第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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___時刻は、スノウがまだ牢屋の中で謹慎処分を受けていた時……
ジューダスが朝の挨拶と共にスノウ様子を見に来た後、ハロルド博士がルンルンで牢屋の所までやってくる。
それをスノウが笑って出迎えた。
「えらくご機嫌だね?ハロルド博士?」
「ふっふーん♪当たり前でしょー?やっと研究が進むと分かれば気分も良くなるわよ!」
そう言ってハロルド博士は当たり前のようにスノウの牢屋の南京錠を外そうとしている。
以前からハロルドはスノウに興味があって何度もここを訪れていたので別にスノウ自体驚きはしなかったが、流石にこのハロルドの行動には驚いていた。
「え?」
「さ、行くわよーん!」
ガチャリと簡単に開いた錠前に、スノウが目を瞬かせて動けずにいると、ハロルド博士は中に入ってきてあたかも当然の様にスノウの手を取った。
そして外に出ようとするのをスノウが足を踏ん張らせた事で阻止する。
「ちょっとハロルド博士。これ以上私は罪を重ねるつもりはないよ?」
「何言ってんのよ。これは立派な処分よ?」
「は?」
え、遂に死刑にでもされる?
もしかして目の前にいるこのマッドサイエンティストに全身解剖されて終わる?
流石にそれは嫌だ、とスノウが反抗すれば相手も嫌そうに入り口へと引っ張る。
しばらく押し問答が続いていると、そこへカーレル中将とクレメンテが現れる。
「ハロルド、早いよ。」
「兄貴には分かんないわよ!この高揚する気持ちがね!」
「にしても、ちゃんと説明はいるじゃろて。」
クレメンテは優しい笑みでスノウを見た。
そしてスノウもそんな彼を見てピタリと動きを止める。
「すまないね。妹が君に説明もなしに……」
「いえ…。」
「ちょっと、それって私が悪いの?あんた達が遅いのが悪いんじゃない?」
「こら。クレメンテ老になんて言葉使いを使うんだ。」
「ふぉっふぉっふぉ。元気が一番じゃて。」
どうやらこの三人、仲が良いらしい。
部外者であるスノウから見ても、それは仲の良い家族のように見えた。
「まずは詫させて欲しい。いきなりこんな所に幽閉し続けて……本当申し訳ない。」
カーレル中将が頭を下げたことでスノウは首を横に振り、頭を上げるよう伝える。
頭を上げたカーレルは本当に申し訳なさそうな顔でスノウから視線を外した。
「部下に君の処遇を見せつける必要があった。怪我人は無かったにしろ、ここ最近、例の魔物のせいで部下たちがピリピリしていたのは分かっていた。そこに魔物を倒せるという君の存在が明らかになり、そして……同時に君に魔物が吸い寄せられることも分かってしまった……。」
「……なるほど。話は見えました。つまり私を追放処分としたい訳ですね。それか、軍事基地の核であるここから私を遠ざける為に別の軍事施設へ移動させたい…ですかね?」
一応軍の上層部なので敬語を使えば、カーレルはスノウの言葉に押し黙ってしまう。
危険人物として見做されているのであれば、そうなるのは致し方ない。
それでもスノウにとって、皆と別れるのは辛いものがあった。
「ふぉっふぉっ。聡い子じゃ。軍のなんたるかを分かっておる。」
「先程の話を聞けば、誰だって分かりますよ。ラヴィル・クレメンテ様。」
「ほう?儂の名前も知っておったか。尚の事、聡い子よ。」
面白いとクレメンテが笑えば、カーレルは困った様にクレメンテへ顔を向ける。
しかしクレメンテはそれを見ても面白そうに笑うだけだった。
「君が操られていたことも全部分かっている。でも我々から見れば不必要な魔物をここに誘き寄せたくはないし、また君がいつ暴れだすとも分からない。そんな人物を軍としてここには置いておけないのも事実だ。だからこそ、これは君にも意見を聞きたい。……君はどうしたい?」
