第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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(*ジューダス視点)
___レスターシティ、研究所内
目を覚ませば、僕は牢屋の中で壁から繋がれた鎖によって拘束されていた。
こうなるまでの記憶が無い上に、腰にある筈の愛剣も今は見当たらない。
そして愛しい彼女の姿も近くに無かった事に一抹の不安を覚える。…果たして、彼女は無事だろうか?
「…ここは?」
「よお、起きたか兄ちゃん。」
同じ牢屋に捕まっている、見るからに胡散臭そうな男がこっちを見てはニヤニヤと笑い、挙句の果てには声まで掛けてきた。
僕は無視を決め込み、壁からの鎖をどうにか壊せないかと見てみたが、頑丈そうな金属を使っている上に何故か酷く体が怠いし、重い。
体の痛みも多少なりともあるのは、今までこんな硬い床で寝かせられていたからか?
「おいおい兄ちゃん。無視かよー。」
「…。」
「おーいってばー。」
「……。」
「何だよ…。死の淵から戻っただけあってクールだなぁ?」
「…何だと?」
「お、ようやく反応を見せてくれたねー?」
今、サラッとこいつ妙なことを口走らなかったか?
死の淵から戻ってきた?僕がか…?
この体の重さ…まさか…。
「そうだよ。兄ちゃんここに連れてこられる前まで死にそうだったんだぜ~?」
「…なんで貴様がそんな事を知っている。」
「そりゃあ、ここにはベラベラお喋りな見張り番が居るもんでね?聞いちまうだろ、普通。」
「だったら、蒼い髪をした奴を知らないか?」
「蒼い髪をしたやつ…。もしかして、あんたと一緒に死にそうになっていたもう一人のことか?」
「…あいつも…死にそうに…?」
…駄目だ、ここに来るまでの経過が思い出せない。
一体、何をしていたんだったか…?
「もう一人のやつなら実験場だよ。貴重な実験体らしいからなぁ?珍しいマナの持ち主で、科学者共が目をギラつかせてたぜ?」
「っ?!」
まずい。それが本当なら、今頃彼女は苦しんでいるに違いない。
やはりこんな事をしていられないが、こいつからすべての情報を聞き出すまでは我慢しなければなるまい。
僕は仕方なく、目の前のこの男から情報を聞き出すことにした。
「まず、ここは何処なんだ。」
「ここはレスターシティの研究所だ。〈赤眼の蜘蛛〉って知ってるか?その組織の奴等が運営、開発している拠点ってわけ。主にここで研究やら開発が行われていて、薬とかの開発もしてるらしいぜ?案外兄ちゃんも、その薬のお世話になってるかもな?」
「余談はいい。次、僕がここに来てからどれくらいが経ったか分かるか?」
「兄ちゃんがこの牢獄に入れられたのが、確か…数時間前だったなぁ?ようやく生き返った、って兄ちゃんにその鎖をつけながら医療班の奴らがぼやいてたぜ?」
「その時、蒼髪のやつも居たのか?」
「あぁ、居たぜ?あの兄ちゃんなら、まだ気絶してたようだが生きてはいるようだった。兄ちゃんたち、同じタイミングで息を吹き返したとも言ってたなぁ?」
「(兄ちゃん…か…。あいつの格好を見て男と勘違いしたか…それとも違う誰かか…。)長髪でリボンか何かで結んでいなかったか?」
「あぁ、赤いリボンだったかな。男なのにおしゃれさんだよなぁ?赤いリボンなんざ、女が着けるもんだと思ってたが…案外あの兄ちゃんには似合ってたな。」
