カイル達との旅、そして海底洞窟で救ったリオンの友達として彼の前に現れた貴女のお名前は…?
Never Ending Nightmare.ーshort storyー(第一章編)
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「今日はクリスマスイブだよね!?」
何故か私は、その言葉に既視感を覚える。
そういえば以前、ハロウィンの時にも同じ様な事を言われて驚いた事があった。
この世界でもこういった文化が有るのか、と。
「ふふ。今度はクリスマスかい?」
「うん!だって鶏肉が食べられる日なんだよ?!皆もっと喜ばないと!」
「そうなの?スノウ。私、クリスマスも疎くて…。」
「うーん。あながち間違ってはいないんだけどね?」
「スノウの世界のクリスマスは違うのかい?」
「私の所でも“七面鳥”という鳥をクリスマスに食べる風習があってね。まぁ、一大イベントではあるかな?」
ハロウィンの時と同じ様に以前居た世界の話をすれば興味深そうに皆が聞いてくれる。
だから私は、昔の事を少しずつ思い出しながら私の世界でのクリスマスの事を話した。
「クリスマスでは仲の良い人とプレゼントを交換しあったり、サンタクロースっていう白い髭を生やしたおじさんが夜中になると煙突の中から家に入ってきて、子供達の頭元にプレゼントを置いてくれるんだ。」
「…不法侵入も甚だしいな。」
『本当ですよね…?不法侵入でも、良い不法侵入者ですねぇ?子供達にプレゼントをあげてなんの意味があるんでしょうか?』
ジューダス達も私の話に参加して、考察を立てている。
それに苦笑いしながら答えを話してあげる。
「今年一年、良い子にしてた子供にはプレゼントをくれるっていう風習なんだよ。そうしたら子供達はまたプレゼントが欲しいから来年も良い子にしてるだろう?そういう意味なんだ。」
「へぇ!変わったおじさんだね!でもそれってさ、おじさんに得なんてあるの?」
「それがサンタクロースの使命だからさ。一年間プレゼントを溜めて溜めて、溜め込んで。それからクリスマスに一気に配るんだ。空飛ぶトナカイと空飛ぶそりに乗って、ね?」
「トナカイが空を飛ぶの?!スノウの世界って凄いね!!」
目をキラキラさせてこちらを見るカイルに、本当のことを言おうか迷った。
こんなにも純粋な子供に本当の事を話すわけにも行くまい。
私は言葉を飲み込み、笑いを返しておいた。
「逆に、こっちのクリスマスは鳥を食べるだけの行事なのかな?」
「クレスタではそうだったな。」
「アタシの所もそんな感じだね。」
「ねぇねぇ!仮装はしないの?!」
「クリスマスに仮装はしないよ?まぁ、サンタクロースに仮装する人なら居たけど…。」
どうやらカイルは、ハロウィンでの仮装がお気に召したらしい。
その証拠に、仮装がないと分かるとあからさまに落ち込む様子を見せた。
「でも、良い子にしてたらサンタクロースからプレゼントが来るかもね?夜中にこっそりやってくるから起きてはダメだよ?サンタクロースは恥ずかしがり屋さんなんだ。起きて話しかけられたら慌てて逃げちゃうからね?」
「え?!来るかな?サンタクロース!」
「ふふっ。きっとカイルの所には来るさ。勿論リアラにも、ね?」
目を輝かせる2人にクスリと笑うと、サンタクロースの存在を知らない他の三人が不思議そうな顔をして………、否、「本当?」という顔をして私を見ていた。
ふふ、皆にプレゼント買う位はお金があるつもりだから安心してほしいな?
