第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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111.
彼女の碧色をしたピアス。
それは常に、波に揺蕩う水面の様に揺れ動いていた。
その上、その透明な立方体の入れ物へ溢れんばかりに碧色の液体が満ちて、そして光を帯びて僅かに輝いている。
それは、彼女のマナがほぼ完全回復しているのを表してくれているのだった。
あぁ、やはり見えるだけでもこんなにも違う。
安心出来る材料がひとつあるだけでも、今までの憂いが晴れよう。
「ふふっ。君がこれをそんなに気に入ってくれるなんてね?」
「それさえあれば、見てお前のマナの状態を判断出来るのもあって、つい見てしまう…と言うのが大きいだろうがな。…あと、お前のマナの色は見ていて飽きない部分もあるしな。」
「…ふふっ。そうか。」
嬉しそうに彼女がはにかんだ後、ルーカスが準備が出来たと大きな声で叫ぶものだから、無意識に現実へと戻された感覚だった。
〈機械の神〉であるスクリューガムも、それを聞いて僕達を元の世界へと戻してくれる準備が整った様だ。
「…皆さん、準備はよろしいですね?」
「うん。」
「やるしかないからな。」
「あいつらに今までこき使われていた分、仕返ししてやるぜ!」
「…ルーカス。くれぐれもまた捕まらない様、気を付けなさい。」
「へーい。」
「全く…貴方と言う人は。お二人とも、〈御使い〉としてまだまだ未熟なルーカスですが、何卒よろしくお願いします。」
「寧ろ、こちらが彼に救われる場面の方が多いと思うけどね?彼の機械への知識は群を抜いてるから。」
「そう言って頂けて何よりです。では、お気をつけて。」
スクリューガムのその声を最後に、僕達は光に包まれてその場から姿を消した。
残った〈機械の神〉が不安そうな顔をしていたなど、誰も気付かず───
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+
「到・着っ!」
何やらポーズを取っている奴を置いておき、僕達は場所の確認を急いだ。
見慣れたあの小島……ではなく、スクリューガムの奴が気を利かせて、既に僕達はレスターシティの真ん前に佇んでいた。
「…………あっつぅぅ……。」
その場にへなへなと座り込んでしまったスノウは横から見ても顔を真っ赤にさせ、カルバレイス地方特有の暑さに苦しんでいるようだ。
……元々彼女自体が、暑さが苦手なのが大きいのだろうが。
「で?奴らにどうやって仕返しするつもりなんだよ?」
「仕返しなんて言葉、僕達は一言も言ってないぞ。」
「あれ?そうだったか?」
「…………マクスウェル、が……中に…いる…。」
苦しそうに荒く息を吐きながらも、彼女は精一杯そう言葉を零す。
それを不思議そうに聞いていたルーカスの奴が、周囲をようやく見だして僕は密かに溜息を吐いた。
そしてレスターシティの中央に佇み、圧倒的な存在感を放つ研究所を見上げた。
「……あの水圧で、建物自体が木っ端微塵になってるかと思っていたが……。」
『そうですよね!?傷一つないですよ?!』
「それが〈赤眼の蜘蛛〉の技術力なんじゃねえか?」
「それか……神の…御業か……。」
「〈狂気の神〉の神域ともなっている、と誰かも言っていたしな。神の御業と聞いても不思議だと思わないのが、何とも言い難いな。」
もし例え、“神”が邪魔してるのだとしてもここで歩みを止める訳にはいかないだろう。
彼女が精霊と契約する、と覚悟を決めた以上、僕もそれ相応の覚悟を決めて挑まなくては…。
「よし!行こうぜ!お前ら……って、あんたらの名前聞いてなかったな。」
「今更か……。」
「まぁ、そうだね?紹介する暇が無かったというか…何と言うか……。じゃあ、自己紹介といこうか?私はスノウ。スノウ・エルピス。マナ循環器を作ってくれてありがとう。…えっと、ハイブさん?」
「ルーカスで良いぜ?俺もスノウって呼ぶしな!」
「ふふ。ありがとう、ルーカス。そして、隣にいる彼は…」
「…今はジューダスと名乗っている。」
「まあ、彼の名前についてはあまり言及してあげないで欲しいかな?」
「まぁ…なんだか複雑そうな事情を抱えてるっつーのは分かった!」
親指を立て、こちらにウインクを見せつけるルーカスに僕が睨めば、奴は「何で怒るんだよ!」と言ってあちらも憤慨していた。
僕がそれを無視していれば、奴は余計にピーチクパーチク煩く囀る────いや、そんな可愛らしいものでは無かったな。ギャンギャン犬の様に吠えていた、の方が正しかった。
ともかく、それくらい煩かったのだ。
「(レディったら、嫌そうな顔してるなぁ…?)」
「そう言えば、何でお前らは〈赤眼の蜘蛛〉なんかに捕まってたんだよ?」
「元々、私が捕まる予定だったみたいだけど……彼が捕まって、それから私も捕まって…って感じだね。恐らくジューダスが捕まった理由は単に私を脅すためだと思うよ?」
「うへぇ…。残酷なことすんな…〈赤眼の蜘蛛〉のやつら…。」
「ともかくここまで来たならお前にも手伝ってもらうぞ。」
「おう!それについては任せてくれ!あの研究所内の構造は大体把握してるからな!」
「あと、ひとつ言っておくと…マナは使えないと思った方がいい。あの中はマナを使用しようとすると妨害やら阻害されて頭痛がくるからね…。」
「あー?……あー、なるほどな!なら、こっちも妨害電波出して反抗すりゃあいい!あんたら、マナを使うなら事前に言ってくれたら俺が妨害系の電波を止めてやるぜ?」
「そんな事が…?」
「ふん。伊達に神の御使いをしていない、ということか。」
使えるなら使うまで。
これでスノウの戦力も期待出来るだろうし、同時にそれは僕らにとってかなり大きな戦力だ。
僕一人では補えない物も、彼女と一緒なら乗り越えられるだろう。
「機械の事はお前に任せる。…ちなみにお前、戦闘はどこまで出来る?」
「逃げる専門だな!」
「じゃあ、機械の事だけを君に任せるよ。ルーカス。」
「おう!期待してくれていいぜ?あそこの機械はほぼ暗記してるからな!」
「……その情熱を他でも発揮出来たら、スクリューガムの奴が頭を抱えずに済むんだがな。」
ここまで来るとスクリューガムの奴が不憫だ。
だが、奴もルーカスの奴に何かを見出して御使いにしてるのだろうから、あまり口にする事ではないが。
「……。」
途端に口を閉ざした彼女は、顔色悪く顔を俯かせた。
それをシャルも見えていたようで、心配そうにコアクリスタルを光らせる。
『大丈夫ですか?スノウ。顔色が悪いですが……。』
「…ジューダス。」
呆然と呟かれた声音は明らかに不穏な響きを孕んでいる。
僕がスノウを見れば、彼女は顔を顰めさせて手で頭を押さえていた。
「悪報だ。」
