第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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112.
____〈赤眼の蜘蛛〉の拠点のひとつ、〈レスターシティ〉研究所内
あの戦いの後、研究所内の食堂にて椅子へと座り、事の流れを話したジューダスとスノウ。
シャドウやアスカと契約したこと、別の神にお世話になっていたこと、ルーカスのこと、そして元素の森で死にかけて、ここで起こった全てを皆と共有した。
カイル達も元素の森で2人を見失ってから、修羅の提案でこの〈レスターシティ〉へと来た事を告げられる。
ここへ来れば、〈赤眼の蜘蛛〉の情報が多少なりとも集められ、2人の行方が分かるかもしれないから────と話したカイルだったが、申し訳なさそうな顔をしてジューダスとスノウの2人を見ていた。
「ごめんね、2人とも…。逆に助けられちゃったよ。」
「無事で何よりだよ。」
「まぁ、ここに来たのは確かに英断だったな。僕達はここで捕まっていたからな。」
「しっかし……“神”の力を持ってすれば、この建物の半壊もすぐ直るんだね…?あんな勢いのある水で、こんな大きな建物が半壊するくらいの威力だよ?他に被害が無かったのが不思議だよ。」
スノウが建物内を見上げて、感心した声を出したことで全員の顔が和らいでいった。
さっきまで事が事だった上に、スノウ達の近況を聞いただけでも手に汗を握るものだった。それなのに、こうして空気を変えてくれたスノウに全員が心から感謝していた。
「ふわぁ…」
「感心した次は眠くなったのか?忙しいことだな。」
「仕方ないじゃん。マクスウェルとの契約で半分近くマナが持ってかれたんだから……。」
椅子にぐったりと座ったスノウを見て、リアラとナナリーがクスリと笑う。
ようやく仲間が揃ったのだ。
今少しだけ、休憩したところでバチは当たらないだろう。
「ねぇ、スノウ?折角なら温泉に行かない?」
「お、良いね!レディの案に乗った!」
リアラの言葉に椅子から飛び起きたスノウはニヤリと笑い、指をパチンと鳴らす。
そして誰よりも早く立ち上がると、リアラやナナリー、そしてハロルドと共に食堂を後にしてしまった。
置いていかれた男性陣らは、目を点にさせて女性陣を見送る羽目になり、暫く沈黙が訪れる。
「……あいつら、呑気すぎねえか?」
ロニの言葉に全員の心はひとつになった。
頷いていた男共だが、その内の一人、海琉が立ち上がったことで視線はそっちへと向く。
修羅がどうしたか聞けば、海琉がなんて事ない様子で答える。
「……おれも温泉、行く……。」
「…ちょっと待て?お前一人じゃ、何しでかすか分からねぇ…。俺も行く。」
「じゃあ、オレも!」
「結局俺たちも入るんじゃねえかよ。」
「嫌なら入らなければいいだろう?」
「けっ!そんな寂しいこと言うなよ!お前も行くだろ?ジューダス。」
「…まぁ、行ってやらなくもない。」
流石に気を使ったらしいロニがジューダスの肩を組めば、ジューダスが嫌そうな顔をしてロニを見上げる。
しかしロニにはそんな視線など効くわけもない。
結果、全員が温泉地へと向かうのだった。
……ひとつ言うならば、女性陣と男性陣は違う温泉に入っていた、ということだ。
だから覗きも無かったし、なんの問題も起きなかったのだ。
____〈レスターシティ〉、温泉宿
温泉から上がった女性陣はそのまま誰もいない宿を借りる事にした。
あの研究所を半壊させるほどの水が周りにも影響したらしく、〈レスターシティ〉に〈星詠み人〉やら観光客など一人も見当たらなかった。
つまり、スノウたちの貸し切りなのだ。
「カイルや皆は、まだ研究所の食堂にいるのかしら?」
「……いや?こことは別の温泉施設で温泉を楽しんでいるようだよ?」
「なら、アタシたちはここで休ませてもらおうか!」
「私は研究で忙しいから。あんた達は先に休んでなさいよ。特に、あんたはしっかりと休むのよ?そのピアス、どうせあんたの中のマナの量を表した何かなんでしょ?」
「え、凄いね…?流石、ハロルドだよ。」
「見れば分かるわよ。ったく……。全然マナが無いじゃない。」
そっと立方体のピアスに触れるハロルドは、少しの心配をしている顔をさせていた。
それを見てスノウは、笑顔でハロルドを見てお礼を言っていた。
「はいはい。お礼なんて良いから早く寝なさい。」
「分かったよ。」
こうして仲間たちはそれぞれの時間を過ごす。
ある者はマナを回復させるために早寝をし、ある者は研究に励み、ある者は鍛錬を積む。
そんな仲間たちだったが、翌日ともなれば各々何も言わずとも集合出来ていた。
朝から稽古を欠かさずやっているスノウとロニ。そこにジューダスと修羅も仲間に入れば稽古も大所帯となる。
カイルがたまに起きれて、稽古をしていたが今やその場所には修羅が居着いていた。
「はっ!」
「ふっ…!」
お互いに切磋琢磨出来る相手であるが、二人がそれを相手に言うはずもない。
彼ら二人はお互いに恋のライバル、と言うやつなのだから。
