第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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謎解きに勤しむ仲間達。
扉の前では、ジューダスとスノウが手を繋ぎ、扉を見ながら謎解きをしていた。
「疾風来りて……か。」
『スノウって、精霊を喚ぶ時にどんな詠唱をしてましたっけ?』
「その時々によって違うんだ。自分の前に敵が現れた時なんかは、敵に対して攻撃してくれるような、そんな詠唱を唱えたりするね?」
『じゃあ、この謎解きには当てはまらないな。』
三人でう~ん、と頭を悩ませているとグリムシルフィがそれを見て笑っていた。
どうやらグリムシルフィにはこの謎解きの答えが分かっているようだ。
「グリムシルフィはこの問題の謎解きが分かってるんだね?」
『あったりまえじゃん!ここをどこだと思ってるのさ?』
『グリムシルフィ。』
『げ、また説教だ…。』
「ここを…何処だと…?」
「ルナの話では確か"輝きの塔"だと言っていたな。それに試練がなんとかって…。」
「試練…?」
『知恵と勇気次第では、一生戻れないって聞きましたけど…?』
「知恵と勇気…。……"勇気"?」
もしかして、私自身が精霊に試されているのだとしたら…?
そして光の精霊ルナが、この輝きの塔をこの地に出現させた…。
という事は、ここは精霊にとってゆかりのある地だという事……。
「___疾風来りて…、扉を開けん…?」
『お?』
『グリムシルフィ!』
『はいはい、大人しくしてますって…。』
「精霊のこの反応だと、もう少しな感じがするな?」
「……指輪を台座にはめる事は間違ってないのかもしれない。多分、指輪をはめるその前かその後にやる事があるんだと思う。……それこそ、精霊を召喚してその属性の力を使って扉を開ける、みたいな…。」
『やってみましょうよ!そしたら間違ってるか分かりますよ!』
「…それもそうか。じゃあ、グリムシルフィ。」
『ん。』
「力を貸してくれるかい?」
『もっちろん!ただ、スノウのマナと交換ね?』
「そこは律儀な奴らだな。」
『仕方ないじゃん。マナがないとボクたちは喚べないんだからさ?』
「……ふん。」
嫌そうにジューダスが鼻を鳴らし、腕を組んだ。
そしてスノウのやる事を見守る様に、彼の身体はスノウの方へと向いていた。
『喚ぶその前に。スノウに言っておきたいことがあるんだけど?』
「ん?何かな?」
『ボクたち精霊は、確かに召喚士のマナで生きられて…そして力を貸してあげられる。』
「うん。」
『契約したのは、スノウが召喚士だからっていう簡単で単純な話だけじゃないんだよ?もっと、複雑な理由があって…っていうこと。』
「複雑な理由…?」
『マナが美味しいとか、召喚士だからとか、マナが無尽蔵にあるから───そんな単純な理由じゃないんだよ。それだけは覚えておいて。そして、ボクだけじゃない。ボク達精霊は、いつでもスノウの味方だってこと…、それから、何処に居てもスノウと一緒に在るということ。それだけは……絶対に忘れないで。』
いつもはおちゃらけているグリムシルフィでもこの様子。
……この指輪を外せば、召喚は出来なくなる。
余計にグリムシルフィのその言葉達が身に染みる気がして、私は目を閉じてそっとエメラルドの指輪を撫でた。
『いーい?分かった?ちゃんと忘れないでよ?ボクのこと。』
「…うん。忘れないよ、絶対に…!」
そっと笑って目を閉じて…、そしてエメラルドの宝石を見つめる。
そのまま私は扉近くの台座へとエメラルドの宝石をあしらった指輪を差し込んだ。
ジューダスはそれを見届けると再び私の手を強く握って、お互いに扉へと体を向けた。
そして私は、台座に差し込まれた指輪に触れながら詠唱を唱える。
……これはきっと最後の詠唱じゃないと信じているから。
「____疾風来りて、我の前に立ちはだかる物へ干渉せよ!グリムシルフィ!!!」
『風の力、思い知るがいいよっ!!』
扉に向けて放たれた風の力は人間の前では強力すぎて、彼と握っていた手が離れそうになるが、彼は離さないとばかりに力を強めては荒れ狂う強風に耐えている。
私もそれをしっかりと握り直し、そして強風に耐えながら扉を見た。
そこには、グリムシルフィの操る風の力によって扉に描かれていた、ただの紋章が翠色に輝いていく姿が見て取れたのだ。
そして重そうな音を立てて扉が開かれると同時に、契約の指輪を置いていた台座はこれまた重そうな音を立てては地面へと吸い込まれるようにして収納されていく。