「(ならやはり、こいつが勝手に勘違いしているのか…。)」
頭を抱えそうになりながらも、僕は彼女の身を案じた。
今頃手荒なことをされてなければいいが…。
「実験内容とか聞いていないか?」
「そこまでは…。だが、あの兄ちゃんのマナは殆ど空っぽらしいから、暫くはマナ循環器っつー、なんつーの?マナを回復させるための保温器みたいなところに入れておくんだとさ?だから実験って言っても、まだまだなんじゃないか?マナの回復って、割と時間かかるからな。俺もこの間のことで身に沁みてるぜ…。」
「ほう?貴様もマナを持っているんだな。」
「見ろよ、これ。赤眼だろ?赤眼の奴等は全員もれなく大なり小なりマナを持ってるもんだぜ?…ってあぁ、兄ちゃんの瞳って紫か。っつーことは、この世界の原住民ってことか。知らなくて当然か。」
「そうだな。だがマナについては多少心得がある。」
「そうなのか?変わった兄ちゃんだな。…あぁ!!だから捕まったのか!大変だなぁ?」
果たして、その捕まった理由とやらがそんなくだらない事かどうかは定かではないが…恐らく違うだろう。
スノウを脅すのに使えるから、とかそういった理由でこの僕を捕らえているならば、奴等…ただじゃ置かん。
そうなると尚更彼女が心配になってくる。
僕のことになると彼女は……、何だってしそうだから…。
「ここから実験場までは遠いのか?」
「何だ、兄ちゃん行く気かよ?」
「当然だ。何故こんなところにいつまでも居ないといけない?僕はあいつを取り戻しに行く。そしてここから出るに決まってるだろうが。」
「す、すげえな…兄ちゃん。志高えのは尊敬するが…止めといたほうが良いと思うぜ?逃げるなら自分の身一つで逃げたほうが賢明だな。」
「何故?」
「ここから実験場までは遠い上に、ここよりも圧倒的に防犯がすごいんだ。ここ牢獄なのに、だぜ?その牢獄よりも監視が厳しいのがあの実験場ってことだよ。それに研究者共に見つかったら最後…実験体にされちまう…!」
「そんなことが怖くて魔物とかの戦闘が出来るか。」
「お前なぁー?実験体にされたら死に目に会うより苦しいことが待ち受けてるんだぜ?悪いことは言わねえから、あの蒼い髪をした兄ちゃんは諦めて一人で逃げる方法探しとこうぜ?」
「そんな事、天変地異が起きようともあり得ない。僕はあいつを助ける。それだけだ。」
「かっけぇ…。」
感心したような言い草をされたが、他に聞きたい事といえば…〈赤眼の蜘蛛〉の幹部のことくらいか。
アーサーのやつは変わりないだろうが、修羅の奴が抜けた穴をどう埋めたかが気になる。
こいつに聞いても分かりやしなさそうだが、一応念のために聞いておくか。
「〈赤眼の蜘蛛〉の幹部クラスのことは知ってるのか?」
「あぁ、知ってるぜ。最近入ってきたばっかりのちっちゃな幹部もいるくらいだし、割りと有名なんじゃないか?」
「小さい…?」
記憶している限りでは幹部クラスは全員背が高かった。
それに最近入ってきた小さい幹部…。
何だか、酷く気になる言葉だ。この違和感が、変な方向に向かわなければいいが…。
「どんな奴なんだ?」
「お子様幹部か?お子様幹部は、双子で―――」
「「お子様とは失礼ナ。」」
聞き馴染みないカタコトな言葉で紡がれる声は、僕にとって衝撃的な声だった。
何故…、何故、今まで忘れていたのだろう。
あいつを苦しめたこいつらの事を…!!
