第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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124.
(*スノウ視点)
闘技場から出た私達はジョニーとも別れ、再びデートへと繰り出そうとしていた。
しかし時刻は既に夕方に達していたらしい。
町並みを夕日が照らして、それはそれは赤く染める。
昼よりも少しだけ静かになりつつある町並みを見た私は、後ろで歩いている彼を振り返る。
そして少しのわがままを零した。
「……ねぇ、レディ?」
「…何だ。」
「今日一日、君に私の時間をあげた訳だけど……どうだった? 闘技場だとか、途中私が抜けたのもあって物足りなかった?」
「そうだな。とてつもなく物足りないな。」
珍しく素直な意見を言った彼にほんの少し、苦笑いを零した私はとある方向を見つめる。
それは原作……この話のストーリー上、とても大切なものだから。
「ほんの少し……わがままを言ってもいい?」
「あぁ。…だが、それが僕の納得するものならな。…と言うのも、お前が態々そう言ってくるという事は、何だか嫌な予感がするものだからな。」
「酷いなぁ?……でも君のその予想、半分正解かもね? 少し一人で黄昏たい理由がある。だから…」
「なら、僕も黄昏れる事にしよう。……お前の隣でな。」
「……ふふ。それなら喜んで。」
私はその、とある方向…と言ってもラグナ遺跡だけど、その方向を向いてじっとその時を待つ。
……今頃、カイルはリアラとデートしていて、そしてお互いに話し合ってるはずだ。
この世界をどうするのか。それから……カイルにとって大切な人であるリアラをどうするのかを。
話が終わった後、空にはリアラのペンダントが飛んでいくはずなのだ。
……私は、それを確認したい。
「……。」
私の隣に立ち、私と同じ方向を見る彼は何を考えたいと言うのか、じっと立ち止まっては夕暮れに染まる空を見ていた。
しかし私の視線に気付いたのか、彼の視線がこちらに向く。
だから私は静かに首を横に振って、またラグナ遺跡方面を見つめた。
────ただただ時間が過ぎていくだけ。
なのに、彼は何の文句も言わずに私の我儘に付き合ってくれていた。
散りゆく桜の花びらが、ヒラヒラと私達の前を通り過ぎていく。
時折シャルティエが桜の話を彼に持ちかけていて、それに多少応えてあげていたのを何処か遠くに聞いていた私に……吉報が訪れる。
遠くの空に青い光をした小さな何かが空高く、天高く飛んでいくのを確認した私は思わず自身の首から下げられたネックレスをギュッと握っていた。
二人もそれを見ていたのか、シャルティエの方が疑問を口にしていた。
『さっきの光、なんだったんでしょうか?流れ星とか?』
「流れ星にしては妙な軌道を描いていたが?それについてはどう説明するつもりだ。」
『えぇ?!そんなの分かりませんよ!!もしあれが流れ星だったら夢があって良いじゃないですか!』
横でそんな話を繰り広げられていたが、私は少しだけ感極まりそうになり、ネックレスを握ったまま俯いた。
流石にそれに気付いた二人が私へと声を掛けてくる。
「……スノウ?大丈夫か?」
『具合でも悪いんですか?少し何処かで休みます?』
「…………ううん。大丈夫。」
『どう見ても大丈夫そうには見えませんが…。』
「ううん、本当に大丈夫。……ただ、時が来てしまったなと思っただけだよ。」
『え…?』
「……。」
そっか…。
カイルはようやく覚悟を決めたのか。
「そっか…。そっか……!」
『スノウ…。』
「……。」
あぁ、きっとカイルはまだ心の中では揺れ動いてるのは分かってるんだ。
だから最後、全ての元凶を壊すのを躊躇するんだ。
……でも、今はリアラの前で覚悟を決めたんだ。
〝また二人が会える未来を信じて〟
ちゃんと、そんな約束もして……。
ほんと、偉いよ…ふたりとも。
だから…だから私も……。
「……私も…覚悟を決めなくちゃ…。」
私は三歩だけ歩いて彼を振り返る。
その顔は勿論、真剣な顔で。
胸に手を置いた私は、彼を静かに見据えた。
「ジューダス。」
『「…!」』
「いや、親愛なる私の大切な親友である君に問いたい。……〝未来を知りたくはないか?〟」
『な、』