完全に床が閉じてしまえば、台座があった場所には見る影もなく…。
「…ありがとう、グリムシルフィ。」
もう、彼を召喚出来ないけれども。
それは今だけだって、そう信じている。
いつかまた、指輪が戻ってきた時には彼とまた、沢山お話をしよう。
「───さあ、行こうか?」
私は、仲間達を振り返って笑った。
____その時私の中にある気持ち悪さは、少しだけ……ほんの少しだけ解消されていたような気がした。
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:
____輝きの塔、6階
再びエントランスホールのような場所に辿り着いた私達。
それに嫌な予感がしたのは私だけではなかったはず…。
「おいおい…まさか…?」
ロニのその言葉通り、上から魔物が落ちてきたのだ。
私は足にしがみついていた双子を抱えて、後ろに下がり、二人と目線を合わせる。
「…いいかい?これより先に進んじゃ駄目だよ?どんなことがあっても、ね?」
「どうシテ?」
「なんデ?」
「今からあの魔物を私たちが倒してくるから、それまではちゃんとここに居るんだよ?でないと、大怪我しちゃうかもしれないからね?」
「「分かっタ!」」
「よし、良い子だ…。」
二人の頭を撫でれば、子供らしく嬉しそうに口元を緩ませ、そして目を閉じて私の撫でる手を受け入れてくれていた。
それに僅かに笑顔で見ていた私だったが、すぐにカイルの悲鳴が聞こえてきたので急いで振り返り、回復技を使う。
「___ディスペルキュア。」
「…! ありがとう!スノウ!」
「ふふ、気を付けてよ?カイル。」
「うん!!スノウも無理しないでね!」
「りょーかい。」
相棒…ではなく、銃杖を持ち、私は詠唱を唱える。
近距離もいいけど、今の自分の体調不良を考えると遠距離でやっていたほうが無難そうだ。
着実に魔法を敵へと当てていき、体力を減らしていく。
時折、双子の無事を確認しながら魔法を使い続ければ、敵も流石に体力が削られて倒れていく。
あっという間に勝利を掴んだ私たちだったが、次に来る罠の事を考えて、魔物を倒した喜びが半分になってしまう。
無論、罠は大変だった記憶があるからだ。
それも子供たちを連れて、その罠を掻い潜らなければならないのだ。
……行けるかなぁ?
「よっしゃ、行くぜ…!」
珍しくロニが意気込みを立てていて、それをジューダスと修羅が物珍しそうに見ていた。
カイルは隣で一緒に意気込んでいたので、別に普通であったが。
意気込んでは、二人して一気に階段を駆け上がっていったので他の仲間達がやれやれと彼らの悲鳴が上がるのを待つ。
どうせ、罠で悲鳴を上げるに違いないと悟っていたから。
「「ぎゃああああ!!!」」
「…ふん。阿呆二人で突っ込んでいくからだ、馬鹿。」
「さて、俺たちも行くとしますかね…。」
修羅が肩を竦めさせながら移動を開始する。
リアラもナナリーもその後に続き、そして残るはジューダスと海琉、そして私と双子たちだけである。
双子は私の足にしがみつくと、緊張した顔つきで階段を見ていた。
それに私が「大丈夫」と伝えれば、ジューダスが近くに寄って双子を見下ろした。
「はぁ…。こいつらの面倒は僕が見る。お前は自分の体調を気にしながら罠を掻い潜れ。…こいつらの所為で怪我したなんて…洒落にならないからな?」
『そうですよ!スノウ!ここは坊ちゃんに任せましょう!? さっきの所では、スノウを背負って罠を掻い潜ったわけですし!』
「……おれも、手伝う…。」
海琉が優しくそう言ってくれるので、私は二人を見て頷いた。
双子は嫌そうな顔をしたが、渋々と両手を上げ、抱っこを強請る子供の様にしていた。
飛龍はジューダスが、麗花は海琉が担当することになって、それぞれ階段を駆け上がっていく。
…はてさて、次の罠は何になるのやら…。
___輝きの塔、10階
まさか、7階も8階も罠ゾーンだとは思わず、全員の息が上がる中、双子は私達を見て可笑しそうに笑っていた。
てっきり、8階は強い敵が出てくると思っていただけに、拍子抜けというか……運がついていないというか…。
「ぜぇぜぇ…。なんだって、こんな…罠ばっか、なんだよ…!」
「あー…ちょっと休憩…。」
ロニとカイルがその場にへたり込んでしまい、リアラとナナリーも胸に手を置きながら息を必死に整えていた。
その中でも涼しそうな顔をしていたのは、ジューダスと修羅、そして海琉だった。
…え?私?
