第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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___〈世界の神〉の神域
「お久しぶりですね、神様?」
「よくぞ気が付きましたね、スノウさん。」
「そりゃあ、あんな光り輝かせて……更に声まで聞こえてきたら誰だって気づきますよ。」
「それより、久しぶりにあって敬語に戻るなんて。酷くないですか?他人行儀すぎませんか?」
「逆に君はいいのかい?君はずっと敬語だ。」
「私はいいのです。これが板についてますから。」
「そ、そうか…。で、私を呼んだ理由は────と聞きたいところだけど。」
「分かっていますよ。彼のこと、ですね?」
初めから分かっていたように、神はそう告げる。
それにゆっくりと頷いたスノウだったが、何処か緊張をはらんだ顔つきをしていた。
それを見た神様はニコリと笑って、スノウを見遣る。
「“寝ている”というのは、本当の事です。ただ、彼は今、自身の〈御使い〉としての仕事に追われている……といったところですか。……〈夢の神〉は、人使いが荒いですからね。」
「……そういえば、レディが休む前に“嫌な予感がする”って言ってたけど……」
「もしかしなくとも、そうだと思いますよ。〈夢の神〉の声が直接聞こえていたのだと思います。貴女に彼女の声が聞こえないのと同様に、彼もまた、私の声は届きませんから。あの像に触れたら聞こえるかもしれませんが。」
「とにかく、彼は無事なんだね?」
「えぇ。そこは心配ないかと。」
「はぁぁぁぁぁ……。本当に良かった。」
項垂れて肩を落とすスノウを見て、神が笑う。
そして優しい双眸を覗かせた。
「……本当に、彼が大事なんですね。」
「そりゃあ、命にかけても守りたい人だからね……。そんな彼が死んだなんて……洒落にならないよ。きっと生き狂う自信がある。うん。」
「サラッと物騒なことを言わないでもらえませんか?〈狂気の神〉の喜ぶ姿なんて、私は見たくありませんからね?」
「あぁ、そうか……。〈狂気の神〉は人間の狂う姿を見るのが仕事なのか…。」
「仕事と言いますか…。愉しんでいるだけだと思いますよ。」
「そっか。」
そう言ってスノウが姿勢を正すと、神はこれみよがしに「ごほん」と咳払いをした。
神もまた姿勢を正して、スノウを見つめる。
その瞳は真剣さを孕んでいた。
「……私に用事があるんだろう?わざわざ私がここへ来ないと行けなかった、その理由を聞いても?」
「向こうでは話せない内容だからです。」
「……マナ関係の話、か…。」
〈世界の神〉だけあって、彼が話す事と言えば…世界のマナがどうたらこうたら、とか。
マナのこと関しては、口煩く言ってくる彼の事だから、きっと今回もマナの事について何かしら言ってくるのだろう───
「酷いです、スノウさん。私、まだ何にも言ってませんのに…。」
「…心の声が聞こえてるの忘れてた…。」
思わず口走った……いや、心走ったようで。
神にはどうにも筒抜けだった。
「そう言えば、〈機械の神〉にお世話になった様ですね?」
「話が逸れてるけど…。まぁ、そうだね。確かに彼にお世話になったよ。紳士的な彼に、ね。」
「まるで私が紳士的ではないような言い草ですね…?」
「そんな事はないよ。君はいつも私を心配してくれているし、対応も紳士的だと思うよ?」
「ありがとうございます、スノウさん。神として、少し自信がつきました。」
うむうむ、と神が頷く。
それをスノウが見て、微苦笑を滲ませていた。
やはり神も体裁とかを気にするらしい。
「さ、本題へ入ろうか。」
「そんなに急かさないでください。私と貴女の仲じゃないですか。」
「いや、別にいいけど…。彼が起きていたらまた説教が来そうなもんでね…?それが怖いんだよ。」
「それなら大丈夫です。まだ〈夢の神〉は彼に仕事をさせて、こき使わせる気満々ですから。」
