カイル達との旅、そして海底洞窟で救ったリオンの友達として彼の前に現れた貴女のお名前は…?
Never Ending Nightmare.ーshort storyー(第一章編)
Name change.
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結局色んな事件があった私達だったが、肝心の本職神父の壷直しは難航しているようだった。
既にこの教会に1週間近くいる私達だったが、何だかんだ町の人たちからお礼を言われたりと役には立てているようで、カイルやリアラがその町人たちの声に一番に喜んでいた。
「アンタ達が来てからは教会が賑やかになっていいねえ…。」
「本当?!おばあちゃん!」
嬉しそうにカイルが老婆の声に耳を傾けている。
その横でリアラも嬉しそうにその声を聴いていた。
「あの前の神父はやる気がなくてダメでねえ…。シスターも居ない教会だし…。全く…と思ってた矢先にアンタたちが来たのよ。これは神の思し召しかもしれないねえ…。」
「神の…思し召し…。」
リアラが複雑そうな顔になったことでカイルが心配そうにしたが、リアラはすぐに誤魔化していた。
それを見た私もまた、遠い目で思案していた。
私にとっても、神はいると思ってる存在なのでリアラの気持ちは分からなくもない。
知ってる神が果たしてその老婆が言ったことに画策しているかどうかは分からないが、何やら複雑にさせられるものである。
このお婆さんや道行く人は実際に神を見たことがないのだから。
「そういえば、もうすぐでフラワーフェスティバルねえ…?」
「フラワーフェスティバル?何それ?」
「フラワーフェスティバルは、普段言えない気持ちを花に託し、相手へと気持ちを伝えるイベントですよ?」
「あ!スノウ!聞いてたんだ!」
"考古学者としてのスノウ"の高めの声で話しかければ最初は目を丸くされたが、気にしなくなったのかすぐにこちらに話しかけてくれるカイル。
…君は相変わらず優しいね。
「さすがここのシスターさんだねえ…。物知りじゃ。」
「お褒めに与り光栄です。夫人。」
「ほっほっほ。」
優し気に笑った老婆はカイルとリアラを見てうんうんと頷く。
「あんたたちも、いつも言えない事を花に託したらどうだい?」
「花に…」
「…託す」
ゆっくりと言葉を紡いだ二人はお互いをじっと見つめあう。
すると二人は予想に反して難しい顔になっていった。
二人ならこのイベントは楽しめると思ってたが、何か障害でもあっただろうか?
「オレ、花ってあんまり詳しくないんだよなぁ…。」
「私も…。花に言葉を託すって言われても…どうしたらいいか…。」
「ふふ。二人とも?花にはそれぞれ"花言葉"があるって知ってますか?」
「「ハナコトバ?」」
「そう、花言葉。花のもつ特徴・性質などに基づいて象徴的な意味をもたせた言葉…と言われているんですよ?」
「???」
「そうですね…。例えば、代表的なもので言うと赤いバラの花言葉は"愛情"や"愛しています"などの言葉になるんですよ?」
「あ、私…なんか聞いたことがあるかも…。」
「そう、そう意気ですよ。何もすべて覚えなくてもいいんです。相手に伝えたい言葉を選んで渡せばいいのですから。」
私がそこまで説明すると二人は興味深そうに聞き入っていた。
これで彼らも本来のフラワーフェスティバルを楽しめるだろう。
二人にもう大丈夫ですね、といった意味を込めて笑顔を浮かべたがどうやら伝わったようだ。
その証拠に何の花があるか、とかどんな意味が良いかと老婆と一緒に考え始めていた。
「スノウはもちろんジューダスに渡すんでしょ?」
「ん?うーん……。そうですね。渡すと思います。」
「私、スノウならジューダスに何を渡すのか気になるな?」
「ふむ…。」
お店を見て回ってこれだという者を選ぼうと思っていたが、少し考えてみる。
元々彼の瞳の色は好きだし、その紫色の花と言えばクレマチスやら桔梗、スミレ…それから……アネモネだろうか。
アネモネは元々好きな花だし良いかと思われたが…、アネモネでは花言葉の印象があまりにも悪すぎる。
仮にも"見捨てられた"、"見放された"など悪い印象を持つ花のイメージがつきすぎている。
それでは彼に失礼だろうし…
しばらく私が口元に手を当て考え込んでしまっていたからか、リアラが悩む私を見て笑みを零した。
「ふふ。スノウもジューダスに対して、そこまで悩むほど大切に思ってるって事よね?」
「ん?それはもちろん…。レディには――」
そこまで言って、深い思考の末に素が出てしまったことにハッとして、咳ばらいをしてから言葉遣いを直す。