率直な意見を聞かせてくれ、とカーレルは言っているがスノウの中には一つの仮定が生まれていた。
今ここで、スノウが皆に会いたい…皆と居たい等と言えば恐らくカーレル達は皆も一緒に追い出す気だろう。
そうなれば歴史修正のまたとないチャンスを逃してしまう結果になりかねない。
世界を救う身として、それだけは避けたい。
ならば私のやる事は一つだ。
「私を追放してください。」
迷わず笑ってそう言いのけたスノウに、クレメンテでさえ言葉を失った。
普通の軍人であれば必ず嫌がる素振りを見せるものだ。命乞いをしたり、鉄格子にしがみついたり……。しかし彼女は、それが無い。
それにこれはただの追放ではない。
途方もない、果てのない雪の中を彷徨い歩くことになるのだ。
所謂死刑だと思われても仕方ないのに、この少女は迷いなくそれを選んだ。
死にたがりか、それとも何かの暗示か……。
「(……本当に聡い子よ…。自分がどう言えば他に影響を与えるか分かっておる…。聡いが故に…聞き分けが良すぎたのぉ……。)」
「……本当に君は、それで良いんだね?」
「はい。軍の決定であればそれを守るしかありません。」
「ちょっっと待ったぁーーー!!」
ハロルドが雰囲気を台無しにする声で場を壊していく。
カーレルが呆れたように溜息を吐き、クレメンテは先程と同じく面白いと笑い出す。
「ちょっと、ジメジメするんだけど!やめてくんない?っていうか、兄貴。あの話しても良いでしょ?」
「あぁ。君から頼むよハロルド。」
「ふふん♪まかせなさい!」
ハロルドがスノウの前に立つと腰に手を当て、ふんぞり返ってニヤリと笑った。
いつものハロルドなら嫌な予感がする笑いだが、今のスノウには何故か嫌な予感はしなかった。
「あんたにはこれから、私と一緒に魔物を倒してもらうわよ。」
「へぇ?」
「知ってるでしょ?私が天才科学者であり、稀代の発明家だって。あんたのその力を見極めさせて欲しいのよ。今後、あの魔物に対抗する術を生み出す為にね!」
「…!」
そう言いのけたハロルドに、スノウもにやりと笑ってハロルドの手を握った。
「願ってもない申し出だよ。私で良ければ協力させてくれ。」
「よーし!そうと決まれば行くわよ!」
握られた手をそのまま引っ張り、牢獄の中から飛び出そうとしたハロルド博士をスノウが止める。
そしてカーレル達を振り返り笑顔で言葉を放った。
「彼らに伝言を頼みたい!一つは、“やるべきことが出来た。一緒に行けないのは残念だが、遠い果ての地から空を見上げて待っている。”」
「「…!」」
「それからもう一つ!“私にやるべき事があるように、君達のやるべきことを成し遂げて欲しい。天からの光芒がこの地に降り注ぎ蒼天が拡がったその時、また会おう。何よりも、誰よりも…大事な仲間である君達を信じている。”ってね!」
そう言って強制的に連れて行かれたスノウの後ろ姿を二人は見届ける。
そこには困った顔で笑い、頭を掻くカーレルと変わらず笑うクレメンテがいた。
「ふぉっふぉっふぉっ。実際に会ってみなければ分からないこともあるのぉ?カーレルよ。」
「……本当ですね。上からの命令とは言え、若干ですが…先程彼女を試した自分を後悔してるのと、……惜しいことをしたなと思う自分が居ます。」
「あの子が軍に居たら百人力だったかもしれんの。まぁ、それも予測の域でしかないが…。」
「部下をひとり一人説得するよりは危険人物を排除した方が理に適っている……。そう思っていましたが、これは反対だったのかもしれません。」
「アトワイト大佐も、あの子の事を酷く気に入っておった。他の奴らの説得は全てリトラーとお主に任せるぞい。」
