第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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それぞれ休憩も終わろうとしている頃、未だに起きないスノウをどうするか話し合いが始まっていた。
具合が悪そうな人を起こすのも可哀想な話であるが、戦闘が始まれば危険な事に変わりは無い。
ここで待たせておくならば、このまま寝かせておこうといった話になるが……中々決まりそうにない。
「…僕はこいつをここに置いておくのは反対だ。いつ何があるか分からんからな。」
「俺もジューダスの意見に賛成だな。仮に何か罠があったりしたら大変だろ?」
修羅が珍しくジューダスの意見に賛成しているのもあり、仲間たちはスノウを起こすことにした。
肩を揺さぶり、スノウを起こそうと試みるが…。
「……まったく起きねぇじゃねーか!」
「余程疲れてるんだね…。」
「もう少し休憩した方がいいのかしら?」
「これ以上休憩しても進まないといけないのは変わらないしな。なら、もう起こして行ってしまった方が賢明だと、俺は思う。」
修羅が変わらず揺するが、全く起きそうにない。
状態異常回復技もスノウが持っていることから、起こさないと先に進めないのもあるのだが…。
「スノウー!」
「スノウ、起きて?」
「これって、オレより寝坊助なんじゃない?」
「「「いや、それはないな。」」」
「えー?」
そんな話をしていると、スノウの瞼が震える。
そしてゆっくりと開かれた片目を見て、全員が安心する。
「……あー、ごめん…。寝てた…や。」
「具合が悪いんだもの、仕方ないわ?」
「そうそう。気持ち悪い時に寝れる時は寝た方が楽だろ?」
「ありがとう…2人とも…。」
そのままジューダスがスノウを背負い、三階へ向かう階段を見上げる。
遂に、グラシャラボラスとの戦闘だ。
気を引き締めなければ、こちらが殺られてしまうだろう。
各自手を前に出し、健闘を祈るように声を上げたあと、勇んで階段を駆け上っていく。
そこにはグラシャラボラスが待ち構えていて、こちらを視認した瞬間、落としていた腰をあげ、咆哮を上げた。
「お前はここにいろ。」
壁側に下ろしたスノウを振り返り、不安そうな顔を浮かべたジューダスだったが、すぐにハロルドから返ってきたシャルティエを手にし、グラシャラボラスへと向かっていった。
「___ヴァイト・ルインフォース!」
スノウが壁に寄りかかり、遠くから攻撃力上昇の支援術を掛ける。
それから防御力上昇を掛けてあげれば、全員からお礼の言葉が聞こえてくる。
「……?」
何か、階段下に見えた気がしたが……気の所為の様だ。
自分の探知上にも何も引っ掛からないのだから。
『「エアプレッシャー!」』
二人の晶術が炸裂し、グラシャラボラスは身体を捻じ曲げさせ、攻撃から逃げようと試みる。
しかしリアラのグランヴァニッシュや、ハロルドのエクセキューションがグラシャラボラスを逃がさなかった。
攻撃力上昇もあったからか、順調に見えたが…。
「「きゃあっ!」」
「「「っ!?」」」
スノウが皆に教えていた例の技が後衛組を襲う。
どうやら敵の体力は残り半分を切ったようだ。
怒涛の如く、スナイパーストームが炸裂しナナリーやハロルド、リアラが膝を着いてしまう。
そこへすかさずスノウの回復技が、後衛組を癒していく。
「___揺蕩う波の抱擁…、ディスペルキュア…!」
「「「ありがとう!/サンキュ〜!」」」
しかし、それを良しとしないのが敵である。
標的を一気にスノウへと変え、前衛組を無理矢理押し倒してスノウの元まで走ってきたでは無いか。
「っ、スノウ!逃げろ!!?」
