第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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光の精霊ルナと契約した私は、彼女との契約の反動のお陰か、フラリとしてその場に膝を着いた。
……おかしいな。今まで一人の精霊ほどであれば、契約した所で倒れる事なんて無かったのに…。
『あちゃー…。スノウってば、属性酔いしてるよ。』
『まぁ、それに…光属性の精霊との契約ともなれば、マナの消費も今までと桁違いだろうしな。主人の今のマナは幾ら無尽蔵とはいえ、まだまだ発展途上の段階だ。余計に今回の契約で来たのだろうな。』
『……大丈夫…?』
「だ、いじょうぶ……」
『いや。それを“大丈夫”なんて普通言わないけどねー?』
『病み上がりな事も関係あるんじゃないかしら?』
グリムシルフィとシアンディームの言葉を聞いてから私はそのまま花畑の上で倒れてしまう。
それに子供達が悲鳴を上げては、泣き叫ぶ者や困惑の声を上げる者がいて、私は体を必死に起こそうとしたが腕に力が入らなかった。
それよりも瞼が徐々に重くなってしまい、遂には目を閉じてしまいそうになる。
……それだけは阻止しなければならない。
ルーティにこの子達の面倒を頼まれているのだから。
「……じゅ…だす……」
こんな時、彼が居てくれたら…。
…………いや、この場に彼が居たら絶対、大変になるに違いない。
彼はまだ、子供の相手が苦手だろうから。
私は瞼を必死に上げ、頼りないその手を子供達へと差し伸べれば、子供達は泣きながらその手を取ってくれる。
全員が近くに居ることを確認した私は、ぼんやりとした頭で詠唱を唱える。
───せめて、この子達だけでもルーティの居る孤児院に帰してあげないと。
「___テレポーテーション…。」
サッと消えた子供達に満足した私は、ふと笑って、そのまま眠る様に目を閉じていた。
♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚
スノウがスタンの墓を見て子供達と手を合わせた後、何処かへと向かうのを渋々僕は見送った。
僕の腕を……奴が捕まえていたからだ。
「アンタにも孤児院を手伝ってもらうわよ?」
「……。」
嫌そうな顔で目の前の奴……ルーティへと顔を向ければ、僕のその顔が不服だったのか、奴は腰に手を当てて子供達相手にするような説教モードに入りそうになっている。
流石にその手を振り払う事はしなかったものの、静かに奴を睨んだ。
しかしながら、僕のそれを了承とポジティブに捉えたらしい奴は、頭の中がお花畑な頭脳をお持ちらしい。
連れていかれた場所は孤児院のとある場所だった。
工具箱を持ってきては天井を指した奴は、僕にほくそ笑みながら話しかけてくる。
「んじゃ。この天井の雨漏りを直してちょうだいね?」
「……。」
……今すぐ逃げたい。とてつもなくこの場から逃げたい。
そんな気持ちを噛み殺し素直に従えば、奴は目を丸くさせた後、苦笑を滲ませ僕の作業を手伝っていた。
というより、こんな物…業者に頼んだ方が効率が良いし、出来も良かろうに。
「……ふん。これでいいだろう?」
「さっすが男性ねー!助かったわー!」
「全く…。業者を呼べばこんな不格好なものじゃない物が出来上がっていただろうに。」
「そんな金がこの孤児院にあると思うわけ?」
「……言葉にした僕が馬鹿だった。」
口下手な事をしか言わない僕に奴が怒るかと思いきや、それでも僕達はお互いに懐かしむかのように笑っていた。
いっそ喧嘩でも始まるかと思ったが、どうやら僕も奴も……知らず知らずの内に大人になったという訳か。
「……しっかし、あの子達遅いわねー?何してんのかしら。」
「スノウがついているなら大丈夫だろう。あいつは子供の相手に長けているしな…。」
『でも流石に遅すぎませんか?だって、坊ちゃん達が作業を始めて、優に数時間は経っているはずですよ?』
「「…。」」
思わずお互いに顔を見合わせ、怪訝な顔をする。
そんな時、急に床に大きな魔法陣が現れ、三人で息を呑んだ。
この、魔法陣はっ…!!
