第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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____ジューダスside
スノウが老人に落とされたのを見て、ジューダスはすぐさま彼女の名前を叫んでいた。
「スノウーーーーー!!!!!」
手を伸ばした先はバルコニーの方で。
ようやくバルコニーに足を踏み入れられるようになったジューダスはすぐさま老人の胸倉を掴んで睨みつけた。
「貴様っ!」
『召喚士は無事じゃ。……あれを何とかすれば、の。』
召喚士という言葉にジューダスもシャルティエも反応を示した。
この老人、ただの老人かの思っていたがまさか……
『わしがマクスウェルじゃよ。召喚士の付き人よ。』
「……だとしても、何故こんな事を…!」
『わしからの試練、ということじゃ。』
ジューダスの悲鳴を聞いて、仲間たちが続々と起きてきてはバルコニーに集まる。
そして落ちてしまったスノウのことを聞かされ、全員が顔を青ざめさせて落ちたスノウを見つめていた。
「おいおい……こんな所から落ちたらどうにもならないだろ…?」
「大丈夫かしら…、スノウ……。」
「……。」
『流石に不安になりますね…。』
ただ落ちていくだけのスノウが見て取れて、仲間たちがいよいよ焦りに身を焦がし始めたその時。
スノウを中心として空中に魔法陣が描かれていく。
その魔法陣の色はいつもの魔法陣の色とは少し違っていた。
「……綺麗。」
「まるでスノウの髪の色みたいな色だねぇ…?」
「見て!あそこは前にあった髪の色じゃない?!えっと……確か雪色だって言ってたっけ?」
「ホントだ…。白っぽいよな?」
「あそこはまた違う色になってるわよ?あの子の瞳の様な海色じゃない?」
「元々のマナと混じりあってるのかもしれないな…。」
〈碧のマナ〉を元々持つスノウ。
しかし、元から持っているマナがあると確か“神”共が話していたはずだ。
だからこそ、あの色味になったのだろうが…。
「四色がグラデーションみたいで綺麗ね…?」
リアラがそう零した瞬間、魔法陣の上を色とりどりの花が咲き乱れていき、グラデーションの魔法陣を覆い隠していくかのように咲いていっていた。
その魔法陣の巨大さと綺麗な花達に感動して仲間たちは言葉を失った。
しかしそんな仲間たちの体にも異変が起こる。
「え?え?」
「な、なんだこれ!」
修羅と双子以外の仲間たちの体が光り輝いたのだ。
それに修羅も双子も驚きに目を見開く。
海琉でさえもその体を光らせており、修羅は戸惑いながら仲間たちを見ていた。
「……なんか、気持ちいい。」
「心地よいっつーか、なんつーかなぁ?」
「……暖かいな。」
癒されていく、とでも言う様な仲間たちの様子に取り敢えず安心した修羅は再びスノウを見つめる。
『……流石じゃ。一気にマナが……世界に流れ込んでゆく…。』
マクスウェルのその言葉に、仲間たちは驚きながらスノウを見つめる。
マクスウェルも驚いた様に自身の手を見つめていた。
『(マナが…体に満たされてゆく…。力が漲ってくるわ…!これが正に“神”の力…!!)』
「でもよ?これ、どうやって上がってくんだ?また塔の中を登ってくるって言わないよな?」
ロニのその言葉にカイルもリアラも顔を青ざめさせる。
独りでこの塔に挑戦するなど無謀だと、この短時間で分かっていたからだ。
不安そうに仲間たちの視線はマクスウェルへと注がれる。
しかしそんなマクスウェルはフッと笑って下を指さした。
そこには魔法陣の上に立ち、精霊と話しているスノウがいた。
「あれは…風の精霊だったな。」
『じゃあ、風の力でここまで上がってくるつもりなんでしょうか?』
「あれ? スノウって指輪が無いから精霊を召喚出来ないんじゃなかったのか?」
「それって、先入観なんじゃない?」
「「「先入観?」」」
ハロルドがスノウを見ながらそう話すのを仲間たちも不思議そうな顔で聞いた。
そんな仲間たちにハロルドは視線を向けずにスノウを見たまま説明を始めた。