旅と途中で訪れたこの町もすっかり雪景色で、思わず前世での思い出が蘇る。
別にここはハイデルベルグでも何でもないけど、雪を見るだけで懐かしい感情が湧き上がってくる。
これが、いわゆる”サウダージ”という感情なのだろう。
郷愁、懐古、憧憬、思慕、切なさ…色んな感情が混じり合う複雑な感情と言われる感情の一つである。
何時だったか誰かから聞いた知識だが、何故だか今になって少し浮かんでしまった。
「ねえ、ロニ!今日は豪華にいっても良いよね?!」
「まぁ、一年に一回のクリスマスだからな。良いんじゃねえのか?」
「わぁ…!楽しみね!」
「その為にもちゃんと皆手伝うんだよ?皆で準備して、美味しさが増すってもんだよ!」
「「はーい!」」
ナナリーに連れられ、カイル、ロニ、リアラの三人は食材を買いに行った。
それを黙って見送っていると、横にまだ残っている彼が残った。
「行かないのか。」
『何か気になることでもあるんですか?』
「気になる事、か。特にないよ?シャルティエがそう言うってことは、私は先ほどまでそんな顔をしてたってことだ。」
『僕にはそう見えましたよ?坊ちゃんも見てましたよね?』
「そうだな。悩んでいるようにも見えたが…。」
「ふふ…。今日の夕食はどれだけ豪華になるだろうって思っただけさ。」
彼は歩き出す私の腕を掴み、引き留める。
その顔は真剣な表情で私を射抜いていた。
「本当か?」
「本当だよ。だから早く行こうか。皆が待ってるよ。」
向こうで手を振る皆に私は手を振り返し、彼の手を逆に握った。
そして笑顔で歩き出す。
「さあ、行こう。レディ?」
「………レディじゃない…。」
それでも振り払う事はせず、…だが納得がいかなさそうな顔で私を見ていた。
本当に大したことはないけど、明日になればすぐに分かるだろうから。
だから待ってほしい。
私が君に送るプレゼントを。
今夜こっそり皆の頭元に置いておく。
折角のクリスマスなんだから喜ぶ皆の顔を見たいしね?
その為に今日一日、何処かでプレゼントを買いに行かなくてはね。
「遅いよ!二人とも!早くしないと夕食が遅くなるよ!?」
「お前、食い意地だけはいっちょ前だよな…。誰に似たんだか…。」
「ふふ!でもカイルらしいわ!」
遅れた私たちが追いつくと再び歩き出す皆。
その後を彼の手を放さず付いていけば、彼から少しだけ驚いた顔をされた。
さて、今は純粋に買い物に勤しもうか。
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夕食の準備に皆が勤しむ中、私はナナリーに言って買い物へ行かせてもらっていた。
さて、皆に何を買おうかな。
「……。」
ジューダス……彼には何を贈ろうか…。
最近新しい街に行ってもデートも出来ていないし、贈り物も出来ていないでいる。
だからこそ、クリスマスイブである今日は何か贈り物をしたいと思っていた。
こういう時しか出来ないのが悲しいけれども、やらないよりは良いと思っていたから丁度良い機会だ。
「…武器は宜しくないな…。」
武器は手に馴染むまでが中々時間かかるし、本人に合っていなければ贈っても意味がない。
だから武器は却下だ。
かといって装飾品の類は彼が好きだろうか?