「……これ以上に悪い知らせがあるとはな。」
これから行く場所のことを考えれば大体の事がマシに聞こえると思うが、それ以上の何かが起こってしまったらしい。
僕は先を促すように顎をしゃくった。
「……居ないと思ってた…その……カイル達がね?〈赤眼の蜘蛛〉に捕まってるって言ったら?」
「……あいつら…。これ以上状態を悪くしてどうするつもりだ。」
あぁ、何だか頭痛がしてきた。
これならいっそもう研究所へと乗り込んだほうが気が楽な気がしてきた。
『それって、危険な状態そうか分かりますか?』
「ちょっと待って?更に探知してみる。」
目を閉じて神経を集中させているからか、彼女の耳に着けられた立方体のピアスの中の液体が更に碧色に光源を帯び、そして同じ色の液体が立方体の中で揺らめくように波打っている。
減っているか減っていないか分からない程度の減りなのを見れば、マナ消費はそこまで無いのだろうといった事がそのピアスを見て分かった。
「危険な状態では無い……と思いたいけどね?何しろ皆の近くにはアーサーやあの双子もいるから。」
『それ、ヤバイと思いますよ?スノウ?』
「希望的観測だと思ってくれ。…常に最悪の状態を想定しなければ…ね。」
「なら、早く行くぞ。あいつらも回収せねばならなくなった。」
『逆に丁度いいじゃないですか!仲間も揃って、僕達にとってはこの危機的状況も何だかんだ好転するかもしれませんよ?!』
「なら良いがな…。」
レスターシティの中央に佇む研究所を改めて見上げて、そして同時に他の2人もその研究所を見上げているのが見えた。
僕は一度大きく息を吐いて、2人を見据えた。
「……覚悟はいいな?」
「うん、行こう!」
「おう!」
2人が元気よく返事をしたことから、僕達は足並みを揃えて歩き出す。
目指すは、あの未知なる領域……〈赤眼の蜘蛛〉研究所だ。
* … * … * … * …* … * …* … * … * … * …* … * …
___レスターシティ・研究所内
「くそ…!」
カイルが俯きながら、悔しそうに声を漏らす。
彼の周りの仲間たちは既に壊滅状態。
スノウやジューダスという仲間を助けに来たというのに、目の前で嘲笑うかの如く口元を綻ばせているアーサーとその両脇に控える正体不明の双子に苦戦を強いられていたのだ。
しかし、その仲間たちはカイルの周りで地面に伏せてしまっており、彼らの攻撃に耐えられなかったことを意味する。……これでは本末転倒だ。
「ジューダス…!スノウ……!ごめんっ……!」
「さあ、大人しく捕まりなさい。スノウ・エルピスを拘束する為にもあなた達は効果的ですから。」
「クスススッ…!」
「キシシシッ…!」
双子も赤目を細めさせては、まだ立ち上がるカイルを見て嘲笑う。
もう手立てはないはずなのに、それでも仲間のために立ち向かってくるカイルを嗤ったのだ。
チェスで言えば、もう“チェックメイト”だ。
「リーファ、フェイロン。」
「「ハイ!」」
「例の捕獲器で彼らを捕まえなさい。それから後の事はあなた達に任せます。」
「「ハイッ!」」
アーサーに命令され、嬉しそうに破顔させた双子はあっという間に仲間たちの前へとあの捕獲器を持ってきた。
その砲弾の向かう先は……
「(くそ……!ここでやられるわけには…!)」
幾ら膝が折れそうになっても、幾ら強力な敵を前にしても、決して弱みをみせなかったカイルが僅かに絶望した顔を見せた。
それを見て、勝利を確信したアーサーがフッと笑いをこぼした。
「(これで……あのお方の前にようやくスノウ・エルピスを献上できますね…。長かった……ここまで。あのお方も満足でしょうから、これでようやくこちらの仕事も手につくというものです。彼女には、ボクのために生贄となってもらいましょうか。)」
〈星詠み人〉の楽園を作る────その為に、アーサーは今までやってきたのだから。
それなのに、自らの神がスノウを欲してしまい仕事に支障が出てしまったのだ。
改善する為にも、神がここ最近常に欲しているというスノウを生贄にすればこちらに気が向くこともない。
アーサーはそう考えたのだ。
〈赤眼の蜘蛛〉に引き入れる目的は達成されそうにないが、少しでもあの神の“おもちゃ”として役立ってくれればそれはそれで好都合。
捕獲器にマナが装填されるのを背後で聞きながら、アーサーはその場を後にする。
しかしその時、神が可笑しそうに笑ったのだ。
それが聞こえてきた瞬間、アーサーは目を見開き慌てて背後を確認した。
そこには意外なものが写っていたのだった。
「へへっ!これで使えねえだろ?!」
見たこともない男が捕獲器の前に立ち、手には工具……スパナを持っていたので、この男が何かをしたのだろうということは分かった。
しかし何をされたのか、見ていなかったアーサーには分からなかった。
「フェイロン、リーファ。何をしているのですか。」
「「っ!!」」
驚きで肩を震わせた双子を見れば、双子も訳が分からないとでもいうような顔つきでアーサーの方を振り返っていた。
マナを感知するために神経を研ぎ澄ませてみれば、マナの動きが凪のように静かだ。
逆にそれはアーサーからしてみれば、嵐の前の静けさとも捉える事が出来る。
「(一体、この男は何を…?)」
「出番だぜ!?ジューダス!スノウ!」
「「「「!?」」」」
その名前が出た瞬間、喜びで顔を涙で濡らしながら目を向ける人もいれば、驚きで空いた口が塞がらない人物もいただろう。
それもそのはず。
ここにいる全員、その2人の行方の詳細を掴めていなかったのだから。
「さっすが機械の神に見初められた御使いだね!」
「ふん。多少はやるようだな。」
瞬間移動で現れたのは、誰もが願ってもない人物たち。
言葉を紡いだ彼らだったが、周りの様子を見てすぐに詠唱に入る。
「___追憶の血涙を対価に、彼の者の再起願う……フルレイズデッド!」
『「__ヒール!!」』
見たこともない程の広大な魔法陣が地面に広がったと思えば、倒れている仲間たちの体が僅かに光に包まれ、そして徐々に仲間が体を起こし始める。
その光景を見てアーサーが言葉を失い、化物を見るような目でむくりと起き上がったカイルたちを見つめていた。
「なっ…!?」
「これは、まずいカモ……?」
「まずいカモ…!」
アーサーも絶句するほど、見事な魔法を組み立てたスノウに誰もが注目する。
その耳につけられた立方体の中の波打つ液体は、先程の強力な術によって多少減っていた。
しかしここに来るまでで万全を期しただけあり、そんなマナの消費も今のスノウにはなんのその。
それに召喚士であるスノウは、マクスウェル以外の精霊全てと契約を果たしたのだ。
これ以上にないほどスノウの中のマナの保有量は底上げされているはずだった。
「……。」
微笑みを浮かべながら、目を閉じて術に集中するスノウだったが仲間たちが起き上がった気配でゆっくりと目を開ける。