「大体、誰が指輪が無いと召喚出来ないなんて言ったの?」
「そりゃあ……スノウじゃなかったか?」
「え?そうだっけ?」
「……もしかして誰も言ってない…?」
「だからアンタ達含めて、スノウもまた先入観だけで精霊の召喚方法を間違えてたのよ。…恐らくだけど、あの指輪はただの飾りじゃないかしら?」
『ほっほっほ…。さすが聡い人の子よ。』
「ほらね?マクスウェルだってそう言ってるんだから。あれはただの飾りなのよ。それに折角苦労して精霊と契約して、指輪だ何だって邪魔じゃない?」
「「「「確かに……?」」」」
『馴染むまでは召喚士の指に着けておく必要はあるが、基本的には要らぬ産物じゃな。ただの儀礼よ。』
「「「へぇ…?」」」
「どちらにせよ、ルナの指輪が無くならなかったのは、スノウに光属性を馴染ませる為だったのか…。」
『その通りじゃ。そして、それこそが召喚士スノウを蝕む属性酔いの正体よ。』
「「「???」」」
「つーまーりー!スノウの体には何属性もの指輪を着けては、その何属性をも馴染ませようとしていたのよ!一気に複数の属性を身に付けて気持ち悪くならないはずがないわよ!」
「聞けば至ってシンプルな問題だったんだな。」
「じゃあ今のスノウは指輪がひとつしかないから…?」
「もう属性酔いは解消されてるはずよ?でも、それだけじゃ意味が無いんでしょ?だからこそ、ルナもマクスウェルもここまで登らせたんでしょうけど。」
「難しいんだな。召喚士って。」
ロニが頭を掻きながらスノウを見下ろす。
すると風の精霊と手を繋いで、塔の最上階まで一気に辿り着いたスノウがいた。
全員で手を振れば、スノウもまた嬉しそうに手を振り返してくれた。
「「……。」」
その仲間たちの後ろでは、双子が無表情で仲間たちを見ていた。
塔の最上階へと足をつけたスノウを見た双子は表情を一変させ、ニヤリと笑う。
「(もう少し……)」
「(もう少しでぼくたちの任務が叶うヨ、麗花?)」
「(エェ…。もう少しネ?飛龍?)」
双子を繋ぐ手は更に強まった。
その表情は子供らしからぬ───“狂気”の笑みだった。
ピンクの瞳が……否、その下の赤い瞳が妖しく光って、スノウだけを射抜いていた。
♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚
____〈赤眼の蜘蛛〉side
夜空を眺める趣味はないけれども、アーサーは空を見上げていた。
その横には珍しく具現化した“神”がいた。
「……。」
「どうしたというのですか?貴方が態々、私の体を借りずに具現化するなんて。」
「これから面白いものが見れるぞ。」
「はい?」
急にそう語り出す狂気の神を見て、アーサーが疑問を口にする。
いつもならアーサーの許可なく体に入ってくる癖に、今日に限っては面白いものが見れるからと、体に入ることなく具現化している。
久しぶりに見るその体躯。
赤い紋様が描かれた布を顔の前に着け、顔を見せないようにしている狂気の神。
……何でも、その顔を見たものは生きてはいられないそうだ。なのでアーサーですらその顔を拝んだことは無い。
そしてその逞しい上半身は筋肉を見せつけたいのか、惜しみなくその筋肉質な体を晒し、下半身はどこぞのインド人のようなアラビア人みたいなズボンを履いて……後は裸足でいる。
全体的に皮膚は日焼けしたように肌黒くなっており、顔の前の布と相まって余計にその不気味さが増している。
ちなみに今日は気分が良いのか、胡座をかいてはプカプカと浮かんで外を眺めている。
……まるでおとぎ話にあるアラ○ンに出てくるようなアラビアンの格好である。
その布の下の表情などいつもなら読めはしないのに、今だけはニヤニヤと笑っている気がした。
「何が起こるというのですか。」
「我が〈御使い〉であるアーサーよ。空を見ておけ。」
「……正に今、見てるではないですか。」
二人してロマンチストでは無い癖に、空を見上げている。