ライバル意識を持つお互いが嫌煙しあうのも無理は無いようだ。
それも助長してか、稽古となると本気の打ち合いとなるのだから、これまた仲間たちが心配する。
しかし最後はどうせ互角で終わるのが関の山だった。
「……ねぇ、ロニ?」
「あ?なんだよ。」
「あれ、いつまで続くと思う?」
「そりゃあ……。…………永遠に?」
「だよねぇ?二人とも仲が良いね。」
「(いや…どう見てもお前さんが原因だと思うが?)」
未だに稽古を続ける二人を見て、ロニが複雑な顔をした。
その隣では「仲が良いなぁ…?」と顔を綻ばせながら見るスノウの姿があったのだった。
「────え?何?まだ研究し足りないわよ。」
また違う所ではそんな話が上がっており、リアラとナナリーの炊事組がハロルドと話していた。
研究の事となると人が変わるハロルドを何度も見てきた二人だった為、何にも言えなかったがそうもいかない。
ここは敵地。
いつ戻ってくるか分からない敵地のど真ん中で、それこそいつまでも休んでなどいられない。
だからこそ、二人はハロルドの言葉にお互いに顔を見合せ困った顔をさせていた。
「大丈夫よ。スノウのピアスを見てみなさい。」
「あの子は今、他の皆と稽古中───」
「だーかーら!帰ってきてからでもいいから見てみなさいって!多分、碧の液体が完全にピアスの中に満たしてないと思うから。…じゃ、そういう事で~☆」
そう言ってハロルドはナナリーお手製のおにぎりを持って出かけてしまった。
ナナリーが大きく溜息を吐き、リアラは心配そうに見送る。
こうして仲間たちは本日も何の進展も無いまま、各々で時間を潰す羽目になったのだった。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○。・.: * .。○・*.
「ジューダス。」
「どうした。スノウ。」
チラッとピアスを見たジューダスは、そのまま顔を顰めさせる。
立方体のピアスには半分も満たないほどの碧の液体が波打っていたからだ。
「…お前、昨日ちゃんと休んだのか?」
「え?何でかな?」
「全然マナが回復出来ていないではないか。」
「まぁ……、ここ、敵地だしね? それに、少しでも気を張ってないと〈赤のマナ〉に侵されそうで…。……少し、怖いんだ。」
ジューダスから視線を外し、そのままで話すスノウ。
そんな彼女を見て、ジューダスが長い溜息を吐き、そしてスノウの腕を取った。
「お前が何の話を持ちかけようとしたのか知らないが、今日は僕に付き合ってもらうぞ。」
「え?うん……分かったよ。」
「ついてこい。」
強引な癖に、歩調はスノウに合わせている。
それが分かったからこそ、スノウは彼に分からない程度に笑顔になった。
口下手な彼だけど、心は人一倍、優しいと知っているから。
「……で?何処に行くんだい?レディ。」
「だから僕はレディじゃない。それから、行く場所だが……」
そう言葉を濁した彼は、急に立ち止まる。
何かあったのか、とスノウが探知を行えば探知上には何も引っかからないし、周りを見ても何も無い。
「はて?」とスノウが首を傾げると、眉間に皺を寄せた彼がスノウの方へと振り返る。
「…嫌な予感がする。」
「え?」
「まぁ…いい。行くぞ。」
そう言ってスノウが連れてこられたのは、何処かの温泉宿だった。
和室から洋室まで完備しているその宿に立ち入ると、容赦なく中へと入っていき、ジューダスは適当な部屋へとスノウを連れ込んだ。
そして、彼女の肩を押しベッドへと押し遣る。
「…ここに居てやるから、さっさと寝ろ。」
「え?でも…」
そう言って、スノウはすぐに気付いた。
マナが完全では無い自分を心配して、そう言い出してくれたのだと。
しかし眠ろうにも眠れない。
一応夜は寝たし、程よく稽古もして体が温まっている。
そんな状態で寝ろ、というのは……スノウには難しそうであった。
「うーん…。寝れそうにないけど…頑張ってみるよ。」
「そうしろ。」
ベッドで横たわるスノウ。
ふと、前にもこんなことがあったなと過去を思い出し、それが彼にバレてしまう。
「…何も考えるな。阿呆。」
「いや、前にもこんな事あったな、って思ってね?」
「…良いから寝ろ。」
ベッドの端に椅子を持ってきてそれに座ったジューダスは、いつまでも寝そうにないスノウをひと睨みする。
それに気の抜けた返事を返せば、ジューダスの眉間の皺が深くなってしまった。
「……。」
「……。」
「……ねぇ、レディ…?」
「何も考えるな、と言ったのが聞こえなかったのか?」
「ふふ…聞こえてたよ。でも…今、一つだけ言っておきたいことが…あってね?」
「何だ。」
徐々に言葉の節々の声量が小さくなっていく。
目がとろんとして来て、ようやく眠れるようになったかとジューダスがこっそりと息をつきながらも念の為、話を聞く体勢になる。
「…あの首輪……はずれたから……、今度……でーと、しよ…ぅ…。」
「……。」
黙っていれば、どうやら眠りの淵に入ったようでスノウの目は閉じられ、密やかな寝息が聞こえてくる。
