第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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(*ジューダス視点)
『坊っちゃん、食材ならあの鬱蒼と茂った林なのか森なのか分からない場所にたくさんありましたよ!フルーツやら野草など食べられるものがありました!スノウと確認したので正確な情報ですよ!』
「…野草か。」
野菜類は苦手なんだが…。
まぁこの際…、好き嫌いも言ってられないか…。
僕はシャルの案内の元、黙々と野菜やフルーツなどの食材を集めていく。
途中多少魔物も棲んでいる事もあり、シャルを振るって即座に倒していくといつもと変わらず何も代わり映えしないレンズへと変換される。
それを見つつ、僕は果てしない森の中を歩いていた。
『精霊ってこの孤島にいるんですよね?だったら、あまり深く入ると精霊に会うかもしれませんよ?』
「精霊は、召喚士に反応して現れると聞くからな。僕が近づいた所で何の影響も無いだろう。」
『分からないじゃないですか。案外、試練を与えてくれるかもしれませんよ?』
「そんな馬鹿な。」
僕は召喚士でもないし、彼女のように精霊の声が何処からでも鮮明に聞こえるわけでもない。
近付かないと聞こえないのが、その確固たる証拠だろう。
僕はシャルの言葉を一蹴し、引き続き食材を集めていく。
早く集めて、待っているだろう彼女の元へ帰るためにも急がなければ…。
『そろそろ良いんじゃないですか?スノウも待ってますよ!』
「そうだな。あまり帰りが遅いと心配させるだろうしな。」
彼女の場合、心配になったら探知ですぐにこっちへやってきそうだがな。
僕は集めるだけ集めた食材を手に持って、例の建物へと移動を開始した。
途中の魔物は完全に無視をして、なるべく魔物を避けるように移動すればすぐにあの家に辿り着いた。
しかし中に入ればとても静かなもので、彼女の性格上、僕が近くに寄ればすぐ向こうからやってきそうなものだが…?
『ただいま~。』
「……。」
『あれ?居ないんですかぁ~?スノウ~?』
返事がないことに一気に不安を煽られ、僕が急ぎ足で中へと入れば、彼女が静かだった理由は大したことはない。
ソファで横たわり、静かに寝ていたのだ。
食材を台所へと置いた僕は穏やかな寝息を立てている彼女に近寄り、顔にかかっている髪をそっと退かした。
青白い顔が露わになり、今まで疲れを我慢していた事が分かる。
そっと触れた頬が冷たくなっていたので、僕は何もかけずに寝ている彼女に自分の外套をかけてやり、静かにその場を後にした。
『……寝てましたね…。』
「……あぁ。」
『僕を探しているときも、時々疲れた表情を出していたので相当だったんだと思います…。スノウ、あんまり疲れとか表情に出さない子だから…。』
「…そうだな。残しておいて正解だった。」
一応軍人上がりの彼女に近づこうものなら、すぐに目を覚ます。
ああやって人が近づいても気付かないということは…余程疲れていた時か、具合が悪いかの二択だ。
僕はそっと溜息を吐いて、台所で調理をすることにした。
今は、少しでも栄養をつけて彼女に元気になってもらわないと、こちらも元気が出ない。
『…坊っちゃん、今更ですが…。食べれるんですか?』
「背に腹は代えられない。嫌でも食うさ。」
『おお…。坊っちゃんが成長している…!』
「……。」
すぐさま腰の剣についている宝石…コアクリスタルへと爪を立てる。
そしてギィィィと引っ掻いてやれば、すぐさまそのコアクリスタルから鋭い悲鳴が上がる。
すると、先程彼女がいたリビングから物音がして、ハッと我に返る。
「…スノウ?」
『坊っちゃん!酷いですよ!!』
「シッ…!……静かにしろ。何か、物音がした…。」
『え…。』
こんな孤島で人がいるとは思えないが、強盗の類であるならば、そこで寝ている彼女が危ない。
僕はシャルをいつでも抜刀できるよう触れながら、静かにリビングへと移動する。
様子を見るためにそっと覗き込めば、彼女が苦しそうに床に蹲っているのが見え、僕は慌てて姿を現した。