例の大事な母親の形見であるピアスでさえ外しているのに、だ。
そう思うと装飾品もあまり良い贈り物とは言えない気持ちになってきた。だとしたら、何が……。
「こんな所で立ち止まっていると風邪ひくぞ、馬鹿。」
「!!」
急に背後から声をかけられ、僅かに反応した私は大人しく振り向いた。
難しい顔でこちらを見る彼に肩を竦めるとため息を吐かれた。
酷いなぁ?何もしていないのに。
「どうしたんだい?君も買い物かな?」
「お前の姿がないからナナリーに聞いた。そしたら外で買い物をしてくるって言って外に出て行ったと聞いたから、手伝いでもいるかと思ってな。」
「おー。なるほどね…?」
流石に彼の目は欺けなかったか。
ナナリーに聞く辺り流石だな。あの時、場を仕切っていたのはナナリーだったしね。
「大した買い物じゃないから先に帰っててもいいよ?」
「…いや、あの場に居たら大変な目に遭うのが目に見えているからな。付き合う。」
遠い目をした彼にくすりと笑って仕方ないと手を差し出す。
それに不思議そうな顔をした彼だったが、意味が分かったのかその手にすぐ自分の手を重ねた。
こうなったら今は彼とのデートを楽しもう。
「久しぶりのデートだね?レディ?」
「……はぁ。まぁ、そうだな。」
大きなため息の後に返ってきたのは肯定だった。
それに意外そうな顔をした私だったが、すぐに彼の手を引き歩き出す。
さて、予定は崩れてしまったが……どうしようかな。
折角デートするんだから彼には楽しんでもらいたいが…。
「そういえばこの町の名産って何だろうね?」
「…確か、海が近い事から海産物などが名産らしいが……この寒さで船は出ていないだろうな。」
「そっか。それは残念だ。」
確かに冬の海は寒くて体に堪える。
そんな所に彼を連れて行くわけにも―――
「お二人さん。今なら流氷が見られるよ。」
先程の会話を聞いていたのか、ここの町人らしき人物が声をかけてきてくれる。
観光スポット…とまではいかないらしいけど、この時期に浮かぶ流氷はすごく素敵だと教えてもらったので私は迷わずそこへ行くことにした。
彼の手を引き、海の方へと向かう。
彼が今、何を思っているかは分からないけど…この時間は、私にとってとても大切な時間だから。
君と過ごす大事な大事な時間。
「流氷なんて中々お目にかかれないのにね?」
「この寒い気候と潮の流れが穏やかな状態だから出来るんだろう。珍しくはあるが、はしゃいで落ちるなよ。」
「分かってるって。」
そう笑っていえば信用がないのか彼の方からギュッと手を握り返してくれて、密やかに嬉しさが心に募る。
それと同時に彼の暖かな手で、身体まで温まってくる。
前世をハイデルベルグで過ごした私だが、それでも少し寒いと感じる気候だ。
彼はもっと寒いと感じているだろうに、こんなにも……暖かい。
「……暖かい…。」
「…。」
手を繋いではいるが彼よりも先を進んでいた私は、彼がその小さな呟きに対して険しい顔をした事に気付かなかった。
「───」
「ん?何か言ったかい?」
「……何も言っていない。」
何か言われた様な気がして立ち止まり聞いてみたのだが、彼がそう言うので再び歩き始める。
流氷か…。
今まで色々あった人生の中で、初めて見るかもしれないな。
「……へぇ!」
「これは……」
辿り着いた海は、一面がまるで北極や南極みたいな大陸と化していた。
近付き恐る恐るその分厚い氷の上へ乗れば、難なく乗れてしまう。
町人が流氷と言っていたからてっきり氷の間と間には海が見え隠れしているのかと思っていたが…、これは完全なる大陸だ。
その証拠に氷の上を飛び跳ねても全く問題はない。
……飛び跳ねた瞬間、彼に睨まれてしまったが。
「これは中々拝めない光景だね…?」
「これは流氷とは言わん。最早大陸の一部だ。」
「やっぱり君もそう思うかい?丁度私も思っていたんだ。」
手を繋いでいたこともあり、氷の上に乗る事を余儀なくされた彼だったが問題ないと分かると辺りを見渡す余裕が出来ていた。
太陽があっても尚、融けない氷の地面。
もう少し奥の方へ行ってみようか、と提案すると少しだけ考えた彼は首を横に振った。
「町の奴は仮にもこれを“流氷”と断言していた。もしかしたらこれから氷が割れてくる可能性もある。止めた方がいい。」
「なるほどね?流石親友。」
「何処ぞの馬鹿のお目付け役だからな?これでも。」
「ふふっ。酷いなあ?」
カイルがもし私と同じことを言っていたら止めていた自信はあるが、今は彼と二人きりなのでそこまで頭が回らなかった。
というより彼が隣に居たからこそ、気を抜いていたのかもしれない。
なのに彼はそこまで想定して、危険を察知して注意してくれる。
本当、感謝しかないね。
「そろそろ上がるぞ。いつ壊れるか分かったもんじゃない。」
「それもそうだね。」
地上へと上がった私達はまだ流氷を見ていた。
こんな珍しい光景中々お目にかかれないから、今離れるのが勿体なくて。
でもそんな気持ちとは反対に身体が冷えていくのは、恐らく自然の原理だ。
僅かに身震いした私に目敏く彼が気付いたようで、私の身体をそっと抱き締めてくれた。
「ありがとう。」
「全く……、いつもいつも手のかかる…。」
そんな言葉とは反対に抱き締める力は強くなる。
彼に頭を預け、暫しの幸福を感じる。
……他の女性が見たら黙っていないだろうけども。
じんわりと体が触れ合っている部分が温まってくると流石に名残惜しくなる。
もう離れてしまうのか、と。
……我ながら我儘になったものだ。
「……ありがとう。もう大丈夫だ。」
離れようとするが彼がそうさせてくれない。
僅かに目を見張り、彼の行動の意味を図りかねていると、彼はそのままの状態で話し始める。
「……やはり、まだ……トラウマか?」
「ん?」
トラウマ?
