第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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雪山を降りたスノウとカイル君1号は近くの街、黄昏都市レアルタを目指していた。
一応、今日泊まる宿と食事目的の為だ。
久しぶりの街だからか、カイル君1号が嬉しそうに跳ねたり飛んだりするものだから、それを見ていたスノウもまた笑顔になる。
「随分とご機嫌だね?」
「ピピッ!ようやく街に行けるんダヨー!?スノウは嬉しくナイノ?」
「まぁ、嬉しいっちゃ嬉しいけど、君ほどじゃないかな?」
そんな事を話している合間にも、二人は黄昏都市レアルタへと到着した。
相変わらず閑散としており、街ではあるが歩行者はあまり見かけなかった。恐らく先日の空中襲撃の件があったからだろう事がこの町の様子からしても窺える。
「宿屋はあっちダヨ!」
「うん、道案内ありがとう。」
「へっへー!」
嬉しそうに先を進むカイル君一号を追いかけスノウが歩いていると、その背後から襲い掛かるものがあった。
「スノウーーー!!」
「え、この声…。リア───」
振り返る直前に何かに抱き着かれ、スノウはそのままレアルタの地面に頭を打つ羽目になった。
「うぐっ?!!」
「会いたカッタ~~!!」
スノウが上に乗っかった重い物体を確認するとそれはカイル君一号に似た寸胴なロボットで、しかし見た目はカイル君一号と異なりデフォルメされたリアラだった。
すりすりと擦り寄るリアラに困った顔でいると、カイル君一号が事態を把握して駆けつける。
「エ?!リアラ?!」
「CL-01も元気そうで良カッタワ!」
「…そこは変わらず品番なんだ…?」
スノウを立ち上がらせたカイル君一号はリアラのロボットを見てとてつもなく驚いていた。
…因みに名前は何だろう?
「お名前、聞いてもいいかな?」
「私ハ、REL-01よ!」
「あ…。やっぱりそこはそうなんだ…。」
「ハロルド天才科学者様から言伝を貰っているワ!」
「"ハロルド天才科学者様"…。」
次々と突っ込みどころが多くて、笑いそうになるのを堪えたスノウは取り敢えずREL-01から要件を聞くことにした。
それは、
「私の事ハ、合間を取ってリアラちゃん一号と呼んでネ!」
「ですよねー。」
突っ込まざるを得ない状況に突っ込んだ所で、改めてリアラちゃん一号を見るとカイル君一号よりは性能が良さそうに見えた。
やはり自分の研究室でなら、彼女も効果を発揮できるのだろう。
そのリアラちゃん一号はカイル君一号を見ると、こう告げる。
「CL-01は一度ハロルド天才科学者様の元に帰って、施しを受ケテネ!」
「え?うん、分カッタ!」
そう言って超特急で施設へと戻って行くカイル君一号を見送ったスノウは、そのままリアラちゃん一号の案内で食事処を訪れていた。
そういえば、「後で食料も買いこまないと」とリアラちゃん一号が言っていたがやはり中に内蔵できる機能が付けられているのだろう。
またレーションの事言わないとね。
「スノウはどんな料理が好キ?」
「うーん。私は案外何でも行けるよ?好き嫌いもないしね。」
「すごいワ!さすがスノウよネ!」
「はは…。ありがとう。」
調子が狂うような感じで会話が進んでいくが、この子も悪気がある訳じゃない。
いつもカイル君一号を相手するように普通に話せば、リアラちゃん一号は嬉しそうに笑っていた。
