第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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(*スノウ視点)
*スノウの前前世、日本時代の名前が出てきます。変換が未入力の方はご注意願います。
また、未入力の場合は綴(つづり)と出ますので読み方と一緒に記載しておきます。
*苗字は固定です。
では、お楽しみ下さい。
────「……!!」
何処からか、声が聞こえてくる。
それは、何だか聞いたことがあるような……そんな声だ。
どうも私を呼んでいるような、そんな声に私は意識を浮上させる。
「おい!綴!!!」
「っ!?」
ガタッと私が飛び起きれば、そこは────教室だった。
言葉を失い、呆然とした私に教師が心配そうな顔で覗き込んでくる。
それは、いつもの教師だった。
「お前、大丈夫か?顔色悪いぞ。保健室に行くか?」
「────え?」
どういうことだ…?
私、今まで何をしていたんだっけ……?
何か……大事な事を、していた気がするのに……。
「おい、本当に大丈夫か?綴。真面目なお前が授業中に寝るなんて相当だぞ?おーい、クラスの保健委員、綴を連れてってやれ!」
「はーい。」
誰かが椅子から立ち上がり、私の腕を取ると保健室に連れて行こうとするので、条件反射でこう応えてしまう。
「いえ……大丈夫、です……。」
そう。
いつも何かあれば、こう答えていた。
…………?
なぜ…?何故、そう思ったんだ……?
ここは私のいつも通う学校で、いつもの教室で、いつもの授業風景だというのに。
「いやいや、お前。その顔大丈夫じゃないだろ。いいから、連れてってやれ。」
「はい。…行こう?綴。」
「……。」
目眩がして頭を押さえれば、倒れそうになり慌てて近くにいた先生と保健委員が私を支えてくれた。
「おいおい!救急車ごとか?!」
「大丈夫?!綴!!」
「綴…?私の、なまえ……。」
おかしい……私の今の名前は───なのに。
「……?」
……今、私はなんて言った?
私の名前は、綴…。神結 綴だ。
それの……はずなのに…。
「なんで、こんなに……くるしいんだろう……?」
忘れちゃいけない名前だったはずなのに。
ううん、違う。
これ以外に名前なんてあるはずないじゃないか。
これは親から貰った大事な名前なんだから。
私は気付けば保健委員と教師によって保健室に連れてこられていた。
強制的に保健室のベッドで寝かせられた私は、美人な保健室の先生と二人きりになった。
熱を測られたり、体調を聞かれたりしてそれを難なく答えていけば、保健室の先生はニコリと笑顔を見せてくれる。
……あぁ、この先生はやっぱり笑顔が似合う。
…………口が裂けても言えないが。
「昨夜は夜更かしでもしたの?」
「……いえ。」
「こんなに顔色を悪くして…。全く、ダメよ?自分を大切にしなくちゃ。」
「すみません…。」
「謝る前に、ちゃんと寝て休む事。いいわね?」
そう言って保健室の先生は私の黒縁眼鏡を取って机の上に置くと、瞼の上に手を置いて寝るよう促してくる。
だからかな…。段々と眠くなってきたんだ。
私は重い瞼をそっと閉じさせ、そのまま意識を手放した。
しかし一時間も経てば身体も回復したみたいで、目を開けた時に保健室の先生から次の授業に出るかどうか聞かれた。
今は3限目、次は4限目の世界史か…。
勿論、真面目な性格を装っている私は授業に出る事を伝え、保健室の先生へお礼を伝えておいた。
やっぱり、寝たらスッキリしたなぁ?
さっきまで頭痛とか目眩が嘘のようだ。
早いところ授業に戻って内申に響かないようにしなくては…。
___放課後
無事に授業も終えた私は、クラスの人達に見送られながら教室を後にした。
今日は早く帰って休んだ方が良さそうだからだ。
他の人を心配させるなど、あってはならない。
自分が他の人を助ける分でも、自分が不調をきたして他に迷惑をかける訳にはいかないのだ。
「おっと…。」
自宅前に辿り着いた私だったが、玄関の扉前に白い鳥がこちらを見上げていた。
まるで私の帰りを待つようなその鳥に、何故か私は既視感を覚えていた。
初めて会うはずなのに、だ。
「……可愛いなぁ…?」
腕に乗せられるほどの鳥だし……もしかしてこんな大きさでも雛鳥だというなら近くにある巣から落ちたのかな…?
