止める。
「ちょ、ちょっと!スノウ!駄目だって!」
「あぁ、大丈夫。仕掛けの解き方なら分かってるからね。」
「あ、そうなんだ…。じゃあ安心だね…って、そうじゃないよ!!もし道が壊れたらどうするのさ!?」
「その時はその時。まぁ、見ててよ?」
スノウが光る床へ足を進めるとその体は徐々に小さくなる。
人の三分の一有るか無いかくらいの大きさになると、男性陣が恐怖していた道を通り越え、軽々と最奥まで行ってしまった。
スノウが最奥のボタンを押すと地面が僅かに揺れる。
すると、小さいながらもスノウがカイルたちに向かって手を振ってみせていた。
それに応えるように全員が手を振り返し、無事にスノウも仲間たちの元へと戻っていく。
「次の仕掛けも任せて。皆の役に立ってみせると誓うよ。」
「まさか、道も覚えてるのか?」
「うん。ここは何度も見たからね。」
修羅が聞けば、なんて事ないとばかりにスノウが体を大きくさせながら答える。
体の異変が無いか確認したスノウは、問題ないと分かると全員を連れてあっという間に次の仕掛けへの場所まで案内して見せた。
驚く仲間たちを他所に、スノウは目の前の仕掛けを見て困ったように頭を掻く。
「…シャルティエってさ?火とか出せない?」
『へ?! そ、そんな事出来るわけないじゃないですか!!それが出来るならディムロス大佐なんて要らないじゃないですか!!』
「あんた、結構失礼なこと言ってるわよ?」
ハロルドが呆れて肩を竦ませる。
その反対で、シャルティエのコアクリスタルは、“何か変な事でも言ったか”といった光を映し出していた。
「何でシャルティエに火が出るか聞いたんだ?」
「あー…。実はさ? こう見えて、レンズの使い方って分からないからソーサラーリングの使い方も分からなくてね? 今回の仕掛けはソーサラーリングが必須なんだが…。」
「ならオレに任せてよ! ソーサラーリングを今まで何度も使ってきたから扱いは大丈夫だと思う!それに、スノウにばかり負担はかけられないしね!」
「カイル…! うん、じゃあお願いしようかな?」
感動してカイルを見たスノウは仕掛けの謎を全てカイルへと伝える。
対応する色の球体をソーサラーリングで打ちながら、移動する床の方向を変えていく────至ってシンプルな仕掛けではあるが…。
「うわわっ!この赤い玉、打ったのに違う方向に行くよ?!」
「「「…。」」」
「あ…、外しちゃった!!」
「「「…………。」」」
全員がカイルの様子を見守っていたのだが、あの様子を見てもわかるように、まるで最奥に行く様子が無い。
それに伴って頭を抱えた数人がカイルから視線を外していた。
「ていうより素朴な疑問良いかしらん?」
「どうぞ?」
「あんたってシャルティエは扱える癖に、レンズ技術は使えないって言うの?」
「まぁそうだね。ハロルドに話したかは分からないけど、〈星詠み人〉はレンズそのものに馴染みが無いんだ。だから使い勝手というか、どういう技術で使われているのかサッパリだし、使い方もサッパリでね?」
「なら、シャルティエの晶術を使うといいわ。あの子にこのまま仕掛けを頼んでたら、先に敵さんの方が何かしてきそうじゃない?」
「でもシャルティエは火が使えないよ?」
「……晶術もレンズ技術の一環だ。だから通常の晶術を使用しても問題はない…ということなんだろう?」
「ええ、そうよ。あんたがレンズを使えなくても、晶術が使えるのなら話は別。ものは試しって言うじゃない?やってみたら?」
カイルが戻り、その入れ替わりでスノウが移動する床の上に乗る。
そしてジューダスから預かったシャルティエを構え、目を閉じると深く深呼吸をした。
