第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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リアラが目を覚まさないまま二日が経った。
リーネ村の中を歩きながら様子を見ている彼女、スノウ。
僕はそれを遠目で見ていた。
彼女がモネという証拠をどうしても掴みたかった。
だから監視していると言っても過言ではないが、その僕の視線に気付くことなく彼女は村を見て回っている。
動き回っているのを見る限り、彼女の身体の方は大丈夫そうだ。
「ねえねえ!声が出ないって本当?!」
「それって痛いのー?」
「お前ら、しつれいだろ!?」
元気な子供達が彼女に群がって服を引っ張ったり手を繋いだりしている。
遊んで欲しいのか彼女から離れない子供達に目線を合わせ、ふわりと笑ったそれに思わず目を見張る。
子供は好きなのだろうか。とても柔らかく笑う。
「《ここはどんな所か教えて貰えるかな?》」
「ここ?ここ、なんにもないよー?」
「畑ばっか!!」
「虫が沢山いるー!」
「あ、でもすごい場所があるんだ!!」
その言葉に村の子供達は良い事を閃いたとばかりに彼女の手を取りどこかへ引っ張っていく。
目を瞬かせ、されるがままになっている彼女を遠くから追いかける。
『子供達に大人気ですねー!スノウは!』
「人柄が良いのだろうな…。前世でも博愛主義者だと名乗っていたぐらいだし、誰彼構わず優しいんだろう。」
『モネだという証拠を掴んでやりましょう!坊ちゃん!!』
「あぁ、必ず掴んでみせる…!」
そうこう話している間に村から離れようとする彼女達を追いかけていく。
引っ張られていく彼女は嬉しそうに顔を綻ばせており、モネとは違い女性らしい笑い方だ。
「《大丈夫?村から離れてしまって……》」
「大丈夫だって!」
「ここらへんモンスターいないから大丈ー夫!」
「それより姉ちゃんに良い物見せてあげる!!」
絶えず言葉が交わされ、それに頷いたり最近習得したばかりのフリップを出したりと子供達とコミュニケーションを取りながら連れて行かれる彼女は、到着した場所を見て目を丸くし息を呑んでいた。
そこは辺り一面、見事な蓮の花が咲き誇る場所だった。
元々声が出ないが、その場所に見惚れるかのように何も発さない彼女は子供達が話しかけてようやく我に返ったようだった。
「へっへーん!キレイだろー!?」
「ここ、わたしたちの秘密基地なのー!」
「近くに寄ったら落ちちゃうからあぶないよー?」
その子供達のアドバイスに笑顔で頷き、目線を合わせるかのようにしゃがみこみ、お礼を伝えるスノウ。
子供達の頭を撫でたりしながら、何かを考え込む様子のスノウにシャルが反応する。
『こんなに綺麗だと彼女も嬉しそうですね!子供達に教えてもらったから余計に嬉しいんでしょうし、やっぱり女性と花って見てて癒されますよね!』
「ふっ…そうだな。……モネはずっと男だと思っていたが……今思えば女性でも不思議はないな。初めて出会ったとき、あいつの武器に違和感を覚えていた。男なのに細身の剣を使っていたこと……、あいつが倒れて背負った時の軽さと言い……もしかしたら、そういう理由だったのかもしれないな……。」
『やっぱり、モネは……』
「スノウかもしれないな。だが確証が持てるようなものが無い。せめて、何か勘付けるものがあれば……」
突如、彼女が徐ろに手を伸ばし指を鳴らす。
すると蓮の花から光り輝く蝶々が生まれ、空へと飛び立っていく。
その色は蓮の花と同じ色。
ヒラヒラと舞う姿はとても綺麗で、日中でも光り輝いているのが分かるくらい明らかな発色をしていた。
「うわぁ!!」
「すごーい!!きれーい!!!」
「お姉ちゃんがやったの?!すごーい!!」
子供達は嬉しそうに彼女から離れていき、蝶々を追いかけていく。
それを見て立ち上がった彼女は笑っていた。
モネとは違う長い髪が風に靡いて揺れていく。だが、今視界一杯に広がる青空のような髪色、そして海のような瞳。
モネと全く一緒だった。
だから彼女を初めて見た時、モネだと錯覚した。その時の彼女は本を読むのに必死でこっちの気配など読めてはいなかったが、それでも僕は敢えて前に座りじっと彼女を見つめていた。
見れば見るほどモネと同じで、違うとしても生き写しかのような顔立ちだった。
ふと見た彼女は伏し目がちになり、自嘲気味に笑っていて、それに僕は僅かに目を見開いた。
どうしてこんな綺麗な場所でそんな顔をするんだ?
この場所に不釣り合いの顔を見せる彼女にシャルも不思議に思ったようだった。
『どうしたんでしょう…?何かあったんでしょうか?』
「……分からない。だがあの顔が、この場に不釣り合いというのは分かるな。モネも一人で何もかも抱えるタイプだった。……スノウも…。」
何を考えているかは分からないが、天を仰いで瞳を閉じた彼女は、とても消え入りそうな儚い笑顔をしていた。
どうしてそんな顔をする?