近くに親鳥がいたらいけないからそっとしておかないと駄目なんだけど……。
「……これは触りたくなるよね…?」
白い鳥に近付き、そっと触れようとすれば鳥自ら近付いてきて、私の手に擦り寄ってくれる。
それに私が声にならない声を心の中で叫び、思わず白い鳥を抱きしめていた。
あぁ、可愛い…!
「〜〜〜〜〜〜っ!!!」
あまりにも可愛い、可愛すぎる…!
こんな鳥を生み出した神はもう罪だよ、罪!
こんなの見てしまったら飼いたくなるじゃないか!!
「君、うちの子にならない?」
我ながら、割と真剣に聞いてたと思う。
そんな私を見上げていた白い鳥が、嬉しそうに羽を広げて鳴くものだから、これはもう良いよね?良いよね?!
多少の罪悪感を抱えつつもその白い鳥を腕の中に収めた私は、家の鍵を開け中へと入る。
「ただいま。」
誰も居ない家に、自分が帰った事を告げる。
勿論返事はないが、それもいつもの事なので靴を揃えて中へと入っていく。
すると先程まで大人しかった白い鳥が急に暴れだし、腕の中から飛び立っていく。
そしてテレビ近くにあったゲームのROMの方へと降り立つと、私に向けて一際大きく鳴いた。
何かあっただろうか、と私が白い鳥の近くによれば、まるでゲームを見ろと言わんばかりにくちばしにゲームのROMをくわえていた。
「こらこら。おもちゃじゃないよ?」
私がそのゲームを取り上げ、元に戻そうとすると白い鳥が怒ったように羽をバタバタさせる。
仕方なく地面に置いていたゲームを見れば、それは最近買ったばかりのゲーム達ばかりだ。
ちゃんと発売日もチェックして抜かりなく当日にゲットしたものばかり────
「……ん?数が…足りない…?」
私が買ったゲームはもっとたくさんあったはずだ。
それこそ、大好きなシリーズがごっそり無くなっているような気がしてよくよく見てみたが……やはり何が失くなっているのか分からないし、何なら今日学校でも起こったような違和感が体中を占めて酷く気持ち悪い…。
「……先生たちの言うとおり、今日は疲れてるのかな…?」
目眩といい、疲れが出ているに違いない。
うん、絶対そうだ。
じゃなかったらこの変な違和感も、きっと拭いきれているはずなんだ。
何だか今は買ったゲーム達を見たくなくて、ROMを元に戻して手洗いとうがいをしに洗面台へと向かった。
すると驚いたことがひとつある。
鏡で見た私の髪が……黒だったのだ。
「……え?」
いやいやいや……、何を言ってるんだ私は。
幾ら校則が緩いからと言えど、元々私の髪の色は黒だし、視力も悪いからこの黒縁眼鏡もしていたじゃないか。
他の髪色なんて美容室で頼んだ事すらないのに。
「はぁぁぁぁ……。ホントに疲れてるんだな…私……。」
瞳の色だって海色じゃなくて、元々黒じゃないか────って、え?
瞳の色が……海色…?
なぜ私はその色だと思っていたんだ…?
「いやいや、漫画の見すぎだって……。」
大体の人は黒か茶色だろう。
海外の人で色素の薄いグレーがあるくらいで瞳の色なんて大体決まっているのが人類だ。
でも……何故か、“紫色”の宝石みたいな瞳を見たことがあった気がする。でも、何処で…?