「る、ルーティ姉さん…!!!」
「うわーーーーん!!」
「え? え?」
スノウと居たはずの子供達がいきなりその魔法陣から現れては泣き出し、それを見て奴が言葉を失う中、目的の人物が見えない事に僕は焦りを感じていた。
僕はそのまま焦燥に駆られながら近くにいた子供の肩を掴み、スノウの事を聞き出す。
「お前らといた人間は何処にいる…?!」
「は、はなばたけ……」
「そこは何処だ?!」
「ちょっと、待ちなさいよ!子供が怖がってるじゃない!」
そんな僕の必死さを見て、奴が慌てて子供達に優しく問い質していた。
それにポツリ、ポツリと答えていく子供達。
「きゅ、急に…お兄さんがたおれて…!」
「くるしみだしたんだよ…!」
「…!」
『苦しみ出したって……、まさか…!マナが汚染された、とか…?!』
「その花畑はどこにあるの?私とこの人で行ってくるから、あなたたちはここでお留守番しててちょうだい。」
奴が子供達から場所を聞き出す中、僕はシャルを見て〈浄化の鈴〉がきちんとあることを確認する。
もし…何かしらの理由でスノウの中でマナの汚染があるならば、直ぐにでも鈴鳴を実行しなければならない。
僕は大きく息を吐き、シャルを持つ手を強めた。
『一体…何があったんでしょうか…?』
「…分からん。こいつらの拙い言葉だけじゃ、想像すらつかん。…早い所言ってやらないと…あいつが…。」
「よし、行くわよ!」
奴が子供達を慰め終えたのか、立ち上がり真剣な顔でこちらを見ていた。
…寧ろこいつはここに残っていた方がいいんじゃないか?
こいつらの面倒は誰が見る?
「急ぐわよ!」
「待て。貴様はここにいろ。」
「何言ってんのよ。誰が案内すると思ってる訳?」
「概ねの場所さえ分かれば僕一人で行く。……お前はこいつらの母親がわりだろうが。なら余計にこいつらを、一人残してやるな。」
「…! あんた…。」
「だから早い所、その場所を教えろ。……早くしないと、あいつが手遅れになるかもしれないんだ…!」
「なら余計に案内するわ。あそこは迷いやすいのよね。……それに、私だって…あの子に恩が無いわけじゃないのよ…。」
「……。 ……なら早くしろ。」
僕達はすぐさま孤児院を出て、町外れへと駆けていく。
途中、魔物なんぞ出てこないから余計に拍子抜けをする。
あの〈ホロウ〉でさえもここらで見当たらないのだ。
スノウが倒れた理由が〈ロストウイルス〉関連じゃなさそうな事に安堵しつつ、警戒を怠らず走り続ける。
それは奴も同じなようで、周りを警戒しながら道案内をしてくれていた。
「…! あそこよ!」
奴の言葉に一気に加速すれば、そこは一面花畑で拓けた場所であった。
その中央には、スノウが力なく横たわっていて二人して息を呑んで急いで駆け寄る。
「ちょっと!大丈夫?!」
奴がスノウに声を掛けている間に、僕とシャルは周辺を警戒する。
こんな拓けた場所で一体何があったんだ…?
