第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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「…!」
ふとスノウが空を見上げる。
そこにはラディスロウが遂に攻撃を仕掛けようと天上軍に乗り込む姿があった。
無差別地殻破砕兵器ベルクラントがラディスロウに向けて高純度レンズエネルギー砲を放ち、それがカイル達の乗っているラディスロウに直撃するのを見てスノウが両手を組んで祈る。
どうか、皆無事で…。
「…急ごう。もう…時間がない。」
スノウは皆が無事にベルクラントへと乗り込んだのを確認し、走る。
目的地はすぐそこだから───
……
…………
…………………
カイル達が天上軍の拠点へと乗り込んだ際、何度も爆撃の音がする。
「この音、何…?!」
「外から聞こえるわね…。なるほど、これは砲撃音だわ!」
「…!ベルクラントの無差別攻撃か!」
「それって…スノウ大丈夫なのか…?」
修羅が呟いた言葉にハロルドが頷く。
「大丈夫よ。あの子なら…!」
「うん、行こう!皆!」
カイルの掛け声に合わせて皆が一斉に動き出す。
……本当ならばハロルドには、ハロルド自身の兄でもあるカーレルの元に居て欲しい。
だけど誰もがその言葉は飲み込み、心の奥底に仕舞った。
歴史を守るにはそれしかないのだから。
「全員武器を捨てて投降しろ!」
カイルの言葉に天上軍が不安を見せながら頭の後ろに手を組む。
それを見ていたナナリーは、苦い顔で天上軍を見つめた。
何故なら、ナナリーは知っている。
この人たちが今後どういう運命を辿るのかを…。
「殺されやしないさ。…ただ辛い流刑生活が千年ほど待ってるけどね。」
ナナリーの言葉に天上軍は悔しそうに俯いた。
そしてその先にある制御室へとカイル達が駆けこむと、そこにはやはり原作通りバルバトスが待っていた。
「ようやく来たか…。」
「バルバトス!!」
皆一様に武器を手に持ち、攻撃の姿勢を示す。
ところがその肝心のバルバトスは手に武器は持っているものの、それを構えるような事はしなかった。
それに修羅が一番に反応を示した。
「…?(確か…ここで戦闘になるはずだったが…。記憶違いか…?)」
スノウよりもこのゲームに詳しくはない修羅が、顔を顰めさせる。
しかしその記憶は正しいのだ。
「……。」
「そこを退け‼バルバトス!」
「……貴様らは、"モネ・エルピス"という英雄を知っているか…?」
「「…っ!?」」
「幾ら歴史を辿ろうとも…辿り着けない裏切り者の英雄…。…果たして、奴はどこにいると思う?」
ハロルド以外の全員が、スノウがモネだと知っている。
だからこそ今のバルバトスの言葉に各々が平静を保つのに必死だった。
「まるで…端から俺が来るのが分かっているように、その姿を見せやしない…。あと一人…あと一人だというのに…。」
「な、何を言ってるんだ!」
「カイル・デュナミス。俺はもうディムロスなどどうだっていい…!!貴様と…そしてモネという英雄さえ殺せれば何だっていい!!!!」
「!!!」
その言葉にジューダスが武器を持ち、前線に出る。
そして武器をバルバトスに向け、言い放った。
「あいつを…モネを…!貴様なんかに殺させやしないっ!!!」
「…そういえば、貴様も英雄だったなァ? ……なぁ、そうだろう?…"リオン・マグナス"?」
「あぁそうだ。僕がリオン・マグナスだ!」
「奴と仲の良かったお前には出会えるが…何故あの男には出会えない…?」
「男…?」
修羅が疑問を口にした。
だって、スノウは女の子なのだから。
「そうか…!なんとなくだが、分かったぞ…!貴様の横に居たあの学者…!!」
「…!!!」
「ただの学者の女かと思っていたが……あれが、モネ・エルピスだったのか…!!ふっふっふっふ…!!アッハッハッハッハ!!!───ようやく…ようやく見つけたぞ…!だがしかし、ここには今いないようだな?」
「スノウはここにはいないぞ!」
「ばっか…!」
ロニが慌ててカイルの口を塞ぐも後の祭り。
モネの現在呼ばれている名前をカイルから聞いたバルバトスは、隠しもせずにニヤリと口元を歪ませた。
「カイル・デュナミス。貴様を殺すのは、スノウとやらを殺したその後だ…!」
「「待てっ?!!」」
そう言って消えていったバルバトスに全員が蒼白になる。
今、一人でいるところを狙われたらスノウでも耐えきれないかもしれない…!!