「……ジューダス、大丈夫かなぁ…?怪我してないと良いけど…。」
思い馳せるは、彼のこと。
怪我をしていないか、苦労していないか。
辛くはないのか、痛い目にあってないだろうか。
そんな事ばかり考えて、そして神が優しい顔で自分を見ている事に気付く。
「そんな優しい貴女だからこそ、〈機械の神〉も、その〈御使い〉もまた、貴女を見て、そして手を差し伸べたくなるのでしょうね。」
「そうかな?」
「えぇ、私が保証しますよ。」
神からのお墨付きを貰って、何処かくすぐったくなったスノウは、はにかんだ。
しかしすぐに表情を元に戻して、神を見上げる。
その表情を見て、神もまた真剣な表情へと一変させる。
「貴女は、〝魂の平安〟という言葉を聞いたことがありますか?」
「そりゃあ、まぁ…。地球時代では聞いたことのある単語だったね。確か…カタカナ表記で何かあったはず…。」
「〈アタラクシア〉。」
「そう!それだ!」
「やはりご存知でしたか。流石ですね。」
普通の一般人であるならば、その言葉は聞いたことがないだろう。
だがしかし。ここにいるスノウは、二次創作という二次創作……それも夢界隈をひたすら見てきて、そして漫画や本も嗜むほど日常的に文学に触れてきている。
それらの単語に強い、というのは彼女の強みであった。
「実は…この世界ではなく、別の世界での話になりますが…。マナを必要としない“神”が現れたのです。」
「……それは、また…突飛な話だね?私に聞かせて良い話なのかな?」
「言えない案件なら貴女に端から言いませんよ。」
表情の真剣さはずっと続いていて、茶化す場合では無いことが窺える。
だが、適度に冗談も言っておかないと、何か大切なものを失う気がした。
これから起こるだろう、その何かを聞いてしまえば後戻りなど出来ないだろうから。
「そして、その“神”はマナを必要としない人類を必要とした。」
「……まさか。」
「えぇ、お察しの通り…。今貴女の居る、あの世界の人間に目を付けたのです。」
「だとしても、私には関係の無い話だろう?マナが必要か必要じゃないかなんて、大した違いじゃない。」
「…それが、関係あるのです。これには〈機械の神〉もあの〈狂気の神〉でさえも、危機感を抱いています。彼らもまた、マナを必要とする部類の神に入るので。」
「……それは厄介だね。と、言うより。地球の方が魔法とか馴染みないからピッタリだと思うけど?」
地球で魔法を使える人間なんて、一人もいない。
それこそ、人によっては“マナ”とか“魔力”なんて存在を信じない人もいるだろうし、そういった人材が必要ならば地球はうってつけのはず。
なのに何故、そのマナを必要としない“神”はあの世界の人間に目を付けたのか。甚だ疑問でしかない。
「…あの世界では元々の宗教が盛んで、他の“神”の入る余地なんて、無いんですよ。」
「だからって…何故ここに…。」
スノウが愚痴ってしまうのも仕方がない。
次から次へと、自分の知らないところで厄介事が舞い込んでしまうのだから。
「その“神”のやりたい事って言うのは?」
「……世界からマナを消すこと。」
「なるほど。私達の存在を端から否定されてるって訳だ。だから私に関係のある話だったのか。」
「それもありますが…。貴女に聞かせたい話はそれだけではありません。」
「まだあるのか。」
スノウが僅かに顔を顰めさせると、〈世界の神〉はくすりと笑った。
それだけでも、少しだけスノウの気が緩んだ気がした。
「その“神”は新たな宗教を人類へ布教しようとしています。それが───」
「〈アタラクシア〉…という訳だね?」
「察しが早いのは嫌いではありませんよ?」
「〈アタラクシア〉……、魂の平安……か。」
魂の平安という言葉を異国語で〈アタラクシア〉と呼ぶ。
だが、マナが無ければ植物も動物だって育たない。
なのに彼らは何故、魂の平安などと名前を付けたのだろう?