前にも言ったけど、もう少し見た目を人間っぽくすれば本当に彼女のようにも見えるのかもしれない。
だが、この寸胴が存外可愛らしいポイントだとハロルドは言ってるのだろうし、そこは何も言わないでおこうとスノウはそのまま口には出さなかった。
「ここはコレが美味しいって言ってたワヨ?」
「じゃあ、それにしようかな?」
食事処でリアラちゃん一号のおすすめを頼み、待っている間も絶えず会話をしてくれるリアラちゃん一号だったが、どこか様子がおかしい。
なんて言うんだろうか。その何とも言えない違和感をスノウは感じていた。
「…?」
「どうしたノ?スノウ。」
「うーん、何でもないんだ。」
「ソウ?」
「うん、気のせいだ。きっと。」
「ピピピ…。」
あぁ、やっぱりこの子もピピという機械音は出るのか。
なんとなくそう思ったところでスノウの元にご飯が配膳される。
それを食べようと手を合わせようとすると横から視線を感じる。
「…食べる?」
「ウウン。スノウが何が好きか学習中ナノ。」
「あ、そうなんだ。やっぱりAIみたいなものが組み込んであるんだね。やっぱりこの時代は私たちが居た時代とは違って先進的だね。」
暖かな食べ物を食べながらスノウがリアラちゃん一号を見る。
そこには笑顔でこちらを見ているリアラちゃん一号が居て、スノウは人知れず笑みをこぼしたのだった。
見た目が違えど、仲間と思えるようなものが近くにあって緊張が無意識に解れたからだ。
「そういえば、何の食材を買いたいの?」
「人参、ピーマン、レタスやキャベツ、それから肉類に魚介系―――」
「ちょ、ちょっと待った。そんなにどこに入るのかな?」
「ココ。」
身体をガチャリと開けたリアラちゃん一号にスノウが「わお…」と声を漏らす。
中の空洞はまるで四次元ポケットみたいに乱雑に物が入れ込まれていたからだ。
「ココが冷凍空間で、こっちの部分は―――」
リアラちゃん一号が説明するために自身の手を体の中に入れる。
するとやはり四次元ポケット的な役割をしているのか、中に入った手は見えなくなってしまっていた。
それに思わずスプーンを落としたスノウだったが、リアラちゃん一号はそれを気にすることなく説明を続けていた。
ここの食堂のおばちゃんがさりげなくスプーンの替えを持ってきてサッと入れ替えていたことにスノウは気付いていない。
「こっちはスノウの役に立つアイテムがたくさん入ってテ…」
「……うん、沢山入る事は分かったかな…?」
「あ、後…ハロルド天才科学者様より伝言与ってるワ。」
「まだあったんだ。」
「ピピピ…。再生シマス。」
「え、再生?」
『―――ピー、ジジジジジ…。あー、テストテスト…。』
「すごい、ハロルドの声だ。」
『ちょっとー。あんたがちゃんと食べないからアトワイトに怒られちゃったじゃない!!物凄くカンカンだったわよー?もうっ、勘弁してちょーだい!!だから良い?!ちゃんと食べるのよ!!その為にREL-01を送り込んだんだから!!まったく…』
そこまで再生されるとまた機械音が鳴り響き、音が聞こえなくなる。
どうやら帰ってからこっぴどく怒られたようで、ハロルドの言葉は若干怒っているようにも思えた。
スノウはそれを聞いて少しだけ笑ってしまう。
アトワイト相手だと子供のように怒られるハロルドが思い浮かんでしまったからだ。
「なるほど…。今回のロボットは料理系ロボなんだ。……ん、料理系ロボ?」
という事はレーションが通用しないタイプか?