舌打ちをした修羅とジューダスにカイルが謝る。
「ごめん、オレ…。」
「やってしまったものは仕方ない。それよりも早く…」
「…よし!ロックを掛けておいたわ!これで、地上へ攻撃するベルクラントを止める事が出来たはずよ!」
「よし、これでスノウも安心できるな!」
「早く行くわよ!ミクトランの待つ…玉座の間に!」
ハロルドが指を指した後、先行して道案内をする。
それを横目に修羅が走りながら唇を噛んだ。
「(まずい…。このままだと原作と違うようになってしまう…。どうなるか見当がつかないぞ…?!)」
「……。」
そんな修羅をジューダスもまた見ていた。
二人は未来を知る〈星詠み人〉だ。
修羅のその面持ちも、スノウが過去に何度かしていたことがあったために気付いてしまったのだ。
スノウ達の知る未来が変わりつつあるのだと。
「(…スノウ。無事でいてくれ…!)」
願うは彼女の安否ただ一つ。
バルバトスに逃げられたことを今更後悔しても仕方がない。
でも悔やまずにはいられなかった。
「早く行くぞ!」
そうして、ジューダス達は玉座の間につき、そして例の歴史の一幕を見てしまう。
ハロルドの兄、カーレルがミクトランと相打ちをするところを…。
駆け寄るハロルドの眼には涙が浮かんでいた。
いつもなら"兄貴"と呼ぶ彼女が今だけは「兄さん」と涙声で呼びかける。
その言葉にカーレルが最後の力を振り絞って微笑む。
「どうした…ハロルド…。なに、泣いてるんだ…?また誰かに…いじめ、られたのか…?…あんしんしろ……にいちゃん、が……まも…って…」
「しゃべっちゃ駄目だってば!!!」
「にいちゃ…は……いつ…も………おま、え……いっしょ……だ…」
「……兄さん?」
ハロルドは動かなくなったカーレルの手を握る。
そして何度も何度も必死に呼びかけた。
けれども、その手が…体が、動くことは無かった。
「兄さぁぁーーーんッ!!!」
泣き叫ぶハロルドに、ディムロスが肩へ手をそっと置いた。
そして全員が目を閉じ黙祷する。
……同志が一人、旅立ってしまったのだから。
沈黙の中、全員が地上へと帰還する。
その空気は長い戦いを終え、喜びに満ち溢れるだけの物では無かった。それくらいにその場の空気は非常に重たかった。
亡きカーレルの遺体を天上にあった棺に入れ、帰還したあと全員でお墓を掘りそこに埋葬した。
地上に戻った頃にはもはやハロルドの瞳には涙はなく、それを物静かに見て受け止めていた。
稀代の名演説と呼ばれたリトラー総司令の演説をカイル達は遠くから聞く。
そこには整列する地上軍とソーディアンチームの姿があった。
まさか、こんな気持ちで聞くことになるとは…、と全員が落ち込んでいるとカイルが皆を振り返って呟く。
「ねえ、ロニ。これでよかったのかな…。」
「ん?何がだ?」
「あの時オレたちがハロルドを先に行かせていれば、戦況はまた違ったんじゃないかなって…。そう思ってさ。」
決行前日に全員で話し合って決めたのだ。"───ハロルドには何も言わないでおこう"、と。
それを皆は守り、そしてカーレルは史実通りに死んだ。
その事に胸を痛めているのは何もカイルだけではない。他の皆も胸を痛めていた。
だが、ロニの瞳は違った。
「カイル───」
「あんた、アホね。それじゃ、あのサルとレベルが同じよ!」
いつの間に演説が終わったのか、遠くに居たカイル達の元にハロルドがやってきた。
そしてカイルに向かってしっかりと声を張り上げてそう言ったのだ。
「ハロルド!」
「いい?未来を知る者が、自分の都合だけで歴史を変えちゃいけないわ。」
「それは…分かってるよ。でも―――」
「それにね?兄貴の死は運命でもなければ、無駄死にでもなかった。兄貴は兄貴なりに一生懸命生きてきた、その結果だもの。だから悔いが残らない幸せな人生だったと思うわ。」
「ハロルド…。」
「例え死が決まっていたとしても、精一杯生きて、幸せを掴む…。」
リアラがそう呟くと、ハロルドから警告音のようなものが鳴り響く。