それに目ざとく見つけたシャルティエがギャンギャンと吠えだす。
『そんなに緊張しないでくださいよ!こっちにまで伝わってきてるんですからね?!』
「いやぁ、久しぶりに君を使うから何だか自然と体に力が入っちゃってね。」
『そんなに前でしたっけ…? じゃなくて、行きますよ!スノウ!』
「ふふ…。はいよ。」
『「___ロックトライ!!」』
突出した岩石が赤い球体に当たると移動する床の行き先が変わる。
しかし一回では足りないのだ。
『「___グレイブ!」』
続けて晶術を使用すれば、赤く染まっていた床が行き先を変えて、スノウの乗っている移動式の床がそれに沿って移動していく。
集中を切らさずにスノウがシャルティエを構えて唱える。
次に狙うは、緑の球体。
『「___ロックヘキサ!」』
そうやってシャルティエと協力し、前前世の記憶を頼りにしながらスノウが仕掛けを解いていく。
無事に最奥まで辿り着いたときには、スノウがシャルティエにお礼を言っていた。
「縁起でもないからお礼は言わないで」というシャルティエを笑いながら、仲間たちの元までたどり着けばようやく中央部に向かう橋が全て架かる。
全員の瞳は既に次のダンジョンへと向けられていた。
___現代・クレスタ
デートの翌日。
相変わらずの寝坊助が叩き起され、全員が外に出て空を見上げる。
するとそこには、“神のたまご”が現れていた。
「……遂に、ここまで来たか…。」
修羅の一言がスノウの耳に届き、スノウが修羅の言葉に静かに頷く。
スノウが横にいた修羅を見ると、険しい顔をさせて空に現れた神のたまごを睨んでいた。
その修羅もまた、〈星詠み人〉であり、未来を知っている人間だからこそ神のたまごが最後の戦いで、そして最後のダンジョンだということを知っている。
その顔の原因はきっとそれなのだろう、とスノウが考察する。
「…何だか、カイル達に出会ったのが随分と前の事のようだね。」
「あんたと会ったのも、な? ……昨日は、あいつと何かしたのか?」
「あいつ?」
「ジューダスの奴だよ。二人で何処か行ってただろ?」
「あぁ。彼とはデートしてたよ?ノイシュタットの桜を見に行ったり…海洋都市アマルフィの夜景を見たり…。」
「俺を差し置いてか?」
「あぁ……そういえば、何時だったか三人で行きたがってたよね?」
「……それ、だいぶ前に言ってたな…あんたが。」
ホープタウンよりも前に、ジューダスと修羅が呆れていた話だ。
修羅がスノウとホープタウンでデートするか、という話をした際にスノウが物申した問題の一言…。
────〝「あぁ、なるほどそういう事か。ジューダスも一緒に来たいのか?」〟
それを聞いた二人が同じく呆れていたのが遠い日のことだ。
「ごめんごめん。今度、またデートに行こうか?」
「……今度、ね…? ………あのさ。これが終わったら…あんたは何処に行くんだ?」
「…決して、終わりじゃないよ。私には私の使命があるからね。それが終わるまでは……何度でも生き返って、何度でも戦うためにここに来るよ。きっとね?」
「……何か、俺にとっては嬉しいような…嬉しくないような返答だな。神が関わってる事だとしても…何だかなぁ…?」
泣き笑いの顔をさせた修羅を見たスノウがクスリと笑う。
そして修羅の頬をそっと手で包んで優しい顔を向けた。
「悲しまないで? 必ずまた会える日が来る。だから、その時を楽しみに待ってて欲しいな?」
「……分かった。あんたがそう言うなら、いつまでも待つさ。例え、記憶が失われようとも…絶対に待ってるからな。」
「うん。“さよなら”は言わないよ? この戦いの最後に言うなら“またね”で在りたいからね。」
