第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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意識が戻り目を開けた先はやはりベッドの上だったが、彼の姿はなかった。
それに安堵の息を吐けば声が出ていることに気付く。
どうやら魔法弾の効果時間が切れたようだ。
景気付けに頭に魔法弾を撃ち込み、声が出ない事を確認した。
それから体調の確認も怠らないようにすれば、案外動けるようでやっぱりゆっくり寝るのが一番だなと変に感心した。
身体を起こし洗面台に行き鏡の中の自分を見る。
今日も変わらない髪色に瞳。
一つだけ違うのは血色良くなった顔色くらいか。
洗面台から離れ部屋に戻り、次にシャワーを浴びに行くことにした。
どれくらい寝ていたかは知らないが、しばらく入っていないのでタオルやら着替えを持ちシャワーを浴びに行く。
「……」
暖かいお湯にほぅと一息つく。
人ってやっぱりお風呂に入らないといけない。
うん、そう思う。
蛇口を捻りシャワーを止め浴室から出る。
適当にタオルで髪を乾かし着替えていると、ふと考えるのは昨日のこと。
ジューダスを狙う黒づくめの人物、そしてその殺気に気付かない彼。
前世であれほど一緒に戦ってきて彼の性格も、行動も読めるほどにはなっているつもりだ。
しかしその彼があれ程の殺気に気が付かないとは思えない。
となると彼が偽物なのか、それとも別の何かがあるのか……。だが、彼が偽物とは思えない。
前世よりは自信なさげに見えたが、それでもあの声音といい、行動と言い…、彼そのもののような気がする。
一向に分からないパズルを解いているみたいで気持ち悪い。
病み上がりで変なことを考えるものじゃないなと思いつつ部屋の荷物の整理をしてからチェックアウトを行った。
今日こそ彼らに会わないことを願って図書館へと足を運び、昨日の続きをノートに書き込んでいくと少しずつ18年前の史実が見えてくる。
どうやらリオンはモネとしての自分が死んでからというもの、“戦死”を遂げているらしい。
何かの間違いでは?と思っていたがどの筆者も同じような見解ばかり。
『ソーディアン・シャルティエの不調』『リオン・マグナス惜しくも敗れる』など、そう言った能書きが沢山書かれている。
そしてスタン達はちゃんとミクトランを倒しこの世界の英雄として存在しているようだ。
リオン彼一人だけ、謎に包まれているような書き方だ。
一度伸びをしてからノートを見返していく。
……なんだか本当に考古学者みたいな事をしているな、と薄ら自嘲すると前の席に誰かが座った気配がしてため息を吐く。
彼じゃなければいいが……と期待を込めつつゆっくりと視線を動かせばそこには昨日の黒づくめの人物がこちらを見て座っているではないか。
息を呑み、自身の得物に手をかけ戦闘態勢に入った私を制するかのように手を前に出す黒づくめの人物に、訝しげな表情を作り、手は得物にかけたままにして座る。
「昨日はどうも。」
「___」
「ん?話せないのか?」
すると急に高度な回復技をかけられ声が出るようになってしまい、はあと溜息を吐いた。
「……君は誰だい?」
「申し遅れた。我々は〈赤眼の蜘蛛〉という組織だ。そして俺は“修羅”と言う。以後お見知り置きを。」
ノートに書かれた文字、それは以前の私の世界の文字…日本語だった。
“修羅”と書かれた名前は明らかに日本語でそれに目を見張る。
「ふっ、これを見てその様な顔をするってことは、あんたは日本人なんだな。やはりな。」
「それは時期尚早というものじゃないか?私は何も言っていないだろう?」
「表情で分かる。まぁ、今はそんな事はどうでもいい。本題はあんたを〈赤眼の蜘蛛〉の勧誘に来たという所だ。」
〈赤眼の蜘蛛〉……聞いたことがない組織だ。
それにこの修羅という相手……、日本人ということは転生してきてこちらに来たと言うことだろうか。
「聞きたいことは沢山あるだろうが、まずは〈赤眼の蜘蛛〉の活動内容を説明させてくれ。」
「……どうぞ?」
「あんた、肝が据わってるな。まぁいい……。〈赤眼の蜘蛛〉の活動内容……いや、活動目的はこの世界におけるキャラクターの抹殺だ。」
「どういうことかな?あまりにも突拍子なくて私には難しい話のようだ。」
大袈裟に手を上げると、ふっと笑われる。
しかし奴は手を組み顔の前にそれを持っていくと真剣な表情になる。
「この世界はテイルズオブデスティニー2のゲーム世界だ。そして、あんたはそこへ転生してきた……いや、転生させられた〈星詠み人〉という事だ。」
「〈星詠み人〉?それに……転生“させられた”?」
「憎いか?俺たちは望んでここに来ている訳じゃない。“神”によって転生させられたんだよ。」
いや、まじでテレビの見すぎだって。と言いたくなるような展開だ。
〈星詠み人〉、転生させられた、〈赤眼の蜘蛛〉、キャラクターの抹殺……、本当に頭がクラクラしそうだ。
「……ふぅ、何となく展開が読めてきた。ようするに〈赤眼の蜘蛛〉はその転生させられた〈星詠み人〉が集まった組織ということか。」
「お、話が早いな。それに察し能力も抜群にいいときた。すごいな、あんた。」
「いや、正直戸惑っているよ。まさか私の他にも転生者がいたとはね……。」
「そういうやつらは沢山いる。それが〈赤眼の蜘蛛〉だからな。」
「……で?何でまたキャラクターの抹殺なんて物騒なことを?」
頭が混乱していようともそれは聞かなければなるまい。
〈星詠み人〉が彼らを抹殺する理由など無いはずだ。寧ろ嬉しくは無いのか?
