第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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___現代:ラグナ遺跡
木漏れ日が降り注ぐ遺跡の中───最奥の大きな木ではなく、道中にある側道の木にもたれかかる様にして目を閉ざす人物がいた。
風がサワサワと吹いては、その人物の髪を攫っていく。
その者の髪の色は、さながら澄み渡る空の様な蒼色。
その綺麗な蒼色の長い髪を赤いリボンで後ろに纏めていた。
「───」
その人物が目を開ける事なく、ただただ時間が過ぎていく。
木漏れ日のお陰で見え隠れする光と陰が、その人物の顔を照らしたり隠したりしていた。
そんな人物の周りを、突如、多くの人物が囲んだ。
見た目を黒いローブで包み、見た目を隠しているそれらの人物はその蒼色の髪の人物をじっと見つめる。
その瞬間、辺りにノイズの入った機械音が響く。
ジーーー……、ピピ……
「───目標確認。蒼髪の女だ。………………了解。」
黒いローブの一人が手を耳に当てながら、誰かと話している様に喋り出す。
それが済むと、周りの黒いローブの人らを見て顎で何かの合図をした。
周りの黒づくめが動き出し、蒼色の髪の人物へと手を伸ばしたその時───
「待てっ!!!」
急いでそこへ駆けつけたのは、カイル達だった。
黒づくめ──〈赤眼の蜘蛛〉の組織員がスノウに触れようとしているのを見て、カイルが急いで止めたのだ。
その声を聞いた組織員はすぐさまスノウを掴むと肩へと担ぎ上げ、後ろの組織員に大きく頷いた。
ジーーー、ピピ……
「目標確保。今すぐ帰還する。」
そう言って組織員たちがその場を後にしようとしたが、目の前にジューダスが現れたことで立ち止まらざるを得なくなった。
ジューダスは、スノウを担いでいる黒づくめに対してシャルティエを容赦なく向け、その人物を睨みつけた。
「そいつを返せ。」
『スノウ!今助けますよ!!』
「───別のターゲットと接触。戦闘を開始する。」
冷静に通信役がそう口にした事で、スノウを担いでいる組織員以外が武器を手に持ってジューダスを取り囲んだ。
しかし他の仲間たちも追いつき、囲んでいた組織員たちへと攻撃をする。
「おいおい……この数、本気かよ?」
「それほど、相手さんは本気でスノウを欲しがってるってことじゃないか!」
「デタラメな数ね。こんなの容易にやっちゃいそうだわー。」
ハロルドが怠そうに杖を持ち、詠唱を開始した。
それに合わせて隣ではリアラも詠唱を開始し、近距離組は自身の武器を持って〈赤眼の蜘蛛〉との交戦を始めた。
「……。」
その中でもジリジリと後退しているのは通信役と、スノウを担いでいた組織員だった。
頭数から言えば〈赤眼の蜘蛛〉の方が多勢に無勢。
けれども、相手が相手だからゆっくりと気付かれない様に動くのだ。
そっと、そっと……瞬間移動の詠唱を稼げるほどの距離を開けなければならないのだから。
「……!」
「どこへ行くつもりだ。」
シャルティエを首に当てられ、スノウを担いでいた組織員は静かに冷や汗を掻く。
今動けば、この剣が自身の首を掠り、ただじゃ済まない事は火を見るよりも明らかなり。
組織員が動けずにいると、ジューダスは鼻を鳴らしシャルティエを首に当てながらも器用に近付き、スノウを奪い返す。
シャルティエとは反対の肩でスノウを担いだジューダスは、そっとシャルティエを離した。
「殺されたいなら向かってこい。生きたいならどこへでも行け。」
「……。」
だがここで目標を連れ帰らなければ、自分達にも厳しい制裁が加わる事も事実。
〈赤眼の蜘蛛〉の組織員はすぐさま武器を手にし、ジューダスへと切りかかった。
ところがその行動を読んでいたジューダスはそれを容易く往なすと、片手だけで組織員を倒してしまう。
倒れた組織員を一瞬ほど見て、ジューダスはスノウを支えている腕の力を強める。
「(……やはりこいつは、相変わらず軽いな……。)」
遠き日に思いを馳せそうになってすぐ思考を切り替える。
次から次へと自分に向かってくる組織員をシャルティエで応戦し、倒していく。
幹部クラスでなければカイル達の敵ではないのだ。
