第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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___現代から18年前の海底洞窟内
スノウ不在の中、カイル達はリアラの時間移動によって海底洞窟内へと辿り着いていた。
周りを見渡し、見覚えのある景色にジューダスが俯く。
そんなジューダスに修羅がとある物を投げ渡し、自身もその黒いローブを着て律儀にもフードも被った。
その隣では海琉もまた同じく黒いローブを着てはフードを被る様子が見られ、全員が不思議そうにそれを見遣る。
「ったく、これを持ってて正解だったな。取り敢えずあんたら、これを着とけ。」
「え?何で?」
「いいから。この時代のスノウを救うんだろ?だったらこのローブを素直に着とけ。 ……勘の良いスノウにバレたくなかったらな。」
言われるがまま静かに全員が黒いローブを着用する。
すると奥の方からは、あの憎き声が聞こえてきた。
「──ここで終わりだ、モネ・エルピス。」
「っ!バルバトスの声だ!!」
カイルが慌てた声でそう叫ぶ。
仲間たちはカイルと共にローブを翻し、急いでこの時代のスノウ──モネの元へと駆け出す。
早くしないと過去を変えられず、スノウが消えたままになってしまうから。
間に合え、間に合え……!とカイル達が祈る中、一同はとある広い空間へと出る。
そこには武器を持って警戒しているモネとバルバトスが対峙していた。
「そこまでだ!バルバトス!!!」
「っ!?」
カイル達がモネとバルバトスの間に滑り込み、モネを守るように立ちはだかる。
それを憎たらし気にバルバトスが全員を見下ろしていた。
「……やはり来たか、カイル・デュナミス。」
「(カイル・デュナミスだって…?なんでここに…? というより、全員黒いローブを着ていて誰が誰か……。)」
「諦めるんだ、バルバトス!」
「言っただろう。俺の覚悟は変わらん、とな。」
「どうしてそこまで…!」
カイルの疑問にバルバトスはニヤリと笑い、後ろにいるモネへと視線を向けた。
まるで良い事を思いついたとでもいうようなその悪い顔に、全員が警戒を強める。
「良い事を教えてやろう。モネ・エルピス。」
「………何だ。」
「耳を貸すな!モネ!」
修羅が大きな声でそう叫ぶ。
しかし、モネがその声を知るはずもなく、声のした黒づくめを見つめる。
「…?(誰だ…?この声…。原作上、こんな男の声はなかったはずだが…。もしかして、未来の私は何かとちったか?)」
「モネ・エルピス。貴様は近い未来…リオン・マグナスを救えずに死ぬ。」
「っ!?」
「そんな事ない!!」
カイルが腹の底から叫ぶ。
そして怒った表情で武器を取ると、バルバトスへと剣先を向けた。
「バルバトス、勝負だ!!!」
「ふん。貴様らごと後ろのモネを屠ってやるわ!!!」
それぞれがバルバトスへ仕掛ける中、リアラはモネに近付きその手を優しく握る。
「……自信を持って?モネ。あなたは、私を救ってくれた一人よ。」
「私が……君のようなレディを?」
黒づくめで全身が見えず、中の人が分からないというのに、モネはリアラの声でレディと言ったのだ。
…いや、モネだからこそ、その声がリアラだとすぐに気付いていた。
しかしその名前を呼ぶことは御法度だと、何となくで勘付いたモネはリアラをそう呼んだのだ。
「うん。だから今の自分を否定しないで?あなたはあなたの成すべきことを見つけられている。そしてちゃんとそれは叶うわ。」
「…! 君のようなレディにそう言われたら、そうなるんだと確信出来るね。」
モネは例の余裕そうな顔へと戻すと、ニヤリと笑いながらリアラへそう言い、目の前の黒づくめを優しく抱き締めた。
そして優しく──優しく目の前の黒づくめへと言葉を紡いだ。
「……ありがとう。誰とも知らないレディ。」
「…うん!」