結局何が見れるというのか、アーサーは呆れながら空から目を離し仕事に戻ろうとすると、それを良しとしない狂気の神がアーサーの頭を捕まえ、強制的に空を見させた。
思わず…というより必然的に顔を顰めたアーサー。
……やはりいつもこのお方は勝手である。
「すみませんが、仕事が残っているので。」
「さっきまで互いに休憩してたではないか。そんな堅苦しいことを言うな。我が〈御使い〉よ。」
「……。」
何も言い返せない。
確かに先程まで休憩はしていた。
そして日頃の疲労を癒すべく、逃げるように空を見ていたのも事実だ。
だが……それはさっきまでの話であって、何も無いのなら見る必要もないのだ。
「……で。いつになったらその“面白いもの”というのが見れるのですか?」
「そろそろだ。……準備が整ったみたいだからな。」
「?」
その瞬間、まるで夜の空間が昼間のように明るくなった。
その原因は空に浮かぶ巨大な魔法陣だった。
「……は?」
「クックック…!やはり、あの〈御使い〉はいつも面白いことをしでかしてくれる…!!!」
「〈御使い〉…。ということは、スノウ・エルピスですか…あれは。」
成程、納得である。
狂気の神が興味をそそられるなど珍しいとは思っていたが、それがスノウが関わっていたならば納得の領域である。
しかしまぁ……彼女は派手にやってくれる。
いつもながらに感心していると、部屋の中の観葉植物達が光り輝くのが横目で見えた。
そちらに視線を向ければ、光り輝いた観葉植物たちは次々と綺麗な花を咲かせたでは無いか。
まだ開花時期ではないというのに、だ。
「なっ、」
「ほらな?面白いものが見れただろう?」
「……これはどういう…?」
「世界を癒す。」
「……なるほど?」
端的にしか言わない狂気の神の声を聴きながら、アーサーは花を咲かせた観葉植物の近くまで行く。
まだまだ光り輝いている観葉植物の姿を見て、アーサーは観察するようにじっと見続けていた。
世界の神の〈御使い〉は世界を癒すことが使命だと、そういえば先日このお方から聞いていたな、と思い出す。
〈碧のマナ〉の使い手こそ、その世界の神の〈御使い〉であり、そして世界の癒し手である。
あの魔法陣も碧色に近い色味をしていることから、彼女がやっていることには違いないだろう。
「……世界を癒す、ですか…。」
「我が〈御使い〉よ。感傷に浸るのも良いが、世界を癒されては我らの計画が台無しになってるのではないか?」
「そうですね…。ですが…こちらにはこちらの作戦がありますから、大丈夫だと思いますよ。えぇ…、あの子達がきっと成し遂げてくれることでしょう。」
「そうか。なら良い。……クックック、楽しくなってきた。あぁ、早く〈碧のマナ〉の〈御使い〉に会いたい。早く手に入れてしまいたいものだ。」
「貴方はそればかりですね……。」
プカプカ浮かんでいる神を呆れながら見たあと、事務作業に戻ろうとしたアーサーの元へ、部下が執務室であるここへと転がり込んでくる。
チラッと横目で見た時には神はもう居なくなっていたので、どうやら気配は察知していたらしい。
…相変わらず、隠れるのが得意なようで。
「何事ですか。」
「アーサー様!!空に浮かんでいる魔法陣のせいで、各地の墓地の白化が元通りになっています!それどころか、木々や植物などの生命も生き返るように瑞々しく生まれ変わってます!!」
「えぇ、知っていますよ。」
「さ、流石アーサー様です…!お耳に入れるのが早いですね…。 では、このままで大丈夫…という事ですか?」
「あの空に浮かぶ魔法陣はとある人物による仕業です。ですから気にしなくても良いでしょう。もしも支障が出そうならば、即座に対策を練ります。監視を続けなさい。」
「はっ!!」
部下が部屋から出ると、すぐさま姿を現す狂気の神。
その顔はやはりニヤニヤと笑っている気がして、アーサーは心の中で溜息を吐いた。
「やはり大地までも癒されているようだな。流石〈碧のマナ〉の使い手だ。」
「癒されたとしても、こちらに支障はありません。寧ろ望む所ですよ。どちらにせよ世界にはマナが必要不可欠…。ある程度は無くてはならないものですから。癒して頂かないとこちらも困ります。」
