第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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ファンダリア王国には、一人の優秀な剣客がいた。
麗人の様な男性で、天才的な剣の使い手。
また妙な術、妙な剣も扱え、周りの敵の追随を許さないのでこの国では一番強いとされていた。
ただその性格は少し変わっているようで……
「麗しいお嬢様……後で私とお茶でもどうですか?」
「まぁ!よろしいのですか?!モネ様!」
「こんな私めで良ければ、ですが」
「いえ!行きます!!」
「あー!ずるいわよ!!」
「モネ様っ!次は私とお願いします!!」
「ははっ。こんなに多くのお嬢様と一緒にいられて私は幸せ者ですよ!」
「「「きゃー!!モネ様ー!!!!」」」
「またやってるよ……」
周りの兵士はその麗人の性格を知っているので苦笑いでそれを見送る。
だけどその表情には妬み嫉みは見当たらない。
何故ならその麗人は国の兵士達からも熱い人気があり、強い剣術、的確な指示……上司にするには理想的な人柄だったからだ。
下の兵士でも気さくに話しかけ、任務に就く時は階級関係なく起用する事から上からも下からも人気で、そんな人物がファンダリア王国の主要人物になっていた。
その麗人の肩書きとも呼べる国規定の階級はない。
階級を与えようとしてものらりくらりと交わされてしまうようで彼に正式な階級が与えられないのが現実だったが、何かと問題が起これば彼を頼りにするのは当たり前になっており、自由な兵士編成権限、リーダーとして指示を出せる権限などの特権は貰っていた。
「モネ様、任務ですよ!」
「…あぁ、そうか。……すまないね、お嬢様方。私は行かなくてはいけない様だ。」
「モネ様、任務頑張ってください!」
「応援しています!」
「あぁ…!これで今日の任務は大丈夫だろう!君達の愛の応援が伝わってきたからね!」
「「きゃー!!モネ様ー!!」」
額に手を当て天を仰ぐ彼を女性達が黄色い悲鳴を上げ見つめていた。
それに兵士が苦笑してモネを連れていく。
道中任務の内容を伝えるのを忘れずに。
「今日は結構大きな行事があるんですよ!」
「うん?今日は何かあったっけ?」
「兵士から聞きませんでしたか?今日はあのセインガルド王国との合同演習ですよ!!」
「……あぁ、そうだったか?(という事は、リオンがいるのか……)」
「あっちには麗しの天才客員剣士がいるようです!モネ様には敵わないでしょうが、皆それで盛り上がっているんです!中にはどっちが勝つか賭ける奴も居て……、まぁ全員モネ様に賭けているので勝負にはなりませんが……」
「君達の熱い声援に応えるとしようか!……ただ、私は国の兵士じゃないのに演習になんかに出てもいいのか?」
「そこは国王様が直々に出る様にとお達しが出ています。恐らくこちらの武力を見せつけたいのでしょう。昔から国王様と向こうの国王様は良きライバル同士で、何かと競い合いたがりますからね」
「そうなのか?それは初耳だ(そんなのゲームにあったか……?)」
「結構有名な話ですよ?」
「そうか!まぁいい。それで?私はどこに向かわせられてるんだ?」
「演習場です。ファンダリア大陸で演習は行なえませんのでセインガルドへと向かうのです。」
船に乗らせられ、流石に行き先を尋ねる彼に兵士達が笑った。
