第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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____輝きの塔、25階
休憩も挟みつつ、私達はとうとう25階までやってきた。
途中休憩も入れないと仲間達が途端に私の心配してくれるし、私としても皆の体調が気になってしまう。
お互いに体調を気にしながら、私達は着々と塔の上へと上り詰めていた。
現在、例の扉の前までやってきた私は、また扉の文字の解読に励んでいる。
今度は“火”やら、“紅蓮”と書かれているのでどうも火精霊であるブラドフランムのようである。
勿論、扉を開くためにはちゃんとした召喚の詠唱が必要になるので、今はそれの思考中である。
「今度は火属性か…。」
『この塔、何がしたいんでしょうか? みるみるうちにスノウの召喚出来る精霊が減っていきますし…。見ていてこっちも心配になってきます。』
「そう言えば……。お前、気分不良はどうなんだ?」
「……。」
『「あぁ…。」』
スノウの思考が長いのは昔からだ。
ジューダスは思考に時間を割いているスノウを見て、やれやれと首を振る。
今パッと見る感じではあまり体調不良を感じさせないが、階下でも元気そうに見えてまだ体調が悪いと言っていた事もある為、油断は出来ないだろうとジューダスは考えていたのだ。
暫くスノウの思考の邪魔をしない様に黙っていたが、余りにも今回は長い時間だった為、遂には声を掛ける事にしたようだ。
「……おい、スノウ!」
「……。」
『今回は長いですねぇ?何か、別の事でも考えてるんでしょうか?』
「さあな。ただ───」
「二人とも!来て!」
カイルが慌てた様に騒ぎ出すので、ジューダスは顔を顰め、甥を見遣った。
まさにその顔は「今度は何が起きた」といった顔つきである。
そんなジューダスの腕を掴み、引っ張って行こうとする甥に慌ててジューダスがスノウを振り返り声を掛ける。
しかし深〜い思考中であるスノウには、ジューダスの声など届きはしない。
結局ジューダスだけカイルによって連れてこられ、心配そうにジューダスはスノウの方を振り返った。
「見てよ、ジューダス!あれっ!!」
「何だ。」
「見ろよ、あれ……。ちと、ヤバくねぇか?」
ロニも顔を顰めさせ、外を見ていた。
いや寧ろ、全員が不安そうな顔で外を覗いていたのだ。
ジューダスもまた、皆と同じく外の景色を見ようとするが何を言わんとしているのか───
「……あれは…何だ…?」
『え、』
現在は塔の25階と言うこともあり、かなりの高さを誇っている。
そこから見える景色と言えば普通であれば見応えのある良い景色であり、町や村が一望出来る所なのだろうが、ジューダスが見た景色は違った。
まるで斑点模様の様に、街の近くの何処かに白くなった場所がある。
それもその近くにあるはずの樹木や草木までもが消え失せ、白くなったり枯れていたりと奇妙な光景を映し出していた。
「……あそこは確か…アイグレッテの墓地のあった場所のはずだ…。墓石も、周りの地面も…白く果ててる様に見えるな。」
「墓地?」
「カイル。クレスタの所も墓地がやられてるようだぜ…?」
「……何で墓地ばっかりなのかしら?」
「墓地に何か変なものでもついたんじゃないのー?虫とか、細菌とか。」
ハロルドの推測に反応を示したのはスノウの側を離れない双子だった。
お互いに顔を見合わせると心底可笑しそうに…、しかし皆にバレない様に静かに笑っていた。
……それが何を示すものなのか、誰も知る由はないだろう。
「何だか見てて気持ち悪いね…。全てが灰になってるみたいだよ…。」
ナナリーは嫌そうにその景色を見て、そう呟いていた。
それにピンと来たハロルドが人差し指をピンと立てていた。
「そーいえば。クレスタ…だっけ?あの街に滞在していたときに周りの奴らが話してたわよ? 何でも“墓地ハンター”みたいなやつがいるんだってさー?」
「「「「墓地ハンター?」」」」
「なんじゃそりゃ…。」
「墓地を荒らすだけ荒らす奴らがいるみたいよー? それも、至る所の墓地だけを狙ってるらしいのよ。はた迷惑な奴らよねー?」
「……。」
一人、修羅だけはその場所を見ては何かを考え込む様にして口元に手を当てていた。
他の皆はハロルドの言葉を笑ったり、驚いたりしているようだ。
ジューダスはそんな修羅を見て、眉間にシワを寄せていた。
「……何か分かったのか?」
「「「???」」」
ジューダスの言葉に、全員の視線が修羅へと向かう。
そんな視線を受けて、修羅は白い大地の場所から仲間達へと顔を向け、首を横に振った。
「……確証がない。それこそ、もっと近くで見てみない事には。……ただ、俺の推測が正しかったら…結構マズイことになってるな…。」
「え、なになに?何が起こってるの?」
カイルが目を丸くさせ、修羅を見る。
それに修羅は更に首を横に振らせた。
「確証が無い、って言っただろ?兎にも角にも、まずはここを制覇してスノウの調子を治してからじゃないか?」
「スノウは……まだ悩んでるみたいね?今回、そんなに難しかったのかしら?」