私は何かトラウマがあっただろうか?
「海底洞窟……。海を見て、あの時の事が蘇ったりしないのか?」
「……? いや、最近はあまり無いと思うけど…。でも、無意識かな。海とか、湖とか、そういった沈めるものがあると体が自然と冷たくなるんだ。」
「……。」
彼は、それを聞いて悲しそうに息を吐く。
まぁでも、それがトラウマということならばトラウマだが、これでも昔よりは慣れたと思っていい。
事実、白雲の尾根から出た時なんて濁流に巻き込まれたあの時の記憶がフラッシュバックして身体が動かなかったのだから。
「……お前はあまり海に近付くな。」
「難しい注文だね?これから何度も船で渡り歩くと思うけど?」
「出来る限りだ。ずっと隣に居ると言ったが、いつ何があるか分からん。その時に温められないだろう?」
「そのいつ何が起きるか、っていうのが今後永遠にない事を願うよ。」
その時は、君が無事なら良い。
その時は、私が隣にいれたら幸運であり、奇跡だ。
そんな事を願わずにはいられない。
そんなことを思っているとふと、彼の腕の力が強まる。
それに首を傾げれば、急に身体を離される。
そして私の手を握ると何処かへと颯爽と歩き出す彼に、そこら中にハテナを浮かべながら私は黙ってついていった。
「どこに行くんだい?レディ」
「黙って付いてこい。」
「???」
よく分からないけれど、何だかそれは悪いことじゃない気がした。
彼が私に対して悪い事をした訳じゃないけど、それでも今回はそう思ったんだ。
そうして黙って付いていくと彼は町の外へと私を連れて出る。
声を掛けようかとも思ったけど、それは野暮だと思い口を噤んだ。
彼は黙ってついてこいと言ったのだ。
だから黙って付いていくのがここは正しいのだろう。
暫く歩いていけば、道を大きく外れる。
そして、私たちの目の前に広がる光景に私は唖然とした。
「こ、れは…!」
「……。」
手を離された後、彼は腕を組んでこの光景を見ていた。
私は呆然と目の前の光景を飲み込もうと必死である。
だって、目の前に広がるのは一面………氷の結晶だったのだから。
私だって自分で何を言ってるのだろうと思う。
だが今、本当に目の前には一面、視認出来るほどの大きさの氷の結晶があったのだ。
そっと近付き、それに触れたら何故かとても“暖かった”。
予想外な出来事に思わず反射的に手を引っ込める。
だって、氷の結晶ならば冷たいと今までの経験で思っていたからだ。
「レディ、これは…?」
「……結晶花、と呼ばれるものだ。その地域の気候によって見た目も形も、そして花自体の温度も変わる珍しい花だ。」
「結晶花…。」
「ここの気候は年中寒い。そういった寒い気候の場合は、こういう花の形を取るそうだ。」
君が花に詳しいのが驚きだけど、それよりも君が私をここに連れてきてくれた方が驚きだ。
確かにデートとは言ったけど、まさか彼の方からこういった事をしてくれるとは思ってなかったからだ。
目の前にある結晶花をそっと手で包むと、途端に手が暖かくなる。
それにホッと息を吐く。
その後ろではジューダスが花を愛でるスノウを見て、優しい笑顔を浮かべていた。
「(幾ら博愛主義者を名乗って女性を誑かしているとはいえ、中身はそこらの女性と変わりないな…こいつは。)」
暖かさを感じているのか、暫く目を閉じて花に触れているスノウ。
ジューダスはこの花が暖かい事は以前から知っていたからこそ、今日、スノウをここに連れてきたのだ。
日頃の礼……とまではいかないが、たまには自分から連れてくるのもいいだろうとあの時、珍しく思ったからだ。
