第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
リアラの悲鳴が辺りに響く。
ハイデルベルグにて、ジューダスが起きるのを待つ仲間たちの前に、青髪のあいつ───バルバトスが現れたのだ。
武器を振りかざしてはカイルを攻撃してきて、それを近くにいたリアラは思わず悲鳴をあげてしまったのだ。
「くっ…!バルバトス!!」
「久しいな…?カイル・デュナミスよ。」
「今度は何が目的だ!!」
ロニやナナリーが武器を持ち警戒する中、修羅やジューダスもリアラの悲鳴に駆けつけてきた。
起きてないと思っていた仲間が起きていたことに、二度見した修羅達だったが、すぐに笑顔を零しバルバトスと対峙する。
「目的など、端から決まっている…!!カイル・デュナミスとモネ・エルピスの抹殺よ…!!」
「…ん?そう言えば…スノウの奴は?」
名前が出たにも関わらず、その姿がないことに気付いたロニが心配そうにジューダスに聞くと、彼は静かに首を横に振った。
「…ここには居ない。また“神”とやらの所だそうだ。」
「またかよ…?あいつも大変だな。」
武器を片手にポリポリと頭を掻いたロニ。
そしてそれを知ったバルバトスが、顔を直ぐに顰めさせた。
「奴が居ないのなら、意味が無い。ならば、再び出てくるのを強制するまで。」
「「「!!」」」
「18年前の神の眼の前────そこでお前らを待つ。二人まとめてかかって来るがいい。ただし、時間はあまり無いと思っていた方がいいぞ?先の英雄を倒してその先の未来がどうなるか…経験した貴様らなら分かってるだろうからなぁ?何時ぞやのモネと一緒になりたくなければ、な。ムッハッハッハッ!!!!」
豪快な笑いをしたバルバトスが時空の歪みに吸い込まれていき、姿を消していく。
それをカイルが追いかけようとしてロニに止められていた。
「…まずいぞ。スタン達がやられてしまえば、今の僕達に支障が出てくるものが少なからずいるはずだ。この世界全体にも、な…。」
「けどよ。スノウが不在なんだが…?」
「スノウには悪いけど…、私は早く行かないといけないと思う。この時代の人達がどんどんと喪われていくみたい…。」
そうして周りを見れば、何時だったかのスノウと一緒で徐々に姿が薄くなっていく人達がいた。
それを見てしまった街の人たちの悲鳴がどこからも聞こえ始めて、カイルはグッと拳を握った。
するとそのカイルの手もどんどんと薄くなってきていた。
「…!」
「…始まったか。」
「カイル!」
すると、ナナリーまでみるみるうちに姿が消えていくでは無いか。
仲間たちが愕然とそれを見る中、消えそうな二人は大きく頷いてリアラを見た。
「行こう、リアラ!スノウに会う前に消えてたなんて、シャレにならないからさ!」
「そうさね。アタシ達が消えてたなんて報告、アンタ達もスノウにしたくないだろ?」
「ナナリー…。」
「やるなら急ぐぞ。スノウのやつもこの結果は望んでないはずだ。」
修羅がリアラを急かし、全員がリアラを見つめる。
そしてリアラが皆をしかと見つめ、両手を合わせて祈りを込めた。
「お願い…!私たちを18年前に起こった、神の眼の騒乱の時代へ!」
そうして、カイル達は18年前へと時空間移動を開始した。
まだ二人が消えていないことが、今の皆の唯一の力となっていた。
「(スノウ…。)」
まだ見えぬ、彼女へと思いを馳せながらジューダスもまた、時空間移動の浮遊感を体に感じていたのだった。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○。・.: * .。○・*.