そして勇ましくリアラの前に立つと、モネはバルバトスへ相棒を変形させた銃を向け、気絶弾を撃った。
思わぬ援護にバルバトスが首の皮一枚でそれを避け、撃った本人を見遣る。
「レディに応援されて、負ける訳にはいかないね!!」
「「「…!!!」」」
「……あれを聞いても尚、立ち向かってくるか。モネ・エルピス。」
「私は私の為すべきことをするだけさ。そして私の悲願を…必ず叶えてみせる!!」
「ハッ!笑止!!」
バルバトスがモネに攻撃しようとするのをジューダスが防ぐ。
そしてモネがなんとしても攻撃をしないように仲間たちは手分けをしてバルバトスへと攻撃を仕掛けた。
それにモネが目を丸くしていたけれど、フッと笑うと全員に回復をかけてくれた。
「___ディスペルキュア!」
「「「!!」」」
「ありがとう、誰かも分からない黒い人たち。私なんかのために。」
「ううん!モネ、違うよ!」
「…?」
「“私なんか”──じゃないよ!モネが、モネだから助けるんだよ!!」
「…!! (未来の私はどうやらカイル達に慕われる存在になってるようだね…。そう思ったらもっと頑張らなくちゃって気持ちになるよ。)」
一度胸に手を置いたモネは嬉しそうに笑い、目を閉じるとギュッと手を握る。
「小癪なっ!!!」
バルバトスが武器を大きく振るうと、その猛威を振るう威力に堪らず仲間たちが吹き飛ばされてしまった。
そして場にはカイル達が守っていたモネだけが残ってしまい、ジューダスが慌てだす。
「っ!───」
ジューダスが声を出そうとした瞬間、修羅がジューダスの口を手で塞ぐ。
そして小声でジューダスに話し掛ける。
「……馬鹿っ…!あんたが声を出したら今までの苦労がパァになるだろっ…!!」
そんな中、バルバトスはモネの正面に立ち武器をモネへと向けた。
その肝心のモネは、バルバトスが武器を向けても目を閉じて同じ状態でいる。
仲間たちがもうダメだ、と慌て始めた頃、モネはくすりと笑った。
「……どこまで私が言っていいのか、皆目見当もつかないけど…。どうせ君達は遠い未来から来たんだろう?」
「「「…!!」」」
「……ど、どうする…?!」
「……どう、って言われてもアタシにも分からないよ…!!」
ロニとナナリーが小声でそう話す中、モネはゆっくりと目を開き目の前のバルバトスへと余裕の表情を向ける。
そして相棒を持つと優雅に構えた。
「何がどうなって君達がここに来ることになったか……私には分からないけど。それでもこの時代に来たなら…折角だ。私のショーでも見ていくといい。───ここからは、私の時間だ。」
ニヤリと笑ったモネは瞬時にバルバトスの背後にテレポーテーションを使い移動すると、相棒を振るう。
それを辛うじてしゃがむ事で避けたバルバトスの頭にモネが手を置き、高く飛ぶと相棒を銃へと変化させ、真上からバルバトスへ向けて魔法弾を放った。
頭に弾が直撃したバルバトスが一瞬くらりと体をふらつかせ、膝をつく。
「くすっ。もう終わりかい?」
地面に着地したモネはバルバトスへと目を細め笑うと、その挑発に乗ったバルバトスが間髪入れずに攻撃を仕掛ける。
しかしその攻撃をモネは躱し続け、ニヤリと笑った。
「おー、怖い怖い。」
「黙れ、黙れ黙れ黙れっ!!!」
「黙ったらいいのか?違うだろう?」
「黙れぇぇーーー!!!!」
バルバトスの大振りの攻撃を躱した後、モネは再びテレポーテーションを使う。
姿を見失ったバルバトスは辺りを見渡し、カイル達もその姿を探した。
すると何処からともなく魔法がバルバトスへと襲い掛かる。
地属性の魔法かと思えば、次に見えたのは火属性の魔法。
様々な属性の攻撃がバルバトスに襲いかかると、バルバトスが遂に叫んで色んな場所を攻撃し始める。
それはまるで錯乱したように怒り狂いながら何も無いところに攻撃していた。
「───そっちじゃないよ。」
「ウルァァァァ!!」
「──ふふ。そっちでもないよ?」
