第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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(*スノウside)
独り黙々と光の階段を登り続けていると徐々に見えている視界が歪んできて、辺りがぐにゃりと歪んだかと思えば、次の瞬間、私は自然豊かな森の中に居た。
ひとつ語弊があるとすれば、それは普通の森ではなかったことくらいか。
「うわぁ…。これは……ハロルドが喜びそうだね?」
周りには樹々があるものの、その樹々は何だか神秘的なものを秘めている気がした。
天高くまで届くような光の道が樹々の合間にあったりするし、樹々自体が緑というよりも青に近く、青々しい緑色であった。
所々マングローブの様に水に浸かってる所を見れば、多少なりとも水に生息する樹なんだろうな、ということは植物をよく知らない自分でも分かる。
「救いなのは、水が全体にある訳じゃないって所かな?」
水に浸かれば私は動けなくなる。
もう何度も経験してきたから嫌でも分かっている。
過去のトラウマを乗り越えなければあれは難しいだろうが、……中々上手くいかないものである。無意識なのだから。
なるべく水を避けて地面のある場所を選んで歩きながら、私はその神秘的な森を歩く。
キラキラと輝くあの光の道も通ってみたいけれども、今は先導して案内してくれているマクスウェルについて行くことにしよう。
『この元素の森は全ての元素で出来ていますのじゃ。召喚士様なら感じられるのではないかな?』
「やめてくれ。召喚士“様”なんて。」
『我々にとって神のような存在であるお方に、様をつけないのは失礼ではありませんかね?』
「私が良いって言ってるから、直してくれると嬉しいけどな?」
『召喚士様の命であれば。』
「困ったなぁ…?」
命令とかはしたくないタイプなんだが…。
困った顔をしながらマクスウェルを見れば、彼は「ほっほっほ…」とおかしそうに笑顔を見せてくれた。
「何とかならない?」
『仕方ありませんなあ。召喚士の言葉に従うとしよう。』
「ありがとう、マクスウェル。」
『ふぉっふぉっふぉっ。』
体を上下に揺らしながら笑うマクスウェルは、そのまま森の中を歩いて……ではなく、宙を飛んでいく。
流石に精霊だけあって、人間の老人みたいに歩いてはいかないらしい。
その彼の後について行けば、森は徐々に神秘さを増していく。
何かの光がぽつりぽつりと辺りを漂う様になってきた頃、それは訪れた。
『して、召喚士よ。このマクスウェルの試練を受けたのであれば、儂もまたお主と契約出来るが…如何とする?』
「あー、なるほど?」
そう言えば試練だと言っていたな…。
でも、アレだけで試練をこなしたから契約する…と言うのも味気ないような、忍びないような感じがして気が引けてしまう。
だってあれは私が答えを出せずにいたせいで、痺れを切らしたマクスウェルが答えを急かす為にした事なのだから。
結局、私は暫く考えた後こう答えた。
「───全ての精霊が揃った時…、その時になったら私に力を貸してくれないかな?まだもう一人の光の精霊と闇の精霊と契約してないものでね。その二人と契約する頃にはきっと今よりももっと力がついてるだろうから、マクスウェルを召喚出来る程の力もついてると思うんだ。」
『ほう、なるほど。儂との契約はその様に考えていたか。……召喚士の答え、しかと聞かせてもらった。儂はそれを守ろうではないか。』
「うん、ありがとう。マクスウェル。またその時が来たらよろしく。」
再び飛んでいくマクスウェルの後を追いながら、私は辺りの景色を堪能していく。
ポワポワとした光に触れればそれは温かさを感じ、そして触れたら触れたらで一瞬にして弾ける様に光が消えてしまう。
それに刹那の儚さを感じつつ、私は黙ってマクスウェルの後を追った。
「……。」
マクスウェルもまた、静かにゆっくりと先へと進んでいく。
一体、どんな所に彼は私を連れて行こうとしているのだろうか。
そう心の中で思っていれば、少しだけ胸が踊った。