「到着したわ!」
「つーか、スノウのやつが居なくて良かったんじゃねーか?あいつ…移動する時、絶対迷子になるじゃねえか。」
「「「あ。」」」
今思い出した、と全員が口を開けポカンとする。
それを鼻で笑ったジューダスも、ロニと同じ事を思っていたからだ。
ここに居なくて運がいいような悪いような、とはこの事だろう。
「ともかく。二人が消える前にバルバトスのやつを倒してしまうぞ。スタン達が倒されてしまえば歴史が変わってしまう。」
「そうだな。スノウには悪いが…早い所行くか。」
修羅が先を行ってしまった海琉を追いかける様にして走り出す。
どうも、海琉が食べ物の匂いを感知したらしい。
諌める言葉と共に海琉の首根っこを掴んだ修羅は、これまた飛び出していきそうなハロルドの首根っこも掴んだ。
そして大きな子供二人を見て大きな溜息を吐けば、両手のお荷物はブーブーと文句を垂れ始めていた。
「ふん。しっかりと親代わりが板についてきたじゃないか。」
「全然嬉しくねぇ。」
「ジューダス!道分かる?!」
「あぁ。この先を真っ直ぐ行け。お前ら、ダイクロフトは迷いやすいから固まって動けよ。」
「はーい。」 「うぃー。」
気の抜けた返事から真っ当な返事まで様々な返事が返ってきた事にジューダスが顔を顰めさせる。
それをほくそ笑んだ修羅とジューダスが視線だけでバチバチやっていれば、ハロルドが修羅の手から逃げ出していく。
結局仲間達はまとまって動いて、ジューダスや修羅の先導の元、神の眼へと急ぐ。
「神の眼がまだこんな未来にもあるなんてねー。」
「アレを壊したのが英雄であるスタンさん達なんだよ。だからスタンさんがやられたら…このままダイクロフトが上がったまま未来へ行くことになっちまう。……そんな世の中、ごめんだぜ。」
ロニがハロルドの言葉を拾い、そう呟く。
それに「ふーん」とだけハロルドが返事をしたが、その瞳は少しだけ濁っていた気がした。
今少しだけ、兄のことを思い出してしまったからかもしれない。
「ねぇ?!あれ!!」
カイルが指さした方角には、スタン達の戦う姿があった。
バルバトスがスタン達に牙を剥く。
その勢いは、今まで戦ってきたバルバトスの中でもかなり猛々しいものであった。
仮にも当時の英雄であるスタン達の攻撃だ。
おいそれと殺せるはずもない。
「…加勢するぞ!」
「「「おー!!」」」
仲間たちがスタンとバルバトスの間に入り込む。
それをバルバトスが憎らしげに見遣り、スタン達もまた、カイル達を不思議そうな目で見遣るのだった。
「き、君たちは…?」
「えっと、とうさ……。スタンさん、加勢に来ました!早くあいつを倒しましょう!」
「…分かった。君たちが俺たちの敵では無いっていうことは、君たちの目を見て分かった。頼もしい加勢、感謝する!」
スタンとカイルが武器を構えると、バルバトスが辺りを見渡した。
それは何処か、探し物をしているような目付きだった。
「…ふん。怖気付いたか。モネ・エルピスは何処だ?」
「「「えっ…?!」」」
スタン達がその名前を聞いて怯んだ。
そして周りを見るスタン達だったが、カイル達の目は真剣そのものだった。
「はっ!モネ・エルピスー?そんなやつ、知らねぇなぁ!」
ロニが声高らかにそう言えば、ハロルドもそれに続く。
「やっぱりあんた、頭が猿以下ね!そんな名前の子、私たちの中にいたかしら?」
「居ないね!」
「私たちには、スノウっていう強い味方がいるわ!」
「モネがどんな人物か…そして未来でどう言われているかなんて、そんなの、誰かが口先で言ってるだけの偶像だ。モネは信念を持って自分のやるべき事を貫き通した。それを、俺は支持する!」
修羅も海琉もお互いを見て、そして笑い合う。
今までのモネを……、スノウを見てきた二人も、スタン達のように困惑するだけじゃない。
仲間を信じる心を、その瞳に写していた。
「スノウは……おれにも優しくしてくれた。今度は、おれがそれを返す番……。」
「仲間がスノウを信じる限り、あいつはスノウ・エルピスという今世を生きる!もうあいつは、昔のモネとは違う!」