「ウガァァァ!!!!!」
何処から聞こえてくるか分からないその声に、息を切らしたバルバトスが攻撃を止める。
乱れた髪をそのままに、呼吸を整えているバルバトスの背後からひょこっと現れたモネは、それはそれは可笑しそうに笑いながら彼の肩へとタッチする。
「残念でした。こっちだったよ?」
「……クソがぁぁぁぁああああ!!!!」
武器を手に持って背後へと攻撃したバルバトスだったが、刹那──彼の額には銃が突き付けられていた。
「──遊びは終わりだ。」
パァンと激しい銃声が聞こえた後、あのバルバトスが白目を剥き後ろへと倒れた。
それを見てくすりと笑ったモネは、相棒を一振りして剣の状態へと戻した後、ゆっくりとそれを腰へと戻した。
そしてカイル達である黒づくめを見て、余裕そうな顔で笑った。
「くすっ…。少しは楽しめたかい?レディたち?」
「す、すげえ…。あのバルバトスを倒しちまうなんてよ…。」
「倒してないよ。ただ気絶してるだけだから、恐らくまた起きてどっかに行くだろう。それこそ、悔しがりながら、ね?」
そう話すとモネは前髪を掻きあげ、困った顔でカイル達を見た。
それは彼らと話してもいいのかと自身に問いかけ、迷っているような顔でもあった。
「……どうせ、このまま見学していくだろう?だったら先にあれに乗っておくといい。」
モネが指差したのは例のリフトだった。
「少し遠いけど、君たちの見たいものは見れると思うよ?……ただ、これだけは約束してくれ。」
そう言ってモネは一番先頭にいたカイルへと近付き、しゃがむと小指を差し出した。
それはよく見る、子供との約束をする時の指だった。
「絶対にあそこから出ないこと。これが守れないなら君達のいた時代に戻るんだ。いいね?」
「……。」
どうしていいか分からないカイルが仲間達へと振り返る。
しかし他の仲間たちもどうしていいかなんて答えが出るはずもない。
「君達を怖い事に巻き込む気はない。約束をしてくれなければ君達をどうにかしないといけなくなる。だから私と約束してくれないかい?」
「う、うん…。」
カイルは恐る恐る指を差し出すと、モネはその指に自身の指を絡ませ、そのまま例の約束をするわらべ唄を歌いきると指を離す。
そしてモネは立ち上がると、カイルの頭を優しく撫でた。
「いい子だ。」
モネは指を鳴らすと全員をリフトへと押し込め、スタン達が来る入口付近を見張るように見つめる。
そんな中、カイルがうずうずとするとリフトから外に出てしまう。
「スノウ……じゃなかった…!モネ…さん!!」
「んー?」
カイルがリフトから出てきた事に目を丸くしながら彼がこっちに来るのを待つと、息を切らしながらカイルはモネに話し掛ける。
「あの…、その…。」
「……。」
言いづらそうにするカイルに、モネは目を瞬かせ、そしてくすりと笑うと優しく続きを促す。
そして決心したようにカイルが声を張り上げた。
「えっと…頑張ってください!!あとこれ、受け取ってくださいっ!!」
そう言ってカイルがモネへと渡したのは、パイングミだった。
このゲームではTPという扱いだが、モネにとっては魔力回復のアイテムである。
その上、パイングミはオレンジグミより回復量が多く、単価が高いためもあり貴重であることはモネも知っていた。
それをカイルがモネに渡してきたのだ。
素直に受け取ったモネはそれを口に入れると、目を細めて笑顔でカイルの頭を撫でる。
「ありがとね。これで気力も体力も全快だ。」
「は、はい!!」
丁度その頃、この場所の入り口から声が聞こえる。……無論、ここに来る人物など決まりきっている。
その声を聞いた瞬間、モネはカイルの背中を押しリフトに乗るように諭すと大きく息を吸い、大きく吐いた後天井を見上げる。
「───メメント・モリ。」
「……っ!!」
その言葉をモネが紡いだ途端、入口からスタンが現れる。
次いでルーティやマリー、ウッドロウなどの英雄達がここへと入ってくる。