そりゃあ……、気持ち悪い中、頑張りましたとも…。
こみ上げてくる吐き気をどうにかしようと考えるくらいには、私には罠は簡単に掻い潜れたけれども……なんて言ったって気持ちが悪い…。
その為に、息が上がっているのだ。
「はぁ…はぁ…。(あー…、気持ち悪い…。)」
「大丈夫か?」
「何とか、吐くまではしなかったけどね…。」
「…。」
引き攣った顔をしたジューダスに「冗談だよ」と言ったが、どうやら私の言葉を信じてくれたらしい。
背中を撫でてくれて、それがとても優しいからそう感じたんだ。
すぐさまお礼を言って、彼と共に例の扉の前に立つ。
また日本語で書かれた扉を見て、謎解きを解かないと、ね?
「母なる大地、重なりて……轟く……?」
「こりゃまた、難解だな?」
近くに居た修羅が肩を竦めて、扉の暗号を読み解こうと一歩前に出る。
ジューダスもさっきの私の言葉を解読しようと、口元に手を当て考えているようだった。
「母なる大地……。」
『前回と一緒であれば精霊を召喚するとは思うんですが…。』
「この場合、地属性の精霊であるノームだろうな。」
『ひっ…!』
『……なんか、怖がってませんか?ノーム。』
「次は自分の番だ、と緊張してるんだろうね?」
僅かに聞こえた声に反応したシャルティエがコアクリスタルを不思議そうにピカピカさせる。
ジューダスもノームの声を聞いて頼りないと思ったのか、腕を組む姿は変わらないけど眉間に皺を寄せていた。
左手の人差し指にあるオレンジ色の宝石……トパーズが、自信なさげに光を灯し、揺らがせている。
修羅がそのまま扉の言葉を読み上げる。
「───トパーズの宝珠を台座に…って書かれているな?」
『ノームの指輪は確かトパーズでしたよね?じゃあ、後は召喚して彼を喚びだすだけですね?』
「詠唱の文言が問題なんだろうな。」
「うん、そうだね。何故、ここでノームを選んだのか、この扉に証明しないとね?」
とは、言ったものの……。
母なる大地やら轟くやら……、難解な言葉が続く事だ。
大地が重なるとは……岩石の事だろうか?
それとも山?