「あぁ、俺も……“またな”って言うつもりだ。」
お互いに拳同士を合わせれば、向こうで話し合っていたカイル達の決意表明も終わったようだ。
全員がこっちを見ていて、二人を待ってくれている。
そんな皆を見たスノウと修羅は皆の所へと走った。
来たる未来へと思いを馳せながら。
「……よし!皆、行こう!!」
「「「おー!!!」」」
「ちょっと待って?」
「「「???」」」
「一つ気になることがあってね?」
「何だよ、スノウ。カイルが折角言い出したのに、出鼻を挫くなよな~?」
「ふふ、それは申し訳ない。でもロニ?君は高い所大丈夫なのかい?」
「「「「あ……。」」」」
全員がスノウの言葉で思い出す。
この年長者はオバケと高い所が大の苦手だった、という事に。
それを聞いたハロルドが目を丸くさせて年長者を見遣る。
「なに?あんた、高い所が苦手なわけ?ダイクロフトだって高かったわけでしょ?何が怖いのよ?」
「うっせぇ!!苦手なもんは苦手なんだよ!」
「よくそれで、今まで旅なんて出来たわねー。」
「し、仕方ねぇだろ!? それに!以前はいつの間にか目的地に着いてたんだよ!」
「まぁ、君は気絶してたからね。…という訳で、今の内に作戦会議でもしておこうと思ってね? ……そうだなぁ?ナナリーが左側、私が右側で君を支える。もし落ちたとしても私が魔法で何とか出来るし、これが安牌なんじゃないかな?」
「却下だ。」
「同じく。」
スノウの提案に、ジューダスと修羅が異論を唱える。
その顔にはありありと女二人でこいつが支えられるはずが無い、と言った顔だった。
「僕とこいつで脇を固める。お前らは僕達の後ろをついてこい。」
「俺もそれが良いと思うぜ? 女二人で身長の高い男を支えるのは無理があるだろ…。」
「君たちがそれで良いなら、私も異論はないよ。……まぁ、一つだけ言っておくと…」
スノウはロニの近くに寄って、少ししゃがむように手招きをする。
それを見たロニが腰を落としてスノウの言葉に耳を傾ける。
すると見る見るうちにロニの顔が青くなっていくではないか。
「……君が気絶でもしたら、今なら天才科学者のお注射が唸ると思うよ?」
「……。」
そう、そんな話をしていたのだ。
だからロニが顔を青ざめさせたのだ。
「よーし!俺は今日から生まれ変わるぜ!ぜってぇ、気絶しねぇ…!!!」
「クスッ…。その意気だよ?ロニ。」
「え、スノウ。何言ったの?」
「ちょっとスパイシーなアドバイスをね?」
「「「????」」」
意気込むロニと可笑しそうに笑うスノウ。
何を話したか、と仲間たちが笑って群がる中、ハロルドと海琉が皆を呼びに来ていた。
「イクシフォスラーの改造も終わったわよー?動力も起動させたんだから、早く乗りなさいよ。行くんでしょ?あそこに。」
ハロルドが指さした場所は、勿論、神のたまごである。
全員が大きく頷き、一人一人が覚悟を決めてイクシフォスラーへと乗り込む。
その顔は昔のものとは違う。
旅をして、そして大事なものを救うために覚悟を決めた顔つきであった。
「ハロルド!お願い!!」
「あいよ☆ この天才科学者さまに任せなさ~~い?」
カイルの言葉で操縦ボタンを操作したハロルドは、見事に急発進を決めてロニを震え上がらせた。
しかし気絶した暁には、天才科学者の実験台にさせられること間違いなし。
故に、ロニとしては今気絶する訳にはいかない。……何としても。
「ちなみにー!あの球体…っていうか、神のたまごに突っ込むつもりだから!あんた達、衝撃に気を付けてなさいよー?」
「「「「え?」」」」
「ははっ。そうだよね。やっぱりそうなるよね?」