その中にはソーディアン・シャルティエを持ったリオン・マグナスも混じっていた。
「───どうして、」
「……運命って言ったら……信じるかい?」
「何を馬鹿なことを!!お前、自分が何をしているのか分かっているのか?!!」
「あぁ、分かっているさ。……分かっているからこそ、ここに立っているんだ…。君達の敵として、ね?」
「「「…!!」」」
カイル達が心配そうにモネを見つめる。
その隣では修羅とジューダスが飛び出さないように必死に自身を抑えていた。
「(僕は……あと何度…この悪夢を見ればいい…?)」
『(坊ちゃん…。)』
今にも飛び出していきそうな自分のマスターを心配そうに見て、コアクリスタルをぼんやりと灯す。
しかしそれも杞憂に終わりそうだった。
ジューダスは目を瞑り、大きく息を吐くと、ひたとモネを見据えた。
見たくない光景のはずなのに、ジューダスはちゃんとあの出来事を自分の目で見ることを選んだのだ。
シャルティエもそれを見て決心したようにモネの方へと視線を向けた。
『モネ!!? 嘘ですよね?! なんでヒューゴの手先なんかに…!?』
「それが私の信じる道だからさ。さぁ、何処からでもかかっておいで?合同演習とは違う…、今度は殺す気で戦わせてもらうよ…!」
「嘘だ…! お前が……、お前が!!そんなこと、するはず…!?」
モネはそれを聞く前に相棒を銃に変形させ、チェルシーを迷いなく撃ち抜いた。
それにカイルもリアラも──そこに居た全員が息を呑む。
唯一この場面を知っているジューダスとシャルティエ以外…全員が。
「本気でかかってこないと、全員死ぬよ?さぁ、おいで?」
嘲笑で、狂気の笑いを浮かべたモネが相棒を持っている手とは反対の方の手を優しそうにスタン達へと差し伸べる。
そこからはただの消化試合だった。
震える剣先で攻撃するリオンに、そんなリオンの様子を見て心配そうに、不安そうに見てはモネへの攻撃を躊躇するスタン達。
カイルにとっては久しぶりに会えて嬉しいはずの父親も、モネの事で複雑な顔で見ていた。
「ねえ。最後、どうやってこれが終わるわけ?」
リフトに乗っているカイル達の中で唯一話を知らないハロルドがカイル達に質問する。
そのハロルドの顔も険しそうにモネを見ていた。
「えっと…」
「───最後、モネはスタン達を救う為に自分を犠牲にしてリフトのレバーを下ろす。そして崩落した海底洞窟内の濁流に流され……死ぬ。」
「スタンって誰よ?」
「オレの父さんなんだ。あそこにいる金髪の人なんだけど…。」
カイルがスタンを指差すと、丁度モネがリオンの額に銃を突きつけている所だった。
「さようならだ、私の大切な友達……。そして何に変えても助けたかった…命を賭してでも護りたかった、大事な人よ……。」
「っ!!!??」
乾いた銃声が聞こえた途端、リオンは涙を流しながら倒れそうになる。
「───言っただろう?あの時…今は手の届かない大切な人だ、と……。」
そんなリオンにモネは手を伸ばし、強く抱きしめると、辛そうな顔で…悲しそうな顔で呟いた。
「ごめんね。この先、君と私。一緒になれる未来なんて無いんだ。」
「「「……。」」」
カイル達はそっとジューダスを盗み見た。
しかしそのジューダスの瞳は、じっとモネと気絶しているもう一人の自分に向けられていた。
「お前ら、ちゃんと後学のためにも見ておけ。……フィナーレだぞ。」
そんなジューダスの素っ気ない言葉にカイル達は再びモネ達を見つめる。
それと同時に何処からか低く唸る様な音が聞こえてきて、地震のような地響きまでも伝わってくる。
転びそうになるリアラをカイルが支え、それぞれが地響きに耐えるとスタン達がカイル達の乗っているリフトへと乗り込んでくる。
しかし…モネが乗る気配は無かった。
それに慌ててカイルがリフトから飛び出そうとするのをジューダスが腕を掴み、止めさせる。
「ジューダス?!」