顔を青くさせたジューダスがそう叫び、慌ててスノウの元へと駆け寄ろうとする。
スノウは相棒を手に、なんとか敵の攻撃を一回は回避し、魔法弾をグラシャラボラスへと撃ち込む。
しかしそのグラシャラボラスは、スノウの魔法弾を物ともせず、スノウへと爪を閃かせその身を切り裂いた。
避けきれなかった左腕をやられ、痛みに顔を歪めたスノウの元へようやくジューダスが到着し、スノウを庇う。
次いで閃かせた爪はシャルティエによって大きく薙ぎ払われ、グラシャラボラスはその勢いに僅かに後退した。
そこへ前衛組が戻ってきて敵を攻撃し始めたのを見て、ジューダスが慌てて振り返れば、そこには地面に倒れているスノウが居た。
腕からは出血させ、顔色悪く気絶しているように見える。
「っ、スノウ…!!」
『ぼ、坊ちゃん!急いで回復を!!』
『「___ヒール!!」』
「……。」
目を開ける事もしないスノウを見て、冷や汗が止まらない。
ジューダスは慌ててスノウを抱き上げ、被害の少なそうな端へと連れていく。
そこへリアラがジューダスたちの元へと到着し、スノウの腕の傷へと回復を掛けていた。
「…もしかして、麻痺もあるのかもしれないわ…!」
「…! パナシーアボトルを使う!」
道具箱からパナシーアボトルを引っ張り出し、それをスノウへと振りかければ、僅かに目を開けるスノウ。
それに二人が心の底からホッとすれば、向こうから叱咤の声が…。
「スノウが目を覚まさなかったらタダじゃおかないからな!」
「……こっちのことは良いから、戦闘に集中しろ!阿呆!」
修羅へと怒鳴ったジューダスは「全く…」とその場で嘆息する。
それに下からから笑いの様な笑い声が聞こえてきた。
ジューダスが下を見れば、そこには顔色は戻っていないが、ジューダスを薄ら開けた目で見て笑っているスノウ。
「ごめ、ん…。油断、して、た…」
「分かったから、喋るな。あと、もうお前は何もするな。そこでじっとしていろ。」
『くれぐれも敵に見つからないように、ですよ!! 分かりました?!』
「はは、は……善処、するよ…」
『善処じゃなくて、絶対にやめてくださいよ?!こっちは命が幾つあっても足りませんよ!!』
こちらもこちらで、『全く…』と零しているのを見て、再びスノウが笑う。
三人はそれを見て、安堵した。
命に関わる程の怪我ではなさそうで。
「私たちがここに居たらスノウまで敵の攻撃を受けてしまうわ?散らばりましょう、ジューダス。」
「あぁ。」
リアラが珍しく前衛の方へと駆け出したのを見て、ジューダスも敵の方へと駆け出そうとする。
しかし、ズボンの裾を引っ張られ背後を振り返る。
そこには何故か、不安そうな顔をしたスノウがいた。
「……気を、付けて…。」
「……あぁ。」
出来るだけ優しい声音で、そして優しい手つきで彼女の頭を撫でる。
そしてようやく戦線へと戻ったジューダスは、前衛ではなく後衛として晶術を炸裂させる。
『スノウの仇を討ちますよー!!』
「ふん、縁起でもないことを言うな、シャル。」
『「__グランドダッシャー!」』
大地を震わせ、激しく岩石を隆起させる上級晶術。
地属性の紋章が地面に広範囲に伸びていくと、そこから岩石が敵に向かって突出していく。
咆哮と共に完全に怯んだ敵を見て、全員が一斉に攻撃を仕掛けていく。
「戦吼爆ッ破!!」
「行きますっ!シリングフォール!!」
「ムフフッ!これなら行けるっしょ!ディバインセイバー!」
激しい戦闘の音を聴きながらスノウが僅かに笑う。
あぁ、これなら勝てるだろうって。
そのままスノウは眠る様に意識を手放した。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○。・.: * .。○・*.
