第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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___黄昏都市レアルタ
お腹がいっぱいになったスノウとハロルドは、レアルタの中で今日泊まる宿を探していた。
「しっかし、宿が見つかんないわねー?」
「外からの客なんて珍しいからあまり無いのかもしれないね?」
ハロルドの言う通り、中々宿が見つからずどうしたものかと歩きながら話していると、街の人たちが空を見上げていることに気が付く。
二人もそれに倣い、空を見上げた瞬間だった。
天からの攻撃がレアルタの近くに降り注ぎ、街の人の悲鳴が辺りに充満する。
顔の前に腕をやり衝撃を耐えた二人も、その尋常じゃない攻撃に顔を顰めさせてお互いの顔を見合わせた。
「あいつら…!好き勝手にやっちゃって!!」
「これがベルクラントの攻撃か…。街に直撃していたら一溜まりもないだろうね。」
街の様子が一変して、民が一瞬にして恐怖の色へと染まる。
子供は泣き、大人は恐怖に身体を震わせている者もいた。
「……。」
「取り敢えず宿を探しましょ。」
「でも…」
「私達が倒れたら誰がアレを壊すのよ。」
「まぁ…、物は言いようだね。」
スノウは先に行ってしまったハロルドの背中を追いかけ、そして無事に宿に辿り着いた二人は同じ部屋で休んだ。
あの後、天からの攻撃が無かったのもありぐっすり眠れた二人は早い時間から朝食を食べ終え、例のモルガナ鉱石を求めて黄昏都市レアルタを後にした。
「モルガナ鉱石はもう少し行ったところにある雪山の坑道で見つかってるのよ。」
「採掘所じゃないんだね?」
「そこまで整備出来てないわよ。だって今までこのモルガナ鉱石が役に立つことも、使い道も無かったんだから。役に立たない物を採掘したって大損でしょーが。」
「まぁ、それもそうだけど……これでこの坑道が盗賊の縄張りにならない事を祈るよ。」
雪山にポカンと空いた坑道を通り、二人は目的の物を探し回る。
その横ではピチョンと水が跳ねる音がし、坑道内は少しだけ冷え込んでいるようだった。
そして誰にも管理されていないせいか、通常あるはずの松明がどこにも見当たらない。
辺りの暗さにスノウが軽く指をパチンと鳴らし、光を灯すとその横を遠慮なくハロルドが中へと進んでいく。
スノウも二、三歩遅れて歩き、奥へ奥へと暗闇に誘われるように二人で歩いていく。
ひたすらモルガナ鉱石を探し求めて途中の道も見ていっているのに目的のブツが見当たらない。
結局、なんだかんだ最奥まで辿り着いた二人は早速モルガナ鉱石を探し出す事にした。
「(マナの気配を追っていけばあるはず……。)…………あった!」
「でかしたわ!」
すぐにハロルドがスノウの元へ歩き出し、手元を見る。
そこには沢山の黒光りするモルガナ鉱石があった。
「これは持ちきれないわねー!探したかいがあるわー!!」
うきうきと石に触れるハロルドを見て、笑顔を零したスノウ。
しかしこのモルガナ鉱石…。初めハロルドが見せてくれた物よりも些かマナの量が少ない気がしていた。
「……ねぇ、ハロルド博士?」
「ん?なーに?」
「ここにあるモルガナ鉱石は、マナの量が少ない気がするんだ。」
「あ、そうなの?じゃあ駄目ね。その力が多くないと武器なんか作れないわよ。」
あっという間に手から落としたモルガナ鉱石は、地面に落ちると割れることなくコロコロとそこら辺を転がっていく。
ハロルド博士はつまらないと言いながら、手元のよく分からない機械を弄っていた。
しかし二人が来た道を塞ぐように魔物が居たことにスノウが気付いて相棒を手に取った。
「ハロルド博士っ!敵だ!」
「んー、これはあんたの出番よ。」
「分かってますよっと!」
ハロルドの言う攻撃出来ない魔物……所謂〈ホロウ〉へとスノウが術で攻撃する。
すると突然、ハロルドが目を剥いて手元の機械を凝視する。
そして先程のモルガナ鉱石を手に取り、機械を弄ると―――
「……これよ…!これだわ!!」
スノウが術を使う度、近くのモルガナ鉱石が反応し、そしてマナを含んでいく。