リアラがスノウの近くに寄ると、すぐにスノウは気付いて目を丸くさせた。
何か一言二言話した後、二人が笑っていたので、塔の外を見ていたこちら側の仲間達は安心した顔を向けた。
「……勿体ぶらずに教えろ。」
ジューダスが修羅にしか聞こえない声でそう話す。
すると修羅はチラッとジューダスを見て視線を元に戻す。
「……あんたも確か、あの怪しい建物に入った後くらいからマナが多少なりともあるって言ってたな?」
「あぁ。お前らとは違う物だがな…。」
「恐らくだが…あれはマナ関係だ。俺やスノウには関係のある話だろうが、元々この世界の生まれだったあんたには関係ないのかもしれない。」
「……あいつが関わってる事なら尚更見逃せん。話せ。」
「……とにかく、この事をスノウには話すな。いいな?」
「分かった。」
二人の視線は仲間達とわいわいしているスノウへ向けられる。
その中には双子がまた煩くなっている事から、何か双子の癇に障ることを誰かがしたのだろう事が窺える。
耳に届く耳障りな声に、二人が同時に溜息を吐いた。
そして同時に溜息を吐いたお互いを見て顔を顰めさせる。
二人して子供が苦手だったから余計にその声に眉間に皺を寄せたのだ。
「……まぁいい。あの白い大地の話だが…」
「……。」
「恐らく、自然にあるマナが何かしらの理由によって喪われたんだろうな。だからあの大地は死に絶えた……。俺の推測でしかないけどな。」
「マナが…喪われた…? だが、スノウが居る限りはそんな事は…。」
「言っただろ?確証が無いし、俺のただの推測だって。」
『でも、そうまで至る理由が修羅の中であったはずです。坊ちゃん、ここはもう少し聞いてみませんか? ……なんか、嫌な予感がするんです。またスノウが苦しまなければいいですが…。』
「……何故、お前の中でそうまで至るになったか、聞いてもいいか。」
「随分としつこいな?推測だって言っただろ。…この話はもうやめだ。」
そう言って去ろうとする修羅の腕をジューダスが掴む。
ジューダスを振り返った修羅は、初めは顔を顰めさせたが、ジューダスを見るなり目を見張った。
あまりにもその顔は真剣だったからだ。
そして修羅が緩慢と体をジューダスの方へ向けて、大きな溜息を吐いた。
これは何がなんでも諦めないだろうと悟ってしまったからだ。
「……俺やスノウが以前居た世界…地球では、色んな物語が語り継がれている。…それは知ってるんだろ?」
「スノウから少し聞いただけだがな。」
「その物語の中でもたまに見る“マナ”という存在…。そして白化した大地…。それらを鑑みるに、マナが喪われ、“大地が死んでいる”という話を聞いた事があるだけだ。」
「大地が……死ぬ、だと…?」
「あぁ。とある話では“死の大地”なんて呼ばれてたな。まぁ、こういった物は空想上の話に過ぎないからな。頼りない話ではあるが……でもそれが本当なら…スノウの奴が…。」
修羅の言い分がジューダスには分かる。
元々、スノウは世界の神の〈御使い〉だ。
その世界の神は、マナの巡りを良くする為に御使いをその世界へと顕現させる、とあの分厚い辞書にも書いてあった。
だからこそ、世界のマナが枯れそうになっているならスノウの出番にならざるを得ないのだ。
……また、彼女が苦しむ羽目になるかもしれないのだ。
「(……歯痒い…。僕が…マナに関して力になれれば…あいつが苦しまなくても済むのに…。)」
「だからこそ、勘の良いスノウにこの事を話すな。今は…この塔の事だけで頭がいっぱいだろうしな。」
「……分かった。黙っておく。」
そう言って二人はスノウの近くへと駆け寄る。
どうやら、扉を開けるようだからだ。
「___紅蓮の炎、黄昏にて赤く燃えあがらん…。そして、我の前に立ちはだかる物へと干渉し、邪魔なる物を壊せ!ブラドフランム!!!」
『熱き炎、受けてみるが良い!!』
ブラドフランムが扉への干渉を始め、赤い炎が扉周りを染め上げる。
扉が紅蓮の色の魔法陣を描き始めると、辺りはかなりの熱気に晒された上、仲間達が堪らず後退する中、一人この猛攻に堪える者が居た。
無論、ブラドフランムを召喚した張本人であるスノウその人である。
まるで熱さを感じていないかの如く前を見据え、その烈火の炎に耐えていたのだ。
そんな中、魔法陣が長い時間を掛けて扉全体へと描き終わり、重い扉が音を立てて開かれていく。
そしてそれと同時にポツリとスノウは呟いた。
「……ありがとう、ブラドフランム。」
お礼と共に、スノウは胸にそっと、手を当てる。
……もうルビーの指輪が嵌められた台座は見えなくなっていた。
「(あぁ…吐き気が……。気持ち悪さが……扉を開く度に……精霊を喪っていく度に軽くなっていく……。属性酔いって、一体…?)」
『……次で最後……』
「セルシウス…。……うん、そうだね…?」
仲間達は私が扉を潜るのを待っている。
双子の子供達は私の足元でじっとこちらを見上げている。
「うん、早く行かなきゃね。」
私は双子の頭を撫でて扉を潜った。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..