「ちょ、ちょっと…」
「どうした?」
「この子…息はしてるけど……、体が異常に冷たいのよ…!!」
「っ?!」
『え、』
僕が慌てて駆け寄れば、スノウは顔を真っ青にして気絶していた。
急いで手に触れてみれば、スノウの手はやはり奴の言う通り冷たくなっていて、急いでその手を温めてやる。
「この子、何か持病でもあるわけ?!」
「…持病、というか。なんと言うか…な。」
『ルーティ、スノウの左眼は何色ですか?』
「はぁ?なんでそんなこと…」
奴が行動する前にスノウの眼帯をずらし、瞼を少しだけ上げるとそこにはちゃんと海色をした瞳が覗いていた。
それに安堵して息を大きく吐けば、奴は怪訝な顔でこちらを見る。
それを完全に無視して、僕達は色んな考察をする。
「…マナの汚染は見当たらない…。なら、何故こいつはこんな何も無い場所で倒れたんだ…?」
『怪我がなく、顔が真っ青で身体が冷たい…?うーん、何だろう…?』
「…一つ、考えられるとすればマナの使い過ぎ、だが……。」
『使う要素なんて、この場所には無い…ですよね?』
見渡す限り、花しかないこの場所。
果たして、スノウがマナを使い切ってしまう事態とは何だったんだ?
それに子供達を慌てて避難させた理由は?
疑問が解消されず、新たな疑問が生まれるばかり。
僕はその場で溜息を吐き、奴からスノウを受け取る事にした。
そのまま抱き締めてスノウの冷たくなった身体を温めてやれば、多少でも肌の温度に変化が生じる。
そんな僕を優しそうな眼差しで見遣る奴に、僅かに顔を歪めておく。
「……ちょっと安心したわ。」
「何がだ。」
「…あの時のアンタ、マジであのモネが居なくなった時ヤバかったんだからね?……それが今は、こんなに人として成長していたとはねぇー…?人って分かんないもんね?」
「…。」
僕はそれを聞いて無意識に顔を顰めた。
どうにもこいつが言うと、胡散臭さや面倒事に思えて顔を歪めてしまう傾向にある。
無論、申し訳なさも感じてはいるが…どうにもこいつには素直になれない。
いや、素直になりたくないというか、な。
「…アンタが、私の弟だって知った時は驚いたわ…。」
「…。」
「あのメイド?だっけ。マリアンって人から聞いたのよ。アンタの事。」
やはり知っていたか。
なんとなくこいつの視線がそうなんじゃないかと気付いてはいたが、本当に知っていたとはな。
僕が黙って目の前の奴を見れば、奴の視線は僕にではなく、僕の腕に抱かれているスノウへと向けられていた。
「…この子の事も…多少聞いたのよ。全てはアンタとマリアンって子を助けるためなんだって…そう知った。」
「…何故、僕を救ったと考える? それはただ単にマリアンが囚われていたからこいつが…」
「だって…そうじゃなかったら、あの海底洞窟であんなに必死そうにアンタの事頼んでこないわよ。」
「それも、そうか…。」
「それに、カイル達に話してたやつも聞いちゃったしね!」
未来を知っていると、そう言っていたモネ…ではなくスノウと名乗っていた人物。
ルーティにとって、そう話していたスノウ自体がモネそのものだったため困惑が大きかったが、偽名だとすぐに気付いた。
自分の弟もまた、偽名を使っていたから。
「…私達の知らないところで全て片付いてて…。なんか嫌だったのよ…。」
「…。」
「私だって、実の弟を救ってくれたこの子に恩がある。……だから、今度こそ、お礼をさせて欲しいの。」
「…勝手にすればいいじゃないか。そんなこと言わずとも。」
「はぁ。言いたかったのよ!アンタに!」
そう言って立ち上がったルーティはすっきりした顔で僕たちを見下ろした。
そして昔の名残を思わせる笑顔を見せてきた。
「さ、その子を医者に見せましょ!早く行かないと手遅れになるんでしょ?」
「…正直、こうなった理由が分からない以上手遅れかどうか分からないが…、それでも医師に診せた方が早い。…行くぞ。」