新たな悩みを見つけてしまい、一度考えることを放棄したスノウはそのままスプーンを手にし、食事を再開した。
少しだけ冷めてしまった食事をとりながら、横に居たリアラちゃん一号を見ていると、ふと笑みを浮かべるスノウ。
……なんだかんだ、ハロルドがこうして作ってくれるのが嬉しい。
今度は誰が来るんだろう、と楽しみまで出来てしまった。
料理の事で色々あるかもしれないが、今はそんな事よりも嬉しさが勝ってしまったスノウだった。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:
「さて、行こうか?」
「ハイ!」
「ふふ…。」
「??」
「いや、何でもないよ。」
食材も買い込み、宿で泊まり、いよいよ泉探し再開だが…。
前回も思っていたユニットのエネルギーについて、スノウはとある考察を立てていた。
「……もしかして、ユニットの原動力であるエネルギーってのは……彗星エネルギーなのか…?」
「スノウ。」
「ん?」
「エネルギーの湧く泉について……というより、エネルギーについてハロルド天才科学者様から言伝貰ってるワ!」
「へえ…!なんてタイミングの良い───」
「再生シマス。」
そう言ってまた例の機械音が聞こえ始める。
どうやらハロルドが気を利かせて、自らの肉声を撮ったようだ。
『やっほー。聞こえてるー?私あんたに説明してないことあったのよねー。』
「ふふ。相変わらずだね?ハロルド。」
『で、あんたが探すエネルギーだけど、詳しく言うとユニットはただレンズエネルギーだけで作動するものではないのよ。あんたなら分かってたかもしれないけど、この戦争の発端となった彗星……あの彗星エネルギーを利用するのよ。それは膨大な力を有していて未だ天上人はそのエネルギーを使いきれていない。だからこそ、ソーディアンにはピッタリってわけ!』
時折ピピピという機械音を鳴らしながら、ハロルドの音声が流れる。
それは丁度聞きたかったエネルギーについての話で、スノウは驚きで目を丸くしながらそれを聞いていた。
料理の事といい、エネルギーの事と言い……何かタイミングが良すぎる。
「……いや、考えすぎか。」
もしかして盗撮されてる?
なんて言葉は呑み込んで、今はハロルドの言葉を静かに聞くことにした。
『彗星エネルギーは未だ未知に近い物質よ!下手に近付いて怪我をしないよーに気を付けるのよ!いいわね!?』
そう言って音声はブツリと切れてしまった。
それを聞いてスノウは大きく頷いてから、リアラちゃん一号にお礼を伝える。
それにリアラちゃん一号も嬉しそうに機械音を鳴らすと、リアラのような声に戻った。
「役に立ッタ?」
「うん。ナイスタイミングだったよ。さて、エネルギーの質がわかった所で今度は聞き込みをしようか?」
リアラちゃん一号を引き連れて、黄昏都市レアルタで聞き込みをするスノウ。
それを後ろからリアラちゃん一号が追いかける。
「ピピピ……」
ピピという機械音を鳴らしながら、リアラちゃん一号はスノウを見つめる。
そう、このロボットの瞳はカメラレンズが取り付けられている。(無論、カイル君一号にも、だ。)
そして映像を記録する際に「ピピピ」という音を発していた。
しかし、そんな事を知るはずもないスノウはその音をただの機械音と認識していたので気にした様子もない。
だから盗撮されているとは思っていないのだ。
「……へぇ、なるほど。」
街の人から話を聞いていたスノウがそう呟く。
何か分かったようで街の人に手を振り別れた途端、口元に手を当て考え込んでしまった。
「どうしタノ?」
「……。」
「スノウ?」
いつもの癖が発動し、考え事に勤しむスノウだったがぼんやりと遠くを見つめ始める。
「……もしかして。」
スノウは意識を現実に戻すとリアラちゃん一号へ振り向き、そして柔和に笑う。
頭を撫でた後、優しく声を掛ける。
「急にごめんね?この世界の地図とか持ってないかな?」
「持ってルワ!」
リアラちゃん一号が取り出したのは綺麗に折り畳まれた地図で、それを広げると大きな地図が現れる。