戦闘が終わり、仲間達がお互いに労いを掛け合う中、ジューダスとリアラ、そしてナナリーと修羅はスノウの近くへと駆け寄っていた。
左腕の傷が生々しく、ナナリーはカバンから包帯を取り出すとその傷の上へと巻き、止血の意味も込めて強めに最後に縛りあげる。
いつだったかみたいに左腕に傷を受けてしまったスノウに、ナナリーが悲しそうにその腕に触れる。
「…ごめんよ、また怪我をさせちまって…。」
「……。」
「ナナリー…。大丈夫よ、スノウなら。」
リアラがナナリーを後ろから優しく抱き締める。
その横では修羅がスノウに回復技を使っていた。
「キュアコンディション。」
回復の光がスノウを包み込み、そして消える。
しかし、目を覚ます様子はなさそうだ。
「ここらでまた休憩になるだろうな。」
「なら、あいつらに言ってくる。あんたらは先に休憩してな。」
修羅が動きだし、カイル達へと現状を伝え休憩を促した。
それに頷いたカイル達はスノウの元へやってきて、様子を見ようと顔を覗かせる。
「スノウ、大丈夫?」
「あんなマトモに食らっちゃあなぁ…。」
「ま、気持ち悪い中、あれほど動けたら悪くは無いんだけどねー?」
「…相手が悪かったな。」
よりにもよって強敵だったのだ。
次の階の魔物は何だ、と全員が上の階を憂い、天を仰ぐ始末。
しかしそんな時、急に子供の泣き声がしたのだ。
こんな出来上がったばかりの塔の中で…だ。
「…こんな所に子供?」
リアラも不安そうに顔を歪める。
ナナリーはその子供の位置を測ろうと立ち上がり、周りを見渡した。
すると階下で、その子供の泣く声がしていたのだ。
急いでナナリーがその子供の元へ駆け付けると、まだまだ年端も行かぬような双子の子供が地面に座り込み泣いていた。
どう見ても瓜二つのその双子にナナリーが駆け寄り、優しく声を掛ける。
「大丈夫かい?こんな所でどうしたのさ?」
「うぅ、ひっく、まよった…ノ…」
「ここが、どこかっ、わからない…ンダ…!」
「ありゃりゃ…。」
完全なる迷子である。
困った顔をしたナナリーの元へ、カイルとロニも現れ子供達を見て不思議そうな顔をした。
「うわっ!双子だ!」
「っていうか、どうやったらこんな所に迷い込めるんだよ…?」
カイルは目を輝かせたが、すぐに子供の泣き声に顔を引き締めさせた。
オロオロしながらも子供の面倒を見ようと悪戦苦闘するのに対し、ロニは頭を掻いてその成り行きを見守っている。
「どうやら完全に迷子のようだね…。」
「つったってよー?戻るにゃあ、またあの罠を掻い潜らないと行けないだろ?ガキ連れて行けるかよ?」
「「うわぁーん!」」
「ほら、アンタがそんなこと言うから。」
「え、俺のせい…なのか…?」
流石に子供の声が上の階まで煩く聞こえたのだろう。
修羅やジューダスまでもが、顔を顰めさせ、階下を見下ろしていた。
「おい、一体何事だ!」
「おいおい…、こんな所に餓鬼かよ…。」
苦言を呈した二人に、3人が慌てて口元に手をやり、静かにするよう人差し指を口元に当てた。
それに黙り込んだ2人だが、すぐに階下を見下ろすのを止め、スノウの様子を見に戻って行った。
それを見たロニとナナリーは再び頭を悩ませ、目の前の子供を見つめる。
「連れてくしかないよなぁ?」
「そうだね…。危険だろうけど、戻って行くよりはまだ安心かもね?」
「あたし達、役に立つヨ…?」
「ぼく達、ジャマしないカラ……、お願いシマス…」
異国の様なカタコトな話し方で、連れてって欲しいと頼み込む双子。
それにカイルが大きく頷き、双子に笑顔を見せた。
「うん、行こうよ!」
「おいおい、カイル。マジで言ってんのかよ?」
「うん。ロニだってさっき連れてくって言ってたじゃん。オレはそれでいいと思うけどなぁ?それに、こんな所に子供置いていくなんてオレには出来ないよ!さっきみたいな魔物が出たら危ないよ!?」
「まぁ…。そうなんだが…なぁ?」
「アタシ達、まだまだ上を目指さないといけないけど…それでもいいんだね?」
「「ウン!」」
「この子達がいいなら良いんじゃないかい?…言っても聞かなさそうだし……。」