「……あー、いや。漫画でそんな人いたかも。推しの一人だったかな…?推しを忘れるなんて……言語道断だぞ、私……。」
うん、気にするな。
早いところ手を洗ってうがいをして、あの可愛い白い鳥を構って、それから推しのグッズの発売日確認や小説を読みあさらなくちゃ。
そうだ、今日も変わらない一日だ。
これが私の“日常”なんだから。
────私は、この体の中を占める違和感を無視する事に決めた。
‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥
___翌日。
やっと来た週末の休日。
家で白い鳥を飼うことを決めた私は、この週末でペットショップに行くことにしていた。
ケージやらエサやら買うものが沢山ある。
私は意気揚々と私服に身を包み、帽子を被って外へと飛び出した。
最後に振り返って、この白い鳥に挨拶っと。
「行ってくるよ、“アスカ”。」
この白い鳥を見て、すぐにその名前が浮かんだんだ。それに、何故かその名前じゃないといけない気がしたし、他の名前をつけたら違和感がある。
後はなんてったって、この白い鳥が他の名前を嫌がっていたしねぇ……。
挨拶を済ませた私はアスカの頭を撫でて、扉を閉めた。
……ちゃんと鍵をするのも忘れずに、っと。
さて、まずは何処から行こうかな?
「ねぇねぇ!知ってる?あのゲーム!」
「どれ?」
「あれよ!あれ!あのポスターのやつ!!」
近くを通り過ぎて行った女子達がキャッキャッと可愛らしく、そして楽しそうに歩いている。
彼女らの言っているポスターを見れば、昨日チェックしたばかりのゲームだった。
割と有名で、ゲーム会社自体も大手の為に知らない人は逆に少ないだろうゲームだった。
「……よし、まずはこのゲーム買いに行こう…。」
帽子を深く被り直し、緩みきった口元を隠して歩き出す。
前々から楽しみにしていたゲームだったんだ。
でも実はもう一つ、楽しみにしていたはずのゲームがあったのに、それが思い出せないでいた。
あらゆる手を使ってネットで探してみたものの、見つからない上にどう検索していいかも困るくらい、私はそのゲームを思い出せなかったんだ。
……おかしいだろう?私だって妙だと思ったけど、思い出せないものは仕方ない。
私はそのまま目的のゲーム売り場に行き、慣れた足取りでその売り場へと辿り着くと例の新作ゲームを手に取った。
そしてさっさと会計へと足を運んだ私は、その足でペットショップへと向かった。
店員さんのオススメを聞きながら、鳥用のエサやらケージを選ぶのだが……やはりペットショップの店員さんはこちらが言わなくとも、鳥と言っただけで大体分かるものらしい。
ケージの大きさやらブラシやらエサやら、いやに的確に選んでくれる。
関心したのと同時に、店員さんが優しい眼差しで私を見つめた。
「可愛い白い鳥ですねぇー!それにあなたによく懐いているみたいで羨ましいですよ!」
「……え?」
「あれ?その白い鳥はあなたのじゃないんですか?ずっと頭の上に乗ってますけど。」
私が慌てて頭の上に触れると暖かい羽毛のような物体が私の頭の上に鎮座していらっしゃる。
おまけにそれは聞き覚えのある可愛い声で鳴いて、店員さんをメロメロにさせていた。
……全然気付かなかった。恥ずかしい…。
「……いつの間に…。」
「ははっ!鳥ってよく脱走しますからねぇ!軽いし、気付かないのも無理はないですよ!」
「お恥ずかしい限りです…。」
頬を掻きながら私がそう言えば、店員さんは優しい言葉をかけてくれ、アスカの為の諸々を準備してくれたのだった。
「さて、と…。どうしようかな…?」
と、言ってもアスカが頭の上に鎮座なさってる状態で歩く訳にもいかない。
そんな状態、そこら中の陽キャたちの恰好の獲物状態だ。
好奇の目に晒されること、間違い無し。
ここは一旦大荷物だし、帰ろうか…。
「アスカ、帰るよ。」
しかし、そう言った私をアスカはジッと見つめ何かを咎めている様な……そんな瞳をしている感じがする。
……いや、昨日と同じつぶらな瞳ではあるけど。
何故かそう感じたんだ。
「…? アスカ?どうかした?」
低く唸っているアスカを見て、店員さんが笑いながら私に話しかけてきてくれる。
どうもまだ散歩したいんじゃないかって、そういう事らしい。
…何だ、そんなことか。
てっきり“思い出さないといけない何かを探せ”って言われてる気がしたから────
「…ぇ?」
思わず小さく口に出してしまった疑問の声。
アスカは他のインコみたいに喋れないし、何かを言われた訳じゃないのに何故私はそう感じたんだろう?