「お前はモネとした約束を破る気なのか?」
「っ! でも…!!」
そんなカイルに修羅も前に立つ事で進路を塞ぐ。
「……スノウを救うんだろ?だったら、我慢しろ。俺だって…、俺だって…!!(本当ならここで俺があいつを助けてやると思っていたのに…!こんなの、あんまりじゃねえか…!!!)」
ギュッとキツく握られた手からは血が出ていた。
そんな修羅を見て、カイルまでもがギュッと拳を握り血を流し、自身が飛び出さない様に耐えていた。
「お、おい!!何をやってるんだ!早くお前もこっちに来いよ!?」
「……敵に同情してるのかい?」
スタン達には目もくれず、モネはただひたすら目の前の機械を弄っていた。
同時に、無情にもリフトの柵は降りてしまい、モネとカイル達は柵ひとつに隔たれてしまった。
「一つだけ、言っておこうか?私は自分の信じる道を突き進んだ。そして、それは私の昔からの悲願を成就させた。だから捨て駒だろうとなんだろうと、何も文句は無いのさ。……ただ、君たちにお願いがあるんだ。私の大切な友達をどうかよろしく頼むよ。彼を支えてやって欲しい。私の分以上に……彼に寄り添ってあげて欲しいんだ。」
その視線は機械に固定されたままで話され、こっちを見る気配もない。
それはモネなりの覚悟の証だった。
『待って下さい、モネ!?なんでその未来に君がいないの?!!おかしいよ!!?』
「シャルティエ。君にもお願いがある。例えリオンと別れる時が来てもどうか見捨てないでやって欲しい。…まぁ、大丈夫だとは思うけどね?」
『モネ、おかしいよ!!?君はまるで未来を知っているかのように…!!以前坊ちゃんに言っていた助けたい人って…、未来の──今の坊ちゃんだったって事?!!どういう事なんですか!?説明してくださいよ!!?』
「シャルティエ。説明は必要ないのさ。私は君たちを裏切った。それだけ覚えててくれればいい。」
『そ、そんな…!?』
「さようなら、シャルティエ。」
『待ってください!!モネも──』
「では、誰がレバーを下ろす役目をすると?」
「「「……!!!」」」
「……。」
『……モネ…。』
腕を組みその光景を淡々と見ているジューダス。そして過去を思い出して辛い思いをするシャルティエ。
どちらも辛い思いをしているのは明らかだった。
『そ、そんな…!!?それじゃ、モネは……、モネはどうなるんですか?!!』
「濁流に巻き込まれるだけさ。そして私は漸く死ねる。長かった……ここまで。」
『簡単に死ぬなんて言わないでくださいっ!!坊ちゃんはどうなるんですか?!』
「私以外に大切な仲間がいるだろう?そこの仲間たちが。」
『違うっ!!そう言ってるんじゃないんです!!僕が言いたいのは──』
「───シャルティエ、時間切れだ。」
モネはレバーを下ろす。
無情で無機質な音が辺りに響いた。
その瞬間、カイルたちを乗せたリフトはどんどんと勢いづくように早く上へと上がっていく。
遠くなっていく中見えたモネは、機械に縋りながら座り込み、そして俯いていた。
この場には泣き叫ぶシャルティエの声と、歯を食いしばりながら目を閉じ現実を受け入れようとするスタン達。
そして同じく何も出来ない歯痒さをどうしようもなく持て余しているカイル達がいた。
そんな中、ジューダスだけは一番柵に近い所で最後までモネの姿を見ていた。
見えなくなるまで見ていたモネの姿…。
最後の笑顔だけは見れなかったけど、ジューダスは知っている。
モネが最期に遺した言葉を。
「……。」
次は……自分の番だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
上がりきったリフトの先、そこで僕らは悲痛に打ちひしがれていた。
そんな時、リオン・マグナスが……昔の僕が目を覚ます。
全員が息を潜める中、昔の僕は目を覚ましたあとぼんやりと辺りを見ていた。
しかしその中にモネの姿がないと分かった昔の僕は、スタンから下りると呆然と呟いた。