もうついて来る気なのか、ヨイショと立ち上がる双子を見て、ロニがヤレヤレと肩を竦める。
カイルも双子に手を伸ばしたが、それを無視して双子はサッサと階段を上がっていってしまった。
すぐにコロコロ変わる子供のご機嫌は孤児院や村では当たり前だったので、三人は苦笑いをして双子を追いかけていった。
「おい、こいつらマジかよ…。」
「はぁ…。」
先程苦言を口にしていた二人が、双子を見て嫌そうな顔をする。
気絶しているスノウの隣にちょこんと座っている双子は、カイル達から見てもイヤイヤと駄々を捏ねているように見えた。
「一緒に行くノ!」
「ぼくたち、ジャマしないヨ!」
「「はぁぁぁぁぁ…。」」
明らかに子供が苦手そうな二人が頭を抱えて、目の前の双子から視線を外した。
そんな二人をリアラが苦笑いで見ていて、双子の前にしゃがむと優しい笑顔で話しかけていた。
……流石、リアラ。流石女性…。
「ジャマしないのニ!」
「静かにしてるカラ!」
「うーん…、でも危ないのよ?」
「「大丈夫ヨ!」」
双子は必死に、そうリアラに話し掛けている。
なんなら、二人してうるうると涙を目に溜めてはアピールをしているではないか。
「あざといな。」とジューダスも修羅も、最早双子に良い想いを抱いていない様子。
明らかに二人の顔が“邪魔だ”、“危険だ”と物語っている。
それでも双子は諦めなかった。
その内、ロニもカイルも諦めた様に同行を許可したので、双子が手を挙げて喜ぶ。
そんな賑やかさがあったからか、双子の近くにいたスノウが目を覚ます。
「……ん、」
双子が首を傾げながらスノウを見ると、片目の海色に惹き込まれた様に双子が静かになる。
そしてその瞳を覗き込もうと双子はスノウの顔前に移動をしていた。
すぐ目の前に見知らぬ双子がいたからか、一気に頭が覚醒したらしいスノウがバッと体を起こし、驚いた顔をした。
「………………え?」
そんなスノウの驚いた様子に、仲間達が思わず笑みを零す。
休んで少しでも体力が回復した様子で、今のスノウはしっかり目も開いていて、目の前の双子を見ては何かを考え込んでいるようだった。
「お初にお目にかかりマス。ぼくは飛龍。」
「お初にお目にかかりマス。あたしは麗花。」
「「ドーゾ、お見知り置きを。」」
「あ、うん…。ご丁寧に…どうも…?」
困った顔でスノウが双子を見つめたが、周りに仲間達がいると分かり、そっちへと視線を向けさせた。
そして安堵の顔をして、ホッと息を吐き出す。
「えっと、この子達は…?」
「急についてくる、と言い出したんだ。」
「どうやらここに迷い込んだみたいなんだよ。連れていくか、連れていかないかで意見が二分しててね…。」
「……なるほどね?」
確かにここならまだ引き返せるだろう。
しかし、未知な部分が多いこの塔で帰る選択肢を選んだ場合…果たして、それがどうなるか…?
逆に、先へと進む選択肢を選んだとしても、さっきみたいにグラシャラボラスの様な強敵だったら皆でこの双子を庇い切れるかどうか…。
「……ここはね?とっても危険なんだよ?」
双子の頭を撫でながら二人に言い聞かせる様にスノウが笑いながら話す。
そんなスノウをじっと見ては、何も話さない双子だったが、意見を変える様子は無さそうでずっと首を横に振っていた。
「もしかしたら君達を庇いきれないかもしれないし……それこそ、怪我をするかもしれない。それでも私たちと行くのかい?」
「「行くヨ!」」
「……そっか。」
「連れていくつもりか?」
『でもここに置いて行くのも危ない気が……』
「……そうだね。この子達の意志も固そうだし…。私が責任を持つよ。この子達がケガしないよう見張るから。」
「……そこまでしなくとも…。」
ジューダスとしては、そんな何処ぞの子供の為にスノウ自身の身を削って欲しくなかった。
それにこっちを見る双子のピンク色の眼が、どうにもジューダスには気に食わなかった。
ともすれば、〈赤眼の蜘蛛〉の奴らと同じような赤色に近いピンクが……ジューダスの中で嫌な予感を想起させていた。
「(……あいつら、〈赤眼の蜘蛛〉の様な瞳の色だな…。スノウに近付いて欲しくないものだが……。)」