結局カイル達の周りには組織員たちの倒れた姿が屍の様に転がっている。
一息入れたカイル達はようやくスノウを取り戻せた、と顔を綻ばせた───その時。
「なんじゃ、だらしがないの。」
しわがれた老人の声が背後から聞こえてくる。
全員が武器を持ち、警戒するといつだったか〈赤眼の蜘蛛〉と親睦会を深めた際にいた老人が腰に手を当てながらやってきていた。
なんだ老人か、と何人かが警戒を解いたのをジューダスが咎める。
「どいつもこいつも、弱ったらしい奴らばかりじゃ。女一人を攫ってこれないとは思わなんだ。」
「だ、誰だっ?!」
「ふむ。初めましてかのぉ?儂の名は【ウィリアム・ジェレマイア】じゃ。周りからは博士と呼ばれておる。」
その瞳は興味無さげにカイル達を見つめていた。
白衣を着て、腰を曲げたお爺さんにしか見えない敵だが、ジューダスが警戒を最大まで強めていた。
「お前ら、気を付けろ。こいつは確か〈赤眼の蜘蛛〉の幹部クラスだったはずだ。」
「「「……!!!」」」
「ほう。そこの奴は少しは見る目があるようじゃな。ゲヘヘへ……。……それにお主のその担いでいる人物はもしや……儂らが攫おうとしていた女かの?」
「スノウは渡さないぞ!」
「あんた達、いい加減しつこいぜ?!」
「そりゃあ仕方がない。上からの命令じゃからな。誰も彼も逆らえぬじゃろうて。……それに、」
そこまで言ったウィリアム博士は妖しく笑い、両手にメスを持ち、胸の前で構えた。
「───儂は、そやつを解剖したくて解剖したくて……たまらないのじゃ……!!!」
「「「「っ!?」」」」
「あら奇遇ね。私もよ。」
「ちょっと、ハロルドは黙ってて!!」
カイルが慌ててハロルドにそう声を掛ける。
すると何処からともなく、激しい機械音と地面を大きな何かが踏みしめる音が聞こえてきて、それと同時にウィリアム博士の背後には人の数倍はあるだろう機械が現れた。
「何故儂がこの年齢にして〈赤眼の蜘蛛〉の幹部クラスまで上りつめる事が出来たか、お主らには分かるか?」
そう言ってウィリアム博士はその機械に乗り込むと、大きな音を立てその機械を作動させた。
まるで何処かにスピーカーがある様にウィリアム博士の声は外に居たカイル達にもハッキリと聞こえる。
『それはのぉ?儂が機械や研究物を使い、敵という敵を倒す、戦闘のエキスパートじゃからよ!!!』
その機械はうねりを上げて動き出す。
あたかもカイル達を轢き、機械の下敷きにするかの如く発進させた博士だったが、それをなんとか横へ回避したカイル達。
流石にそんな危ないものを目の前にして、緊張感が最大になったカイル達は、すぐに逃げる事を選択した。
「み、皆、逃げよう!!」
「それが賢明だぜ……!?」
散り散りに逃げようとしたカイル達だったが、ウィリアム博士の目標は一つしかない。
『その女は頂くぞい!!!』
機械の至るところから腕型のアームを伸ばし、ジューダスの抱えているスノウにアームが襲い掛かる。
それを回避しようと走り出したジューダス。
リアラとハロルドがそれを助太刀する様に晶術をアームへと発動させた。
「フィアフルストーム!!」
「エンシェントノヴァ!!」
猛威を振るう風がアームを吹き飛ばしたり進路を塞ぎ、天からの業火は機械本体を直撃し傷を付けようとする。
しかし───
『晶術など、効かぬわっ!!!』
本体を攻撃した筈のエンシェントノヴァは、全く意味をなさず、ウィリアム博士が操作している機械は無傷でそこに在り続けた。
その上……
『ほれ、先程の晶術のお返しじゃ!___エンシェントノヴァ!!!』
先程の晶術がまるで跳ね返ってくるかの様にカイル達を襲う。
その凄まじい威力にそこら中から仲間達の悲鳴が上がる。
「あいつっ……!私の晶術を跳ね返してくれちゃって!! 絶対、許さないわ!!」
「ちょ、落ち着けって!晶術使ったらまた跳ね返されんぞ!!」
ハロルドがムキになりそうな所をロニが慌てて止める。
その後二人は先程の晶術の犠牲になった仲間達へと回復を施す。
「ヒール!!」
「キュア~!」
『ゲヘヘへ……!そんなものか!お主らの強さは!! 弱い……弱すぎじゃろうて!!』
「あいつ、好き勝手に言ってくれるわね……。」