「分かってますよ、クレメンテ老。……はぁ、先が思いやられる…。」
「ふぉっふぉっふぉっふぉ。」
そう言ってカーレル達は会議室に向かう。
これから来るだろう、苦情に溜め息を吐きながら―――
▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△
スノウが連れて来られたのはハロルド博士の研究室だった。
ガサゴソとガサ入れしているハロルド博士を横目に、室内をぐるりと見渡したスノウは苦笑いを浮かべた。
なんと言ったって、彼女は科学者の端くれだ。
部屋がキレイなはずがないと思っていただけに、この室内の荒れようは想定内だった。
本当ならハロルドの発明品とかを物色したかったが、罪人がそんなことをすれば極刑になるかもしれない。
大人しくしていたスノウだったが、突如投げられた防寒着を難なく受け取り、投げた本人を見遣れば、視線だけで「着ろ」と訴えられたのが分かる。
肩を竦めたあと、スノウは大人しくそれを黒いローブの下に着て、そして左眼の眼帯も忘れず付けておく。
「何を探してるんだい?ハロルド博士。」
「うーん?ちょっとねー……。」
そう話すとガサ入れを再開させるハロルド博士に、スノウが笑いながら溜め息をつく。
しばらく座って待っているとようやく準備が出来たのか、身なりを整えたハロルド博士がスノウに近付いてくる。
「あんたの任務は二つよ。一つは例の魔物を倒して私の研究に貢献する事。もう一つは……これよ。」
そう言って投げ渡されたものを見れば、それはソーディアンのシャルティエだった。
いつもなら投げられると文句を言う彼も今はまだ壊れているのか、コアクリスタルが光りもしない。
「…ただの追放で任務だなんてね?」
「ただの追放じゃないから言ってるのよ。それに、そのシャルティエを直さないといけないんでしょ?」
「そうだね……。絶対に直さないといけないんだ。」
「なら、それを直すために持っていて。」
「ソーディアン研究施設にでも持っていくのかい?」
「違うわよー?それを持ってったら大変な事になるでしょーが。」
「それもそうか。」
外で直るなら幾らでも放置しておくが?
ふと見たシャルティエのコアクリスタルが危険を察知したのか僅かに光った……気がした。
「いーい?ソーディアンってのはね、レクス理論を応用してるのよ。あれがこうで、それであれをしたら──────」
「ふむ。」
長くなりそうな説明を受けながらハロルド博士は防寒着を着ると外に出ていくので、スノウもそれに従い外に出た。
「つまり何が言いたいかって言うと、ソーディアンのコアであるその部分。そこには“ユニット”と呼ばれる物が装着されているの。ユニットはソーディアンの核であり、頭脳よ。そのユニットからレンズエネルギーを出して対象の晶術力を引き出しているの。」
「ほう?そうだったのか。」
スノウにとってそれは興味深い話だった。
なんとか理論よりも、そっちの方が分かりやすく、スノウにとっても魅力的な話だった。
「そのユニットはただそこら辺の部品を掛け合わせたものじゃないわ。それこそ、エネルギーを充填させる必要があるのよ。あんた達がどれくらいの未来から来てるのかは知らないけど、壊れるなら常々その部分だと思ってたのよ。」
流石ハロルド博士だ。
既に問題点を見つけ出していたのか。
「そのエネルギーを充填させるのに、ここにある物では出来ない……というより、そのシャルティエに回せるほどのエネルギーが無い、と言っておくわ。」
「…それで、そのエネルギーの調達を私にやってきてほしい、ということか。」
「ふふん。話が分かる人は好きよー?そのとーり!」
「でも、軍を介してやらないということはそれ程危険を伴うからか、それとも知られたくなかったからか…。さっきカーレル中将に黙ってたのはそういう事かな?」