「(あ…駄目なやつだ…。これ以上考えたら…頭、痛い……。)」
思わずフラッとして頭を押さえた私に、店員さんが慌てて声を掛ける。
店内で休んでいいから、と椅子まで用意してくれたのを見て、私は慌てて”いつもの様に”取り繕った。
「あ、大丈夫です…から……。」
ボーッとそう言ったが、信用ならないのか店員さんは強引に私を椅子に座らせた。
…あぁ、懐かしい。
“誰かもこうして私の言葉が信用ならないって言って強引に────”
「はぁ、はぁ…」
余計に頭が痛い…!
何故、何故、私はそんな変な事を思い出しているんだ…?
そんな言葉を言ってくれた“黒衣の人”なんて知らない…!!
え、誰だ?
さっき思い出しかけた“黒衣の人”って……?
「っ!!」
私が頭を抱えている中、アスカがここぞとばかりに鳴き出した。
そう…、そうなんだよ…。
アスカが鳴いてくれてるのはきっと“何かを探さないといけないから”。
でも、アスカが言う……それはなに?
一体私は……何を忘れているんだ…?
「アスカ…?私は……何を忘れてるんだろう…?大事な……、そう、大事な人だった気がする……。でも、全然思い出せないんだ。」
頭が痛む……。
これ以上考えたら頭が沸いてしまいそうだ。
一旦考えるのをやめた私はその日、帰って寝込んだ。
アスカの為のペット用品は、後で郵送で送ってくれるらしい。
だから安心した。それにアスカもあれ以降激しく鳴くことはなくなったし、それに何故か安心感を知らず知らずのうちに私自身が感じていた。
そう、何も考えなくていいって言ってるみたいに。
「あー。なんか最近体調が芳しくないな……?きっと、最近寝ても疲れが取れてないのかもしれない…。明日の休日は、明後日の学校に向けて休むことにしようっと…。うん、そうだよ。下手に考えたら駄目だ。」
私は結局その日も、明くる日も……寝て休むことに専念した。
勿論アスカの必需品は届いたから、ちゃんと餌をやって、自分自身も食事を食べて……。
じゃないと、また彼に言われるから。
────“体重がちっとも増えないじゃないか”って。
それに、
────“そんなんじゃ、体調がいつまで経っても治らないぞ”って、そう言って……私のことを心配してくるから。
「っ!? 違うっ!!」
駄目だ、だめだ…!
余計なことは考えるな。
じゃないと、自分じゃなくなる……!!
【神結 綴】じゃなくなってしまう!!
「わ、たし……別の名前が……?」
おかしいな。
おかしいな……?
なぜ?
何故……?
“名前”なんて、誰しも一つしかないはず。
なのに、何故……?
何故、こんなにも焦燥感に駆られるんだろう……?