『(こんなにも、皆に慕われているスノウ…。僕も…、僕だって…!)───スノウを…お前なんかに殺させやしない!!今のスノウは、あの頃の…死を望んでいたモネなんかじゃない!!今を生きて、大切な人のそばに居たいと願う…普通の女の子なんだ!!』
皆の想いがその場の空気に浸透する。
スタン達も困惑していた手を、体を…元へと戻す。
そして武器を手にし、バルバトスへと向けた。
「彼らの大切な仲間のようだね。なら、俺たちがいうことは…何も無い。だから、勝負だ!バルバトス!」
「オレ達が、スノウを守るんだ!!!」
カイルの言葉を皮切りに、皆が武器を持ってバルバトスへと挑んでいく。
強敵を前にしても怯まないカイル達に、次第にバルバトスの攻撃が荒くなっていく。
精巧さを失えば隙があるのと同等。
結果、逃げる形でバルバトスはその場を去っていく。
「……ありがとう。君たちのお陰でやつも引いていったよ。」
スタンがホッとした顔でカイル達へと礼を言う。
それにカイルが感動した様に瞳をウルウルと揺らがせた。
「い、いえ…!」
「なんか君たちとは初対面とは思えないくらい、気があったよな!」
「はいはい、スタン。御託はいいからさっさと行くわよ!あたしたち先を急がなくちゃいけないんだから!」
ルーティがスタンを引っ張り、連れて行こうとして立ち止まる。
そしてあの質問が来るのだ。
「…一応聞いておくけど、あんたの名前は?」
「オレは…カイル・デュナミスです!」
「カイルか…。イイ名前ね!あたしに子供が出来たら、そんな名前にしようかしら?」
『気が早いんじゃなくて?まだ相手も見つけてないのに。』
「うっさいわね!?アトワイトだって────」
怒りながら走って行ったルーティを見送ったカイル。
僅かに伸ばしかけた手を下げて、嬉しそうな顔で俯いていた。
「…良かったな?カイル。」
「…うん。オレ、何か元気でたよ。今まで父さんのかっこいい所とか見たことなかったし、母さんのあんな姿も想像できなかった。なんか、オレ……今すっごく感動してる!」
えへへ、と笑うカイルに誰もが笑顔でそれを見届ける。
「それにさ。父さんと共闘出来たのが……何だか嬉しいんだ。父さんの背中じゃなくて、ちゃんと父さんの隣に立って、一緒に戦えたんだ、オレ。」
「…強くなったな。カイル。」
「うん!ロニ、ありがとう!」
こちらはこちらで泣きそうな顔でカイルを見つめるロニ。
それにナナリーが隣で呆れながら見ている。
「ほら!アタシたちもサッサと行かないとダメだろ?」
「うん!…行こう!!皆!」
駆け出したカイルの背中を仲間たちが追いかけていく。
前に見える背中は以前よりも少し広くなったようだった。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○。・.: * .。○・*.
____神の眼の前
スタン達がソーディアンを神の眼へと突き刺し、退散した所でカイル達がようやく神の眼の前へと辿り着く。
強化ガラスがひび割れたような鈍い音がする中、神の眼から放出される凄まじいエネルギーに全員が神の眼から離れざるを得なかった。
「え?!どうして神の眼がまだここに…?!」
「おいおい…。スタンさん達がソーディアンで神の眼を砕いたって話だろ…?!一体どうなってやがんだ?!」
カイルもロニも神の眼の圧倒的な力を前にして、危機感を覚える。
そんな中、修羅が祈るようにしてジューダスの腰にあるシャルティエを見ていた。
今スノウが居ないのが、ここで響いてくるとは…。
「待っていたぞ。」
その言葉と共に姿を現したバルバトスに、全員が武器を手に取る。
しかし、周りを見渡しやはり居ないスノウを見て、奴は顔を顰めさせた。
「…本当に怖気付いたのか?」
「あいつの出番じゃねぇって事だよ!」
「笑止。この場面でここへ来ない事が何よりの証拠よ。神の眼は……奴にとっても因縁のある物だろうになぁ?」
「だからと言って、あいつが出てくるまでもない!……スタン達によって正さなければならないこの歴史を、貴様に邪魔されて堪るかっ!!」
ジューダスの言葉と同時に仲間たちが動き出す。
バルバトス最後の戦いの幕が、今ここに始まろうとしていた。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○。・.: * .。○・*.