徐々に視界が開けてきた様な気がして前を注視すれば、漸く何かがありそうな場所へと辿り着く。
まるで何かを避ける様に樹々が円になって場所を空けており、そこには見たこともない花達が咲いていた。
そして地面は地を這う霧がそこら中に充満している。
そのモヤみたいな霧のようなものの正体は―――
「……マナ溜りみたいな感じだね。」
『流石召喚士じゃな。ここは世界で一番マナが溜まる場所…。通常の人間ならばこのマナの濃度に耐えられまい。』
「だから私一人で、って事か。」
『そうじゃな。ここに来れるのが召喚士だけ、ということよ。後の道はそんなに濃度も高くなっておらんからいつでも見れるのじゃ。』
「じゃあハロルドを今度連れてくるね。とっても来たそうにしてたから。」
『良い良い。ただし、穢すでないぞ?』
「大丈夫だよ。ハロルドはそんなことしないから。それは保証する。」
『……仲間を思いやる気持ち、そして仲間を信じる懐の深さよ。』
「そんなんじゃないよ。……ただ、誰かさんに感化されたって感じかな?」
それはきっと、カイルのお陰だと思ってる。
カイルが仲間を信じ続けるのを見て、私も彼に徐々に感化されていたに違いない。
でなければ、この世界に最初に来た時の私だったらそんなこと出来やしなかったし、……完全に皆の事を信じきれてなかったと思うんだ。
私が素直な感情を乗せてマクスウェルに笑いかければ、マクスウェルも私のその感情たちを見透かした様に笑顔になっては笑い声を上げた。
そして、マクスウェルが徐ろに私へと手を差し出す。
そこには今まで契約した、私にとって大切な精霊達の指輪があった。
それをマクスウェルがギュッと握り締めたかと思うと、次の瞬間開かれた手にはそれぞれの指輪に付けられていた宝石たちをあしらったブレスレットがあった。
『属性酔いの原因は、これもあったのじゃよ?召喚士よ。』
「……契約の指輪が?」
『あの指輪をただの契約の指輪だと侮るなかれ。あれは召喚士の体が、それぞれ対応する属性に慣れさせる為の道具よ。』
「……そうだったんだ。だからルナだけはまだ指輪のままってことか。」
指輪を喪う度に気持ち悪さが消えていたのは気の所為では無かったんだ。
あまりにも私が多くの属性の指輪を着けていたから、それで属性同士が反発したかなんかで気持ち悪くなっていた、という事かな。
それか属性に慣れさせる為の何かが私の体に沢山入ってきていたから身体が耐えきれなかったか…。
どちらにせよ意外にも簡単な話である。
要は指輪を外せば良かっただけなのだから。
「それでも、態々ブレスレットにしてくれてありがとう。マクスウェル。」
『ふぉっふぉっふぉっ…。大事な指輪たちだったんじゃろ?例え、精霊達と何処でも繋がっていると分かった今でも、これが有るのと無いのとでは違う……そういう事なんじゃろうな。』
「うん。なんか気持ち的に違うかもね?」
私はそのブレスレットを受け取り、左腕にそっと着けると宝石達がまるで嬉しいと言ってるかのように輝き出した。
なんだかそれが嬉しくて、私も宝石に笑いかけていた。
『後は暫くここにおるがよい。ここのマナは属性酔いには一番効く薬みたいなものじゃからな。』
「そんなマナがあるんだ?」
『お主にとっては、の。ここのマナの多くは、お主が頑張って癒してくれたお陰もある。』
「だから私の体に馴染みが良いんだね。納得だ。」
マクスウェルがその場に座るよう勧めてくれたので、遠慮なくその場に座れば周りの名も知らぬ花達が大きく揺れた。
モヤが体に当たれば、確かに体へとスーッとマナが流れてくる気さえする。
その心地良さに、何故かジューダス……彼の顔が思い浮かんだ。
「(?? なんで今、レディの顔が浮かんだんだろ?)」
『ほっほっほ…。』
マクスウェルが笑っている要因が分からなくて、そのまま見上げてみたが、あの何を考えてるか分からない顔のまま見返されてしまった。
結局考える事を止めた私はそのまま暫くモヤと可憐に咲いている花たちを堪能する事にした。
しかし、そんな私の耳に驚くべき声が聞こえてくる。
「「コンニチハ。」」
「え?」