「マナの無い世界こそ、人の生きる希望となる。マナがあるからこそ、人は醜くなり、争いが生まれる。……あの“神”はそうお考えのようです。」
「…厄介だね。」
「世界からマナを無くそう。……それが〈無の神〉の理なのです。」
「〈無の神〉……、そして、〈アタラクシア〉か…。頭が痛くなってきた…。」
頭を押えながら険しい顔をさせるスノウへ、神がこっそりと笑った。
しかし笑われたことが分かったのか、スノウは更に険しい顔をさせる。
「逆に、他の神様は手伝ってくれないのかな?例えば、強そうな〈狂気の神〉に頼み込むとか。」
「貴女が頼んでくださるというのであれば、大丈夫かと。私が近付けば、かのお方は敵対心を剥き出しにして牙を向けてきますから…。」
「へぇ?意外だね。君達、仲が悪いんだ?」
「私は良いと思ってますよ?私は、ですが。」
「それ、自分だけが思ってるパターンじゃないか…。」
“神”同士でも、仲の善し悪しがあるのが不思議でならない。
不可侵条約だとか、そういう物が有ると聞いた時にも驚いた気がする。
神達のちょっとした関係性が、人間には少し想像がつかなくて驚くのかもしれないが……案外、人のそれと似たようなことだったりして。
垣間見えた“神”の弱々しい姿に、スノウがおかしそうに笑う。
それを見た〈世界の神〉が少し安心した姿を見せる。
「マナが無くなれば貴女は生きられない。それはあの世界を生きる〈星詠み人〉の特徴であり、マナを持つ全ての人間に言える事です。」
「うん。」
「森羅万象……その全てに宿る物もマナです。ですから、マナは世界に無くてはならないもの…。」
「そうだね。私もそういう認識でいるよ。」
「だからこそ、貴女は世界へマナをもたらす存在として私の代わりに世界へと降臨しているのです。」
「降臨って…。私は“神”じゃないよ。ただの人間だ。」
「同じようなものです。ですから気をつけて欲しいのです。〈無の神〉は、マナを精製し、世界にマナを満たす事の出来る貴女から先に抹消させようとしてくるでしょう。」
「……。」
「もし、彼の者たちが貴女に危害を加えようものなら、私達“神”も黙ってはいません。それこそ、先程貴女が申した通り、〈狂気の神〉も貴女に力を貸してくれるでしょう。貴女にはその素質がある。くれぐれも忘れなきよう…。」
「他の神に現を抜かすことはない。それは私の神である貴方に知ってもらいたい。」
「…えぇ。充分、伝わってきていますよ。貴女の心を通じて。」
穏やかな表情をする“神”は、自身の〈御使い〉を見つめる。
こんなにも逞しく成長して、こんなにも頼もしく在れる存在となった〈御使い〉。
心の底から喜ばしいことであった。
それと同時に心配になる。
向こうの神が何をしてくるか、見当もつかないのだから。
「一応言っておきますと、神にはこのような神域がある他。“幽世”と呼ばれる特別な神域の2つがあります。……貴女は他の神から見て、充分に魅力のあるお方ですから話しておきますが…。決して、幽世へ誘われてはいけません。人間がそこに入れば……一生出られませんから。」
「二つの神域があるメリットは?」
「メリット…と言いますか。“あれ”は、神達にとって特別な───それこそ自身のお気に入りを閉じ込める場所としてあるのです。」
不穏な言葉たちに、一瞬だけ空気が凍りつく。
スノウが言葉を失った事で、少しは理解してもらえたと“神”は安心していた。
スノウも聞いたことがある話だ。
地球でもよく言われていた、“神隠し”という現象を。
「色々言いましたが、くれぐれも神隠しなんてされないでくださいね。他の神に気に入られて、幽世に囚われるなんてことがないように。」
「それ、人間で防げる事案?私でも分かる?その幽世とやらは。」
「すぐに分かりますよ。その場の空気とマナの質で。」
「……分かりたくないんだけどね。」
遠い目をしたスノウは、一度頭の中を整理することにした。
新たな存在〈アタラクシア〉とその元締めである〈無の神〉。
そして〈幽世の世界〉…。
いつもここに連れてこられては、膨大な量の言葉を教わるものだからたまったものじゃない。
スノウは暫くその場でしゃがみこんで、頭を押えた。
複雑な顔をしたその表情から、頭がいっぱいいっぱいだと伝わってくるほどである。
「少し休憩なさって下さい。…それこそ、私の幽世に行ってみますか?」
「…遠慮しておくよ。」
「えぇ。それで良いのです。“神”への誘いは断ってくださいね?全て、ですよ。他の神に気に入られるのも大概にしてください。」
「えぇ…?」
いつの間にか説教じみた言葉が、“神”の言葉の節々に現れる。
理不尽な言い回しに、スノウも笑っては困った顔をさせる。
そうして二人は、暫くの間会話を楽しみつつ、適度な休憩も挟むのだった。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○。・.: * .。○・*.