それを見ながらスノウはリアラちゃん一号にも見えるようにしゃがんでくれた。
「これはあくまでも私の仮定の話なんだけど…。彗星の話を街の人に聞いたら多くの人がこう言うんだ。〝彗星が落ちたのは人の居ない場所だった〟とね?」
「人の居ない場所?それはドコなの?」
「そこなんだよ。」
そして広げた地図のある所を差すスノウ。
それをピピピ…とリアラちゃん一号がその指を追っていく。
「けど、ハロルドが言っていた泉は確かにある、という事がさっきので分かった。」
「???」
「えっと、そうだね…。」
指が一度彷徨うが、直ぐに黄昏都市レアルタを指差す。
「さっきの情報からも分かる通り、人の居ない所に落ちたのならこのレアルタや……蒼天都市ヴァンジェロ……そして、紅蓮都市スペランツァ……この三つには落ちなかった事になる。」
地図上で分かりやすく指を置いていくスノウ。
視点を固定させていたリアラちゃん一号は返事だけで頷くことはしなかったが、スノウは気にした様子もなく話を続けた。
「そして、この三つの街には共通点がある。どれも〝泉のような大きな水溜まりは無かった〟という点だ。そしてそれは未来にも言える話だ。私達の居た時代……そこと同じ場所を見てもやはり泉は無かった。干上がったのならいざ知らないが……元々黄昏都市レアルタは現代で言う所のハイデルベルグになる。そこにはそんなものはないし、他にも当てはまる場所は該当しない…。」
「スゴいワ、スノウ。まるで探偵さんミタイ!」
「ははっ。ありがとう?」
そうしてスノウが今度は別の場所を指差す。
「そうなると場所は絞られてくる。この時代の軍事施設はこの地図を見ても分かる通り何ヶ所か存在している。そしてそこにも落ちていないところを見ると……ここか、ここ…。またはこの辺り…。」
スッスッと動く指にそれに合わせてリアラちゃん一号がピピピと鳴らす。
それは今も向こうでこちらの様子を窺っていることを意味していた。
……
………………
…………………………
ハロルドの自室にて、丁度カイル達が集まってスノウの様子を見ようとしていたところだった。
スノウの説明が入った所で慌てて全員が映像の前に集まり着席した。
そしてスノウの仮定の話を聞いて、こちらでも談義に話が咲く。
「現代で言うなら、泉なんて無かったように思えるけどなぁ?」
「オレ達が知らないだけとか?スノウは色んな所に行ってるし物知りだからさ!」
「俺も〈赤眼の蜘蛛〉の拠点の近くなら自信はあるが……他は分からないな。」
「あいつにも何か考えがあるんだろう。ここは話を聞け、お前ら。」
画面の地図に置かれた指が再び……動き出し、そして止まる。
しかしそこは地図でも海にあたる所で何も無い場所だ。
それには全員が首を傾げさせる。
言葉もないために何故そこに置かれたか分からない指を見ながら誰かが喋ろうとした時、再びスノウの声が聞こえる。
「……ここが、海になってる…。ということは…例の地殻変動ってのは……外殻が落ちてきて形成された街、なのか…。」
そう言われて全員で納得した。
そこはアクアヴェイルより南に位置し、現代で言う海洋都市アマルフィに属するところだったからだ。
確かに海洋都市アマルフィについて、スノウは全く知識が無かった。だから彼女がそこを疑うのは道理なのかもしれない。
そして指がまた動き出す。
「蒼天都市はクレスタに位置し……紅蓮都市はサイリル……。現代では天上のゴミがカルバレイスに落ちて……。んー?」
どうやら坩堝に嵌ったようで、先程までの考察は何処へやら指が遠退いてしまう。
それに合わせて画面は眉間にシワを寄せているスノウへ向けられていた。
想像以上に険しい顔をしていたスノウだったが、すぐに表情をハッと何かに気付いたように変え、とある方向を見る。
そして慌てた様子でこちらに手を伸ばしていた。
その瞬間、激しい爆音と共に画面が暗くなる。
それに全員が息を呑んで画面を見守る。
しかしそれが回復する様子がなく、ハロルドが慌ててパソコンを構う。
