第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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122.
___クレスタにある孤児院
私達がソーディアン研究所からイクシフォスラーで飛び立ち、そして到着したのはカイル達がいるはずのクレスタ孤児院だった。
二人でイクシフォスラーから飛び降りれば、仲間たちが待ってましたとばかりに、泣きそうな顔で集まってくる。
そんな皆が抱き着いてくる中、私は笑顔で皆を抱き締め返す。
大切な、大切な彼らへ、自分の気持ちをたくさん込めて。
「……ただいま、皆。」
「「「「おかえり…!スノウ!」」」」
皆の涙を見ながらスノウがよしよし、と一人ひとりの背中を優しく叩く。
それが余計に泣かせる事になってしまっているが、それでも私は止めなかった。
何と言っても、もう……時間が無い。
皆との時間があと僅かだと分かってしまっているからこそ、今の時間を大切にしたかった。
でも、悲しいだけじゃない。また会えると信じているからこそ、私は涙を流さなかった。
「いやぁ、やっぱり皆と違う時間軸に移動しちゃうから困ったね。」
「体は大丈夫?」
「うん?大丈夫だよ。ピンピンしてる。」
私は安心させるために胸を叩いて……若干むせた。
少し強く叩きすぎた…。
「……ねぇ、スノウ。それとジューダスもさ。」
カイルが暗い顔で私達を見る。
レディは分かっている様子で暗い顔の彼を見返していて、私は首を傾げて彼の顔を見つめた。
その暗い顔の理由を、私は知らなかったからだ。
「オレ、どうしたらいいか…分からなくて。」
「(あぁ、そうか…。もうこのストーリーに入ってるから、彼はこんなにも暗くて、迷ってるんだ。)」
「…以前にも言ったが、僕はアドバイス程度にしかお前に言葉を贈ってやれない。それは、お前が最終的に決めることだからだ。それを踏まえてアドバイスが欲しいというのなら、言わせてもらおう。」
「うん…!それでもいい。少しでも…ヒントが欲しいから…!!」
そう言うと、カイルは私を見て瞳を揺らした。
その瞳を見て、流石に私も察した。
きっとこれは、私にも意見を求めているのだろう、と。
「スノウもさ、オレに…何かアドバイスくれないかな…?迷ってるんだ。オレ……どうしたらいいかって。」
「ふむ。私もアドバイス程度なら伝えてあげられるだろうけど、最終的には君が答えを導かなくてはならない。それでも、私のアドバイスを聞くかい?」
「うん!お願いします!」
祈るように手を合わせたカイルを見て、近くにいたレディと顔を合わせる。
そして私達はどちらともなく笑顔になっていた。
別に誰かを笑ったのではなく、これから彼へ贈る言葉を二人で思いついたからだ。
「カイル。」
「…うん!」
「「────決して諦めないで。/決して諦めるな。」」
「え?」
やっぱり、今の彼にはこの言葉が合うと思う。
そう思ってたら、やはりレディも同じ事を思ってたみたいだ。
似た者同士、って奴なのかな?
「私は…前世で最期まで彼を救うという目的があった。そして未来を知ってた私はその未来通りの道を選んだ。……結果、彼を死なせてしまった訳だ。それは君も知っての通り。」
「で、でも…未来を変えることは……」
「そうだね。今回の一件で君もよく分かってるだろうけど、未来を変えるってこと……その時の私は考えもしなかった。でも、後悔はしていないんだ。またこうして君達と会えて…そして、偶然ではあるけれど彼ともこうして会えている。それが今の私に繋がってる……。」
「…僕は前世ではこいつの死を受けとめきれず、全てを諦めてしまった。結果はお前も知ってのとおりだが…。だがそのお陰でこいつを“助けたい”、“守りたい”と強く願うようになった。そして今世ではそれを心に刻んでいる。無論、それらを“諦める”ことは絶対にない。だからこうしてこいつの隣にいれる。」
「……あきらめる、な…?」
「そう。何に対しても諦めないで、カイル。」
「考える事をやめるな、カイル。どんな未来が待ち受けていようが、お互いに話し合って、話し合い尽くして…それで答えを出せばいい。その先にお前らの望む未来があると、僕は信じている。」
「“相手を信じる気持ち”……。」
「結局、大それた事は言えないけど。でも私から言えることはそれだけだよ、カイル。決して、何事も諦めないで欲しい。君は、君の大事な人とどう在りたいのか……それをしっかりと考えてごらん?」
「……。」
「ねぇ、カイル。」
そんな中、リアラが優しくカイルへと笑いかけて手を掴む。
そしてそのまま二人は外へと出て行ってしまった。
「大丈夫かねぇ…?カイルのやつ。」
「大丈夫さ。カイルならな!」
肩を組んでロニがナナリーを見つめる。
不安そうな顔をしていたナナリーも、ロニのそのような調子を見て、幾分か顔を和らげた。
「じゃ、私はイクシフォスラーの改造しなくちゃいけないから☆」
ハロルドはそう言ってイクシフォスラーに乗り込むと、何か工具を持って弄りだす。
同時に海琉のお腹が「ぐぅぅぅぅ…」と鳴れば、隣りに居た修羅が頭を抱える。
チラリとスノウを見た修羅だったが、海琉が修羅の腕を掴み何処かへと連れ去っていった。
続々と仲間たちが違う場所に行く中、スノウもまた歩き出す。
しかし、それはジューダスの声で止まることとなる。
「…何処に行く?」
「ん?……あー…どうしよっかなぁ…?」
頭を掻いた私は、思わず視線を逸らす。
これで最期だなんて、あまりにも残酷な言葉すぎて彼に言えるはずもない。
だがそれを言わなければ、彼と最期を過ごすというのも出来ない気がした。
というよりも、行きたいところがあったから普通に一人でその場所まで行こうとしていたのだが、まさかその彼に呼び止められるとは。
「…スノウ。」
「ん?」
「この時間───いや…今日という一日……、お前自身を借りたい。お前と、一緒にいたい。お前と…沢山話しておきたい。」
「(…もしかして、彼なりに何か勘付いてるのかもね…?)……うん、分かった。こんな私で良ければ、一日借りちゃってよ? 沢山、お話もして……沢山、色んな事をしよう。」
そう言って私は彼へと手を伸ばした。
その手を取った彼は、私の手を引き、何処かへと歩いて行く。
その手の温かさを感じながら、私はそっと目を閉じた。
‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥
___現代・クレスタ
カイル達が居なくなった後、私達はクレスタの町中を歩いていた。
田舎らしい、のどかな風景を見ながら私達が歩いていると、子供がキャッキャ言いながら私達の横を通り過ぎていく。
あぁ、平和だな。……そう思わせられる様な光景だった。
「ハロルドの奴と何をしていたんだ?」
私の方を見て、そう話した彼を見ながら私は苦笑をした。
ハロルドの事だから言ってないとは思っていたけども…。
「あぁ、聞いてなかったんだ? 彼女とは、とある物を探す旅をしていてだね…。」
『とある物?』
「未来の私の為のものなんだってさ? まぁ、見たら君たちも流石に驚くと思う。」
『え、何でしょうか…?』
「気になるじゃないか。」
「ふふ。今はまだ秘密だよ?」
そんな他愛もない話をしながら歩いていると、ジューダスが不意に立ち止まる。
それを私が疑問を持ちながら振り返ると、彼は私をじっと見ていた。
その瞳は、少しだけ不満げで───隠し事をされてるのが気に食わない、とばかりの顔だった。
だから少しだけ笑ってしまった。
「クスッ…。」
「お前は兎角秘密主義で敵わん。…少しはこっちにも情報をくれても良かろうに…。」
『本当ですよ!いざって時に困るの、僕達なんですからね?!』
「ふふ。ごめんごめん。でも、今回のは楽しみにしてて?きっと君たちは驚くよ。……私でも、結構驚いているんだからね。」
そう言って私が口元に弧を描きながら歩き出す。
その後ろを歩いてくると思ったら、ちゃんと隣に立って歩いてくれる。
……あぁ、それだけでも心が温かくなるんだ。
そのまま他愛無い話をしていれば、クレスタの端っこまで辿り着く。
やっぱり田舎らしいのどかな場所だから、店の中に入るって事無かったね?