そして開口一番に仲間たちへとお礼を伝えていた。
「みんな、こんな所まで助けに来てくれてありがとう。」
そう零すと、スノウの隣に移動したジューダスと共に己の相棒を持ち、アーサーへと牙を向けた。
「……よくも、私の大切な仲間たちを傷つけてくれたね?この借りは倍にして返すよ!!」
「僕達に刃向かってきたこと、後悔するんだな!!」
「ど、どうしますカ…?アーサー様。」
「もうマクスウェルを喚べるだけのマナが残っていませんヨ…?!」
「ふむ……。これが俗に言う、ヒーローの登場シーンですね。なるほど、興味深いものです。」
「「アーサー様?!」」
そんな悠長なことを言っている場合か、と双子が焦燥感を表せば、アーサーはその双子の横を悠々と通り過ぎ、武器を持ってスノウたちの前に立ちはだかった。
意外にも余裕そうなアーサーに、双子も決心をした顔で各々武器を手にした。
「……まさか、本当に生きているとは思いませんでしたよ。そして……こちらこそ、この研究所の大半を駄目にしてくださった借りを返さなければなりません。建物は半壊以上の損壊、中にあった研究に関する書類は全損……。全く……相変わらず派手にやってくれますね?」
「ははっ。それはそれはご苦労様で。」
「ふん。大事な資料がある場所に、あんな大きな水槽を作るほうがどうかしている。自分らの自業自得だ。」
「まぁ、一理あるので耳の痛い話ですがね。それはともかく、今度こそ捕まってもらいますよ?スノウ・エルピス!」
アーサーが武器を奮い、初めに標的にしたのはスノウだった。
しかし彼女の横にいた強力な助っ人が、その攻撃をいとも簡単に往なしスノウとの距離を強制的に離れさせる。
「させるか!」
『行きますよ!坊ちゃん!』
『「___ネガティブゲイト!!」』
瞬時に晶術を放った2人を嫌煙し、アーサーが後方へと下がればそこへ双子の猛追がジューダスを襲う。
同じ動きの双子に双剣で往なし続けるジューダスの横を通り過ぎ、アーサーはスノウへと襲いかかった。
しかし、それはスノウにとっても想定内のこと。
スノウが相棒を手に、アーサーの攻撃を受け止めれば金属同士のぶつかり合う音が響き渡る。
「ボクの神がうるさいんですよ。ですから、早くこちら側に来てもらえませんかねぇ…?」
「誰がなんと言おうとっ、私はっ、君たちのところへは行かないよっ!!」
男と女の力など月とスッポンほどの違いだと言うが、アーサーは普段鍛えているのもありスノウの方へと簡単に力で制圧することが出来る。
鍔迫り合いの最中、スノウの足が僅かに後ろへとずれた事で、アーサーも狂気の笑みを浮かべる。
「このままでは負けてしまいますよ?さあ、どうしますか?」
「それはどうかなっ!!」
アーサーの剣を弾き、瞬時に別の構えを見せたスノウへ、アーサーが僅かに警戒をする。
するとスノウが口を素早く動かしていた。
「(ヴァーチュアスレイ!)」
直線上の敵に向かって光線の雨が降り注ぐ光属性の術がアーサーの目の前で炸裂する。
スノウの術の初動を見抜けなかったアーサーは、その強力な光の雨に降られ、その身に甚大なダメージを受けてしまっていた。
「くっ?!」
「クスッ…。発動のタイミングを見抜けなければ意味がないだろう?」
先程のスノウの攻撃は別の場所で戦っている双子にも甚大な被害をもたらしていた。
散り散りになってしまった双子へと、ジューダスも好機だとばかりに猛追を仕掛ける。
悲鳴を上げながら地面を転がっていく双子の1人、麗花を見ながら飛龍が心配そうに声を張り上げる。
「麗花!?」
「うっ、飛……龍……。」
「終わりだ。」
ジューダスがフェイロンに向けて武器を振りかざし、双子を戦闘不能にさせた。
そして応戦に行く前に仲間たちの無事を確認する。
「(どうやら全員無事のようだな……。)」
「ジューダス!あの人、変な技を使ってくるんだ!!」
「変な技?」
カイルが仲間の背中を支えながらジューダスへと助言をくれる。
しかし、どうやら聞き馴染みのない術を、彼らは変な技だと言っているようだったのを聞いてジューダスはその場で仲間たちへと頷いてみせた。
修羅やリアラが仲間たちへと回復技を使っているのを見届け、先程の言葉を念頭に置いたジューダスもまた、スノウの元へと駆け出す。
シャルティエのコアクリスタルもいつも以上に光り輝き、その強い気持ちを表していた。
「気絶しなよ!」
相棒を銃へと変形させたスノウが至近距離で魔法弾を放ったが、すぐに体を捻らせては躱されてしまい、次々と逃げるアーサーを魔法弾で追従するスノウ。
そこへ駆けつけたジューダスもアーサーへと武器を振りかざしていた。
「……チッ。(少し、こちらに分が悪いですねぇ……?)」
捕獲器は例の男により分解されてしまっている。
しかし、今手元に捕獲器がなくとも既にマクスウェルは自分たちの手中にある。
そこでアーサーは懐から黒いリングを掲げ、凛然とした声で叫んだ。
「マクスウェル!出てきなさい!!」
「「!!」」
この状況を打破するには、多少の犠牲は致し方ない。
周りのマナを吸い尽そうが、ここで精霊を召喚しなければアーサー達の……〈赤眼の蜘蛛〉の敗北が決してしまう。
苦しみながら雄叫びを上げ、召喚主であるアーサーのマナも吸い尽くす勢いのマクスウェルに歯を食いしばって誰もが耐え動けない────そう思っていた。
「……精霊の皆が教えてくれた。私のマナは……特別なんだって。だから────」
〈星詠み人〉であるはずのスノウが、ここに在る全てのマナを吸い尽くすマクスウェルへと真正面に向き合っていた。
苦しむアーサーや双子、修羅やルーカスも、そんなスノウの様子に驚いて目を見張っていた。
「《If it can be imagined, it can be created.(想像出来るなら、それは創造出来る)》……! 私が君のその苦しみを取り除く事が出来たなら、今度こそ契約を!マクスウェル!!」
「ウガァァァァァァア!!!」
黒いリングとどす黒いマナによって狂気に侵されているマクスウェルはそこにいる誰もを敵とみなしていた。
目の前に立つマクスウェルにとって味方であるはずの召喚士のスノウでさえも、だ。
味方と敵の見分けがつかない程、マクスウェルは苦しんでいた。
同時にその場にある様々なマナがマクスウェルの召喚の為に、光を帯びながらマクスウェルへと集結する。
それがマナを生命源とする精霊マクスウェルにとって、苦しくもあったのだ。
「___ディスペルキュア!!!」
それはスノウがいつも仲間達へと使う回復技。
いつの間にか銃杖へと武器を切り替えていたスノウは銃杖を地面へとトンッと突くと、もう片方の手でマクスウェルの方へと手を差し伸べた。
その瞬間、みるみる内にマクスウェルの様子が変わっていく。