それを見て照れながら頬をかくモネ。
しかし次に見せた表情は真剣な顔だった。
「さて、編成するか!何パターンか用意しておこう!」
「「「はっ!!」」」
「……お前たちさぁ……もうちょっとその固い挨拶、何とかならないのか?」
「「「なりません!!」」」
「あ、うん……そっか……。」
苦笑を滲ませた彼は兵士一人ひとりを見渡し、次々と選抜していく。
どういう決め方なのかは本人のみぞ知るとはよく言ったもので、選抜された兵士の内容は本当にバラバラだった。
6〜7種類のパターンをものの数分で完成させた彼にだれもが羨望の眼差しを送り、彼に任せておけば今回も大丈夫だと思うのだ。
「さて、いっちょやりますか!」
「「「「おー!!!」」」」
ダリルシェイドの港へ着き、何故か先頭で歩かせられたモネは一瞬肩を竦めたものの、堂々と歩き出す。
セインガルド兵が敬礼をするのでこちらも敬礼をしておき礼儀を重んじておく。
「今日はよろしく。セインガルド王国、客員剣士様?」
「………ふん。宜しくするつもりはない。叩きのめしてやるからそのつもりでいろ」
「おー、怖い怖い。でも、こちらも準備は万端なんでね。正々堂々やらせてもらうよ。」
「やれるものならやってみろ」
マントを翻しカッコよく去っていく彼を見て、モネは心の中で大きくガッツポーズをしていた。
「(リオン…、やっぱりかっこいいなぁ…!!会えて良かった……!!)」
「モネ様、我々も行きましょう!」
「そうだね。行こうか!」
__さぁ、演習の始まりだ。
演習内容としてはこうだ。
まず午前の部は集団戦、午後の部よりこの演習の花形である個人戦となり、それぞれ国王が見ているだけあって活気も凄まじく兵士達は一丸となってこの演習に挑んでいる。
相手の出方を待ちたい所だが…、果たして彼はどう出るか…?
「………!Bチーム、用意宜しく!!」
「「「「了解っ!!」」」」
「それからCチームもスタンバイ!」
双眼鏡を持ち相手の出方を見たモネが次々と味方へと指示を出していく。
複数のチーム構成からなっているので臨機応変に対応出来る様になっている。
「いいか!相手を気絶させるか降参させるまでだからな!殺すなよー!?」
「「「「了解っ!!」」」」
自国の兵士達が演習場を駆け抜け、相手と交戦するとモネが再び指示を飛ばす。
複数パターンのチームが全て出払い、残るは隊長であるモネだけだがその様子をしばらく双眼鏡を覗き、経過を見ていた。
自国が優勢になるとニヤリと笑い双眼鏡を外した。
「悪いな、リオン。君の手の内は知ってるんだ。それを最大限使わせてもらうよ?」
ゲームで知った推しキャラ。
当時本当に彼の事ばかり考えていて、それこそ小説やイラストサイトなど読み漁っていたが…まさか本物を拝めるとはその当時は思いもしなかった。
だからこそ彼の行動等は把握済み。
彼には申し訳ないが、勝てる試合には勝たせてもらおうか。
「さぁ、私も行くか。」
モネが戦場に降り立つと、味方の雄叫びが辺りに轟き、それに驚いたセインガルド兵はその場に立ち尽くしていた。
「何をしている?!前進しろ!!」
「よし、今こそ力を見せつけてやろう!」
「「「「おーーー!!!」」」」
尻込みしているセインガルド兵を横目に、指揮を高める為に声を張り上げるとファンダリア兵が突撃していった。
やはり戦略というのは、事前の調査が無ければ成り立たず、それ無しで勝利へと導けるはずがない。
今回の試合はこちらの勝利だ…!