____輝きの塔、30階
流石に上に行くだけあって魔物の強さも比例して強くなっている……気がする。
そんな曖昧な理由は、彼らの戦闘の様子を見ていて私がそう思ったからだ。
元気よく魔物に向かって行ってはあっという間に倒していく姿を見てしまえば、上へ来る度に弱くなっているのではないかと思わされる。
でも、毎度出てくる魔物自体は私の知っている限りでは強いはずなのだ。
何故彼らがそんなにも意気込んで倒しているかは知らないが、この塔に入って最初の時よりは大分元気そうに魔物に向かって行っていた。
『……スノウ…。』
「……うん、最後だね…。セルシウス。」
左手の薬指にあるパライバトルマリンが光り輝く。
まだ光の精霊ルナが残っているが……ここまで来てルナが無いところを見ると別の何かが何かあるのか、それとも案内役だから残っているのか分からない。
それにセルシウスも最後だと言っていたのは、彼女も何かしらの理由を知っているからなのだろう。
「……今までありがとう、セルシウス。色々君には助けられたよ。」
『……まるで今生の別れみたい…。』
「はは。ちゃんと迎えに来るから安心してよ。私は皆が居ないと駄目なんだから、ね?」
『……うん…。』
それ以降、セルシウスが口を閉ざしてしまう。
まるで何かを話さないようにしているかのように。
……長い時間一緒に居ただけあって、なんとなくそう思ったんだ。
『…………最後の扉、早く開きに行こう…』
「セルシウスならもう少し惜しんでくれるかと思ったけどね?」
『……だって、迎えに来てくれるんでしょ…? だったら私は待つだけ……。』
「そうだね…。早く終わらせて、早く迎えに来るよ。」
『……一つだけ。』
「ん?」
『……一つだけ、約束してほしい……』
真剣な声音のセルシウスに私は笑って優しく咲きを促した。
どんな約束事を言われるのだろうね?
『……絶対に、絶対に……私たちを忘れないで……。』
「……セルシウス。」
『……私たちは常に、召喚士である貴女と共に在る……。それを……絶対に忘れないで…!』
「……うん。分かってるよ。」
『……どんな時だろうと、どんな状態であろうと……私たちは───』
『セルシウス。』
ルナが咎める様にセルシウスの言葉を塞いだ。
セルシウスはそれ以降黙ってしまったが、私は大きく頷いて、安心させるようにパライバトルマリンを見て笑った。
……絶対に忘れないよ、皆のこと。
「大丈夫。任せてよ?」
『……うん…。……ちゃんと見てるから…。』
「ははっ、悪い事出来ないね?」
『……悪い事、する気もないのに…?』
「ふふ、冗談だよ。」
『……ふふ…。』
セルシウスがようやく笑ってくれた。
だから私はこれ以上何も言わずに、指輪を抜き取った。
扉近くの台座へとそれをはめて、そして詠唱を唱える。
「___清冽なる湧水…、その水面を刹那にて壊せ。そして我の前に立ちはだかる物へと干渉し、未来への道を切り開かん…!セルシウス!!!」
『……絶対零度の氷結の痛み、味わいなさい…!』
召喚されたセルシウスが扉への干渉を始める。
同時に辺りには吹雪と絶対零度の寒さが襲いかかり、仲間達を凍えさせる。
「さっむ!!!」
「もう少しの辛抱よ!皆!」
カイルが腕を擦りながら走り出し、その横ではリアラがカイルの代わりに仲間達へと声を掛けていた。
同時に仲間達は寒さに耐える様に皆で手を繋いでいく。
それは扉近くに居たスノウやジューダスにもバトンが渡ってきていた。
差し出される手を迷わず握ったジューダスは、そのまま反対の手でスノウの手を握る。
お互いの手は冷たかったけれど、決して、離れることは無かった。
「――――ありがとう、セルシウス。」
吹雪が終われば仲間達は笑って階段を駆け上がっていく。
私は台座のあった場所を一度見てから扉向こうへと視線を移した。
そこにはジューダスと修羅が私を静かに待ってくれていた。
___言うまでもないが、私の中にあった気持ち悪さが大分……良くなっていた。
◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇
___輝きの塔、35階
いつも謎解きで始まるこの扉も、今回ばかりは何も書かれていない上に、私が召喚出来る精霊と言えばあとルナしか居ない。
