第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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現ファンダリア国王であり、かつての英雄でもあるウッドロウを頼りたいと言うリアラに従い、ファンダリア大陸の玄関口でもあるスノーフリアへと向かうことになった私たち。
ファンダリア大陸の首都ハイデルベルグ……そこは以前モネ・エルピスとして一生を過ごした場所。
船の欄干に手を置き海を見る私の横でジューダスが顔色悪く海を見ていた。
モネであったなら、彼に酔い止めを渡せたが今はそうもいかない。
彼の顔色を伺い、顔色が悪いことを確認してからカバンの中を探る。
目的のものを手に乗せ差し出すと、慣れた手つきでそれを取り口に含む彼に苦笑いを浮かべそうになり慌てて顔を引き締める。
変わらず心配そうな顔で彼を見れば、一度こちらに視線をやった彼は私にお礼を言った。
それを新たな技、文字を記載したフリップを見せ言葉を伝える手段に出る。
「《乗り物酔い、毎回酷いのですか?》」
「……モネなら知っているだろう?」
「《私はモネさんではありませんので、申し訳ありませんが存じ上げませんでした。》」
「……」
私の言葉を寂しそうに受け取り、海を見る彼は徐ろに拳を握った。
それは怒っているのか、それとも何かに耐えているのか……。
「《もし、私がモネさんだったとして、ジューダスと友達という関係だったならば。きっと、前を向いて生きて欲しいと願うはずです。昔に引き摺られることなく、新たな生として楽しんで欲しいと思うのです。》」
「……それは、モネとしての言葉か?それとも……スノウとしての言葉か?」
「《ふふ、私はスノウ・ナイトメア。ですので、スノウとしての言葉です。》」
「そうか……」
遠い目をした彼は海を見続ける。
その顔は薬のおかげか、先程よりはマシになっている顔色。
やはり彼は、私をモネ・エルピスと信じてやまない。
たとえ気配を変えても、彼の中では私はスノウ・ナイトメアではなく、モネ・エルピスなのだ。
「僕は必ず、お前がモネだという証拠を掴む。それまではスノウとして接することにしよう。」
まるで刑事ドラマのようなセリフに少し笑い、頷いた。
それでいい。それならば彼も徐々に気持ちにケリをつけていくだろう。
私が正体を明かすことが今後あるかどうかは分からないけど、それまではスノウ・ナイトメアとして彼へ接しよう。
「聞きたいことが山ほどあるんだ。聞いてもいいか?」
「《どうぞ。》」
それからは他愛ない話だとか、私の武器の話、色んな話をした。
勿論武器は彼の遺品だと話した。
それから、18年前の事の話になった時には、スノウとしての見解を伝えた。
割と最近の話ではあるが、約20年前ともなると語り部がいなければそろそろおとぎ話となってしまうだろうその話題。
彼が落ち着いて話せているのが意外と思う反面、やはりモネ・エルピスの話題は避けたいらしい事が何となく伝わってくる。
そして、自分自身でもあったリオン・マグナスの話題も無意識なのか避けていた。
不可侵領域みたいなものなので、お互いそこには触れず話し合ったが意外とこれが盛り上がる。
スノウとしての史実の見解を話し、それをジューダスが例え話で返してくる。
それが中々に面白い。どちらも当事者であったが故に例え話というのは面白いものなのだ。
しかし、そんな楽しい話もすぐに揺れと共に終わりとなってしまう。
大きな揺れが起き、船が傾いてきたのだ。
それに船員やら乗客達が耐えきれないとばかりに悲鳴をあげながら甲板を転がっていき、私も咄嗟に船の欄干が掴めなかったので同じ末路を辿るかと思いきや、ジューダスが私の手を掴んでくれたのでそんな悲惨な結末にはならずに済んだ。
「___!」
「手を、離すなよ、スノウ!」
『い、一体何が起こってるんですか?!!』
シャルティエも流石にこれには驚きが隠せない様子で興奮冷めやらぬ声音で喋り出す。
勿論原作通りなのでこの揺れが魔物フォルネウスだと分かっていたが、生で体感するとこんなに船が傾いていたのかと妙に感心してしまった。
海水が大きくうねり、甲板へと叩き付ける。
不謹慎だが、ずぶ濡れとなりながらもその手を離さない彼がとてもカッコよく見えたので急いで頭からその考えを打ち消す。
しかし、そう甘い事も言っていられない。
下手したら彼ごと海へ落ちてしまうかもしれないのが悲しき現実だ。
それだけは絶対に駄目だとばかりに声を上げようとするも、私は声が出せない。
つまり行動で示せばいい。
握られている手を少しずつ緩めていくと彼がハッとした顔でこちらを見た。
「何を…!?」
「___」
「馬鹿っ!離すな!!!」
次の瞬間、大きな衝撃が船を襲う。
フォルネウスが船底を攻撃しているのだろう。
その衝撃に耐えかねて手が離れていくのを見て、苦しげに息を吐くジューダス。
「くそっ…!」
『坊ちゃん!絶対離さないでくださいよ?!』
「分かってる!!」
海水を浴びたせいで体が冷えて行くのが分かる。
それは彼も同じで指先がどんどんと冷たくなっていく。
甲板の他の場所から乗客の悲鳴が聞こえているが、何故かこの空間だけ切り抜かれたように音がしない気がした。
だからかな……?