しかし、双子は了承してくれたスノウに懐いたのか、スノウの足にしがみつく始末である。
それを見たジューダスが僅かに口を尖らせる。
そんなジューダスに気付いたのは、彼の相棒であるシャルティエだけだった。
『(坊ちゃん…拗ねてるなぁ…? スノウに懐いてるのが、余程気に食わないのか…、それとも何か気になる事でも有るのかも…?)』
一行はそのまま双子を連れて歩く事になり、不安が残る中、次の階へと足を踏み入れる事になる。
双子に至ってはスノウの足にしがみつき、離れようとしない。
肝心のスノウも、何故か何とか歩けるまでに回復していたようで、本人もそれについては不思議がっていた。
「……。(あの気持ち悪さが、まだマシになってる…。何故急に…?)」
「歩けるくらいまで回復したんだな。」
「もしかして、修羅が回復かけてくれた?」
「あぁ、そうだな。あんたは気絶していたから知らないだろうが、俺も一応回復を使ったぞ?」
「あぁ、だからかもね。君の回復技って私の体とは相性が良いから。」
「そういえば、そんなこと言ってたな。こんなんで良ければ幾らでも掛けてやるよ。___キュアコンディション。」
突然唱えられた回復の光がスノウを包む。
また僅かに軽くなった体に、スノウがお礼を言えば修羅も嬉しそうに笑った。
「また気持ち悪くなったら言えよ?」
「その時はお願いするよ。」
「……。」
それを見て、再び面白くなさそうにジューダスが眉間に皺を寄せる。
そんなご主人様に、シャルティエも内心、溜息を大きく吐いていた。
『(もう…。スノウったら…、坊ちゃんの気も知らないで…。)』
じっとスノウだけを見つめるジューダスを見て、シャルティエは再び嘆息した。
この想いが伝わるのは、果たしていつになる事やら。
そして四階へと辿り着いた仲間達は罠が無いか、と緊張を孕ませる。
周辺を見渡しては機械や、何かスイッチの類いは無いかと疑いにかかり、細かく注視していく。
「……おいおい、何にも無いぜ?」
ロニが呆れた様に、そう口にすれば他の皆も同じような返事が返ってくる。
スノウもまた、双子と一緒に探し回っていたが、それらしきものは見つからなかった。
「そっちは何かあったかい?レディ?」
「……いや!何も無い!」
遠くに居たジューダスへと声を掛けると、大きな声での返答が返ってきてくれる。
それにスノウも不思議な顔をして、仲間達の方へと振り返る。
少し手前には階下への階段……。
そして、長い廊下の先には階上へと上がれる階段が伸びている。
ここまでの階層で魔物やら罠が沢山仕掛けられていたのに、四階だけ何も無いのも可笑しな話だ。
もう少し詳しく見てみるか、と壁へ近寄れば、スノウの隣にジューダスが近付く。
「……何にも無いのが不気味だね?」
「……まぁな。だが、これが何かの暗示じゃなければ良いがな。」
「何かの暗示?」
「例えるなら、次の階は更に凶暴になった魔物が居た、とかな?」
「……洒落になんないね?」
「例え話だ。……だが、嵐の前の静けさ…とも言うだろう?」
「うぅ…怖っ!」
ブルっと身震いさせたスノウは、すぐに腕を擦る。
そんなスノウにジューダスが顔を歪めて、そっと怪我をした左腕に触れた。
「……今度は護る。」
「無理ない程度に、ね?無茶したら、いくら私でも怒るからね?」
「少しくらいは許してくれるだろう?」
「駄目だよ、ジューダス。」
「「…!」」
その瞬間、双子がジューダスを無表情に見上げる。
二つのピンクの瞳が怪しく光った気がした。
「…? (急に何だ…?何故僕を見ている…?)」
「「………。」」
じっと見つめて止まないそれに、ジューダスがタジタジとなる中、スノウはコンコンと壁を叩きながら移動を始めていた。
それは少し不貞腐れている横顔にも見えて、ジューダスが双子から目を離し、スノウの横についた。
どうやらスノウは双子の微妙な違和感に気付かなかった様だ。
「……。」
コンコン、コンコン、
「スノウ。」
コンコン、コンコン、
「(……もしかして、怒ってるのか…?)」
チラリと見たスノウはまだむくれた顔をしている気がして、ジューダスがどう声を掛けようか、また迷ってしまう。