「……。」
「もし、もしも……未来が知りたいのであれば。私のこの手を取ってくれ。」
胸に置いている手とは反対の手で彼の前へと手を差し伸べる。
「そして未来を知りたいと思わないのなら、この手を受け取らなくて結構。その判断は…君に任せるよ。私はこれに関して助言を言わないし、全て君に決めてもらいたい。」
『きゅ、急にどうしたんですか…?スノウ。そんな…怖い顔して…。』
「くすっ…。そんな怖い顔をしてるとは思ってなかったけどね?」
笑って目を閉じた私は、すぐにまた真剣な顔で彼の顔を見る。
そしてまた、彼へと手を差し伸べた。
この世界が奇跡の連続で出来ているのなら
────私も、カイルたちの様に〝またお互いが会える未来を信じたい〟。
だから君に問うよ。
未来を知って、そして来世へと繋ぐ架け橋になると信じて。
……あと少ししか今世は居られない、と残酷な事を言うけれど。
でも、だからこそこの今の時間を大切にしたい。
来世でも会えるとお互いにもう一度契りたいから。
「……以前修羅が言っていた。〝スノウの辿ろうとしている未来は残酷だ〟と…。もしかして、今その時が来ようとしてるのか…?」
『あ…。』
思い出した様に声を出したシャルティエはコアクリスタルを激しく明滅させた。
私は目を閉じて首を横に振る。
「……言っただろう?私は助言をしないよ。例え私がその未来を辿ろうとしているとしても、君が私のこの手を取れば全て分かる。だが、知りたくない……聴きたくないのなら手を取らなければいい。簡単な話だろう?」
『そんな…。』
流石に迷っているようで、ずっと俯いて考え込んでいる彼に私は少し笑った。
「この選択は…後戻りなど出来ない。だからちゃんと考えて、考え抜いて…後悔のないようにしっかりと答えを出してからにして欲しい。答えを出すのに時間が必要だというのなら……そうだね…? 私はここのアイスキャンディー屋の前で呑気にアイスキャンディーを食べてるだろうから、声を掛けてくれると嬉しいな?」
そう言って私は彼の横を素通りして桜並木の方へと向かう。
まだ俯いて悩んでいる彼に、シャルティエが心配そうに声を掛けていたのを私は聞かなかったことにした。
+:.♯:.♪+.。*.+:.♯:.♪+.。*.+:.♯:.♪+.。*.+
目的地でもあったアイスキャンディー屋の前に着く頃には、少しだけ辺りは薄暗くなっており、子供達がお家に帰ろうとアイスキャンディー屋の前からはけて行くのが見えた。
私の横を通り過ぎてキャッキャと騒ぎながら帰る子供達の手には、先程買ったのであろうアイスキャンディーが握られていた。
「あ、モネ様!いらっしゃいませ!……あれ?今日はリオン様とご一緒ではないのですか?」
今世で一度来たことがあったが、あの時はお互いに服装が違いすぎたし、今は彼のあの格好も有名になったものだ。
それに私のこの格好を見て思い出してもくれたのだろう。
若い店員が嬉しそうに顔を綻ばせてこちらに聞いてきたので、それに答えることにした。
「彼は今、絶賛悩める青少年でね?置いてきたんだ。」
「??」
「ふふ。また後で来ると思うよ?」
「あぁ、そうなんですね!安心しました!」
「安心?」
「はい!だっておふたりは昔も今も、二人一緒じゃないですか!お一人の時の姿を見ると、少し不安になりますね!」
「……ははっ。そうか。それはすまなかった。」
「いえいえ。後で来られるというのなら大丈夫ですよー。それで?今日は何の味にしますか?」
「うーん…普通の味でお願いしようかな?」
「はい!」
彼と前のデートで食べた期間限定のプリン味はもう無くなっていて、今の期間限定商品もないためにめぼしい物が無かった。
普通の味も好きだけど、限定があればそれを頼もうと思ってた。
「はい!どうぞ、お待たせしましたー!」
「ありがとう。」
アイスキャンディーを片手に桜を見上げれば、立派な桜が咲き誇っていた。
その桜を見ながらアイスキャンディーが溶けないうちに口の中に一口入れれば、冷たいラムネ味が口内に広がり気分を爽やかにさせてくれる。
「うーん…今も昔も変わらず、これは美味しいね?」
シャクシャクと噛むアイスキャンディー。
目の前に降り注いでくるピンク色をした花びらたち。
あぁ、そう思えば彼とも沢山の思い出を作ってきたなぁ…?