『……何故、来たのじゃ。それに……ここに来ても何も動じないとは…この子らは一体何者じゃ?』
「……あれ、確かに。」
私の様な特異な存在でなければここの空気は苦しいはず。
なのに、後ろから来た双子はその様子がない。
何故か平気でいる双子に、来てしまったものは仕方ないと笑った私は手招きをした。
すると可愛らしい歩き方で遠慮なく私の横にやって来て、両隣にちょこんと座ったではないか。
まぁ、子供は可愛いからね。
私が二人の頭を撫でると、目を細めそれを受け入れる双子。
「心配して追いかけてくれたのかい?」
「「ハイ。」」
まるで外国人が慣れない日本語を話すみたいに双子は言う。
それに苦笑しつつ双子をしっかりと撫でれば、双子は目を細めながらも嬉しそうにして私を見上げていた。
しかしその反対で、マクスウェルや他の精霊たちはこの双子に対して警戒心を剥き出しにしていた。
「早くここを立ち去れ、人間よ。」
「「………。」」
「帰り方が分からないのかもしれないね。ごめんね、もう少ししたら一緒に帰ろうか?」
「「ウン。でも、」」
双子はそう言うと私をそのピンク色の瞳でしっかりと見上げ、笑う。
その笑い方は、到底幼い子供を彷彿とさせるものではない―――狂気の笑みだった。
「「帰る場所ハ、あそこジャナイ。」」
「…どういう意味かな?」
「召喚士よ!離れるのじゃ!!!」
「「帰る場所ハ、〈赤眼の蜘蛛〉ダヨ? "お姫様"?」」
「っ!」
慌てて離れると同時に、マクスウェルが私を庇う様にして双子との間に入った。
しかしそれがいけなかったんだ。
双子の目的は私だけじゃない、マクスウェルもだったのだから。
「「目的、設定。」」
妙な機械を何処からか取り出した双子はすぐさまマクスウェルに向けて、その何かを放出させる。
するとマクスウェルが苦しそうな声を上げて、体を痙攣させていた。
それと同時にマクスウェルの周りに黒い光の輪が出現し、そのままマクスウェルを輪の中に閉じ込めてしまったではないか。
「何が…!?」
「召喚士、よ…!早く逃げる、のじゃ…!」
「「精霊、捕獲!!」」
双子が何かを操作した瞬間、マクスウェルが目の前から消える。
同時にマクスウェルの気配も全く感じなくなってしまっていた。
「マクス…ウェル……?」
「後は"お姫様"ダケ。キシシシシッ…!」
「クススススッ…!"お姫様"ダケ!!」
その大砲の様な妙な機械物をこちらに向けた双子を信じられない気持ちで見ていると精霊たちから説教が来る。
それはかなり切羽詰まったような声音で発せられ、私の気を引くのに十分すぎた。
『『『逃げて!!!!』』』
「っ?!」
慌てて横へと避ければ、先程の黒い光の輪が私の横を何事もなく通り過ぎていく。
それはかなり遠くの方で霧散していたが、アレが当たったら洒落にならない事くらい先程の奴を見て痛いほど分かっている。
だが、囚われてしまったマクスウェルを取り返さないと〈赤眼の蜘蛛〉に何をされるか分かったものじゃない。
それこそ世界のマナが枯渇している理由を調べるよりも先に彼を助けなければ、きっと碌な事にならないし大変なことになりそうな事も目に見えていた。
私が相棒を手にして戦う意思を見せれば、双子は同時にニヤリと笑い出した。
「キシシシッ!!」
「クスススッ!!」
「「"お姫様"ハ、大人しく囚われていればイインダヨ?」」
「生憎、姫という、か弱く儚い人間になったつもりはないものでね!」
相棒を銃の形にして双子目掛けて気絶弾を放つ。
避けられることも想定済みで何度か打てば、双子は意に介した様子もなくそれを難なく避けていく。
同じ動作、同じ避け方。
一卵性双生児だというのがよく分かるほどに、彼らは動作が一緒だった。
なら―――
「(二人で同じ動きしか出来ないなら、片方に撃つ…!!)」
飛龍と呼ばれた双子の方へと気絶弾を撃てば、多少顔つきが変わった。
笑いを止め、避けていく飛龍は必死そうな顔になって避けていたが、もう一人の双子である麗花がその間に例の大砲をこちらに向けてきたので、それを横に反れる事で私は黒い砲弾を回避した。
……一度に二人相手は厳しいか…?
