第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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リアラが目を覚まさないまま二日が経った。
未だに目を覚ましそうにない彼女を心配そうにカイルとロニが見ている中、私はリーネ村の中を歩いてみていた。
村と呼んでも遜色無いほど豊かな土地柄と、村人の人柄。
人口が少ないが故に噂はすぐ広まるようで、私の噂を聞いていた村の子供達が私の周りを囲っていた。
「ねえねえ!声が出ないって本当?!」
「それって痛いのー?」
「お前ら、しつれいだろ!?」
元気な子供達だ。
過疎化はしていないようで、村の子供達は意外にも多い。
遊んで欲しいのか私から離れない子供達に目線を合わせ、笑うと元気よく向こうも笑ってくれる。
「《ここはどんな所か教えて貰えるかな?》」
「ここ?ここ、なんにもないよー?」
「畑ばっか!!」
「虫が沢山いるー!」
「あ、でもすごい場所があるんだ!!」
その言葉に村の子供達は良い事を閃いたとばかりに私の手を取りどこかへ引っ張っていく。
この村にすごい場所……?
原作にはなかったがどんな場所だろう、と子供達にされるがままに引っ張られていくと村から離れてしまうので目を瞬かせた。
「《大丈夫?村から離れてしまって……》」
「大丈夫だって!」
「ここらへんモンスターいないから大丈ー夫!」
「それより姉ちゃんに良い物見せてあげる!!」
絶えず言葉が交わされる中、子供達に連れてこられた場所を見て息を呑んだ。
そこは辺り一面、見事な蓮の花が咲き誇る場所だった。
蓮の花といえば桃色が主流だが、ここには白や桃色、濃い桃色や白に近い緑など様々な色をしていた。それがとても神秘的で、とても素敵な場所だというのは子供達にも共通して分かるらしい。
原作にはなかったこの場所。
科学では証明できない、見る者を魅了する何かがそこにある気がした。
「へっへーん!キレイだろー!?」
「ここ、わたしたちの秘密基地なのー!」
「近くに寄ったら落ちちゃうからあぶないよー?」
それもそうだ。
蓮の花は水の上に浮かんでいるものだから、近付けば否応なしに落ちることは目に見えていたが、子供達の有難いアドバイスに笑顔で頷いた。
こんな素敵な場所を教えてくれた可愛らしい子供達に何かお礼がしたい。
そう思うほどここは素敵な場所だ。
少しだけ頭を悩ませたが、子供達には囁かな物より明確な物でないと喜ばないだろう。
徐ろに手を伸ばし指を鳴らす。
すると蓮の花から光り輝く蝶々が生まれ、空へと飛び立っていく。
その色は蓮の花と同じ色。
ヒラヒラと舞う姿はとても綺麗で、日中でも光り輝いているのが分かるくらい明らかな発色をしていた。
「うわぁ!!」
「すごーい!!きれーい!!!」
「お姉ちゃんがやったの?!すごーい!!」
喜んでもらえて何よりだ。
私の元を離れ、蝶々を追いかけていく子供達に笑った。
……知ってるかい?
蓮の花の花言葉は【清らかな心、雄弁、離れゆく愛】……そして、【救済】なんだよ?
前世の私にピッタリの花言葉じゃないか。
そう思って自嘲気味に笑ってしまう。
何の因果か、この花を見せてくれた子供達に悪気はないだろうが、まるで運命だと言われているようだ。
前世での自分の行動に勿論悔いなどない。
だが、心のどこかでリオンとずっと友達としていられる世界線もあったのではと思う自分がいることも確かだ。
それは本当にほんの少しばかりの思い、だから悔いなどないのさ。
そう自分に言い聞かせるように…、噛み締めるように天を仰いで瞳を閉じた。
……蓮の花の香りが鼻孔を擽った。
*:..。o○☆ *:..。o○☆ *:..。o○☆ *:..。o○☆ *:..。
そろそろ戻らねば村の大人達が心配しているだろう。
そう思い声を掛けようとして声が出ないことに気付く。
最近その事を忘れそうになっていけない。
フリップを出しそれを掲げたが、子供達は未だに蝶々に夢中だ。
それに苦笑し、再び指を鳴らす。
すると蝶々が光の粒になって消え、子供達から残念そうな声が上がる。
そしてようやく私の持っているフリップに気が付いて近くに寄ってきてくれた。
「《そろそろ戻らないと皆心配してるよ。》」
「そういえば、そろそろ晩飯だ!」
「手伝いにいかないと怒られちゃう!」
「早く行こーぜ!?」
慌てて子供達が帰ろうとするが、その目の前に恐ろしい声を出し威嚇をする魔物が現れ、子供達の行く先を遮った。
子供達が悲鳴を上げ、中には腰を抜かす者もいる。
すぐに自身の得物を掴み魔物に斬りかかった。
「お、お姉ちゃん…!!」
「モンスターなんて今までいなかったのに!!」
「こわいよーーー!!!」
子供達が不安そうな声を出す中、次々と魔物を斬り捨てて行くがどうにも数が多く、時間がかかるのは明白だ。
フリップを出し子供達に指示を出す。
「《今のうちに村に帰ってください!》」
「で、でも…!」
「姉ちゃんはどうすんだよ!!?」
「こわいよー!!!」
「《私のことは大丈夫ですから、急いで!!》」
腰を抜かしている子供を連れ、子供達が走っていく方面の敵を蹴散らしていく。
子供達が走り去ったのを確認し、魔法を使う。
「(ライトニングブラスター!!)」
敵に気取られない為に、無言で使用する魔法は前世から変わらない。
光が上空より降り注ぎ直線上の敵を消し去っていく。
ここら辺の敵なら楽勝だ。
なんせ、前世のスタン達より遥かに弱いのだから。
レンズになっていく魔物を無表情で見つめ、自身の得物を再度見る。
私は……カイル達に戦えると話した方が良いのか?