ハロルドが持っている機械は、マナの波動を感知出来る代物だったのだ。
そしてその機械がモルガナ鉱石に反応しているということは、スノウが術を使い続ければ武器に出来るほどのマナの量を纏ったモルガナ鉱石が出来上がるということ。
「いいわよ!!もっともーーっと術を使っちゃって!!」
「仰せのままに…!」
相棒から銃杖へと持ち替え、魔法を炸裂させるスノウ。
そして術を使う度、ハロルドの興奮はうなぎ登りに上がっていく。
手元の機械のメーターが振り切れるほど、今のモルガナ鉱石は多量のマナを含んでいた。
「魔物さまさまね!」
「もういいかい?」
「良いわよー!」
全ての魔物を倒し切ったスノウは銃杖を仕舞い、ハロルドの近くへと寄る。
そこには嬉しそうな顔でモルガナ鉱石を見るハロルド博士の姿があった。
「(ふふ…。可愛いなぁ?)」
「バッチリよ!これで軍が使える数ぶん、武器が作れるわ!」
「じゃあ、ハロルドの目的は達成した訳だね。おめでとう。」
「何言ってんのよ。まだまだこれからじゃない!武器を作るにしろ、それを全員に配るにしろ……。それに、本当はこんな魔物にかまけてる余裕なんかないのよ?ただ下っ端どもがどうにかしろーって煩いからやってるのよ!」
そう。ハロルドの目的はソーディアンを生み出すことだ。
そしてソーディアンチームと共にカイル達がミクトランの元へ行き、この時代の平和を取り戻すのが本当ならば先なのだ。
でもそれ以前に軍事施設内の職員たちは攻撃出来ない未知の魔物に対して、ストレスを感じ、不満を抱いていた。
それに対抗する術を見つけるべくこうして二人だけで遠征していたのだが……それも終わりを迎えようとしていた。
そしてそれは、二人の旅の終わりも意味していた。
「……。」
モルガナ鉱石を歩きながら見て回るスノウを見て、ハロルドが黙り込む。
その顔は何処か拗ねた子供の様で、ハロルドは視線をスノウから外すと面白くない、と彼女に聞こえない程小さく鼻を鳴らした。
それでも、ハロルドはスノウを再び見て真面目な顔に戻った。
「さて、これをどうやって運ぶかだね。」
「……ありがと。」
「ん?」
「何でもないわ。ここにあると分かったなら、他の研究員たちにでも取りに来させるわよ。」
ハロルドは近くにあったモルガナ鉱石を適当に袋に詰め込むとさっさと坑道の入り口へと向かいだした。
それを珍しそうに見ながらスノウも入り口に向け歩きだす。
二人の間には距離もあれば、会話も無くなっていた。
二人でいられるのはあと少しなのに、だ。
「……。」
「……。」
「……ねぇ。」
「うん?」
突然立ち止まったハロルド博士だったが、そのままスノウの方を振り返ることなく話し始める。
スノウもそんなハロルド博士の様子に立ち止まり、耳をそばだてる。
「少しだけ……あと少しだけ、私に時間をちょうだい。」
「そんな事を言われずとも、君の頼みなら幾らでも待つよ。」
スノウがそう言うや否や、ハロルドは走って何処かへと去っていく。
待つ、と言った矢先だったので多少驚いたスノウだったが、大人しく坑道内で待つことにした。
しかし夕刻時になろうともハロルドが帰って来ることはなく、逆に心配になってきたスノウ。
「……ハロルド博士、遅いなぁ…。大丈夫かな?魔物とかに襲われてないと良いけど…。」
「───い。」
「…?今の……」
待ち望んでいた声がした気がして、坑道内に居たスノウは外へと飛び出す。
そこにはハロルド博士と……
「……あれは、誰だ?」
嬉しさに口元を緩ませた途端、スノウは首を傾げる事態となってしまった。
ハロルド博士は見て分かるが、その隣にいた物体に目を引かれる。
そのまま走ってきたハロルド博士はスノウの前に辿り着くと息をぜえぜえとさせながら、隣にいた物を見遣る。
それは見た目こそ寸胴なロボットそのものだが、そのロボットには可愛らしい装飾が施されており、その装飾はカイルの様な見た目をしていた。
「あんたにこれをあげるわ。」
息を整えながらハロルドが隣のロボをスノウの前へと押し出す。
するとロボがピコピコ動き出し、目のような物が光り出す。
そしてスノウを認識すると、それはカタコトで喋り出した。
「ピピ……。初めまして、ダネ。」