波紋のように広がった回復の波は、マクスウェルだけでなくその場にいた者全てを癒やす光だった。
全員が自身の身体や手を呆然と見ている間、マクスウェルが正気を取り戻す。
「…………わしは…?」
「マクスウェル。君は何もしていないよ。そして、君の苦しみも全て無くなったはずだ。だから今度こそ────私と契約をしてくれないか?マクスウェル。ようやく、君のお眼鏡にかなう条件を満たしたよ。」
胸に手を置いて微笑むスノウを見て、全てを悟ったマクスウェルはその場に跪いた。
全ての精霊がスノウの中で幸せそうにしている────それを見て…、そして今まで居なかった闇と光の精霊を見て、マクスウェルはスノウへとお礼を伝えた。
「……すまない。いや、ありがとう。召喚士スノウよ。」
「言っただろう?君は何もしていないよ、ってね?謝ることなんか何一つ無いんだよ?」
「ほっほっほ……。本当にあなた様は……」
「“さま”も無し。それに跪く、なんてやめてくれ。何だか居た堪れない気持ちになってくるから……ね?」
「ほっほっほ。それでは立たせてもらおうかのぉ。」
ヨイショと立ったマクスウェルは誰にも気付かれない程度に目を見張った。
何故ならば、いつも以上に体の軽さを実感しているからだ。
先程のスノウの回復技が……、彼女の〈碧色のマナ〉と彼女のマナが織り交ざった〈癒やし色のマナ〉がマクスウェルにその様な効果をもたらしたのだとしたら……。
「……。(なんという目覚しい成長だ…。これだから人の子は、時に恐ろしいのぉ…?神から貰ったマナをまさか自分色に染めてしまうとは…。寧ろ、これからの成長が楽しみになってきたのぉ?)」
「???」
何故そんなにも見つめられているか分かっていないスノウが首を傾げ、それをマクスウェルが優しく笑う。
そしてスノウの手を取ると、しわがれたその手でスノウの手を包み込んだ。
「召喚士スノウよ。お主の言葉、受け入れよう。精霊マクスウェル……お主の為に、この力を存分に奮おうぞ。」
そう言ってマクスウェルは光の粒子となり、消えていった。
同時にスノウの左手の中指には綺麗なダイアモンドの指輪が指に飾られていた。
契約の反動と凄まじいマナの消費から、フッと力が抜けた様子で後ろに倒れそうになったスノウを、ジューダスが後ろから支え転倒は免れた。
僅かに開けていた目をジューダスに向けて、困った顔で笑うスノウをジューダスが軽く小突いていたのだが、その顔は優しい微笑みを浮かばせていたのだった。
それはまるでお疲れ様、と労うように。
「(例のピアスが……あと残り3分の1を切ったか…。やはりマクスウェルとの契約でかなりマナを酷使したようだな…。)」
立方体のピアスを見てジューダスが苦々しくなり、スノウがそれを苦笑いで見つめる。
そして大丈夫だとでもいう様にその場で笑って見せた。
『さあ!残るは奴だけですよ!!』
シャルティエがコアクリスタルを光らせ、最後の仕上げだと言わんばかりに奮起する。
彼の声が聞こえていたスノウもジューダスも、アーサーの方へと向き直り、武器を手にした。
「もう君達はマクスウェルを召喚出来ない。さぁ、どうするんだい?君たちの勝利はもうほぼ無いと言っても過言ないと思うけど?」
「大人しく降伏しろ。」
「……。」
アーサーはそれでも笑みを失わなかった。
何かを隠し持っているのか、それとも諦めの笑みなのか。
誰もがアーサーの言葉を待つ。
その瞬間、アーサーの前に降り立つものがいた。
「久しいな?〈碧のマナ〉の遣い手よ。」
それは顔を奇妙な紋様の描かれている布で隠し、日焼けした肌を持った男だった。
上半身はその隆々とした筋肉を見せつけるが如く、服を纏わず。
どこか異国の地で見たような服装をした男はスノウを見て、そう言い切った。
そして呼びかけられたスノウもまた、その男を見ては口を押さえ、絶望した顔を見せた。
「狂気の…神…!!」
「!!」
男の纏うマナが、神の持つそれだったからスノウが狂気の神を見て、すぐに察知出来たのだ。
すぐにジューダスがスノウのピアスを見れば、立方体のガラスの中の波は碧と赤が揺らいでいた。
決してそれらは混じり合わず、碧の液体の上に乗っかるようにして赤い液体が波を作っていた。
その“赤”は徐々に面積を増してきて、立方体の中の液体を満たそうとしていた。
ジューダスはすぐさまスノウを隠すように神の前に立ちはだかる。
布に覆われて表情など見えないと言うのに、ジューダスを見た“神”がニヤリと笑った気がした。
「〈薄紫色のマナ〉を持つ者も、久しいな。あれから進捗はどうだ?神の御使いとして、精進しているか?クックック…!」
「…黙れ。」
「相変わらずだな。その目……あの時と何一つ変わらぬ。」
見下ろす“神”へ怖気付くことなく、ジューダスはシャルティエを構える。
しかしそんなジューダスを見て、“神”は首を横に振った。
「私のところの〈御使い〉を助けに来ただけだ。……アーサーよ、帰るぞ。」
「えぇ。帰りましょう。今はここも使えませんから。」
双子もアーサーの近くに寄り、瞬時に消えたアーサー達。
しかし“神”だけはその場に残り続け、スノウとジューダスを見ていた。
「次こそ、手に入れよう。その甘美なる体をな。」
「…ごめんけど。この体は私の物なんだ。他の誰かに明け渡すような事はしないよ。」
「クックック…。威勢の良い〈御使い〉なことよ。…そうでなくてはな。張り合いもない。」
それだけ言って、“神”もまた瞬時に消えた。
それと同時に、スノウの緊張の糸が解けたようで、その場に座り込んでしまった。
「大丈夫か?」
「はぁぁ…。大丈夫…と言いたいけど、流石に“神”が出てきたら余裕はなくなるよねぇ…?」
立方体のピアスに触れながら苦笑いをしたスノウ。
そんなスノウの横に片膝をつき、シャンシャンとすぐに鈴を鳴らしてみせたジューダス。
すぐに立方体のピアスの中は、碧の液体だけとなっていき、それにスノウの顔も和らいでいった。
ただ、鈴鳴だけでマナの回復は出来ない為に、残りのマナは三分の一のままだった。
「ジューダスっ!スノウっ!」
カイルが二人へと抱き着いて、涙を流した。
その顔は心底心配した、といった顔であった。
そんなカイルを二人は笑顔で見やる。
そして二人は同時にカイルへと言葉を紡いだ。
「「ただいま。」」
「お、かえり…っ!!ふたりともっ…!!」
折角の再会も、おんおん泣きつくカイルにジューダスが嫌そうな顔へと表情を変え、離そうと試みる。
しかしカイルは余計にジューダスへと抱き着いてしまい、解放されたスノウは逆に少しだけほくそ笑んでいた。
「あーあ。ジューダスが心配させたからー。」
「お前っ…?!人のこと言えないだろうが?! というより、離せっ!!僕の服に鼻水をつけるな!!!」
「ズルズルっ…。」
「やめろっ!!汚いだろうが!!!」
他の仲間たちが呆れたり、笑ったりする。