反りのある剣を持って迫ってくる飛龍の攻撃を相棒で往なしていく。
その間間髪入れず大砲を打ち込んでくる麗花を横目で確認しながら、私は思考を巡らせていた。
「(このままだとマクスウェルを助けるどころか…私もマクスウェルと同じ運命を辿りかねない…!一度、仲間たちのところに帰って救援するべきか…。)」
「___彼の者ヲ気絶させヨ、マクスウェル!!」
「え?!」
まるで召喚の為に唱える詠唱のような言葉を、麗花が紡いだことで一気に視線はそちらを向く。
すると、彼女のその小さな手で握れるほどの小さな黒いリングのような物を天に掲げニヤリと笑った麗花がいた。
その瞬間、辺りのマナがごっそりとその黒いリングに吸われていくような感覚がして、冷や汗と悪寒が同時に私を襲った。
精霊たちも悲鳴を上げて苦しそうな声を上げているのを、私は息を呑んで聞いていた。
駄目だ……この感覚…、気持ち悪い…!
自身のマナも吸われていき、膝をついた私をまるで「逃がさない」と云わんばかりに横から飛龍が強く抱きつく。
子供の力にしては強いそれに、私が逃れようと体を捻らせたが簡単に外れてくれそうにない。
それにマナを吸われて段々と力が抜けて言っている自分には、その力から逃れられない気さえしていた。
そんな私を見てか、双子は勝利を確信した顔をして術の行使をしようとしていた――――しかし、それは不発に終わった。
「「?!!」」
双子が驚いたのも無理はない。
何故なら私だって驚いたのだから。
「「「「スノウ!!!」」」」
「離れろっ!!」
ジューダスが横に居た飛龍を剣で牽制し、遠くへやったことで拘束が解け、そのまま私は地面に手をついた。
麗花の方もカイル達が何かしてくれた様で、例のリングがマナを吸い取ることはなくなっていた。
ようやく人心地つけた私は荒い息を吐き出しながら地面を見つめていた。
そこへ、ジューダスが心配そうな顔で私の顔を覗き込んでいた。
「おい、大丈夫か!」
『顔色悪いですよ?!一体何があったんですか?!』
「マナ、を…吸い取られて…。力が、出ない…!」
『え?!あの黒い輪みたいなやつ、そんな力を秘めていたんですか?!』
「チッ、厄介だな…。だからお前がここまで弱体化しているのか…。」
先程の攻撃が不発に終わったといえど、双子の目的は変わらないようで大砲の照準を変わらずスノウへと向けていたことに仲間たちがすぐに察した。
中でも修羅と海琉が険しい顔で双子を見ていた。
「やはりその眼は偽装だったか。」
「……コンタクトレンズで色、変わってる…!」
「なら、目的はスノウの誘拐か!させるかよ!!」
ピンク色の眼を二人に向けた二人は声を揃えて叫ぶ。
「「裏切り者!裏切り者! 裏切り者には処罰ヲ!!」」
「「…!」」
その言葉に戦闘モードに入った二人は容赦なく双子を攻撃していく。
それぞれの持ち前の剣技で圧倒するかと思いきや、双子はニヤリと笑い二人で黒いリングを掲げた。
「「目の前の敵を殺セ!!マクスウェル!!」」
その瞬間、再びマナの吸収が始まり、これには修羅とスノウの二人が悲鳴を上げて苦痛に顔を歪めた。
スノウに至っては自身を抱きしめ、地面に蹲るほどである。
「あ、うぐ…?!!!」
「くっ…?!!」
「スノウ!!?」
「「修羅!!」」