「神父様にはお世話になってますから。大切だと思うからこそ、ちゃんと選びたいものですよね。」
「ふふっ!そうよね!」
嬉しそうに目を細めたリアラだったが、急かしたカイルに連れられ老婆の前を後にした。
そして残ったのは私と老婆だけである。
「シスターも気を付けて行っておいで…。ちゃんとシスターの大切な人に日頃言えない思いを伝えておいで。」
「ありがとうございます。そうさせてもらいます。」
私がカイル達と同じ方向へと向かって歩き出すと、その横をロニが走って向かっていき、そして大分してからナナリーも走ってカイル達が消えた方向に走っていったのを確認した。
どうやら、皆やることは同じなようだ。
それに笑いを零した私もまた、皆と同じように足取り軽く、市場へと出向くのだった。
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__町の市場。
流石フラワーフェスティバルを大々的に広告してるだけあり、花もたくさんあれば同じように人もたくさん見受けられる。
是非とも一つ一つ見て回ってみたいが人の流れが多く、そのようなことは出来そうにない。
気になったものを立ち止まって見る方式に変えないといけなさそうだ。
「カーネーションにバラ、それにトルコキキョウもあるのか…。日本ならではの花もたくさんあるようだね。」
見ている限りでは日本に馴染みのある花もあったりして、それが少しだけ物珍しく、そして何だか嬉しい。
昔見たものが懐かしいと感じる様に、故郷の花があるのは個人的な気持ちとして嬉しいのだ。
時折人にぶつかりながらも進んでいくと、紫色の花を中心に売っている露店を見つけ立ち止まる。
彼の瞳色の花で花言葉を選んだなら、それはとても"素敵"になるだろう。
私は暫くその店で立ち止まり、花を見ていく。
店員さんが人の好さそうな顔でこちらを見ていてそれにひとまず笑顔で応え、目的のものを選ぶ。
「(この花の花言葉は素敵だな…。)」
スノウが見ていたのはリューココリーネと呼ばれる花で、意味は"温かい心"、"信じる心"だ。
なるほど、それはいいかもしれないと見ていると次の花が目に飛んでくる。
今度はバーデンベルギアとよばれる花でこちらも紫色をしていた。
花言葉は…、"奇跡的な再会"、"運命的な出会い"らしい。
ふむ、これもいいかもしれない。
「もしかして彼氏さんにですか?」
「??」
「いえ、そういった花言葉の花を見られていることが多いのでもしかしてそうなのかなと思いまして。」
「ふふ、仮にも私はシスターですので恋愛は禁止なんです。」
「では秘めた想い、ということですか?!素敵ですねぇ…!」
「秘めた想い…。そうかもしれません。だから花に言葉を託したいのかもしれませんね…。」
スノウがそう話すと店員の恋愛のバロメーターが一気に上がり、あれもこれもスノウへと勧めていく。
そして店員の話を聞きながら吟味したスノウはこの店で花を買うことを決め、花束を作ってもらう。
数種類の花からなる紫色の花束を。
「素敵ですねぇ…!【リューココリーネ】、【バーデンベルギア】、【デュランタ】、【フジバカマ】ですか…!想い人は紫色がお好きなんですか?」
「紫水晶のような瞳の持ち主なんです。それで紫色の花で花束を作りたかったので、この店を見つけて丁度良かったです。」
「ううんっ!いいですねぇ!!青春ですっ!」
「ふふ、青春かどうかはさておき…。大切な方ではありますので、この思いをこの花達に託します。」
「そうですねぇ…。この花束の意味としては…【貴方との出会いは私にとって奇跡的で運命的です。あの日々を思い出すだけでためらいや躊躇することもありますが、どうか暖かい心で見守ってください。貴方は目を引く容姿をしていますからすぐに私は貴方を見つける事が出来るでしょう。そして信じる心で貴方を受け入れ、ずっと…ずっと、貴方だけを見守っています。】でしょうか?!」
「…!」
何とも賢い女性だ。
私の花束を見ただけでそうやって言葉に出来るなんて、相当賢くないと…それか、沢山の経験がないと出来ない芸当だ。
多少解釈違いがあったりするものの大体概ね合っているからこそ、驚いている。
私は笑顔で頷くと嬉しそうに店員さんが花束を渡してくれる。
それを受け取り、早速花の香りを楽しんだ。
数種類となると花が混雑して匂いがキツイものになりがちだけど、これはそう言ったことはなさそうで安心した。
「上手くいくといいですね!応援してます!!」
「ありがとうございます。貴方にも幸せが訪れます事を教会からお祈りしています。」