すると立方体のピアスが彼女の首筋をコロリと転がり、少しだけ光を帯びて揺らいでいた。
半分にも満たなかった液体もほんの僅かだが、ピアスの中で増えて、かさを増した気がした。
「……デート、か…。」
『そういえば、ハイデルベルグ以降行ってないんじゃないですか?』
「…そうだったな。」
ジューダスがそっと右手の小指の指輪に触れる。
初めてのデートはノイシュタットで、彼女から紫水晶のピアスを貰った。
そして次がハイデルベルグ。
そこではこの不思議な色を持つ宝石がつけられた指輪を右手の小指につけられた。
「首輪…か……。もう遠い過去のような気がするな。」
『流石にそれは早すぎません?ついこの間ですよ?取れたの。』
以前、スノウが言っていた言葉を思い出す。
────「もし、もしも……これが外せたら。」
────「…ううん。やっぱり何でもない。その時が来たらちゃんと言うよ。だから、楽しみにしてて?」
あの時、彼女の首にもジューダスの首にも着けられていた首輪。
キツく彼女の首を絞め上げていたのが、ジューダスの中では印象に残っていた。
そんな彼女がジューダスの首輪を見て、そう言っていた。
楽しみに待っていて、と。
それが今回、デートと何の繋がりがあるのかは分からない。……分からないが、
「(…もし、デートで彼女が何かを買おうとしたのなら、僕もそれを買おう。どうせ、そこで何かを渡してくるに違いないし、僕も……彼女に何かを贈りたい。)」
それは、出来るならお揃いの物で。
遠いようで近い未来へと思い馳せるジューダスは、フッと笑みを零して夢の中に旅立ってしまった彼女の頭を優しく撫でる。
その顔は誰が見ても幸せそうな顔をしていたのを、シャルティエが嬉しそうに見ていた。
___数時間後。
シャルティエとの会話も飽きて、腕を組んで目を閉じていたジューダスの身に何かが起きる。
急に体が倒れ、遂には床へと倒れてしまったのだ。
ドサッとした音とシャルティエの悲鳴で目覚めたスノウは、目をパッと開き慌てて身体を起こした。
そこには床に倒れる大切な人の姿があった。
飛び起きたスノウが床で倒れるジューダスへと触れ、急いで声をかける。
「レディ!レディ!!!」
『坊ちゃん!? 坊ちゃん、しっかりしてください!!!』
「私が寝ている間に何が…?」
『何にも無かったですよ?!』
「…脈は正常だし…、息もしている…。気絶…なのか?」
焦りを滲ませるスノウは彼を起こし、ベッドへと寝かせる。
布団をかけてあげ、彼の手を強く握る。
「…医者へ行こう……。」
『で、でもここには医者なんて…』
「別の街へ行って、そこで診てもらおう。…ちょっと皆に言ってくるよ。」
『は、はい!お願いします!』
瞬間移動で消えたスノウ。
残ったシャルティエはぼんやりとコアクリスタルへと光を投射していた。
『……どうして、神様は皆、意地悪するんですか…?二人が…何をしたって言うの…?何で、二人を引き離そうとするんですか…。』
ポツリと呟かれた言葉は誰に聞かれるでもなく、そのまま霧散した。
そこからは慌ただしい時間が過ぎて行った。
スノウが駆けつけ、ジューダスを抱えるとすぐに瞬間移動で別の街……ハイデルベルグの知り合いの医者へと駆け込んだスノウ。
慌てた様子のスノウを見て、医者も目を丸くさせたが急患だと気付くとベッドへと誘導をする。
そこから触診が始まり、ここに来るまでの時間はたったの数十分だ。
シャルティエを腰に差したスノウが祈るように手を合わせて目を閉じている。
シャルティエもまた、コアクリスタルに光を点しながら祈る気持ちで医師の診察が終わるのをただひたすら待った。
しかし、ただ待つというのは長く感じてしまう。
ギュッと手に力を加えたスノウを見て、シャルティエも悔しそうに光を点す。
それを永遠に感じるほどの時間を過ごした二人は医師が彼から離れたタイミングで慌てて医師へと駆け寄る。
「先生っ!彼は…!?レディは…!?」
「うむ。何の異常もない。ただ寝ておるだけよ。」
「寝てる…だけ?」
目を点にさせた二人に医者も、うむと頷く。
その瞬間、緊張の糸が切れ床に手を着く羽目になったスノウは、恐らく人生で初めての長ーい溜息をこれでもかとついていた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……。」
『早とちり…ですかね?でも、それにしては倒れ方がおかしかったような…?』
「何にせよ……レディが無事ならなんだっていい……。本当……良かったぁぁぁぁぁ……。」
脱力しきったスノウはそのまま俯きながら、その場でホッと息を吐く。
そしてゆっくりと立ち上がると、彼の手を握りしめてあげていた。
「……おやすみ。レディ…。」
『坊ちゃんも疲れていたのかもしれませんね。』
「私のミスだよ。てっきり、昨日しっかり寝て回復したものだと思っていたから……。」
『いえ。坊ちゃんなら、昨日は問題なくすぐに寝ていましたよ?』
「それでも、疲れが残ってたんだろう。……とにかく安心したら、なんだか眠くなってきたね…?」