「…!!」
慌ててハロルドが小型のモニターを出してその警告音の元を確認すると、ハロルドは仲間たちに向かって叫んだ。
それは必死な表情で―――
「まずいわ!!あのサル!もうスノウの居場所を突き止めたのよ…!!それに、スノウ自身も体調が万全じゃなさそうだわ…。このままじゃあ…!!」
「っ?! あいつの居場所はどこだ?!!」
「待って!今突き止めているわ…!………え、ここは…!」
「早くしろ!ハロルド!スノウが危ないんだぞ!!」
「分かってるわよ!でも…ここにそんなもの…!」
「ハロルドお願い…!教えて!?」
「――――黄昏都市、レアルタよ!!」
「「「「「「はぁ?!!」」」」」」
………………………
……………
……
ラディスロウがベルクラントに到着した同時刻。
スノウは黄昏都市レアルタを訪れていた。
「…ここだ。」
何度も探索を重ねて、それから何度も考察を重ねた結果……やはりここ、黄昏都市レアルタに泉がある事が分かった。
丁度軍事基地からも近く、そして何よりそこに人の営みがある。どの世界の歴史を辿っても、結局人は何かの力や水のある場所の近くに文明を築く事が多い。
そう考えた時に黄昏都市レアルタはどれにも通ずる物があったのだ。
スノウは黄昏都市レアルタのとある建物へと入っていく。
そこは薄暗い空間が続き、そして――――
「あった。ここだよ、皆。」
後ろを振り返り、カイル君一号……今はカイル君二号となってしまったが、仲間のロボット達がスノウの言葉に大きく頷いて見せた。
まるで心があるように、何処か緊張している彼らにくすりと笑ってスノウが一人一人撫でていく。
「大丈夫。何があっても守るから。」
ピピピ…という機械音の中、スノウがそう話すとロボット達は自分達がスノウを守るんだ、と決意表明をして中へ入っていった。
まるで本物…オリジナルの彼らに似たロボット達はスノウの言葉に同じ反応を示した。
それがスノウのとってどれほど心強く、嬉しいことか。
一つ笑ったスノウも中へと入り、魔法で光を灯すと現れる階段へと目を向けた。
「さぁ行こうか。」
スノウの掛け声と共にロボット達が勇んで入って行く。
我先にとまるで喧嘩するように騒々しく入って行くものだから、スノウは結局しんがりを務めることになる。
ひたすら階段を下ったかと思うと、今度は洞窟の様なものがひたすら下に向かって伸びていた。
ただ……横に逸れる道があったりするのでロボット達が別れて入っては正解の道をスノウに教えてくれていたので、スノウは真っ直ぐ地下へ地下へと降りていく。
「……どれくらいあるんだろう。」
賑やかな道中の最中、スノウはポツリとそう零す。
幾ら下っても下っても何も現れない。まるで出口の見えない迷路みたいだ。
スノウがロボット達と仲良く下りきったその先。
その光景にロボット達も、そしてスノウも驚嘆の声を上げた。
「────綺麗…。」
スノウが呟くその光景は、奥に泉が広がり、その手前には白い花が光を帯びて咲き乱れていたのだ。
スノウは光の魔法を消して呆然とその情景を見つめる。
「ピピピ…、キレイ…!」
「なんて花なのカシラ?」
「分からない。けど……これは、美しいね?」
まるで後世に遺しておきたいとさえ思える壮麗な風景画の様な光景であった。
そしてスノウは我に返ると手にシャルティエを持ち、コアクリスタルを見つめる。
「……ようやく、君を直せるよ。今までの恩を返せること、心から嬉しく思う…。勿論、これだけで足りる恩だとは思ってないけど…それでも、今まで本当によく耐えてくれたね。ありがとう。」
シャルティエに微笑みながらそう話したスノウは一歩ずつゆっくりと歩き出す。
その光景をロボット達は後ろに控えながらじっと見つめる。
スノウが白い花の群生地を通れば、まるで綿ぼうしみたいに光がふわりと舞い上がる。
それはロボットの心も打たれるくらい、綺麗な光景だった。
ふわりふわりと光を舞い上げる中、スノウは泉の前に立つとその場にしゃがみ込む。