「まぁ、それについては私も同意だ。だがこれで、〈碧のマナ〉の使い手は世界の神の〈御使い〉としての自覚を持ったはずだ。……チャンスが出来たな?我の〈御使い〉よ。」
「えぇ。これで彼女は世界のマナを感じ取れるようになったはずです。……これからが勝負どころですよ。」
笑ったアーサーの横顔は狂気に歪んでいた。
それを見た狂気の神もまた、そんなアーサーの表情を見て愉しそうに嗤ったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
____一般人side
真夜中に現れた、空に浮かぶ魔法陣を一般人でさえ目撃していた。
それほどまでに強大な魔法陣だったのだ。
「なんだ、あれ?!」
「綺麗ね…。」
「言ってる場合か!何か悪い事の前触れだったらどうする?!」
「でもあれには嫌な感じはしないわよ?」
何処かの村の人達もそんな話をしていた。
そんな村人達だったが、自分たちの体が光り輝いたことに驚きを隠せず、混乱していた。
「体が光ってる?!」
「でも……この光、暖かいな…?」
「なんか…癒される光だー…。」
混乱していたはずの村人も、その光の温かさや心地良さから悪いものじゃないと感じていた。
だから混乱もすぐに終息したようだった。
見る人見る人、頭上に広がる4色のグラデーションの魔法陣を見てはうっとりとし始めていた。
ある人は、まるで酩酊してるみたいにその場でフラリとして眠りについた。
ある人は、まるで酒酔いしてるみたいに顔を真っ赤に染め上機嫌になった。
ある人は、周りの木々が元気になっているのを見て嬉しくなって踊り始めた。
ある人は、神のお告げだと喜びお供え物を家に取りに戻った。
それくらい、あの魔法陣の影響で絶大であった。
そんな事を知る由もないスノウはただ世界を癒す為に奔走しただけなのだが。
暫くして消えていった魔法陣に残念がる人達。
その頃には体の光も収まっていたけれども、あの心地良さの余韻だけはまだ人々の中に残っていた。
後にこの真夜中に起きた事件は多くの人に語り継がれることになるだろう。
___真夜中の奇跡だ、と。
スノウが老人に落とされたのを見て、ジューダスはすぐさま彼女の名前を叫んでいた。
「スノウーーーーー!!!!!」
手を伸ばした先はバルコニーの方で。
ようやくバルコニーに足を踏み入れられるようになったジューダスはすぐさま老人の胸倉を掴んで睨みつけた。
「貴様っ!」
『召喚士は無事じゃ。……あれを何とかすれば、の。』
召喚士という言葉にジューダスもシャルティエも反応を示した。
この老人、ただの老人かの思っていたがまさか……
『わしがマクスウェルじゃよ。召喚士の付き人よ。』
「……だとしても、何故こんな事を…!」
『わしからの試練、ということじゃ。』
ジューダスの悲鳴を聞いて、仲間たちが続々と起きてきてはバルコニーに集まる。
そして落ちてしまったスノウのことを聞かされ、全員が顔を青ざめさせて落ちたスノウを見つめていた。
「おいおい……こんな所から落ちたらどうにもならないだろ…?」
「大丈夫かしら…、スノウ……。」
「……。」
『流石に不安になりますね…。』
ただ落ちていくだけのスノウが見て取れて、仲間たちがいよいよ焦りに身を焦がし始めたその時。
スノウを中心として空中に魔法陣が描かれていく。
その魔法陣の色はいつもの魔法陣の色とは少し違っていた。
「……綺麗。」
「まるでスノウの髪の色みたいな色だねぇ…?」
「見て!あそこは前にあった髪の色じゃない?!えっと……確か雪色だって言ってたっけ?」
「ホントだ…。白っぽいよな?」
「あそこはまた違う色になってるわよ?あの子の瞳の様な海色じゃない?」
「元々のマナと混じりあってるのかもしれないな…。」
〈碧のマナ〉を元々持つスノウ。
しかし、元から持っているマナがあると確か“神”共が話していたはずだ。
だからこそ、あの色味になったのだろうが…。
「四色がグラデーションみたいで綺麗ね…?」
