第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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(スノウ視点)
急に耳に届いた轟音と激しい衝撃を受け、私は目を覚ました。
一体何が起こってる……?!
急いで私は身体を起こそうとしたが、全身が痛む。
そして自分の周りを煙が囲っていることで、火事現場にでもいるのかと焦燥に駆られてしまう。
「ごほっ、ごほっ…!」
煙臭いし、体は痛いし、狭い所に閉じ込められているようだ。
何が何だか分からないが、早くここから出なければ。
私は何とか立ち上がると、刹那、上の方を誰かが歩いている音がして、私は天井に向けて手を伸ばしコンコンと金属らしき天井を叩いた。
「───!?」
誰かの声は聞こえるが誰の声かは全然分からない。
しかしながら、声からしてそれが人である事が酷く安心した。
「ごほっ!ごほっ…、ヤバい…って…。」
煙がかなり充満してきた。
このままじゃあ一酸化炭素中毒になってしまいそうだ。
その瞬間、上から光が差し、必死に手を伸ばせば誰かが私の手を引っ張りあげてくれた。
否、それはジューダスと修羅だった。
「ごほ、ごほっ!……ちょ、ちょっと……ごほ、斬新、ごほごほ……すぎないかな……?この起こし方…………ごほ。」
思わず溢れた苦言が聞こえなかったのか、カイルやリアラ達が私の生還を喜ぶように抱きついてきた。
しかし仲間たちのその行動は今の私にはかなり体に来るものがあり、思わず呻き声を上げた。
皆の愛が……今は、痛い…!
ギューッと抱き締められ、私は遂に意識を飛ばしかけて必死に堪えたがどうやら限界が来たようだ。
「ごほ、ごほ……もう、だめ…………」
噎せながら私はその場で失神した。
その後の事は全く記憶に無いが、次に目を覚ましたのは真っ白な天井のある場所だった。
……いや、恐らくここは病院なのかもしれない。
こんなにも真っ白な天井は大体病院だって、今までの経験で分かってるじゃないか。
薄ら開けた目に飛び込んできたのは心配そうな顔をしたジューダスと修羅だった。
しかし声はハロルドの声がして、私は目を丸くさせた。
「ちょっとー?大丈夫ー?」
「……ハロ、ルド?」
「うんうん。記憶はバッチリあるようね!安心したわー。」
修羅の後ろからヒョイっと顔を覗かせたハロルドは、私に向かって「よっ!」と軽く手を挙げるものだから、私は苦笑いをしながら手を軽く挙げた。
それに傍らにいた二人も安堵の顔をしていて、心配させてたんだなぁとしみじみ感じる。
「……皆に会えて、良かったよ。ありがとう、モネを……昔の私を助けてくれて。」
こうなる前に、皆にはお世話になったのだから、お礼を言わなくちゃ。
身体を起こそうとした私をジューダスが止める。
それに甘えて横になったまま、再びお礼を言えば三人は顔を綻ばせて頷いていた。
病室の隅にいる海琉も僅かに笑顔になっているのを見れば、私まで笑顔になり、お礼を伝えた。
「……そういえば、カイル達は…?」
「あいつらなら、とある人物の引き止め役だ。」
「……は?」
「まぁ、あんたの想像している以上に今は厄介な状況って事だな。」
「でも動いちゃダメよ?あんた、全身打撲なのよ?」
「うん……そう、だよね?なんか、衝撃がすごかったからね…? 私、こっちの世界に戻ってくる時、そんなに危ない場所に降り立ったのかな、って不思議に思ったんだよねー…?」
困った顔で言えば、修羅が手を合わせて謝ってきたので再び目を丸くさせる。
何故謝られているんだろう?