そして両手でシャルティエを持つとその泉へとシャルティエを浸けようとしたその時、今まで反応しなかったコアクリスタルが激しく明滅した。
まるでそれは何かを警告するみたいに激しく明滅するのでスノウは僅かに目を見開いたが、そのまま柔らかく笑う。
「……大丈夫だよ。怖くないから。」
『――――!!』
「大丈夫。大丈夫だよ───」
そしてスノウはそのまま両手で持ったシャルティエをゆっくりと自分の手と共に泉に浸ける。
するとソーディアン自体が光り輝き、眩い光は徐々にコアクリスタルへと流れて行くように移動し始める。
それが収束し、光が収まる頃……それは急に話し出した。
『ちょ、ちょっと!!スノウ!早く手を上げてください!!こんな高エネルギーな物質に生身の人間が触れたらどうなるか分からないんですよ?!!!』
「あぁ…。あの激しい光はそういう意味だったのか。」
まるで警告するようにコアクリスタルを点滅させていたシャルティエ。
ようやくその意味が分かり、微苦笑を零したスノウはそっと彼の本体を泉から引き上げる。
すると怒涛に心配してくるものだからスノウが「あぁ…」と嬉しそうに目を細める。
やはりシャルティエはこうでないと。
『聞いてますか?!スノウ!!』
「あぁ、聞いているよ?シャルティエ。」
『もうっ!今度からはちゃんと後先考えて行動して下さいよ!?追放のこと然り、さっきのこと然りですからね!!僕は怒ってますよ!?』
「ふふ。分かったって。」
『いーえ!全っ然っ!分かってないです!!僕の為にそんな身を粉にしなくても―――』
「ううん。違うよ、シャルティエ。」
『?』
「君だから命を賭けれるんだ。」
ふわりと笑ったスノウにシャルティエが言葉を止める。
「助けが必要なのが君だったからこんなに必死になって泉を探して、必死に助けようと思ったんだよ?」
『…!』
「ジューダスの事もあるけど。それ以上に私は君に恩を貰ってるから。ううん、何より私が君を助けたかったからだと思ってくれていいよ。」
『スノウ…。』
「いつもありがとう、シャルティエ。」
するとコアクリスタルがウルウルしたように光がぼんやりしたり光ったりを繰り返す。
なんだかそれは泣いているみたいで、スノウは苦笑いをしながらシャルティエを優しく撫でる。
『うっうっ…、最初っ…、スノウがっ、あまりにも、自分を大事にしないからっ…!僕がちゃんとっ、言わないと、って…!それが……今はっ、こんなにも優しくっ、なって…!うぅ…!!』
「まるで私が最初から優しくないみたいだね?」
『そう、じゃないですっ!!でも、僕っ、今幸せですっ…!坊っちゃんだけでなく、スノウも、こうやって僕と…!うわぁーぁ!』
「ふふ。何言ってるか分からないよ、シャルティエ。」
彼が泣き止むまで白い花の場所に腰を据えて、微笑みながら彼の話を聞いた。
それは叱咤の言葉からお礼の言葉まで様々だったけど、それを聞き逃さず、スノウはずっと微笑みを湛えながらそれを聞いていた。
「やっぱりシャルティエはこうでなくちゃ、ね?」
『どういう事ですか!?』
「ん?こっちの話。」
『もう、スノウったら…。』
そんな話をしてスノウはシャルティエを腰に戻し、立ち上がる。
そこへ招かれざる客が現れた。
「ようやく会えたなァ。モネ・エルピスよ…。」
『「っ?!」』
───いやに聞き慣れた声。
スノウは慌てて相棒を手にし、背後から忍び寄る人物の武器を受け止める。
ところが思いもよらぬ攻撃だった為に、相棒は容易に弾かれ、スノウの体は奥の壁へと叩き付けられた。
背中に来る衝撃で息が詰まり、僅かに口腔内が切れた為か血を吐く。
「くはっ…」
『スノウっ!!!』
そのまま泉に落ちて膝を付けば、体の半分近くが泉に浸かってしまう。
するとスノウの体は無意識に震え、そして途端に体が冷えていく。
スノウの様子に気付いたシャルティエが慌てて声を掛ける。
『スノウっ!しっかりして下さい!!』
「っ、」
「先の英雄が、こんなものか?」