リアラがそう零した瞬間、魔法陣の上を色とりどりの花が咲き乱れていき、グラデーションの魔法陣を覆い隠していくかのように咲いていっていた。
その魔法陣の巨大さと綺麗な花達に感動して仲間たちは言葉を失った。
しかしそんな仲間たちの体にも異変が起こる。
「え?え?」
「な、なんだこれ!」
修羅と双子以外の仲間たちの体が光り輝いたのだ。
それに修羅も双子も驚きに目を見開く。
海琉でさえもその体を光らせており、修羅は戸惑いながら仲間たちを見ていた。
「……なんか、気持ちいい。」
「心地よいっつーか、なんつーかなぁ?」
「……暖かいな。」
癒されていく、とでも言う様な仲間たちの様子に取り敢えず安心した修羅は再びスノウを見つめる。
『……流石じゃ。一気にマナが……世界に流れ込んでゆく…。』
マクスウェルのその言葉に、仲間たちは驚きながらスノウを見つめる。
マクスウェルも驚いた様に自身の手を見つめていた。
『(マナが…体に満たされてゆく…。力が漲ってくるわ…!これが正に“神”の力…!!)』
「でもよ?これ、どうやって上がってくんだ?また塔の中を登ってくるって言わないよな?」
ロニのその言葉にカイルもリアラも顔を青ざめさせる。
独りでこの塔に挑戦するなど無謀だと、この短時間で分かっていたからだ。
不安そうに仲間たちの視線はマクスウェルへと注がれる。
しかしそんなマクスウェルはフッと笑って下を指さした。
そこには魔法陣の上に立ち、精霊と話しているスノウがいた。
「あれは…風の精霊だったな。」
『じゃあ、風の力でここまで上がってくるつもりなんでしょうか?』
「あれ? スノウって指輪が無いから精霊を召喚出来ないんじゃなかったのか?」
「それって、先入観なんじゃない?」
「「「先入観?」」」
ハロルドがスノウを見ながらそう話すのを仲間たちも不思議そうな顔で聞いた。
そんな仲間たちにハロルドは視線を向けずにスノウを見たまま説明を始めた。
「大体、誰が指輪が無いと召喚出来ないなんて言ったの?」
「そりゃあ……スノウじゃなかったか?」
「え?そうだっけ?」
「……もしかして誰も言ってない…?」
「だからアンタ達含めて、スノウもまた先入観だけで精霊の召喚方法を間違えてたのよ。…恐らくだけど、あの指輪はただの飾りじゃないかしら?」
『ほっほっほ…。さすが聡い人の子よ。』
「ほらね?マクスウェルだってそう言ってるんだから。あれはただの飾りなのよ。それに折角苦労して精霊と契約して、指輪だ何だって邪魔じゃない?」
「「「「確かに……?」」」」
『馴染むまでは召喚士の指に着けておく必要はあるが、基本的には要らぬ産物じゃな。ただの儀礼よ。』
「「「へぇ…?」」」
「どちらにせよ、ルナの指輪が無くならなかったのは、スノウに光属性を馴染ませる為だったのか…。」
『その通りじゃ。そして、それこそが召喚士スノウを蝕む属性酔いの正体よ。』
「「「???」」」
「つーまーりー!スノウの体には何属性もの指輪を着けては、その何属性をも馴染ませようとしていたのよ!一気に複数の属性を身に付けて気持ち悪くならないはずがないわよ!」
「聞けば至ってシンプルな問題だったんだな。」
「じゃあ今のスノウは指輪がひとつしかないから…?」
「もう属性酔いは解消されてるはずよ?でも、それだけじゃ意味が無いんでしょ?だからこそ、ルナもマクスウェルもここまで登らせたんでしょうけど。」
「難しいんだな。召喚士って。」
ロニが頭を掻きながらスノウを見下ろす。
すると風の精霊と手を繋いで、塔の最上階まで一気に辿り着いたスノウがいた。
全員で手を振れば、スノウもまた嬉しそうに手を振り返してくれた。
「「……。」」
その仲間たちの後ろでは、双子が無表情で仲間たちを見ていた。
塔の最上階へと足をつけたスノウを見た双子は表情を一変させ、ニヤリと笑う。
「(もう少し……)」
「(もう少しでぼくたちの任務が叶うヨ、麗花?)」
「(エェ…。もう少しネ?飛龍?)」
双子を繋ぐ手は更に強まった。
その表情は子供らしからぬ───“狂気”の笑みだった。