でも、もう少し話してたい私は記憶を呼び起こし、一瞬にして良いところを思い付いた。
そこは彼がきっと喜んでくれる場所───
「ねぇ、レディ?少し行きたい場所が出来たんだ。一緒に来てくれるかい?」
「あぁ。」
『え?何処ですか?』
「レディがとっても喜んでくれる場所だよ。」
『「???」』
そっとレディの手を取れば、彼もまた、私の手を握り返してくれる。
その手の温もりに、私が少しだけ目を細めれば、彼はもっと手を強く握った。
……彼には何でもお見通しだな、なんて少しだけ思った。
「……ここだよ。」
歩いて目的の場所につけば、二人は疑問を顔に出す。
彼らにとっては、何の変哲もない店構えだろうから分からないのも無理はない。
ここは、彼が大好きなプリンを扱っているお店。
だからここへ来たかった。
「こんにちは。」
扉につけられていた鈴の音を聞きながらくぐり抜けると、そこからは甘いお菓子の匂い。
それだけでここが何処か分かった彼は、納得した顔を見せていた。
そして中へ入った私達は、適当に注文を店主へと告げて中のイートインの場所へ。
シャルティエも何故私がここに来たかったか、ようやく分かったようで納得した光を灯していた。
『ここにもお菓子屋ってあるんですねぇ!都会でしか見た事ない光景だったので、始めは全然分かりませんでしたよ!』
「思い出したら食べたくなってね?それに、レディの喜ぶ顔も見たかったし。」
「問題は味の方だな。」
「きっと美味しいよ。のどかな場所のお菓子屋さんは、材料もこだわってることが多いから。」
そう話していれば、数分後に店主がプリンを持ってくる。
しかしそこには頼んだ覚えの無い物もあった。
私が首を傾げて疑問を浮かべると、店主は私達の前にその見たこともない色のプリンを置いてニコリと笑った。
そのプリンはきれいな桃色をしていた。
「こちらは試作段階の桜ミルクプリンです。是非、お客様に食べて感想を頂きたくてお持ちしました。」
「桜…? ここにも桜があるんですか?」
「いえ、ノイシュタットから取り寄せた特別な品です。ここらへんは質の良いミルクが取れるものので、ミルクプリンがこの店では有名なんですが、そこへ人気のある桜を取り入れてみようかと思いまして。ちょっとした挑戦でもあるんですよ。」
スプーンの添えられた桃色のプリンを見て、私達は思わず顔を見合わせていた。
あぁ、なんだ。きっと彼も一緒なことを考えてる。
「……ふふ。」
「ふん。早く食べて行くぞ。」
私達はその桃色のプリンを味わって、しかと堪能した後に店主へと簡単に感想を伝えた。
満足そうな店主と、逸る気持ちを持て余した私達。
二人でお菓子屋さんを飛び出せば、お互いに向かう場所は同じ方向だった。
何だかそれがおかしいのと、早く行きたい気持ちが勝った私は彼の手を引いて立ち止まらせる。
船酔いがある彼に海超えは可哀想だし、私も早く行って〝あれ〟を見たくなった。
「レディ、ちょっと待って?」
そう言って不思議な顔をした彼の体を抱きしめる。
そして私はすぐに詠唱を開始した。
次の瞬間見えた光景に彼が息を呑んだのと、私が彼から体を離したのは同時だった。
驚嘆の声と顔をした彼を見てから私も周りを見渡しては、感嘆の声を上げた。
だってそこには、満開の桜が咲いていたんだから。
「……おかしいね?だって、ついこの間ここでデートしたと思ってたのに。もう桜の咲く時期だなんて、誰が思う?」
「……いや、これは偶然だろう。」
「どういうこと?」
「確か、今年のフィッツガルドの気象は著しい変化が常に起こっていたはずだ。その変化に耐えきれず、暖かくなった今に桜が誤認して咲いた、と聞いた事がある。恐らくそのせいで今の変な時期に桜の開花が見られたんだろう。そこを偶然、僕達がここへ訪れてこの超常現象を見た、と言うことだ。」
流石物知りな彼だなぁ…?
解答まで完璧だなんて、びっくりだよ。
私が驚きながら彼を見ると、彼はふんと鼻を鳴らしては優しく笑って私を見下ろした。
そして彼は、私の目の前にそっと手を差し伸べた。
「……あの時出来なかった、満開の桜の下でのデートを改めてやり直す、というのはどうだ?」
「……ははっ!勿論、私の答えは一つだよ、レディ。」
私はその手に自分の手を重ねて、彼を見上げながら笑った。
私を見た彼もまた、口元に笑顔を湛えて、目を細めては私を見返して手を握ってくれた。
私達はどちらともなく歩きだして、桜咲く街中を堪能するように花見をしながら他愛ない話をする。
たまに桜の花が彼の頭に落ちているのを見てそっと取ってあげる特別感は、私に幸せと温かさをくれた。
逆を言えば、彼もまた私の髪についた桜の花びらを取ってくれ、その表情はいつもよりも優しい面影がある気がした。
それを見られただけでもラッキーだと言うのに、本当、幸せっていうのは人間には必要なんだな、って何の脈略もなくそう思う。
幸せがあるから人生、生きていたいと思えるってこと………本当、つくづくそう思うよ。
「 If it can be imagined, it can be created. …か。エニグマの言葉が身に沁みるなぁ…?」
「そういえば、そんな事も言っていたな。〝幸せになりたいのなら幸せになれ〟とも言っていた気がするが?」
『スノウ、今幸せですか?』
「そんなの言葉にしなくても伝わっていたと思っていたけどね。」
『スノウの口から聞きたいじゃないですか。そういうのは!』
「ははっ。勿論幸せだよ?シャルティエ。まぁ、君がこの時点でいることが私には驚きだけどね?」
『それって~、僕が邪魔だってことですかぁ~?!』
「そうじゃないって。君たちが一緒に在れること、それ自体も奇跡なんだとしたら…この世界って奇跡で出来てるんだなって思うんだ。」
「なんだ?お前、詩人にでも転職するつもりか?」
「酷いなぁ?思ったことを口にしただけなのにね?…それに、私が詩人にならなくとも、この世には素晴らしい放浪の吟遊詩人がいるじゃないか。」
あぁ、今世では見かけなかった彼は今ごろ何をしているんだろうな。
前世で裏切った時には見かけなかったし、私自身が関わってない人物の一人だが…。
「お前、あいつに会ったことあったか?」
「ううん、ないよ。でも彼の人柄は、前前世でよく知っているよ。アクアヴェイルのある意味、英雄さまさまだね。」
『僕はそこの宝刀だったんですよ!』
「ふふ。それも知ってるよ。」
「お前の知らないことっていうのは、この世界に存在するのか?」
「あるよ!それこそ、精霊の皆はいると思ってなかったからびっくりしたし、〈赤眼の蜘蛛〉なんて当然知らなかったよ!」
そういえば、彼らのせいで全て私の計画は崩れたんだったな…?