欠伸を噛み殺すスノウにシャルティエが寝るよう誘うも、すぐに断られてしまった。
他の仲間たちにジューダスの状態を報告する必要もあったからだ。
皆でここ、ハイデルベルグへと来るようで、スノウがそれとなく立方体のピアスに触れていた。
「全員で来るとなると…、マナの量もちゃんと計算しないとね。」
『ちょ、ちょっと待ってください?それって、つまり……』
「ん?魔法で皆を連れて来ようと思ってるよ?」
『折角坊ちゃんが休め、って言った矢先に何言ってるんですか!!休まないと、スノウも倒れたら僕は…!』
「大丈夫だって。だって体内にあるマナの量は、今までとは全然違うから。多少の魔法ならなんのその。」
『スノウの大丈夫は、大丈夫じゃないって知ってますからね?!』
「酷いなぁ?少しは自分のマスターを信用してくれたっていいじゃないか。」
『それはそれ!これはこれです!』
ぷんすかと怒り出すシャルティエとは反対に、スノウは笑っていた。
何も心配はいらない────彼女はそんな顔をしていた。
そしてシャルティエをジューダスの近くへと置くと、さっさと外へ出ようとするスノウの後ろ姿に、いつまでも怒っているシャルティエがそこには居たのだった。
数分後、本当に魔法を使って全員をここへと連れてきたようで、スノウを含めた全員が集まっていた。
そして全員に医師が説明をしたところでお開きとなり、ジューダスの近くにいる者や外で暇をつぶすものまで様々な反応を見せた。
その中で、スノウはジューダスの近くにいるかと思いきや外に出ようとしたのをシャルティエが発見し目を丸くさせる。
『あれ?スノウ、どこに行くんですか?』
「武器のメンテナンスに行ってくるよ。今は君がここにいるし、他にもリアラやナナリーもいてくれるなら安心して任せられるからね。今のうちに行っておかないと、また壊れたときに大変なことになったらいけないから。」
『そういうことなら、わかりました!お気をつけて!』
そうして一日が更けていく。
結局メンテナンスが終わったスノウはジューダスのもとへと帰り、またその手を握っていた。
休まずに彼の面倒を見ようとする彼女にシャルティエもだが、医師もスノウを止めた。
ちゃんと休まないと、彼が起きたときに不健康だと失礼だから────と。
医師の計らいで、ジューダスの隣にベッドを置かれそこで休むことになったスノウは遠慮なく休むことにした。
そして目覚めたらまた彼の手を握って、ただひたすら彼が起きるのを待ち続けた。
しかし、彼が目覚めることはなかった。
「────先生!彼が……起きないのは、どうして…?!」
「大丈夫。彼ならただ寝てるだけ……」
「そう言って何日が経ったと思ってるんですか?!」
『スノウ……。』
「恐らく、疲れだと思うがの。」
「疲れ…?疲れでこんな……」
「信じられないかもしれぬが、待つことも必要じゃ。彼にも、無論、お前さんにも。……寝れていないのじゃろう?目の下のくまが酷くなっておる。」
「こ、れは……」
『スノウ。僕も医師の方の意見に賛成です。いくら何でも、坊ちゃんを心配しすぎてスノウ自身の体調が疎かになっている……。寝れてないの、僕も知っていました。時折、苦しそうに魘されてるのも……。だからこそ、今は休息に全力を注いでください。坊ちゃんの代わりに言います。スノウ?休んでください。』
「……。」
思わず俯いたスノウに、医師もシャルティエも嘆息しながらその姿を見届ける。
何処か切羽詰まっているスノウを2人も心配しているのだ。
スノウの肩に手を置いた医師は、優しくそのまま頭を撫でた。
そして静かに去っていく。
シャルティエもそれを見届け、そしてスノウへと優しく声をかけた。
『……さぁ。スノウも寝てください?坊ちゃんが起きたときに元気な姿でいられるように!ね?』
「……うん。そうだね……。レディを心配させるわけには───」
そんな時、スノウの視界の端に何かが写りこむ。
それは自分のカバンからだった。
カバンから溢れる見覚えのある光、そして聞こえてきた声に、スノウは目を見張って顔を上げた。
『スノウ?』
「……ごめん、シャルティエ。」
『え?』
「少し、行ってくる。」
『行くって……何処へ?』
シャルティエをジューダスの側へそっと置いたスノウに嫌な汗を流したシャルティエは慌てて声をかけていた。
『ま、待ってください!!坊ちゃんはどうするんですか?!一人になったら、また起きて説教が始まりますよ?!!』
「ははっ。それは勘弁願いたいけど…。ちょっと行かないといけないところなんだ。」
『だから、何処に───』
「世界の神のところへ。」
『え……。』
呆気に取られているシャルティエをそのままに、スノウは自分のカバンに近づき、中を探る。
そこには毎朝欠かさず磨いている神の像の光り輝く姿があった。
磨いているから光っているのではない。
その像自体が、光輝いているのだ。
暖かなその光に、僅かに目を細めさせたスノウだったが、すぐに像を抱きしめた。
そして次の瞬間には光が部屋中に溢れていき、収まった光の先にスノウの姿はなかった。
ただあるのは、スノウのカバンと、先程スノウが抱いていた神の像だけだった。