「……取れるかな?」
前のデートでは取れなかった葉桜だけど、今回は桜が取れるかな……って、桜を取ったら可哀想か。
折角咲き誇ってくれているのだし…ね?
ヒラヒラと舞い散る花びらを私が掴もうとして、敢なく失敗に終わる。
そしてまた掴もうとして失敗する。
……これ、結構難しいな…?
「……。」
意外とそれに夢中になってしまっていれば、持っていたアイスキャンディーの棒が誰かに盗られてしまう。
それを慌てて見れば彼が怪訝な顔で私のアイスキャンディーを食べてしまっていた。
「……溶けるぞ。」
「君が食べてくれたから結果オーライじゃないかな?」
全て食べ終えた彼は怪訝な顔を変えもせずに桜を見上げ、そして私を見る。
どうやら彼も、前のデートの事を思い出していたようだ。
「…葉桜だけでは飽き足らず……今度は花弁か。」
「桜は取ってないだけ良しとしてよ?」
「ふん。僕はてっきり、取っていると思ってたぞ?」
「酷いなぁ?私がそんな酷い事すると思う?」
「葉桜を取ってた本人の言葉とは思えんな。」
そんな他愛のない話をしていた私達だが、ふと沈黙が降りる。
でも君がここに来てくれたということは、決心がついたと思ってもおかしくはないんだ。
だから私は彼に問い質した。
「……決めたんだね?」
「あぁ。」
私は彼を見てフッと笑い、そして先程と同じく手を差し出した。
でも今度は優しい笑顔で。
「……私は君の決意を支持する。例えどんな結果だろうと、私に後悔はない。…では、今から先程の続きと行こうか?5秒以内に私の手を取らなかった場合……私の手を取らなかった、と判定する。…ではカウントしよう。……5、4、」
ゆっくりめに数えたカウントダウンは、思いの外早い段階で終わることとなる。
それは彼が〝知りたい〟と願ったからだ。
私の手をしっかりと取り、強く握った彼の瞳には強い決意が宿っていた。
“もう迷わない”────そんな顔をしていた。
「……僕は知りたい。いや…知りたかった。お前が知る未来とやらが残酷なのであれば…余計に……。途中、未来を信じていなかった時もあったが…どうにも、結末はお前の知ってる未来を辿ろうとしているようだからな。」
「……これを聞けば、君は後戻り出来ない。今から君にとって、残酷な事を言うとしても……君は…知りたいと願うんだね?」
「あぁ。僕はもう迷わない。」
「……シャルティエも、それで良いんだね?」
『はい!元々僕は未来を知りたいと思ってた方の部類ですから。それに…坊ちゃんと話し合ったんです。だから僕の方も、坊ちゃんの答えに異論はありません!』
希望を宿したコアクリスタルの光に私が目を細める。
そして私は一度目を閉じて、彼を見上げた。
「では話そう。……これからの未来について。」
『……ごくり。』
「……。」
「いきなりだけど……君達には残酷な一言を贈ろう。────私達はもうすぐ死ぬ。今世に幕を閉じることとなる。」
『っ!?』
「……。」
シャルティエは動揺しているけれど、彼の方は……意外と気持ちが固まってたのかもしれないね?