それに、いつまでも冷たくなるばかりでは何よりスノウが可哀想だ。
いつでも傍に居るつもりではあるが、もしも何かあった時…自分が居ないときに、これを思い出してくれればとも思っていた。
「(無論、離れるつもりなど毛頭ないが…。)」
「ジューダス。」
「どうした?」
「ありがとう。」
振り返って笑う彼女は綺麗だった。
青や透明に近い結晶花…。
その背景と相まって、彼女の笑顔は儚く、とても綺麗に見えた。……いつも以上に、だ。
息を呑んで目を見張るジューダスの手をスノウは思いっきり引っ張り、咲いている結晶花の中央に行くと一緒に倒れ込んだ。
途端に体が暖かくなっていく両者。
手を繋いで向かい合う二人は、どちらともなく笑いを零した。
「「(暖かい…)」」
しばし、休息の時。
二人はそのまま手を絡め、目を閉じお互いを感じた。
そして今、隣にいるという事実を堪能する。
願わくばずっとこのまま、二人でいられるようにと心の中で何度願っただろう。
「(離れたくない…)」
「(ずっとこんな時が続けばいいが…な。)」
でも湧き上がってくるのは現実の厳しさで。
束の間の休息を堪能した二人は、どちらともなく起き上がった。
「そういえば、前にここに来たことがあったのかい?」
「あぁ。前世で任務の時にな。町の奴らが言ってたことを思い出したんだ。」
「じゃあ、流氷も知ったのかい?」
「まぁな。だが、まさか大陸のように繋がっているとは思わなかった。」
「ははっ。綺麗だったね?」
「まぁ、一回くらいなら見てもいい。」
「素直じゃないんだから。」
「ふん。」
十分に体が温まった二人はその後町へと戻る。
そして、スノウは気付いた。
何一つプレゼントを買えていないことに。
「……。(どうしたものかな。このままレディとデートしたいけど…。…いや、連れ回すか…。)」
町へ戻った途端、スノウはジューダスの手を引き歩き出す。
次々と贈り物を買うスノウを横目に、何をしているんだと不思議そうな顔をするジューダスは、スノウに連れ回されているものの文句は言わなかったのだった。
。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。♪。+゚☆゚+。
夕食も賑やかに終えた仲間達。
そしてそれぞれ休息をとるため、各々ベッドで寝ていた。
そんな中、一人だけ暗躍する影があった。
それは言わずもがな、スノウであった。
「さーて。やりますかね?」
部屋に忍び込み、頭元にこっそりとプレゼントを置く。
今、スノウ史上最大のミッションである。
忍び足で皆の元へ向かい、こっそりと頭元に置いていくと一人だけ賑やかな人物が居た。
『?? スノウ何をしてるんですか?』
「…しー…」
口元に指を当て、静かにするように伝えると不思議そうな色合いを出しながらコアクリスタルを光らせるシャルティエ。
事の成り行きを静かに見守るシャルティエは相変わらず分からなさそうな表情でスノウを見ていた。
でも一つ分かるのは、スノウがとても穏やかな、そして優しそうな顔で皆の頭元に何かを置いていることだった。
何が何だか分からないけれど、スノウのその表情にシャルティエも嬉しさを滲ませてその様子をじっと見つめていた。
「……よし。」
全て置き終えたらしいスノウは満足そうに頷いた。
そのまま何事もなかったかのように去っていくスノウ。
シャルティエは結局何も知らされないまま夜を過ごす羽目になったのだった。
だが、スノウのその行動の意味が分かったのは、早い事に翌日の朝の事だった。