全く…彼らの出現が、一番私の中で厄介で面倒極まりないことだったよ。
「もし…彼らが居なかったら、私達こうして仲間として旅するなんて無かったんだろうな…?」
『それについては良かったと思ってますよ!…奴らに感謝するというのが、非常に癪ではありますが…。』
「ふん、同じくだな。」
「きっと私は…君たちとは敵になってたんだと思うし、勿論、君が前世で死んでなかったら、私が君の代わりに彼らと旅するつもりだったんだけど…。それももう昔の思い出だなぁ?」
「あまり物騒なことを言うと、その口を縫ってやるが?」
「ごめんごめん、過去の話だから許してよ。」
そんな話の途中、風の勢いが強まって私達は腕で顔を覆う。
一瞬にして吹き荒れた風は、今では全くと言っていいほど感じない。
まるでその話はこれで終わりだ、とでも言うような突風に私はそっと左腕のブレスレットに触れた。
…まさか、グリムシルフィがやったんじゃないよね?
『酷いなぁ?ボクじゃないよ?』
「はは、ごめん。少し疑ったよ。」
さっきの強い風のせいで余計に桜の花びらが散っていく。
それを見ながら私は思い出に耽っていく。
あぁでも、デート中に考え事は良くないよね。
「ねえ、レディ。困ったこととかない?」
「何だ、急に。何かの前触れか?」
「いやぁ?ただ単純にさ、何か困ったことないかなって思ってさ。最近君もエニグマの御使いとして色々出回ってる身だし、来世でも駆け回るんだろうから今のうちに労おうと思ってね。」
「…。」
『不穏すぎません?本当に来世でそうなったらどう責任取ってくれるんですか!』
「ええ?責任問題に発展するほど…?」
頭を掻いた私を見て、ジューダスまでもが溜息を付く始末。
でも私の瞳をじっと見つめて、先程の私の質問に答えてくれようとしてくれる姿勢はあるらしく、彼はそのまま口元に手を当てて暫く思案していた。
…一体、なんだろう。レディの困ったことって。
「…誰かの夢に入り込むと、時間の感覚が狂っていく。御使いとして困ったことといえばそれくらいだな。後は奴がこっちの状況を鑑みずに呼び出してくることだな。」
『本当、それに限りますよね~…。あの神様、横暴すぎるんですよ!』
「…なるほど?」
流石に他の神のお役目の事に口を出すのも悪い気がして、気が引ける。
でも、一つだけいい案が思いついたんだ。
〝時間の感覚が狂う〟といった彼に相応しい物がある。
「ちょっとそこで待ってて!!」
「は?おい!」
私はすぐに魔法で飛んでいく。
場所は…勿論、私に馴染み深いあの場所かな?
「うわ、懐かしいこの寒さ!」
ファンダリア地方のハイデルベルグまで来た私は一目散に防具屋兼、装飾屋へと駆け込む。そこは以前、ジューダスの為に買ったアレキサンドライトの指輪を買いに行った場所で、前世でもよく多用していた防具屋でもある。
そこにあったはずの〝金色の懐中時計〟を探して、店内を忙しなく見ていれば、それに気付いた店主が目を丸くさせる。
「モネ様、なんか城を脱走した罪で指名手配になってましたが…?」
「げ…。あの時のか…!すまないけど、私がここに来たこと、黙っててくれないかな?この通ーりだからさ!」
顔の前で手を合わせた私を見て、店主が笑う。
先日、ドクターストップのかかった私とハロルドで、この街を脱走したことが早くもこんな形となるとは…。
…まぁ、その出来事もそんなに前ではないけれど。
「何したんですか。城を脱走って…。脱獄犯ですよ?」
「ドクターストップがかかってたんだ。だけど、ちょいと外せない事情というものがあってだね…?向かってくる兵士たちを避けながら脱走を図ったんだが…。まさか指名手配されるとは…。」
「あぁそれで…。なら、余計に近くの兵士に伝えなきゃですね。」
「お願い!それだけはぁ…!!」
「ふっ、あっははは!冗談ですよ、冗談。昔からのよしみで黙っておきます。」
「さっすが店主!よく分かってる!」
「もう、調子良いんですから…。んで?何をお買い求めで?」
「〝金色の懐中時計〟が前にあったよね?」
「あぁ、それなら…。」
店主が店奥に消えると手に金色のチェーンのついた何かを持って店に出てくる。
それを見せてくれた店主。
そしてそれは、私の探し求めていたものだった。
「これだ!」
「全然売れないから処分しようと思ってたんです。モネ様に差し上げますよ。」
「いやいや、お金くらい払わせてくれ。いつも使わせてもらってるし、今回は口止め料も入れないとね!」
「ふふ、なら色を付けさせてもらおうかな?」
店主がレジの前に立つと紙面に何かを書く。
それを覗いてみれば、そこには領収書と書かれた紙面で、底に書かれた金額は意外にも良心的な値段だった。
相変わらずお人好しな店主なことだ。
「ちなみにそれに名前を入れられますが…どうします?」
「簡単に出来るならお願いできるかな?」
「はい。ちなみに…なんて刻印しましょうか。」
「〝私の大事な親友へ〟と〝現実で待ってる〟の二つ。お願いできるかな?」
「はい、それならお安い御用ですよ。」
刻印する場所を店主と相談し、蓋の内側へ〝現実で待ってる〟を。
そして懐中時計の裏側に〝私の大事な親友へ〟を刻印してもらうこととなった。
…出来上がりがとても楽しみだったのだが……。
「…やべ。」
「??」
「ちょ、ちょっと奥に隠れさせてもらうよ!」
巡回の兵士がここに近付いている。
何か目的があるのか、それとも私を目撃した街人からの情報でこっちにやってきたか…。
どっちにしろ隠れるに越したことはない。
息を潜めて奥に隠れれば、そこへ丁度兵士がやってきて店主と一言二言交わし、そして呆気なく去っていった。
…ただの巡回だったか。
「モネ様?もういませんよ?」
「いや…出来上がるまでここにいるよ…。」
「ははっ。さっきの兵士の方々もまだ探してましたよ?モネ様のこと。」
「…げ、まじか…。」
もうファンダリアに近寄れやしない…。
私はそんな未来に思いを馳せて、ふぅと息を吐き出す。
そうして数十分が経ち、その数十分で仕上げてくれた店主に感謝を伝えれば、店主はラッピングまでちゃんと施してくれていた。
…手際が良いと言ったらないね。
「これを渡す際に、リオン様にもよろしくお伝え下さい。」
「…私、そんなことまで言ったっけ?」
「そんなの、モネ様の顔を見ればすぐに分かりますよ。前世からの癖ですよ、最早。」
「どんな顔?」
「"早く会いたい"って顔してますからね?」
「……わお。」
それは気付かなかった…。
私が困った顔を見せれば、店主は可笑しそうに笑い、そして工場からレジへと戻っていった。
私はそんな店主にお金を多めに渡し、声をかけられる前に魔法でまたノイシュタットへと戻る。
…少し時間が経ってしまったけど、彼は何処にいるだろうか?