「それを知られるとまずいのはあんた達じゃない?……ま、でもあんたの推測は正しいわ。残念ながらね。」
吹雪の中、遠くを見つめたハロルド博士にスノウは覚悟を決めて聞く。
何がどう危険なのか、を。
「……馬鹿な話だわ。この地の果て……そこには莫大なエネルギーを有している泉がある。この大地に、凍ってない泉なんてあると思う?それこそ眉唾モノよ。」
「火のないところに煙は立たぬ…。誰かがそれを見たからきっと噂されてるんだろう?」
「そーかもね。でも、それがどこにあるかなんて分かりゃしない。……それでも、そのソーディアンを諦めないつもり?」
「───諦めないよ。」
迷う事なく放たれた言葉にハロルド博士はスノウを見た。
ひたと、ハロルドの瞳を撃ち抜くように真っ直ぐに向けられた視線。
それは覚悟を決めた者でしか出来ない瞳だった。
……ただ片方の瞳しか見えないが、それでもハロルドが分かるには十分過ぎるくらい、目の色が違ったのだ。
「この彼には大変お世話になっていてね…?それにこれから先、彼の活躍の場面もあるかもしれないし、何よりも……私が彼を救いたいんだ。」
『─────』
「……そう。それが何処にあるかも、実際に有るかも分からないのに……良くやるわ。」
「だってハロルド博士から言ってくる、と言うことはハロルド博士だってその噂を信じてるんじゃないのかな?でなければ、現実的な君がそんな事提案しないだろう?」
「……。」
口を尖らせ面白くなさそうにするハロルド博士。
実は先程の話、ちゃんと頼れる人物から聞いていたので眉唾ものだと思ってもそれを無碍には出来なかったのだ。
それを簡単に信じてくれるスノウにも、複雑な気持ちにさせられ彼女はそんな顔をしたのだった。
「行くわよ。」
「うん。行こうか。」
一度遠くなった軍事施設を振り返り、スノウは頭を下げた。
お世話になった施設を離れるのだ。
礼儀は重んじておきたい、とスノウは思い一礼する。
そんなスノウをじっと見て待つハロルド博士。
博士もまた施設を見て感傷に浸っていた。
ハロルドはいずれ帰ってこれる。しかし目の前にいるこの少女はここに帰ってすら来れないのだ。
任務と称して気を重くしないよう、珍しくハロルドが働きかけたのだが……その必要はなさそうなのかもしれない。
「……バカね。あんたを追い出した所なんかに頭下げる必要なんてないのに。」
博士の呟いた声は吹雪によってかき消された。
上にあるアレのせいで凍土と化してしまった地上。
雪が吹き荒れる地となってしまい、度々その吹雪によって亡くなる人が跡を絶たない。
ハロルドもまた、そんな人たちを何度も見てきた。
「(この子も……そんな事にならないように…私がなんとかしなくちゃ、ね。そう考えたらやる事がたくさん出てきたわ!)さ、行きましょ!」
努めて明るく振る舞うハロルド博士を振り返り、スノウは笑顔で応える。
こうしてスノウは仲間たちの元を去った。
雪国出身の彼女が雪に足をとられることは決してないが、前人未到の場所まで辿り着くには奇跡と勇気、そして根気しかない。
そしてそこに辿り着くのはまだ先の話……。
スノウは黒いローブについているフードを深く深く被った。
その下の表情に笑顔が灯っていた事は、彼女の腰に下げられたシャルティエしか知らない。
△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲
「___エアプレッシャー!」
目の前の敵に攻撃をするスノウ。
それをハロルド博士は紙を持ち、戦うスノウを見て必死に何かを書き込んでいた。
その顔はニヤニヤと笑いが止まらない研究者の顔をしていた。
その間にも次々と魔物を倒していくスノウは、横目でハロルドの安全を確認しながら目の前の魔物と対峙していた。
「___ガスティーネイル!」
「…!!」
