第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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(※ ジューダス視点)
僕たちはスノウに面会が叶った後、何度も何度も上層部に掛け合っては面会希望やスノウの解放の意見書を出したりしていた。
流石に連日そういった事が起きていた為か、上層部もとうとう呆れて…いや、実質諦めて面会だけは通るようになった。
そこからは毎日のように誰かが面会に行ったり、食事を代わりに持って行ったりするものだから牢屋の看守もほとほと呆れて僕たちを通すようになっていた。(最初のころなんて警戒ばかりされていたものだが…。)
そんな日々を過ごしていたが、僕はひとつ気になる事があった。
スノウと、ここにいるシャルの仲の良さだ。
連日彼はスノウの元に通っては何かを話して帰っていくのを僕は目撃している。
「(もしや、千年前のシャルはスノウに気があるのだろうか…?)」
「サンプル採取!」とか言って見境なくスペクタクルズを使うあの例のマッドサイエンティストにソーディアン状態のシャルの事がバレてしまい、修理してくれるというのでそのまま預けている。その為に今はあいつを腰に提げてはいない。
そんな今は居ないあいつの事を思って、なんだか複雑な気持ちにさせられた。
本人が居たらとことん聞いてやるつもりだったが、居ないものは仕方ない。
「─────!」
「…!」
また、だ。
またスノウのいるところからあいつの声が聞こえてくる。
僕は堪らず足を踏み入れ、そっと壁に背を当てて中の様子を窺うことにした。
「───君は少佐だろう?少なくとも、部隊の上に立つ者だ。それを知らない人は居ないと思うよ。」
「え、そうなのかな?」
シャルはスノウの言葉に照れたように頬を掻き、それはそれは嬉しそうに笑っていた。
反対にスノウはそんなシャルを見て微笑みながら牢屋の中から手を伸ばした。
それがシャルに到達しそうになった瞬間、僕は思わず声を掛けていた。
「スノウ。」
「あ、ジューダスだ。どうしたんだい?」
スノウの視線が自分に向けられたことに満足感と高揚感を得られ、牢屋へと近寄るとシャルが素直に場所を譲ってくれる。
しかしその顔は少し残念そうな顔をしていた気がして、僕はじっとシャルの顔を見ていた。
もしかしてスノウに触れられなかったことがそんなに残念だったんだろうか…。
あの時、シャルの手が僅かにスノウの手を掴もうとしていたから。
僕は視線を外し、一応場所を譲ってくれたことに対して礼を言えばシャルは笑顔で去っていった。
それを見届ければスノウが不思議そうに僕を見ていたことに気付く。
「何でもない」と片付け、僕はスノウに向き直った。
「……調子はどうだ。」
「うん、大分よくなってきたよ。」
「先ほど、ここの衛生隊長からお前の事を聞かれた。"あの子は小食なのか"ってな。……お前、相変わらず小食なんだな。少しでも食べないとまたすぐに倒れるぞ。」
「はは…。耳が痛い話だ…。」
から笑いをしたスノウを睨めば、例の「善処する」が返ってきたため僕は思い切り溜め息を吐いた。
これは直らなさそうだ。
「ねぇ、ジューダス。」
「なんだ。」
「君の腰にシャルティエが見えないんだけど…?」
「あぁ、ハロルドの奴にバレてな。修理してくれると言うから預けたところだ。」
「はは、は…。そう…なんだね。うん、頑張れ、シャルティエ…。」
二人して遠い目をして、ハロルドの所にいるだろうシャルを思い浮かべる。
あんなに会うのを嫌がっていたあいつには悪いが、修理のためだ。頑張ってもらおうではないか。
「…。」
「…。」
口下手な僕が次に何を話そうかと悩んでいると、スノウの奴は僕の顔を見てフッと笑う。
おそらくだが、彼女からしたら顔を見ただけで僕の心情が分かってしまったのだろう。
牢屋の鉄格子の合間から彼女が手を伸ばしてきたので、それに手を伸ばせば彼女はすぐに僕の手を捕まえた。