『あぁ!?いた!!』
シャルティエの声が聞こえてきて、私が振り向けばジューダスも訝しげな顔をして私の近くへと駆け寄ってきてくれた。
そんな彼へ、ラッピングされた小箱を彼の手に乗せる。
…でも、今は開けてほしくないな?
「…ねぇレディ。お願いがあるんだ。」
「…?」
「このプレゼント…、来世で目を覚ました時に開けてほしい。今じゃなくて、必ず来世で。」
「はぁ?」
『え、何でしょう…?中身はなんですか?』
「それを言ったら意味がないだろう?」
笑いながらそう話した私に、ジューダスが小箱と私を交互に見る。
そしてその小箱を大切そうにポケットへと仕舞ってくれた。
「はぁ…。お前からなんだかんだ贈り物ばかり貰っているな。」
「私が贈りたくて贈ってるものだから気にしないでくれ。」
そっと彼の右手の小指につけたアレキサンドライトの指輪に触れる。
この世界では防御の御守りとして在るその宝石の指輪を、以前贈ったことがあった。
今は太陽の下にあるのでエメラルドのような緑色をしているが、これがろうそくやランプの光に当たればルビーのような赤色へと変わっていく。
その変色効果が綺麗な指輪は、果たして今世でどれほどその力を遺憾なく発揮してくれただろうか。
「…この指輪は大事に毎日磨いている。」
「え?」
「そして、この右耳につけた、お前の髪と同じ色の蒼いピアスだって毎日外して磨いている。」
『僕が証人ですよ!坊ちゃん、大事に毎日磨いてるんです!忘れることなく、毎日必ずですよ!?』
「このネックレスだって…磨いているし、肌身離さず付けている。」
本当に大事そうにそれらに触れた彼は、今度は私の瞳をじっと見つめる。
それらと同じくらい……ううん、それ以上に大事そうな表情で私のことを見ていたんだ。
必然的に少しだけ顔が赤くなる。
まるで熱烈な愛の告白をされたかのように。
「これらを磨いて、お前を思い出して…。お前のことを忘れたことなど無かった。」
「…レディ……。」
「そして新たに来たこれもまた、僕の宝物の一つになるんだろう。…お前から贈られた、大切な品だからな。」
その言葉たちに、私の胸がキュッと締め付けられて、同時にドクリと心臓が跳ね上がった気がした。
そして彼の瞳が徐々に熱を帯びていくのを見てしまった。
まるでその瞳は、"何か"の熱に浮かされるかのように熱を帯びていった。
「それもこれも全部……お前がしてくれたことだからだ。これが別の奴だったらとっくに捨てているし、端から受け取ることもしなかっただろう。」
『(坊ちゃん…!今日こそ…!!)』
「それくらい…僕は…」
「……。」
何故だろう。
この先を聞きたいと思う自分がいる。
でも、それを聞いたら何故か、元に戻れない気がして怖くもあった。
戸惑う気持ちが強い私に、彼はそっと私の手を握って、そして温めてくれた。
彼の体温が心地よくて私がそっと握り返せば、彼もまた強く握ってくれた。
「僕は…お前のことが…!」
「おい!!そこのお前ら!!!!」
『(うわぁぁぁぁぁああああ!!!!!)』
シャルティエのコアクリスタル部分からの激しい点滅など、誰も気付かなかっただろう。
それくらい良いところを邪魔されたのだ。
ジューダスはスノウの手を握ったまま俯いて、静かに怒りで体を震わせていた。
「(何故…、何故いつも邪魔が入る…!!!?)」
「…レディ、逃げたほうが良いかも…。」
「あぁ?」
思わずキレ気味で返事をしたジューダスだったが、その言葉の意味をすぐに理解する。
先ほどこちらに声をかけてきた人物…。それこそ、逃げなければいけないと思わせる理由そのものだったからだ。
ジューダスはすぐにスノウの手を引き、逃げようとする。
しかしその前に立ちはだかったのは、紛れもなくあの"男"だった。
「おいおい。オレ様を見て逃げ出すタァ、いい度胸してんじゃねえか!!!この野郎ども!!」
「うわぁ…。久しぶりに会ったけど…変わらないなぁ…?…一回しか会ってないけど。」
「モネ、てめえ!あの海底洞窟では世話になったなぁ?!ああん?!」
「リオン君~、久しぶり~~~だね~♪」
ついでに言えば、先程話題に上がっていた人物までいるのだからジューダスは頭を抱えた。
彼らにもしかしたら告白を見られていたかも知れないと思うと、……余計に頭を抱えた。
「……悪いな?告白の邪魔したみたいで。」
「…貴様、分かってるなら何故あいつを止めなかった…?!」
ジューダスに耳打ちした"ジョニー"は困った顔を見せながら手に持っていたリュートをポロンと鳴らす。
それをジューダスが睨み返した横では、"コングマン"がスノウに突っかかっている様子が見られた。
前世での事を酷く恨んでいる様子のコングマンは拳同士を打ち付けながらスノウを威嚇する。
そんなコングマンに、スノウは口元に手を当てながら苦笑する。
「随分と恨んでいるようだね?私のことを。」
「あったりめえだろ?!!お前さえ居なければなぁ!?あのいけ好かねえリオンのやつがあんな事にはならな───」
流石に看過できなかったジューダスが、その言葉たちを止めるようにシャルティエをコングマンに振るい翳す。
コングマンの顔の前でシャルティエを止めたジューダスは、コングマンに怒りの目を向けて牽制するように言葉を放った。
「貴様、ほとほと呆れるな?あれは僕が勝手にやったことだ!こいつの所為にしないでもらおうか!!」
『そうだそうだ!!煩い外野は黙ってろー!!!』
「はぁっ?!オレ様はお前のために…」
「レディ?良いんだ。私なら大丈夫だから。」
「…何が大丈夫なものか…!お前が大丈夫でも、僕の気が収まらない!!!」
幾ら身長が伸びたとはいえ、コングマンの高さは優に2m近くあり、身長が伸びたジューダスでも流石に見上げなければならないほどの高さだ。
そんな彼を仇敵を見るかの様な鋭い視線を浴びせたジューダスは、シャルティエを再び向け、高らかに宣言した。
「闘技場の主なら主らしく、決闘で僕と勝負しろ!!」
___クレスタにある孤児院
私達がソーディアン研究所からイクシフォスラーで飛び立ち、そして到着したのはカイル達がいるはずのクレスタ孤児院だった。
二人でイクシフォスラーから飛び降りれば、仲間たちが待ってましたとばかりに、泣きそうな顔で集まってくる。
そんな皆が抱き着いてくる中、私は笑顔で皆を抱き締め返す。
大切な、大切な彼らへ、自分の気持ちをたくさん込めて。
「……ただいま、皆。」
「「「「おかえり…!スノウ!」」」」
皆の涙を見ながらスノウがよしよし、と一人ひとりの背中を優しく叩く。
それが余計に泣かせる事になってしまっているが、それでも私は止めなかった。
何と言っても、もう……時間が無い。
皆との時間があと僅かだと分かってしまっているからこそ、今の時間を大切にしたかった。
でも、悲しいだけじゃない。また会えると信じているからこそ、私は涙を流さなかった。
「いやぁ、やっぱり皆と違う時間軸に移動しちゃうから困ったね。」
「体は大丈夫?」