早く思い出さないと行けない気がしてしまって……。
でも、思い出そうとすると激しい頭痛が襲ってくる。
まるで考えてはいけないと、誰かに止められているかのように。
「……。」
ふと、考えないようにしていたゲームのカセットROMをベッド上から覗く。
アスカが何故か、それに対して激しく反応していた。
それにあのペットショップでだってそうだ。
何故か、私が頭痛に襲われるときはアスカが激しく鳴いていた。
何かを訴えかけているかのように……。
「……明日、学校行かなくちゃ……。」
だから、今は休ませて────
* … * … * … * …* … * …* … * … * … * …* … * …
___自宅内、寝室。(地球・4日目)
「さて、今日も学校行ってくるよ。アスカ。」
くるる、と可愛く鳴いたアスカを優しく撫でながら、私は登校準備を始める。
朝食も食べたし、あとは制服を着て学校へ向かうだけだ。
最後にとばかりに私がアスカを撫でれば、嬉しそうにそのつぶらな瞳を細めさせていた。
名残惜しく玄関に向かった私をどうやら見送ってくれるらしく、飛んできたアスカを腕で受け止めて喉元を撫でてやる。
「今日も良いことがありますように。」
そう祈りを込めて、私が腕を上げればアスカは玄関の床に大人しく飛んでいった。
それを見届け、私はいつもの扉を開け放った。
「行ってきます、アスカ。」
そうして私は玄関の扉を閉め、鍵をかけたのだった。
そこからは学校のクラスメイトや友人などが道中で挨拶を交わしてくれ、反射的に同じ挨拶を返せば全員が通りすがりに笑顔で返してくれる。
元々、いじめなど無い学校だ。
クラスメイトとの関係も良好だし、何よりクラスメイトなどの距離感が他の学校よりは近い。
そんな特色を持った学校だった。
それもあってここを選んだし、校則も緩いのがなにより素敵である。
「一限目は……体育か。いきなり体育はちょっと痛いな…?」
朝から疲れる教科だったか……。
ホームルームが終わって全員が急いで体操服に着替えたら、グラウンドで集合する。
皆、嫌そうにしているし私も一限目からは嫌だが、体育自体は嫌いじゃない。
寧ろ、得意な方である。
「今日は器械体操だからなー、お前らー。」
「「「ええぇ……。」」」
「えー、じゃない。これも体力づくりの一環だ。さ、やるぞ!」
体育教師がやる気を見せる中、クラスメイト達は怠そうに立ち上がり持ち場についていた。
器械体操は何種類かあるから、どれからやるべきか……。
「綴は何処から回る?一回やったら他の奴に行って……の繰り返しでしょ?どこから回るか迷ってるんだ〜。」
「そうですね…?では、鉄棒から行ってしまいましょうか?あそこが一番空いているようですし……。」
「あ、本当だ。ま、鉄棒が苦手な人って多いよね。」
「腕の筋力が問われますからね。それもそうだと思います。並大抵の筋力では及ばないかと……。」
「綴は何でも出来るから羨ましいよ……。」
「いえいえ…。それはあなたもでしょう?いつも見てますよ。」
「でも鉄棒はだめー。」
そんな会話を繰り返していれば、とうとう私達の出番になってしまう。
クラスメイトに一言断りを入れ、鉄棒の前へと行く。
さっき話していた体育教師とは違う体育教師が口に咥えていた笛を鳴らしたことで、私は逆上がりから始め、その後何個かの技を組み合わせればいつの間にやら人だかりが出来ている。
しかも、陸上部員からの熱い視線を貰って、「これは失敗したな」と内心思ってしまった。
最後にくるりと回転しながら飛び降りれば、辺りからは拍手喝采が飛び交う。
なんだか恥ずかしくて、思わず頬を掻いてしまった。
「よーし、綴いいぞ!……っていうか、お前陸上部に入ったらどうだ?絶対に好成績残せるぞ?」
「……いえ。やめておきます。注目されるのは苦手なので……。」
さっき言ったことは嘘じゃない。
この世界では内気な私だが、彼のいる世界では性格を変えていたらいつの間にかあんな感じになってしまったのだ。
そう、“彼の居る世界”では、だが……。
「(あぁ、何だか会いたくなったな……?もう随分と会ってない気がするよ、────。)」
…………??
私、さっき誰の名前を言おうとした?
「綴?大丈夫?……顔色悪いよ?」
「あ、うん……。ごめん、何だか頭が痛くて……。でも大丈夫です。次は跳び箱の方へ行きましょうか?」
「うん。そうしよ!」
クラスメイトと共に再び体育に勤しむ。
そう、これが日常なのだから何も怖がる必要なんてない。
ここでは、“死ぬ”ことも、“傷つくこと”もないのだから。
平和な日本、そのものだから。
「(あぁ……外はきれいな晴れ間だね…?まるで“私の髪色”みたいだ。……ふふ。そう思ったら彼の耳に着けてるあの綺麗な蒼色のピアスを見たくなったな…。)」
私はその違和感に気づかぬまま、一限目を終え、そして1日が過ぎる。
何も収穫がないまま、私はその日を無事終えたのだった。
___(地球・5日目)
刻々と時間が過ぎていく。
何もないまま過ぎていく時間は、何故か贅沢に感じてしまって……。
このまま争いも、危険なことも起きなければいい。
そう……思ってた。
「アスカ……?」
学校から帰るとアスカの姿がない。
どこに行ったのだろうか?