そういえば、彼らの前では戦ったことは無かったように思う。
ジューダスの前では仕方なく使ったが、カイルやロニ、リアラの前では無かったはずだ。
答えが出ないまま、辺りを見渡す。
敵の気配も消え、他に何の気配も感じない為村への帰路へ就く。
子供達は大丈夫だっただろうか。
怪我はしていないか、魔物に出逢っていないか。
そんな心配が頭を過ぎるが、それも杞憂に終わりそうだ。
「お姉ちゃーーーん!!」
「助っ人呼んできたー!!!」
子供達がカイル達を連れてきたのだ。
苦笑いしながら頷くと、子供達が私に群がり必死にしがみつく。
「ごめんなさいっ!!」
「まさかモンスターがいるなんて思わなくて……」
「けがしてない?」
「《大丈夫ですよ。皆も怪我はない?》」
「「「「大丈夫ーー!!」」」」
「《なら良かったです。素敵な場所を教えてくれてありがとうね。とっても良かった。》」
「こちらこそありがとーなのー!!」
「安心したー!!」
「また一緒に行こうなー!!」
泣きそうな顔から嬉しそうな顔になって、子供はとにかく忙しい。でも、元気が一番だ。
子供達の頭を撫でているとカイル達が困ったようにこちらを向いているのに気が付いて首を傾げた。
「えっと、スノウ。敵は?」
「《倒しましたよ。》」
「え?!スノウって戦えるの?!」
「怪我はしてねぇか?」
「《はい、大丈夫です。この通りピンピンしていますので。》」
「……」
訝しげなジューダスの視線に気付かぬフリをして、カイル達を見遣る。
大丈夫だと分かったのか、ほっと安心したような顔をして武器を仕舞っていた。
すると子供達は今度はカイル達へと突撃し、遊んでとせがむ。
「《皆、お手伝いはしなくて良かったの?》」
「「「「あーーー!!?」」」」
思い出したかのように慌てて村の方へと走り去る子供達。
それに全員が笑いながら見送った。
「スノウって子供の扱い上手だね!!」
「やっぱりそこは女性だよなー?お手の物って感じだったぜ?」
「《そんなことはありません。でも、子供は好きですから、それもあるのかもしれませんね。》」
「「へぇー!」」
カイルとロニが感心したように声を揃えて感嘆する。
子供は単純で可愛らしい。
日本にいた頃はあまり馴染みがなくて苦手だったのだが、今こうして触れ合ってみると可愛らしいものだ。
村へと戻る道中はカイル達が育った孤児院の話を聞かされ、それに相槌を打った。
やはりそこには母親や父親の話もあって、彼らがすごく尊敬していてそして、愛し愛されているのが分かる。
あの二人の子供だからこそ、こんなに真っ直ぐに育ったのだろうなと感じさせられるほどカイルは馬鹿正直で、真っ直ぐだった。
前世で戦った彼らの顔を思い出す。
恐怖や、悲壮感、憤怒……。実に複雑な顔をしていた。
特に複雑な顔をしていたのはウッドロウ、スタン、そして……リオンの三人だった。
ウッドロウはファンダリア国王の息子で、ファンダリアにいた頃実際にお会いしたことはなかったが、私が自国の有名人ということもあってあんな顔をしていたのかもしれない。
スタンは恐らくリオンとウッドロウの表情を見て自分の事のように心を痛めたのだろう。
リオンは……友達だったから、と言ってくれるだろうか。いや、裏切り者である私と友達になるのは止めた方がいい。
そう思うとまずいことをしてしまったな、と思えてしまう。
今更どうしようもないが、それでも少しばかりの後悔が生まれようとしていた。
「スノウ?」
立ち止まってしまった私を心配して、カイルが声をかけてくれる。
それに首を横に振り、早足でカイル達に追いつく。
……私の顔は今どんな顔をしているのだろうな…?
目を閉じ自嘲した私は、その一瞬で無理矢理、気持ちに整理をつけた。
いや、考えないようにした。
だって、今更なのだから。
私はどんな結末を迎えようとも、ずっとあの悪夢を見続けると決めたのだから。
それが私の……【スノウ・ナイトメア】の運命だから。
髪が前から強く吹いた風に浚われ、大きく揺らいだ。
まるで自分の未来は向かい風なのだと言われているようで、顔を腕で覆い風をやり過ごした私は再び自嘲したのだった。
「……」
『坊ちゃん……』
再び向かい風が大きく吹いて、それは皆の足を止めるには充分だった。
そして聞こえる笑い声。
すぐに歩を進める彼らと彼女を見てジューダスは一度目を伏せた。
「ジューダス!!早くー!!」
「……今行く」
こちらも気持ちに無理矢理整理をつけたようで、その足取りは先程より確かだ。
それぞれの思いが交錯する中、彼らは進むべき未来へと進んでいく。
魔の手が忍び寄っているとは露知らず。