「…! まずいわっ!?レアルタの近くにダイクロフトの攻撃が落ちてるわよ!!」
「「「「「!?」」」」」
「スノウ、無事かしら…?」
リアラが不安そうに呟くと映像が復活する。
そこには瓦礫の横に横たわるスノウの姿があった。
その姿に死んだのか、と全員が顔を真っ青にさせる。
映像がスノウの近くに寄り、手を伸ばして身体を揺すっていた。
暫く声を掛けた後、スノウが目を開けてムクリと起き上がる。
「いてて…。また派手にやられたね…。怪我はないかい?」
「スノウこそ…!大丈夫?」
「掠り傷程度だから大丈夫。いやぁ、しかし……運が良いような悪いような……」
そう言った後、スノウは周りを見て苦笑いをした。
そしてそんなスノウの周りにレアルタの街の人が駆け寄る。
「あんた、大丈夫かい?!」
「運悪すぎだろ!?」
「俺の家がぁぁあ!!!」
どうやらレアルタの近くに落ちた攻撃により、運が悪いことに誰かの家の瓦礫がスノウの方に飛んできたらしい。
しかしそれが直撃せずに掠った程度だったから無事でいられた様子だった。
それにカイル達は安心して大きく息を吐く。
そして映っている映像がまた少しだけ乱れる。それにハロルドが口をへの字にして見ていた。
「さっきので故障したわね。直さないと……」
しかし向こうでは町民が座り込んでいるスノウを引き連れて何処かへ移動させようとしているところだった。
そこでプツンと映像は切れてしまった。
「ここは…この子の番ね!」
そう言ってハロルドが奥からカイル君一号とロニを模したロボットを出してきた。
それを見たカイルは目を輝かせ、ロニは複雑そうな顔をした。
新しくなったカイル君一号がポーズを決め、それに合わせてカイルもポーズを決めていた。
ロニはあまりにも自分をデフォルメされたことが気に入らないらしく、ハロルドに文句を言っていた。
そんな中、カイル君一号とロニ型ロボットが外に向かって出発する。
どうやらこれからスノウの所に行くようだ。
「これでカメラが三台になるから色んな視線から見れるわね!」
「……これって、盗撮じゃないか?」
「いいじゃない!本人は気付いていないんだし!」
修羅がハロルドの言葉に呆れて首を振るのに対し、ハロルドはルンルンと二つのロボットを見送っていた。
そしてリアラの分もあるということを知り、他の人達が疑問を口にする。
「……何体送り込む気だ。」
「えー?そりゃあ仲間全員分あればあの子も安心するでしょ?そしてこっちも何ヶ所からあの子を見れるから一石二鳥ってやつよ!損する人なんて居ないわ!」
「私、天才!」というハロルドの言葉にそれぞれが反応を示す。
それでも誰も否定はしないし、誰もがスノウの無事を望んでいるからハロルドのやる事に文句もないのだ。
ただ、自分達を模したロボットが気に入らない人たちが居るだけで。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+
あれから何日か経ち、カイル達も忙しくなっていた。
物資保管庫へ行った時には途中でスノウに会えるかな、なんて言っていたが残念ながら会うことはなかった。
近くを通ったレアルタは攻撃跡があり、あれでスノウが倒れてたんだなって話をしたり、途中でスノウの様子をハロルドが盗み見てるのをカイル達も気付いて寒い中映像を見ていたり、と仲間たちは常にスノウの安否を気にしていた。
結局ハロルドが急ピッチで仕上げたジューダスや修羅、海琉やナナリーのロボットもなんとか出来上がり、それぞれスノウの元へと旅立っていく。
そんな時、ハロルドの自室で映像を開いた途端不穏な気配を全員が察知した。
…………
……………………
………………………………
「……あー、これはまずいかも?」
そう言ってスノウが苦笑いで目の前のものを見る。
それはどの映像から見てもはみ出すくらい巨大な魔物だった。
吹雪で風が強い中、笑いながら目の前の魔物と対峙するスノウだが、その手には武器を持っておらず考え事をしているかのように手を口元に当てていた。