「あんまりストーリーを覚えてなかったことを、ここまで激しく後悔することになるとはな…?」
修羅が遠い目をし始めると、隣の海琉が首を傾げさせて修羅を見る。
しかし修羅はその視線に気づいておらず、ずっと遠くを見つめるばかり。
それを見ていたジューダスが鼻で笑い、スノウも可笑しそうに笑っていると、遂にその時が訪れる。
ハロルドは何の報告も無しに神のたまごへと突っ込んで行ったのだ。
その衝撃たるや、勿論誰が受けても凄まじいものであって、ロニに至っては口から泡を吹く勢いである。
イクシフォスラーからアンカーが射出され、神のたまごの上層部へと向かう道が出来たのだが…。
「ちょっとー?あんた達、軟弱すぎない?地面とこんにちはしてないで行くわよ!」
「……僕はあいつの背中に忍び寄って、一発殴ってやりたい…!」
「派手だったねぇ……。」
ハロルド以外の全員が地面に倒れている中、仲良く床に並んで倒れていたスノウとジューダスがそう零す。
やはり心配していたロニは案の定気絶しているし、他の面々も痛みを訴えながら涙目となって起き上がっていた。
いち早く神のたまごに乗り込んだハロルドを見て、慌てて面倒見の良い修羅が声を掛けながらそれを追いかける。
そして置いていかれた海琉もまた、修羅の後を追いかけ少しづつ仲間たちがイクシフォスラーを離れていく。
ナナリーがロニを起こす中、カイルとリアラは覚悟を決めた顔をさせイクシフォスラーを離れた。
それを見つつ、ロニをどう起こすか考えていたスノウは肩に誰かが触れたことで我に返る。
そして手の主を見遣れば、険しい顔をさせたジューダスだった。
「お前はまた…。心ここに在らず、だったぞ。」
『二人とも、大丈夫でしたか?ハロルドの運転って時に荒いんですよね~…?』
二人の言葉に笑いながら頷いたスノウは、ジューダスの手を取り、そしてその手の甲へと口付けた。
真っ赤になったジューダスはすぐにその手を引き抜いたが、スノウはジューダスの耳元に口を近づけた。
「…どうか、無事に頑張って欲しい……。」
「どういう意味だ。」
「ここの中央部は一人一人戦闘を行わないといけない仕掛けがある。だからここで君を激励してるのさ。」
「ふん。要らぬ心配をどうも、だな。それに以前にも言っただろう。僕は誰にも負けないし、やられるつもりも毛頭無い…と。」
そしてスノウのネックレスに口付けを落としたジューダスは、不敵な笑みを見せた。
「お前こそ、ヘマするなよ?」
「私は無いと思うけどね? でも…そうだね。肝に銘じておくよ。ありがと、ジューダス。」
「ふん。」
そうしてスノウとジューダスもイクシフォスラーを離れていった。
残ったのは2人だけだが……。
「…いつまで寝てんだい。狸寝入りなんて趣味が悪いよ。」
「いやぁ…。遂にあいつの告白の場を設けてやらなかったことを思い出しちまってな…。」
ロニが頭を掻きながらそう漏らす。
そして視線はイクシフォスラーの出口へと向けられた。
ナナリーもまた、その視線を追いかけるようにして出口の方を見る。
そこは先程ジューダスとスノウが出ていった場所である。
不安そうな視線を向けるナナリーに対して、「よっこらせ」と年寄りめいた言葉で立ち上がったロニは少しだけ笑っていた。
その顔には「心配ない」と書かれているような自信が垣間見えていた。
「ま、なんとかなるだろ。あの二人なら。」
「そうさねぇ…?なんとかなるといいけど…。なんてったってあの子、ちょっと鈍いところがあるからさ?」
「あ?そうなのか?」
「…そういえばあんたも鈍かったわ。相談したアタシがバカでしたよーだ!」
「はぁ?なんだよそりゃ!?」
二人は喧嘩しながら外へ出る。