「ハロルド!晶術が使えない相手はどうすればいいのさ?!」
「そりゃまぁ、近接攻撃しかないっしょ☆」
「「「ですよねー!?」」」
機械を見上げ、ハロルドは怪しい笑みを浮かべる。
そして近くにいたロニへと耳打ちをする。
「……いーい?幾ら相手が強いとはいえ、相手はあの機械。中の爺さんは弱いはずよ。私があの機械を分解していくから、その間の時間稼ぎお願いね~?」
「はっ?!マジで言ってんのかよ?!逃げた方が絶対いいと思うぜ?!」
「逃げられると思うわけ?あの爺さん、あの子への執着ヤバかったっしょ?それで見逃してくれるとは思えないけどー?」
「……確かに。」
「つーわけだから、他の人達にも言っといてねー!」
タッタカと何処かへ行くハロルドを止めたが彼女も彼女で言う事を聞かない。
頭を掻いたロニだったが、ハロルドの言葉を皆に伝えるべく全員へと耳打ちをした。
それに大きく頷いた仲間達は、未だスノウを捕まえようとする機械を見据えた。
「よし……!やろう!皆!」
「「「おー!」」」
ジューダスとハロルド以外の仲間達が機械へと攻撃を開始する。
晶術は危険だ、と認識した仲間達は近接攻撃を中心に攻撃を繰り返す。
晶術メインだったリアラは仲間達の回復を努め、ナナリーも近接攻撃で届かない場所への攻撃を繰り出していた。
『弱い弱い!そんなヘナチョコな攻撃で儂のSSHR-09は壊れぬわっ!!!』
「あいつも何か変な名前付けてるぞ……?」
「科学者って皆同じなんだね…?」
そんな話を挟んでいると、機械が煩わしいとばかりに仲間達をアームで押しやる。
そして目標をスノウへと再び変更する。
「くっ……!」
『アームの数が多すぎます…!どうしたら……?!』
シャルティエを必死に振るい、スノウを掴もうとするアームへ攻撃をしていたジューダスだったが、あまりにも向かってくるアームの数に逃げる事も攻撃する事も出来なくなりつつあった。
このままでは、このアームにスノウが攫われてしまう。
仲間達も攻撃してくれてはいるが、決め手に欠けている様で、中々機械が壊れてくれない。
『そこじゃっ!!!』
その掛け声と同時に肩にかかっていた重さが軽くなってしまい、ジューダスが言葉を失う。
急いで手を伸ばしたが、あっという間にアームにスノウを取られてしまい、投げ込む様に機械本体の何処かへとスノウを押し込んだウィリアム博士は高笑いをした。
『ギャハハハハハッ!!! 女は貰ったぞい!! これで後はお主らを倒せば終了じゃ!!』
流石にスノウが機械の何処かに囚われてしまい、下手に攻撃が出来なくなってしまった。
仲間達が顔を青ざめさせる中、そこへ救世主が現れる。
「海琉!」
「……うん!!」
修羅が海琉を投げ飛ばし、ウィリアム博士のいる操縦室のガラスへと海琉が攻撃を繰り出した。
しかし流石にそこは強化ガラスにされているのか、ガラスに攻撃が貫通する事は無かったが、多少のヒビが見られた。
『ムッ?! 裏切り者の修羅と海琉か!?』
「久しいな、爺さんよ!!だが、あんたの手の内をこっちは知ってんだよ!! その操縦室の強化ガラス、実は金がなくてケチって弱いやつにしたんだろ?!」
『ぐぬぬ……。そこまで知っておったか…!!』
ニヤリと笑う修羅に仲間達が嬉しそうに振り返る。
それに手を挙げて応えた修羅は武器を手にして仲間達を見据えた。
「あの機械の弱点は、操縦室のガラスだ!! 壊して爺さんを中から引きずり出してやろうぜ?!」
「「「分かった!!」」」
ジューダスもそれを聞いて武器を手に、ガラスへ向けて攻撃をしようとする。
しかし強化ガラスがあるのは、かなり高い場所なのだ。
一筋縄じゃいかなさそうだ。
『……ん?何か背後で……』
ウィリアム博士が何かに気付き、声を上げる。
それもそのはず、機械の後ろでは着々とハロルドが機械のネジというネジを取り除いていたのだから。
「ふんふ~ん♪」
『おいっ?! やめろ、やめるんじゃっ!!』
慌てた様子でハロルドをアームで掴むとポイと投げ捨てる。
そして器用な事に博士はそのアームでネジを入れていっていた。
『なんてやつじゃ! 儂のSSHR-09をなんだと思っとるのじゃ!!!』
「…07が急に09に上がってる……。グレードアップしてんじゃねぇか…。見た目じゃ何処が変わったか分かんねぇってのもすげえな…?」