「あの双子…!!!」
鎖で繋がれているというのに、僕は奴等に食い下がった。
ガシャンと大きな音を立てて鎖がピンと張り詰めた状態になるが、僕は更に奴等に食ってかかろうと力を込めた。
そんな何も出来ない僕を嘲笑うが如く、奴等は口元に手をやりながら見せつけるように嗤った。
そのまま双子は鍵を開けて牢の中に入ってくると僕の前で止まり、ニヤニヤと卑しく嗤い続けていた。
「相変わらず、元気ソウダネ。」
「あのまま息ヲ吹き返さなければ良カッタものヲ。」
「ふん。貴様らの言う通りにはならん。それよりスノウを何処にやった。」
「"お姫様"なら今ハ…」
「マダ、目が覚めてないヨ。」
独特な笑い方をした双子は手に持った物を僕に見せつけてきた。
それは何時だったかこの双子が持っていた黒い小さなリングだった。
だからと言ってこれで何をするのか、何をされるのかなんて全く想像がつかない。
そう思っていれば、この双子は僕が動けないことを良いことにその黒いリングを僕の首にはめたではないか。
ぴったりに着けられた黒いリングに違和感を覚えつつ、僕が双子を睨めば奴らはそんな僕を見て余計にほくそ笑んだ。
「似合っテル。」
「とってもお似合イ。」
「何が似合うものか…!!外せ!!」
「君は、もうぼく達の言いなりナンダヨ?」
「ソウソウ。あたし達の言いナリ。」
「何だと…!!」
「ひとつ、良いコト教えてアゲル。」
双子の一人が僕を見上げては相変わらずあの嗤い方をして見てくる。
それに苛立ちが収まらないまま、睨みつければ首に着けられた黒いリングと同じ物をその双子の一人が手に持っていた。
もう一個着けられるのか、と警戒した僕だったが、それは全く違う作用のする代物だった。
「ぐっ…?!あ、が…」
「これはネ?一度これで捕獲したモノを強制的に従えさせられるモノなんだヨ?」
「ぅぐっ!かはっ!」
急にあのリングが小さくなり、首を絞めつけてくる。
そしてそのリングを通して、何か体へと流れ込んでくるものがあった。
感じたこともない…自分の物とは全く違うマナだった。
通常、自分と違うマナを浴びれば死ぬはずだと聞いていたのに、流れ込んでくるどす黒いマナは僕の体を回りに回っていき、酷く気持ち悪い。
あぁ、スノウの奴が感じていた気持ち悪さはこれのことだったのか、と頭の片隅に思った。
徐々にそのどす黒いマナが全身に行き渡った瞬間、僕は吐血していた。
「かはっ!!」
「ドウ?気持ち悪い?」
「ドウ?気持ちいい?」
「ぐっ…!!気持ち、いいわけ…あるかっ…!はぁ、はぁ…!」
同時に何かに支配されそうな感覚。
正気を保っていられないほどの何かが体全体を占めて、酷く気持ちが悪い…。
冷や汗が地面に滴り落ちていき、地面を濡らしていく。
荒い息を整えながら、必死に込み上げてくる嘔気を耐え抜くように僕は唇を噛みしめた。
「では、実験その一。ぼくにひざまずいて、頭を下げてミテヨ?」
「そんな、事…するわけ…」
しかしその瞬間―――僕の中のどす黒いマナが僕の中をグルグル回って何も考えられなくなってしまう。
そして僕は気付いたときには、双子に頭を垂れていた。
「…は?」
「キシシシシッ!!!」
「クススススッ!!!」
心底可笑しい、愉快だと云わんばかりの嗤い声。
僕は信じられない気持ちで地面を見つめていた。
鎖がギリギリと体を締め付けて痛いのに、僕はこいつらに頭を下げていたんだ。
そこまでして僕は頭なんて下げたくないというのに、何故か体が思うように動かなくなっていた。
必死に脳から体に動け、と伝えても信号が伝わっていないかのように全く動けない。
まるで自分の体じゃないように…。
「僕に、何を…した…!!」
「ダカラ言ったでショ?ぼく達の言いなりになるんダッテ。」
「ダカラ言ったでショ?あたし達には逆らえないッテ。」
「くっ…!!」
「じゃあ、実験その2。」
双子は動けない僕を見て、縛り付けていた鎖を解いた。
逃げ出す絶好の機会だというのに、僕の体は言うことを聞いてくれない。
「ぼく達についてキテヨ。」
「逃げ出さない方がイイヨ?だって、その首のリング…自爆装置がついているモノ。遠隔操作で貴方の体なんて木っ端微塵ダカラ。」
「なっ!?」
そんな物騒なものを着けられていたのか。
僕は必死に抗おうとしたが、あのどす黒いマナが言うことを聞いてくれやしない。
グルグルと体中を回ってきて何も考えられなくなった後、僕はいつの間にか双子の後に付き従うように歩いていた。
それに手錠を着けられており、念のためにか、手錠から伸びる鎖が双子の方に伸びてしっかりと握られている。
逃げ出したいのに、今度は声も出せずにずっと僕は双子の後ろに付く形で歩かされていた。
「(くそっ…!こんな事をしている場合ではないというのに…!動け…!動いてくれ…!僕の体…!!)」
無情にも時間は過ぎていき、僕はただひたすらこの憎き双子の後ろを歩かせ続けられていたのだった。
しかしこれのお陰とは思いたくないが、思わぬ誤算もあった。
双子が実験場の中を通っていたのだ。
注意深く観察し、道を覚えていく最中によく分からない機械の中に入れられているスノウの姿も確認出来た。
目を覚ます様子も無い事から、本当にマナが底をついていたのだろうことが窺える。
保温機の様な機械の中に囚われている彼女に、どれほど声を掛けたかったか…!