「カイルは決意をした。この世界の在り方と……リアラをどうするのかを、ね?」
『も、もしかして……さっきの青白い光って…!』
「あぁ、そうだよ、シャルティエ。だから私は、君に我儘を頼み込んだ。…この時刻、彼がどうするのか“知っていたから”ね。勿論、カイルとリアラがどんな話をしたか……そして、どんな事があったのかも知っている。〈星詠み人〉としてね。」
『で、でも…それで坊ちゃん達が死ぬって言うのは…?』
「……ふふ。怖くなったのかい?シャルティエ。」
『当たり前じゃないですか!!!僕の…僕の大事なマスターが二人も死ぬって言うんですよ!?』
「……うーん、話をやめてもいいけど?」
『いえ!もうこの際ですから、存・分・に!聴かせてください!!』
シャルティエの最後の言葉が怒り気味だったのを聞いて、少しだけ笑ってしまった。
そして彼を見ても、その先を促しているかのような顔をしていたので、私は少しずつ話した。
エルレインの事、そしてフォルトゥナという神のこと、カイルやリアラのことも…全て。
「エルレインによって生かされたこの生も…これでおしまい。フィナーレだ…。つまり、これが私達の最後のデートという訳だ。そう聞けば、意識も変わってくるだろう?」
『「……。」』
「私達は違う神の〈御使い〉となった…。そして、私は新たな使命も出来た。生き返ったとしても…私がこの世界に生き返るかどうかは定かじゃない話となってきた。だからこそ、今、悔いを残したくないんだ。」
私は彼の瞳を見つめる。
思わず握っていたネックレスに力が入る。
「……さっき言った事が無かったことになる訳じゃない。でも今だけは…、ううん、違うな…? 私と居れる最後の機会だと思って……、どうか……私と最後のデートをしてくれないか…?レディ…。」
「……っ。」
顔を俯かせて口を噛み締めた彼。
すると彼は、私を強く抱き締めてきた。
……それも、震える体で。
「(あぁ…怖がらせてしまったかな…。でも、君のその決断を私は後悔していないよ。……逆に、この選択を選んでくれて…本当に有難う……。)」
心の底から願う。
来世でも、彼と同じこの世界で……そして、彼と共に在れる未来でありたい。
…それは、過ぎた願いなのだろうか?
「……怖がらせて…本当にごめん…。」
「違うっ…!死ぬ事が怖いんじゃない…!! お前と…来世でも一緒に居られないかもしれないと思うと……足が竦むっ…!この生を…もっと生きていたいと願ってしまう…!」
「……レディ。」
「だが、それでも…!僕は…!お前と来世も共に居られると、信じているっ…!お前は、違うのか…?」
「……ううん。私も、君との未来を信じてるよ…。以前言ってくれた、君との約束……ちゃんと、覚えてるから。」
来世でも一緒にいてくれると誓ってくれた、彼の想い。
私にはそれが、大事で…大事すぎて……堪らないんだ。
「…… If it can be imagined, it can be created. 」
「…!」
「……私の言い方が悪かった。ごめん。……私達はきっと来世でも一緒になれる。君も前にそう言ってくれた。なら、私もそれを信じなきゃ。…だからレディ?〝今世では最後となるデートをしよう?〟来世でも…きっとまた会えて、デート出来ると信じてるから。」
「あぁ…!」
「弱気になっちゃ駄目だね?」
「…お互い様だ。」
お互いに少し弱気になってしまったけれど。
でも、来世でまた会えると……カイルたちを見たら思いたいじゃないか。
「さぁ!思いっきり今世を楽しもう!今のうちに、ね!」
(*スノウ視点)
闘技場から出た私達はジョニーとも別れ、再びデートへと繰り出そうとしていた。
しかし時刻は既に夕方に達していたらしい。
町並みを夕日が照らして、それはそれは赤く染める。
昼よりも少しだけ静かになりつつある町並みを見た私は、後ろで歩いている彼を振り返る。
そして少しのわがままを零した。
「……ねぇ、レディ?」
「…何だ。」