見たこともない技、術……。
それはハロルドの好奇心を刺激するのに十分過ぎた。
必死に紙に書き留めるハロルドは次第に鬼の形相になっていく。
そろそろ頭がパンクしそうなのかもしれない、と最後にスノウが敵を一網打尽にしたところでハロルドの手も止まる。
しかしその顔は真剣になり、なんとか理論だとか常人には理解できない理論をブツブツ呟いている。
周りに敵がいないことを確認したスノウは、ハロルドが動き出すのを待つことにした。
「(そういえば施設を出てからどれくらい時間が経ったのかな。)」
ハロルドの部屋から出る際に渡された相棒と契約の指輪たちを見つめながらスノウはそんな事を思う。
精霊たちは自分の主人があの施設から追放されたことに未だ腹を立てていた。
指輪内で話されているのはずっとそんな話だった。
『全く、あそこにいる人間は血も涙もないわね。』
『……ほんとにただのバカばっかり…。』
『主人が可哀想だ。何かしてやれないものか。』
『いっそ、あの建物ごと風で切り刻んでこようか?』
「グリムシルフィ?今、物騒なこと言わなかったかな?」
『べっつにー?あんな施設どうでもいいって言ったの!』
「ふふ。そうか。」
『主人よ、寒くはないか?』
「大丈夫だよ。ブラドフランムが温めてくれているからね。」
砂漠の時にセルシウスが冷やしてくれたように、今度は火属性の精霊であるブラドフランムが体を温めてくれていたので快適に過ごせていた。
今まで何も出来なかった分、これくらいはさせてくれと申し出てくれたことにスノウは嬉しさを感じる。
「これでようやく〈ロストウイルス〉対策が出来ると思うとホッとするよ。」
『まぁ、予想だにしない結果になってはいるけど?』
「そんなに怒らないでくれ、シアンディーム。彼らも仕方なく処分を下したのだから。」
『私のご主人様が追放なんて、驚きと怒りでそこら中を水浸しにしちゃいそうよ。』
「……君が言うと洒落にならないよ。」
割と物騒な声音で言っていたので、本気なのだろうことが分かる。
スノウは一応言葉で止めて精霊たちを鎮める。
「ん、終わったわよん。」
「よし、じゃあ次行こうか?」
「待って。さっきからあんたばっかり戦い続きなんだから休憩にしたら?私もそこまで鬼じゃないわよ。」
ハロルドは持っている紙から視線を上げずそう話す。
彼女にも整理の時間が必要だろうとスノウはその休憩を有り難く受け入れる事にした。
スノウがそのまま雪の上へ座り込むと存外疲労が溜まっていたことに気づき、ホッと一息つく。
ブラドフランムのお陰で雪の上でも寒いと感じることもないため、思わず雪の上に体を寝そべらせてしまい、自分に「ちょっとだけ」と言い聞かせ徐ろにスノウは目を閉じた。
「あー…。牢屋の中で休んでばかりだったから、体が鈍ってたね。」
『無理は禁物だぞ、主人よ。』
『そ、そそそうですよ。無理だけはしないでください。ま、まだまだこれから、たくさん歩くことになりますから…。』
『…相手のペースに合わせるのも大事だけど、やっぱり自分の体力とも考えないと……。』
『私、前に試練として貴女に考えるように言ったはずだけど?まだ足りなかったかしら?』
「ははっ。大丈夫だよ、シアンディーム。ちゃんと分かってるから。」
ピカピカと光り輝く指輪を見て、ハロルド博士が首を傾げて指を指す。
「あんたのその指輪ってたまに光るけど、何かあるわけ?」
「ハロルド博士に言ってなかったかな?これは精霊の契約の指輪だよ。精霊と契約を結ぶときに通常必要なものなんだ。」
「え?!精霊?!ちょっと、そんな面白いこと何で先に言わないのよ!!見せてちょーだい!!」
光る指輪に負けないくらいに目を輝かせながら、ハロルド博士が横になっているスノウに迫る。
それを見て苦笑いを溢したスノウだったが、精霊たちは身震いをしていた。