そんな私を尻目に、ジューダスが事の次第を全て話してくれた。
しかしそれを聞いた感じでも修羅は悪くない。
「というより、それ…、君の体は大丈夫なのかい?」
「あぁ、俺は頑丈な体作ってるからな。どっかの少食さんとは違ってな?」
「………………何処の誰だろうね?」
「クスクス…、分かってるなら良い。」
苦笑いをされてしまったが、それでも笑顔になって安心した。
彼に自分を責めて欲しくはなかった。
別に悪いことをしてないのだから。
それに、聞いている話だと、彼が取ったそれしか方法が無いようにも思えた。
「あんたも災難だな。マッドサイエンティストに目を付けられて。」
「本当だよ…。困ったものだ…。起きたら拘束されてたとかシャレにならないからね?」
「あら、そんなの当たり前じゃない。」
「「「え?/は?」」」
「研究材料に逃げられたら、こっちだって堪ったもんじゃないわよ。だから縛っておくか、拘束しておくのよ。」
「……そういえば、こんな近くにも居たね…?」
「「あぁ…。」」
「ちょっと!どういうことよ?!」
ムスッとしているハロルドを見て私が思わず笑うと、皆も笑顔になっていく。
あぁ……ここに戻ってきたんだ。
「……ただ、ちょっと身構えていた方がいいかもな。」
「……?」
「あんたが未来を知ってる理由……。やっぱ他の奴らは気になるみたいだぞ?」
「……なるほど、そうだね。モネの最期を見たのならそこに辿り着くだろうね。」
「どうするんだ?」
「……ここまで来たならもう正直に言うよ。後は皆の判断に任せる。」
「……もし変な事になっても、俺はあんたに付き合うぜ?どうせ、〈赤眼の蜘蛛〉をどうにかしようと考えてるんだろ?なら、仲間は多い方が良いはずだ。」
「ふふ。ありがとう、修羅。それを聞いて俄然皆へ話す勇気が出てきたよ。」
「……スノウ。」
不安そうにジューダスが私に話しかけてくる。
それに優しい笑顔で促せば、ジューダスは多少躊躇ったあと、口を開いた。
「こいつの後出しというのが気に食わないが、僕も同じ気持ちだ。だが、あいつらは真実を聞いても尚、戸惑うことはすれどお前を貶す事は無いはずだ。……それだけは言っておく。」
「……君に、そう言われると本当にそうなんだろうって最近思うんだ。何時だったかも、私の為に自分の正体を明かしてまで私を安心させてくれたよね?それがあるから……いや、違うね?今まで君と過ごしてきた時間があるから何となく、そう思うんだ。」
「…!」
「だから、皆を……ジューダスを信じるよ。」
私がそう言えば、泣きそうな顔でレディが顔を歪めるから私は手を伸ばそうとして痛みで悶えた。
「いっ…?!」
「ほら言わんこっちゃない…。さっきから言ってるだろ?全身打撲だって。」
「ふん、大人しくしてるんだな。」
「大丈夫よ。ちょっと血ぃ貰っただけだから。」
「……ちょっと待って?さっき、聞き捨てならない言葉が聞こえてきたんだけど…?」
「……気の所為だろ?」
「幻聴だ、幻聴。」
「あれー…?皆、そっち側の人…?さっき信じるって言った私の言葉は…?」
私がそう言えば、修羅もジューダスも可笑しそうに笑ったので私は苦笑いでそれを見届けた。
皆が笑顔になるのは願ってもないことだが、さっきのは本当に聞き捨てならないからね…?