「……殺したのか?」
「違うっ…!違うんだ!!」
「何が違う…?お前らがあいつを殺したんじゃないのか…?」
口から出るのはスタン達に対する詰りの言葉。
昔の僕はこの時、こいつらを信じきれてやれず酷い言葉を連ねていたものだ。
『坊ちゃん…!よく、聞いてください……。モネは…、モネは僕達を上に上げるために自ら犠牲になったんです…!!!』
「は…?」
信じられないという顔で昔の僕は言葉を失う。
この時、僕は何を考えていたんだったか……。
───いや、思い出した。
この時は、気絶直前に聞いたモネの言葉を思い出していたんだ。
だからこそ、今ああやって涙を流してるのだろう。
「「「「…!!!」」」」
昔の僕はふと何かに気付いたように頬に触れ、濡れた手を見つめていた。
涙が……この時は分からなかったんだったな。
そんな僕を見て、昔のシャルが苦しそうに声を出していた。
『坊ちゃん……』
苦しげな声音のシャルを見る。
コアクリスタルをぼんやりと灯し、心配そうにしているシャルの様子が見て取れた。
胸が苦しくなるし、涙が出るし、……後は空虚感も襲いかかってきて大変だった覚えがある。
幾らモネと友達になり、感情が少しずつ芽生えて来ていたとはいえ、まだまだこの時の僕は青二才だった。
カイル達も苦しそうにその様子を見ていた。
僕はそれを見て、視線を過去の自分へと移した。
「っどう、して……」
「リオン…。ほんとに、ごめんっ…!」
もらい泣きでもしたのか、スタンの奴が涙を流しながら僕を抱き締めていた。
しかし何も考えられなかった僕は、そのままスタンを激しく突き飛ばしていた。
「……ジューダス…。」
「……見ていろ。あれが僕の最期だ。」
「「「…!!」」」
カイル達が再び苦しそうに俯く。
しかし僕が過去の自分を見ていると分かり、あいつらもまた僕の言う通りにスタン達に向き直った。
「なぜ……どうして、あいつを……気絶させてでも連れてこなかった……?」
「リオン、聞いてくれ…!! あの時、リフトの機械が……」
僕は何かを弁明し始める馬鹿を睨みつけてシャルを構えていた。
それに全員が息を呑み、シャルが悲痛な声を出す。
『坊ちゃん!!!!』
「あいつは……!モネは…!!!」
『坊ちゃん!! 今は仲間割れしてる場合じゃないですよ!!!』
「黙れ…!!」
『っ、』
シャルの言葉がまるで全員に聞こえているかのように、全員が息を呑んで成り行きを見守る。
そして僕は解説するようにカイル達に話し掛けた。
「あの時、僕は自分が気絶していなければ何か変わったかもしれない、と思っていたんだ。」
「あ…。」
「で、でも…あんな遠くにあるやつを…」
「今考えればあんな物、なんとでも出来た。だが、未来を知るはずもない僕達にはあれしか……方法が無かった。だから今こうして僕達は対峙しているんだ。」
ほら言わん事ない。
過去の自分は遂に震える手でスタン達を睨みつけている。
「待ちなさいよ!!あの子は自ら犠牲になったのよ!!? あの時、リフトのレバーはリフトに乗った私達より遠くにあった!!それをあの子が作動させてくれたから私達が助かったのよ!!!」
「だからなんだというんだっ!!!あいつが死んだという事実は変わらないんだぞ?!!! お前達が見捨てた!!それは事実だ!!!!」
「それは…、そうだけど…!!でもどうしようもなかったのよ!!!」
「リオン君、一旦落ち着きたまえ!ここで私達がいがみ合っても彼は喜ばないぞ!」
「知ったような口を…!!!貴様にあいつの何が分かる?!!」
ギリギリとシャルを持つ手が強くなり必然とその手は白くなっていく。
ハラハラと見守るカイル達を見ながら僕は腰に提げているシャルを見下ろした。
するとシャルもこちらに気付いたのか、困った様にコアクリスタルを点していた。
(お前らにだけは…! お前らには、あいつの気持ちなんて分かるはずないのに!!!)