それに疑問を持ちつつ、扉を修羅と共によく目を凝らして見ていた。
しかし何も書かれていない扉から何かを悟る知識も持ち合わせておらず、二人で首を傾げては両手を上げ、本当の意味での"お手上げ状態"だった。
「あと残るのはルナだけだよな?」
「うん、そうなんだよ…。」
「もしかして…光を当てると扉が開かれるのか…?」
「でも、台座がないよ。」
二人で辺りを見渡してみたが、台座らしきものもなく謎解きもない。
だからこそ、目の前にある大きな扉は完全なる扉だった。
「精霊が足りない…とかか?」
「それだったら、ルナがわざわざこの塔を紹介するかな…?」
「それもそうか…。」
「二人とも!入口みつけたよ!」
「「え?」」
完全に扉前に気を取られていた私達だったが、カイルの言葉で慌てて振り返る。
やはりこれはただの扉だったのか…。
「何処にあったんだ?」
「下の階にあったよ?なんか、ぽっかり穴が開いてるんだ!」
「穴が…?」
「開いてる…?」
行く道中で気付かなかったのも驚きだが、こんな塔にあるぽっかりとした穴など…危険極まりない。
私たちはカイルの案内で、下の階へと歩き出し、カイルの言っていた意味が分かる。
以前、私が壁を叩いていた時に中に空洞があると言っていたあの場所―――そこにぽっかりとした穴が開いており、中に入れるようになっていた。
仲間達は皆、そこに集合しているようで私達も遠慮なくそこへと入ると、ようやくあの声が聞こえる。
『よくぞここまで辿り着きましたね。』
「ルナ。」
『見事です。召喚士とその仲間達よ…。では、部屋の中央に集まりなさい。そこでじっと待つのです。』
「皆、中央に集まって、だってさ?」
「「「はーい。」」」
聞こえていただろうが、一応そのように仲間に伝えると続々と中央へと歩み寄っていく。
私もそれに合わせて中央へと寄り、最後の指輪を見つめる。
『召喚士よ、床に手をつきなさい。…最後の試練です。』
「…すぅ、はぁ…。」
深呼吸をした私を皆が心配そうに見る。
そんなことお構いなしにルナが言葉を繰り出す。
『最後の謎解きと行きましょう。____では召喚士よ。今、貴女の立っているその場所は転移門となっています。そして、その転移門はこの塔の最上階へと案内してくれる役目を持っています。』
「……なるほどね?」
『その転移門を開く為には、光が必要です。それも……高威力の光が。』
「…。」
『およそ、恒星程の光が必要であるならば……貴女は何をして、何を唱えますか?』
「………マジ?」
待て待て…。恒星ほどの光が必要って…かなり明るいんだけど…?
星の光だよ?あの星の光だよ?
それが必要って…どんだけマナを喰うつもりなのさ…?
「おいおい…無理難題吹っ掛けてくるな…?」
「ねえ、修羅。"こうせい"って何?」
「恒星っつーのは、夜空に光る星があるだろ?早く言っちまえば、あれだな。」
「え、あんな小さな光でいいの?」
「勉強が足りないお前に言っておくがな…? 恒星の光ってのは、見た目以上の光量があるんだ。それこそ星一つを光らせられるほどの光量だぞ?とんでもない明るさなんだぜ?」
『そんな事したら…!』
「(無理だ…。そんな光量の光なら、こいつのマナが足りるはずがない。それこそ、さっきまで精霊を召喚したりして、酷使していたというのに…。)」
全員の視線がスノウへと注がれる中、スノウはゆっくりと片膝をつき地面に手を付いた。
そしてゆっくりと目を閉じた。
それを見た仲間達が途端に慌てだす。
だって、修羅の説明でも危険だと分かるのに、それを今から実行しようとする仲間がいるのだから。
「(これは謎解きだ…。それに精霊であるルナが契約した召喚士にそんな無理難題を吹っ掛けてくるはずもない…。なら、他に何か方法があるはず…。)」
「スノウ…!」
「でもよ、ここをクリアしないとスノウの体調も、それこそ精霊も戻ってこないだろ?」
「だが…下手なことをしてマナ切れを起こしたら…。〈星詠み人〉であるスノウは死ぬんだぞ?」
修羅の言葉を聞いて、ジューダスがスノウの前に座り、地面に付いているスノウの手へ上からそっと自分の手を重ねた。
それを見た仲間達が同じく頷き、その手の上から重ねていく。
スノウの無事を……成功を祈って…!