から笑いをした私にハロルドは不思議そうな顔で覗き込んだので、またしてもから笑いをする羽目になった。
結局、私が退院することになったのは3週間という長い時間が経ってからだった。
その間は、時折カイル達も様子を見に来てくれて、そして心配そうに孤児院へと帰って行った。
だからこそ、私の体が快復した今、言うのだ。
何故、私が未来を知ってたか、を。
「皆、集まったね?」
「あぁ、だけど話ってなんだよ?そんな改まってよ。礼ならもう聞き飽きたぜ?」
「ふふ。そうだね?お礼も言いたい所だけど……一番は、皆が聞きたがってる話だよ。」
「聞きたい話……?」
「あー、あんたが病室で言ってたやつ?未来がどうたらってやつでしょ?私としてはどーでもいい話だけどねー?」
ハロルドは酷く退屈そうに口を尖らせながら近くにあった椅子に座り、こっちを見つめる。
それにカイル達も首を傾げながら私を見た。
「皆、モネの最期を見たなら知ってるんじゃないのかな?私が……未来を知って行動をしていた、ということ。」
「「「…!」」」
皆は不安そうにお互いに顔を見合せていた。
それに私は苦笑いをして、一度目を伏せたがちゃんと皆の顔を見て口を開いた。
しかし、それを止めたのは意外にもカイルだった。
「ちょ、ちょっと待って!」
「???」
「ねぇ、それってやっぱり聞かなくちゃダメかな?」
「え?別に知りたくないなら良いけど…気にならないのかい?」
「気になるっちゃ、気になるけどよ?それって、今俺たちがやってる事と変わんねぇよな?」
「そうよね?だって、スノウは未来を知ってジューダスを……リオンという人を助けたのだし、それは、今の私達とは変わらないと思うわ?それに、もしスノウがこれからの未来を知ってて、それでも私達に付いてきてくれるって事は、何か未来であったってことでしょ?」
「……。」
「なら、私達はハロルドみたいに未来を聞きはしないわ。……勿論、未来は気になるけど。でも、それをやってしまったら今の私たちの行動その物も否定されてる事になっちゃう。だから、皆と話し合ったの。全てが終わるまでスノウには聞かないって。」
「……ほんと、皆はずるいな…?」
折角心の中で決意してたのに。
そんなことを言われてしまったら黙るしかないじゃないか。
私は笑って皆を見る。
どうであれ、皆が考えて考え抜いた答えならば、それを私が否定する訳にはいかないから。
「……こんな秘密主義な私を、受け入れてくれてありがとう。」
今はこの言葉が似合う。
皆に伝えたい言葉───それは、私という特異な存在が居ても尚、皆は一緒にいてくれる。その……お礼の言葉だ。
「未来を明かす訳にはいかない。でも、信じて欲しい。私は、君達に害なす存在では無いことを。そして皆の未来は決して悪いことばかりじゃない、という事を。」
「俺からも礼を言わせてくれ。ありがとう、俺たちを受け入れてくれて。俺も、あんたらの未来を知ってる一人だからな。」
「「「えっ?!」」」
それには驚いた様に目を剥いたカイル達に、私と修羅はお互いに顔を見合せて、それから声に出して笑った。
まさか、そっちで驚かれるなんて思わなかったよ。
私は驚いている皆を見て、微笑んだ。
それは誰が見ても、とても優しい笑顔だった。
「ありがとう。…ありがとう…。」
「だからよー?礼なら聞き飽きたっての!」
「ふふ、そうだね?……でも私は数え切れないほど、君達には救われている。勿論、他でも沢山泣かせては救われている。だから、今度は私が恩返しをする番だ。」
「「「???」」」
私は一度目を閉じて、前を見据えた。
その、皆の後ろにある扉に向けて、私は優しく声を掛ける。
「……居るの分かってるんだよ?ルーティ。」
「「「えっ?!」」」
「か、母さんっ?!」
カイルが慌てて扉を見れば、苦い顔をして佇んでいるルーティが居た。
隣には医師も居て、申し訳なさそうな顔をして私を見ていたので、それに私は首を横に振り、ルーティの前にゆっくりと立った。
すると、ルーティは涙を溜めながら手を上げて、叩くような真似をする。
しかしルーティは私を叩く前に涙を流して、膝から崩折れてしまった。
「な、んで……生きてんのよっ…!!」
「ごめんね?ルーティ。」
「なんでっ、あんたが謝るのよ!!意味分かんないっ…!!」
「それでもごめん。それから、ありがとう。私の事心配、してくれてたんだよね?」
「…! あんた、気付いて…?」