そして優しく手を握り締め、目を閉じ感傷に浸っているようだった。
僕も彼女の手の僅かな温もりを感じる様に目を閉じれば、途端に居心地が良くなる。
胸に温かいものが流れ込んできて、もっと彼女に触れたいと感じてしまう。
…この鉄格子さえなければ、抱きしめられたというのに。
「…すまない。」
「ん?」
「ここから出してやれなくて、すまない…。」
…虚しい。
彼女に触れられないのが、虚しくなってしまう。
さっきまでの胸の温かさは何処へやら、今は彼女に触れられない空虚感で僕の胸は一杯になってしまっていた。
「…そんな事ないよ。今はこうして手しか握れないけど、でも皆が出してくれた時の喜びはきっと、ひとしおだから。…だから、待つよ。いつまでも。」
彼女を不自由にさせてしまってる自分が不甲斐なかった。
僕に出来る事は、彼女をこの檻から出してあげる事だ。その為には──
「…。」
「…?レディ?」
「行ってくる。今日も奴らに厄介払いされたとしても、何度も、何度でも…お前を早く出す様に進言する。」
「……無理はだめだよ?」
「無理などしていない。お前がここから出られるなら安いくらいだ。」
僕は、出入り口に向かって歩き出した。
しかし、僕の外套を彼女が掴んだことで足を止めざるを得なくなってしまう。
振り返れば必死に牢屋の中からこちらへ手を伸ばし、寂しそうな顔で僕の外套の裾を掴んでいる彼女。
しかしその手は次第に遠慮がちに離れてしまい、放された拍子に外套はすぐにはらはらと僕の後ろに収まってしまう。
少し俯いた彼女はすぐに笑顔を貼り付けて僕を見た。
「ごめん、何でもないんだ。…行ってらっしゃい。」
そんな顔をするな。
僕はその言葉を飲み込んで彼女の近くに再び歩み寄り、その場に座った。
目を丸くした彼女だったが、僕の行動の意図が分かったようで嬉しそうな顔をした後、鉄格子に寄り添うようにして体を倒し、目を閉じた。
僕もその鉄格子に背中を預け、しばらく目を閉じることにした。
それで彼女の寂しさが少しでも和らぐのなら…それで良い。
「……。」
「…。」
お互いに一言も喋らなかったが、これはこれで悪い気はしない。
だって、お互いの温もりを肌で感じていたからだ。
どれほどの時間、そこに居続けただろうか。
いつの間にか僕の背後からは小さな寝息が聞こえてきて、僕は起こさないようにそっと振り返った。
温かくなったからか、彼女は僕の背中…と言っても鉄格子を挟んでいるが、それに寄りかかった状態で寝てしまっていた。
そして見えてしまったのが、彼女がキュッと僕の外套を掴んでいたことだ。
寝ているので恐らく僕が動けば簡単にそれは取れてしまうだろう。
でも動きたくない、そう思わせるくらい彼女の寝ている顔は穏やかだった。
僕は身動きが取れずそれでも暫くこの格好でいようか、と迷っていると突如地面が大きく揺れる。
もう何度目か分からないくらいこの揺れを浴びたので今更驚きはしないが、天上人が地上に向かって攻撃してくる時は大抵この揺れが起きていた。
しかし今回は揺れが大きかった事もあってか、彼女が起きてしまった。
「……ん。」
「(起きてしまったか…?)」
そっとふりかえると、彼女は余程寝不足なのか起きる気配が全く無かった。
「……人の事、言えないじゃないか。」
彼女に会えるようになってからは、ようやく僕も眠れる様になったものだが…彼女の場合、何が起因して体調を崩すか分かったものじゃない。
こうしている合間にも寒さで風邪を引くのではないかと内心ヒヤヒヤしている。
だから今もこうして、どうしたものかと悩んでいるのだ。
「フッ…。我ながら過保護だな…。」
思わず口から笑いが溢れる。
でもそれは、彼女の事を好いているからだと分かっているから。
……ドーン
遠くの方でまた大きな音がした。
揺れは微々たるものだったが、それでもこちらまで揺れるのだから天からの攻撃は相当な威力なのだろう。
かつて、前世であったように……。
「おい、起きろ。風邪引くぞ。」
僕はため息を一つ吐いて後ろにいる彼女に話し掛ける。
そろそろちゃんとベッドで寝てもらわないと風邪を引いてしまう。