「今日一日、君に私の時間をあげた訳だけど……どうだった? 闘技場だとか、途中私が抜けたのもあって物足りなかった?」
「そうだな。とてつもなく物足りないな。」
珍しく素直な意見を言った彼にほんの少し、苦笑いを零した私はとある方向を見つめる。
それは原作……この話のストーリー上、とても大切なものだから。
「ほんの少し……わがままを言ってもいい?」
「あぁ。…だが、それが僕の納得するものならな。…と言うのも、お前が態々そう言ってくるという事は、何だか嫌な予感がするものだからな。」
「酷いなぁ?……でも君のその予想、半分正解かもね? 少し一人で黄昏たい理由がある。だから…」
「なら、僕も黄昏れる事にしよう。……お前の隣でな。」
「……ふふ。それなら喜んで。」
私はその、とある方向…と言ってもラグナ遺跡だけど、その方向を向いてじっとその時を待つ。
……今頃、カイルはリアラとデートしていて、そしてお互いに話し合ってるはずだ。
この世界をどうするのか。それから……カイルにとって大切な人であるリアラをどうするのかを。
話が終わった後、空にはリアラのペンダントが飛んでいくはずなのだ。
……私は、それを確認したい。
「……。」
私の隣に立ち、私と同じ方向を見る彼は何を考えたいと言うのか、じっと立ち止まっては夕暮れに染まる空を見ていた。
しかし私の視線に気付いたのか、彼の視線がこちらに向く。
だから私は静かに首を横に振って、またラグナ遺跡方面を見つめた。
────ただただ時間が過ぎていくだけ。
なのに、彼は何の文句も言わずに私の我儘に付き合ってくれていた。
散りゆく桜の花びらが、ヒラヒラと私達の前を通り過ぎていく。
時折シャルティエが桜の話を彼に持ちかけていて、それに多少応えてあげていたのを何処か遠くに聞いていた私に……吉報が訪れる。
遠くの空に青い光をした小さな何かが空高く、天高く飛んでいくのを確認した私は思わず自身の首から下げられたネックレスをギュッと握っていた。
二人もそれを見ていたのか、シャルティエの方が疑問を口にしていた。
『さっきの光、なんだったんでしょうか?流れ星とか?』
「流れ星にしては妙な軌道を描いていたが?それについてはどう説明するつもりだ。」
『えぇ?!そんなの分かりませんよ!!もしあれが流れ星だったら夢があって良いじゃないですか!』
横でそんな話を繰り広げられていたが、私は少しだけ感極まりそうになり、ネックレスを握ったまま俯いた。
流石にそれに気付いた二人が私へと声を掛けてくる。
「……スノウ?大丈夫か?」
『具合でも悪いんですか?少し何処かで休みます?』
「…………ううん。大丈夫。」
『どう見ても大丈夫そうには見えませんが…。』
「ううん、本当に大丈夫。……ただ、時が来てしまったなと思っただけだよ。」
『え…?』
「……。」
そっか…。
カイルはようやく覚悟を決めたのか。
「そっか…。そっか……!」
『スノウ…。』
「……。」
あぁ、きっとカイルはまだ心の中では揺れ動いてるのは分かってるんだ。
だから最後、全ての元凶を壊すのを躊躇するんだ。
……でも、今はリアラの前で覚悟を決めたんだ。
〝また二人が会える未来を信じて〟
ちゃんと、そんな約束もして……。
ほんと、偉いよ…ふたりとも。
だから…だから私も……。
「……私も…覚悟を決めなくちゃ…。」
私は三歩だけ歩いて彼を振り返る。
その顔は勿論、真剣な顔で。
胸に手を置いた私は、彼を静かに見据えた。
「ジューダス。」
『「…!」』
「いや、親愛なる私の大切な親友である君に問いたい。……〝未来を知りたくはないか?〟」
『な、』
「……。」
「もし、もしも……未来が知りたいのであれば。私のこの手を取ってくれ。」
胸に置いている手とは反対の手で彼の前へと手を差し伸べる。
「そして未来を知りたいと思わないのなら、この手を受け取らなくて結構。その判断は…君に任せるよ。私はこれに関して助言を言わないし、全て君に決めてもらいたい。」