ピンクの瞳が……否、その下の赤い瞳が妖しく光って、スノウだけを射抜いていた。
♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚
____〈赤眼の蜘蛛〉side
夜空を眺める趣味はないけれども、アーサーは空を見上げていた。
その横には珍しく具現化した“神”がいた。
「……。」
「どうしたというのですか?貴方が態々、私の体を借りずに具現化するなんて。」
「これから面白いものが見れるぞ。」
「はい?」
急にそう語り出す狂気の神を見て、アーサーが疑問を口にする。
いつもならアーサーの許可なく体に入ってくる癖に、今日に限っては面白いものが見れるからと、体に入ることなく具現化している。
久しぶりに見るその体躯。
赤い紋様が描かれた布を顔の前に着け、顔を見せないようにしている狂気の神。
……何でも、その顔を見たものは生きてはいられないそうだ。なのでアーサーですらその顔を拝んだことは無い。
そしてその逞しい上半身は筋肉を見せつけたいのか、惜しみなくその筋肉質な体を晒し、下半身はどこぞのインド人のようなアラビア人みたいなズボンを履いて……後は裸足でいる。
全体的に皮膚は日焼けしたように肌黒くなっており、顔の前の布と相まって余計にその不気味さが増している。
ちなみに今日は気分が良いのか、胡座をかいてはプカプカと浮かんで外を眺めている。
……まるでおとぎ話にあるアラ○ンに出てくるようなアラビアンの格好である。
その布の下の表情などいつもなら読めはしないのに、今だけはニヤニヤと笑っている気がした。
「何が起こるというのですか。」
「我が〈御使い〉であるアーサーよ。空を見ておけ。」
「……正に今、見てるではないですか。」
二人してロマンチストでは無い癖に、空を見上げている。
結局何が見れるというのか、アーサーは呆れながら空から目を離し仕事に戻ろうとすると、それを良しとしない狂気の神がアーサーの頭を捕まえ、強制的に空を見させた。
思わず…というより必然的に顔を顰めたアーサー。
……やはりいつもこのお方は勝手である。
「すみませんが、仕事が残っているので。」
「さっきまで互いに休憩してたではないか。そんな堅苦しいことを言うな。我が〈御使い〉よ。」
「……。」
何も言い返せない。
確かに先程まで休憩はしていた。
そして日頃の疲労を癒すべく、逃げるように空を見ていたのも事実だ。
だが……それはさっきまでの話であって、何も無いのなら見る必要もないのだ。
「……で。いつになったらその“面白いもの”というのが見れるのですか?」
「そろそろだ。……準備が整ったみたいだからな。」
「?」
その瞬間、まるで夜の空間が昼間のように明るくなった。
その原因は空に浮かぶ巨大な魔法陣だった。
「……は?」
「クックック…!やはり、あの〈御使い〉はいつも面白いことをしでかしてくれる…!!!」
「〈御使い〉…。ということは、スノウ・エルピスですか…あれは。」
成程、納得である。
狂気の神が興味をそそられるなど珍しいとは思っていたが、それがスノウが関わっていたならば納得の領域である。
しかしまぁ……彼女は派手にやってくれる。
いつもながらに感心していると、部屋の中の観葉植物達が光り輝くのが横目で見えた。
そちらに視線を向ければ、光り輝いた観葉植物たちは次々と綺麗な花を咲かせたでは無いか。
まだ開花時期ではないというのに、だ。
「なっ、」
「ほらな?面白いものが見れただろう?」
「……これはどういう…?」
「世界を癒す。」
「……なるほど?」
端的にしか言わない狂気の神の声を聴きながら、アーサーは花を咲かせた観葉植物の近くまで行く。
まだまだ光り輝いている観葉植物の姿を見て、アーサーは観察するようにじっと見続けていた。
世界の神の〈御使い〉は世界を癒すことが使命だと、そういえば先日このお方から聞いていたな、と思い出す。
〈碧のマナ〉の使い手こそ、その世界の神の〈御使い〉であり、そして世界の癒し手である。
あの魔法陣も碧色に近い色味をしていることから、彼女がやっていることには違いないだろう。