その場に流れていた空気は非常に穏やかで、誰もが仲間の生還を喜び、そして暫くは、その暖かい空気に酔いしれるのだった。
彼女の碧色をしたピアス。
それは常に、波に揺蕩う水面の様に揺れ動いていた。
その上、その透明な立方体の入れ物へ溢れんばかりに碧色の液体が満ちて、そして光を帯びて僅かに輝いている。
それは、彼女のマナがほぼ完全回復しているのを表してくれているのだった。
あぁ、やはり見えるだけでもこんなにも違う。
安心出来る材料がひとつあるだけでも、今までの憂いが晴れよう。
「ふふっ。君がこれをそんなに気に入ってくれるなんてね?」
「それさえあれば、見てお前のマナの状態を判断出来るのもあって、つい見てしまう…と言うのが大きいだろうがな。…あと、お前のマナの色は見ていて飽きない部分もあるしな。」
「…ふふっ。そうか。」
嬉しそうに彼女がはにかんだ後、ルーカスが準備が出来たと大きな声で叫ぶものだから、無意識に現実へと戻された感覚だった。
〈機械の神〉であるスクリューガムも、それを聞いて僕達を元の世界へと戻してくれる準備が整った様だ。
「…皆さん、準備はよろしいですね?」
「うん。」
「やるしかないからな。」
「あいつらに今までこき使われていた分、仕返ししてやるぜ!」
「…ルーカス。くれぐれもまた捕まらない様、気を付けなさい。」
「へーい。」
「全く…貴方と言う人は。お二人とも、〈御使い〉としてまだまだ未熟なルーカスですが、何卒よろしくお願いします。」
「寧ろ、こちらが彼に救われる場面の方が多いと思うけどね?彼の機械への知識は群を抜いてるから。」
「そう言って頂けて何よりです。では、お気をつけて。」
スクリューガムのその声を最後に、僕達は光に包まれてその場から姿を消した。
残った〈機械の神〉が不安そうな顔をしていたなど、誰も気付かず───
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+
「到・着っ!」
何やらポーズを取っている奴を置いておき、僕達は場所の確認を急いだ。
見慣れたあの小島……ではなく、スクリューガムの奴が気を利かせて、既に僕達はレスターシティの真ん前に佇んでいた。
「…………あっつぅぅ……。」
その場にへなへなと座り込んでしまったスノウは横から見ても顔を真っ赤にさせ、カルバレイス地方特有の暑さに苦しんでいるようだ。
……元々彼女自体が、暑さが苦手なのが大きいのだろうが。
「で?奴らにどうやって仕返しするつもりなんだよ?」
「仕返しなんて言葉、僕達は一言も言ってないぞ。」
「あれ?そうだったか?」
「…………マクスウェル、が……中に…いる…。」
苦しそうに荒く息を吐きながらも、彼女は精一杯そう言葉を零す。
それを不思議そうに聞いていたルーカスの奴が、周囲をようやく見だして僕は密かに溜息を吐いた。
そしてレスターシティの中央に佇み、圧倒的な存在感を放つ研究所を見上げた。
「……あの水圧で、建物自体が木っ端微塵になってるかと思っていたが……。」
『そうですよね!?傷一つないですよ?!』
「それが〈赤眼の蜘蛛〉の技術力なんじゃねえか?」
「それか……神の…御業か……。」
「〈狂気の神〉の神域ともなっている、と誰かも言っていたしな。神の御業と聞いても不思議だと思わないのが、何とも言い難いな。」
もし例え、“神”が邪魔してるのだとしてもここで歩みを止める訳にはいかないだろう。
彼女が精霊と契約する、と覚悟を決めた以上、僕もそれ相応の覚悟を決めて挑まなくては…。
「よし!行こうぜ!お前ら……って、あんたらの名前聞いてなかったな。」
「今更か……。」
「まぁ、そうだね?紹介する暇が無かったというか…何と言うか……。じゃあ、自己紹介といこうか?私はスノウ。スノウ・エルピス。マナ循環器を作ってくれてありがとう。…えっと、ハイブさん?」
「ルーカスで良いぜ?俺もスノウって呼ぶしな!」
「ふふ。ありがとう、ルーカス。そして、隣にいる彼は…」
「…今はジューダスと名乗っている。」
「まあ、彼の名前についてはあまり言及してあげないで欲しいかな?」
「まぁ…なんだか複雑そうな事情を抱えてるっつーのは分かった!」
親指を立て、こちらにウインクを見せつけるルーカスに僕が睨めば、奴は「何で怒るんだよ!」と言ってあちらも憤慨していた。
僕がそれを無視していれば、奴は余計にピーチクパーチク煩く囀る────いや、そんな可愛らしいものでは無かったな。ギャンギャン犬の様に吠えていた、の方が正しかった。
ともかく、それくらい煩かったのだ。
「(レディったら、嫌そうな顔してるなぁ…?)」
「そう言えば、何でお前らは〈赤眼の蜘蛛〉なんかに捕まってたんだよ?」
「元々、私が捕まる予定だったみたいだけど……彼が捕まって、それから私も捕まって…って感じだね。恐らくジューダスが捕まった理由は単に私を脅すためだと思うよ?」
「うへぇ…。残酷なことすんな…〈赤眼の蜘蛛〉のやつら…。」
「ともかくここまで来たならお前にも手伝ってもらうぞ。」
「おう!それについては任せてくれ!あの研究所内の構造は大体把握してるからな!」
「あと、ひとつ言っておくと…マナは使えないと思った方がいい。あの中はマナを使用しようとすると妨害やら阻害されて頭痛がくるからね…。」
「あー?……あー、なるほどな!なら、こっちも妨害電波出して反抗すりゃあいい!あんたら、マナを使うなら事前に言ってくれたら俺が妨害系の電波を止めてやるぜ?」
「そんな事が…?」
「ふん。伊達に神の御使いをしていない、ということか。」
使えるなら使うまで。
これでスノウの戦力も期待出来るだろうし、同時にそれは僕らにとってかなり大きな戦力だ。
僕一人では補えない物も、彼女と一緒なら乗り越えられるだろう。
「機械の事はお前に任せる。…ちなみにお前、戦闘はどこまで出来る?」
「逃げる専門だな!」
「じゃあ、機械の事だけを君に任せるよ。ルーカス。」
「おう!期待してくれていいぜ?あそこの機械はほぼ暗記してるからな!」
「……その情熱を他でも発揮出来たら、スクリューガムの奴が頭を抱えずに済むんだがな。」
ここまで来るとスクリューガムの奴が不憫だ。
だが、奴もルーカスの奴に何かを見出して御使いにしてるのだろうから、あまり口にする事ではないが。
「……。」
途端に口を閉ざした彼女は、顔色悪く顔を俯かせた。
それをシャルも見えていたようで、心配そうにコアクリスタルを光らせる。
『大丈夫ですか?スノウ。顔色が悪いですが……。』
「…ジューダス。」
呆然と呟かれた声音は明らかに不穏な響きを孕んでいる。
僕がスノウを見れば、彼女は顔を顰めさせて手で頭を押さえていた。
「悪報だ。」
「……これ以上に悪い知らせがあるとはな。」
これから行く場所のことを考えれば大体の事がマシに聞こえると思うが、それ以上の何かが起こってしまったらしい。