どれほど助けてあげたかったか…!
今はもう自分の体では無い感じさえするこの体が、憎くて仕方が無かった。
「“お姫様”、まだ寝てるネ。」
「ダッテ、“お姫様”のマナまで吸い上げちゃったカラ、もうカラッカラ。」
「デモ、そのお陰でマクスウェルも捕獲出来たシ…」
「こんなに良いペットも出来たネ。」
「(くそ。僕はコイツらのペットなんかじゃない…!!)」
よくよく見れば、スノウの首にも僕と同じ黒いリングがはめられているのが見えてしまった。
絶望した気持ちでそれを見ていれば、双子は嬉しそうにその黒い首輪について話し始める。
「これで使役出来るモノが三人ダヨ、麗花?」
「ソウダネ、飛龍?」
「でも、アーサー様に怒られちゃうカナ?」
「怒られタラ、その時ヨ。飛龍。」
心底嬉しそうな所悪いが、本当にお前達に従うつもりは微塵もない。
そう言いたいのに、何故僕の声帯は動いてくれないんだ。
「“お姫様”が目覚めるノガ待ち遠しいヨ、麗花。」
「あたしもヨ、飛龍。早く近くニ居て欲シイネ?」
……こいつら、親が居なくて寂しいのか?
だから人間をペットにしたいのか?
だとしても、そんなの許されるはずもない。
こっちは逃げ出したくて逃げ出したくて堪らないというのに。
結局、彼女の横を通り過ぎ辿り着いたのはどうやらこいつらの自室。
一卵性双生児だけあって、同じ部屋で寝泊まりしているらしい。
夕方近くになり、まだまだ子供ということもあるのか眠そうに目を擦る双子を睨み付けながら僕は体が動かないか、と試行錯誤を繰り返した。
「ほら、一緒に寝るヨ。実験体二号。」
「(何が実験体二号、だ…!)」
そんな気持ちとは裏腹にどす黒いマナがまたしても自分の体の中を巡っていく。
気持ち悪さで吐きそうになった僕はいつの間にか気を失っていた。
‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥
翌日、僕は手錠を外されたが相変わらずこの憎き双子の言いなりにされていた。
食事の運搬から部屋の掃除……、何から何までさせられて個人的にもう見ていられなかった。
…ただ、一つを覗いて。
「今日も起きないネ?麗花。」
「ソウネ…、飛龍。」
唯一、スノウに会えることが僕の救いだった。
未だに保温機の様な機械の中に囚われていて、目を固く閉じる彼女は全くと言っていいほど起きる気配がない。
幾らなんでもここまで長い眠りに、僕は彼女が生きているのかすら怪しく感じていた。
確か、仲間を回復させた彼女が倒れた所までは覚えているのだが……相変わらずそれ以降の記憶が無い。
「(……スノウ。)」
「明日にはキット良くなってるヨ!落ち込まないで、麗花!」
「ウン…。そうダネ…!飛龍!」