唸り声をあげる魔物を前にして丸腰でいるのだ。
「あいつ…!何故武器を持たない?!」
「バッカ…!」
修羅とジューダスが危機感を持って映像を見る。
カイル達もヒヤヒヤしながらそれを見ていた。
「うーん、どうしようかなぁ?」
『ちょっと、なんで逃げないのさ?!』
映像にはグリムシルフィが急に現れ、怒っている様子が映し出されている。
それに激しく同意している仲間たちを他所に、スノウは肩を竦ませる。
「……目の前のこの魔物…。恐らくエッグベアの原生生物だろうね。現代に居る魔物の古代種なんだろうけど…エッグベアってつまりクマの魔物なんだよ。そして、だ。クマってさ、背中を見せた途端襲い掛かるんだよねー…。」
『だったら前を向いたまま後ろに後退して行けばいいじゃん?このまま睨めっこするつもり?!』
「……。」
魔物を前に目を閉じて考え事をするスノウ。
それにカイル達がごくりと唾を飲み込む。
「仮にこのまま私が後ろに下がったとしよう。その時は恐らくだけど私は殺されてると思うよ?今のこの魔物、逃がしてくれなさそうだし。」
『じゃあ戦えばいいじゃん!』
「勝率がざっと計算して……5%にも満たないかな?」
『はぁ?!!』
スノウの指輪たちが眩く光り輝く。
恐らく精霊たちも全員が驚いているのだろう。
「この魔物のステータスを見たら、通常の魔物の100倍近くはHPがある。そして私の今の魔力量を考えて……おおよそ、魔法50発打てたら良いところだろう。」
『じゃあ勝てるんじゃないの?そんなに打って倒れないとかバケモンじゃん。』
「実はこいつ、そのバケモノじみてる奴なんだよ。私の攻撃力と魔力を考えても100発は打たないと倒せない計算なんだよねぇ?」
ははっ、と笑うスノウにグリムシルフィが余計に怒って諭す。
どうにかして生き延びる手立てを考えないといつまでも狙われたままだ。
『もう勝ち目ないじゃん。』
「うん、無いね。」
『……。』
「………………。」
暫く考え込むスノウだが、どうやら相手さんは律儀に待ってくれているようでグルルルと唸る声はするものの、まだ攻撃はしてこない。
もし刺激するような行動を見せたその時は、きっと襲い掛かってくるだろう。
それくらいその場は緊張感に満ちていた。
そして魔物が襲ってこない事をいいことに、スノウは考える。───どうやったらこの状況を打破出来るか。
「……あー、無理ーっ!!」
必死に考えたスノウだったが、思わず弱音を叫んでしまう。
いつもならなんだかんだ無理と言わないスノウがそう言った事に仲間たちが愕然とする。
『あーあ、あの人間たちが居たら絶対勝ててたじゃん…!追放したこと根に持ってるんだからね…!!』
「それでも勝てる見込みは低い。もし彼らがここに居て同じ状況に出くわしたなら、私は彼らを逃がすために先に行かせるだろうね。それくらい厳しめではある…と言っておこうかな?」
『はぁ…。もうだめだ…。』
しかし先ほど、諦めの言葉を叫んだはずのスノウは何故かニヤリと笑みを浮かべて魔物を見据えていた。
「たかが5%…されど5%…。その5%の勝率に賭けてみようか!」
『え、どうするつもりなのさ?!ボク的にはもうスノウが食べられる未来が見えてるんだけど?!』
「一つ、試したい事があってね…。それを使えば案外この場は勝てるんじゃないかな?」
『じゃあ、勝てる見込みあるんじゃん!』
「いや、無いに近いよ?」
『は?さっきと言ってる事違うんですけど?!』
「だから言ってるだろう?勝率は5%にも満たない、と。でも逆に言えば5%も勝てる確率があるんだから大した物だと思うけど?」
『じゃあ、その方法はなんなのさ。』
スノウは瞬時に銃杖を出してクルクルと回すと手に持ち、構える。
それを見た魔物が咆哮し、スノウへと攻撃を仕掛けた。
「負けるつもりはない!___フォースフィールド!!」
絶対障壁を魔法で作り出したスノウは、そのまま銃杖を離さずニヤリと笑う。
するとスノウの指に着けられたタンザナイトの宝石が光り輝く…!