そこには待ちくたびれた顔をしたハロルドと疲れ切った修羅、そしてクスリと笑っているスノウや鼻では笑っていても、口元は弧を描いていたジューダス…仲間たちのそれぞれの顔があった。
ロニとナナリーは自然と手をつなぎ、アンカーを渡り切る。
そして仲間たちの待つ場所へと向かっていった。
「…皆、これが泣いても笑っても最後の戦いになると思う。」
カイルが神妙な顔つきで皆を見てそう告げる。
しかし仲間達には不安はなかった。
後はカイルの覚悟を信じるだけなのだから。
「オレ達で…未来への運命を切り開こう!!」
「「「「おぉーー!!」」」」
「君は言わなくてもいいのかい?」
「ふん…。そういうのはあいつらだけで十分だ。」
天へと手を高くあげて誓い合う姿を見てスノウとジューダスがそう話す。
そして二人も笑顔をこぼした。
────さあ、最後の戦いへ挑もう。
★。o○o。。o○o。★★。o○o。。o○o。★★。o○o。。o○o。★
「スノウ…、皆…。オレ…もう駄目かも…。」
「諦めるなカイル…!最初の威勢は何処に行っちまったんだ…!!………俺も勘弁願いたいけどな…。」
カイルとロニが目の前の道を見てぐったりとした顔を向ける。
そこへスノウは苦笑いをしながら前へと躍り出た。
何故ならば、カイルやロニの苦手とする仕掛けがたくさんあったからだ。
勿論、スノウは前前世でやっているのもあって仕掛けの詳細は把握済み。
だから前へと出たのだ。…それに危険だということも分かっていた。
「皆は休んでていいよ?ここの仕掛けは私がやっておくから。」
全ての仕掛けを解いて、最奥にあるボタンを押さなければ中央部に辿り着くための橋がかからない仕掛けなのだ。
大掛かりな仕掛けということと、体を小さくして細い道を通った先で飛び降りたり、移動する床に乗ってソーサラーリングで操作しなければならなかったり…。
とにかく面倒な仕掛けが続く。
時には頭を使って進まないといけないので、カイルとロニが音を上げたのだ。
「ここってどういう仕掛けなんだ?」
「ここは小さくなったり大きくなったりして最奥のボタンを押す仕掛けだね。ほら、あそこが目的地だよ。」
「うわ…まじか…。」
「男は…無理そうだよな…? 恐らく体重で道が壊れる。」
「複数で行ってもダメそうだな。」
ロニや修羅、カイルまでもその道のりを見て険しい顔をさせる。
しかし臆することなくスノウが先へと進もうとするのをカイルが止める。
「ちょ、ちょっと!スノウ!駄目だって!」
「あぁ、大丈夫。仕掛けの解き方なら分かってるからね。」
「あ、そうなんだ…。じゃあ安心だね…って、そうじゃないよ!!もし道が壊れたらどうするのさ!?」
「その時はその時。まぁ、見ててよ?」
スノウが光る床へ足を進めるとその体は徐々に小さくなる。
人の三分の一有るか無いかくらいの大きさになると、男性陣が恐怖していた道を通り越え、軽々と最奥まで行ってしまった。
スノウが最奥のボタンを押すと地面が僅かに揺れる。
すると、小さいながらもスノウがカイルたちに向かって手を振ってみせていた。
それに応えるように全員が手を振り返し、無事にスノウも仲間たちの元へと戻っていく。
「次の仕掛けも任せて。皆の役に立ってみせると誓うよ。」
「まさか、道も覚えてるのか?」
「うん。ここは何度も見たからね。」
修羅が聞けば、なんて事ないとばかりにスノウが体を大きくさせながら答える。
体の異変が無いか確認したスノウは、問題ないと分かると全員を連れてあっという間に次の仕掛けへの場所まで案内して見せた。
驚く仲間たちを他所に、スノウは目の前の仕掛けを見て困ったように頭を掻く。