「君が何度かここへ訪れていたのは気付いていたよ。それにどうせウッドロウ国王やフィリアから聞いていたんじゃないのかい?……私がこの世界で生きているのだ、と。」
そう言えば勢いよく立ち上がり、ルーティは寸分の狂いなく私の頬を叩いた。
それにカイルもロニも慌てた様子を見せる。
他は心配そうに見るものの、口を出す気はなさそうだった。
「これが、母親の愛…か。」
「何よ……何よ…!あんたが、あんな所で死んだから…!あの子も……!!」
「それについては本当にごめん。まさか、ああなるとはあの時微塵も思っていなかったんだ。彼ならきっと幸せな家庭を築けるだろう、とあの時の私は信じてやまなかったんだよ。」
「そうやって、あんたはっ、いっつも身勝手よ!!」
「……そうだね。」
「何よ!言い返しなさいよ!前みたいに……あの海底洞窟で会った時みたいに言い返せば、いいじゃないのよっ…!」
ルーティは言うだけ言うと、強く私を抱き締めた。
それに私が笑顔で迎え入れ、背中へと手を回せば余計に強く抱き締められた。
「……バカ。」
「ふふ、言う事はそれだけかい?」
「……あー、もうっ!あんたのそういう所、ほんっと、嫌いっ!!!」
ルーティは怒りながら私を放し、怒った顔を見せた。
それに私がくすりと笑えば余計に怒った顔をされ、……それはまるで般若の様だ。
「おやおや。私たち、あの一度しか会ってないと思ったけど、あの一度だけでもうそこまで性格を把握したのかな?」
「あーもうっ!!嫌い嫌い!!!」
「あはははっ…!」
そんな私たちの様子に、カイルが困惑したように首を傾げる。
そして横に居たロニに向けて、自分の疑問を口に出す。
「あれ?2人とも、ケンカ……してたんじゃないの?」
「まぁ、あれが二人の仲直りの仕方なんじゃないか?」
結局二人で笑っている私達を見て、カイルは不思議そうにそれを見つめていた。
しかしルーティの矛先は、続いてジューダスへと向けられる。
そして私の時のように怒られて、困った顔をしているジューダスに私も苦笑いでそれを見届ける。
「んで?あんた恩返ししてくれるんでしょ?またいつでもいいから孤児院を手伝ってくれるわよね?」
「あぁ。それくらいなら幾らでも手伝うよ?」
「言ったわね?ちゃーんと、来なさいよ!あと───」
ルーティがカイルとロニの所に行くと、二人の頭をワシワシと乱雑に撫で、そして真面目な……いや、母親の顔で私とジューダスを見た。
「───うちの息子たちを、どうか……よろしく!」
そう言って二人の頭を下げさせると同時に自分も頭を下げていた。
そのままの格好で、ルーティはポツリと零す。
「あんたにはまだまだ言い足りないことがあるのに……帰ってこなかったら容赦しないから。」
「おやおや。レディの頼みを断る訳にはいかないね?……いや、もうレディじゃなくなったか。君はもう一人前の母親だもんね。……素敵な息子たちに育ててくれて、本当に感謝してるよ。ルーティ。」
「あったりまえじゃない。誰の子供だと思ってんのよ!」
「そうだね。君たちの子がこんなにも素直で素敵な人にならないはずがないね。」
「後は頭が良ければ問題ないんだけどねー?」
「か、母さん!!」
「カイル、ロニ。あんた達はまだまだ子供なんだから、勉強出来る時はあの人たちにちゃんと教えてもらいなさいよ?」
ルーティが私やジューダスを指差し、母親の様なことを言い出す。
……いや、母親だったね。
それに嫌そうな顔でカイルがルーティを見て、ロニも絶妙に嫌そうな顔でルーティを見ていた。
そんな二人にルーティが気付かないはずもなく、「帰ったらテストするから」なんて残酷な事を話していたのを笑って聞き届ける。
「帰ったらテストだってさ?」
「……益々あいつらに勉強してもらわなければ、またあの煩いお小言を食らう羽目になるぞ。僕は勘弁だからな。」
「ふふっ。私もお小言はもう勘弁かな?」
親子で言い合う三人を見て、目を細めた私をジューダスが横でじっと見ているのに気付いて首を傾げる。
私の顔に何か付いているだろうか?
「どうしたんだい?」
「……いや、何でもない。」
そう言った彼は、フッと笑ってあの三人を見つめた。
その横顔はとても優しいものだったのを嬉しく感じ、その横顔をじっと私は見続けていた。
……あぁ、やっと私は皆の所に帰ってこられたんだ。
そう思って、心からの安堵の息を吐いたのを、私は一生忘れないのだろう。