僕はスノウを抱き上げ、歩き出す。
もう振り返らない。
だって奴は、こいつを抱き上げた僕を見て嬉しそうに笑顔を零していたのを見てしまったから。
…だから、もう見る必要なんてない。後は、こいつの回復を祈るばかりだ。
゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*
病院に向かった僕の後に修羅の奴がやってきて、スノウがマナ切れを起こしているのを知らされる。
逆に「何をしたらここまでマナ切れを起こせるんだ。」と聞いてきたが、そんなこと知るか。僕だって知りたい。
結局エリクシール集めをその場にいた僕と修羅、海琉で行い、手に入れた大量のエリクシールをいつぞやみたいにふんだんにスノウへと振りかけてやる。
…だから、早く目を覚ませ。
「…。」
『起きませんね?』
「…あの時も目が覚めるのは遅かった。だから、もう少し待つ。」
「花畑だっけ?そこに行ったら何か分かるかもな?」
「…行ってみる?」
「そうだな。スノウの目が覚めるまで待つのもいいが、原因の特定は急いだ方が良さそうだしな…?これが〈赤眼の蜘蛛〉関連ならシャレになんないぞ。」
「そっちはお前たちに任せる。僕が行ったところで奴らの気配など感じないからな。」
「それもそうだな。んじゃ、行ってくるわ。」
修羅と海琉がその場から去ろうとしたその時、スノウの指輪が光り輝き二人の行動を止めさせた。
僕もその光に驚き、警戒をすると、その指輪から女性の声がした。
『…ようやくこれで声が届きますね。』
『だ、誰の声?!』
「…精霊か。」
「こんな声の精霊が居たのか?」
『私は光の精霊ルナ。召喚士スノウと契約を交わしました。』
「『「…!!」』」
光の精霊と契約を交わしていたのか…。
だから、こいつが契約の反動で倒れ───って、こいつのマナは増えているから契約時の反動は来ないはずじゃなかったのか?
そんな僕の疑問に答えるかのように、女性の声が再び聞こえ始める。
『光属性の強さは、あなた方も知っているはずです。幾ら多量のマナを持つ召喚士であっても、光属性の精霊契約の前に倒れない人は居ないでしょう。』
「…だからこいつが倒れたのか。」
「なるほどな…、なら安心した。〈赤眼の蜘蛛〉が関わってないならな。」
『マナ切れはそういう事だったんですね。じゃあ、残る精霊は闇属性ですかね?』
『後は私の対となるもう一人の光属性の精霊、それから闇属性のシャドウ……、そして元素の精霊マクスウェルです。』
「元素か…。全ての精霊の主とも聞いているが…実際の所はどうなんだ?」
『ええ、そうですね。元素の精霊マクスウェルは精霊統括の任を負っていますから、そういった解釈でも遜色ないでしょう。』
スノウの傍に寄り、右手の中指に着けられた指輪に三人と一振りが注目する。
そこには青のような白のような珍しい色合いの宝石が付けられた指輪があり、その宝石が光り輝いていて話しかけているようだった。
…おそらくこれが、ルナの契約時の指輪なのだろう。
『貴方がたに声を届けたのは、何も、わざわざ召喚士が私と契約した報告だけではありません。』
「…ま、そんな事だろうと思ったけどな。」
修羅が溜息を吐きながら頭を掻き、顔を歪めながら指輪を見る。
僕も一つ溜息を吐き、相手の言葉をじっと待つことにした。
…どうせ、碌でもない事だろうが…。
『召喚士は現在、マナ切れの症状だけが起こっている訳ではありません。』
「「…は?」」
『え、どういうことですか?マナ切れって、〈星詠み人〉の生命線であるマナが枯渇しそうだから気絶するんだって聞きましたけど…?』
『それも合ってるには合っています。しかし、沢山の属性を契約した召喚士だけがなる症状があり、召喚士スノウはそれに苛まれているのです。…恐らく、目を覚まし、起きた所で気分不良で立てないでしょう。』
「…マジかよ。」