「(一応こいつらにも人を心配する気持ちがあるんだな。それは意外だった。)」
人を実験体呼ばわりしたり、ペット呼ばわりしたりしていたが、互いを思いやる気持ちは流石にあるらしい。
珍しいものを見たものだ、と僕が鼻で笑ってやれば、回復機の中の彼女の手が僅かに動いた気がした。
それに目を見張って期待を膨らませたが、彼女が目を開けることは無かった。
……いつ、お前は目覚める…?スノウ…。
その日もまた、一緒に寝る事を強制されて体が動かせない僕は仕方なく…仕方なく!その命令に従うしかなかったため、僕らはベッドに三人横になり、その日を終えた。
早くこの生活から脱却したいと思い始めて5日目になる。
たまに外に任務に出る事以外は、研究所の中に立てこもる憎き双子。
彼女の目醒めが待ち遠しいのか、何度も何度も彼女の元へ行く双子に付き従うのも……本日何度目だろうか。
僕だって待ち遠しい。
早く彼女の元気な姿が見たいし、彼女が起きたことで何かこの事態が進展するかもしれないという淡い期待もあった。
この5日間、碌に指も動かせずただ命令を聞くだけのロボットに成り下がった僕は、溜息を吐きたくて吐きたくて仕方がないのだ。
どう足掻いた所であのどす黒いマナが体中を駆け巡り、気持ち悪さで気を失ってしまう。
本当、スノウはよくやってると思う。
あのマナに抗えるだけの力を僕にも分けて欲しいものだ。
「……ぅん…」
「「「!!」」」
声が漏れ、しかしそれは少しばかり辛そうな声色だった。
動けない僕でも視界だけは見えている。声のした彼女の様子を見れば、丁度痛そうに顔を顰めさせていた。
「あ、ぅ……」
「(辛そうだな…。その痛みが僕に移れば、こいつは苦しまなくても済むのに、な…。)」
暫くしてから彼女の瞳がようやく開かれる。
双子がその機械を操作すれば、機械の蓋が自動で開き中にいた彼女が顕になる。
薄目を開けた彼女は、ぼんやりと天井を見ていたが、次第に辺りを見渡す余裕が出来たらしい。
僕の方へと視線を向けて安堵の表情を見せた後、すぐさま驚いた顔をして勢いよく上体が起き上がった。
「……え?」
明らかに僕を見て動揺したスノウ。
隣に居た双子が嬉しそうに彼女に駆け寄ると機械をよじ登り、これでもかと彼女へ抱き着いていた。
そんな双子を確認もせずに呆然と手を回したスノウは、相変わらず僕を見て動揺しており、僕もそれを見て心が騒いだ。
もしかしてスノウはこうなる前の記憶を保持しているのか…?
だから僕が生きている事に動揺している、とか…なのだろうか?
いや、だとしても彼女も死の淵に立たされていたとあの牢獄の男が言っていたし、彼女も息を吹き返した時、僕と同時刻だと言っていた。
だとすれは彼女と同じ様に僕も死にそうになっていた事など、彼女は知らないはず。
なら、何故…?
