第一章・第3幕【天地戦争時代後の現代~原作最期まで】
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___現代:ハイデルベルグ
ハイデルベルグの兵士が見回りに出ている。
銀色の甲冑を纏い、高い金属音をたてながら若い二人の兵士が歩いていた。
「あーあ…。なんかねぇかな…。」
「おい、物騒な事言うなよ…。この間襲撃に遭ったばかりで国への被害も大きかったんだぞ?下手な事は言わないほうが身の為だ。」
「そーだけどよー…?だって、見ても見ても何もねぇじゃん。……あ、そうだ!ちょっと見回りの場所変えてみようぜ?」
「はぁ?」
訝しげにもう一人の兵士を見ては、思わず立ち止まった兵士。
するとスリルを求める兵士が道を外れて何処かへ行こうとする。
それを慌ててもう一人が止めれば、「大丈夫だって。」なんて言って巡回の道を外れていってしまった。
始末書ものだ、と頭を掻いてその兵士の後を追う。
すると、相方が何処かの建物の中に入っていくのが見えてしまい、本気で止めに入った。
「おい!マジでやめろって!」
「……。」
「どうしたんだよ?なに黙ってるんだよ。」
「……何か聞こえないか?」
「え、」
オバケの類なら遠慮願いたい、と兵士が顔を強張らせる。
しかし仮にもこの国を守る兵士なのだから、身を粉にしては進んで危険に向かっていかなければならないのも分かっている。
相方の言葉にゴクリと生唾を飲んだ兵士だが、武器を持つと相方と共に建物の中へと入っていく。
すると建物の中を反響するようにぴちゃんと水の音が響いた。
「……なんだ、水の音かよ。ビックリさせるなよな…?」
「おっかしいなぁ?なんか人が倒れるような音がしたんだけどなぁー?」
「……マジ?」
「大マジ。」
相方の言葉に兵士が溜息を吐くと「行くぞ」と中を進む。
しかし建物は簡単な作りになっていて、その中央には怪しげな地下への階段が伸びていた。
下を覗いても暗闇で全く見えず、進む気にはなれない。
「……。」
「誰かいますかー?」
相方が大きな声で階段先の方へと呼び掛ける。
しかし期待していた反応は無かった。
「倒れた音って事は、もしかして意識が無い状態…なのか?」
「じゃあ、行ってみるか!なんかワクワクしてきたな!!」
「お前だけだよ、そんな事言うの。」
相方と共に階段を恐る恐る歩いていく。
長く続く階段をひたすら降りていけば、今度は坑道のように長く下へ向かって伸びた道が広がっていた。
しかし横道に逸れる道もあり、下手をすれば迷子になりそうだ。
「おい、もう帰ろうぜ……。」
「なーに言ってんだよ!まだ始まったばっかりだろ?!」
「俺は時々、お前が羨ましいよ……。」
相方の直感を頼りに先に進んでいくと、確かに聞こえてくる水音。
相方と共に息を潜めながら警戒して先に進んでいけば、ようやく拓けた場所へと辿り着く。
そこは奥には泉が広がり、手前には白い花が群生していた。
その上、一歩進めばその白い花は光をポワポワと舞い上がらせていた。
幻想的なそんな場所に踏み入れて、ほうと一息つこうとしたその時、中央に誰かが倒れているのが分かる。
二人は顔を見合わせ、慌ててそこへ駆け付ければ、その人はハイデルベルグでは有名なあのお方だった。
「「モネ…さまっ!!」」
澄み渡る空のような蒼い髪、男か女か見分けがつかない見た目をしたその人は、白い花の上で力なく横たわっている。
慌てて声を掛けるが、その人は起きる気配がなかった。
「お、おい!早く上官に知らせて差し上げろ!」
「わ、分かった!!」
相方が道を戻っていったのを確認し、兵士は倒れている人物の息を確かめた。
どうやら気絶しているだけのようで、息はしている。
それにホッと息を吐き、兵士は倒れている人物を担ぎ上げる。
そしてハッと気づいたそれは女の子のように軽かった。
「早く連れて行かなければ…!」
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.