「どうしたら治る?」
『召喚士スノウを連れて、"元素の森"へ行きなさい。』
『『『『げ、』』』』
瞬間、他の指輪から嫌そうな声が複数上がる。
それを聞いた僕達は、不思議そうな顔でそれを聞き届けた。
精霊が嫌がるような場所に、僕たちは連れて行かれそうになっているのか…。
そう思うと、一瞬で嫌な気持ちが湧き上がってくるが…。
「……。」
こいつの為に、そんな事も言ってられない。
強い力は時に身を滅ぼすこともある。……前世や今世で嫌というほど見てきたから分かるし、こいつも似たようなことを過去に言っていた。
だからこそこいつは今、苦しんでいる。
だったら、僕が出来るのはその症状を和らげることだ。
「………場所は?」
『さっすが、坊ちゃん!僕も同じ気持ちですよ!!スノウの為に人肌脱ぎましょう!』
『私が案内します。通常、人間が通れるような場所ではないところを通過しますから、覚悟を決めてから私に話しかけてください。』
「あいつらはどうする?呼んでくるか?」
「…ルナ。その森を抜けてこいつを治すまでにどれほど時間が掛かる?」
『貴方がたの知恵と勇気次第…と言っておきましょう。それ如何によっては、二度とここへは帰ってこられないでしょう。それでも、召喚士の為だけに自らの命を懸けて行きますか?それとも召喚士を見捨て、召喚士一人だけで行かせますか?それもまた、自分たちの身を護る賢い選択と言えますね。』
修羅はその言葉を聞き、顔を顰めさせると前へ出る。
そして決意を固めた顔をして、指輪を見つめた。
「俺は、誰がどう言おうがスノウを助けるために行く。二度と帰ってこれなくても、俺は苦しんでいるスノウを助けるだけだ。」
「……行く。」
「無論、僕も行く。こいつを治すためなら何も惜しまん。」
『問題は、カイル達ですね。どこに居るんでしょうか?』
「修羅。あいつらは何処にいる?」
「あー…待ってろよ…?」
頭に手を置き、探知を開始した修羅に合わせ、シャルティエも探知を開始した。
すると夕方ということもあるのか、仲間たちはこのクレスタに戻ってきているではないか。
「……う、」
「「…!」」
エリクシールによってマナが回復したおかげか、スノウが目を覚ます。
しかしその顔色はよろしくなさそうだ。
「……………気持ち悪い…。」
「やっぱ、気持ち悪いんだな。」
「大丈夫か、スノウ。」
「…ん?……あぁ、三人とも……元気かい…?」
「「いや、自分の心配をしろ。」」
修羅の奴と同じ言葉を交わしてしまい、二人して眉間に皺を寄せて嫌そうな顔を隠しもせずお互いを見た。
そんな僕達を海琉は不思議そうに見ていた。
「…う、きもち、わるい…。なんだ、これ……。」
『今、スノウは"属性酔い"してんのー。』
グリムシルフィが指輪から話しかけ、そう伝える。
……"属性酔い"?
それがさっき、ルナが言っていた症状の事か?
「え、なんだって…?属性、酔い…?」
『一人に対して、色んな属性を契約するとなる、云わば召喚士特有の病気だねー?普っ通~ならボク達との契約って、一生をかけて成し遂げる人が多いんだけどさー?スノウの場合は、短期間で契約しすぎな訳ー。』
『ご、ご主人様は確かにマナが多くて、契約するマナ自体も問題ないのですが……流石に短期間での契約に、ぼく達も驚いているんです…!』
『ま、いつかはなるとは思っていたけど、意外と遅かったわね?』
『……だから他の精霊と契約しなくても良かったのに…。』
様々な感想がある中、今度は病室の扉が激しく開かれ、そこには仲間達が全員集合していた。
…恐らく、ルーティから事の次第を聞かされたのだろう事が分かる。
その証拠に全員の顔は焦っているような顔だったからだ。
「だ、大丈夫?!スノウ!」
「ついこの間、退院したばかりで出戻りかよ…?」
「まぁまぁ、具合が悪いのは仕方がないじゃないか。」
「大丈夫なわけー?」