ジューダスへと銃口を向けた時のカチャリという音がいやに耳に響いた。
「っ?!!やめろ…!何をする気だ!!?」
「________」
彼が読唇術が出来たのなら私の言葉も分かろう。まぁ、彼が読唇術なんて出来た試しはないけどね…?
『君の体を温めるんだよ』
そう口を動かしトリガーを引くと大きな発砲音の後、手が離れる。
すぐに海に落ちた私は敵の姿を確認するために体を反転させ、海の中で身体を安定させる。
やはりあのゲームのままのフォルネウスだ。
船底に巻き付き、穴を開ける姿は原作そのもので妙に納得が行くし、なんなら焦りも不安もない。
別に海が荒れている訳でもないので、フォルネウスさえ気にしていれば私が食べられることもなかろう。
さて、原作通りなら彼らが上手いことやってくれてリアラも聖女の力を発動する事になるのだが…。
水中呼吸の魔法弾を自身に撃ち込み、息が出来るようにしてフォルネウスを観察する。
こちらに気付く様子も無ければ、襲ってくる様子もない。
寧ろ船内を気にしている様子のそれに、きっとカイル達がフォルネウスと戦っているんだ、と推測を立てる。
ならばもう少しすればリアラが船を浮かせてリーネ村の近くまで船を運ぶはずだ。
だとすれば私は何処で彼らと合流すべきか。
流されたフリをしてリーネ村近くで倒れているのがベストか…?
それならば誰も疑わないだろうし、奇跡だとでも言って話を終わらせてくれるだろう。
ただ一つ問題なのが、ジューダスの逆鱗に触れそうな事くらいだ。
無理矢理手を離させたので彼も文句のひとつでもあるだろうが、私は彼の体が冷たくなったので温めるために魔法弾を使用したのであって、悪気があった訳では断じてない、と言っておこう。
「!!」
船が浮いたのを確認した後、テレポートの魔法でリーネ村の近くの砂浜へと移動。すぐさま自分に向けて気絶の魔法弾を撃ち込んだ。
意識を失い砂浜に倒れた私はそのまま丸一日、目を覚まさなかったのであった。
○ ☆゜+.*.+゜☆゜+.*.+゜☆゜+.*.+゜☆ ○゜+.*.+
「……!」
目を覚ました時にはベッドの上で、最近こういうことが多いなと思っていると扉の開く音がした。
「っ!!スノウ!」
『よ、良かったーー!!!』
すぐに私の方へと駆け寄ってきてくれる彼は、心底安堵したような顔をしていて同時にとても泣きそうな顔もしていた。
声を出しかけて慌てて口を噤む。
そうだ、丸一日経ってしまったから効果時間が切れてしまったんだ!
このままでは声が出てしまう、と口を引き結んだ。
「何処か痛いのか?」
「……?」
「いや、顔が強ばったような気がしたんだが…」
流石はジューダス……、他人の事をよく見ている。
私の額に手を当てたり、脈を測ったりする彼は本当に心配してくれていて申し訳なく思う。
「《大丈夫です。ご迷惑お掛けしました。》」
フリップの文字を見て、ジューダスは顔を強ばらせた。
すぐに拳を握り苦しそうな顔になると、何故か謝罪されてしまった。
「いや、すまない…。あの時、何がなんでも離してはいけないと思っていたのに……、あの時の場面と重なってしまって……思わず離してしまった。」
あの時の場面……?