「ありがとうございます!シスターさんに祈られると叶う気がしますね!」
手を振って別れを惜しんでくれる店員さんにこちらも手を振り返し、教会へと足を向ける。
さあ、告白タイムと行こうか。
ただ花束を渡すだけだが、雰囲気が大事だ。そう…ムードだ、ムード。
教会の扉の前で深呼吸をした私は、花束を見てから意を決して教会の扉を潜った。
「いつまで買い物に行ってい――」
「レディ。」
「??」
神父姿の彼の前に立ち、私は花束を渡した。
それを何のことだか分かっていない彼が恐る恐る受け取ったので、笑顔を浮かべる。
「私からの日頃の気持ちだ。受け取ってくれ。」
「……。」
そっと花束を見る彼は見たことがない花ばかりだったのか眉間に皺をよせ、花言葉の意味を考えようとしているようだった。
しかしそれでも視覚的には紫で統一されたその花束に彼も気付いた事だろう。
「……本当、お前は紫が好きなんだな。」
ちらりと私の耳に付いている紫水晶のピアスを見つめ、彼はふっと笑った。
花束を受け取った様子の彼に心の中で安堵し、笑顔になった。
「で、これの意味は何なんだ?」
「言ったら意味ないじゃないか。私の普段言えない気持ちをこの花達に託したんだから。」
「でも受け取り手がこの花の意味を分かってないと、貰っても意味がないだろう?」
「いいんだよ。それで、ね?」
『スノウ!僕にだけこっそり教えてくださいよ!』
「ずるいぞ、シャル。」
喧嘩になって制裁されそうな雰囲気を感じつつ、私はもう一度自分で贈った花束を見る。
私の最大限の意味を込めた花束とあって、感慨深いものだ。
気持ちが伝わらなくてもいい。
でも、私の気持ちを彼に受け取ってほしい。
だから、花に託すのだ。
__私の密やかな気持ちを。
「…。」
そんなスノウの様子を見ながらジューダスもまた貰った花束を見て、考える。
__一体、これにはどんな意味が込められていたんだろう、と。
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__翌日明朝、市場にて。
朝早くにジューダスは市場へと訪れていた。
昨日貰った花束の意味が知りたいと、強く思ったからだ。
彼女の秘められた想い、それが知りたくて朝こうして市場に出向いていた。
『折角なら坊ちゃんもスノウへ花束を渡してみてはどうですか?伝わるかもしれませんよ?坊ちゃんの気持ち。』
「先日の事件の時にも分かっただろう?あいつはそういったものに疎い。」
『あぁ…。そうでした……。』
がっかりしたように項垂れたシャルに鼻で笑いながら、当の目的の花を探していた。
昨日貰った花束の花の形状は記憶済み。
後はその花を探して花言葉を調べればいいだけだ。
『あ!坊ちゃん、見てください!あそこ紫色の花ばかり売ってますよ?』
「…珍しいな。」
人通りが少ないおかげもあって、すぐにその店に辿り着くことが出来た。
店員が女性のために目を合わせない様にしていると、その店員は僕の顔を見るなりハッと息を呑んだ。
更にそれを無視していると、店員はあわあわと何事かと思うような焦り具合で僕を見ていた。
流石に看過できず、店員を訝し気に見遣ると店員が未だにどうしたものかと慌てているのが目に見えて分かる。
「あ、あの…もしかして…なんですけど…。蒼い髪のシスターさんと仲が良い、ですか?」
「…あぁ。そのシスターなら教会で今頃掃除していると思うが?」
「あぁ!やっぱりそうなんですね!!貴方のその瞳の色ですぐに分かりました!あのシスターさんの想い人さんだったんですね!」
「…は?」
『え、ちょ、どういうこと?もしかしてスノウ、昨日ここで花を買ったんでしょうか?』
「…あり得るな。」
ここにある花は見覚えがあり過ぎるほど、昨日の花束にあった花と酷似している。
それぞれの花言葉を確認していると、店員が話しかけてくる。
「もしかして、シスターさんの花束の意味を聞きに来てくださったんですか?」
「…あいつがそんなこと話してたのか?」
「私は、花束を見れば大体花言葉の意味を解釈できますから。お聞きになりますか?」
「…頼む。」
『ごくり…。』
「ではお伝えしますね?花はそれぞれ【リューココリーネ】、【バーデンベルギア】、【デュランタ】、【フジバカマ】でした。そしてその花束に込められた意味は……、【貴方との出会いは私にとって奇跡的で運命的です。あの日々を思い出すだけでためらいや躊躇することもありますが、どうか暖かい心で見守ってください。貴方は目を引く容姿をしていますからすぐに私は貴方を見つける事が出来るでしょう。そして信じる心で貴方を受け入れ、ずっと…ずっと、貴方だけを見守っています。】だと思われます!」