「到着~~!」
ハイデルベルグへと辿り着いた一行だったが、ハロルドが我先にと走り出すのを修羅が止め、彼女の首根っこを掴む。
カイルも早くと急かすように足を動かそうとするのをリアラが止めたり、周りを見ていたジューダスが街中の様子に怪訝な顔を見せた。
「おい、あのモネ様が生きてたらしいぞ…?」
「でも意識不明なんでしょ?それって死んでるんじゃ……。」
「それにこのハイデルベルグの地下から発見されたって言うし…亡霊とかか?」
街の人の噂話が耳に届くと、皆は顔を見合わせ不安そうな表情を浮かべた。
あまりにも良い噂では無いから、心配になってしまうのも無理は無かった。
「ね、ねぇ!そのモネ…さんって、今はどこに居るの?!」
「ん?坊やもモネ様の行方が気になるのかい?」
街人が嬉しそうにカイルへと話し掛けるのを、他の皆は息を潜めながら聞いている。
「モネ様は今はハイデルベルグの城で丁重にもてなされているよ?まぁ、生きていたらの話だけどね。」
「どういうこと?」
「聞いたことないかい?モネ様はこのハイデルベルグの地下から発見されたんだ。今までそんな地下なんて無かったのに。偶然通りかかった兵士が見つけたらしいんだが……。しかしモネ様は先の戦乱で亡くなられている。城にいるあれは偽物か、亡霊なんじゃないかって街中では持ち切りなんだよ。」
「そ、そんな…!」
「生きていると信じたいのも分かるよ。モネ様はこのハイデルベルグの大英雄だからね。生きてて欲しいよ。……でもねぇ?」
そう言って街人は沈黙して去って行ってしまった。
先程の街人の言葉に修羅とジューダスが不思議そうな顔をしたあと、お互いに怪訝な顔で見合わせていた。
「……妙だな。」
「え、どうして?」
「リアラの力でここ…現代に僕達は帰ってきたはずだ。そしてエルレインの行った歴史改変も阻止しつつある。だから今のこの時代は、僕達がアイグレッテ上空に出た妙な球体を調べに行った後の時間軸のはずだ。」
「……確か、ハイデルベルグでスノウとジューダスはウッドロウ王から無茶しないようにって見送られていたわよね?なら、確かにおかしいわ。このハイデルベルグで皆が二人の存在を知らないはずないもの。」
修羅が頭に手を置きながら一度目を閉じ、そして城を見て二人の言葉に賛同した。
「……どうやら、あんた達の予想は当たってるようだぞ。」
「「「え?」」」
「城の中にスノウの気配はない。恐らく俺達をおびき出す為の罠だろうな。」
「……おれも探知したけど、別の気配がある…。」
海琉が修羅の言葉をさらに確証を得て貰おうと助言したのを見て、仲間たちが険しい顔になった。
──ならば、肝心のスノウは何処に?