もしかして、前世の海底洞窟での一件のことだろうか?
額に銃口を押し付け気絶の魔法弾を放った記憶がある。それのことを言っているのだとしたら尚更申し訳なく思う。
思い出させてしまったことも、あの時の事も含めて、今はまだ、謝ることは出来ないがいつか謝ることが出来たら……。
「《こちらこそ、嫌な事を思い出させてしまったようで申し訳ありません。あの時、ジューダスも落ちてしまうかもしれないと思ったら居てもたってもいられなくて、あの様な強行に及んでしまいました。》」
「僕はそんなにひ弱じゃない。お前を掴んで支えるくらい耐え切れたさ。」
少しだけムッとした顔でそういう彼が可愛く見えて仕方が無い。
推しはいつ見ても可愛いな!!!
その心とは裏腹に顔はちゃんと困った顔をしましたとも!!
「大体、あそこでお前が手を引き抜こうとするから危なかったんだ。そうじゃなかったら僕はお前を落とさずに済んだんだ。分かってるのか?」
次々と彼の口から出てくる文句に思わず笑顔になってしまうのはやはりその懐かしさと、彼の事が推しで大好きだからだろう。
だからといって声に出して笑うのはご法度。
バレては意味が無いからね?
「《ふふ、ごめんなさい。そんなに怒ってくれるなんて思ってもみませんでした。》」
「当たり前だろう。お前、砂浜に打ち上げられていたんだぞ?気を失っていて、脈も酷く弱かった……!それに僕がどれだけ……」
『坊ちゃん、凄い心配していたんですよ?必死になってスノウって呼びかけていて終いには泣きそうに…ってぎゃあああああ!!』
久しぶりの制裁場面に必死に笑うのを堪える。
泣きそうになってくれたのか、としみじみしたいがスノウとしてではそれはおかしいのでフリップを掲げる。
「《僕がどれだけ?》」
「っ、何でもない!!」
急に踵を返し部屋を出ていってしまった彼を見送り聞こえないようにクスクスと笑う。
あぁ、彼を揶揄うのは本当、やめられなくて困る。
ベッドの枕に顔を埋め再びクスクスと笑う。
私の推しは可愛すぎて困るよ。全く……。
だからこそ、護りたいと願うのだ。この命尽きようとも。
先日の〈赤眼の蜘蛛〉の修羅を思い出す。
全身黒づくめで姿は全くわからなかったが、声は男、明らかに戦闘狂で手がつけられそうになかった。
そういえば薄ら見えた瞳は赤眼だった気がする。
ふむ、これだけじゃ何も分からないな。
情報収集をしようにも何処から手をつけていいものか皆目見当もつかない。
しかし、だ……。とにかく今は皆に甘えて休ませてもらおう。また倒れてもいけないから。
枕に顔を埋め大人しく寝ることにした。
○ ☆゜+.*.+゜☆゜+.*.+゜☆゜+.*.+゜☆ ○゜+.*.+
皆から話を聞き、船での出来事を共有した私は独り部屋にこもり考え事をしていた。
今更だと思うがフォルネウス出現であそこまでの被害はゲームではなかったように思う。
それなのに今回は何人も船から落ち、被害は甚大だった。まぁ、船から落ちたことに関しては人のことは言えないが。
だとしたら何が原因であそこまでフォルネウスが暴走していたのだろうか?
〈赤眼の蜘蛛〉の仕業と決めつけてもいけないが有り得なくはない所が奴らの恐ろしさだな。
ノートに少しずつ纏めていた箇条書きの言葉達も何の意味をなさず、遂に私はペンを投げ出した。
するといつの間に居たのか、ジューダスが私のノートを手に取り、それを見ているではないか。
しかしノートに記載してある文字はいわゆる【日本語】というやつなので彼が読めるとは到底思えないので慌てる事はしなかった。
「……なんだこの文字は…。全く何が書かれているか分からないぞ?」
「《それは私が考えた文字です。ノートを読まれるのは苦手なので暗号化してあるんです。》」
ふふ、これならどうだい?