『スノウ…。…………坊ちゃん…。』
悲し気な声だけが、その部屋に響いていった。
____〈赤眼の蜘蛛〉の拠点のひとつ、〈レスターシティ〉研究所内
あの戦いの後、研究所内の食堂にて椅子へと座り、事の流れを話したジューダスとスノウ。
シャドウやアスカと契約したこと、別の神にお世話になっていたこと、ルーカスのこと、そして元素の森で死にかけて、ここで起こった全てを皆と共有した。
カイル達も元素の森で2人を見失ってから、修羅の提案でこの〈レスターシティ〉へと来た事を告げられる。
ここへ来れば、〈赤眼の蜘蛛〉の情報が多少なりとも集められ、2人の行方が分かるかもしれないから────と話したカイルだったが、申し訳なさそうな顔をしてジューダスとスノウの2人を見ていた。
「ごめんね、2人とも…。逆に助けられちゃったよ。」
「無事で何よりだよ。」
「まぁ、ここに来たのは確かに英断だったな。僕達はここで捕まっていたからな。」
「しっかし……“神”の力を持ってすれば、この建物の半壊もすぐ直るんだね…?あんな勢いのある水で、こんな大きな建物が半壊するくらいの威力だよ?他に被害が無かったのが不思議だよ。」
スノウが建物内を見上げて、感心した声を出したことで全員の顔が和らいでいった。
さっきまで事が事だった上に、スノウ達の近況を聞いただけでも手に汗を握るものだった。それなのに、こうして空気を変えてくれたスノウに全員が心から感謝していた。
「ふわぁ…」
「感心した次は眠くなったのか?忙しいことだな。」
「仕方ないじゃん。マクスウェルとの契約で半分近くマナが持ってかれたんだから……。」
椅子にぐったりと座ったスノウを見て、リアラとナナリーがクスリと笑う。
ようやく仲間が揃ったのだ。
今少しだけ、休憩したところでバチは当たらないだろう。
「ねぇ、スノウ?折角なら温泉に行かない?」
「お、良いね!レディの案に乗った!」
リアラの言葉に椅子から飛び起きたスノウはニヤリと笑い、指をパチンと鳴らす。
そして誰よりも早く立ち上がると、リアラやナナリー、そしてハロルドと共に食堂を後にしてしまった。
置いていかれた男性陣らは、目を点にさせて女性陣を見送る羽目になり、暫く沈黙が訪れる。
「……あいつら、呑気すぎねえか?」
ロニの言葉に全員の心はひとつになった。
頷いていた男共だが、その内の一人、海琉が立ち上がったことで視線はそっちへと向く。
修羅がどうしたか聞けば、海琉がなんて事ない様子で答える。
「……おれも温泉、行く……。」
「…ちょっと待て?お前一人じゃ、何しでかすか分からねぇ…。俺も行く。」
「じゃあ、オレも!」
「結局俺たちも入るんじゃねえかよ。」
「嫌なら入らなければいいだろう?」
「けっ!そんな寂しいこと言うなよ!お前も行くだろ?ジューダス。」
「…まぁ、行ってやらなくもない。」
流石に気を使ったらしいロニがジューダスの肩を組めば、ジューダスが嫌そうな顔をしてロニを見上げる。
しかしロニにはそんな視線など効くわけもない。
結果、全員が温泉地へと向かうのだった。
……ひとつ言うならば、女性陣と男性陣は違う温泉に入っていた、ということだ。
だから覗きも無かったし、なんの問題も起きなかったのだ。
____〈レスターシティ〉、温泉宿
温泉から上がった女性陣はそのまま誰もいない宿を借りる事にした。
あの研究所を半壊させるほどの水が周りにも影響したらしく、〈レスターシティ〉に〈星詠み人〉やら観光客など一人も見当たらなかった。
つまり、スノウたちの貸し切りなのだ。
「カイルや皆は、まだ研究所の食堂にいるのかしら?」
「……いや?こことは別の温泉施設で温泉を楽しんでいるようだよ?」
「なら、アタシたちはここで休ませてもらおうか!」
「私は研究で忙しいから。あんた達は先に休んでなさいよ。特に、あんたはしっかりと休むのよ?そのピアス、どうせあんたの中のマナの量を表した何かなんでしょ?」
「え、凄いね…?流石、ハロルドだよ。」
「見れば分かるわよ。ったく……。全然マナが無いじゃない。」
そっと立方体のピアスに触れるハロルドは、少しの心配をしている顔をさせていた。
それを見てスノウは、笑顔でハロルドを見てお礼を言っていた。
「はいはい。お礼なんて良いから早く寝なさい。」
「分かったよ。」
こうして仲間たちはそれぞれの時間を過ごす。
ある者はマナを回復させるために早寝をし、ある者は研究に励み、ある者は鍛錬を積む。
そんな仲間たちだったが、翌日ともなれば各々何も言わずとも集合出来ていた。
朝から稽古を欠かさずやっているスノウとロニ。そこにジューダスと修羅も仲間に入れば稽古も大所帯となる。
カイルがたまに起きれて、稽古をしていたが今やその場所には修羅が居着いていた。
「はっ!」
「ふっ…!」
お互いに切磋琢磨出来る相手であるが、二人がそれを相手に言うはずもない。
彼ら二人はお互いに恋のライバル、と言うやつなのだから。
ライバル意識を持つお互いが嫌煙しあうのも無理は無いようだ。