『きゅ、急にどうしたんですか…?スノウ。そんな…怖い顔して…。』
「くすっ…。そんな怖い顔をしてるとは思ってなかったけどね?」
笑って目を閉じた私は、すぐにまた真剣な顔で彼の顔を見る。
そしてまた、彼へと手を差し伸べた。
この世界が奇跡の連続で出来ているのなら
────私も、カイルたちの様に〝またお互いが会える未来を信じたい〟。
だから君に問うよ。
未来を知って、そして来世へと繋ぐ架け橋になると信じて。
……あと少ししか今世は居られない、と残酷な事を言うけれど。
でも、だからこそこの今の時間を大切にしたい。
来世でも会えるとお互いにもう一度契りたいから。
「……以前修羅が言っていた。〝スノウの辿ろうとしている未来は残酷だ〟と…。もしかして、今その時が来ようとしてるのか…?」
『あ…。』
思い出した様に声を出したシャルティエはコアクリスタルを激しく明滅させた。
私は目を閉じて首を横に振る。
「……言っただろう?私は助言をしないよ。例え私がその未来を辿ろうとしているとしても、君が私のこの手を取れば全て分かる。だが、知りたくない……聴きたくないのなら手を取らなければいい。簡単な話だろう?」
『そんな…。』
流石に迷っているようで、ずっと俯いて考え込んでいる彼に私は少し笑った。
「この選択は…後戻りなど出来ない。だからちゃんと考えて、考え抜いて…後悔のないようにしっかりと答えを出してからにして欲しい。答えを出すのに時間が必要だというのなら……そうだね…? 私はここのアイスキャンディー屋の前で呑気にアイスキャンディーを食べてるだろうから、声を掛けてくれると嬉しいな?」
そう言って私は彼の横を素通りして桜並木の方へと向かう。
まだ俯いて悩んでいる彼に、シャルティエが心配そうに声を掛けていたのを私は聞かなかったことにした。
+:.♯:.♪+.。*.+:.♯:.♪+.。*.+:.♯:.♪+.。*.+
目的地でもあったアイスキャンディー屋の前に着く頃には、少しだけ辺りは薄暗くなっており、子供達がお家に帰ろうとアイスキャンディー屋の前からはけて行くのが見えた。
私の横を通り過ぎてキャッキャと騒ぎながら帰る子供達の手には、先程買ったのであろうアイスキャンディーが握られていた。
「あ、モネ様!いらっしゃいませ!……あれ?今日はリオン様とご一緒ではないのですか?」
今世で一度来たことがあったが、あの時はお互いに服装が違いすぎたし、今は彼のあの格好も有名になったものだ。
それに私のこの格好を見て思い出してもくれたのだろう。
若い店員が嬉しそうに顔を綻ばせてこちらに聞いてきたので、それに答えることにした。
「彼は今、絶賛悩める青少年でね?置いてきたんだ。」
「??」
「ふふ。また後で来ると思うよ?」
「あぁ、そうなんですね!安心しました!」
「安心?」
「はい!だっておふたりは昔も今も、二人一緒じゃないですか!お一人の時の姿を見ると、少し不安になりますね!」
「……ははっ。そうか。それはすまなかった。」
「いえいえ。後で来られるというのなら大丈夫ですよー。それで?今日は何の味にしますか?」
「うーん…普通の味でお願いしようかな?」
「はい!」
彼と前のデートで食べた期間限定のプリン味はもう無くなっていて、今の期間限定商品もないためにめぼしい物が無かった。
普通の味も好きだけど、限定があればそれを頼もうと思ってた。
「はい!どうぞ、お待たせしましたー!」
「ありがとう。」
アイスキャンディーを片手に桜を見上げれば、立派な桜が咲き誇っていた。
その桜を見ながらアイスキャンディーが溶けないうちに口の中に一口入れれば、冷たいラムネ味が口内に広がり気分を爽やかにさせてくれる。
「うーん…今も昔も変わらず、これは美味しいね?」
シャクシャクと噛むアイスキャンディー。
目の前に降り注いでくるピンク色をした花びらたち。
あぁ、そう思えば彼とも沢山の思い出を作ってきたなぁ…?