そして彼女に近づき、様子を窺う。
「おい、どうした?!」
『何処か痛いんですか?!』
「今……だれか、の…悲鳴が……きこえた、から…起きたら……」
「……悲鳴?」
『あ、それ僕のじゃないですか?さっき坊っちゃんに爪立てられたんですよ!!』
そう言えばそうか。
他に悲鳴など聴こえなかったから、恐らくスノウの言う悲鳴はシャルの悲鳴だろう事が明らかになる。
僕がジトリとした視線をコアクリスタルへと向ければ、心外だとばかりにそのコアクリスタルが激しく明滅した。
「うぅ…。」
『もしかして、僕の悲鳴を聞いて駆け付けようとしてくれたんですか?それでソファから落ちたとか?』
「駆けつけ、ようとは…した…。でも、思ったよりも体が…動かなくて…目眩が……。」
動いてる時は気付かず、寝たら一気に疲れが来てしまったやつか…。
まぁ、それでこいつも多少なりとも懲りただろう。
「はぁ…。お前は大人しく寝ていろ。後は僕がやってやるから。」
『そうですよ!今日こそ坊っちゃんが野菜を食べる姿が確認出来るんですよ!?…明日、槍が降りませんかね……?』
「そういえば、お前一度海水に浸かったんだったな。もう一度海水に浸けておいてやろうか?」
『ヒッ…!坊っちゃん!目が笑ってないですって!それ、本気でやる奴じゃないですか!!!』
僕が刀身剥き出しのシャルを持ち、外へと向かい出すと背後から彼女の笑う声が聞こえた。
辛そうに時折呻く声を零すものの、それでも彼女が笑った事が何よりだった。
そして僕はそれに気付かぬフリをして外に出て、ポイとシャルを家の外に捨てておいた。
本当に捨てられるとは思わなかったのか、シャルの奴が慌てて僕に対して謝っていたが僕はそれも聞こえぬふりをしておいた。
……自業自得だ、阿呆め。
「うっ、はぁ…。」
中に戻れば相変わらず彼女が呻く声が聞こえてくる。
僕はその足でリビングに向かい、呻く彼女を無遠慮に掬い上げた。
そして寝室らしき場所まで連れて行けば、流石に悪いと思ったのか彼女が降りようとする為、そのまま腕に力を入れて逃げられなくしてやった。
それでも彼女が何か言おうとしていたので、今度は寝室のベッドへと落としてやれば余計に呻き声が大きくなる。
やはりまだ眩暈がするのか、彼女はベッド上で目の所に腕を充てがい仰向けになっていた。
「レディ…、手伝うよ……。」
「良いからお前はそこにいろ。下手な事をして怪我でもされたら敵わんからな。」
「…………ごめん。」
「謝るな。それほどお前は、大変な目に遭っているんだからな。当然だ。寧ろそれでピンピンしていたらお前の神経を疑っていた所だぞ。」
「…ふふ。そうか……。そうだね…?」
ようやく納得してくれた彼女が寝る格好をしたので、布団を掛けてやればそっと服の袖を掴まれる。
僅かに驚いて彼女を見れば、少しばかり寂しそうな顔をさせていた。
「……ふっ。寝るまで居てやるから手を離せ。」
「……ふふ。そんな顔してた…?」
「ありありとな?」
「それは失礼しました、っと…。」
服の袖から手を離した彼女は、満足そうに笑みを浮かべてベッドへと頭を沈めた。
僕がベッド端に座れば、彼女は僕を見上げて優しい笑みを浮かべていた。果たしてそれが、何を表すものなのか僕に悟る能力は無かったが、それでも彼女が嬉しそうにしているので何も考えないようにした。
「休んだら精霊の所に行くんだろう?なら、少しでも休んでそのみっともない顔をどうにかしろ。」
「ふふ。酷いなぁ…?でも……君らしい言葉だね。ありがとう、いつも助けてくれて。」
「当たり前だ。」
僕がそれ以上何も言わずに口を閉ざせば、彼女はゆっくりと瞼を閉じて寝息を立て始めた。
…どうやら、すぐ寝れる状態だったが本当に寂しかったのだろう。
人肌が恋しいのは僕も経験した事がある為、そっと彼女の頭を撫でてやった。
「……早く元気になれ。馬鹿。」
僕はその場を後にして、目の前の難題に挑む事にしたのだった。
“野菜”や“野草”という名の、毒物を如何にして摂取するか、という難題に……。
* … * … * … * …* … * …* … * … * … * …* … * …
「うーん…!寝たぁぁぁ……。」