それも助長してか、稽古となると本気の打ち合いとなるのだから、これまた仲間たちが心配する。
しかし最後はどうせ互角で終わるのが関の山だった。
「……ねぇ、ロニ?」
「あ?なんだよ。」
「あれ、いつまで続くと思う?」
「そりゃあ……。…………永遠に?」
「だよねぇ?二人とも仲が良いね。」
「(いや…どう見てもお前さんが原因だと思うが?)」
未だに稽古を続ける二人を見て、ロニが複雑な顔をした。
その隣では「仲が良いなぁ…?」と顔を綻ばせながら見るスノウの姿があったのだった。
「────え?何?まだ研究し足りないわよ。」
また違う所ではそんな話が上がっており、リアラとナナリーの炊事組がハロルドと話していた。
研究の事となると人が変わるハロルドを何度も見てきた二人だった為、何にも言えなかったがそうもいかない。
ここは敵地。
いつ戻ってくるか分からない敵地のど真ん中で、それこそいつまでも休んでなどいられない。
だからこそ、二人はハロルドの言葉にお互いに顔を見合せ困った顔をさせていた。
「大丈夫よ。スノウのピアスを見てみなさい。」
「あの子は今、他の皆と稽古中───」
「だーかーら!帰ってきてからでもいいから見てみなさいって!多分、碧の液体が完全にピアスの中に満たしてないと思うから。…じゃ、そういう事で~☆」
そう言ってハロルドはナナリーお手製のおにぎりを持って出かけてしまった。
ナナリーが大きく溜息を吐き、リアラは心配そうに見送る。
こうして仲間たちは本日も何の進展も無いまま、各々で時間を潰す羽目になったのだった。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○。・.: * .。○・*.
「ジューダス。」
「どうした。スノウ。」
チラッとピアスを見たジューダスは、そのまま顔を顰めさせる。
立方体のピアスには半分も満たないほどの碧の液体が波打っていたからだ。
「…お前、昨日ちゃんと休んだのか?」
「え?何でかな?」
「全然マナが回復出来ていないではないか。」
「まぁ……、ここ、敵地だしね? それに、少しでも気を張ってないと〈赤のマナ〉に侵されそうで…。……少し、怖いんだ。」
ジューダスから視線を外し、そのままで話すスノウ。
そんな彼女を見て、ジューダスが長い溜息を吐き、そしてスノウの腕を取った。
「お前が何の話を持ちかけようとしたのか知らないが、今日は僕に付き合ってもらうぞ。」
「え?うん……分かったよ。」
「ついてこい。」
強引な癖に、歩調はスノウに合わせている。
それが分かったからこそ、スノウは彼に分からない程度に笑顔になった。
口下手な彼だけど、心は人一倍、優しいと知っているから。
「……で?何処に行くんだい?レディ。」
「だから僕はレディじゃない。それから、行く場所だが……」
そう言葉を濁した彼は、急に立ち止まる。
何かあったのか、とスノウが探知を行えば探知上には何も引っかからないし、周りを見ても何も無い。
「はて?」とスノウが首を傾げると、眉間に皺を寄せた彼がスノウの方へと振り返る。
「…嫌な予感がする。」
「え?」
「まぁ…いい。行くぞ。」
そう言ってスノウが連れてこられたのは、何処かの温泉宿だった。
和室から洋室まで完備しているその宿に立ち入ると、容赦なく中へと入っていき、ジューダスは適当な部屋へとスノウを連れ込んだ。
そして、彼女の肩を押しベッドへと押し遣る。
「…ここに居てやるから、さっさと寝ろ。」
「え?でも…」
そう言って、スノウはすぐに気付いた。
マナが完全では無い自分を心配して、そう言い出してくれたのだと。
しかし眠ろうにも眠れない。
一応夜は寝たし、程よく稽古もして体が温まっている。
そんな状態で寝ろ、というのは……スノウには難しそうであった。
「うーん…。寝れそうにないけど…頑張ってみるよ。」
「そうしろ。」
ベッドで横たわるスノウ。
ふと、前にもこんなことがあったなと過去を思い出し、それが彼にバレてしまう。
「…何も考えるな。阿呆。」
「いや、前にもこんな事あったな、って思ってね?」
「…良いから寝ろ。」
ベッドの端に椅子を持ってきてそれに座ったジューダスは、いつまでも寝そうにないスノウをひと睨みする。
それに気の抜けた返事を返せば、ジューダスの眉間の皺が深くなってしまった。
「……。」
「……。」
「……ねぇ、レディ…?」
「何も考えるな、と言ったのが聞こえなかったのか?」
「ふふ…聞こえてたよ。でも…今、一つだけ言っておきたいことが…あってね?」
「何だ。」
徐々に言葉の節々の声量が小さくなっていく。
目がとろんとして来て、ようやく眠れるようになったかとジューダスがこっそりと息をつきながらも念の為、話を聞く体勢になる。
「…あの首輪……はずれたから……、今度……でーと、しよ…ぅ…。」
「……。」
黙っていれば、どうやら眠りの淵に入ったようでスノウの目は閉じられ、密やかな寝息が聞こえてくる。
すると立方体のピアスが彼女の首筋をコロリと転がり、少しだけ光を帯びて揺らいでいた。
半分にも満たなかった液体もほんの僅かだが、ピアスの中で増えて、かさを増した気がした。