想像力を働かせて必死に答えに辿りつこうとする。
そんな私を横目に、三人も考えてくれているようで扉前には4人で唸る姿があった。
後の皆は9階の謎を解きに行ったくらいだ。
4階といい、9階と言い……何にもないから、逆に何かあるんじゃないかって皆が謎を解きに行ったのだ。
こちらは私が居るから大丈夫だと、信じてくれていたのが申し訳ないくらいだよ。
「……うん、良し。」
『え?分かったんですか?』
「何となく、これかなって思うものがあってね。」
『ご、ご主人様…!す、少しでいいので、お話をさせて貰えませんか…!』
「勿論だよ、ノーム。グリムシルフィの時もだったけど、ノームにもちゃんと話をしておかないとね?」
きっとあの台座にまた指輪を乗せれば、外れなくなるし、見えなくなるだろうから。
その前に精霊とちゃんと話しておかないと。
『え、えっと……その……。ご主人様は…今まで出会った召喚士様の中でも、その…素敵な方でした…!』
「…! ふふ、ありがとう?ノーム。」
『あの…忘れないでくださいね…?ぼ、ぼくのこと…!』
「勿論、忘れないよ。絶対に…ね?」
『精霊は…、ぼくたちは……いつでも、召喚士様と共に…!』
「ありがとう。……絶対にまた、喚べるようにするから…!」
『…………はい。お待ちしております、ご主人様…。』
私は目を閉じてトパーズの指輪に触れる。
そして決意を瞳に宿して、台座へと向かっていく。
そこへトパーズの指輪を嵌め、それに触れながら私は詠唱を唱えた。
「___母なる大地よ、地響き轟かせ、我の前に立ちはだかる扉へ干渉せよ!ノーム!!!」
『大地の力、見せつけますっ…!』
塔全体が地震により揺らいでいく。
すると扉の紋章が琥珀色へと光り輝き、扉全体に紋章が行き渡ると扉が開いていく。
その頃には地震は収まり、例の台座ももう消え失せていた。
「……ありがとう、ノーム。」
今は見えなくなってしまったトパーズの指輪を思い浮かべながら私はそう呟く。
___またひとつ、指輪を喪うと共に……私の中の気持ち悪さがまた少しだけ消えていた。
。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。♪。+゚
___輝きの塔、15階
流石に手馴れた様子で罠も魔物の強襲もこなして階段を駆け上がった私達は再び大きな扉の前に立っていた。
私は皆に後ろで休憩する様に伝えて、一人扉の前に立っていた。
もうこればかりは自分でなんとかするしか無い、と分かっていたからだ。
……しっかし、まだまだ指輪があるのだから、結構な高さまでこの塔を登り詰めないといけないようだ。
外から見ても相当な高さだったから、まぁ、仕方ないのだが……皆に申し訳ないと感じてしまうね?
「……雷帝、うーん…?」
今回ばかりは、扉に書かれている字が薄い……。
辛うじて読めた“雷帝”という文字だけで、取り敢えずは雷属性のヴォルトが思い浮かぶ。
だが、それだけだ。
他にヒントとなる物がなく、想像以上に困難な謎解きに私はいつもよりも時間がかかっていた。
そんな時、後ろに居たカイル達から休憩の催促が来てしまい、思わず後ろを振り返れば、足元に居たらしい双子がギュッと私の足を掴んだ。
そして見上げたピンク色の瞳は、揺るがずじっと私の片目の瞳を見つめていた。
「ん? どうかしたかい?二人とも。」
「ううん、何でもないヨ。」
「そうそう。何でもナイ。」
「?? そうかい?何あったらいつでも言うんだよ?」
「「ハイ!」」
それから私はカイル達と暫しの休憩をしてから再び謎解きへと取り掛かる。
早くここから出ないと、皆に申し訳ないし、エルレインやバルバトスが何をしているか気掛かりだ。
私の体調不良の為とはいえ、急ぐに越したことはない。
「……うん。」
あまりにもヒントが無さすぎるが、私は右手の人差し指を見遣る。
そこにはタンザナイトの宝石が光り輝いていた。
恐らく、ヴォルトも次は自分だと分かったのだろう。
その紫の宝石は光り輝き、存在を誇示していたのだ。
「……ヴォルト。」
『───!』
「やっと、君の言葉が分かるようになってきたのにな?」
『────?』
「うん、また会える。だから、今だけは……ごめんね。」
『───! ──────!!』
彼から励ましてくれてるのが指輪を伝って分かる。