腕を伸ばしながら起きてきた彼女は割とスッキリした顔をしていた。
……まぁ、それもそうだろう。あれから丸一日経っているのだから。
「ようやく起きたか。寝坊助が。」
「おはよう、レディ……って、あれ?シャルティエは?」
「あいつなら外だ。」
「????」
目を瞬かせ不思議そうな顔をしていた彼女に笑ってやれば、彼女も笑顔を零した。
そして誰の許可を得る訳でもなく僕の隣に座った彼女に思わずフッと笑ってしまえば、彼女もまた笑っていた。
「また喧嘩でもしたのかい?」
「いや、昨日のままだ。あの後外に放り出しておいたからな。」
「……マジ?」
「大マジだ。」
すぐさま頭に手を置いた彼女を見て、探知をしているのだろうことが窺える。
いつもそうやって探知をしては僕達を助けてくれたのだから。
「ふっ…あっははっ!本当に外に出してるね!」
「あいつが悪い。僕が野菜を食べると槍が降るだとか何とか言いおって…。」
「まぁ…気持ちは分からなくもない所が可哀想ではあるけどね?」
「ほう?お前も外に放り出されたいか?」
「ふふ、ごめんって。…で?食べれたのかい?」
「……。」
結局食べたことは食べたのだがすぐにそれらを口から出す羽目になり、例え、口が裂けてもそんな事は言えない。
しかし、沈黙した僕から察しただろう彼女が吹き出すものだから僕が睨めば余計に彼女は大爆笑を巻き起こしていた。……遂には涙を溜める始末だ。
「ふっ、くっくくく…!」
「……貴様の口から斬ってやろうか?」
「ご、ごめ…ぷっ、くくく…!!!」
全く……、と僕が諦めたように椅子の背もたれに体重を預ければ、笑いをようやく止めた彼女が僕の前に立ち、そっと頬に触れた。
それは慈しむような……そんな手つきだったと思う。いや、心配している……の方が正しいのかもしれないな。
見上げた時に見えた彼女の眉根が少しだけ下がっていたから。
「君は…体の方、大丈夫……?」
「見たら分かるだろう?この通り元気だ。」
「心配なんだ…。君がそう言ってても、本当は……って考えちゃって、ね…。」
頬に触れていた手を彼女が悲しそうに下げたので、僕はその手を掴んだ。
そしてこの場所にシャルが居ない事をいいことに、そのまま彼女の手の甲へと口付けを落とせば彼女は呆然と僕を見ていた。
「……どうしたら信じる?どうすれば、お前のその不安を取り除ける?」
「え…?」
「僕が言ったところで聞かないじゃないか。他に方法があって、その不安を取り除けると言うのなら何でもするが?」
「……本当に元気、なんだね…?」
「だから端からそう言ってるだろうが。」
一夜休めれば、まだ若いというのもあり体力もある程度は回復するし、気力もだいぶ回復する。
……問題は、“食事が出来ない”という点だけであるが。
それなのに彼女は僕の言葉を全く聞かない。
こんなにも元気そうにしているのにも関わらず、どう見たら不調に見えるというのだろうか。
寧ろ、それを言うなら彼女の方が一番怪しいではないか。
こう元気そうに見えても不調だという事があの“輝きの塔”の一件で十分僕も思い知っているし、他にも数え切れないほどの戦犯が彼女にはある。
だから寧ろ、僕は彼女の方が信用ならないと思っている。
「お前こそ信用ならないからな?僕はまだお前が不調だと思っているぞ。」
「えぇ?そうなのかい?割と回復したんだけど…。」
「その“割と”、と言うのが信用ならないと言っている。それで何度騙された事か…。」
ジトリとした目を向け、不信感ありありだという雰囲気を醸し出せば、彼女は困った顔でこっちを見ていた。
しかしながら本当に彼女の体調が分からない。
この顔は一体どっちを表しているというのだろうか……。
「……まぁいい。お前の体調が良いならばすぐにでも精霊の所へ行くか?」
「うん。ずっとここにはいられないからね。それに───」
彼女が僕の首にそっと触れる。
そこには例の黒いリングが外れずに在った。
少しだけ窮屈なそのリングは、相変わらず僕の首を締めている。
彼女のあの細い指が首とリングの隙間に入らないくらい窮屈なのだが、彼女はそのリングに触れては外そうと試みる。
……自爆装置が付いているのを忘れたのか?