「…!」
まさか、あれだけの花束でそんなに意味を込められていたとは思いもしなかったが…聞けて良かった。
その言葉達を心の中で反復し、自身の心へと刻み込む。
寂しがりやな彼女が花に託した想い…。
僕の心に沁みて、そして活力になるのが分かる。
「……すまない。感謝する。」
「いえいえ!また聞きに来てくださいね!……それにしても良いシスターさんですね!こんなにも思ってもらえる人はどんな人かと思いましたが、なるほどです!」
何がなるほどなのかは分からないが、僕は店員に礼を再び伝えその場を去る。
彼女へ、僕が贈る花束を選びに行こうと思ったからだ。
なるほど、花に託すだけで伝わらなくてもいい気持ちとは、こういう事を言うのだな。
初めて彼女の昨日の言葉の意味を思い知った瞬間だった。
『何の花にするか決めてるんですか?』
「花言葉の意味だけで選ぶ。」
『素敵な花束になるといいですね!応援してますよ!坊ちゃん!』
「ふん。」
暫く見て回っていると時間も経ったこともあって、人が増えてきた。
流石、この町の観光イベントなだけある集客力だ。
「寄ってらっしゃい!」
「こっちもいいよ!!」
「花言葉ならうちに来な!!」
店の人が声を掛け始める時間帯。
賑やかな喧騒が耳に届く中、目的の花言葉を見て即決し買ってしまう。
そんな僕を不思議そうな色を滲ませながらも、シャルは黙って見ていた。
気に入った花言葉を手に取り買っていくという事をしていると、丁度いいお店が見え僕はそこへ向かった。
どんな花でも花束にします、と書かれた店だった。
纏まりのない見た目でも花束にしてくれるようだ。
「はい!おまかせください!!」
店員が笑顔で接客し、すぐに花束を作りにかかる。
下手な詮索もないから安堵しながら、出来た花束を持ってすぐに僕たちは教会へと戻った。
別に時間が差し迫ってるわけでもないが、早くこの花束を渡して、純粋に彼女の反応が見たかったからだ。
教会の外を箒で掃き掃除している彼女の元へ行き、僕は名前を呼んだ。
花束を渡すだけなのに何故か少し緊張してしまったが、彼女が振り向いたタイミングで買った花束を突き付ける。
そして何も言わずに教会の中に入ると彼女の戸惑いの言葉が聞こえてきた。
扉に縋り、僅かに緊張していた体を深呼吸と共に解していく。
『……坊ちゃん。スノウ、すごく喜んでるようですよ?』
僅かに開いていた扉から彼女の様子を見ていたからか、シャルがそういうので彼女の様子を少し見てみると、それはそれは嬉しそうな笑顔で口元に花を寄せ笑っていた。
それを見ただけで、花を買って良かったと思える。
……僕も相当、彼女に骨抜きだな。
『でも坊ちゃん、良かったんですか?折角の機会なのに愛の告白紛いなことをしなくて。僕はがっかりしてますよ!』
「だから言っただろう。あいつにそういうのは疎くて使い物にならん。花の無駄だ。」
彼女に選んだのは愛の言葉を囁くような、そのような意味の花たちではない。
彼女が元気になれるような、そんな意味を込めた花たちを集めたのだから。
「……【カルミア】、【スターチス】、【フィソステギア】か…。」
『え、すっご…。さすが女性ですね…!』
「あいつの場合、どうせ女性を口説くのに花を使うからだろう?」
『うわ…。 有り得そうだからすごいですよね…。でも流石に花言葉は分からないようですよ?』
暫くうっとりと花を見つめていた彼女だったが、大事そうに花を抱きしめると割り当てられた自室へと持っていったようだ。
飾ってくれるかは不明だが、あんなにも大事にされるなら贈った甲斐がある。
それに…あんなにも恍惚そうな表情を見せられたら、何故か胸が締め付けられて堪らない気持ちになる。
……彼女に、近寄りたくなってしまう。
僕は一度ふっと笑ってから背を預けていた扉から離れ、自分の持ち場へと歩き出す。
さて、今日も退屈な町人の愚痴を聞いてやるとするか。
【神父とシスターはたまには穏やかに花で語らう。】
__「(私の花束の意味は【奇跡的な再会と運命的な出会いに感謝し、そんな中出会った貴方を信じ続け、そして貴方だけを見守る。たまに物事を躊躇することもあるかもしれないけれど、君は暖かい心で伝えてくれるね。それが…今もこれからも私には大事なんだ。】)」
__「(あの花束の意味は…【大きな"希望"を持ったお前にその希望の実現を切に願う。今まであった出来事もこれからの出来事も、僕達の中で決して途絶えぬ記憶となり、そして僕達の糧となるだろう。ただ…、お前の願いを叶えるために僕が居るという事を忘れるな。】)」