ペットの店員さんも鳥はよく脱走すると言っていたが、まさか一人で外に出てしまったのだろうか。
外は危ないことがたくさんあるのに。
……いや、でも元の場所に帰れるんだったらそれでいいじゃないか。
アスカにも寂しい思いをさせていたし、きっと自分のもとある場所へと帰りたくなったのかもしれない。
“今の私のように────”
「……なんで、私……泣いて……?」
何故か涙が頬を伝って地面を濡らした。
急なその出来事に、私はアスカが居なくなったことで寂しくなったんだと思い込むことにした。
じゃないと、今泣く意味なんて考えられない。
私はシャワーを浴びて、そのまま寝ることにした。
……もう、何も考えない。
そう、心の中で誓って。
___(地球・6日目)
私の中での焦燥感が謎に膨らんだまま、私は今日も学校へと登校した。
……結局あれから、アスカは帰ってこなかった。
ぽつんと残ってしまったケージをどうしようかと悩むのも、今は考えないようにした。
そう、後回し。
いつもならそんな事しないし、問題を後回しにするなどやったことがないが、今はそれに触れると寂しさが心を占めてしまいそうで……。
だから、私は“考えないようにした”。
学校ではいつものクラスメイトに挨拶を交わして、今日もいつもの変わりないホームルームが始まる。
特別何も起こらないのに、何故か何かを期待している自分。
訳も分からぬまま、私は今日を過ごす。
このままでは駄目だと、分かっているのに……。
もうすぐで“タイムリミット”だというのに……。
「……? なんのタイムリミットだっけ?」
あぁ、やはりここ一週間、私はおかしくなっている。
そう、何かがおかしい。
それは最初にあった違和感もそうだった。
ただの頭痛じゃないことくらい、分かってる。
でも、それが何なのか……今の私には分かり得ない。
だとしたら、何処で“それ”は分かるというのだろう?
「(随分と詩的なことを思うようになったな…。)」
……今日、アスカを探してみようかな。
そうしたら今の私の疑問にも応えてくれる気がして……。
「うん、そうしよう。」
元気そうにしてるなら安心するし、アスカが“幸せならばそれでいい”のだから。
私は妙な違和感に気付きながらも、それを無視して放課後をただひたすら待った。
そしてようやく放課後になり、私は慌てて学校を飛び出した。
そんな私を見て、クラスメイトが不思議そうな顔をしていてとても申し訳ないと思っているが、何分急ぎの用なので挨拶もそこそこに私は外を探し回った。
そう、アスカはもう私の大事な家族なんだから。
「……!」
そうして小一時間探し回れば、アスカは最初会った時と同じく私の家の前で鎮座していた。
まるで私の帰りを待っていたかのように。
「アスカ…!良かった!」
やっぱり、途中で放棄しちゃだめだ。飼い主にはちゃんと飼い主の責任があるのだから。
私は潰れないようにそっとアスカを抱きしめた。
するといつだったかのように可愛らしく鳴いてくれて、少しだけ涙が出た。
……あぁ。最近涙もろいな……?