「うん?大丈夫だよ。ピンピンしてる。」
私は安心させるために胸を叩いて……若干むせた。
少し強く叩きすぎた…。
「……ねぇ、スノウ。それとジューダスもさ。」
カイルが暗い顔で私達を見る。
レディは分かっている様子で暗い顔の彼を見返していて、私は首を傾げて彼の顔を見つめた。
その暗い顔の理由を、私は知らなかったからだ。
「オレ、どうしたらいいか…分からなくて。」
「(あぁ、そうか…。もうこのストーリーに入ってるから、彼はこんなにも暗くて、迷ってるんだ。)」
「…以前にも言ったが、僕はアドバイス程度にしかお前に言葉を贈ってやれない。それは、お前が最終的に決めることだからだ。それを踏まえてアドバイスが欲しいというのなら、言わせてもらおう。」
「うん…!それでもいい。少しでも…ヒントが欲しいから…!!」
そう言うと、カイルは私を見て瞳を揺らした。
その瞳を見て、流石に私も察した。
きっとこれは、私にも意見を求めているのだろう、と。
「スノウもさ、オレに…何かアドバイスくれないかな…?迷ってるんだ。オレ……どうしたらいいかって。」
「ふむ。私もアドバイス程度なら伝えてあげられるだろうけど、最終的には君が答えを導かなくてはならない。それでも、私のアドバイスを聞くかい?」
「うん!お願いします!」
祈るように手を合わせたカイルを見て、近くにいたレディと顔を合わせる。
そして私達はどちらともなく笑顔になっていた。
別に誰かを笑ったのではなく、これから彼へ贈る言葉を二人で思いついたからだ。
「カイル。」
「…うん!」
「「────決して諦めないで。/決して諦めるな。」」
「え?」
やっぱり、今の彼にはこの言葉が合うと思う。
そう思ってたら、やはりレディも同じ事を思ってたみたいだ。
似た者同士、って奴なのかな?
「私は…前世で最期まで彼を救うという目的があった。そして未来を知ってた私はその未来通りの道を選んだ。……結果、彼を死なせてしまった訳だ。それは君も知っての通り。」
「で、でも…未来を変えることは……」
「そうだね。今回の一件で君もよく分かってるだろうけど、未来を変えるってこと……その時の私は考えもしなかった。でも、後悔はしていないんだ。またこうして君達と会えて…そして、偶然ではあるけれど彼ともこうして会えている。それが今の私に繋がってる……。」
「…僕は前世ではこいつの死を受けとめきれず、全てを諦めてしまった。結果はお前も知ってのとおりだが…。だがそのお陰でこいつを“助けたい”、“守りたい”と強く願うようになった。そして今世ではそれを心に刻んでいる。無論、それらを“諦める”ことは絶対にない。だからこうしてこいつの隣にいれる。」
「……あきらめる、な…?」
「そう。何に対しても諦めないで、カイル。」
「考える事をやめるな、カイル。どんな未来が待ち受けていようが、お互いに話し合って、話し合い尽くして…それで答えを出せばいい。その先にお前らの望む未来があると、僕は信じている。」
「“相手を信じる気持ち”……。」
「結局、大それた事は言えないけど。でも私から言えることはそれだけだよ、カイル。決して、何事も諦めないで欲しい。君は、君の大事な人とどう在りたいのか……それをしっかりと考えてごらん?」
「……。」
「ねぇ、カイル。」
そんな中、リアラが優しくカイルへと笑いかけて手を掴む。
そしてそのまま二人は外へと出て行ってしまった。
「大丈夫かねぇ…?カイルのやつ。」
「大丈夫さ。カイルならな!」
肩を組んでロニがナナリーを見つめる。
不安そうな顔をしていたナナリーも、ロニのそのような調子を見て、幾分か顔を和らげた。
「じゃ、私はイクシフォスラーの改造しなくちゃいけないから☆」
ハロルドはそう言ってイクシフォスラーに乗り込むと、何か工具を持って弄りだす。
同時に海琉のお腹が「ぐぅぅぅぅ…」と鳴れば、隣りに居た修羅が頭を抱える。
チラリとスノウを見た修羅だったが、海琉が修羅の腕を掴み何処かへと連れ去っていった。
続々と仲間たちが違う場所に行く中、スノウもまた歩き出す。
しかし、それはジューダスの声で止まることとなる。
「…何処に行く?」
「ん?……あー…どうしよっかなぁ…?」
頭を掻いた私は、思わず視線を逸らす。
これで最期だなんて、あまりにも残酷な言葉すぎて彼に言えるはずもない。
だがそれを言わなければ、彼と最期を過ごすというのも出来ない気がした。
というよりも、行きたいところがあったから普通に一人でその場所まで行こうとしていたのだが、まさかその彼に呼び止められるとは。
「…スノウ。」
「ん?」
「この時間───いや…今日という一日……、お前自身を借りたい。お前と、一緒にいたい。お前と…沢山話しておきたい。」
「(…もしかして、彼なりに何か勘付いてるのかもね…?)……うん、分かった。こんな私で良ければ、一日借りちゃってよ? 沢山、お話もして……沢山、色んな事をしよう。」
そう言って私は彼へと手を伸ばした。
その手を取った彼は、私の手を引き、何処かへと歩いて行く。
その手の温かさを感じながら、私はそっと目を閉じた。
‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥
___現代・クレスタ
カイル達が居なくなった後、私達はクレスタの町中を歩いていた。
田舎らしい、のどかな風景を見ながら私達が歩いていると、子供がキャッキャ言いながら私達の横を通り過ぎていく。
あぁ、平和だな。……そう思わせられる様な光景だった。
「ハロルドの奴と何をしていたんだ?」
私の方を見て、そう話した彼を見ながら私は苦笑をした。
ハロルドの事だから言ってないとは思っていたけども…。
「あぁ、聞いてなかったんだ? 彼女とは、とある物を探す旅をしていてだね…。」
『とある物?』
「未来の私の為のものなんだってさ? まぁ、見たら君たちも流石に驚くと思う。」
『え、何でしょうか…?』
「気になるじゃないか。」
「ふふ。今はまだ秘密だよ?」
そんな他愛もない話をしながら歩いていると、ジューダスが不意に立ち止まる。
それを私が疑問を持ちながら振り返ると、彼は私をじっと見ていた。
その瞳は、少しだけ不満げで───隠し事をされてるのが気に食わない、とばかりの顔だった。
だから少しだけ笑ってしまった。
「クスッ…。」
「お前は兎角秘密主義で敵わん。…少しはこっちにも情報をくれても良かろうに…。」
『本当ですよ!いざって時に困るの、僕達なんですからね?!』
「ふふ。ごめんごめん。でも、今回のは楽しみにしてて?きっと君たちは驚くよ。……私でも、結構驚いているんだからね。」
そう言って私が口元に弧を描きながら歩き出す。
その後ろを歩いてくると思ったら、ちゃんと隣に立って歩いてくれる。
……あぁ、それだけでも心が温かくなるんだ。
そのまま他愛無い話をしていれば、クレスタの端っこまで辿り着く。
やっぱり田舎らしいのどかな場所だから、店の中に入るって事無かったね?