それでは元も子もない。
それにこんな格好で寝ると後々体に響くことも分かっていた為、僕は反対を向き彼女の頬に触れた。
その時握られた外套はスルリと取れてしまったが、彼女が起きる気配はない。
……それよりも、だ。
「こいつ…。また冷たくなっている…。」
さっきの短時間でこれくらい体を冷やすならもうこれはいよいよ風邪を引いてもおかしくはない。
急いで彼女の体を揺さぶり本気で起こしに掛かると、ようやく瞼が震え目が開く。
「ん……、リオン…?」
「はぁ。寝惚けてる場合か。寝るならあっちで寝ろ。」
「うん……。」
寝ぼけ眼を擦りながら何とか起きようとするスノウ。
体を一度ぶるりと震わせ、無意識か腕を擦っていた。
ほら見たことか。
呑気に伸びをして気楽そうな彼女を睨めば、彼女は不思議そうな顔で僕の顔を見て首を傾げていた。
「あー…。なんか良い夢見た気がする。」
「ふん。それは良かったな。その代償に風邪を引いても知らんからな。」
一度そっぽを向いた僕だったが、彼女の瞳を見てギョッとした。
彼女の左目はマナに影響されやすいのは聞いていた。
心做しか、彼女の左目の海色の色素が薄くなっているような気がした。
しかし僕が瞬きしたあとそれは消えていて、見間違いなのかもしれない。
「(……いや、さっきいい夢を見た気がする、と言っていたか、こいつ…?もしかして僕のマナに反応したのか…?)」
いや、そんなはずない。
何故なら〈薄紫のマナ〉は現実世界での影響は微々たるものだからだ。
いくら何でも、マナの影響を受けやすい彼女とは言えど、彼女にマナが移ったとは考えにくい。
「やっぱり安心する人の近くで寝るって大事だね。こんなに爽やかに起きれたの久しぶりかも……ふわぁぁ…。」
「そうか。なら、以前僕に言った言葉そのままそっくりお前に返してやる。」
「あ、」
思わず口が滑った、といった感じで口元を押さえた彼女に鼻で笑う。
それに彼女も笑っていて、お互いに笑顔でいたが……別れとは辛いものだな。
「……じゃあな。」
「うん、また。」
牢屋の中から手を振ってくれた彼女に手を上げ応えた所で僕は外に出た。
……また会えると、この時は思っていたんだ。
____「ジューダスさんっ!!!」
「??」
この時代のシャルが慌てた様子で話し掛けてきた。
そのあまりの慌てように、僕は人知れず嫌な予感を察知していた。
「スノウさんを知りませんかっ?!」
「はあ?あいつなら朝に会ったが、例の牢屋の中で大人しくしていたぞ。」
「いないんですよっ…!!牢屋のカギが開け放たれたままになっていて、中に居るはずのスノウさんも居ないんです!!」
「っ!?」
どういうことだ。
昨日スノウに会った時はいつもと変わらなかった。強いて言えばあの状態で体を冷やしていたので風邪を引いたのではと思ったくらいだ。
今朝だって何事もなく彼女と話していたというのに。
「……衛生隊長のところじゃないのか?昨日風邪を引きそうだったからな。」
あくまで冷静にそう答えたが、彼は大きく首を振って否定をした。
「僕も気になってアトワイト大佐のところに行ったんです!ですが、居なかったんです!大佐も慌てた様子で今探してるんです!」
「……!」
これは事件だ。
流石に衛生隊長が知らないとなると、スノウが脱獄したか、それとも釈放されて何処かうろついているか、はたまた……攫われたか。
「鍵は壊されていたのか?」
「いえ!鍵を使って開けられた様子でした!」
「なら、軍の誰かが釈放でもしたんじゃないのか?」
「でも、釈放なら大佐が知らないはず……。」
「「「「ジューダス!!」」」」
僕以外の全員が集まっており、その顔はやはり焦燥に駆られた顔をしている。
ということはつまり、
「スノウがいないんだ!!」
「やはり、か……。」
あいつめ……どこをウロウロと…。
[あー、テストテスト……。ソーディアンチームならびに、ハロルド工作部隊は至急会議室まで集合してくれ。繰り返す。ソーディアンチームならびに───]
施設内の放送が流れ、僕達は顔を見合わせた。