僕は先を促すように顎をしゃくった。
「……居ないと思ってた…その……カイル達がね?〈赤眼の蜘蛛〉に捕まってるって言ったら?」
「……あいつら…。これ以上状態を悪くしてどうするつもりだ。」
あぁ、何だか頭痛がしてきた。
これならいっそもう研究所へと乗り込んだほうが気が楽な気がしてきた。
『それって、危険な状態そうか分かりますか?』
「ちょっと待って?更に探知してみる。」
目を閉じて神経を集中させているからか、彼女の耳に着けられた立方体のピアスの中の液体が更に碧色に光源を帯び、そして同じ色の液体が立方体の中で揺らめくように波打っている。
減っているか減っていないか分からない程度の減りなのを見れば、マナ消費はそこまで無いのだろうといった事がそのピアスを見て分かった。
「危険な状態では無い……と思いたいけどね?何しろ皆の近くにはアーサーやあの双子もいるから。」
『それ、ヤバイと思いますよ?スノウ?』
「希望的観測だと思ってくれ。…常に最悪の状態を想定しなければ…ね。」
「なら、早く行くぞ。あいつらも回収せねばならなくなった。」
『逆に丁度いいじゃないですか!仲間も揃って、僕達にとってはこの危機的状況も何だかんだ好転するかもしれませんよ?!』
「なら良いがな…。」
レスターシティの中央に佇む研究所を改めて見上げて、そして同時に他の2人もその研究所を見上げているのが見えた。
僕は一度大きく息を吐いて、2人を見据えた。
「……覚悟はいいな?」
「うん、行こう!」
「おう!」
2人が元気よく返事をしたことから、僕達は足並みを揃えて歩き出す。
目指すは、あの未知なる領域……〈赤眼の蜘蛛〉研究所だ。
* … * … * … * …* … * …* … * … * … * …* … * …
___レスターシティ・研究所内
「くそ…!」
カイルが俯きながら、悔しそうに声を漏らす。
彼の周りの仲間たちは既に壊滅状態。
スノウやジューダスという仲間を助けに来たというのに、目の前で嘲笑うかの如く口元を綻ばせているアーサーとその両脇に控える正体不明の双子に苦戦を強いられていたのだ。
しかし、その仲間たちはカイルの周りで地面に伏せてしまっており、彼らの攻撃に耐えられなかったことを意味する。……これでは本末転倒だ。
「ジューダス…!スノウ……!ごめんっ……!」
「さあ、大人しく捕まりなさい。スノウ・エルピスを拘束する為にもあなた達は効果的ですから。」
「クスススッ…!」
「キシシシッ…!」
双子も赤目を細めさせては、まだ立ち上がるカイルを見て嘲笑う。
もう手立てはないはずなのに、それでも仲間のために立ち向かってくるカイルを嗤ったのだ。
チェスで言えば、もう“チェックメイト”だ。
「リーファ、フェイロン。」
「「ハイ!」」
「例の捕獲器で彼らを捕まえなさい。それから後の事はあなた達に任せます。」
「「ハイッ!」」
アーサーに命令され、嬉しそうに破顔させた双子はあっという間に仲間たちの前へとあの捕獲器を持ってきた。
その砲弾の向かう先は……
「(くそ……!ここでやられるわけには…!)」
幾ら膝が折れそうになっても、幾ら強力な敵を前にしても、決して弱みをみせなかったカイルが僅かに絶望した顔を見せた。
それを見て、勝利を確信したアーサーがフッと笑いをこぼした。
「(これで……あのお方の前にようやくスノウ・エルピスを献上できますね…。長かった……ここまで。あのお方も満足でしょうから、これでようやくこちらの仕事も手につくというものです。彼女には、ボクのために生贄となってもらいましょうか。)」
〈星詠み人〉の楽園を作る────その為に、アーサーは今までやってきたのだから。
それなのに、自らの神がスノウを欲してしまい仕事に支障が出てしまったのだ。
改善する為にも、神がここ最近常に欲しているというスノウを生贄にすればこちらに気が向くこともない。
アーサーはそう考えたのだ。
〈赤眼の蜘蛛〉に引き入れる目的は達成されそうにないが、少しでもあの神の“おもちゃ”として役立ってくれればそれはそれで好都合。
捕獲器にマナが装填されるのを背後で聞きながら、アーサーはその場を後にする。
しかしその時、神が可笑しそうに笑ったのだ。
それが聞こえてきた瞬間、アーサーは目を見開き慌てて背後を確認した。
そこには意外なものが写っていたのだった。
「へへっ!これで使えねえだろ?!」
見たこともない男が捕獲器の前に立ち、手には工具……スパナを持っていたので、この男が何かをしたのだろうということは分かった。
しかし何をされたのか、見ていなかったアーサーには分からなかった。
「フェイロン、リーファ。何をしているのですか。」
「「っ!!」」
驚きで肩を震わせた双子を見れば、双子も訳が分からないとでもいうような顔つきでアーサーの方を振り返っていた。
マナを感知するために神経を研ぎ澄ませてみれば、マナの動きが凪のように静かだ。
逆にそれはアーサーからしてみれば、嵐の前の静けさとも捉える事が出来る。
「(一体、この男は何を…?)」
「出番だぜ!?ジューダス!スノウ!」
「「「「!?」」」」
その名前が出た瞬間、喜びで顔を涙で濡らしながら目を向ける人もいれば、驚きで空いた口が塞がらない人物もいただろう。
それもそのはず。
ここにいる全員、その2人の行方の詳細を掴めていなかったのだから。
「さっすが機械の神に見初められた御使いだね!」
「ふん。多少はやるようだな。」
瞬間移動で現れたのは、誰もが願ってもない人物たち。
言葉を紡いだ彼らだったが、周りの様子を見てすぐに詠唱に入る。
「___追憶の血涙を対価に、彼の者の再起願う……フルレイズデッド!」
『「__ヒール!!」』
見たこともない程の広大な魔法陣が地面に広がったと思えば、倒れている仲間たちの体が僅かに光に包まれ、そして徐々に仲間が体を起こし始める。
その光景を見てアーサーが言葉を失い、化物を見るような目でむくりと起き上がったカイルたちを見つめていた。
「なっ…!?」
「これは、まずいカモ……?」
「まずいカモ…!」
アーサーも絶句するほど、見事な魔法を組み立てたスノウに誰もが注目する。
その耳につけられた立方体の中の波打つ液体は、先程の強力な術によって多少減っていた。
しかしここに来るまでで万全を期しただけあり、そんなマナの消費も今のスノウにはなんのその。
それに召喚士であるスノウは、マクスウェル以外の精霊全てと契約を果たしたのだ。
これ以上にないほどスノウの中のマナの保有量は底上げされているはずだった。
「……。」
微笑みを浮かべながら、目を閉じて術に集中するスノウだったが仲間たちが起き上がった気配でゆっくりと目を開ける。
そして開口一番に仲間たちへとお礼を伝えていた。