これも、アスカが大事だからなんだけど、今の私にはそんなことを考える余裕なんてなかった。
ただただ、アスカの無事を喜んでいた。
「勝手に何処か行っちゃだめだよ、アスカ…!心配したんだからね?」
「ほら、帰ろう」と私が言った時────アスカが本当に嬉しそうに鳴いていた。
でも帰ると相変わらずゲームのカセットROMを弄るアスカに、私は暫く首を傾げていたのだった。
____(地球・7日目)
「……はぁ、雨か。ついてないな…。」
TVで見た天気予報は、一日中雨の予報。
まさかの天気に気持ちがブルーになる。
だって、“私は雨が苦手だから────”
「って、あれ?ただの雨が苦手って……。子供じゃないんだから……。」
そう呟けば、いつもみたいにアスカが咎め鳴きをする。
どういう瞬間かは分からないけど、たまにアスカは咎め鳴きをしては私の瞳をじっと見つめるのだ。
……何故かは分からないけど。
「さて、今日も学校へ行きますか……。」
しっかり雨対策をして学校に行かなくては、学校に着く前にびしょびしょになってしまう。
何処かで買った傘を持って玄関から出ようとするとアスカが肩に乗ってきて、困った顔で笑ってしまう。
残念だけど、君を学校には連れていけないんだよ?
私がそっと掴もうとすればアスカがグッと脚に力を入れるものだから、思わず「うっ」と呻いてしまう。
まさか、このまま学校まで付いてくる気じゃないだろうか?
それはそれで私は一緒に居られて嬉しいが……恥ずかしくもあるし、幾ら緩い校則とはいえ、ペットを学校へ連れてくるのは────
「あぁ、いいぞ。しっかり面倒みろよ?」
「え、良いんですか?先生。」
結局私から離れなかったアスカを連れて登校し、教師に相談すればあっさりと受け入れてくれる。
何だか拍子抜けだな、なんて思いながらクラスまで行けばあっという間に人だかりが出来てしまい、困った顔で対応する羽目になってしまった。
……一つ言えるのは、注目の的になるのも悪い気はしなかった事だった。
「ねえ、アスカ…?何か、今日嫌な予感がするんだ。何か……起こりそうな、そんな予感が……。」
相変わらず私の瞳を見て、可愛らしく鳴くアスカ。
でも、何故かアスカの瞳を見て、酷く焦燥感に駆られたのも事実だ。
……今日、帰るとき気をつけよう、っと。
授業の鐘が鳴りそうになる前に私は移動をした。
ちゃんと、授業は受けないとね?
勉強は大事だって、あの世界でも思い知ってるから。
だからこそ、受けれる授業にはちゃんと出る。
彼の隣に堂々と立てれるように。
「もうすぐ……。もうすぐで会えるよ、“リオン”。」
その瞬間、アスカが嬉しそうに大きく鳴いていた。
私もその声に嬉しくていつもの笑みを浮かべていた。
真面目な【神結 綴】の笑顔じゃない────私の……“○○○”での笑顔で。
……まだ、足りない。何かが、足りない気がする。
後のピースは何処に落ちている……?
「……? “リオン”って誰だっけ……?クラスメイトでそんな名前の人、いたかな……?」
私は疑問に持ちながらも、授業へ向けて歩き出した。
その男性の名前に何処か、胸が暖かくなるのを感じながら……。
____放課後
「うわ、雨が激しくなってる…!」
外を見れば豪雨と呼べるほどの大雨。
帰る頃になってこの雨は、正直憂鬱である。
折角持ってきた傘もこれでは意味がないだろうな、と私がその場で溜息を吐けば、私以外にも学校の敷地内で立ち往生している生徒が何人も居たことに気付く。
流石にこの豪雨の中走って帰るような馬鹿は居ないようで、携帯を見て雨が止むのを待つ人もいれば、家族に電話をかけて迎えを呼ぶ者もいた。
私の場合、アスカもいるから走って帰るというのは難しそうであるし、傘を使ったとしてももしかすればアスカが濡れてしまうかもしれないと思えば、この豪雨の中を行く気にはなれなかった。
「早く止まないかな…?」
しかしこの豪雨、止みそうにないのもある上に徐々に辺りが薄暗くなっているのもあってか、周りで立ち往生していた生徒が何人か帰りだしていた。
私もそれを見て肩を竦めさせ、諦めて傘を差して帰ることにした。