あんなマッドサイエンティストに自分たちの姿を見せてしまえば大変なことになりそうな事くらい、簡単に分かったからだ。
『……私、パス…。』
『私もパスね。』
『僕も嫌なんだけど?』
『ご、ご主人様、誰になさいますか…?』
「うーん…。ここは…ヴォルト行ってみる?」
『――――!!』
ヴォルトが意気込んでいるような気がして、そう声をかければ「やる」と言ってくれているような気がした。
「じゃあ、ヴォルト!」
ヴォルトを召喚すれば低音の電流の流れる音がして、ハロルドが目を瞬かせる。
そしてはっきりと姿を見せたヴォルトに抱きつこうとするのを慌ててスノウが止める羽目になってしまったのだった。
・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
「はーっ!あんたってやっぱり凄いわね!精霊と契約してるなんて!私の目に狂いはなかったって事ね!ぐふふふ…!」
妙な笑い方をしたハロルド博士だったが、次の瞬間、真面目な顔へと変わる。
「ちなみに、さっきまで戦ってもらって分かったことがあるわ。でも、覚悟して聞いてちょうだい。」
「分かったよ。」
「まず例の魔物だけど。やっぱり普通の魔物に何かしらの存在が関与して感染させてるって事で合ってるわよね?」
「修羅たちから聞いたのかな?」
「ええ。事前情報は多いに越した事はないわよ。それでなんだけど、何故攻撃の通る人達がいるか考えてみたわけ。そしたらエスプラーク現象が───ブツブツ…。」
「そ、そうだね。」
流石についていけそうにない為ここは大人しく頷いていよう。
そう思っているとスノウの顔色を見ていたハロルドが溜め息をついて咳払いをする。
「…早いところ、あんたと私の違いは出生の違いなのよ。そして私達には無い力を保有している。だから攻撃が通るのよ。」
「おお…。」
パチパチと拍手を送ると、ハロルドは訝しげな顔になって「こんなの誰だって辿り着くわよ」なんて言っている。
いや、それに辿り着ける人物は世界でも君しかいないよ。
「例の魔物に私達の攻撃が通るようになるにはさっきも言った通り、その何かしらの力を有する必要がある。ただ、それは簡単に出来るものじゃないわ。」
「うん。」
「でも反対に言えばその力さえあれば私達だって攻撃が出来るって訳。ここまでいいかしらん?」
「分かりやすい説明ありがとう?ハロルド博士。」
「全くよ!感謝しなさいよ?……あぁ、それでなんだけど、この鉱物が欲しいのよ。」
そう言ってハロルドが見せてきた物は、スノウにはただの石に見えた。
しかし…
「…?この石…」
「石じゃないわよ。これはモルガナ鉱石よ。」
「え?何だって?モルガナイト?」
「モ・ル・ガ・ナ・鉱・石!!」
確か、モルガナイトは宝石だ。
その宝石に似ている名前でモルガナ鉱石ってことはその原石にあたるものなのか、はたまた全く別の物質なのか…。
「最近の研究で分かった事なんだけど、このモルガナ鉱石っていうのは特殊な波動を出していて、通常の石とは全く別物なのよ。」
「へえ…?」
「分かってないわねー。」
「強いて言えば、確かにこの鉱石にはマナを沢山含んでいる様に見えるよ。」
「そう、そのマナってやつね。」
ハロルド博士の持つ鉱石を目を凝らして見てみれば、様々な色のマナを多く含んでいるのがわかる。
スノウがこの間練習したばかりのマナの可視化がこんなところで役に立つとは、とスノウ自身で感慨深くなった。
しかし、だ。
他のマナを体の中に摂取するわけにもいかないので、敢えて遠くから見守るように努める。
でなければ今度はどういう効果が現れハロルドに襲いかかってしまうか…。
「あんたたちの言うこの波動を、仮としてマナと呼ぶのなら、全て筋が通るのよ。そしてここからが本題よ。この鉱石で武器を作れば…どうなると思う?」