ぴちゃりぴちゃりと音を立て泉に入ってきたバルバトスはスノウの腕を掴むと、いとも簡単に持ち上げ顔を近付ける。
「何の、用だ…!」
「ふん。学者を気取り、見た目と性別を偽装していたとはな。……まさかモネ・エルピスが女だとは……クックック、片腹痛いわっ!!!」
そう言ってバルバトスはスノウを投げ捨てる。
再び泉の中に戻ったスノウは全身が濡れ、余計にその身体を震わせる。
そしてスノウは漸く気付いたのだ。
「っ!(水か…!)」
無意識にトラウマが蘇っていた事で、無意識下に体を震わせていたのだ。
そして蘇る水の中の冷たさ───
「(さ、むい…。体が、つめたく、なって……!)」
「…………まぁいい。俺は俺の目的を達成させるだけだ。」
そう言って泉に浸かりきっているスノウへ、バルバトスは見下ろしながら自身の武器を向ける。
その瞳は呆れと、そして何かの渇望と、侮蔑の色を湛えていた。
「お前を殺したあとはカイル・デュナミス……あやつを屠ってやるわ。」
「…!」
スノウがそれを聞いて体を動かそうと必死になる。
しかし無意識下でなっているトラウマに適う訳もなく、ただただ寒さで身体を震わせるだけだった。
「(動け…!動け、私の体……!!!)」
『スノウっ!!早く逃げて!!』
「残念だったなァ?モネ・エルピス。俺がカイル・デュナミスを屠る所を見れなくてな。─────ではあの世へ逝け、モネ・エルピス。」
『やめろぉぉーー!!!!』
シャルティエが悲痛に叫んだ刹那、バルバトスへ向けて一筋の光線が放たれる。
素晴らしい威力を誇るその光線はバルバトスの頬を掠め、壁を破壊した。
『「っ!?」』
殺られると思っていたスノウだったが、その光線の元を辿るとロボットである彼らがけたたましい警告音を発しながら次の攻撃の準備をしているのが見えた。
そして次々とその光線たちはバルバトスの体を貫こうと発射される。
バルバトスはその光線を躱しながら忌々しそうにロボットを睨みつけた。
「またしても邪魔立てするか…!」
「み、んな…」
「スノウ!逃げテ!!」
「ここは俺達が引き受けるからヨ!!お前さんはまだやる事があるんじゃねえカ?!」
リアラとロニを模したロボットがスノウに向かってそう叫ぶ。
それにハッとしたスノウは歯を食いしばり、漸く身体を震わせながら立ち上がる事が出来る。
それに酷く感動したようにシャルティエがスノウの名前を呼ぶ。
「スノウ!」
「……カイル君二号…」
「ここはオレ達に任せテ!ハロルド天才科学者様から施された戦闘技術があるカラ!!」
カイル君二号がそう叫ぶと同時に、全てのロボットが変形し、武器を手にバルバトスに挑んで行った。
だが幾らハロルドの作ったものとはいえ、即席の物だ。
あのバルバトスに勝てる訳もなく、次々とバルバトスの武器の餌食となってしまうロボットたち。
「スノウを守レ!!」
「──スノウ#を守ル!!」
「……やめて…!」
切り刻まれていくロボット達を見てスノウが愕然とする。
彼らを守らなくちゃ、という気持ちがあるのにこの体はちっとも動いちゃくれない。
しかしそんなスノウへ回復をかけてくれるロボが居た。
「ピピッ、大丈夫?スノウ!」
「…!」
───リアラちゃん一号だ。
次第に体の中心から温まるように回復していくのが分かる。それでも少しだけだが、それだけでも僅かにスノウには希望が見えていた。
この好機にスノウは自分の相棒を探す。
しかしそれはかなり吹き飛ばされ、取るには今の自分の体の状態を考えてもリスクが大きすぎた。
すると、今しがたまで泉に浸かっていた事もあってかシャルティエが光っていたがそれが収束すると同時にシャルティエは言葉を紡ぐ。
『___ヒール!』
「っ?!」
ソーディアンとはマスターと呼ばれる持ち主がいて初めて効果を発揮される武器だ。
それがマスターも居ない状態での単体での晶術使用など、聞いたことも見たこともない。
寧ろソーディアン単体で晶術を使うところすら見た事が無かったが故に、スノウは驚いて彼を見た。