いつの間にかハロルド工作部隊なんて呼ばれ方をしていたから、すぐにそれが僕達の事だと気付いた。
こんな時に放送での呼び出しなら、スノウの事だろう。
修羅が頭に手を置いてスノウの場所を特定しているようだったが、どうも居ないようで舌打ちをしていたのを横目で確認する。
「とにかく行こう!会議室に!」
カイルの言葉で全員が頷き合い、そして会議室へと走り出した。
シャルティエ少佐も僕達の後ろから緊張した面持ちで走り出す。
一体何が起きているというのか……。
「失礼しますっ!」
「来たか。」
リトラー最高司令官とクレメンテ老が奥に佇み、入り口付近には先程来たのであろうディムロスやアトワイト、イクティノス、カーレルが来ていた。
……唯一、ハロルド博士だけは来ていないようだが。
「話とは何ですか?」
ディムロスでさえ内容を知らないらしい事が、イクティノスやシャルには驚きだったようで、呆然と言葉を零す。
僕達も成り行きを静かに見守ることにして、話の続きを促した。
「実は、彼らの仲間であったスノウ・エルピスさんの処遇について、皆に話がある。」
「「「「「…!!」」」」」
やはり、その事か。
緊張が走る中、アトワイトだけがその言葉に反論した。
「待ってください!あの子は今、見つかっていないんですよ!?牢屋にも、どこにも居ないんです!」
「……その事だが、彼女は今、この軍事施設に居ない。」
「な、何故です?!」
ディムロスも驚いた様に声を上げ、僅かに足を踏み出した。
シャルの隣りに居るイクティノスは傍観を決め込むようで全く会話に入ってこない。
そして目の前のカイル達は恐々と会話を聞いていて、とてもじゃないが彼らの会話に挟むということは出来なさそうだ。
「実は彼女は今、ハロルドと一緒に行動している。少し試したい事があるからだ。それ次第では彼女の処分は重くなる。」
「……と、言いますと?」
「先日、彼女を見つけた時の話だ。例の攻撃の通らない魔物が居たとシャルティエの部隊員から話を聞いていた。そして彼女がその魔物に対して有効打を持っていたことも報告されている。」
「っ!?」
僕の横で、修羅のやつが目を見張る。
リアラやロニも流石にそれを理解したようで顔を青くして口元を押さえている。
「そこでハロルド工作隊長と共に遠征し、例の魔物に対しての有効策を生み出す為しばらく帰って来ないことになった。」
「おいおい…!そんなの、あんまりじゃねえか!!」
ロニが怒りを顕にしてリトラーを睨む。
ディムロスも流石にそれには反対だったようで、前に出て反論を口にしていた。主にそれはクレメンテに対して言っているようにも思える。
「何故会議の議題へ上げられなかったのですか!?」
「事が事だったからじゃよ。」
クレメンテが老いぼれた声でそう話す。
その声にディムロスが途端に口を閉ざし、姿勢を直していた。
「魔物がこの軍事施設周辺に寄ってきてるのも確認されておる。……それもこれも、彼女がここに来てからじゃ。」
「待ってくれ!!それだったら俺だって当てはまる!」
修羅が胸に手を置き、主張するのを僕はじっと見ていた。
恐らくだがこれは、こいつが主張しただけで収まらない議題だ。
今こいつが頑張って主張した所で、上が決定した事を覆すとは思えない。軍とはそういう所だと僕は知っているからだ。
「ハロルドから報告を受けている。恐らく彼女は特別な特性を持って生まれた人種なのだと。君がどうこうではないから安心したまえ。」
「違うっ!!本当なんだ!俺はあいつと同じ、特殊なんだ!!だったら、あいつじゃなくて俺でも良いだろ?!」
「それは違う。君がどうであれ、彼女の処分はいずれ決めなければならなかった。……それに、だ。彼女には彼女の考えがあるようだぞ?」
「「「「???」」」」
「ただハロルドが彼女に興味があっただけじゃなく、はたまた我々が彼女から解決策を求めるだけでもなく……彼女もまた、利害が一致して私達のこの処分を受け入れた。……それも特大の笑みでな?」
「どう、いうこと…?」
カイルが顔を顰めさせ、僕達の方を振り返る。
僕だって知りたい。