『スノウ…。』
「…絶対に死ぬな。スノウ。」
「―――――。」
仲間達の勇気と心遣いと……そして信頼を感じながら、スノウは目を開ける。
その瞳には覚悟が映し出されていた。
「…ふふ、意地悪だね?ルナは。」
『では、召喚士よ。貴女の答え、聞かせてもらいましょう。』
「___夜に燦然と輝く満月よ、その光を今、ここに…!! ルナ!!!」
『良く出来ました。月の力、思い知りなさい。』
ルナが召喚された瞬間、地面に扉と同じような魔方陣が中央から外側に向かって描き出される。
しかし、その瞬間、スノウに異変が起こった。
「うぐっ…!!?」
「「「スノウ!!?」」」
スノウが吐血したのだ。
それを見た修羅とジューダスが顔を青ざめさせる。
やはりマナの消費が今までよりも明らかに酷く、スノウに負担を強いているのだ。
地面に付いていた手が僅かに震える。
それを仲間達が不安そうな顔でお互いを見始める。
「かは、」
「っ、」
更に吐血したスノウにジューダスが見ていられないと唇を噛む。
しかし、ジューダスはハッと何かに気付きスノウを見た。
そしてスノウの懐を探ると、可愛らしいほどの小ささの銃を取り出した。
「おい、何を―――」
「スノウ!行くぞ!!」
パアンと乾いた音がする。
ジューダスが銃を向けた先は、スノウの頭だった。
一瞬気を失いかけたスノウだったが、すぐに気を取り直し、地面に手を付きなおすと笑顔を見せた。
「―――流石、親友。ありがとう。」
「あと少しだ、踏ん張れ!」
ジューダスの声援に、一気に床の魔方陣が速度を上げて描き出される。
最後まで魔方陣が描かれると、あまりの魔方陣の明るさに目が眩んでしまう。
そして、仲間達の目が慣れたころに見えた光景は、真っ暗闇の場所なんかじゃなく……塔の最上階に相応しいような開けた場所だった。
「あれ、ここは…?」
仲間達が不思議そうに辺りを見渡す中、スノウが気を失う様にその場に倒れた。
回復できる者全員で急いでスノウの回復に努める。
『「__ヒール!」』
「キュア~!」
「「ヒール!!」」
「___キュアコンディション!」
「……ん、」
回復が効いたのか、スノウが僅かに目を開ける。
同時に仲間達が安堵の息を吐くと、スノウは力なく仰向けになった。
「…あー。流石にルナの召喚は……死にかけた…。」
「おいおい、そんな無茶なことすんなよな?」
ロニが腕を組みながら怒ってくれているので、スノウもそれを聞いて笑いながらロニへと視線を向けた。
それと同時に周りの仲間達も怒ってくれるので、それを黙って聞き届ける事にした。
『―――よく、あの状況で私を召喚しようと思いましたね。』
「恒星ほどの光量が必要な術技なんて、中々無いよ。それにマナも足りない。なら、恒星よりも遥かに光量の多い月の力……精霊の力を借りる方が何倍も現実的だからね。」
地球で聞いた話だと、恒星の中でも一番明るいのが"シリウス"という星なんだそうだ。
そのシリウスの約三万倍の光量を持つと言われる満月。
だからこそ、光の精霊であり、月の力を持つルナの召喚を思いついたのだ。
「…まぁ、ジューダスの機転が無かったらと思うと、ゾッとするけどね?」
『死んでいたでしょうね。よくぞ乗り越えられたものです。』
バッサリと言い放つルナにから笑いをすれば、仲間達が労いの言葉を掛けてくれる。
それに横になりながら一身に受けたスノウは、少し寝ると言ってすぐに寝息を立ててしまった。
『最後の試練、合格ですよ。召喚士スノウ。』
そんなルナの声に全員が大喜びしたのは、眠りについたスノウには届かなかったのだった。