『スノウ、話しは後です!早く僕を握って!!』
「…。」
『いいから、早くっ!!』
急かされるままスノウは、腰に提げていたシャルティエを手にする。
すると何ということだろう。
手馴染みが良いのはソーディアンマスターの資格のあるスノウだから今までも同じだったのに、それ以上に……それこそ原作で誰かが言っていたように“吸い付く”ようにスノウの手に馴染んでいるのだ。
今までそんな事無かったのに。
『良いですか、スノウ。今この空間でだけ、僕は単体で晶術を使います。そしてスノウを援護するから、どうかあいつに勝って!!』
「…!」
シャルティエに触れている部分からまるで解凍されていくように体が温まるのを感じた。
動かなかった足が……腕が……全てが動けるようになっていく。
シャルティエに包まれる感覚に襲われて、スノウは泣き笑いの顔でシャルティエを見た。
『あいつに勝って、それから……二人で坊っちゃんに会おう?スノウ。』
「……うん、そうだね。シャルティエ!」
瞳には意志が宿り、強く輝く。
相棒を持つかのようにシャルティエを構えたスノウに、バルバトスが舌打ちをする。
「チッ…。またしてもソーディアンか…!ディムロスといい、お前らはソーディアンで俺を邪魔する。」
「生憎、ここで死ぬ訳にはいかないからね!」
「ほざけ。死に損ないが、何を言おうが変わらん!!」
ロボットから標的をスノウへ変えたバルバトスは、武器を振り翳しスノウを攻撃しようとした。
しかしその前にシャルティエの晶術が発動する。
『___グレイブ!!』
「!!」
バルバトスが咄嗟に避けたその場所の下から鋭利な岩が突出する。
そこへスノウがバルバトスへ瞬時に接近し、シャルティエを振るう。
「くっ、」
「君が何故私を見てモネ・エルピスだと分かったか、それは知らない。だけど、君が今の私に勝てる事は万に一つもない!!!」
「ソーディアンを手に入れてデタラメに強さを感じただけの小娘が…!!!」
『それは違う!だってスノウはソーディアンマスターの資格があって、そして僕のマスターだから!!』
「!!」
だからシャルティエを持った時の感触が変わったのか。
でもそれならジューダスは…?
『今僕には二人の優秀なマスターがいる!!そんな僕に……僕のマスター達にお前が勝てるはずがあるもんか!!!』
「───よく言った、シャル。」
「「!!」」
スノウとバルバトスが驚いて声の元を辿る。
すると二人の間に滑り込むように武器を持ったジューダスが入り込んだ。
それを憎悪の眼差しと期待の眼差しで見つめる二つの瞳があった。
「ジューダス…?!」
「すまない、遅くなった。無事か、スノウ?」
『坊ちゃん!遅いですよ?!!!』
「煩いぞ、シャル。これでも急いだ方だ!!」
「「「「スノウっ!!!」」」」
次いで入口からカイル達の姿が見え、それぞれが武器を持ってバルバトスに挑んで行った。
リアラとハロルドが直ぐに杖を振って回復の晶術をスノウへと施す。
「___ヒール!」
「___キュア!!」
「……皆!」
「迎えに来たよ!スノウ!!」
カイルが振り返りざまに笑顔でそう言う。
その言葉に全員が笑顔で、確かに頷く。
そしてバルバトスへと全員が武器を向けた。
その頼もしい背中たちに、どれだけスノウが嬉しく感じたことか…。
「スノウはやらせないぞ!バルバトス!!ここでお前と決着をつけてやる!!!」
「チッ!!またしても邪魔をするか!!!」
「ハッ!お前さんが散々捨て台詞を吐いてたからなぁ!!」
「……ここで相手するのは面倒だ。ならば、モネ・エルピス。」
「…?」
「俺の貴様を殺すという覚悟はまだ変わらん。……だが、元のお前を殺したら、今のお前はどうなるんだろうなァ?」
「!!」
冷や汗が背中を伝うスノウ。
もしや、バルバトスは海底洞窟で死したモネを殺しに行こうというのだろうか。
そんな事をしたら誰があのレバーを引く役目をしなければならない?