「えっと……ここは…?」
「「ココはレスターシティ。」」
「レスターシティ…って…!」
急いで周りを確認し僕を見た後、自身の手も見つめて驚愕の顔をしたスノウ。
「手が…!」
「「「???」」」
きっとスノウには何かが見えているか、何か手に違和感があるか、のどちらかに違いないが……確認出来ないのが辛い所だな。
近くにいる双子でさえもスノウの手を見て首を傾げているし、当の本人しか理解していない事象である事が分かる。
「(こういう時、酷くもどかしい…。)」
「起きて良かったヨー!」
「麗花、心配してたカラ。」
「……あ、あぁ。……ありがとう…。」
「「ウン!」」
双子からいやに懐かれているスノウは、抱きつく双子に困り果てながらも視線を彷徨わせ、現状の把握に努めている様だ。
流石、スノウといった所か。
こんな時でも冷静さを取り戻せるのは、並の兵士でも難しいからな。
「……すまない。手が痛くて動かしにくいんだ。医療に通ずる者に診て貰うことは出来ないだろうか?」
双子にそう言えば、双子はすぐに頷き医療班を呼ぶ為か、彼女の元から慌てて離れていく。
その場を去った双子を見たスノウはすぐさま機械から出ようとしたが、手がうまく動かないのか顔を顰めさせゆっくりと手を動かしていた。
しかしすぐに帰ってきた双子によって行動を中止せざるを得なくなってしまい、彼女は手をそっと元に戻していた。
「どちらの手ですか?」
「……両方です。」
医師らしき白衣を着た男がスノウの手を見ている間、彼女は双子にもう一つお願い事をしていた。
「後、眼帯があると嬉しいかな?持ってきてくれる?」
「「眼帯…?」」
「ここに居ると他のマナの影響を受けちゃうから。君達を傷付けたくはないし、あると嬉しいんだけどな?」
「「分カッタ!」」
しかしその双子は僕の方を向いてあの黒いリングを掲げる。
そして声高々に、僕に“命令”をして来た。
「「医務室から眼帯取って来テヨ?」」
「(くそ、ここから離れる訳には…!)」
何とかしようと藻掻いて見るが、まるで暖簾に腕押しだ。
僕の意思が全く体に伝わって行かず、僕はそのまま医務室に向けて歩きだしていた。
……後ろから、息を呑む音がした気がした。
‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥
医務室から眼帯を取って来た僕は、あの機械の前に移動していた。
しかしそこに彼女達の姿はなく、代わりに手紙が置いてあった。
[“お姫様”の検査があるので、病室で待機していてネ。]
子供特有の汚い字で書かれたその手紙を見た僕は、その病室が何処にあるか端から分かっているかのように動き出す。
そして、そんな僕の心配を余所に辿り着いた場所は本当に病室らしき場所だった。
ただ、他の医療班が忙しなく動いているのが気に掛かるが…。
「急げ…!」
「いきなり病室のベッドを大きくしろ、だなんて…!」
「(ベッドを大きく…?一体何故だ…?)」
いや、もしかしたら彼女と一緒にあの双子も寝るつもりなのか?
だとしたら、彼女と逃げ出す隙が無くなってしまう。
「〈赤眼の蜘蛛〉の幹部だからって、まだ小さいガキじゃないか!なんであいつらの言う事なんか…。」
「本当だよ。でも、私語は慎んだほうがいいぞ…。どこから聞かれているか分からないからな…。」
「「「………。」」」
「(一応幹部クラスは恐れられる存在なんだな…。それに子供だからと嫌味も言われてるのか…。だから一緒に寝ろ、だなんて幼稚な事を言ってくるのかもしれないな。)」
初日からずっと夜になるとあいつらの横で寝させられるこっちの身にもなって欲しい。
何が好きで、あいつらなんかと一緒に寝食を共にしなければならないんだ。
溜息を吐きたくて吐きたくて堪らないんだ、こっちは。
忙しそうにベッド搬入を済ませる医療班を見ながら、病室で待機して一時間経った頃だろうか?