「……デート、か…。」
『そういえば、ハイデルベルグ以降行ってないんじゃないですか?』
「…そうだったな。」
ジューダスがそっと右手の小指の指輪に触れる。
初めてのデートはノイシュタットで、彼女から紫水晶のピアスを貰った。
そして次がハイデルベルグ。
そこではこの不思議な色を持つ宝石がつけられた指輪を右手の小指につけられた。
「首輪…か……。もう遠い過去のような気がするな。」
『流石にそれは早すぎません?ついこの間ですよ?取れたの。』
以前、スノウが言っていた言葉を思い出す。
────「もし、もしも……これが外せたら。」
────「…ううん。やっぱり何でもない。その時が来たらちゃんと言うよ。だから、楽しみにしてて?」
あの時、彼女の首にもジューダスの首にも着けられていた首輪。
キツく彼女の首を絞め上げていたのが、ジューダスの中では印象に残っていた。
そんな彼女がジューダスの首輪を見て、そう言っていた。
楽しみに待っていて、と。
それが今回、デートと何の繋がりがあるのかは分からない。……分からないが、
「(…もし、デートで彼女が何かを買おうとしたのなら、僕もそれを買おう。どうせ、そこで何かを渡してくるに違いないし、僕も……彼女に何かを贈りたい。)」
それは、出来るならお揃いの物で。
遠いようで近い未来へと思い馳せるジューダスは、フッと笑みを零して夢の中に旅立ってしまった彼女の頭を優しく撫でる。
その顔は誰が見ても幸せそうな顔をしていたのを、シャルティエが嬉しそうに見ていた。
___数時間後。
シャルティエとの会話も飽きて、腕を組んで目を閉じていたジューダスの身に何かが起きる。
急に体が倒れ、遂には床へと倒れてしまったのだ。
ドサッとした音とシャルティエの悲鳴で目覚めたスノウは、目をパッと開き慌てて身体を起こした。
そこには床に倒れる大切な人の姿があった。
飛び起きたスノウが床で倒れるジューダスへと触れ、急いで声をかける。
「レディ!レディ!!!」
『坊ちゃん!? 坊ちゃん、しっかりしてください!!!』
「私が寝ている間に何が…?」
『何にも無かったですよ?!』
「…脈は正常だし…、息もしている…。気絶…なのか?」
焦りを滲ませるスノウは彼を起こし、ベッドへと寝かせる。
布団をかけてあげ、彼の手を強く握る。
「…医者へ行こう……。」
『で、でもここには医者なんて…』
「別の街へ行って、そこで診てもらおう。…ちょっと皆に言ってくるよ。」
『は、はい!お願いします!』
瞬間移動で消えたスノウ。
残ったシャルティエはぼんやりとコアクリスタルへと光を投射していた。
『……どうして、神様は皆、意地悪するんですか…?二人が…何をしたって言うの…?何で、二人を引き離そうとするんですか…。』
ポツリと呟かれた言葉は誰に聞かれるでもなく、そのまま霧散した。
そこからは慌ただしい時間が過ぎて行った。
スノウが駆けつけ、ジューダスを抱えるとすぐに瞬間移動で別の街……ハイデルベルグの知り合いの医者へと駆け込んだスノウ。
慌てた様子のスノウを見て、医者も目を丸くさせたが急患だと気付くとベッドへと誘導をする。
そこから触診が始まり、ここに来るまでの時間はたったの数十分だ。
シャルティエを腰に差したスノウが祈るように手を合わせて目を閉じている。
シャルティエもまた、コアクリスタルに光を点しながら祈る気持ちで医師の診察が終わるのをただひたすら待った。
しかし、ただ待つというのは長く感じてしまう。
ギュッと手に力を加えたスノウを見て、シャルティエも悔しそうに光を点す。
それを永遠に感じるほどの時間を過ごした二人は医師が彼から離れたタイミングで慌てて医師へと駆け寄る。
「先生っ!彼は…!?レディは…!?」
「うむ。何の異常もない。ただ寝ておるだけよ。」
「寝てる…だけ?」
目を点にさせた二人に医者も、うむと頷く。
その瞬間、緊張の糸が切れ床に手を着く羽目になったスノウは、恐らく人生で初めての長ーい溜息をこれでもかとついていた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……。」
『早とちり…ですかね?でも、それにしては倒れ方がおかしかったような…?』
「何にせよ……レディが無事ならなんだっていい……。本当……良かったぁぁぁぁぁ……。」
脱力しきったスノウはそのまま俯きながら、その場でホッと息を吐く。
そしてゆっくりと立ち上がると、彼の手を握りしめてあげていた。
「……おやすみ。レディ…。」
『坊ちゃんも疲れていたのかもしれませんね。』
「私のミスだよ。てっきり、昨日しっかり寝て回復したものだと思っていたから……。」
『いえ。坊ちゃんなら、昨日は問題なくすぐに寝ていましたよ?』
「それでも、疲れが残ってたんだろう。……とにかく安心したら、なんだか眠くなってきたね…?」
欠伸を噛み殺すスノウにシャルティエが寝るよう誘うも、すぐに断られてしまった。
他の仲間たちにジューダスの状態を報告する必要もあったからだ。