あっという間に敵を退け、勝利を手にしたファンダリア兵に労いの言葉を掛けていく。
セインガルド兵は無念そうに項垂れており、特に指揮を取っていたリオンはとても悔しそうだった。
「何故こちらの動きを見切れた…?!」
「まぁ、今回は偶然だよ。幾つか危ない所もあったし、お互い様だよ、お互い様。」
「…お前、名前は?」
「モネ。モネ・エルピス」
「ふん、僕はリオン・マグナスだ。……個人戦では負けないっ…!」
悔しそうに顔を歪ませて去っていく彼を見送り、ファンダリア兵の方へと振り返る。
待ってましたとばかりの自国の兵士達の歓声に苦笑いを浮かべ午後の部へと思い馳せる。
個人戦では駆り出されるだろう自分は誰と当たるのか…、もしかしたら将軍辺りも当たるかもしれないが何しろ原作ではあまり将軍らの活躍は描かれなかった為勝機は薄いに等しい。
いや、自分の武器なら不意をつけるだろう。
弱気になってはダメだと首を振り、迫り来る個人戦へ向け、次々と時間ある限り戦略を立てていった。
「個人戦、最終戦!リオン・マグナス対、モネ・エルピス!!」
「…ふん。」
「いやぁ、どうもー!」
四方八方へ挨拶を交わしていると目の前の彼から冷たい視線を向けられる。
まだ打ち解けていない証だろうそれは、威嚇のように見えて少しだけ可愛らしいと思った次の瞬間殺気丸出しでソーディアン・シャルティエを構える彼に苦笑を滲ませる。
相当午前の部の件で怨まれているらしい。
だが、午後の部も大人しくやられるつもりはない。これは私の腕試しでもあり、今後の物語の展開に大きく作用する。
……ここまで言うと大体の人は分かるだろうが、そう、私は目の前の彼を救いたい。
例え、どんな結末を迎えようと……何としても彼は救う……、それはこの世界に来てから胸に秘めていた想い。
「…行くぞっ!シャル!」
「はい!坊ちゃん!」
どうも私にはソーディアンマスターの資格があるらしい。シャルティエの声が聞こえてしまった。
それに自然と口角が上がる。
シャルティエの声が聞こえるなら、割とこちらの都合が良い。
シャルティエを構えた彼に私もゆっくりと自身の得物を取り出し構えると、それを見て酷く驚いた顔をし目を見張った彼。
その反応は当然だろう、この世界では流通していない筈の武器……ガンブレードなのだから。
見た目は割と細身の剣のそれだが、持ち手はだいぶ変わった構造になっており瞬時に形を変えて…所謂変形して銃として撃ち出せるようになっている。
ただ銃弾は用意出来なかったし、コストもデカいので装填する弾は私の魔法弾だった。勿論魔法も扱えるが私の場合、詠唱を必要としない。
周りから噂される、私が妙な術、妙な剣技を使うとはそう言う事だった。
「…そんな武器で僕が倒せると思っているなら笑止。ちゃんとした武器を持ってこい」
「残念だけどこれが私の唯一の武器なんでね?」
「ふざけた真似を…!すぐに後悔させてやる!」
女性でも扱えそうな細身の剣を見てしまったからか侮辱されていると勘違いされているらしい。まぁ、女性という点ではあっているのだが…。
敢えて男装をする事でこうして彼にお近づきになりたくてやっているのだから。
その方が世界は…彼は救いやすい。
「試合始めっ!!」
「先手必勝でいかせてもらうよ?」
リオンから攻撃を受けたらきっと一溜まりもないだろう。例え攻撃を受け流したとしても、次の彼の詠唱がどれほど早いか分からないからだ。
獲物を構え踏み込んだ私に、普通に受け流す気であるリオンがこちらを睨みつけた。
冷静に実力を図る為であろうそれに、先手で軽く数回打ち合い、一瞬身を引くとそれを好機と捉えたかリオンからすかさず攻撃を仕掛けてくる。
それを大きな跳躍により身を翻し、攻撃を交わすと私は空中ですぐさまその剣を変形させ銃口を向ける。
狙うは足元…!!
「……っ!?」
パァン!!!
形容し難い割と大きな音が辺りに響き、私はその身をゆっくりと地面へ降り立たせ、すぐに剣の状態の自分の得物を構える。
しかし彼はその場に縫いつけられた様に動く事は出来ない。
特殊な魔法弾を使用し、彼の動きを止めたからだ。
「坊ちゃん?!どうしたんですか?!」
「…くっ!!」
「体が動かないかい?大丈夫、痛くはないだろう?」
「何をした?!!」
「さぁて、ね?敵の正体を明かしては面白くないだろう?」
「「「「モネ様ーーーー!!!」」」」
ファンダリア兵からの熱い声援に手を挙げ、それに応えた。
彼は足掻き、藻掻き、どうにかして体を動かそうとしている所だった。
ゆっくりと彼の首に剣を突きつけようとした瞬間、流石と云うべきか、あの呪縛から逃れ私にシャルティエを振りかぶってきたのだ。
なるほど、そう来るか。
今度は私に攻撃をさせない様にしているのか、攻撃の手を休めず流れる様に攻撃してくる彼の攻撃を交わし続ける。
すると彼が一瞬身を引き、詠唱の構えを取ったのでこちらから先に仕掛ける。
地属性には…風属性の技!!