呆れて肩を竦めさせた修羅だったが、次の瞬間真面目な顔になり一瞬にして操縦室のガラスへと瞬間移動する。
そして思い切りそのガラスを手に持った武器で叩き割ると遠慮なく中へと入り、驚きに満ち溢れているウィリアム博士を掴んだ。
「おら!外へ出ろや!この爺さん!」
「年寄りには優しくせんか!!この若造が!」
ひと悶着している間にどうやら二人は機械の操縦レバーを動かしていたらしい。
機械はあらぬ方向へと方向転換し、そして───
「「修羅っ!!」」
ラグナ遺跡の壁を破壊し、機械は真っ逆さまに落ちてしまった。
それに仲間達は顔を蒼白にし、落ちて行った場所へと駆け寄る。
修羅とスノウの無事を祈りながら下を覗くと、機械は見事に砕け、煙を上げていた。
「修羅ー!!」
「スノウー!!」
「……っ、」
『この高さは……流石に堪えますね……?』
全員が不安な顔で下を覗く中、操縦室から噎せながら出てきたのは修羅だった。
その背後には目を回したウィリアム博士が居て、どうやら二人は無事のようだ。
「おい、修羅!スノウがその機械に囚われている!探してくれ!」
「───分かった!」
大分声が遠いが、了解の声が聞こえた仲間達は修羅の元へと行こうとラグナ遺跡を下っていく。
勿論、大回りしてだが。
あんな大胆に下に落ちるのは勘弁だ。
‥‥・*・‥‥…………‥‥・*・‥‥…………‥‥・*・‥‥
「つーか、この中にスノウ囚われてたのかよ……?」
機械と共に下に落ちた修羅は首を一度鳴らし、探知を開始する。
スノウの気配ならお手の物だからだ。
「……マジかよ。」
探知して該当する場所へと向かい、急いで機械の表面を剥がしにかかる。
もしかして機械の金属で押しつぶされてねぇよな……?
嫌な想像をして身震いさせた修羅は、急いで金属に手を伸ばし剥がそうとするが、やはりそこは金属らしい硬さでビクともしない。
それに舌打ちをした修羅だったが、中の方からコンコンと叩く音がした事で目を見張る。
「(もしかしてスノウか…?!)おい、大丈夫か?!」
「───ごほ、ごほ───」
中から噎せている声がする。
急がないと煙で肺をやられているかもしれない。
時間が無いと悟り、修羅は力の限りスノウが閉じ込められている上の金属を引っ張り上げる。
しかしその力も金属を前にして、微々たるものすぎて全く効果が無いではないか。
そこへ仲間達が慌てて駆け寄り、男だけで修羅の持っていた金属を持ち上げる。
「せーの!!」
ぐぐぐ……と徐々に持ち上がる金属の間に海琉が気を利かせて金属の棒を差し入れる。
そして、てこの原理でその金属を急いで持ち上げれば、中からは大量の煙と未だ噎せているスノウの声が聞こえてきた。
修羅とジューダスが急いで煙の中にいるスノウを引っ張り上げれば、涙目で噎せるスノウがそこにはいた。
「ごほ、ごほっ!……ちょ、ちょっと……ごほ、斬新、ごほごほ……すぎないかな……?この起こし方…………ごほ。」
「「「「スノウ~~!!!!」」」」
みんなが喜ばしそうに抱き着き、しかし噎せてそれどころじゃないスノウは涙を流しながら、仲間達を困った顔で見た。
「ごほ、ごほ……もう、だめ…………」
「「「スノウー!?」」」
ガクッと気絶したスノウに仲間達が慌てて声を掛ける。
それを見ていた修羅とジューダスがやれやれと首を振ったのと同時に海琉がスノウを背中に背負う。
「……早く医者に見せないと……」
「よし。なら、近くの……そうだな、クレスタに行くとするか。」
「……いや、ちょっと待て。」
ロニの提案にジューダスが異論を唱えた。
しかしスノウの状態からして猶予が無いのもまた真理だった。
要するに話は、クレスタへは行くが医者の所にしか行かず、ロニとカイル、それからナナリーとリアラはルーティの気を引くことになった。
この状況でルーティに会う事を危惧したのはジューダスだけではない、修羅も危惧したのだ。
「(まだ会うのは早すぎだろ……。ここで会って何か変わってもらっても困る……。)」
「ともかく、急ぐぞ!」
「「「「おう!/えぇ!/あぁ!」」」」
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