「そりゃあ、きっと例の魔物にも攻撃できる様になると思うけど…。それよりも前に問題が起きると思う。」
「例えば?」
「武器になる際にうまくマナが付与されない、とか。」
「馬鹿ね。作るのが誰だと思ってんのよ!この稀代の天才科学者に決まってるでしょ!!」
急なお叱りを受け、スノウが苦笑いをする。
確かに稀代の天才科学者にかかれば、これ位訳ないのかもしれないが…。
「でもこの鉱石って研究に用いられるくらいなら数が足りてないんじゃないのかい?」
「それよ。」
「…なるほど?」
もしかして今からこれを取りに行くってやつかな。
そんなことを思っていれば、スノウの思っていたそのままの事をハロルドから言われたためスノウは大きく頷いた。
「触れられないけど武器でなら戦える、なんて一番良いと思う。」
「よし、それじゃあ取りに行くわよー!」
意気揚々と腕を振り、突き進んでいくハロルド博士を追うようにスノウもまた進む。
しかしハロルド博士も、こんな大吹雪の中良く迷わず進めるものだ、とスノウが後ろで感心する。
「ハロルド博士は発明だけでなく、マッピング能力も長けていたとは恐れ入るよ。」
「何言ってんのよ。絶賛迷子中よ?」
「……へ?」
迷わず進んでいるからてっきり道が分かってるのかと思っていたが、どうやらアテが外れたようだ。
スノウは一度足を止め、サーチの魔法を使う。
すると近くにはカイル達がいた軍事施設とは違う建物がある事に気付いた。
「……ハロルド博士?近くに村のような建物群があるんだけど…。」
「そう。なら、レアルタにでも着いたのかもしれないわね。」
「黄昏都市レアルタか……。」
初めて天地戦争時代の街に入る。
プレイヤーとしても、個人としても、それにはとても興味があったスノウはハロルドの手を引いて歩きだす。
文句を言いそうになったハロルドだったが、後ろから見えたスノウの表情に目を丸くし、そして黙る事にした。
「(そんなにキラキラした眼で歩かれたら何も言えないじゃない。でも、好奇心は大事にしないとねー!)」
未知なるものに興奮するハロルドの様に、今のスノウは好奇心に満ち溢れていた。
その気持ちがわからないでもないハロルドはそれを見て沈黙する。
「そういえば、レアルタの近くに物資保管所があるんだよね?」
「あら、よく知ってるじゃない。そうよ、確か……もっと東の方だったわね。」
「北東は蒼天都市ヴァンジェロ、そして、北西には紅蓮都市スペランツァ…だったね。」
「そーよ?そこまで知ってるなら大丈夫そうね。」
位置の把握をしたスノウはハロルドの言葉に大きく頷いた。
そして辿り着いたレアルタの中に入り、街並みをよく観察する。
そこは街として機能しているようで、女子供が外ではしゃいでいたり雪かきをしていたり、たまに家の中から香る料理の匂い……。
スノウからすれば、以前居たハイデルベルグと何一つ変わらない生活をここの民たちは送っているように見えた。
「もっと貧困しているかと思ってたけど…しっかりしてるね。」
「まぁ、どっこもこんなもんじゃない?あんまり軍事施設の外は興味ないから出ないし、分かんないわ。」
街の子供がはしゃいで走り回っているのをスノウは懐かしいものを見る目で見ていた。
そんなスノウを見てハロルド博士も街の様子を見遣る。
どこにでもありそうな街の光景だが、スノウには何か懐かしいものでもあるのだろう。
そう思い、ハロルドはわざとらしく声を出した。
「あーあ!お腹減ったわねー!」
「じゃあここの食堂でも行くかい?」
「そーしましょ!疲れたときは甘いものよ!」
「ハロルド博士。確かに甘い物も大事だけど食事も大事だよ?」
先に進んで行ったハロルドを追いかけてスノウも走り出し横に並んだ。
まだ吹雪は収まらないけど、少しだけ暖かな光景を目にした二人だった。