「……取れるかな?」
前のデートでは取れなかった葉桜だけど、今回は桜が取れるかな……って、桜を取ったら可哀想か。
折角咲き誇ってくれているのだし…ね?
ヒラヒラと舞い散る花びらを私が掴もうとして、敢なく失敗に終わる。
そしてまた掴もうとして失敗する。
……これ、結構難しいな…?
「……。」
意外とそれに夢中になってしまっていれば、持っていたアイスキャンディーの棒が誰かに盗られてしまう。
それを慌てて見れば彼が怪訝な顔で私のアイスキャンディーを食べてしまっていた。
「……溶けるぞ。」
「君が食べてくれたから結果オーライじゃないかな?」
全て食べ終えた彼は怪訝な顔を変えもせずに桜を見上げ、そして私を見る。
どうやら彼も、前のデートの事を思い出していたようだ。
「…葉桜だけでは飽き足らず……今度は花弁か。」
「桜は取ってないだけ良しとしてよ?」
「ふん。僕はてっきり、取っていると思ってたぞ?」
「酷いなぁ?私がそんな酷い事すると思う?」
「葉桜を取ってた本人の言葉とは思えんな。」
そんな他愛のない話をしていた私達だが、ふと沈黙が降りる。
でも君がここに来てくれたということは、決心がついたと思ってもおかしくはないんだ。
だから私は彼に問い質した。
「……決めたんだね?」
「あぁ。」
私は彼を見てフッと笑い、そして先程と同じく手を差し出した。
でも今度は優しい笑顔で。
「……私は君の決意を支持する。例えどんな結果だろうと、私に後悔はない。…では、今から先程の続きと行こうか?5秒以内に私の手を取らなかった場合……私の手を取らなかった、と判定する。…ではカウントしよう。……5、4、」
ゆっくりめに数えたカウントダウンは、思いの外早い段階で終わることとなる。
それは彼が〝知りたい〟と願ったからだ。
私の手をしっかりと取り、強く握った彼の瞳には強い決意が宿っていた。
“もう迷わない”────そんな顔をしていた。
「……僕は知りたい。いや…知りたかった。お前が知る未来とやらが残酷なのであれば…余計に……。途中、未来を信じていなかった時もあったが…どうにも、結末はお前の知ってる未来を辿ろうとしているようだからな。」
「……これを聞けば、君は後戻り出来ない。今から君にとって、残酷な事を言うとしても……君は…知りたいと願うんだね?」
「あぁ。僕はもう迷わない。」
「……シャルティエも、それで良いんだね?」
『はい!元々僕は未来を知りたいと思ってた方の部類ですから。それに…坊ちゃんと話し合ったんです。だから僕の方も、坊ちゃんの答えに異論はありません!』
希望を宿したコアクリスタルの光に私が目を細める。
そして私は一度目を閉じて、彼を見上げた。
「では話そう。……これからの未来について。」
『……ごくり。』
「……。」
「いきなりだけど……君達には残酷な一言を贈ろう。────私達はもうすぐ死ぬ。今世に幕を閉じることとなる。」
『っ!?』
「……。」
シャルティエは動揺しているけれど、彼の方は……意外と気持ちが固まってたのかもしれないね?