「___我と共に共闘せよ、ヴォルト!!」
『ーーーーー!!』
電気特有の音が鳴り響く。
低音だったり、高温だったりするその音は耳を塞ぎたくなるほどけたたましく音を鳴らしている。
映像を見ているカイル達でさえ耳を塞いで、顔を顰めさせている。
「さぁ!行くよ!」
『ーー!!』
スノウの掛け声と共にヴォルトがやる気をみせる。
既に放っている電気の量がおびただしく放出されると、スノウは詠唱を唱えた。
「___落雷と共に黄泉の門の向こう側へと誘え!!ダブルインディグネイション!!」
映像はそこでブツブツと切れたりして、果たして向こうがどうなってるのか分からない。
固唾を呑んで見守っていると、既にそこにはグリムシルフィとハイタッチをして喜ぶスノウが居た。
そしてその近くではヴォルトもまた、喜びを表すようにクルクルとスノウの周りを回っていた。
肝心の魔物は何処にもおらず、代わりにレンズの様な物が雨のように降り注いでいる。
「ははっ!こんなに大量のレンズの雨、初めて見たよ!」
『すっご…。流石にこの量はやばくない?』
『ーーー。』
「これは、皆に見せたかったな…。」
レンズの雨を見上げながら、スノウは少し寂しそうに呟いた。
そしてレンズの雨を浴びる様にそのまま両手を広げ、微笑を浮かべて目を閉じた。
「きっと…皆すごいってはしゃいでいたんだろうなぁ?」
『そうかもしれないけどさ?まだ空が晴れないんだけど?』
「そりゃそうだ。ベルクラントを止めるのは容易いことじゃないよ。でも、」
そこで一度言葉を切ったスノウは周りに居るロボットたちを見て、とびきりの笑顔を見せた。
「彼らなら絶対に出来る。だって私の大好きな彼らだから。」
「「「…!!」」」
「……ふん。」
カイル達が嬉しそうに顔を綻ばせる中、ジューダスも仮面の下で少しだけ笑う。
「…ひとつ残念なのが、ハロルドのロボットが来てないんだよね…。他の皆はちゃんとここに来てくれてるのに…。彼女も私にとっては仲間だからここにいると嬉しいんだけどね?」
「!」
ハロルドが映像を見て目を丸くする。
そういえば自分のロボットを作るなんて考えたこともなかった。
そのスノウの言葉にカイル達も大きく頷いて、ロボットを作ろうとハロルドに伝える。
カイル達の言葉で口をへの字にしたハロルドだが、どうやら作る気はなさそうだ。
「いいわよ、私のなんて。道具がもったいないでしょ?」
「でも、スノウが欲しいって言ってるよ?」
「…そんなの、知らないわよ。」
そう言ってハロルドが映像に目を向けると、雪の上に倒れ込んでいるスノウがいてぎょっとする。
他の皆もそれを見て驚きの声を上げる。
「…あー、レンズ酔いした…。」
『なにそれ?聞いたことないんだけど?』
「レンズの雨を見上げていたら、レンズに反射する光で目がやられた…。」
『―――。』
呆れたような電気を出したヴォルトを見ながらスノウが苦笑いをした。
隣に居るグリムシルフィも、そんなスノウを見て呆れる様に肩を竦めている。
「あー…。きーもーちーわーるーいー…。」
『どんだけなのさ…。』
『――――――。』
「ここにレディとか、皆とか居たら絶対に我慢してた…。でも、今は一人だからこれ位させて…。」
『ま、いいけど?次はどこに行くの?それくらい決めておきなよ。』
「……。」
『ちょっと?こんな所で寝ないでよ?』
「………。」
『え、マジ?』
途端に静かになったスノウだが、その口から寝息のようなものが聞こえて一同息を呑む。
そこへヴォルトの電気がスノウを襲い、あまりの刺激に体を慌てて起こす。
「はー…危なっ!!今、寝そうだった!!」
『ちょっと勘弁してくれない?!こんな所で寝たら死ぬって分かってるでしょ?!!』
「いやぁ…さっきマナを使いすぎちゃって…思わず。」
『―――。』
「ヴォルトもありがとう。起こしてくれて。……ある意味死にかけたけど…。」
『自業自得じゃん?』
「はは。厳しいね?」
そしてスノウは立ち上がり雪を払う。
前を見据える瞳は綺麗な海色で、真っ直ぐと何処かを見つめていた。
「さあ、行こう。彼らがこの時代を救う前にこっちもやるべきことを、ね?」
『じゃあ、ボクたち居なくなるから。』
『―――!!』
「うん、ありがとう。二人とも。ここからはまた皆と話しながら行くよ。」
『ボク達が居る事も忘れないでよー?』
「分かってるよ。グリムシルフィ。」
そう言って消えた二つの精霊は、指輪を輝かせそして沈黙する。
それに合わせて仲間であるロボットたちも駆け寄って、そして一緒に行動をする。
まだ見ぬ泉へと向かって―――