「敢えて罠にかかってやるか、それとも安全な道を選ぶかはあんた達に任せる。俺はどっちにしても探知でスノウを探し続ける。その他の事はあんた達に任せた。」
「「「…うん!/おう!」」」
カイル達をしっかりと見て言い放った修羅に、仲間たちは頼ってくれてることが何より嬉しく何度も頷いていた。
だって、ついこの間までは敵同士だった修羅が仲間を頼って来てくれるなど中々無かったのだから。
「カイル。」
「なに?ハロルド。」
「あんた達の中で一番最初にスノウに会ったのは誰なの?」
その質問に全員が一度沈黙したが、ロニとカイルがゆっくりと手を上げた。
「多分俺達だと思うぜ? ジューダス。お前はいつスノウに会ったんだ?」
「僕がこの時代に来てからスノウに会ったのは……アイグレッテが最初だ。お前らと共に地下牢から抜け出したあと、僕は直ぐにアイグレッテに向かったからな。」
「じゃあ、決まりだ!俺達は学者姿のスノウをラグナ遺跡で見たからな!」
「じゃあ、そこね。」
ハロルドが淡々と言ったのに対して、何人かは首をひねり、頭にはハテナを浮かべていた。
それにハロルドは腰に手を当てて叫んだ。
「だーかーらー!スノウはそこにいるって言ってんのよ!」
「ラグナ遺跡に、か?」
「あの子が初めてこの時代に来たその場所。この場所が違うというのなら、そこが一番怪しいと思うわよ~?」
「敵の罠にかかってみるか、それとも一縷の望みを賭けてラグナ遺跡に行くか…。カイル、あんたに全て任せる。さぁ、どこに行く?」
修羅がカイルに問う。
暫く迷っている様子のカイルに新たな助言をしたのはジューダスだった。
「……もし僕達が敵の罠にかかるとして、敵がスノウの居場所を既に特定して拉致してる可能性も考慮しておけ。その反対も然りだ。……そしてその分、敵の罠にかかるならばこちらのリスクも大きい。」
「なら手分けして探してみたらどうだい?」
「ま、堅実に行くならそうでしょーね。で、どうするの?カイル。」
「……。」
それでも暫く考えたカイルだったが、目を開けた後カイルは笑って元気よく答えた。
「……ラグナ遺跡に行ってみよう!なんかオレ、そこにスノウが居る気がする!」
「よし、なら行くか。」
「わざわざ敵の罠にかかる必要もなさそうだしね!」
「あぁ。ただ急いだほうがいい。敵側が既に見つけているなら厄介だ。」
「よし、行こう!みんな!」
カイルの声に合わせて皆それぞれに手を上げる。
そしてカイル達はハイデルベルグを後にする。
向かう先は───ラグナ遺跡だ。
「……。」
___その後を付いてきている人物が居るとも知らずに。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「…………。」
修羅がラグナ遺跡への道中に探知を続けていると、探知上に妙な物があるのに気付く。
それは修羅達の後を追い掛けるように動いていたからだ。
「カイル、ちょっと待て。」
「え、どうしたの?修羅。」
修羅が立ち止まり目を閉じたのを見て、勘の良いジューダスが視線だけを彷徨わせ敵が居ないか探った。
シャルティエもそんなマスターの様子を見ては探知を開始したが、シャルティエの探知上には何も引っかからない。
「……尾けられてる…。」
「「「え?!」」」
探知上で修羅達が止まれば、その人物も同じ様に止まったからだ。
修羅は後ろを振り返り、武器を取り出した。
「コソコソと良い度胸だな!!」
「…!」
すると物陰に隠れていた黒づくめが諦めたように出て来て、そして耳に触れた。
「──こちら現場。ターゲットに尾行がバレた。急いで目標を確保しろ。」
「…! 通信か!!」
耳に触れたのはきっとインカムの様な通信機器に触っていたからだろう。
修羅はすぐに攻撃の姿勢を取り、他の仲間達も武器を取り出した。
「───繰り返す。ターゲットに尾行がバレた。急いで目標を───」
「遅ぇんだよ!!」
修羅が通信している黒づくめに攻撃を仕掛ける。
辛うじてそれを避けた黒づくめだが、その先には既に海琉が先回りして武器を閃かせていた。
「……敵、排除!」
「チッ…!」
黒いローブから小型のナイフを取り出して海琉の攻撃を受け流すと、再び黒づくめは耳に触れた。
「───至急、応援願う。」
すると瞬時にカイル達の周りに黒づくめが何人も現れ、武器を取り出した。
それを見て修羅が海琉へとアイコンタクトをする。
そしてカイル達に向かって修羅は叫んだ。
「ここは任せろ!あんたらは先に行け!」
「え!?駄目だよ!!」
「こいつらは〈赤眼の蜘蛛〉の組織員だ!!あんた達には気配が読めない!それに、スノウが危ないかもしれない!!」
「ど、どういうこと?!」
「こいつら、俺達を泳がせてスノウの居場所の特定をしていたんだ!このままだと奴らに先を越されてしまう…!それだけは避けたい!だから───行けっ!!」
カイルが更に言い募ろうとしたが、それをロニとジューダスが止める。
「ここは修羅の意見に賛成だ!俺達が後手に回るのはもうゴメンだぜ!!」
「あいつなら大丈夫だ。お前なら知っているだろう?奴の強さを。」
「二人とも……。うん、分かった!ごめん、修羅!オレ達、先に行くね!!」
「あぁ!!ここは任せておけ!! 後で俺達も追いかける!」
海琉が攻撃している間、修羅はそう叫ぶと敵へと向かっていく。
それを見届けたカイル達は二人と別れて目的地へと走り出す。
急がないと、間に合わないかもしれない!