「みんな、こんな所まで助けに来てくれてありがとう。」
そう零すと、スノウの隣に移動したジューダスと共に己の相棒を持ち、アーサーへと牙を向けた。
「……よくも、私の大切な仲間たちを傷つけてくれたね?この借りは倍にして返すよ!!」
「僕達に刃向かってきたこと、後悔するんだな!!」
「ど、どうしますカ…?アーサー様。」
「もうマクスウェルを喚べるだけのマナが残っていませんヨ…?!」
「ふむ……。これが俗に言う、ヒーローの登場シーンですね。なるほど、興味深いものです。」
「「アーサー様?!」」
そんな悠長なことを言っている場合か、と双子が焦燥感を表せば、アーサーはその双子の横を悠々と通り過ぎ、武器を持ってスノウたちの前に立ちはだかった。
意外にも余裕そうなアーサーに、双子も決心をした顔で各々武器を手にした。
「……まさか、本当に生きているとは思いませんでしたよ。そして……こちらこそ、この研究所の大半を駄目にしてくださった借りを返さなければなりません。建物は半壊以上の損壊、中にあった研究に関する書類は全損……。全く……相変わらず派手にやってくれますね?」
「ははっ。それはそれはご苦労様で。」
「ふん。大事な資料がある場所に、あんな大きな水槽を作るほうがどうかしている。自分らの自業自得だ。」
「まぁ、一理あるので耳の痛い話ですがね。それはともかく、今度こそ捕まってもらいますよ?スノウ・エルピス!」
アーサーが武器を奮い、初めに標的にしたのはスノウだった。
しかし彼女の横にいた強力な助っ人が、その攻撃をいとも簡単に往なしスノウとの距離を強制的に離れさせる。
「させるか!」
『行きますよ!坊ちゃん!』
『「___ネガティブゲイト!!」』
瞬時に晶術を放った2人を嫌煙し、アーサーが後方へと下がればそこへ双子の猛追がジューダスを襲う。
同じ動きの双子に双剣で往なし続けるジューダスの横を通り過ぎ、アーサーはスノウへと襲いかかった。
しかし、それはスノウにとっても想定内のこと。
スノウが相棒を手に、アーサーの攻撃を受け止めれば金属同士のぶつかり合う音が響き渡る。
「ボクの神がうるさいんですよ。ですから、早くこちら側に来てもらえませんかねぇ…?」
「誰がなんと言おうとっ、私はっ、君たちのところへは行かないよっ!!」
男と女の力など月とスッポンほどの違いだと言うが、アーサーは普段鍛えているのもありスノウの方へと簡単に力で制圧することが出来る。
鍔迫り合いの最中、スノウの足が僅かに後ろへとずれた事で、アーサーも狂気の笑みを浮かべる。
「このままでは負けてしまいますよ?さあ、どうしますか?」
「それはどうかなっ!!」
アーサーの剣を弾き、瞬時に別の構えを見せたスノウへ、アーサーが僅かに警戒をする。
するとスノウが口を素早く動かしていた。
「(ヴァーチュアスレイ!)」
直線上の敵に向かって光線の雨が降り注ぐ光属性の術がアーサーの目の前で炸裂する。
スノウの術の初動を見抜けなかったアーサーは、その強力な光の雨に降られ、その身に甚大なダメージを受けてしまっていた。
「くっ?!」
「クスッ…。発動のタイミングを見抜けなければ意味がないだろう?」
先程のスノウの攻撃は別の場所で戦っている双子にも甚大な被害をもたらしていた。
散り散りになってしまった双子へと、ジューダスも好機だとばかりに猛追を仕掛ける。
悲鳴を上げながら地面を転がっていく双子の1人、麗花を見ながら飛龍が心配そうに声を張り上げる。
「麗花!?」
「うっ、飛……龍……。」
「終わりだ。」
ジューダスがフェイロンに向けて武器を振りかざし、双子を戦闘不能にさせた。
そして応戦に行く前に仲間たちの無事を確認する。
「(どうやら全員無事のようだな……。)」
「ジューダス!あの人、変な技を使ってくるんだ!!」
「変な技?」
カイルが仲間の背中を支えながらジューダスへと助言をくれる。
しかし、どうやら聞き馴染みのない術を、彼らは変な技だと言っているようだったのを聞いてジューダスはその場で仲間たちへと頷いてみせた。
修羅やリアラが仲間たちへと回復技を使っているのを見届け、先程の言葉を念頭に置いたジューダスもまた、スノウの元へと駆け出す。
シャルティエのコアクリスタルもいつも以上に光り輝き、その強い気持ちを表していた。
「気絶しなよ!」
相棒を銃へと変形させたスノウが至近距離で魔法弾を放ったが、すぐに体を捻らせては躱されてしまい、次々と逃げるアーサーを魔法弾で追従するスノウ。
そこへ駆けつけたジューダスもアーサーへと武器を振りかざしていた。
「……チッ。(少し、こちらに分が悪いですねぇ……?)」
捕獲器は例の男により分解されてしまっている。
しかし、今手元に捕獲器がなくとも既にマクスウェルは自分たちの手中にある。
そこでアーサーは懐から黒いリングを掲げ、凛然とした声で叫んだ。
「マクスウェル!出てきなさい!!」
「「!!」」
この状況を打破するには、多少の犠牲は致し方ない。
周りのマナを吸い尽そうが、ここで精霊を召喚しなければアーサー達の……〈赤眼の蜘蛛〉の敗北が決してしまう。
苦しみながら雄叫びを上げ、召喚主であるアーサーのマナも吸い尽くす勢いのマクスウェルに歯を食いしばって誰もが耐え動けない────そう思っていた。
「……精霊の皆が教えてくれた。私のマナは……特別なんだって。だから────」
〈星詠み人〉であるはずのスノウが、ここに在る全てのマナを吸い尽くすマクスウェルへと真正面に向き合っていた。
苦しむアーサーや双子、修羅やルーカスも、そんなスノウの様子に驚いて目を見張っていた。
「《If it can be imagined, it can be created.(想像出来るなら、それは創造出来る)》……! 私が君のその苦しみを取り除く事が出来たなら、今度こそ契約を!マクスウェル!!」
「ウガァァァァァァア!!!」
黒いリングとどす黒いマナによって狂気に侵されているマクスウェルはそこにいる誰もを敵とみなしていた。
目の前に立つマクスウェルにとって味方であるはずの召喚士のスノウでさえも、だ。
味方と敵の見分けがつかない程、マクスウェルは苦しんでいた。
同時にその場にある様々なマナがマクスウェルの召喚の為に、光を帯びながらマクスウェルへと集結する。
それがマナを生命源とする精霊マクスウェルにとって、苦しくもあったのだ。
「___ディスペルキュア!!!」
それはスノウがいつも仲間達へと使う回復技。
いつの間にか銃杖へと武器を切り替えていたスノウは銃杖を地面へとトンッと突くと、もう片方の手でマクスウェルの方へと手を差し伸べた。
その瞬間、みるみる内にマクスウェルの様子が変わっていく。
波紋のように広がった回復の波は、マクスウェルだけでなくその場にいた者全てを癒やす光だった。
全員が自身の身体や手を呆然と見ている間、マクスウェルが正気を取り戻す。