全員(カイルを除く)が起きる中、頭元のそれに皆が驚いていた。
ジューダスだけは昨日スノウと一緒だったこともあり、すぐに勘付いた。
昨日の買い物はこれの事だったのか、と。
「カイル!カイル、起きて!」
リアラが嬉しそうにカイルを起こしにかかる。
むにゃむにゃ、と口を動かしながらリアラの声にようやく起き上がる寝坊助は、リアラに挨拶をする。
「ん…、おはよう……リアラ…。どうしたの…?」
「カイル!頭元見てみて!」
「え?」
言われるがままに頭元を見たカイルは案の定、目をキラキラさせプレゼントを手に取った。
そしてそれぞれが中身を空ける中、シャルティエがジューダスへと話しかけていた。
『おはようございます。坊ちゃん。』
「あぁ。」
『なるほど。カイル達は大喜びですね。』
「そうだな。どうせあいつの仕業だろうが…。」
『え?起きてたんですか?坊ちゃん。』
「昨日、あれだけ買い込んでいたら普通気付くだろう?」
「ジューダス!サンタクロースが夜中にやってきたんだよ!!煙突から!!」
「んな馬鹿な…。」
「アンタは信じないのかい?」
「だってよ…。んなこと言ったらここの宿全員に来てるってことだぜ?それに誰も気づかないなんて、おかしいだろ…。」
ロニは不審そうに言っていたが、一応贈り物だけあって嬉しそうである。
「ま、いいや。俺はスノウとの稽古行ってくるわ。」
「あ!オレもオレも!」
「ふふ!折角なら私も見学しようかな?」
「アタシは朝食の準備手伝ってくるよ。適当なところで帰ってきなよ?」
「「「はーい/おう」」」
「ジューダスは?」
「…僕も行く。」
ナナリー以外の全員が起きて準備し、スノウとの稽古へと向かう。
全員来たことに驚いたスノウだったが(特にカイルが起きていたことだが)、皆を見て笑顔を零した。
「おはよう、皆。」
「「おはよう!!」」
「はよーっす。」
間延びした声で、欠伸をしながらロニがいつものようにハルバードを構える。
銃杖を構えながら、深呼吸するスノウだったが、すぐに話題は違う方向へ。
「ねえ!スノウ!朝起きたらプレゼント置いてあったんだ!!これってやっぱり、サンタクロースって人が来たのかな?!」
「ふふっ。そうだね?どうやら夜中に来たみたいだね。」
「中を見たけど、不思議だわ…。皆それぞれ欲しい物が入ってたの。サンタクロースって人は、人の欲しい物が分かる不思議な人ね…?」
「本当!オレもびっくりしちゃってさ!スノウは何が入ってたの?」
「(そういえば、そこは盲点だったな…。)私は前世も今世も悪い事ばかりしてるからね?サンタさんは良い子の所に来るものだから、私の所には来てないよ。それに私は悪い子だから昨日は夜更かしをしたしね?」
「ええ?!駄目だよ!スノウが言ったんだよ?!起きたらだめだって。」
「ふふふっ…!まぁ、眠れなくてね?それよりも稽古、始めようか?ナナリーはどうせ宿屋で朝食の手伝いでもしているんだろう?早く稽古を終えて彼女の所に行かないとね?」
「よしっ、いっちょやりますか!行くぜ!スノウ!」
「今日もよろしく。先生?」
「……。」
言いたげな顔を隠しもしないままジューダスはスノウを見た。
それに気付いたスノウはこっそりと人差し指を口に当ててウィンクをした。
そしてスノウ達は今日も稽古をロニとこなしたのだった。
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「ってことがあったんだよ!ナナリー!」
カイルがナナリーに言っていた事は朝の稽古中の時の話だった。