「カイルは決意をした。この世界の在り方と……リアラをどうするのかを、ね?」
『も、もしかして……さっきの青白い光って…!』
「あぁ、そうだよ、シャルティエ。だから私は、君に我儘を頼み込んだ。…この時刻、彼がどうするのか“知っていたから”ね。勿論、カイルとリアラがどんな話をしたか……そして、どんな事があったのかも知っている。〈星詠み人〉としてね。」
『で、でも…それで坊ちゃん達が死ぬって言うのは…?』
「……ふふ。怖くなったのかい?シャルティエ。」
『当たり前じゃないですか!!!僕の…僕の大事なマスターが二人も死ぬって言うんですよ!?』
「……うーん、話をやめてもいいけど?」
『いえ!もうこの際ですから、存・分・に!聴かせてください!!』
シャルティエの最後の言葉が怒り気味だったのを聞いて、少しだけ笑ってしまった。
そして彼を見ても、その先を促しているかのような顔をしていたので、私は少しずつ話した。
エルレインの事、そしてフォルトゥナという神のこと、カイルやリアラのことも…全て。
「エルレインによって生かされたこの生も…これでおしまい。フィナーレだ…。つまり、これが私達の最後のデートという訳だ。そう聞けば、意識も変わってくるだろう?」
『「……。」』
「私達は違う神の〈御使い〉となった…。そして、私は新たな使命も出来た。生き返ったとしても…私がこの世界に生き返るかどうかは定かじゃない話となってきた。だからこそ、今、悔いを残したくないんだ。」
私は彼の瞳を見つめる。
思わず握っていたネックレスに力が入る。
「……さっき言った事が無かったことになる訳じゃない。でも今だけは…、ううん、違うな…? 私と居れる最後の機会だと思って……、どうか……私と最後のデートをしてくれないか…?レディ…。」
「……っ。」
顔を俯かせて口を噛み締めた彼。
すると彼は、私を強く抱き締めてきた。
……それも、震える体で。
「(あぁ…怖がらせてしまったかな…。でも、君のその決断を私は後悔していないよ。……逆に、この選択を選んでくれて…本当に有難う……。)」
心の底から願う。
来世でも、彼と同じこの世界で……そして、彼と共に在れる未来でありたい。
…それは、過ぎた願いなのだろうか?
「……怖がらせて…本当にごめん…。」
「違うっ…!死ぬ事が怖いんじゃない…!! お前と…来世でも一緒に居られないかもしれないと思うと……足が竦むっ…!この生を…もっと生きていたいと願ってしまう…!」
「……レディ。」
「だが、それでも…!僕は…!お前と来世も共に居られると、信じているっ…!お前は、違うのか…?」
「……ううん。私も、君との未来を信じてるよ…。以前言ってくれた、君との約束……ちゃんと、覚えてるから。」
来世でも一緒にいてくれると誓ってくれた、彼の想い。
私にはそれが、大事で…大事すぎて……堪らないんだ。
「…… If it can be imagined, it can be created. 」
「…!」
「……私の言い方が悪かった。ごめん。……私達はきっと来世でも一緒になれる。君も前にそう言ってくれた。なら、私もそれを信じなきゃ。…だからレディ?〝今世では最後となるデートをしよう?〟来世でも…きっとまた会えて、デート出来ると信じてるから。」
「あぁ…!」
「弱気になっちゃ駄目だね?」
「…お互い様だ。」
お互いに少し弱気になってしまったけれど。
でも、来世でまた会えると……カイルたちを見たら思いたいじゃないか。
「さぁ!思いっきり今世を楽しもう!今のうちに、ね!」