……無論、バルバトスに勝てた事は勝てた。
しかし、辛勝と言った形での戦い終わりに、仲間達もまた、息を切らしながらバルバトスを見る。
「これでっ…終わりだっ…!!」
カイルがバルバトスにトドメを刺したかと思ったが、奴は自らの手で死を選んだ。
神の眼のエネルギーを利用し、自害を選んだバルバトスを見て誰もが思うところがある。
大変“身勝手な奴だった”と。
『…相変わらず、身勝手な奴だったな。』
そう切り出したのは、神の眼に刺さっているソーディアンの一つ、ディムロスだった。
カイル達の怪我を案じながら、ディムロスは久しぶりだと声を漏らし、カイルはそれに笑顔で答えてみせた。
「お久しぶりです、ディムロスさん。」
『スノウ君には、会えなかったのか?ここに居ないようだが…。』
「所用があってな。あいつだけ別行動だ。」
『そうか。…出来る事なら、ここで千年前の謝罪をしようと思っていたが……叶わなかったか。』
「謝罪?」
「…追放処分のか。」
『あぁ、そうだ。ソーディアンチーム全員、思う事は一緒だろう。』
「スノウは気にしないと思いますけど…。」
カイルが摩訶不思議だと言わんばかりに頭を掻きながら首を傾げさせる。
そんな会話をしていたが、遂にジューダスが意を決した面持ちで神の眼の前へと躍り出る。
しかし、それを止める者がいた。
「待ちなさい、ジューダス。」
「??」
「今すぐに、シャルティエを持ってそこから離れなさい。さもなくば、神の眼が復活するわ。」
「「「「は?!」」」」
それを聞いた修羅も皆と同じ様に驚いてしまう。
だって、本当ならばここでシャルティエの犠牲により神の眼は壊れるはずなのだから。
思ってもみないソーディアンの開発者の言葉に、暫し全員が開いた口が塞がらなかった。
「…どういう事だ。こいつはれっきとしたソーディアンだが?」
『そ、そうですよ?!僕の何処がソーディアンじゃないって言うんですか?!!あなたが作ったんでしょ?!』
「えぇ、作ったわよ?でも───」
ハロルドはソーディアン・シャルティエを見ると一度目を伏せて口を尖らせた。
それはまるで納得がいっていないような顔であった。
「あなたはもう、ただのソーディアンじゃないわ。」
『え…?』
「…。」
「覚えてるかしら?輝きの塔で私がシャルティエを見せて、って言った時のこと。あの時、シャルティエの性能を見せてもらったの。そしたらなんと、ソーディアンとしての機能もさることながら、シャルティエは神の眼の力も有した存在となってしまっていたのよ。」
「神の眼の…」
「チカラ…?」
シャルティエのコアクリスタルが明滅を繰り返す。
動揺しているそれは、持ち主であるジューダスにも伝わってくるほどだった。
『ど、どうして…?』
「スノウが、あなたを直しに莫大なエネルギーを有する泉まで行ったわね?…それよ。」
『そ、そんな事言ったら…!あの泉の中に入ってしまったスノウも…!』
「あの子はマナは蓄えられるけど、他のエネルギーは蓄えられないわ。それが、あなたは違う。コアクリスタルの中のユニットにはどんなエネルギーだって蓄えられるよう、私が設計したわ。もし、未来で壊れても直せるように、ってね。」
『じゃあ…僕は…!!』
「残念だけど、今のあなたを神の眼に近付けるとマズイのよ。あなたのユニットに蓄えられた“彗星エネルギー”と神の眼のエネルギーは同等のもの。壊れかけている神の眼に近づければ…」
「…修復しようと、シャルのユニットからエネルギーを吸い取り、そして完全回復を遂げる。」
「その通りよ。だから、今のあなたは神の眼そのもの。神の眼を壊すつもりなら、近付けさせる訳にはいかないわ。」
しゅん、と落ち込んだ色を映し出すシャルティエに、ジューダスが優しさを見せる。
そっとコアクリスタルを撫でた手は、酷く優しいものだったからだ。