カイルの声に似てなくもないその音に、スノウは目を丸くするとハロルドがやれやれと肩を竦めた。
「物資保管庫にあった部品が少なくてこんなんしか作れなかったわ。でも性能は安心してちょーだい!色んな機能をつけておいたから☆」
「な、んで……?」
「何でって、あんたこれから一人になるのよ?寂しくないわけ?」
「いや、まぁ……一人だと覚悟はしてたからね…?」
「はあ、私が折角親切で作ってあげたのに要らないの?」
「…!ううん!嬉しいよ、ありがとう。」
だいぶカイルをデフォルメされて三頭身くらいのカイルではあるが、可愛らしい見た目であるカイルの頭頂部分に手を置き、優しく撫でる。
「ふふ。これからよろしく?」
「ちなみに名前はCL-01だから。」
「……えっと、カイルって呼ぶね…?」
「CL-01!!」
ムキになってそう叫ぶハロルドにスノウは可笑しそうに笑う。
二人の話し合いの結果、結局間を取って、【カイル君1号】と名付けられた。
スノウは新たに加わった仲間を見て、そして別れが近付いたハロルドを見る。
その顔にはありありと寂しさが際立っていた。
「……そんな顔しないの!」
頬を引っ張るハロルドにそれでも必死に笑顔を向けて、スノウは別れを惜しんだ。
「まだあんたにはやるべき事があるでしょ?」
「……うん。」
スノウは腰に下げたシャルティエにそっと触れる。
今までは〈ホロウ〉対策のための調査。
そしてこれからは、シャルティエを直すための旅に出なければならない。
〈ホロウ〉の事が終われば、ハロルドとはお別れなのだ。
彼女はまだ……やるべき事があるのだから。
あっという間の遠征だったが二人の仲は深まり、そして別れを惜しむくらいにはお互いに信頼を寄せていたのだ。それも無意識に。
でもスノウは知っている。これで彼女とはお別れでないことを。
カーレルという大きな犠牲を払い、地上軍は勝利する。そしてハロルドは彼を追悼した後にカイル達の旅についてくるのだ。
双子の兄が亡くなり、大丈夫ではないのに決して弱みを見せない。それがハロルドだった。
「……ねぇ、ハロルド博士?」
「何よ。返品は受け付けないわよ?」
「ふふ。違うよ。むしろこれについてはありがとうだよ。」
「じゃあ何よ?」
「これから先、もしまた会えたら……」
「待って。」
スノウが言う前に遮ったハロルド博士。
そしてハロルド博士はプクーと頬を膨らませ、指をスノウの胸に突き付ける。
「未来の話なんてしないでちょーだい。もし、とか仮定の話も無しよ。」
「……あははっ!流石、ハロルド博士らしいや。」
「あとそれもやめて。」
「どれ?」
「その“博士”っていう称号よ。呼び捨てで、いいって、言ってるのっ!!」
感情を込めた声に合わせて、胸に突き付けた指がスノウの胸をつついて後退させる。
「大体、博士なんて称号安っぽいのよ!なーんか気に入らない!!」
「ふふ。それはすまなかった。ハロルド?」
「うんうん。それよ、それ!!」
満足したように腰に手をあて、大きく頷いたハロルド。
ゆっくりとスノウから離れたハロルドもまた、少しだけ寂しそうな顔をしていた。
「何も言わずに去るわ。あんたも振り返らずに行きなさい。」
それがハロルドが考えて考え抜いた、ハロルドらしさ溢れる愛の篭もったお別れの方法だった。
本当はもっと声を掛けてあげたい。
ちゃんと生きていて欲しい。
でも、その言葉はきっと誰にとっても呪詛となる。
何だかそんな気がしたのだ。所謂、女の勘ってヤツ。
「……」
「……。」
お互いに背を向け、そして各々の道を歩き出す。
一人は覚悟を決めたしっかりした足取りで。
もう一人は次にやるべき研究に向けて頭を働かせながらの足取りで歩いていく。
いやにアッサリとした別れは案外二人の心に軽い気持ちを与えた。
別れを言わなければまたすぐ会える、と何だか思えてしまうからなのだろう。
ハロルドは大量のモルガナ鉱石を持って軍事基地に帰還した。
そしてその数刻後には、例の武器を見事に作り上げ、カイル達に試用として渡した姿があった。
その功績は修羅を驚かせるほどに、見事な発明品であった。
「(これが、あんたが切り開いた道よ。あんたはあんたで頑張りなさい!)」