『誰か…!坊ちゃんを止めてください!!このままだと、坊ちゃんが壊れてしまう…!!』
「そんなこと言ったって!!このバカ、全く聞かないじゃない!!!」
『っだから、言ったのに…!! モネ…!!僕は、どうしたらいいの…!!? 教えてよ!!!モネーーっ!!!!!』
悲痛な叫びが全員を苦々しい顔へと変えていく。
そして僕はとうとう全てを諦めた顔をして自身にシャルの剣先を向ける。
リアラは口元に手を当て絶句し、カイルも慌てた様子で僕を見た。
それを僕は静かに見て、首を横に振る。
そして───
「おやすみ、シャル、モネ。」
『坊ちゃんっ!!!!!!!』
しかし僕はこの時シャルの声を聞いて何故か武器を入れ替えていた。
シャルを落とし、自分の胸に……心臓に刺したのはもう一つの短剣だった。
この時何故武器を変えたか、昔は分からなかったが今なら分かる。
シャルにマスターを殺したという罪をなすり付けたくなかったんだ。
最後の最後で、その部分だけは理性が働いていたんだ。
『う、嘘…ですよね?坊ちゃん……?』
カランと床に落ちたシャル、
倒れ行く身体、
深く刺さった剣───
カイル達はもう見ていられないと視線を逸らせてしまっていた。
もう後は、大騒ぎだった。
何度も何度もスタン達は僕に呼びかけていて、回復できる者は回復を施し、シャルも僕を呼んでいた。
しかし時が経ち過ぎたのだろう。
僕の体からは最早血が流れなくなっていた。
涙を流しながらスタン達は俯いてしばらく泣いては動けずにいた。
早く行かなければいけないというのに、あの馬鹿どもはお人好しを炸裂させて動けずにいたのだ。
「なんでっ、何でっ!! 二人も死ななくちゃ行けないんだよッ!!!!?」
「……。」
「モネさん…、リオンさん…!」
結局あの馬鹿どもは僕の亡骸を持って外に出ていくのを僕達は見送る。
そして全員の視線は僕に向けられた。
「───これが、神の眼の騒乱時に起きた……二人の英雄の最期だ。」
「……なぁ、ジューダス。聞いてもいいか?」
「答えられる範囲ならな。」
ロニがバツが悪そうな顔で僕を見て、ポリポリと頭を掻く。
そして中々口を開かなかったが、奴は諦めた様に話し出した。
「俺たち、いつもならソーディアンの言葉とか分からなかったんだけどよ、その……今回は聞こえたんだ。」
「ほう?それは良かったな。」
「あ、あぁ…。それで……なんだが…。」
「何だ。煮え切らないやつだな。ハッキリと言え。」
「分かってるよ…。その……モネさんは、何で未来を知ってたんだ?」
「……その事か。」
「だってよ!シャルティエ、だっけ?お前のソーディアン。そいつがモネが未来を知ってたみたいな言い方してただろ?……だからって言うのも変だけど、気になってよ…。」
僕は暫く黙り込み、修羅を見た。
これは言っていいことなのか、判別がつかなかったからだ。
その視線に気付いた修羅は、面倒そうに僕を見て頭を掻いていた。
「……その手の話は、俺がする。」
「え?修羅が?」
「お前、あそこにいたのかよ?」
「いや。俺はこの時代に、まだこの世界に来ていない。…だが、スノウの事で多少なりとも話せる事がある。…同じ〈星詠み人〉としてな。ただ今はスノウを迎えに行ってやろうぜ?」
修羅はそう言ってフードを外した。
全員がフードを外し頷いたのを見て、リアラが問う。
「場所は分かる?」
「そこが見当もつかないな。」
「なら、あそこじゃない?」
ハロルドが指をピンと立てながらそう話す。
「あんた達が言う、現代って時代のレアルタの場所なんじゃない?」
「……ならば、現代のハイデルベルグだな。」
「分かったわ!皆、集まって!」
リアラの元に全員が集まる。
そして手を合わせたリアラと共に仲間たちは、現代へと跳んだ。
救えた筈のスノウを探しに───