いつもなら苦笑いをして済ませる彼女も、先程の話題については、彼女の超えてはいけない琴線に触れたらしい。
「……これだけは譲らないからな?」
そう言ったジューダスに、スノウは更にむくれた顔をして彼の方を見た。
珍しいその表情に、ジューダスはその場で目を丸くさせ、そしてフッと笑う。
スノウの頬に指を添わせては優しい微笑みを浮かべ、ジューダスはスノウを愛おしそうに見つめる。
そんな表情をされたら流石のスノウも怒るに怒れなかったのだ。
「僕はお前との約束を守る。…絶対に。」
「…ジューダス…。」
そんな他の人からみれば良い雰囲気の中、急に双子がスノウに抱き着いてはジューダスを見上げ、その彼を睨みつけていた。
しかしそれは、確実に人を射殺せそうな視線である。
…明らかに子供がするような……いや、子供が出来るような表情ではないのに、それをジューダスに向けて放ったのだ。
ジューダスも顔を顰めさせて双子を見下ろし、咄嗟にシャルティエの持つ手を強めた。
「二人とも?そんな怖い顔をしてると、怖いお化けが来るかもよ?」
「「…。」」
スノウに言われてシュンと静かになった双子だったが、スノウが再び壁を叩き始めたころにはジューダスへと侮蔑の視線を向けていた。
流石に看過出来るような視線ではない。
ジューダスは前から感じていた嫌な予感を自分の中で確定させることにして、スノウから双子を離そうとする。
しかしそれよりも前に、スノウが疑問の声を上げた。
「…ん?」
スノウが再び同じ壁を叩くと、そこだけ中身が詰まってるような音ではなく、壁の向こうに空洞があるような響いた音がした。
それにスノウはすぐ壁を注視して、壁に耳を当てる。
「……ここ…?」
「どうした?」
「ここだけ、向こう側に何かあるようなんだ。…まぁ、階段もあるし気にせずに上がればいいだけの話なんだけど…ちょっと気になってね?」
「だが…向こうに行けるような場所は無いぞ?」
「そこなんだよね…?」
派手に壊そうものなら、塔が壊れてしまうかもしれず、中々シャレにならない。
スノウとジューダスは頭を捻らせ、腕を組み一緒に悩み始めていた。
そんな中、カイル達は上階に上がって確認したようでスノウ達の前まで戻ってきていた。
「なんか、上にあったよ?台座みたいな…?」
「台座?」
「良く分からんが…この壁の向こうに関する何かだといいがな。」
二人は結局この壁の向こうを一旦置いておくことにして、カイル達の言っていた台座とやらを見に階上へと上がった。
そこには大きな扉がスノウ達の行く手を阻むようにして閉まっていた。
それぞれ、じっと観察していくが扉には良く分からない言語で書かれている為、解読も出来ないのだ。
「(ん…?この文字…。)___疾風来りて……?」
「「「「「え?/は?」」」」」
『え、スノウ…。これ読めるんですか…?』
「うん。だって、ここに書かれているのは…私の……いや、〈星詠み人〉にとっては馴染み深い文字だからね?」
修羅もそれを見て頷いているのを見れば、どうやらここはスノウと修羅に任せるしかないようだ。
それでも何もしないのも…と言ってくれる仲間もいたために、結局、解読班と休憩組に分かれ、それぞれの時間を過ごすことになった。
「___疾風来りて、顕現す…。」
「こりゃまた、難解なパズルだな?」
「言葉自体が問題になっているようだね?」
「風属性の何か、何だろうがな…。」
「____エメラルドの宝珠……、う~ん?」
「___エメラルドの宝珠、鎮座すれば扉開かれん。…途中の言葉も気になるな?___扉……敵…?いや、魔物か?」
「馴染み深い文字なのに解読が難しいのか?」
「文字が擦り切れてる部分があってね…?その解読が難しいんだ。それに文字は読めるけど、文章自体は古めかしい言葉を選んで使ってるから私達には馴染み無い言葉でもあるしね。」
「エメラルドの宝珠なんて…今までにあったか?」
「いや、無かったはずだ。魔物が落としたとしても、宝珠ならすぐに見つかるだろうしな。」
「一度見に戻ってみるのも手だね?」