遠きこの地でハロルドは思う。
祈る事はしない。
神はきっと意地悪をするだろうから。
「さぁ!最後の仕上げ、やっちゃうわよー!」
▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△
ハロルドと別れたスノウは、横にいるロボット……カイル君1号を見て微笑みを浮かべる。
あのハロルドがスノウの為に作ってくれたのだ。嬉しくないはずがない。
「改めてよろしく。カイル君1号?」
「ヨロシクネ!スノウ!」
「ふふ。ロボ特有のこのカタコトが可愛いね。」
「オレ、可愛い?」
「うん、充分可愛いよ。」
「ヤッター」
果たして、本物のカイルがこんな事を言うのかは定かではないが、それでも今のスノウには心強い仲間だった。
途中モルガナ鉱石があれば、カイル君1号に伝えて後日ハロルドの下っ端研究員たちが取りに来るらしい。
どうやら通信機能も兼ね備えているらしい。
「敵ダヨ!」
「ん。ありがと、カイル君1号。」
相棒を持ち、一瞬で敵を葬れば拍手をしてくれるカイル君1号。
こうして新たな仲間を連れ、スノウはどこにあるかも分からないエネルギーの湧く泉を探していた。
「せめて、なんかヒントになる様な事を言うNPCみたいな人が居たらなぁ……?」
じゃなかったら本当、無理ゲーだ。
『……』
「……もう少しで直るからね…、シャルティエ。それまでは我慢してくれ。」
何だか、彼から何かを言われてる気がしてスノウはシャルティエ本体をそっと撫でた。
取り敢えず今やるべきことは大吹雪になる前に何処かでビバークの準備をして山篭りをしなければならない。
スノウは山の傾斜面に手を付きながら歩いて、穴が少しでも空いている場所を探していく。
『ご、ご主人様…!この先もう少し歩いたら、中で寛げそうな穴があります……!!』
「了解!流石、地属性の精霊だね!」
褒められた事が嬉しかったのか、暫く指輪から『えへへ…』という笑い声が跡を絶たなかった。
それをグリムシルフィが茶化したり、ヴォルトが何かを言っていたり、穴を探している間にも賑やかな時間を過ごせた。
それに心の中で感謝しながら目的の穴へとスノウが入っていく。
その後をカイル君1号もついてきて、スノウもカイル君1号を中へと入れてあげる。
「さて、火起こししますかね。」
誰かが使ったのだろう焚き火の跡へ向けて乾いた木の枝を焚べると、スノウがパチンと指を鳴らす。
すると、枝に火が点いて見事な焚き火が完成した。
カイル君1号の雪をスノウが丁寧に払い、温めるように火の近くへとエスコートするとまるでカイル君1号は人間の様に『温かい』と言って温まっていた。
「もう少し見た目に人間っぽさがあれば、本当に瓜ふたつだったのかもしれないね?」
カイル君1号の横に座り、膝上に顔を乗せたスノウは優しい笑みで横の彼を見遣る。
手を伸ばし温まっている彼を見て、スノウも火の温かさに安心感を覚える。
そしてゆっくりとその瞳は閉じられていき、微睡んでいくのが分かる。
「スノウ…?」
カイル君1号が横にいるスノウを見る。
目を閉じた彼女は今や夢の中に旅立とうとしている。
そんなスノウを見て、カイル君1号が自身の中から毛布を取り出しスノウに掛けてあげていた。
「オヤスミ…。」
すやすやと寝息を立て始めたスノウを見て、カイル君1号が引っ付いて温めてあげる。
起こさないように静かに温め続けるロボットがそこにはいたのだった。
「ピピ……」
「……ん。」
隣から電子の音が聞こえてくる。
僅かに目を開くとそこにはスノウに寄り添うように体を密着させるカイル君1号が居た。
なんならその体は温かく、人肌よりは少し温かめに感じる。
無理な体勢で寝ていたこともあってか、身体を伸ばそうとすると僅かに体から軋んだ音がする。
そして同時に若干の痛みも感じた。
「ふわぁ……」
「あ、起キタ?」
「うん。起きたよ。ありがとう、毛布もだけど体も温めてくれて。」
「へへっ。それくらい大丈夫ダヨ!…ピピ……」
「そっか。」
頭の部分を撫でると僅かに頬を赤らめるカイル君1号にスノウも笑いながら応える。
焚き火を見ればまだまだ燃えており、カイル君1号が常に火を絶やさないように焚き木を入れ続けてくれていた事がわかった。