「…シャルティエってさ?火とか出せない?」
『へ?! そ、そんな事出来るわけないじゃないですか!!それが出来るならディムロス大佐なんて要らないじゃないですか!!』
「あんた、結構失礼なこと言ってるわよ?」
ハロルドが呆れて肩を竦ませる。
その反対で、シャルティエのコアクリスタルは、“何か変な事でも言ったか”といった光を映し出していた。
「何でシャルティエに火が出るか聞いたんだ?」
「あー…。実はさ? こう見えて、レンズの使い方って分からないからソーサラーリングの使い方も分からなくてね? 今回の仕掛けはソーサラーリングが必須なんだが…。」
「ならオレに任せてよ! ソーサラーリングを今まで何度も使ってきたから扱いは大丈夫だと思う!それに、スノウにばかり負担はかけられないしね!」
「カイル…! うん、じゃあお願いしようかな?」
感動してカイルを見たスノウは仕掛けの謎を全てカイルへと伝える。
対応する色の球体をソーサラーリングで打ちながら、移動する床の方向を変えていく────至ってシンプルな仕掛けではあるが…。
「うわわっ!この赤い玉、打ったのに違う方向に行くよ?!」
「「「…。」」」
「あ…、外しちゃった!!」
「「「…………。」」」
全員がカイルの様子を見守っていたのだが、あの様子を見てもわかるように、まるで最奥に行く様子が無い。
それに伴って頭を抱えた数人がカイルから視線を外していた。
「ていうより素朴な疑問良いかしらん?」
「どうぞ?」
「あんたってシャルティエは扱える癖に、レンズ技術は使えないって言うの?」
「まぁそうだね。ハロルドに話したかは分からないけど、〈星詠み人〉はレンズそのものに馴染みが無いんだ。だから使い勝手というか、どういう技術で使われているのかサッパリだし、使い方もサッパリでね?」
「なら、シャルティエの晶術を使うといいわ。あの子にこのまま仕掛けを頼んでたら、先に敵さんの方が何かしてきそうじゃない?」
「でもシャルティエは火が使えないよ?」
「……晶術もレンズ技術の一環だ。だから通常の晶術を使用しても問題はない…ということなんだろう?」
「ええ、そうよ。あんたがレンズを使えなくても、晶術が使えるのなら話は別。ものは試しって言うじゃない?やってみたら?」
カイルが戻り、その入れ替わりでスノウが移動する床の上に乗る。
そしてジューダスから預かったシャルティエを構え、目を閉じると深く深呼吸をした。
それに目ざとく見つけたシャルティエがギャンギャンと吠えだす。
『そんなに緊張しないでくださいよ!こっちにまで伝わってきてるんですからね?!』
「いやぁ、久しぶりに君を使うから何だか自然と体に力が入っちゃってね。」
『そんなに前でしたっけ…? じゃなくて、行きますよ!スノウ!』
「ふふ…。はいよ。」
『「___ロックトライ!!」』
突出した岩石が赤い球体に当たると移動する床の行き先が変わる。
しかし一回では足りないのだ。
『「___グレイブ!」』
続けて晶術を使用すれば、赤く染まっていた床が行き先を変えて、スノウの乗っている移動式の床がそれに沿って移動していく。
集中を切らさずにスノウがシャルティエを構えて唱える。
次に狙うは、緑の球体。
『「___ロックヘキサ!」』
そうやってシャルティエと協力し、前前世の記憶を頼りにしながらスノウが仕掛けを解いていく。
無事に最奥まで辿り着いたときには、スノウがシャルティエにお礼を言っていた。
「縁起でもないからお礼は言わないで」というシャルティエを笑いながら、仲間たちの元までたどり着けばようやく中央部に向かう橋が全て架かる。
全員の瞳は既に次のダンジョンへと向けられていた。