「……世界を癒す、ですか…。」
「我が〈御使い〉よ。感傷に浸るのも良いが、世界を癒されては我らの計画が台無しになってるのではないか?」
「そうですね…。ですが…こちらにはこちらの作戦がありますから、大丈夫だと思いますよ。えぇ…、あの子達がきっと成し遂げてくれることでしょう。」
「そうか。なら良い。……クックック、楽しくなってきた。あぁ、早く〈碧のマナ〉の〈御使い〉に会いたい。早く手に入れてしまいたいものだ。」
「貴方はそればかりですね……。」
プカプカ浮かんでいる神を呆れながら見たあと、事務作業に戻ろうとしたアーサーの元へ、部下が執務室であるここへと転がり込んでくる。
チラッと横目で見た時には神はもう居なくなっていたので、どうやら気配は察知していたらしい。
…相変わらず、隠れるのが得意なようで。
「何事ですか。」
「アーサー様!!空に浮かんでいる魔法陣のせいで、各地の墓地の白化が元通りになっています!それどころか、木々や植物などの生命も生き返るように瑞々しく生まれ変わってます!!」
「えぇ、知っていますよ。」
「さ、流石アーサー様です…!お耳に入れるのが早いですね…。 では、このままで大丈夫…という事ですか?」
「あの空に浮かぶ魔法陣はとある人物による仕業です。ですから気にしなくても良いでしょう。もしも支障が出そうならば、即座に対策を練ります。監視を続けなさい。」
「はっ!!」
部下が部屋から出ると、すぐさま姿を現す狂気の神。
その顔はやはりニヤニヤと笑っている気がして、アーサーは心の中で溜息を吐いた。
「やはり大地までも癒されているようだな。流石〈碧のマナ〉の使い手だ。」
「癒されたとしても、こちらに支障はありません。寧ろ望む所ですよ。どちらにせよ世界にはマナが必要不可欠…。ある程度は無くてはならないものですから。癒して頂かないとこちらも困ります。」
「まぁ、それについては私も同意だ。だがこれで、〈碧のマナ〉の使い手は世界の神の〈御使い〉としての自覚を持ったはずだ。……チャンスが出来たな?我の〈御使い〉よ。」
「えぇ。これで彼女は世界のマナを感じ取れるようになったはずです。……これからが勝負どころですよ。」
笑ったアーサーの横顔は狂気に歪んでいた。
それを見た狂気の神もまた、そんなアーサーの表情を見て愉しそうに嗤ったのだった。
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____一般人side
真夜中に現れた、空に浮かぶ魔法陣を一般人でさえ目撃していた。
それほどまでに強大な魔法陣だったのだ。
「なんだ、あれ?!」
「綺麗ね…。」
「言ってる場合か!何か悪い事の前触れだったらどうする?!」
「でもあれには嫌な感じはしないわよ?」
何処かの村の人達もそんな話をしていた。
そんな村人達だったが、自分たちの体が光り輝いたことに驚きを隠せず、混乱していた。
「体が光ってる?!」
「でも……この光、暖かいな…?」
「なんか…癒される光だー…。」
混乱していたはずの村人も、その光の温かさや心地良さから悪いものじゃないと感じていた。
だから混乱もすぐに終息したようだった。
見る人見る人、頭上に広がる4色のグラデーションの魔法陣を見てはうっとりとし始めていた。
ある人は、まるで酩酊してるみたいにその場でフラリとして眠りについた。
ある人は、まるで酒酔いしてるみたいに顔を真っ赤に染め上機嫌になった。
ある人は、周りの木々が元気になっているのを見て嬉しくなって踊り始めた。
ある人は、神のお告げだと喜びお供え物を家に取りに戻った。
それくらい、あの魔法陣の影響で絶大であった。
そんな事を知る由もないスノウはただ世界を癒す為に奔走しただけなのだが。
暫くして消えていった魔法陣に残念がる人達。
その頃には体の光も収まっていたけれども、あの心地良さの余韻だけはまだ人々の中に残っていた。
後にこの真夜中に起きた事件は多くの人に語り継がれることになるだろう。
___真夜中の奇跡だ、と。