でも、もう少し話してたい私は記憶を呼び起こし、一瞬にして良いところを思い付いた。
そこは彼がきっと喜んでくれる場所───
「ねぇ、レディ?少し行きたい場所が出来たんだ。一緒に来てくれるかい?」
「あぁ。」
『え?何処ですか?』
「レディがとっても喜んでくれる場所だよ。」
『「???」』
そっとレディの手を取れば、彼もまた、私の手を握り返してくれる。
その手の温もりに、私が少しだけ目を細めれば、彼はもっと手を強く握った。
……彼には何でもお見通しだな、なんて少しだけ思った。
「……ここだよ。」
歩いて目的の場所につけば、二人は疑問を顔に出す。
彼らにとっては、何の変哲もない店構えだろうから分からないのも無理はない。
ここは、彼が大好きなプリンを扱っているお店。
だからここへ来たかった。
「こんにちは。」
扉につけられていた鈴の音を聞きながらくぐり抜けると、そこからは甘いお菓子の匂い。
それだけでここが何処か分かった彼は、納得した顔を見せていた。
そして中へ入った私達は、適当に注文を店主へと告げて中のイートインの場所へ。
シャルティエも何故私がここに来たかったか、ようやく分かったようで納得した光を灯していた。
『ここにもお菓子屋ってあるんですねぇ!都会でしか見た事ない光景だったので、始めは全然分かりませんでしたよ!』
「思い出したら食べたくなってね?それに、レディの喜ぶ顔も見たかったし。」
「問題は味の方だな。」
「きっと美味しいよ。のどかな場所のお菓子屋さんは、材料もこだわってることが多いから。」
そう話していれば、数分後に店主がプリンを持ってくる。
しかしそこには頼んだ覚えの無い物もあった。
私が首を傾げて疑問を浮かべると、店主は私達の前にその見たこともない色のプリンを置いてニコリと笑った。
そのプリンはきれいな桃色をしていた。
「こちらは試作段階の桜ミルクプリンです。是非、お客様に食べて感想を頂きたくてお持ちしました。」
「桜…? ここにも桜があるんですか?」
「いえ、ノイシュタットから取り寄せた特別な品です。ここらへんは質の良いミルクが取れるものので、ミルクプリンがこの店では有名なんですが、そこへ人気のある桜を取り入れてみようかと思いまして。ちょっとした挑戦でもあるんですよ。」
スプーンの添えられた桃色のプリンを見て、私達は思わず顔を見合わせていた。
あぁ、なんだ。きっと彼も一緒なことを考えてる。
「……ふふ。」
「ふん。早く食べて行くぞ。」
私達はその桃色のプリンを味わって、しかと堪能した後に店主へと簡単に感想を伝えた。
満足そうな店主と、逸る気持ちを持て余した私達。
二人でお菓子屋さんを飛び出せば、お互いに向かう場所は同じ方向だった。
何だかそれがおかしいのと、早く行きたい気持ちが勝った私は彼の手を引いて立ち止まらせる。
船酔いがある彼に海超えは可哀想だし、私も早く行って〝あれ〟を見たくなった。
「レディ、ちょっと待って?」
そう言って不思議な顔をした彼の体を抱きしめる。
そして私はすぐに詠唱を開始した。
次の瞬間見えた光景に彼が息を呑んだのと、私が彼から体を離したのは同時だった。
驚嘆の声と顔をした彼を見てから私も周りを見渡しては、感嘆の声を上げた。
だってそこには、満開の桜が咲いていたんだから。
「……おかしいね?だって、ついこの間ここでデートしたと思ってたのに。もう桜の咲く時期だなんて、誰が思う?」
「……いや、これは偶然だろう。」
「どういうこと?」
「確か、今年のフィッツガルドの気象は著しい変化が常に起こっていたはずだ。その変化に耐えきれず、暖かくなった今に桜が誤認して咲いた、と聞いた事がある。恐らくそのせいで今の変な時期に桜の開花が見られたんだろう。そこを偶然、僕達がここへ訪れてこの超常現象を見た、と言うことだ。」
流石物知りな彼だなぁ…?
解答まで完璧だなんて、びっくりだよ。
私が驚きながら彼を見ると、彼はふんと鼻を鳴らしては優しく笑って私を見下ろした。
そして彼は、私の目の前にそっと手を差し伸べた。
「……あの時出来なかった、満開の桜の下でのデートを改めてやり直す、というのはどうだ?」
「……ははっ!勿論、私の答えは一つだよ、レディ。」
私はその手に自分の手を重ねて、彼を見上げながら笑った。
私を見た彼もまた、口元に笑顔を湛えて、目を細めては私を見返して手を握ってくれた。
私達はどちらともなく歩きだして、桜咲く街中を堪能するように花見をしながら他愛ない話をする。
たまに桜の花が彼の頭に落ちているのを見てそっと取ってあげる特別感は、私に幸せと温かさをくれた。
逆を言えば、彼もまた私の髪についた桜の花びらを取ってくれ、その表情はいつもよりも優しい面影がある気がした。
それを見られただけでもラッキーだと言うのに、本当、幸せっていうのは人間には必要なんだな、って何の脈略もなくそう思う。
幸せがあるから人生、生きていたいと思えるってこと………本当、つくづくそう思うよ。
「 If it can be imagined, it can be created. …か。エニグマの言葉が身に沁みるなぁ…?」
「そういえば、そんな事も言っていたな。〝幸せになりたいのなら幸せになれ〟とも言っていた気がするが?」
『スノウ、今幸せですか?』
「そんなの言葉にしなくても伝わっていたと思っていたけどね。」
『スノウの口から聞きたいじゃないですか。そういうのは!』
「ははっ。勿論幸せだよ?シャルティエ。まぁ、君がこの時点でいることが私には驚きだけどね?」
『それって~、僕が邪魔だってことですかぁ~?!』
「そうじゃないって。君たちが一緒に在れること、それ自体も奇跡なんだとしたら…この世界って奇跡で出来てるんだなって思うんだ。」
「なんだ?お前、詩人にでも転職するつもりか?」
「酷いなぁ?思ったことを口にしただけなのにね?…それに、私が詩人にならなくとも、この世には素晴らしい放浪の吟遊詩人がいるじゃないか。」
あぁ、今世では見かけなかった彼は今ごろ何をしているんだろうな。
前世で裏切った時には見かけなかったし、私自身が関わってない人物の一人だが…。
「お前、あいつに会ったことあったか?」
「ううん、ないよ。でも彼の人柄は、前前世でよく知っているよ。アクアヴェイルのある意味、英雄さまさまだね。」
『僕はそこの宝刀だったんですよ!』
「ふふ。それも知ってるよ。」
「お前の知らないことっていうのは、この世界に存在するのか?」
「あるよ!それこそ、精霊の皆はいると思ってなかったからびっくりしたし、〈赤眼の蜘蛛〉なんて当然知らなかったよ!」
そういえば、彼らのせいで全て私の計画は崩れたんだったな…?