「……。(そろそろ、レディの方は終わったかな…?)」
「彼ならまだまだ掛かりそうですよ?」
「…本当にエニグマは、彼をこき使ってるんだね…?」
「えぇ。喧嘩しながらやられてますよ、彼も。」
「簡単に想像つくなぁ…?」
元々二人の相性はあまり良くなさそうに見えた。
最初、ハイデルベルグで彼を紹介した時にはまだその片鱗を見せてなかったが…。
いつの間にやら彼がエニグマの〈御使い〉となり、そして仲が悪いときた。
二人にとって、〈御使い〉と神の関係は辛いものだろうに、何故そうまでして彼を〈御使い〉とさせるのか。
「それは、お二人にとってもメリットが大きいからですよ。」
「…あぁ、そうだった。読めたんだった…。」
「慣れないようですね。」
毎度の事ながら忘れてしまう。
相手が心を読める“神”だということを。
「彼女は〈御使い〉を使い、世界の安寧が図れる。そして彼は、〈御使い〉となる事で貴女と同じ立場となり、そして同時に貴女を守れる存在となれる。だから二人にとって、メリットも大きいのです。」
「…待ってくれないか。それって、ジューダスにメリットなんて無いじゃないか。なのに何故…」
「あの出来事が大きいと思います。〈狂気の神〉が貴女に入り込んだ、あの事件の事です。」
以前…といっても、そんなに前のことでは無い。
〈赤眼の蜘蛛〉の研究所のあるレスターシティで彼らと懇親会をしている最中、スノウの中に〈赤のマナ〉が入り込み、マナが侵されてしまったことがあった。
セルリアンはどうやら最初から気付いていた様だったが、スノウ自身が気付いていなかった。
だからあんな悲惨な事件が出てしまったのだ。
ジューダスも死にかけ、周りの人間にも迷惑をかけた、あの凄惨な事件だ。
「…あの事件はあまり思い出したくないことの一つだなぁ…?」
「まさか、彼が貴女の体の中に入ってくるとは思いもしませんでしたよ。…お陰で、貴女を盗られるかもしれないという危機感が出来ましたよ。」
「そういえばあの時、神様も私を助けようとしてくれてたんだって?像から光が出てた、って皆が言ってた。」
「えぇ。あの時は苦労させられました。貴女の中のマナがあまりにも赤く染ってしまっていたので、私の力が及ばず、泣く泣くあの形で助けることに…。」
「それでも助かったよ。そのお陰で、ジューダス達はエニグマの元へ辿り着いて、私がこうして生きられたんだから。」
「あの時の彼女…かなり怒ってましたからね…?」
「彼女?」
「〈夢の神〉……貴女たちがエニグマと呼んでいる存在のことです。」
そう言えば、〈世界の神〉である彼が〈夢の神〉をエニグマと呼んでるのは聞いたことがない。
お互い、何かあるのだろう。と完結させる事にしたスノウは、“神”を見上げながら苦笑した。
「君も苦労性だね。」
「そうなんですよね…。スノウさんだけですよ。分かってくださるのは。流石、私の認めた〈御使い〉です。」
「逆に、〈御使い〉に見放されたら、それはそれで危ない気がするけど…。」
「ですが、現実、そういう方もいらっしゃいます。力関係が真逆な、そんな関係のお二人も。」
「へぇ?会ってみたいな、他の〈御使い〉も。」
「〈御使い〉と言えど人間ですから、自ら発信しない限り、相手が〈御使い〉だと分からないと思います。」
「それなら、相手のマナを見てみるよ。あの世界には赤と薄紫、それから鉄色のマナしかないからね。」
「それが手っ取り早いかもしれませんね?」
そんな他愛のない話が楽しくなる頃、ふと、“神”が爆弾発言をする。
「────あぁ、それから。そろそろ戻らないとまずいかもしれませんよ?」
「え?」
「貴女が気にしていた彼も、現実世界に戻っています。何より、どうやら“お話”も進んだようで。」
「え、ちょっと。何で言ってくれなかったのかな…?!」
「すみません、貴女との話が楽しくて楽しくて。」
「いや、私も楽しかったけど…!!」
こうしてはいられない。
早く帰って、ストーリー………原作を進めてもらわねば困る。
こうしてスノウは原作を進んでいる皆の元へ帰っていくのだった。