仲間たちやジューダスがそれぞれに駆け寄った瞬間、彼らの前にあの老人が現れる。
しかしつい先程までの面影は何処へやら、その顔は我を失った顔をしている。
正気を保てていないマクスウェルが攻撃を仕掛けたのは、修羅や海琉の近くに居た仲間たちの方だった。
元属性の容赦ない攻撃が仲間たちに襲いかかり、その攻撃で悲鳴が上がった瞬間、スノウとジューダスが息を呑んで仲間たちへと視線を向けた。
しかしそこには、既に倒れている仲間たちの姿があった。
「っ?!皆っ!!!」
「何故、召喚士でもない奴等がマクスウェルを使役できている?!」
『坊っちゃん、早く回復を!』
「___ディスペルキュア!!」
スノウが先手を打って、回復術を使う。
倒れた彼らに向かって光の波紋が伝わっていき、その光の波紋が倒れている者全てに癒やしの力を奮った。
しかし先程大量にマナを吸われたばかりのスノウにとって、その魔法はかなりハイリスクなものだった。
魔法を唱え終えた瞬間、完全に地に伏したスノウを見てジューダスの顔が血の気を失っていく。
「スノウっ!!!」
『スノウ!しっかりしてください!!!』
「はぁ…、はぁ…。」
冷や汗をかき、辛そうにしているスノウを見てジューダスが怒りの感情を双子に向けた。
双子はそんな二人を見て怪しく嗤い、既に勝利を確信した顔をしてその大砲をスノウ目掛けて打とうとしていた所だった。
直ぐさま放たれた砲弾はスノウに届く直前、スノウを庇ったジューダスに当たってしまっていた。
黒い光の輪がジューダスに襲いかかり、マクスウェルと同じようにジューダスはその身を激しく痙攣させた。
「ぐああぁああぁあああ!!!!」
「っ!!」
そのあまりにも鋭い悲鳴に、気を失いかけていたスノウの脳が覚醒した。
無い力を振り絞り、地面に腕をついて見上げればあの黒い光の輪の中に囚われてしまっている大事な人が居た。
その瞬間だった。
スノウが無我の境地にでも入ったのか、まるで疲れ知らずと云わんばかりに軽く体を起こしてみせ、ジューダスを捕らえている黒い光の輪に触れたのだ。
そして、何が何だかわからないままスノウは自身のマナをその黒い光の輪に流し込み、捻じ曲げたのだ。
その輪を断ち切ると同時に中に居たジューダスも、それを壊したスノウ自身も地面へと倒れこんで、そしてそのまま動かなかった。
それを一番近くで見ていたシャルティエが、コアクリスタルをぽつりぽつりと灯す。
『坊っ…ちゃん…?スノウ…? ねえ、二人とも…返事してくださいよ…。』
重なるようにして、二人の体は倒れていた。
だが、肝心の主人二人はピクリとも体を動かさない。
否、いつも聞こえるはずの呼吸音が聞こえないのだ、二人共。
『嘘…ですよね…?ふたりとも…、冗談、ですよね…?』
声が震えているシャルティエに誰が反応できるというのか。
唯一その声が聞こえる二人は、今、倒れていて呼吸もしていないというのに。
仲間たちが回復した体で倒れた二人に駆け寄ろうとした時だった。
二発目の黒い光の輪が二人に襲いかかり、容赦なくその二人を包み込むと一瞬にしてその姿を消してしまった。
同時に双子が可笑しいとばかりに嘲笑って、魔法で瞬間移動していた。
仲間たちの元に、あの二人は居ない。
____カイルたちはその瞬間、絶望した顔を見せたのだった。