全く…彼らの出現が、一番私の中で厄介で面倒極まりないことだったよ。
「もし…彼らが居なかったら、私達こうして仲間として旅するなんて無かったんだろうな…?」
『それについては良かったと思ってますよ!…奴らに感謝するというのが、非常に癪ではありますが…。』
「ふん、同じくだな。」
「きっと私は…君たちとは敵になってたんだと思うし、勿論、君が前世で死んでなかったら、私が君の代わりに彼らと旅するつもりだったんだけど…。それももう昔の思い出だなぁ?」
「あまり物騒なことを言うと、その口を縫ってやるが?」
「ごめんごめん、過去の話だから許してよ。」
そんな話の途中、風の勢いが強まって私達は腕で顔を覆う。
一瞬にして吹き荒れた風は、今では全くと言っていいほど感じない。
まるでその話はこれで終わりだ、とでも言うような突風に私はそっと左腕のブレスレットに触れた。
…まさか、グリムシルフィがやったんじゃないよね?
『酷いなぁ?ボクじゃないよ?』
「はは、ごめん。少し疑ったよ。」
さっきの強い風のせいで余計に桜の花びらが散っていく。
それを見ながら私は思い出に耽っていく。
あぁでも、デート中に考え事は良くないよね。
「ねえ、レディ。困ったこととかない?」
「何だ、急に。何かの前触れか?」
「いやぁ?ただ単純にさ、何か困ったことないかなって思ってさ。最近君もエニグマの御使いとして色々出回ってる身だし、来世でも駆け回るんだろうから今のうちに労おうと思ってね。」
「…。」
『不穏すぎません?本当に来世でそうなったらどう責任取ってくれるんですか!』
「ええ?責任問題に発展するほど…?」
頭を掻いた私を見て、ジューダスまでもが溜息を付く始末。
でも私の瞳をじっと見つめて、先程の私の質問に答えてくれようとしてくれる姿勢はあるらしく、彼はそのまま口元に手を当てて暫く思案していた。
…一体、なんだろう。レディの困ったことって。
「…誰かの夢に入り込むと、時間の感覚が狂っていく。御使いとして困ったことといえばそれくらいだな。後は奴がこっちの状況を鑑みずに呼び出してくることだな。」
『本当、それに限りますよね~…。あの神様、横暴すぎるんですよ!』
「…なるほど?」
流石に他の神のお役目の事に口を出すのも悪い気がして、気が引ける。
でも、一つだけいい案が思いついたんだ。
〝時間の感覚が狂う〟といった彼に相応しい物がある。
「ちょっとそこで待ってて!!」
「は?おい!」
私はすぐに魔法で飛んでいく。
場所は…勿論、私に馴染み深いあの場所かな?
「うわ、懐かしいこの寒さ!」
ファンダリア地方のハイデルベルグまで来た私は一目散に防具屋兼、装飾屋へと駆け込む。そこは以前、ジューダスの為に買ったアレキサンドライトの指輪を買いに行った場所で、前世でもよく多用していた防具屋でもある。
そこにあったはずの〝金色の懐中時計〟を探して、店内を忙しなく見ていれば、それに気付いた店主が目を丸くさせる。
「モネ様、なんか城を脱走した罪で指名手配になってましたが…?」
「げ…。あの時のか…!すまないけど、私がここに来たこと、黙っててくれないかな?この通ーりだからさ!」
顔の前で手を合わせた私を見て、店主が笑う。
先日、ドクターストップのかかった私とハロルドで、この街を脱走したことが早くもこんな形となるとは…。
…まぁ、その出来事もそんなに前ではないけれど。
「何したんですか。城を脱走って…。脱獄犯ですよ?」
「ドクターストップがかかってたんだ。だけど、ちょいと外せない事情というものがあってだね…?向かってくる兵士たちを避けながら脱走を図ったんだが…。まさか指名手配されるとは…。」
「あぁそれで…。なら、余計に近くの兵士に伝えなきゃですね。」
「お願い!それだけはぁ…!!」
「ふっ、あっははは!冗談ですよ、冗談。昔からのよしみで黙っておきます。」
「さっすが店主!よく分かってる!」
「もう、調子良いんですから…。んで?何をお買い求めで?」
「〝金色の懐中時計〟が前にあったよね?」
「あぁ、それなら…。」
店主が店奥に消えると手に金色のチェーンのついた何かを持って店に出てくる。
それを見せてくれた店主。
そしてそれは、私の探し求めていたものだった。
「これだ!」
「全然売れないから処分しようと思ってたんです。モネ様に差し上げますよ。」
「いやいや、お金くらい払わせてくれ。いつも使わせてもらってるし、今回は口止め料も入れないとね!」
「ふふ、なら色を付けさせてもらおうかな?」
店主がレジの前に立つと紙面に何かを書く。
それを覗いてみれば、そこには領収書と書かれた紙面で、底に書かれた金額は意外にも良心的な値段だった。
相変わらずお人好しな店主なことだ。
「ちなみにそれに名前を入れられますが…どうします?」
「簡単に出来るならお願いできるかな?」
「はい。ちなみに…なんて刻印しましょうか。」
「〝私の大事な親友へ〟と〝現実で待ってる〟の二つ。お願いできるかな?」
「はい、それならお安い御用ですよ。」
刻印する場所を店主と相談し、蓋の内側へ〝現実で待ってる〟を。
そして懐中時計の裏側に〝私の大事な親友へ〟を刻印してもらうこととなった。
…出来上がりがとても楽しみだったのだが……。
「…やべ。」
「??」
「ちょ、ちょっと奥に隠れさせてもらうよ!」
巡回の兵士がここに近付いている。
何か目的があるのか、それとも私を目撃した街人からの情報でこっちにやってきたか…。
どっちにしろ隠れるに越したことはない。
息を潜めて奥に隠れれば、そこへ丁度兵士がやってきて店主と一言二言交わし、そして呆気なく去っていった。
…ただの巡回だったか。
「モネ様?もういませんよ?」
「いや…出来上がるまでここにいるよ…。」
「ははっ。さっきの兵士の方々もまだ探してましたよ?モネ様のこと。」
「…げ、まじか…。」
もうファンダリアに近寄れやしない…。
私はそんな未来に思いを馳せて、ふぅと息を吐き出す。
そうして数十分が経ち、その数十分で仕上げてくれた店主に感謝を伝えれば、店主はラッピングまでちゃんと施してくれていた。
…手際が良いと言ったらないね。
「これを渡す際に、リオン様にもよろしくお伝え下さい。」
「…私、そんなことまで言ったっけ?」
「そんなの、モネ様の顔を見ればすぐに分かりますよ。前世からの癖ですよ、最早。」
「どんな顔?」
「"早く会いたい"って顔してますからね?」
「……わお。」
それは気付かなかった…。
私が困った顔を見せれば、店主は可笑しそうに笑い、そして工場からレジへと戻っていった。
私はそんな店主にお金を多めに渡し、声をかけられる前に魔法でまたノイシュタットへと戻る。
…少し時間が経ってしまったけど、彼は何処にいるだろうか?