帰って宿題を早く終わらせたいし、いつまでも学校にいる訳にも行かないからね。
「うわぁ……。足元がびしょびしょだね。それに前も見づらいと来たか……。」
途中、大きな交差点に差し掛かって、遠くにある歩行者用の信号が薄ら赤信号に見えた為、交差点の手前で足を止める。
この豪雨の中で信号が見えづらくなっていたのが何とも不幸な話ではあるが、帰宅のためにと自身に言い聞かせて前を向いた。
「……。」
バクバクと心臓の音が早鐘を打つ。
何故か、この交差点を渡るなと言われているような錯覚を起こさせる“何か”があった。
でも帰らなければこの豪雨に晒されて、全身が濡れてしまうだろう。
それにアスカが濡れてしまうのも私としては頂けない。
この綺麗な白の羽毛が台無しになったらどうしてくれる、と止まない心臓を聞きながら胸に手を置く。
長い赤信号がようやく青へと変わる頃、私は足を一歩踏み出した。
白と黒の歩道を見ながら私は歩き続ける。
しかし、その瞬間────横から大きなクラクションの鳴る音がした。
同時に眩いトラックのライトが私を照らして、そのまま車は私に向かってきていた。
────突如響く、うるさい程のブレーキ音。
「────。」
キキィーとその音が何処か遠くに感じた。
……いや、本当に遠くで聞こえたんだ。
だって、私は迫りくるトラックを見て、思わず“瞬間移動”を使っていたのだから。
「────は、」
さっき、私が咄嗟に使ったのは……テレポーテーション…?
まさか、そんな……。
この“地球”で魔法が使えるなんて……有り得ないのに。
「……。」
さっき持っていた傘はどこかに行った。
震える手を見ながら私は恐る恐る振り返った。
そこにはこの雨の所為でブレーキが間に合わず、そして急ブレーキをかけたことによって横転したトラックがいた。
その周りには人だかり。
そして、落ちていた傘はトラックによって元の形が分からないくらいにひしゃげていた。
「わ、たし……覚えてる……。ここで、私は……死んだんだ……。」
遠い記憶の片隅に、この光景があった。
震える声をどうしようもなく出しながら、私は小雨の中、涙を流していた。
ぽとり、ぽとり、と大粒の涙が雨と一緒になって落ちていく。
……あぁ。そうだ。
私は、ここで死んだ。
そして神に逢って……推しのいる世界────リオンに出逢ったんだ。
カイルたちと旅をして、そして精霊の試練を受けるつもりで意気込んでいたのに。
なぜ、そんな大事なことを忘れていたのだろう。
「そっか……。そっか…!私がつけた“アスカ”って……そういう意味か…っ!」
この子の名前をつける時に何故アスカじゃないといけないと思ったのか、これでようやく分かった。
この子は……精霊だ。
それも、もう1人の光の精霊。
ルナと対を成す白い鳥……。
「あぁ、ごめん……。気づかなくて、ごめんね…!」
いつの間にか私の前に飛んでいるアスカを抱きしめて、私は泣いた。
声に出して泣いたその声は、誰に聞かれるでもなく小雨の中で消えていく。
私はそのまま膝をついて、慟哭した。
死んだショックより、死に目にあったショックより……何より、“君”を忘れていたことに慟哭した。
どうして、大事な君を忘れていたんだろう?
「ごめんっ、ごめん…!」
何度も謝った。
誤り、謝り────私は、泣きやまない涙をそのまま流し続けた。
ここが地球なのは分かってる。
でも、あの世界に戻るにはどうしたらいい?
ううん、違う……違うよ。
私は知っている。だって私は……召喚士なんだから。
「────こんな私と、契約をしてくれないか……?アスカ……。」
一際大きく鳴いたその声は、清らかに、そして高らかに辺りに響いては時を止める。
降っていた小雨が、時が止まったことによって粒の状態でその場で止まる。
そんな光景の中、私達は契約をした。
暖かな光となって、アスカが私の中に入ってくる。
その瞬間、私の冷たくなっていた体が暖かさを取り戻して、そして私の体は光を灯した。
「────光を灯し、この闇の幻影を消し去れ……アスカ。」
私は眩い光の中、“君”が待っている現実へと戻ったのだった。