スノウの元にサンタさんが来てないと聞いたカイルは、サンタさんに対して不平不満を零していた。
「スノウ、良い子なのにサンタさん来てないなんて本当なのかな?」
「でも、あの子夜更かししたんだろ?だからじゃないのかい?」
「うーん。でも納得いかないんだよな…。」
「じゃあ、アタシ達でスノウへ贈り物したらどうだい?」
「…!ナナリー!それすっごくいいよ!うん!そうしよう!!」
そうしてカイルはスノウ以外の皆を読んで作戦会議をした。
いい案が浮かんでは沈み、浮かんでは消えを繰り返す。
「うーん、スノウの欲しい物って思いつかないな…。」
「あいつ、物欲とかないもんな。」
「確かにねぇ…。日頃お世話になってる分お礼も兼ねて何かしたいけど…なにも思いつかなかったら意味がないよねぇ。」
「うーん。難しいわね。」
「ジューダスは思いつかない?」
「僕か?」
「他に誰が居んだよ。スノウと仲がいいんだろ?」
「…。」
暫く思案したジューダスだが、すぐに鼻で笑うと肩を竦めた。
「要は”気持ち”なんじゃないのか?そういうのは。あいつはお前らが何かをしてくれたらすぐに喜ぶと思うぞ?それが何であれ、な。」
「うーん、気持ちか…。」
「「「うーん……。」」」
酷く悩むカイル達に、やれやれと首を振るジューダス。
その場から離れるジューダスに全員が目を丸くしていたが、何を思ったのかジューダスはスノウ本人を連れてきたのだ。
驚く面々を前に、スノウは首を傾げながら全員を見渡した。
「どうしたんだい?皆揃って。」
「え、えっと…。」
助けを求める様にカイル達の視線はジューダスへと向く。
それに鼻で笑ったジューダスだが、一応助太刀をする。
「……こいつらがお前に日頃のお礼を言いたいそうだ。」
「え?私に?何もしてないけど…?」
困ったように笑ったスノウだったが、次の瞬間皆に囲まれ目を丸くした。
「スノウ、いつもありがとう!オレ、スノウが居なかったらきっと沢山くじけてたと思うんだ。だからありがとう!」
「私もよ?いつもありがとう、スノウ。何かしてほしい事とかない?」
「あー…。俺も、いつもありがとな?何だかんだ仲裁とか面倒なこと頼んで悪いな。」
「アタシからも、ありがとう。アンタは命の恩人だし?何か欲しい物があったら言いな!」
「え、えっと…?」
「ふん…。スノウ、こいつらはお前の所にサンタとやらが来なかったことが気に入らないらしいぞ。」
「え?そんなことで?」
「そんなことじゃないよ!!っていうかジューダス!言ったら意味ないじゃん!」
カイルが慌ててフォローしようとするが空回りをするだけだった。
もう仲間たちが諦め半分な中、スノウは皆の様子に嬉しそうに笑った。
意外な表情をしたスノウに皆が目を瞬かせる。
「ははっ。いや、まさかそんなことで悩んでくれてたなんて思わなくてね…?嬉しいんだ、純粋に。皆の気持ちがこんなにも暖かく心に降り積もっていく…。まるで今降っている雪のように…心にしんしんと降り積もっていく。でも冷たくはないんだ。とても暖かい気持ちになる…。こちらこそ、ありがとうだ。皆。」
スノウの言葉にじーんと泣きそうになりながら、仲間たちは一斉にスノウへと抱き着いた。
それに嬉しそうに、そして愛おしそうに抱き留めるスノウ。
ジューダスもまた、スノウの様子を見て嬉しそうに笑みを零すのだった。
【結晶花と贈り物】
「でもやっぱりお礼はさせてよ!スノウ!ねえねえ、何がいい?!」
「うーん、じゃあ……肩たたきでもお願いしようかな?」
「………お前は老人か…。」
2022 Merry Christmas!