私は笑って目を閉じる。
そしてタンザナイトの宝石にそっと触れて、深呼吸をした。
「……行くよ、ヴォルト…!」
『──!!』
台座へとタンザナイトの指輪を嵌め込み、それに触れながら私は詠唱を開始した。
「___雷帝光りて、我の前に立ちはだかる物へと干渉せよ!ヴォルト!!!」
『─────────!!!!』
辺りに雷が帯電し、扉前には大量の稲妻が現れていた。
仲間達が耳を塞ぎながら様子を見守っていると、紫色の雷が扉を直撃し、その扉の紋章が今紫色に光り輝く。
そのまま紋章が扉全体へと行き渡ると扉が開かれていく。
それと同時に台座は見えなくなっていた。
「……ありがとう、ヴォルト。また会おう…?」
呟かれた言葉は懇願の声音。
一人、また一人と消えていく大事な仲間たちへの想いを馳せ、スノウは扉の先を見据える。
後残るは四人…。
ここまで来たなら、想像がついてしまう───精霊たち、全員との別れが。
___またひとつ、体の気持ち悪さが抜けていた。
‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥…
___輝きの塔、20階
流石にぶっ続けでここまで来たこともあり、仲間達の疲労が見え隠れする。
20階という高さを登って来たのだから、致し方ないのだが…。
「スノウ、休もうよー?」
「うん、皆は休んでて?」
私は扉の前に立ち、扉の言葉を読み解こうとじっと扉の文字を追おうとしたのだが───
「阿呆。」
後ろから右目を隠され、全く見えなくなる。
その上、そのまま後ろへと引っ張られる為思わず転びそうになり、しかし背後に居た人物によって支えられて転倒は免れた。
まぁ、その人物は恐らく彼だろう。
「レディ?」
「…お前が一番疲れてるだろうが。ここまで休み無しで戦闘やら扉を開けるために精霊たちを召喚したり……。……お前がマナ切れしないか、皆が心配してるんだぞ?」
「あぁ、なるほど。」
「それに……お前、身体がまだ治りきってないんだろう?なら、無理はするな。」
『そーですよ! 何でそんな無茶しちゃうんですか!! こっちは心配で心配で……寝れやしません!』
「ふふ…。眠れないのか…。それはいけないね?」
シャルティエの言葉に、思わず笑ってしまうと、目の上に被せられていた手が退いていく。
私が振り返れば、眉間に皺を寄せた彼と目が合って、彼は余計に眉間に皺を寄せさせていた。
どうやら休憩するまでは見張られるようである。
「……分かったよ。ちょっと休憩する。」
「ふん、端からそうしていればいいんだ。」
「ふふ、ありがとう。心配してくれて。」
「…………当然だ。」
ボソッと呟かれた言葉は、私の耳に届いていて…。
それにくすりと笑い、私は彼の隣で暫し休憩することにした。
仲間達はそれを見て、安堵した顔をして二人を見ていたのを、私達は知らない。
どれくらい休憩したのだろう。
それほど彼と話していた気がしたんだ。
いつも会っているというのに、話は意外にも尽きない様子で、私達は時々笑いながら絶えず会話をしていた。
「───さて、君との話が終わる事を少し残念に思うよ。でも……そろそろ先に進まないとね?」
『もう大丈夫なんですか?』
「うーん…。まぁ、ここで燻っていても体調が治るわけじゃないしね?でも、私の中のマナは大分溜まってきた…。だから大丈夫だと思うよ?」
「倒れるなんて間抜けな事にならない事を祈るが?」
「ふふ。正直、あの時君が休憩を強制しなかったらと思うと、ちょっと危なかったかなぁ?」
『ほら!やっぱり!』
ジューダスも同じ気持ちなのか、顔を顰めて私を睨んでいた。
でもそれも、私を心配してくれてるんだと思えば嬉しい事この上ない話なんだ。
私はひとつ笑って見せ、扉へと向かった。
「…………旋渦…と、青き海か…。これはシアンディームだね…?」
「宝珠の名前は書かれていないのか?」
「薄くなってて読めないね。もう少しくっきりしていたら…何となく察せたと思うんだけど…。」
『まぁ、薄いなら仕方ないですよね…。』
左手の小指に着けられたサファイアの宝石が光り輝く。
彼女の事だからきっと、自分の番だ、と待ち侘びていたのだろうな。
そっとそれに触れれば、少しだけ笑われた気がした。
「……うん。ここで立ち止まってもいられないよね…?シアンディーム。」