スノウが双子を伴って病室にやってきた。
その彼女の両手には分厚く包帯が巻かれていたが、あまりにもお粗末な巻き方で恐らくこの双子がお節介で巻いたのだということに気が付く。
……まるで腫れ物みたいな膨らみ方をしていて、少し笑いそうになったのは秘密だが。
「……。」
待機していた僕を見て、悲しそうな顔をした彼女だったが双子に連れられて病室のベッドに座らせられる。
その両隣に双子が座り、足をブラブラさせながら嬉しそうに彼女に笑いかけていた。
「モウこれからずっと、一緒ダヨ!」
「あたし達、ズット一緒!」
「「絶対に、逃サナイカラ。」」
最後の言葉だけ凄みを効かせる様な声音で放つ双子は目が一切笑っておらず、それにスノウが一瞬目を丸くさせたが、眉根を下げ困った顔をして笑った。
彼女からしたら何か思う所もあるのだろう。
彼女は優しいし、今までの行動を見ていても子供を可愛がる傾向にあるから。
「今夜ハ、一緒に寝るノヨ!」
「皆で寝るンダヨ?」
「皆って?」
「ぼくと、」
「あたしと、」
「「“スノウ”と実験体二号デ!」」
「……実験体二号…?」
訝しい顔をして双子を見たスノウだったが、双子が同時に僕を指差した事で驚きに目を大きくさせた。
そしてそれを聞いて、苦しそうに俯いてしまった。
「(……スノウ。)」
そんな悲しい顔をしないでくれ。
そんな辛そうな顔を見せないでくれ。
……お前を抱き締めて慰めてやれないのが、今の僕にはとても辛いんだ。
「……そっか。」
「「ウン!」」
「ソレよりも、手、大丈夫?」
「痛ソウダネ?」
「……あぁ、これは……どうかな…。治るかもしれないし、治らないかもしれないね…?」
両手を見たスノウは、痛そうに顔を歪めながらも必死に笑いかけてやっていた。
双子もそんなスノウを可哀想だと思う気持ちがある様で、彼女の両手をそっと包んでいた。
「「早く治りますヨーニ。」」
「ありがとう、二人とも。」
治るかも、治らないかも分からないとは……厄介だな。
あの手が一体どういう状態なのか、検査結果がどうだったのか全てが想像でしかない。
だが、絶対に治ると思っていないと治らない気がしてしまう。
「動かしたりすると痛いからあまり動かせないけど、痛み止めももらったし…暫くは様子見だね?」
「「様子見ー。」」
「……ねぇ、一つお願いを聞いてくれないかな?」
「「ナニ?」」
「あの人をね?帰してあげてほしいんだ。」
「(っ!?やめろ…!スノウ!)」
僕の方を指差したスノウに、焦りを感じる。
このままだとこいつが残る、とか言い出しそうな気がして堪らないのだ。
そうなれば、一緒に逃げ出すなど以ての外だ…!
「「ダメー。」」
「そこをなんとか。」
「「二人いないとダメー。」」
「私が残るよ。だからあの人は帰してあげたいんだ。」
「(やめろ…!やめろっ!!!)」
「「ダメだヨ?」」
「そっか。分かった、聞いてみただけなんだ。」
意外とアッサリ引き下がったスノウに、僕は大きく息を吐いて安堵を浮かべた。
これでもまだ言おう物なら、この現状が打破されてから説教だったが、取り越し苦労だった様だ。
……いや、説教は決まっているが。
「ねぇ、彼の何を実験をしているの?」
「「ぼく達の/あたし達の、言いナリになるかドウカ。」」
「……どうやって?」
「このリングで操作シテ、動かすノ。」
「原理ハ知らないヨ?」
「……ちょっとやってみてくれないかな?」
こいつも何か考えがあるんだろう。
だから今だけは許すが、二度目は嫌だからな。
そう意味を込めて視線を送ってみたが、やはりうまく行くはずもない。
僕は操り人形の様に双子の言いなりになっていた。
「……。」
注意深く見ていたスノウが一度視線を外して、そして考え込む様に目を閉じた。
暫くはその目を開く事もなく、ずっとそのままの状態でいたが、答えが出たのかその口元を緩ませる。
……頼むぞ、スノウ。
「なるほど。それは興味深い実験だね?」
「「ウン。」」
「今の所、ちゃんと動イテル。」
「反発する事もナイヨ?」
「そうなんだ?一度も?」
「「ウン。」」
じっと海色の片目がこちらを見ては、怖いくらいに真剣な眼差しを向けてくる。
そして彼女は唇だけを動かした。
「(か・な・ら・ず・助・け・る・か・ら。 だ・か・ら・待・っ・て・て。)」
一言ずつハッキリと口を動かした彼女。
その横の双子は隣に彼女がいる事に酔いしれているのか、彼女の腕に抱きついては目を閉じて彼女を堪能している。
その証拠に、双子の口元が完全に緩みきっている。
だからこそ、今、彼女が僕に唇だけで言葉を伝えようとしたのだろう。
恐らく“必ず助けるから待ってて”といった内容だろう事が、何となくだが伝わってきた。
頷く事は出来ないが、僕は心の底からスノウの言葉に同意をしたのだった。