『あぁ!?いた!!』
シャルティエの声が聞こえてきて、私が振り向けばジューダスも訝しげな顔をして私の近くへと駆け寄ってきてくれた。
そんな彼へ、ラッピングされた小箱を彼の手に乗せる。
…でも、今は開けてほしくないな?
「…ねぇレディ。お願いがあるんだ。」
「…?」
「このプレゼント…、来世で目を覚ました時に開けてほしい。今じゃなくて、必ず来世で。」
「はぁ?」
『え、何でしょう…?中身はなんですか?』
「それを言ったら意味がないだろう?」
笑いながらそう話した私に、ジューダスが小箱と私を交互に見る。
そしてその小箱を大切そうにポケットへと仕舞ってくれた。
「はぁ…。お前からなんだかんだ贈り物ばかり貰っているな。」
「私が贈りたくて贈ってるものだから気にしないでくれ。」
そっと彼の右手の小指につけたアレキサンドライトの指輪に触れる。
この世界では防御の御守りとして在るその宝石の指輪を、以前贈ったことがあった。
今は太陽の下にあるのでエメラルドのような緑色をしているが、これがろうそくやランプの光に当たればルビーのような赤色へと変わっていく。
その変色効果が綺麗な指輪は、果たして今世でどれほどその力を遺憾なく発揮してくれただろうか。
「…この指輪は大事に毎日磨いている。」
「え?」
「そして、この右耳につけた、お前の髪と同じ色の蒼いピアスだって毎日外して磨いている。」
『僕が証人ですよ!坊ちゃん、大事に毎日磨いてるんです!忘れることなく、毎日必ずですよ!?』
「このネックレスだって…磨いているし、肌身離さず付けている。」
本当に大事そうにそれらに触れた彼は、今度は私の瞳をじっと見つめる。
それらと同じくらい……ううん、それ以上に大事そうな表情で私のことを見ていたんだ。
必然的に少しだけ顔が赤くなる。
まるで熱烈な愛の告白をされたかのように。
「これらを磨いて、お前を思い出して…。お前のことを忘れたことなど無かった。」
「…レディ……。」
「そして新たに来たこれもまた、僕の宝物の一つになるんだろう。…お前から贈られた、大切な品だからな。」
その言葉たちに、私の胸がキュッと締め付けられて、同時にドクリと心臓が跳ね上がった気がした。
そして彼の瞳が徐々に熱を帯びていくのを見てしまった。
まるでその瞳は、"何か"の熱に浮かされるかのように熱を帯びていった。
「それもこれも全部……お前がしてくれたことだからだ。これが別の奴だったらとっくに捨てているし、端から受け取ることもしなかっただろう。」
『(坊ちゃん…!今日こそ…!!)』
「それくらい…僕は…」
「……。」
何故だろう。
この先を聞きたいと思う自分がいる。
でも、それを聞いたら何故か、元に戻れない気がして怖くもあった。
戸惑う気持ちが強い私に、彼はそっと私の手を握って、そして温めてくれた。
彼の体温が心地よくて私がそっと握り返せば、彼もまた強く握ってくれた。
「僕は…お前のことが…!」
「おい!!そこのお前ら!!!!」
『(うわぁぁぁぁぁああああ!!!!!)』
シャルティエのコアクリスタル部分からの激しい点滅など、誰も気付かなかっただろう。
それくらい良いところを邪魔されたのだ。
ジューダスはスノウの手を握ったまま俯いて、静かに怒りで体を震わせていた。
「(何故…、何故いつも邪魔が入る…!!!?)」
「…レディ、逃げたほうが良いかも…。」
「あぁ?」
思わずキレ気味で返事をしたジューダスだったが、その言葉の意味をすぐに理解する。
先ほどこちらに声をかけてきた人物…。それこそ、逃げなければいけないと思わせる理由そのものだったからだ。
ジューダスはすぐにスノウの手を引き、逃げようとする。
しかしその前に立ちはだかったのは、紛れもなくあの"男"だった。
「おいおい。オレ様を見て逃げ出すタァ、いい度胸してんじゃねえか!!!この野郎ども!!」
「うわぁ…。久しぶりに会ったけど…変わらないなぁ…?…一回しか会ってないけど。」
「モネ、てめえ!あの海底洞窟では世話になったなぁ?!ああん?!」
「リオン君~、久しぶり~~~だね~♪」
ついでに言えば、先程話題に上がっていた人物までいるのだからジューダスは頭を抱えた。
彼らにもしかしたら告白を見られていたかも知れないと思うと、……余計に頭を抱えた。
「……悪いな?告白の邪魔したみたいで。」
「…貴様、分かってるなら何故あいつを止めなかった…?!」
ジューダスに耳打ちした"ジョニー"は困った顔を見せながら手に持っていたリュートをポロンと鳴らす。
それをジューダスが睨み返した横では、"コングマン"がスノウに突っかかっている様子が見られた。
前世での事を酷く恨んでいる様子のコングマンは拳同士を打ち付けながらスノウを威嚇する。
そんなコングマンに、スノウは口元に手を当てながら苦笑する。
「随分と恨んでいるようだね?私のことを。」
「あったりめえだろ?!!お前さえ居なければなぁ!?あのいけ好かねえリオンのやつがあんな事にはならな───」
流石に看過できなかったジューダスが、その言葉たちを止めるようにシャルティエをコングマンに振るい翳す。
コングマンの顔の前でシャルティエを止めたジューダスは、コングマンに怒りの目を向けて牽制するように言葉を放った。
「貴様、ほとほと呆れるな?あれは僕が勝手にやったことだ!こいつの所為にしないでもらおうか!!」
『そうだそうだ!!煩い外野は黙ってろー!!!』
「はぁっ?!オレ様はお前のために…」
「レディ?良いんだ。私なら大丈夫だから。」
「…何が大丈夫なものか…!お前が大丈夫でも、僕の気が収まらない!!!」
幾ら身長が伸びたとはいえ、コングマンの高さは優に2m近くあり、身長が伸びたジューダスでも流石に見上げなければならないほどの高さだ。
そんな彼を仇敵を見るかの様な鋭い視線を浴びせたジューダスは、シャルティエを再び向け、高らかに宣言した。
「闘技場の主なら主らしく、決闘で僕と勝負しろ!!」