「…………わしは…?」
「マクスウェル。君は何もしていないよ。そして、君の苦しみも全て無くなったはずだ。だから今度こそ────私と契約をしてくれないか?マクスウェル。ようやく、君のお眼鏡にかなう条件を満たしたよ。」
胸に手を置いて微笑むスノウを見て、全てを悟ったマクスウェルはその場に跪いた。
全ての精霊がスノウの中で幸せそうにしている────それを見て…、そして今まで居なかった闇と光の精霊を見て、マクスウェルはスノウへとお礼を伝えた。
「……すまない。いや、ありがとう。召喚士スノウよ。」
「言っただろう?君は何もしていないよ、ってね?謝ることなんか何一つ無いんだよ?」
「ほっほっほ……。本当にあなた様は……」
「“さま”も無し。それに跪く、なんてやめてくれ。何だか居た堪れない気持ちになってくるから……ね?」
「ほっほっほ。それでは立たせてもらおうかのぉ。」
ヨイショと立ったマクスウェルは誰にも気付かれない程度に目を見張った。
何故ならば、いつも以上に体の軽さを実感しているからだ。
先程のスノウの回復技が……、彼女の〈碧色のマナ〉と彼女のマナが織り交ざった〈癒やし色のマナ〉がマクスウェルにその様な効果をもたらしたのだとしたら……。
「……。(なんという目覚しい成長だ…。これだから人の子は、時に恐ろしいのぉ…?神から貰ったマナをまさか自分色に染めてしまうとは…。寧ろ、これからの成長が楽しみになってきたのぉ?)」
「???」
何故そんなにも見つめられているか分かっていないスノウが首を傾げ、それをマクスウェルが優しく笑う。
そしてスノウの手を取ると、しわがれたその手でスノウの手を包み込んだ。
「召喚士スノウよ。お主の言葉、受け入れよう。精霊マクスウェル……お主の為に、この力を存分に奮おうぞ。」
そう言ってマクスウェルは光の粒子となり、消えていった。
同時にスノウの左手の中指には綺麗なダイアモンドの指輪が指に飾られていた。
契約の反動と凄まじいマナの消費から、フッと力が抜けた様子で後ろに倒れそうになったスノウを、ジューダスが後ろから支え転倒は免れた。
僅かに開けていた目をジューダスに向けて、困った顔で笑うスノウをジューダスが軽く小突いていたのだが、その顔は優しい微笑みを浮かばせていたのだった。
それはまるでお疲れ様、と労うように。
「(例のピアスが……あと残り3分の1を切ったか…。やはりマクスウェルとの契約でかなりマナを酷使したようだな…。)」
立方体のピアスを見てジューダスが苦々しくなり、スノウがそれを苦笑いで見つめる。
そして大丈夫だとでもいう様にその場で笑って見せた。
『さあ!残るは奴だけですよ!!』
シャルティエがコアクリスタルを光らせ、最後の仕上げだと言わんばかりに奮起する。
彼の声が聞こえていたスノウもジューダスも、アーサーの方へと向き直り、武器を手にした。
「もう君達はマクスウェルを召喚出来ない。さぁ、どうするんだい?君たちの勝利はもうほぼ無いと言っても過言ないと思うけど?」
「大人しく降伏しろ。」
「……。」
アーサーはそれでも笑みを失わなかった。
何かを隠し持っているのか、それとも諦めの笑みなのか。
誰もがアーサーの言葉を待つ。
その瞬間、アーサーの前に降り立つものがいた。
「久しいな?〈碧のマナ〉の遣い手よ。」
それは顔を奇妙な紋様の描かれている布で隠し、日焼けした肌を持った男だった。
上半身はその隆々とした筋肉を見せつけるが如く、服を纏わず。
どこか異国の地で見たような服装をした男はスノウを見て、そう言い切った。
そして呼びかけられたスノウもまた、その男を見ては口を押さえ、絶望した顔を見せた。
「狂気の…神…!!」
「!!」
男の纏うマナが、神の持つそれだったからスノウが狂気の神を見て、すぐに察知出来たのだ。
すぐにジューダスがスノウのピアスを見れば、立方体のガラスの中の波は碧と赤が揺らいでいた。
決してそれらは混じり合わず、碧の液体の上に乗っかるようにして赤い液体が波を作っていた。
その“赤”は徐々に面積を増してきて、立方体の中の液体を満たそうとしていた。
ジューダスはすぐさまスノウを隠すように神の前に立ちはだかる。
布に覆われて表情など見えないと言うのに、ジューダスを見た“神”がニヤリと笑った気がした。
「〈薄紫色のマナ〉を持つ者も、久しいな。あれから進捗はどうだ?神の御使いとして、精進しているか?クックック…!」
「…黙れ。」
「相変わらずだな。その目……あの時と何一つ変わらぬ。」
見下ろす“神”へ怖気付くことなく、ジューダスはシャルティエを構える。
しかしそんなジューダスを見て、“神”は首を横に振った。
「私のところの〈御使い〉を助けに来ただけだ。……アーサーよ、帰るぞ。」
「えぇ。帰りましょう。今はここも使えませんから。」
双子もアーサーの近くに寄り、瞬時に消えたアーサー達。
しかし“神”だけはその場に残り続け、スノウとジューダスを見ていた。
「次こそ、手に入れよう。その甘美なる体をな。」
「…ごめんけど。この体は私の物なんだ。他の誰かに明け渡すような事はしないよ。」
「クックック…。威勢の良い〈御使い〉なことよ。…そうでなくてはな。張り合いもない。」
それだけ言って、“神”もまた瞬時に消えた。
それと同時に、スノウの緊張の糸が解けたようで、その場に座り込んでしまった。
「大丈夫か?」
「はぁぁ…。大丈夫…と言いたいけど、流石に“神”が出てきたら余裕はなくなるよねぇ…?」
立方体のピアスに触れながら苦笑いをしたスノウ。
そんなスノウの横に片膝をつき、シャンシャンとすぐに鈴を鳴らしてみせたジューダス。
すぐに立方体のピアスの中は、碧の液体だけとなっていき、それにスノウの顔も和らいでいった。
ただ、鈴鳴だけでマナの回復は出来ない為に、残りのマナは三分の一のままだった。
「ジューダスっ!スノウっ!」
カイルが二人へと抱き着いて、涙を流した。
その顔は心底心配した、といった顔であった。
そんなカイルを二人は笑顔で見やる。
そして二人は同時にカイルへと言葉を紡いだ。
「「ただいま。」」
「お、かえり…っ!!ふたりともっ…!!」
折角の再会も、おんおん泣きつくカイルにジューダスが嫌そうな顔へと表情を変え、離そうと試みる。
しかしカイルは余計にジューダスへと抱き着いてしまい、解放されたスノウは逆に少しだけほくそ笑んでいた。
「あーあ。ジューダスが心配させたからー。」
「お前っ…?!人のこと言えないだろうが?! というより、離せっ!!僕の服に鼻水をつけるな!!!」
「ズルズルっ…。」
「やめろっ!!汚いだろうが!!!」
他の仲間たちが呆れたり、笑ったりする。
その場に流れていた空気は非常に穏やかで、誰もが仲間の生還を喜び、そして暫くは、その暖かい空気に酔いしれるのだった。