「確かに貴様は神出鬼没だ。だが…固定された位置にいる貴様を斬り捨てれば、今の貴様は“死ぬ”だろう?」
「やめろっ!!? あの時の私を殺すな!!」
「クックック、ハッハッハ!!! その顔だ…!その顔が見たかったのだ…!! じゃあな?今のモネ・エルピス?」
そう言ってバルバトスが一瞬にして立ち去る。
その瞬間、スノウに異変が起きてしまった。
「あぁ…!!」
「「「スノウ?!」」」
スノウの体が透け始めたのだ。
そして持っていたはずのシャルティエがスノウの手をすり抜けるとカランと音を立てて地面に転がった。
まるで、スノウの存在自体が消えかかっているかのように……その手は存在していないかのようにシャルティエが落ちていったのだ。
『スノウっ!』
「っ、」
ジューダスが慌ててスノウに触ろうとするが、それをすり抜けてしまった事に仲間たちもスノウもまた絶望の顔をした。
ジューダスでさえも絶望の顔をさせてスノウを恐る恐る振り返っていた。
「……君達は、私の過去を知っているね…?」
「で、でも何で?!」
「……あの時の私は、君の両親であるスタンやルーティ…そして他の仲間たちと互角の力量だった…。もし過去の私が仮にバルバトスを倒せたとしても、私は君の両親の攻撃に耐えられず……死ぬだろう。そうすれば……、私は……!」
修羅だけは前世の知識もあるからか、スノウの言葉の意味が分かったようで、一度拳を握った修羅はすぐにリアラへと振り返る。
その顔は焦燥に満ち溢れていた。
「リアラ!早く時間移動をしてくれ! 移動する日時は……現代から18年前の…神の眼の騒乱時の海底洞窟だ!!」
「分かったわ!!」
「……ごめん、皆。 どうか…どうか、過去の私を助けてくれっ…!」
「っ、スノウ!!」
「ジューダ──」
そう言ってスノウはジューダスに向けて手を伸ばし、涙をひとつ零すと、光の粒子となって消えてしまった。
その手を掴もうとしたジューダスは目の前で消えてしまったスノウの僅かな光を掴むしかなかった。
それに全員が言葉を失った。
ジューダスは絶望したようにその場で膝を着いて愕然としてしまった。
「スノウ…!!」
「……くそ、間に合わなかったのか…!」
修羅のその言葉に、皆が修羅に向き直る。
説明を求めるようにその顔は向けられたが、それよりも先に修羅はリアラへと再び声を掛ける。
「急ごうっ! モネを助ければあいつはまたスノウとしての生を生きられる!!」
「わ、分かったわ! でも…時間移動するだけのレンズが…」
「ならこれを使えば?」
ハロルドがソーディアン達を取り出して地面に置く。
それにカイル達は喜んでハロルドを見る。
そして原作お決まりの言葉をハロルドが言った。
「よし!じゃあ行きましょ!スノウを助けに!」
「……ちょっと待て?お前まさかついてくる気か?!」
「あら。行かせてくれないならこれは使わせてあげないわよ? それに言ったでしょ?私の頭脳が神をも超えることを証明してみせるって!」
「何でもいいから、リアラ早くしてくれ!」
「ええ!皆行くわよ!!」
そうして仲間たちは過去のスノウを救う為に時空移動をした。
居なくなってしまったスノウの身を案じながら───