それを感じ取ったシャルティエは、コアクリスタルへぼんやりと光を点した。
「じゃあ他に方法があるのか?」
「そこは計算済みよ。あんた達、モルガナイトの鉱石で作った武器があるわね?それを神の眼に刺してちょうだい。」
「でも、これを刺したら〈ホロウ〉に対抗出来なくなっちゃうよ?」
「馬鹿ね。そんなの、この時代でも作ってあげるわよ。今は神の眼を壊すことが先決なんじゃないの?」
ハロルドの言葉に全員が顔を見合せて大きく頷き合う。
そして一人ひとり、モルガナイト鉱石で作られた武器を手にし、神の眼へと深々と刺していく。
その後ろではハロルドが機械を操り、何かをしている様子が見られる。
ジューダスもまた、シャルティエを他の人に託し、モルガナイト鉱石の武器を神の眼へと刺した。
「ハロルド!終わったよ!」
「うーん…。やっぱ足りないわねー。」
「何が?」
「神の眼を壊すだけのエネルギーよ。想像以上に、この神の眼の力が有り余ってる…。もっと高エネルギーな何かを当てないと無理そうね。」
『そんな…。』
「他にアテがあんのかよ?」
「無いわ。正直、お手上げね!」
あのハロルドでもお手上げだと言うのだ。
絶体絶命のピンチを迎えたカイル達は、顔を青ざめさせハロルドを見る。
しかしそのハロルドも首を横に振り、“無理だ”と感情を表している。
修羅が悔しそうに拳を握り、唇を噛んだ。
「(これで…終わっちまうのか…?スノウが頑張ってここまで切り開いたのに…。)」
「…。」
ジューダスも、打つ手なしと言わんばかりに目を閉じて顔を俯かせた。
それを見たカイル達もまた顔がどんどんと下がっていく。
絶望の空気が漂う中、遠くの方から声が聞こえてくる。
それも、聞き覚えのある声だ。
「「「「…???」」」」
「────!!」
「なんか…聞こえねぇか?」
「…ふん。ようやくご到着のようだぞ?お前ら。」
ジューダスの言葉にカイル達が目を丸くさせる。
そして扉向こうから派手に現れたのは───
「ごめんっっっ!!!!遅くなったー!!!!」
「「「スノウっ!!」」」
同時に、希望の光が見えた気がした。
走って来たからか、膝に手を置き必死に呼吸を整えようとしているスノウに、全員が期待の目を向ける。
「はぁっはぁっ…、っで?どこまで進んだ───って…!?」
神の眼を見て、目を剥くスノウに全員が苦笑を零す。
そして仲間たちを見るスノウの目は、僅かに焦りが見えていた。
「え?え? どういう状況??」
「実はな…」
修羅が掻い摘んで今までのことを話してくれる。
神の眼のこと、バルバトスのこと。
そしてシャルティエのユニットにあるエネルギーのことを。
「げ…。あの泉…そんなヤバいものだったのか……。」
『なのに素手で触るなんて!!!僕は止めてましたからね?!』
「いやいや…。君はあの時、喋れなかっただろう?!」
珍しく喧嘩が始まりそうな二人。
顔を険しくさせたスノウだったが、どこからともなく銃杖を取りだし、それを神の眼へと向けた。
「壊れないなら、無理やり壊せばいい。」
「俺も手伝うぜ?端から、そう言ってただろ?」
修羅が銃杖に触れ、そしてスノウの瞳を見つめる。
その瞳は決意に満ちた色を灯していた。
「…前にも言ったが、俺のマナをあんたに送るような事はしない。俺は俺でこの銃の先にマナを溜め込むだけだ。」
「…いいのかい?疲れてるんじゃ…」
「それはお互い様だろ?」
ニカッと笑った修羅にスノウも柔らかく笑い、二人で銃杖を構える。
そんな二人を見て、仲間たちが動き出す。
全員がスノウ達の周りに集まり、銃杖に触れてスノウを見つめた。
「私たちは、マナを持ってないけど…。」
「それでも、二人が頑張ってるのに何もしないなんて出来ないよ!」