「どれくらい寝てたのかな?」
「ピピ……計算中……。スノウが寝た時間ハ、おおよそ……1時間05分、45秒67…」
「それはおおよそとは言えないくらい正確だね。でもそっか……、そんなに寝てたのか。だから体が軋むと思った。」
うたた寝程度かと思っていたが、ここまで来るのに吹雪の中を歩いたり魔物を倒したりしてきたのだ。
自分が思うよりも体は疲労を感じていたのだろう。
「じゃあ、今何時くらいかな?」
「ピピ…ピ……。現在の時刻ハ、夜の2時50分33秒87。」
「……そりゃあ寝るはずだよ。」
もう夜中だったのか。
空が外殻で覆われているから時間の感覚が狂ってしまう。
1時間しか寝ていないようだし、本格的に寝る準備をしようか…。
スノウはカイル君1号と共に寝る準備をしようとしたが、カイル君1号が怒ったように機械音を鳴らすので目を見張る。
「スノウ、ご飯食べてナイ!」
「……あー。ハロルドが居なくなったから気にしてなかったけど……。もしかしてこれを見越してハロルドはカイル君1号を…?……まさかね!」
ははっ、と笑うスノウの横でご飯の準備をしはじめたカイル君1号を珍しい物を見る目で見る。
やはりそこはロボットだから本物に近づけなかったのかもしれない。
カイル君1号が忙しなく動く洞穴内で、スノウはその行動をじっと見つめるとものの数分でご飯が出来てしまう。
カバンから出そうとしていた軍事用の携帯食糧をそっと元に戻してそのご飯をありがたく頂くことにした。
……恐らく、このレーションがバレたら取り上げられそうな気がしたから。
「うん、美味しいね。」
「ピピ!ヨカッタ!」
後何回分の食事を積んでるんだろう…?
カイル君1号の中の不思議を考えながら出された食事を食べていく。
「ピピ。次回の食糧が少ないデス。食糧を入れてくだサイ。」
「あ、そこは入れないといけないんだ。流石にハロルドも時間が無かったって言ってたし、これだけだったんだろうなぁ?」
「ということデ、次の目的地ハ、黄昏都市レアルタまたは、蒼天都市ヴァンジェロ、紅蓮都市スペランツァのどれかデス!」
「……え、」
「ピピッ!繰り返しマス!次の目的地ハ黄昏都市レアルタまたは―――」
「……。」
ちゃんと三食食べろ、という警告か。
困った顔でカイル君1号の頭を撫で、食事を終えたスノウの食器をカイル君1号が簡単に片付けていくのをスノウはどうしたものか、と見つめた。
「……明日にしようか。」
「オヤスミ…、スノウ。」
そう言って彼は毛布を持ってきて渡してくれる。
その言葉にだけは甘える事にして、スノウは来たる眠気に任せて眠るのだった。
___翌日。
起きたスノウを確認するとカイル君1号が動き出す。
外の様子を見に行ったらしいカイル君1号を、スノウは目を擦りながら確認し大きく伸びをした。
「うーん…!よく寝た……」
体の疲労が抜けているのが良い証拠だ。
しかしスノウは起きて一番に考えるべき事柄があった。
「……食事か。」
レーションを沢山持ってきているスノウに、カイル君1号はどう反応するかが今の課題だろう。
瞬間移動の範囲拡大の為にも、このままこの雪山を踏破してしまいたいのだが昨日……というより今日の夜中ではあるが、食事で問題が起きたから困ってしまう。
「いちおう見せて反応を見てみるか…。」
そう考えたスノウの元へ、丁度良くカイル君1号が戻ってくる。
「ピピ、おはよう!スノウ!」
「おはよう?調子はどうかな?」
「絶好調ダヨ!」
「それは良かった。」
機械が故障したらどうしようかと思ったが、あのハロルドが作ったロボットだから早々に壊れる事はないだろうと信じた所で懐からレーションをカイル君1号に見せる。
「良いかい?今からこれを食べるからね?」
そして食べる動作をすればカイル君1号も納得した様に頷いた。
……ふむ、どうやらそこまで完全なシステムは出来ていないようだ。
食べ物であれば何でもいいらしい。兎に角食べる動作を見せれば、カイル君1号も安心するだろう。
こうして私はレーションを食べ終え、すぐに出立する事にしたのだった。
___これが後に、大変な事になるとも知らずに。