咄嗟に良い言い訳を思い付いたものだ、と自分で感心してしまう。
少し得意げになってしまったが彼の反応は意外にも普通で、なんとかその文字達を解読しようとしているらしいことは、彼の眉間のシワで何となく分かった。
終いにはシャルティエに文字を見せて一緒に解読しようと試みていた。
「……自分で考えたにしては随分と複雑なんだな?それ程までに危惧するような内容が書かれているのか?……例えば、未来の事が書かれているとか……」
驚きの表情を表に出さない様にするのにかなり骨を折った。
まさかそんな事を言われるとは思っておらず咄嗟に作った顔は無表情だった。
しまった、と思ったが彼からそれ以上の追求は無かったのでホッと心の中で胸を撫で下ろす。
「《未来の事なんて、誰にも分かりませんよ。でも、そう仰るということは…もしかして……ジューダスは未来の事を知っているのですか?》」
「僕は知らない。……昔会った奴が未来を知っていたような口だったからな…。それもあって勘繰ったんだ。すまないな。」
そう言うと彼はすぐさま踵を返し、さっさと出ていってしまった。
ふむ、なるほど。彼はモネ・エルピスが未来を知っていたと仮定しているのか。
これは気を付けなければならないな。
ノートを見返し、空白にそれを付け足しておいた。
【ジューダスはモネ・エルピスが未来を知っていると仮定している】
文字を見るだけでもなんだか溜息が出そうな事柄だ。
恐らくシャルティエ辺りの入れ知恵だろう。
モネとしての最期の時、彼は上がるリフトの中でおかしいよと叫んでいたからね。
椅子にもたれて天を仰ぐ。
まぁ、天井しか見えないけど……疲れた時にはやはりこうしてしまうな。
目を閉じ暫く休憩を入れようかと思っている最中、何処からかとてつもなく良い香りがしてくる。
この匂いは、マーボーカレーか?
そういえばスノウは女性なんだから手伝いに行った方が良かったか、と今更な事を思いながら立ち上がる。
リアラが目覚めるまでの間、ここでお世話になっている手前もあり、手伝いは当然だろう。
肩を竦め扉をくぐり抜けると金髪の長い髪をした女性が見えた。
あぁ、あれがスタンの妹のリリス・エルロンか。
近付くと気配を察知したかこちらを向き笑顔で話し掛けてくれる。
「あら?目が覚めたと聞いてたけどもう動いて大丈夫なの?貴女、流されて砂浜に漂着したんでしょう?しっかり休まなくちゃ!」
快活な声音でそう話す彼女にお辞儀をする。
流石に私の声の事について、彼らは話さなかったようだ。
「《すみません、声が出ない病気で……こちらで失礼します。》」
「まぁ!こちらこそごめんなさい!気が利かなくて!」
「《いえ、普通に接していただけるというのはとても有難いと思っていますので、そのままでお願いします。》」
「そう?ならそうさせてもらうわね?……で、身体は大丈夫なの?」
「《はい、痛みもありませんし大丈夫そうです。それよりも手伝いに来れずすみません。》」
「いいのよ!お客様なんだから!でも、好意だけは頂いておくわね?」
「《ありがとうございます。今更ですが何か手伝いますよ。》」
フリップを見て明るい笑顔を浮かべた彼女は私の頭を撫でた。
「良い子ね。じゃあお願いしようかしら!」
「《なんでもします。》」
「なんでもしてくれるの?そんな事言ったら沢山頼んじゃうわよ?」
「《任せてください。家事は得意です》」
「まぁ!将来良いお嫁さんになれるわね!」
再び頭を撫でられ少しだけ笑うと、うんうんと嬉しそうに今度は元気よく撫でられる。
日本では一人暮らしをしていたし、なんなら前世でのあの世界でも一人暮らしだったので家事が得意なのは本当だった。
さあ、行きましょう!と私の肩に手を置き、恐らく台所方面だと思われる方向へと指を指した彼女に苦笑しつつ着いて行き手伝いをした。
離れた場所でジューダスがそれを見ていた事に気付かず。