「スノウ───」
「もう少し、」
「……?」
「もう少しだけ我慢してくれ。必ず君のやつを外してみせるから…。」
「……阿呆。一緒に外すんだろうが。弱気になるな。」
僕は彼女の手をリングから外させ、彼女のリングへと触れる。
それも彼女の首をキツく締め上げていて、触れてようやく分かった。
……これは、息も苦しいだろうに。
「……お前…これ、苦しくないのか?」
「ん?まぁ、走ると流石に息苦しくて辛いけど…、普通にしていれば大丈夫だね。」
「……そうか。」
気付かなかったじゃ済ませられないかもしれないが、彼女の黒いリングはよく見れば彼女の首に食い込んでいる形で着けられている。
その首輪の強さが執着を表しているのだとしたら……、とんだ誤算だ。
奴らは────いや、あの双子は想像以上にスノウを欲している。
分かっている事だったが、本当に外せないようになのかキツく、キツくそのリングで彼女のその細い首を締め上げている。
これでは戦闘なんて……。
「……ねぇ、レディ?」
「何だ。」
「もし、もしも……これが外せたら。」
「……。」
「…ううん。やっぱり何でもない。その時が来たらちゃんと言うよ。だから、楽しみにしてて?」
彼女の顔は徐々に穏やかになっていき、笑顔を零すまでに回復していた。
彼女の言うそれが何なのかは分からないが、嫌な事では無い、というのは分かる。
だから僕は待つことにしたんだ。
彼女の言う通り、“楽しみに待つ事に”して。
「さぁ、シャルティエを拾って精霊の所へ行こう。そして試練をクリアしてマクスウェルを助けに行かないとね?」
「このリングを外す事も忘れるなよ?」
「うん。勿論だよ、レディ。」
そうして僕らは玄関先に転がって不貞腐れていたシャルティエを拾って、精霊の所へと向かった。
森なのか林なのか分からない、鬱蒼と茂った草木をくぐり抜けながら……。
『鬱蒼としすぎてません?!中々前に進めないじゃないですか!!』
「獣道、ってやつだね。草木を倒していかないといつまで経っても着かなさそうだ。」
そう、ここの草木が僕らの行く手を邪魔していて全く身動きが取れないのだ。
しかしこんな時に彼女に頼るのは先の戦闘を考えるといただけない。
僕はシャルを持ち、仕方なく詠唱を唱えることにした。
「行くぞ、シャル。」
『え?!行きます?!』
『「___グランドダッシャー!」』
あっという間に目の前の草や木々を薙ぎ倒してしまえば、隣から賞賛の拍手が起こる。
しかしそれが彼女の心に火をつけたのか、自分も…と武器を構える結果になってしまった。
僕はそれをやめさせる為に、彼女の武器である相棒へと手を置いた。
「お前は使うな。今はまだ、な…。」
「ありがとう、ジューダス。」
アッサリと引く彼女を見れば、やはりマナが完全じゃないのだろう。
いつもだったら、無遠慮にやり返すというのに。
『あ!あれですかね?』
シャルの言葉を聞いて、僕達は前の方を同時に向く。
そこには少しだけ拓けた場所が存在していた。
しかし彼女は首を傾げて不思議そうな顔をした後、途端に険しい顔へと変貌していく。
「……おかしいな。マナを感じない…。」
「……罠か?」
「ううん。それならもっと何かしらマナの痕跡があってもおかしくはないんだけど、ね……。」
彼女が警戒しながら先に進んでいく。
横に並んで警戒していれば、彼女がハッと息を呑んだ。
「────横に飛ぶんだ、レディ!!」
その指示に僕が彼女と反対の方へと飛べば、彼女は逃げ遅れたのか闇色の球体に囚われていた。
眠るようにその瞳を閉じて、力なく膝から崩れていった彼女に僕はヒュッと喉を鳴らした。
闇色の球体は彼女を決して解放せず、ずっと捕らえたまま存在し続ける。
その球体へと僕が触れれば、雷に撃たれたような痛みが身体を走った。
「うぁっ!?」
『坊っちゃん!?』
瞬時に後方へと逃げたが、それでは彼女が救えない。
というより、一体何が起きている…?!