何故彼女が笑顔でその処分を受け入れたのか、を。
「彼女はきっとハロルドに期待しているのだろう。その“何か”をな?」
「待ってください!」
アトワイトが会議室の机を叩き、真剣な表情でリトラー達を見つめた。
しんとなった会議室は、どことなく居心地が悪い。
「あの子を……連れ戻してください!まだ完治した訳じゃないのですよ?!まだあの子は子供なんですから、治療を受ける権利も、義務もあります!!どんな人であれ、子供には未来がある…!これから咲くだろう花をそんな簡単に摘み取ってしまって良いのですか?!!」
アトワイトの話にディムロスが肩を叩き、静かに首を横に振っていた。
それを見たアトワイトが更に食って掛かろうとしたが、それより先にディムロスがアトワイトを叱る。───「少し落ち着け」と。
納得がいかない様子のアトワイトがその場で俯いたのをディムロスが横目で見て、視線をアトワイトから外すと口を閉ざした。
やはり、軍の指揮官はリトラーにあるしここには裏で軍を動かしているであろうクレメンテだって居るのでこれ以上の暴言は赦されなかったのだろうことが分かる。
だからディムロスはアトワイトを止めたのだ。
「……そうだ。スノウさんから君達へ伝言を預かっているよ。」
「「「「!!」」」」
「な、なんて言ってましたか?!」
「───“やるべきことが出来た。一緒に行けないのは残念だが、遠い果ての地から空を見上げて待っている。”」
「……!!」
全員の瞳が見開き、そして決意へと変わる。
「それからスノウさんからもう一つ。―――“私にやるべき事があるように、君達のやるべきことを成し遂げて欲しい。天からの光芒がこの地に降り注ぎ、蒼天が拡がったその時、また会おう。何よりも、誰よりも…大事な仲間である君達を信じている。”と。」
「……スノウ…。」
「信頼されているね。彼女は綺麗な微笑みを浮かべて、私にそう言ってきたんだよ。」
僕はそっと、澄みわたる空のような蒼色のピアスに触れる。
そう、彼女の……あの髪の色と同じピアスだ。
すると僕の胸がキュッと締まった気がした。
しかし、悪く言えばそれは追放処分であり、死刑宣告とも取れるその処分を彼女が簡単に受け入れた事に僕は切ない感覚とは別に腹が立っていた。
だが…、あの最後の言葉を聞いてしまえば怒るに怒れないではないか。
「……スノウの為にも頑張ろう!皆!!」
「おうっ!そこまで言われちゃやらない訳にはいかないよな!!」
「あの子も頑張ってるんだ!あたし達が頑張らなくてどうすんのさ!」
「……スノウがいないことが寂しいけど…。でも…!スノウが信じてくれてる!私も、スノウを信じたい!」
「……。」
「あんたは?決意表明とかないのか?」
修羅が僕に向かってそう言ってきたので、鼻で笑ってやる。
そして───
「……早く終わらせて、あいつを迎えに行くぞ!」
「「「「おー!!」」」」
全員の気持ちが一致した。
これで僕達のやる事はただ一つに絞られた。
___“歴史修正”
これをすれば、あいつは帰ってくる。
どんなに辛くとも、あいつも辛い想いをしているのだから、僕達が頑張らなければならないんだ。
「……待ってろ、スノウ。」
僕達は瞳に決意を宿した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
決意表明をした彼らをソーディアンチームもまた、優しい微笑みを浮かべ見つめていた。
「……彼らはまだ若いな。」
「何を言ってるんですか。ここにいる全員が若いですよ。」
ディムロスが気を利かせたつもりだったらしいが、そこへクレメンテが歩み寄る。
「儂はもう若くはないぞ。」
「あ……じゃなくて、老も十分若いですよ!」
よよよ、と泣き崩れるクレメンテに慌ててディムロスが駆け寄り、慰めようとする。
アトワイトはまだスノウの事を心配しているようで、決意を漲らせた彼らを見てどこか上の空である。
それをイクティノスが肩を叩き、大きく頷いた。
「信じる気持ちが大事なんだろう?」
「そう、よね……。帰ってくるわよね…?」
「帰ってくるさ。きっとね。」