こうしてゲームのキャラが自身の考えで動いていく様が、私には嬉しくて堪らないのに。
「“神”への反旗だ。」
「まぁ、だろうとは思ったけど…。まさか本当にそんな理由だなんて、ね…」
「他にもある。奴らを殺すことが出来れば我々は元の世界に戻ることが出来るのだから。」
「何を根拠に……」
「それは“神”が約束したからだ」
矛盾していないか?
“神”に反旗を翻したい、けど“神”が願いを叶えてくれるから彼らを殺すなど…。
痛くなる頭を押さえながら取り敢えず話の続きを促す。
「ま、他の奴らはそうだろうな。」
「君は違うって言うのかい?」
「あぁ、少なくとも〈赤眼の蜘蛛〉は全員が同じ目的を持ってるわけじゃない。それを信じてやまない信者どもがやっているだけの話だ。」
「では、君の目的は?」
「そうだな……腕試しがしたい、と言ったところか。」
「ただの戦闘狂か。」
「バルバトス・ゲーティアみたいなものと一緒にしてくれるなよ?」
その言葉に嘲笑う彼は嘘をついているようには見えない。
だがそれでも、それだけの為だけに彼らを殺すというのは頂けないが。
「あんたはこっち側の人間かと思っていたが…違うのか?」
「少なくとも、君程の戦闘狂ではないと思いたいけどね?」
「なんだ。ならこっち側の人間じゃないか。」
「一緒にしないで頂きたいものだね。」
わざとに溜息を吐けばクスクスと実に愉快そうに嗤われてしまう。
本当に厄介な相手に目をつけられたものだ。
「〈星詠み人〉、あんたの名前は?」
「……スノウ・ナイトメアと名乗っているよ。」
「スノウか。いい名前じゃないか。」
「お褒めに与り光栄だ。」
「で、スノウ。本題に戻るが、どうなんだ?あんたの気持ちは。」
『君は私の表情を見れば大体分かるんじゃなかったのかい?』
「ふっ、やっぱあんた面白いな。」
クスクスと笑い続けられ、それに呆れていると次の瞬間修羅が真面目な表情に変わる。
「あんたの目的を俺は知らない。だが、あんたは〈星詠み人〉なんだから強制的にこちら側の人間と言う事になる。それを肝に銘じておくんだな。」
「君達の思い通りにはさせない。彼らは生きている人間だ。それを壊すものは誰であろうと容赦しない。」
「ふっ、そうでなくっちゃな。……あーあ、勧誘を断られるなんてな。他の奴らにどう言ったらいいか。」
「それなら話は早い。スノウ・ナイトメアは〈星詠み人〉では無かった。そう言えばいいのでは?」
「そうもいかないんだなぁ、これが。あんたが俺達の殺気に気がつける時点でこちら側の人間なんだから。」
「……そういえば、どういう仕組みなんだ?それは」
「簡単に言えば、奴らは俺達〈星詠み人〉の気配に鈍感なんだ。だから俺らの殺気には気が付かないってわけ。生まれた世界が違えば気配やオーラの類は全く違うものになる。そういうことさ。あんたなら知ってるかと思ってたが…」
「……いや、初耳だ。」
「少しは役に立ったか?スノウ?」
「……気安く呼ばないで頂きたいのだが?君達の仲間になった訳じゃない。」
「つれないこと言うなよ。同じ〈星詠み人〉だろ?」
困ったものだ。
殺人集団に勝手に仲間意識をされても困る。
しかしここで再び矛盾が生まれる。
「ひとつ聞きたい。」
「なんでもどうぞ?」
「ジューダスの持っているソーディアン、シャルティエが私の気配に敏感なんだ。それはどう説明する?〈星詠み人〉の気配には鈍感なのだろう?彼らは。」
「……なるほどな。あんた、この世界に来て長いだろ?」
「……そうだね。」
「それはあんたがここの……この世界のオーラに馴染んできているんだ。あれならオーラを戻すことも出来るが?」
「……頼みたい」
「クスクス…、〈赤眼の蜘蛛〉には入らないのに気配を気にするとはな?」
「困るんだ。彼らに私の正体がバレるのは、ね?」
「クスクス、ほんっとあんた面白いよ。分かった、やってやる。」
修羅は立ち上がり私の横に立つと肩に触れる。
すると修羅の手から暖かいものが全身に流れ込んでくる感じがして少しだけ目を見張る。
「……終わった。」
「随分と早いんだな?」
「俺のオーラを少し分けただけだからな。これで奴らに気配を辿られることは無い。」
「ありがとう。」
「ふっ、例には及ばない。あれなら〈赤眼の蜘蛛〉に入ってもいいが_」
「それは遠慮しておこう。」
「クスクス、残念だ。」
するとすぐに姿を消す修羅。
気配が消え、空間移動したことが分かり一度大きく息を吐く。
〈赤眼の蜘蛛〉か……。
厄介な相手だが……、何より彼らを殺そうとする思想は断じて許せない。
やはり彼らに着いていき守るに越したことはないだろう。
そうと決まれば次の目的は彼らへの接触だ。
「必ず護る……、この命にかえても。」
そして、エルレインからこの世界を守る彼らを見届けるのだ。
たとえ……消滅すると分かっていても。