皆でここ、ハイデルベルグへと来るようで、スノウがそれとなく立方体のピアスに触れていた。
「全員で来るとなると…、マナの量もちゃんと計算しないとね。」
『ちょ、ちょっと待ってください?それって、つまり……』
「ん?魔法で皆を連れて来ようと思ってるよ?」
『折角坊ちゃんが休め、って言った矢先に何言ってるんですか!!休まないと、スノウも倒れたら僕は…!』
「大丈夫だって。だって体内にあるマナの量は、今までとは全然違うから。多少の魔法ならなんのその。」
『スノウの大丈夫は、大丈夫じゃないって知ってますからね?!』
「酷いなぁ?少しは自分のマスターを信用してくれたっていいじゃないか。」
『それはそれ!これはこれです!』
ぷんすかと怒り出すシャルティエとは反対に、スノウは笑っていた。
何も心配はいらない────彼女はそんな顔をしていた。
そしてシャルティエをジューダスの近くへと置くと、さっさと外へ出ようとするスノウの後ろ姿に、いつまでも怒っているシャルティエがそこには居たのだった。
数分後、本当に魔法を使って全員をここへと連れてきたようで、スノウを含めた全員が集まっていた。
そして全員に医師が説明をしたところでお開きとなり、ジューダスの近くにいる者や外で暇をつぶすものまで様々な反応を見せた。
その中で、スノウはジューダスの近くにいるかと思いきや外に出ようとしたのをシャルティエが発見し目を丸くさせる。
『あれ?スノウ、どこに行くんですか?』
「武器のメンテナンスに行ってくるよ。今は君がここにいるし、他にもリアラやナナリーもいてくれるなら安心して任せられるからね。今のうちに行っておかないと、また壊れたときに大変なことになったらいけないから。」
『そういうことなら、わかりました!お気をつけて!』
そうして一日が更けていく。
結局メンテナンスが終わったスノウはジューダスのもとへと帰り、またその手を握っていた。
休まずに彼の面倒を見ようとする彼女にシャルティエもだが、医師もスノウを止めた。
ちゃんと休まないと、彼が起きたときに不健康だと失礼だから────と。
医師の計らいで、ジューダスの隣にベッドを置かれそこで休むことになったスノウは遠慮なく休むことにした。
そして目覚めたらまた彼の手を握って、ただひたすら彼が起きるのを待ち続けた。
しかし、彼が目覚めることはなかった。
「────先生!彼が……起きないのは、どうして…?!」
「大丈夫。彼ならただ寝てるだけ……」
「そう言って何日が経ったと思ってるんですか?!」
『スノウ……。』
「恐らく、疲れだと思うがの。」
「疲れ…?疲れでこんな……」
「信じられないかもしれぬが、待つことも必要じゃ。彼にも、無論、お前さんにも。……寝れていないのじゃろう?目の下のくまが酷くなっておる。」
「こ、れは……」
『スノウ。僕も医師の方の意見に賛成です。いくら何でも、坊ちゃんを心配しすぎてスノウ自身の体調が疎かになっている……。寝れてないの、僕も知っていました。時折、苦しそうに魘されてるのも……。だからこそ、今は休息に全力を注いでください。坊ちゃんの代わりに言います。スノウ?休んでください。』
「……。」
思わず俯いたスノウに、医師もシャルティエも嘆息しながらその姿を見届ける。
何処か切羽詰まっているスノウを2人も心配しているのだ。
スノウの肩に手を置いた医師は、優しくそのまま頭を撫でた。
そして静かに去っていく。
シャルティエもそれを見届け、そしてスノウへと優しく声をかけた。
『……さぁ。スノウも寝てください?坊ちゃんが起きたときに元気な姿でいられるように!ね?』
「……うん。そうだね……。レディを心配させるわけには───」
そんな時、スノウの視界の端に何かが写りこむ。
それは自分のカバンからだった。
カバンから溢れる見覚えのある光、そして聞こえてきた声に、スノウは目を見張って顔を上げた。
『スノウ?』
「……ごめん、シャルティエ。」
『え?』
「少し、行ってくる。」
『行くって……何処へ?』
シャルティエをジューダスの側へそっと置いたスノウに嫌な汗を流したシャルティエは慌てて声をかけていた。
『ま、待ってください!!坊ちゃんはどうするんですか?!一人になったら、また起きて説教が始まりますよ?!!』
「ははっ。それは勘弁願いたいけど…。ちょっと行かないといけないところなんだ。」
『だから、何処に───』
「世界の神のところへ。」
『え……。』
呆気に取られているシャルティエをそのままに、スノウは自分のカバンに近づき、中を探る。
そこには毎朝欠かさず磨いている神の像の光り輝く姿があった。
磨いているから光っているのではない。
その像自体が、光輝いているのだ。
暖かなその光に、僅かに目を細めさせたスノウだったが、すぐに像を抱きしめた。
そして次の瞬間には光が部屋中に溢れていき、収まった光の先にスノウの姿はなかった。
ただあるのは、スノウのカバンと、先程スノウが抱いていた神の像だけだった。
『スノウ…。…………坊ちゃん…。』
悲し気な声だけが、その部屋に響いていった。