「やめた方がいいと思うぞ?また魔物が復活していたら洒落にならないしな。」
「それもそうだ。」
『じゃあ、この階層を見てみませんか?何かあるかもしれませんよ?』
シャルティエの意見に賛成し、休憩組も一緒になってエメラルドの宝珠らしきものを探し出す。
しかし、そのような物はこの階には見当たらなかった。
その上、見に戻って行った組から報告を受けたが……どうやら魔物や罠が復活しているようで、中々帰る訳にもいかなさそうである。
そうなると双子の子供たちを一緒に連れてきたのは正解であった。
「……エメラルドの…宝珠…?」
咄嗟にスノウが見たのは、自身の右手の小指に着けられた契約の指輪だった。
そこには小さいながらもエメラルドの宝石が埋め込まれている。
翠色の宝石をよくよく見れば、僅かに光ったような気がした。
「"疾風来りて、顕現す"…? 風属性のグリムシルフィ…。それに契約の指輪がエメラルド…。何か、関係あるのかな…?」
「スノウ。」
「ん?」
「何か分かったか?」
「う~ん、分かったって程じゃないんだけど…。ほら、グリムシルフィの契約の指輪ってさ、エメラルドを使ってるんだよ。それに風属性だし…何か関係あるかなって思ってね?」
「…確かに。見方を変えれば、それはエメラルドの宝珠になる…。仮にそうだとして台座に契約の指輪を置いてしまったら、取り返しがつかない事にならないか?」
「そこなんだよねぇ…?」
指輪が外されてしまえば、グリムシルフィを召喚できなくなってしまう。
それに台座に置いてしまって取り返しがつかない事になれば、ここにグリムシルフィを置いていってしまう事態にもなりかねない。
それだけは召喚士としても……、グリムシルフィを知る者としても避けておきたい。
『深ーく考え過ぎだと思うんだよねー?』
『グリムシルフィ?喋り過ぎですよ?』
『うげ、説教来たよ…。』
指輪から、グリムシルフィとルナの声がする。
どうやら何かを話しているようで、しかしルナに止められているようだ。
グリムシルフィに話しかけると、何でもないような口調で応えてくれる。
「もしあの台座に指輪を嵌めたら、どうなると思う?グリムシルフィ。」
『そりゃ、抜けなくなるでしょ。あんなにも強固な台座なんだよ?抜ける訳がないじゃん。』
グリムシルフィの言う通り、台座は固い石で出来ていて、台座に契約の指輪を置いてしまえばなんとなく外れなさそうな気がする。
それも相まって、スノウは躊躇しているのだ。
『だからさー?深く考え過ぎなんだって、スノウはさー?』
「??」
『はめて見ればいいじゃん?それでだめだったらその時だよ。』
「……珍しいね?グリムシルフィなら、絶対に嫌がると思ってたけど?」
『まぁねー。でも、今回ばかりはそうも言ってられないしねー。……だって、スノウ。体、しんどいんじゃないの?』
その声音が怖いくらい痛いところを突いてくるグリムシルフィに、黙ってそれを聞き流し、視線を横へと流す。
幾ら、相性の良い修羅に回復をかけてもらっても治らない気持ち悪さは、何時だったか〈赤のマナ〉に侵蝕されたような気持ち悪さとはまた別の…何か。
彼らには回復したと言っていたが、実際のところ治ってないのだ。
歩けるほどまでには回復してはいるけれども。
グリムシルフィの言葉が聞こえたジューダスが、ハッとしてスノウの顔を見る。
その視線が噛みあうことは無く、ジューダスは顔を顰めさせてスノウの手を握った。
「…お前、まだ体が…。」
「…。」
『ただ、やるなら謎を解いてからボクの指輪をはめてよねー?まだまだ謎解きが完了していないんだからさ?』
「…分かった。」
ジューダスが不安そうにする中、スノウは再び扉に向き直り、その謎を解こうと、必死に頭をフル回転させた。
隣に居たジューダスもまた、そんなスノウに何も出来ない歯痒さを噛み締めながら謎を解こうと改めて扉に向き直る。
握られたその手は、そっと…そしてギュッと…、どちらともなく握られていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一度、切ります。
管理人・エア