「…(スラストファング!!)」
無詠唱で、且つ自分より早く出された技に驚きを隠せない彼は身体が硬直しその技を受ける。
しかし、その技も途中より逃げられあまり効果はなかった様子。
「し、晶術?!!ということは、彼はソーディアンマスターですか?!」
「チッ…!道理で妙な技を使うと思ったら…!!」
彼が構える前に再び彼の懐に潜り込み剣を閃かせたのだがすんでの所で交わされ、容赦なく次の攻撃を浴びせる。
「ぼ、坊ちゃん!このままではまた彼に空中を飛ばれ、妙な技を使ってきます!!!」
「分かっているっ!!!」
「ふっ…!!」
先程と同じく一瞬身を引くと反射的なのか同じ挙動で攻撃を仕掛けてくる彼に、それを翻し大きく跳躍する。
しまったと顔に出てしまった彼に向けて銃口を向け、魔法弾を撃ちだす。
今度は気絶してもらおうか!!!
狙うは頭!!
私が空中にいるのは一瞬だけなのに、彼は動体視力が良くその銃口の位置が見えたのか、咄嗟に頭を腕で庇っていた。
お見事!!だが……!!
パァン!!!!
再び形容し難い音が辺りに響きその庇った腕へと魔法弾を撃ち込むと、彼の身体は無情にもその場に倒れた。
どこを狙おうが身体に射つ事が出来れば効果が現れるだろう。
セインガルド兵の方の温度が急激に下がるのが分かり、倒れた彼を審判が死んだのではと思ったのか、脈の確認へと行くのを笑いながら見ていた。
「坊ちゃん?!!坊ちゃん!!!」
「大丈夫、死んではいないよ。」
「脈確認しました!生きています!!この試合、モネ・エルピスの勝利!!」
「「「「うおーーー!!!」」」」
兵士の面々に手を挙げ、その歓声に応えると余計に盛り上がりを見せた。
倒れている彼に近付き、回復をかけてやる。
勿論無詠唱だから誰にも私が何をしているかは分からないだろうが…。
「!!!…ありがとうございます、坊ちゃんに回復をかけてくれて…」
シャルティエにはすぐ分かったらしいが、聞こえないフリをしておく。
すぐにその場を去ろうとした私を必死になってシャルティエが止める。
「ま、待って下さいっ!!君はソーディアンマスターじゃないの?!僕の声が聞こえるんじゃない?!」
「…」
そのまま歩き出す私に落ち込んだ様なシャルティエに申し訳ないが聞こえてないフリが何かと都合が良いのだ。ごめんな、シャルティエ。
「モネ様、流石です!!あの攻撃には誰も反応出来ないと思っていました!!」
「…いや、彼は私の挙動を見抜いていたよ。最後咄嗟に庇った腕が何よりの証拠だよ。…すごいね、彼は」
だからこそ、ヒューゴに利用されてしまうのだ。彼の残酷な運命は子供の頃から廻り始めている。だからこそ、彼を救いたい。
救って彼らと…スタン達と仲良くなって、友達となって…幸せな家庭を築いて欲しいのだ。
兵士の方を一度見て、彼の方を振り向いた私にシャルティエが気付いたのか息を呑む音がする。
「彼はかっこいいよ。…私には声は聞こえないけど、その腰にある剣もとても優秀な様だしね?」
「…!!」
途端に悲しそうな光を灯したコアクリスタルを見て、僅かに苦笑する。
トドメを刺す様で悪いが、こうでもしないと私の計画がダメになってしまうのでね。
兵士と共に歩き出した私を、シャルティエが寂しそうな色合いで見送っていた。
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