「……裏切り者の修羅と海琉か。」
「はっ!だったら何だって言うんだ?」
「アーサー様は大変お怒りだったぞ。」
「そんなの知るか。俺達はもう〈赤眼の蜘蛛〉の組織員でも幹部でもないからな!!」
「……〈星詠み人〉の未来の為、今こそ結束しないといけない時だというのに、残念だ。」
尾けていた黒づくめがそう呟くと、一斉に周りの黒づくめも動き出す。
それを海琉と修羅は掻い潜りながら敵を一人ひとり確実に倒していく。
「アーサー様は新たな幹部を迎え入れられるそうだぞ。」
「そうかよ!!情報提供ありがとな!!」
「──────了解。」
ジジジジ……というノイズの様な音が通信機器からすると、それに応える様に黒づくめは小声で呟いた。
そして周りの黒づくめ達に向かって叫ぶ。
「目的は達成された!ここは引くぞ!」
命令するように放たれた言葉はすぐに決行される。
黒づくめ達が一瞬にして消え、そして目の前の黒づくめは修羅達に向かって可笑しそうに笑い出した。
「……何が可笑しい?」
「残念だったな。先に向かわせた別のグループから連絡があった。姫の確保は済んだ、とな。あとはその姫をアーサー様に献上するだけだ。……こちらこそ、情報提供すまなかったな。」
「…!!!」
目を見開き、怒りを顕にした修羅は目の前の黒づくめへと剣を振り下ろす。
戦闘員といえど、元幹部の修羅の攻撃を首の皮一枚で避けると多少息を乱して後退した。
逃がすものか、と修羅が更に追撃しようとしたが、流石に受け流す体力は残されてなかったか、敵はカラ笑いをした後直ぐに消え去ってしまった。
それに修羅も海琉も悔しそうに顔を顰めさせた。
「チッ…、逃したか…!」
「……どうする?追い掛ける…?それとも遺跡に行く……?」
「カイル達を追いかけるぞ。……今頃、あいつらもスノウに追いついているはずだ。加勢してやらないとな。」
「 …! うん…!」
修羅と海琉は一瞬にしてその場をあとにする。
目指すは、ラグナ遺跡…。
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ちょっとした解説
ハイデルベルグに居た偽物のスノウは、〈赤眼の蜘蛛〉が用意したセルリアンだったんですよね。
釣れれば良し、釣れなくとも後をつけて先回りすれば良し。
そういう考えで〈赤眼の蜘蛛〉は動いていたんです。
以前、初めてカイル達がハイデルベルグに来た際に〈赤眼の蜘蛛〉が異常な科学力を見せつけたかと思いますが、それの応用です。
今回は完全に人も全て仕込まれていて、全員が〈赤眼の蜘蛛〉の組織員だったんです。
わざとにモネの噂を流し、そしてそれを信じ込ませたカイル達を城の中で捕縛する作戦だった訳ですが……見事に騙されてくれませんでしたね。
この辺の話も、幕間か、それとも短編であげようかな、と思います。
管理人・エア