「照準とか、反動を抑えるくらいは出来るだろうから、任せとけよ!」
「……僕も、まだマナの使い方はいまいち分かっていない…。だが、こうやって隣で声援を送ることは出来る。だから、どうか頼む。あの神の眼を壊してくれ…!」
ジューダスの真剣な表情を見て、スノウが僅かに目を見開く。
そしてニッと笑うと神の眼へと視線を固定させた。
「行くよ…!皆!」
「「「「「えぇ!/あぁ!/おう!」」」」」
銃杖の先に白い光が集まっていく。
それは時間とともに徐々に大きくなっていった。
「(修羅のマナが…銃杖の先端に集まってる…。マナの扱いはちゃんと出来るんだな…彼も。流石〈星詠み人〉。)」
関心しながら目を閉じて集中させる。
あの神の眼を砕けるほどのマナの量…。
きっと半端な量では壊れない。
あのハロルドも頭を抱えるほどの問題児のなのだから。
「…!(ピアスの液体が…どんどん減っていく…。…大丈夫なのか、スノウ…。)」
「うん、良し!良いわよ!スノウ!」
ハロルドが機械を見ながらそう言い放つ。
それに口元を緩ませたスノウは、目を開けて一気にマナを外へと放出させた。
それは狂いなく神の眼の方へと向かっていき、当たると神の眼の割れる音が徐々に大きくなっていく。
「いっけぇぇぇ!!!」
最後の力を振り絞るかのように声を出したスノウ。
その分、銃杖にかかる反動も大きくなり全員が力を込めてそれを支えた。
そして長い時間にも思えたそれは、ようやく終わりを告げる。
ピシリと嫌な音を立てた瞬間、神の眼から光が溢れだし周りを包んだ。
急いでリアラが機転を利かせたおかげで、誰も神の眼の高エネルギーにやられることもなく現代へと戻ってこれたのだった。
勿論、空中に形成されていた外殻大地は見事に吹き飛んだ。
その証拠に、現代へ戻ってきたカイル達は誰一人欠けることなく、その場にいたのだから。
「カイルー!!!」
ロニが泣きそうになりながらカイルに抱きついた。
それもそのはず。
カイルやナナリーに至っては、存在自体消えかけていたのだから、兄貴分としては心配で心配で堪らなかったのだ。
感動の再会よろしく、抱き合ってる二人を見つめる仲間たち。
そんな中、マナを使い果たしたスノウと修羅の二人がその場で倒れる。
顔を青ざめさせ、能天気にハイデルベルグの空を眺める二人に仲間たちも慌てて駆け寄れば、「暫く休みたい」と言い出した。
宿屋で休もうと提案してくれたカイルを見つつ、二人が体を起こそうとすると、スノウはジューダスが抱え、修羅は海琉が抱えてくれる事に。
「おっと…、大丈夫か?海琉」
「大丈夫……。」
「無理ならそう言え。」
「良いよ、レディ。君も疲労が蓄積されてるはずだから…」
「ふん。相手の心配をするよりまずは自分の心配をしろ。…馬鹿者。」
「(あー…。ピアス見られたかな…?)……じゃあ、甘えますよ、っと。」
そう言ってスノウは、ジューダスの肩に顔を埋めて寝る格好になる。
僅かに体を強ばらせたジューダスだったが、すぐ横で静かなる寝息が聞こえ始め、強ばらせていた体を解き、思わず口からは溜息が出た。
「…無茶のし過ぎだ。…馬鹿。」
『僕がお役に立てなかったから…。』
「いや、それは関係ない。こいつの危機管理がなってない証拠なんだからな。」
『坊ちゃん…! 分かりました、そう思っておきますね。』
「ふん。別れが来るかと思って身構えていたが……まだまだ一緒になりそうだな?シャル。」
『逆にちょっと安心してます! 坊ちゃんが告白するのをこの目で見るまで、成仏出来ないと思ってましたから!』
「何を言っている。お前なんかいつでも捨てれると言っているんだぞ。」
『えええぇぇぇえ?!!そっちですかぁ!??』
そんな賑やかな会話を、寝ていたスノウが僅かに聞いていた。
そしてその口元は、優しい微笑みで満たされていたのだった。