皆が心配してくれて、それにスノウが頑張って応えようとしているが、気分不良で挨拶もそこそこにぐったりとしてしまった。
それに他の仲間達が心配しないはずもなく、全員の視線はスノウに向けられていた。
「はぁ…はぁ…」
「本当に大丈夫なのかい…?」
「今こいつは、召喚士特有の病気に罹っているらしい。それを治すために僕たちは元素の森に行ってくる。…お前らはどうする?聞くまでもなさそうだが…。」
「「「「行く!!」」」」
「……だよな?」
「ふっ…。聞くだけ無駄だったな。…で、どうすればいい?」
僕はルナに向かって全員の答えを伝える。
そんな僕達を見定める様に、例の指輪の宝石は光をぼんやりと灯した。
そして、
『…よろしい。では、全員を元素の森へと招待しましょう。』
その瞬間、辺りに地響きが起こり、揺れが長時間続いた。
病室内の小物や点滴台などが転ぶくらいの揺れに、全員で必死に耐えているとスノウがこの揺れの所為でベッドから落ちそうになっているのを見つけ、僕は慌ててベッド上に居るスノウを支えた。
気分不良でそれどころではないらしいスノウだったが、お礼だけは聞こえてきてそれに頷くだけ頷いておいた。
暫くしてから揺れが収まり、全員が無事を確認すると誰ともなく安堵の溜息が聞こえてきた。
「な、なんだったんだよ…!さっきのは!」
『元素の森へ行くための塔を出現させました。先ほどの揺れは、その為の揺れだったのです。』
「え?森に行くのに、塔に行くの?」
『行けば分かります。…そこでは召喚士だけではなく、塔に挑む貴方がたにも試練が訪れるでしょう。それでも、召喚士を助けるというのですね?』
「「「…。」」」
カイル達はお互いに顔を見合わせている。
しかし僕も修羅もその様子を見て笑っていた。
あいつらの言葉が変わることなど、無いに等しいのだから。それこそ、スノウという仲間の為ならば何処へでも行こうとするだろう。
しかしそんな中、一人だけ否定的な反応を示す者が居た。……言わずもがな、だが。
「み、んな…いいよ…。私、一人で、行く…から…」
「お前なぁ…?今の自分の姿を鏡で見てみろよ?そんな状態でどうやって歩くっつーんだよ?」
ロニが呆れた声でそうスノウへと喋りかける。
その言葉に、流石のスノウも言葉を濁して沈黙していた。
そして全員がスノウへと笑いかけ、安心させるように声をかけ合っていた。
「大丈夫よ!スノウ!一緒に頑張りましょう?」
「前にも言っただろ?水臭いって。だからアタシ達も行くよ!」
「スノウが居ないと朝稽古サボっちまうしな!」
「元素の森なんて…ぐふふ…!俄然、興味湧いて来たわ!!」
「…お前が心配するほど、あいつらは柔に出来てない。……今までもそうだっただろう?」
「…うん…。ありがと、みんな…。」
「よし、行こう!皆!その……えっと……元気の森へ!!」
「「「何処だよ。」」」
そんなカイルに皆が笑って、冗談を言い合う。
それを指輪の中に居たルナは優しい笑顔で静かに見届けていた。
厳格な言葉を選ぶルナだが、仲間達の信頼には彼女自身も自信を持っていたのだ。
…ただ、ちょっと試してみたかったのだ。
仲間のために命を懸けれるような逸材たちなのかを。
『輝きの塔はアイグレッテよりも北に位置するストレイライズの森より遥か先…。そこに天まで届く塔があるはずです。そこへ向かいなさい。』
「「「「はい!/おう!/あぁ!」」」」
「…。」
「…そんな不安そうな顔をするな。あいつらに任せておけば大丈夫だ。…お前が、昔そう言ったんだぞ?」
「…うん、…そうだね…。」
不安そうなスノウの頭を撫でてやり、そこから自分の背中へとスノウを背負ってやると背後からお礼を言われる。
…その声は多少不安が解消された声がしていた為、僕はその場で鼻で笑ってやった。
心配するだけ無駄だ、と───そういう意味を込めて。
すると、キュッと前に組まれた腕が少しだけ強まった気がした。