『……。』
横に誰かが立っているのが分かり、咄嗟に警戒して更に後方へと飛べば、その人物は黒いローブを身に纏っていた。
顔も見えないその人物に僕が剣を抜けば、目の前に闇色の文字が浮かんでくる。
そこにはこう書かれていた。
“召喚士は今、試練中だ。案ずるな。”
『「!!!」』
『と言うことは……』
「……闇の精霊か…。」
闇の精霊と名乗る者への警戒を少しだけ弱め、剣を下ろす。
しかし、試練は力比べだとばかり思っていたが……。
『……。』
『えっと……喋れないタイプの精霊ですかね…?』
「まぁ、文字を見ている限りだとそうだろうな。」
『……。』
それ以降、全く会話が成り立たない。
先程の様に文字が浮かんでくる訳でもなく、言葉を奴が発すると言うこともない。
一体なんの試練だというのか…。
「こいつは今、何の試練を受けている?」
『……。』
『……。』
「……。」
全員が黙り込み、重い沈黙が訪れる。
そんな僕達に痺れを切らした人物がいた。
『ちょっと!何で黙り込むのさ!?』
『グリムシルフィ?駄目ですよ、邪魔をしては。』
『ルナからも何か言ってやってよ!!見てるこっちがイライラするじゃん!』
突然スノウの近くに二人の精霊が降り立つ。
元気の良い活発的な風の精霊グリムシルフィと、柔和な話し方をする光の精霊ルナだな。
その姿からも明らかだが…、二人は特徴的な喋り方をするから、それでも分かるな。
「で、こいつは今何の試練を受けている?」
『大まかに言えば……召喚士が闇に抗うだけの強い力を持っているか、ですよ。人の子よ。』
『どういうこと?』
『つーまーりー。スノウは今、夢を見ててその夢から自ら覚めないといけないってこと!』
『それも、過去を追体験している状態です。記憶がない状態で……。』
「夢…。」
夢の神の御使いである自分ならば……スノウを助けてやる事が出来る。
だがこれは…、スノウ自身が夢と気付き、夢から目覚めないと意味が無い。そういう試練なのだから。
歯痒い気持ちを堪える為に拳をグッと握る。
そんな僕に気付いたのか、目の前に文字が現れる。
“制限時間は28時間。召喚士の夢の中での一日はこちらでいう4時間。つまり、7日間の間に目覚めなければならない。”
「……もし、夢から覚めなかったらどうなる?」
“闇に取り込まれ、ずっと覚めない夢を見続けるだろう。それこそ魘されるような悪夢を、永遠と。”
『そんな…!』
「……。」
────“「私の苗字であるナイトメアは、悪夢だ。私は、何度だってあの場所に立って君達に仇なす。それは…終わる事の無い悪夢だ。その悪夢をずっと見続ける、という意味さ。」”
ハイデルベルグで彼女の真相を伝えてくれた時に言っていた昔の彼女の苗字の由来。
今の苗字には“希望”という明るい言葉にしていたのに、この時代になってから急にそんな悲しい事を言うのだから記憶に鮮明に残っている。
自分も夢の神の御使いな所もある故に、悪夢というのは見過ごせない。
……だが、僕は信じている。
あいつなら、この試練を乗り越える事を。
「……僕は、信じている。こいつがちゃんとここへと戻って来てくれる事を。」
『坊っちゃん……。僕も……僕も信じますっ!!スノウなら!きっとその試練も乗り越えてくれます!!』
あと僕達に出来るのはこうして信じて待つことのみだ。
だから、早く帰ってこい…!スノウ!