『えぇ、そうね。』
バッサリと言われたその言葉に私が苦笑を零せば、シアンディームは可笑しそうに笑う。
それでも叱責の言葉とか、そんな言葉は言ってくれなかった。
『召喚士スノウ。貴女は私の試練を経て、色々な事を学んだはずです。仲間という存在…、そして仲間に頼る大事さ。私から見て、貴女はまだまだその過程が苦手な様ですね。』
……いや、叱責のお言葉が降り掛かってきた。
それに私が笑って大きく頷く。
「貴女の試練は確かに難しかったけど。それがあったから意識はする様になった。それでも君から見たらまだまだなのかな?」
『えぇ、まだまだ青いですね。』
「ふふ。これは耳が痛い。」
目を閉じて宝石に触れれば、更に輝きが増した気がして、私はそっと目を開ける。
青く輝く宝石を見て、私は困った顔をした。
『くれぐれも私の試練の事を忘れないように。』
「うん。分かってるよ、シアンディーム。」
『……それからもう一つ。』
「うん?」
『私達、精霊という存在……。それがこの世界や、召喚士である貴女にとってどういった存在だと考えるのか、今聞かせてもらってもいいかしら?』
「そんなの、ひとつしかないよ。」
『では、それは?』
「私の大事な大事な……友人であり仲間だから。この世界にとって、確かに精霊の存在は無くてはならない存在だ。でも、それ以上に私には皆が無くてはならない存在なんだよ?」
『なるほど。貴女の答えは分かりました。……精霊を友人だと捉えますか。』
「そんな事言ったら皆に怒られるかもしれないけど。それでも、私は皆に沢山助けられてる…。人間に例えるなら、それくらい私にとって身近な存在になってる、と思って貰って構わないよ。」
『貴女の答え、聞き届けましたよ。さぁ、では扉を開く為に前進しましょうか。』
「ふふ。もう少し別れを惜しんで欲しいけどなぁ?」
『もう……充分過ぎるくらい、答えを頂きましたから。ただ、ひと時でも私を忘れたら承知しませんからそのつもりで。』
「おぉ、怖い怖い……。」
そう言って二人で暫く笑い合った。
その後、暫く沈黙が二人の間に降りかかり、お互いに思いを馳せる。
そして暫くの時、私は決意を抱いて前を見据える。
指輪を台座へと嵌め込み、それに触れながら詠唱を開始した。
「___清廉なる紺青の海よ、我の前に立ちはだかる物へと干渉せよ!シアンディーム!!!」
『恐ろしくも際立つ水の力、受けなさい。』
シアンディームが水の勢いを増して扉へと干渉を始める。
降り掛かってくる水から私を守るように、ジューダスが私を抱き締める。
背中に手を回し、彼と離れない様に服を掴んでしまうと彼は分かっていたかのように、更に抱き締める力を強めた。
しかし、流れる水の力が強い…!
一瞬にしてこの階を水で満たしてしまうほど、シアンディームの干渉は激しかった。
それでも……彼が近くに居てくれたから……。
「(あぁ、冷たくない…。こんなにも……あたたかい…。)」
シアンディームの力が及んでいる事もあるだろうけど、それでも、この温かさは…彼が持つ温かさだ。
暫しの後、漸く水から解放された私達はお互いに抱き締めながら荒く呼吸をしていた。
途端に力が抜けて膝から崩れ落ちそうになると、彼は直ぐに私の腰に手を回して支えてくれた。
「はあ、はぁ…大丈夫、か…スノウ…。」
「はぁはぁ、はぁ…っ、大丈、夫、だよ…? 君こそ、大、丈夫…?」
「はぁ、問題ない……はぁっ、」
お互いに息を切らしながら顔を見合わせる。
……まぁ、シアンディームの事だから派手にやるとは思っていたが、まさかここまで派手にやってくれるとは思っていなかったなぁ…?
そう心の中で思っていれば、顔は自然と笑みを零していた。
ジューダスもまた、私の表情を見ては安心した様に顔を緩めていたので、それに私も笑顔を見せ、応えた。
「彼奴らは……流された奴もいるようだな…。」
「仕方ないよ。シアンディームの激流を耐えられるなんて、中々居ないと思うしね?」
「ふん。僕は耐えたぞ。」
「だから君は凄いんだって。」
お互いに体を離して扉の先を見据える。
やはりその先には長い階段が見えていたけれど、私達はもう当たり前の様に先へと進んだ。
どうせまた、魔物が襲来してくるだろうと勝手に予想をつけて───
「…………ありがとう、シアンディーム。君の水、怖くなかったよ…。」