「というよりスノウさんは不思議な人だね。」
先程までの威厳のある顔つきじゃなく、いつもの穏やかで優しそうな顔に戻ったリトラーが二人に近付き微笑みながらそう話した。
「だって、“天からの光芒がこの地に降り注ぎ、蒼天が拡がったその時、また会おう。”って、空のアレが無くなることを意味してるだろう?彼女はもしかして予言の出来る可愛い魔女なのかもね?」
「ふぉっふぉっ…。そうなら彼女は案外、儂らにとって勝利の女神だったのかもしれんのぉ?」
「追放なんてしなければ良かったのに…。」
「そうです!あんな可愛らしい子供を、無法地帯でもある外に追放するなんて……信じられません。」
「これで勝利が遠退いたら、リトラーに今度は責任を取ってもらうかの。」
「その時はクレメンテ老もですからね?」
「ふぉっふぉっ…。その先におなごがおるならの。」
一人、一番スノウと仲の良かったシャルティエだけが話に参加しておらず、それをソーディアンチームの仲間たちが見遣る。
「スノウさん……」
「シャルティエ少佐。あの子達を見てみろ。」
イクティノスがシャルティエの肩に手を置くと顎でカイル達を差した。
そこには作戦会議なのか、円陣を組んで何かを話しているカイル達がいる。
「あいつらだってきっと今回の処分に腹を立てているはずだ。でも、彼女の言葉を聞いただけであんなにも見違えるほど気持ちに変化があった。お前もそれを見習うべきじゃないか?」
「イクティノス……。そう、ですね…!そうですよね!僕らが頑張らないとスノウさんは帰ってこられないんですから、頑張らなくてはいけませんね!!」
「その意気だ。」
「というより、ハロルドも帰ってこないのかしら?」
「いや、ハロルドは帰ってくるよ。ハロルドには大事な研究があるからね。」
空にあるアレを吹き飛ばすような、すごい発明をね。
そうリトラーが言うとソーディアンチームも大きく頷き、決意を瞳に宿していた。
「ぶぇっくしょい!!!」
「びっくりした…!風邪でも引いたのかい?ハロルド博士?」
「あー、いや全然違うわ。絶っっっ対、あいつらが噂してるに違いないわ!」
「あいつらって?」
「私の双子の兄、それからディムロス、イクティノス、シャルティエ、その四人よ!!」
「ふふっ。噂されることはいい事だと思うけど?」
「なーんか、良からぬ事を言われた気がするのよねー。」
ハロルドがズルズルッと鼻水をすすり上げ、鼻を擦っている。
その横でスノウがティッシュを手に、ハロルドの鼻水を拭いて介抱してあげていた。
外の寒い気温でハロルドの鼻水が凍りそうだったからだ。
「ていうか、あんたがあんなに簡単に処分へ賛同するなんて思わなかったわ。そんなに“この子”が大事だったのね。」
そう言ってハロルドはスノウの腰にある銀色の剣を見た。
何処かで見た気がするそれは、ジューダスがいつも肌身離さず身に着けていた“シャルティエ”だった。
『……。』
「まさか未来でこんなぶっ壊れるなんて、ハロルド・ベルセリオスの名が廃るじゃない!!私の名前を未来永劫轟かせるのが私の夢だってのに!!!」
「そんな夢、持ってたんだ?」
「当たり前でしょ?ま、男だって間違えられたのには満足してるけどねー♪」
恐らくジューダスが間違えたのだろう。
原作においても彼が間違えていたのだから。
「君こそ、私についていて大丈夫なのかい?私は“危険人物”なんだろう?」
「バッカねー。誰があんたのその能力を見極めるって言うのよ。」
「別にハロルド博士じゃなくとも……とは思ったけど、確かに君以外の適任は思い出せそうにないね。」
「ふっふーん♪分かったならさっさと行くわよん!」
小ぶりな杖を手にして目の前の敵に向けると、目の前の敵もジリジリとハロルド達ににじり寄ってきた。
スノウもそれを見てゆっくりと目を閉じ笑うと、相棒を手にし、いつもの構えを取った。
「お手並み拝見といこうじゃない!」
「私の力、見くびらない方がいいよ!」
相棒を片手にスノウは敵に突っ込んでいく。
そしてそれを目にしたハロルドがワクワクと目を輝かせていたのだった。