もっと笑っていて欲しいのに。
咄嗟に出ようとした足を叱咤して、その場に縫い止める。
出てはいけない。
分かっているのに、その小さな体を抱き締めて安心させたかった。
それがどんな感情なのか分からぬまま、僕はそれをじっと見つめていた。
*:..。o○☆ *:..。o○☆ *:..。o○☆ *:..。o○☆ *:..。
彼女がその場から動く気配はないため一度村へ戻ると、先程彼女と一緒にいたはずの子供達が慌てた様子で村へ戻ってきた。
その上、彼女が居ない。
これは何かがあったと瞬時に悟り、子供達の方へと駆け寄る。
『あれ?スノウがいません。』
「何かあったんだろうな。……おい、何があった。」
「お兄ちゃん助けて!モンスターが出たの!!」
「姉ちゃんが1人で残って戦ってるんだ!!」
『え?!モンスター?!確か子供達の話では居ないって……』
「案内出来るか?」
「うん!行けるよ!」
「姉ちゃんが心配だからいくよ!!」
そこへ騒ぎに駆けつけたカイル達が来て一緒に行く事になった。
道中出てきた魔物は大した事は無かったが、もしスノウが一般人であるならば一溜りもないだろう。だが、もしスノウがモネならばこんな雑魚簡単に倒してしまうだろう。
『モネならすぐに倒せそうな魔物ばかりですが……』
「……確かにな。」
シャルとそんな話をしていたら遠くの方で雷が落ちたような音がして全員が顔を見合せ、顔を青くする。
ジューダス以外の全員が慌てた様子で音の方へ向かうのを見届け、シャルに話しかける。
「あれは、モネの晶術か?」
『そうですね…、晶術の反応が似通っています。少し遠いので定かではありませんが……』
「ふん、正体を表したか。」
『まだ分かりません。実際に近くで見て見ないことには……』
「これから幾らでも機会はありそうだな。その時は頼めるか?シャル。」
『勿論ですよ!!僕だってあの時の真実が知りたい…!モネが成し遂げなければならなかった出来事…。スノウがモネなら早く分かるのですが…。』
「今言っても仕方あるまい。行くぞ、シャル。」
『はい!坊ちゃん!』
カイル達が去っていった方へ向かうと既に彼女と合流しているところだった。
子供達にしがみつかれ、大人気のスノウは苦笑しながらもしっかり子供達の対応をしている。
「えっと、スノウ。敵は?」
「《倒しましたよ。》」
「え?!スノウって戦えるの?!」
「怪我はしてねぇか?」
「《はい、大丈夫です。この通りピンピンしていますので。》」
「……」
なんと言っても船での前科があるので、彼女の言葉に少しばかり眉間に皺を寄せてしまう。
しかし彼女はそれに気付かずカイル達を見ていたのだが、彼女の視線が自分たちから離れたのが気に食わないのか子供達が一斉にカイル達の方へと駆け寄っていきしがみつく。
しかしそこは何枚も上手のスノウ。
「《皆、お手伝いはしなくて良かったの?》」
「「「「あーーー!!?」」」」
思い出したかのように慌てて村の方へと走り去る子供達。
それに全員が笑いながら見送った。
「スノウって子供の扱い上手だね!!」
「やっぱりそこは女性だよなー?お手の物って感じだったぜ?」
「《そんなことはありません。でも、子供は好きですから、それもあるのかもしれませんね。》」
「「へぇー!」」
カイルとロニが感心したように声を揃えて感嘆する。
その後は帰り道中にカイル達の孤児院の話を聞かされ、それに彼女が頷いていた。
しかしどうしたことか、その顔は徐々に曇っていくではないか。
遂には俯き立ち止まってしまった彼女を全員が首を傾げ見遣る。
「……スノウ?」
彼女を心配して、カイルが恐る恐る声を掛ける。
それに首を横に振り早足で僕達に追いついてきた彼女に、カイル達が心配しながらも村へ向かって歩き始めた。
僕は立ち止まり、その顔を覗き込んだ。
その顔色は悪く、どこからどうみても具合が悪そうだ。
「……」
どう声を掛けていいか迷ってしまう自分に呆れる。
単純に声をかければいいものを、気が利かないものだ。
その内、目を閉じふっと鋭い息を吐き出した彼女は先程蓮の花を見ていた彼女と同じく、嘲笑の笑いをしていた。
それに一瞬身震いが起きる。
何故なら、開かれた瞳は何も映していなかったから。
空虚で虚無。
そんな顔をした彼女に慌てて声を掛けようとすると、強めの風が吹き彼女が腕を前にして風を凌いでいた。
風が終わったあとも何故だか彼女は何も移さない瞳で嘲笑して、歩き出した。
その嘲笑はまるで先程吹いた風に嗤っているようだった。
「……」
『坊ちゃん……』
再び向かい風が大きく吹いて、それは皆の足を止めるには充分だった。
そして聞こえる笑い声。
すぐに歩を進める彼らと彼女を見てジューダスは一度目を伏せた。
「ジューダス!!早くー!!」
「……今行く」
『坊ちゃん、大丈夫ですよ!スノウはしっかりしている子ですし……』
言葉が続かないシャルに苦笑する。
何を背負い込んでいる?
何を一人で成し遂げようとしている?
それは……僕では力になれないか?
どうしてこの言葉達が声にならないのだろう。
今度は僕が自嘲する番だった。